薬なしで高血圧を改善するには高血圧改善のライフスタイル和食の良さを取り入れた

日本式DASH(ダッシュ)食(抗高血圧食事療法)

さかい医院院長堺 浩之先生

日本で最も多い生活習慣病「高血圧」
――放置していると生命予後が危うい!

 日本の高血圧人口は推定4300万人(図1)と、生活習慣病の中で最多の一方で、治療している人は4人に1人程度(厚生労働省「平成26年患者調査」では継続的治療を受けている人は推定1010万800人)、しっかり血圧管理している人は8人に1人程度といわれています。
 しかし、高血圧は「サイレントキラー」と呼ばれるように、心筋梗塞や脳卒中、腎臓病など命にかかわる病気の重大な危険因子であり、健康寿命を延ばす上で、血圧のコントロールは重要といわれています。
 生活習慣が深く関与する高血圧(本態性高血圧)では、ライフスタイルの改善で予防したり、治すことが可能とされ、治療の基本には「生活改善」が据えられています。
 さかい医院の堺浩之先生は、高血圧をはじめ数多くの循環器疾患の患者さんを診られる中で、「高血圧を生活改善で治すには、不断の努力と知恵が欠かせない」といわれます。
 堺先生に、日常生活の中で取り組みやすい高血圧改善の知恵を、食事と運動を中心に伺いました。

 高血圧はなぜ危険なのか 放置はなぜいけないのか 動脈硬化の最大の危険因子
 特に脳卒中は危ない!

――血圧は高いけれど、他にメタボの危険因子はなく、元気で活動している方でも、やはり血圧は下げなければいけないわけですね。
堺 そうです。血圧が高くても元気なのは、体が血圧が高い状態に麻痺しているからです。
 なぜ高血圧は危険なのかということから話しますと、血圧が高い状態が長く続くと血管に圧力がかかり傷みます。脳や心臓、腎臓などに障害が起こりやすくなり、脳卒中(脳出血・脳梗塞)、心筋梗塞、慢性腎疾患(CKD)などを起こしやすくなります(表1)。
 高血圧になると、血管壁には強い負担(圧)がかかるために、動脈硬化を起こしたり、促進します。動脈硬化になると、血栓ができやすくなって血管が詰まったり、血管が破れて出血しやすくなったりします。脳や心臓の血管に血栓が詰まれば脳梗塞や心筋梗塞、脳の血管が破れれば脳出血などを起こします。
 動脈硬化の危険因子にはいろいろありますが、その中で、高血圧は最大の危険因子といわれ、特に脳卒中では危険度が高まります(図2)。
 ただでさえ血管は加齢で傷んでいきます。血圧が高い状態で2年3年5年と経てば、体は血圧が高いことに麻痺し、気づかないうちに病気は進み、将来、生命予後に大きく関わる病気――例えば脳卒中では、身体麻痺や認知症などの後遺症を残してしまうか、死んでしまうか、どちらかです――にかかる確率は確実に高まります。
 常日頃から血圧を正常値にコントロールしておくことは、高血圧だけではなく、将来発症するかもしれない脳卒中や心筋梗塞を防ぐためにも大変重要です。

 至適血圧は120未満!
――「家庭血圧測定」のすすめ

堺 高血圧の基準値は「診察室血圧」で140(収縮期血圧)/90(拡張期血圧)以上、「家庭血圧」で135/85以上となっていますが、「至適血圧」は120/80未満とされています(表2)。
 特に、糖尿病や脳卒中などの既往症のある方、血圧が元々高いのに不摂生という方では、120くらいまで下げないと危ないことがわかっています(表3参照)。至適血圧の人に比べて、正常高値血圧(130〜139/85〜89)の人は脳卒中や心筋梗塞の発症リスクが2倍以上になるという研究報告もあります。
 血圧の評価は、最近は「家庭血圧」を優先するようになっています。「白衣高血圧」という言葉があるように、病院で測ると緊張で血圧が上がることがあります。
 家庭で測るメリットは、
@「仮面高血圧(白衣高血圧)」を見つけることができ、これによる降圧薬の服用が不要になります。高血圧の人の15〜30%がこのタイプといわれ、高齢になるほどその割合は高くなります。
A最も危険な「早朝高血圧」が見つけられます。自宅で測る方が血圧が高い「仮面高血圧(逆白衣性高血圧)」はより危険といわれ、中でも「早朝高血圧」は最も危険といわれます。
 「早朝高血圧」は日中は正常で早朝のみ高い高血圧のことで、無症候性脳梗塞や心臓の左心室肥大が多いことや、腎障害の進行などが報告されています。心血管疾患(心筋梗塞、狭心症、脳卒中など)は午前6時〜正午に多く発症することが知られ、降圧薬を飲んでいる人でも薬を飲む直前の早朝は最も薬の効果が減弱するので注意が必要です。早朝高血圧は入院でもしない限り見つけにくいので、この点からも家での測定は重要です。
Bその他、血圧の心配がなくても生活習慣全般に気をつけるようになる――など、体重測定と共に習慣づけることをおすすめします。
 家庭測定では、朝(起床後1時間以内、排尿後、食前)と、夜(就寝前)に各2回測って平均をとり、評価は1週間くらいの平均値で判断します。忙しい方は朝だけでも測ることをおすすめします。

 治療の基本は「生活療法」 継続・持続が鍵 生活習慣改善は大前提
――高血圧になりやすい生活因子

――高血圧治療の基本は「生活習慣の修正」とされていますが、やはり、食事と運動ですか。
堺 高血圧の治療では「生活習慣の改善」は大前提です。
 日本人の高血圧の90%以上を占め、生活習慣病とされる本態性高血圧(原因が特定できない高血圧)では、生活環境因子が50%、遺伝的因子が50%といわれます。
 生活因子では、@食事(塩分過剰・過食による肥満・脱塩ミネラルの不足・過度の飲酒など)、A運動・活動不足、Bその他、ストレス・過労・体の冷え・喫煙――などがあげられ、治療の基本はやはり、食事と運動となります。
 食事療法だけで収縮期血圧が5とか6とか下がりますし、減塩、減量、運動だけでも下がります(図3)。これを足し算したらどうなるか。血圧は自ずと是正します。
 生活習慣の改善で血圧が改善されない人、高血圧が進んでいる人、糖尿病や高度肥満、腎臓病などを併発している人、脳卒中の既往症などがある人――など、ハイリスクの方は薬での治療が必要になります。その場合も生活習慣の改善は不可欠です。生活を改善しなければ薬の効果も十分発揮できなかったりします。
 遺伝的要素も大きく、今は高血圧ではなくても、家族に高血圧が多い方は若い頃から減塩など生活に気をつけることが望まれます。
 また、患者さんの状態をよく見極めて、生活上の注意、薬の使い時、止め時、薬の変更などをアドバイスしてくれる医師の下で相談しながら治療を進めることも大事です。

 食事――減塩と和食を取り入れた「日本式DASH食」
〈まずは減塩――加工食品は特に注意〉

堺 食塩の目標摂取量は一般成人で男性1日8g未満/女性7g未満、高血圧の人や予備軍は1日6g未満(男女共)とされていますが、これは日本人の平均摂取量(男性11・3g、女性9・6g)を勘案しての当面の目標値で、WHOでは5g未満を目標にしています。
 もともと日本食は塩分が多くなりがちな上に、最近は外食やコンビニ、スーパーの濃い味つけに舌が慣らされ、日本人は「塩中毒」といいたいほど塩分過剰になっています。
 加工食品は、全般的に塩分が多く、パンやお寿司など塩味を感じさせない食品にも塩分は含まれ、コンビニおにぎりは最初から塩を入れて炊いた塩ご飯です。その上、ミネラル吸収阻害作用がある食品添加物(リン酸塩など。リン酸塩は酸味料、乳化剤、pH調整剤の表示が多い)が多用され、塩分排出に有効なミネラルや食物繊維が少ない精製食品がほとんどです。加工食品を減らすだけでも減塩につながります。止むを得ず購入する際は、表示を見て、塩分や添加物の少ないものを選びましょう。
 調理は、だしを利かせ、酸味や辛味などをプラスすることで塩分カットができます。また、塩分を控えても、食べる量が多ければ摂取量は増えるので食べ過ぎにも注意が必要です。

〈減塩をプラスした「日本式DASH食」のすすめ〉

堺 高血圧に根本から対抗する食事法として知られているのが、「DASH食(Dietary Approaches to Stop Hypertension=高血圧にストップをかける食事法)」です。
 米国国立衛生研究所主導で実施された食事プランで、@塩分排泄による減塩、A「血管拡張」、B「体重減少(減量)」の効果で、血圧低下に寄与すると考えられています。
 「低カロリー・低脂肪・高ミネラル・高食物繊維」のDASH食では、高血圧だけではなく、冠動脈疾患リスクを24%、脳卒中リスクを18%低下する可能性があるという報告や、継続することで動脈硬化の進展が抑えられることもわかっています。
 DASH食の内容的な特徴は、
@野菜や果物を多く摂る(塩分排出や血圧調整に働く3つのミネラル:カリウム・カルシウム・マグネシウムと食物繊維の摂取源)
A動物性脂肪(飽和脂肪酸)やコレステロールを減らす(不飽和脂肪酸、特に魚油のEPAやDHAはコレステロールや中性脂肪の低下、血流改善、血栓予防効果で動脈硬化予防に役立つ)
B良質な蛋白質を多く摂る(魚介類、豆類、肉の赤身、乳製品など)
C砂糖や砂糖含有の菓子(特に脂肪の多い洋菓子)や飲料は減らす――となります(表4・5)。
 伝統的な和食と重なるところが多く、日本人が実践しやすい食事プランですが、和食の欠点は「高塩分」。砂糖も調味に多く使われます。
 そこで私が提案するのが「減塩」を取り入れた「日本式DASH食」です。「日本式DASH食」では、収縮期血圧は8〜14くらい下がります。この食事法で降圧薬を手放せた患者さんもいます。
 お米(できれば玄米飯や麦飯など雑穀を混ぜる)を主食に、野菜、豆類、魚介類、海藻などをバランスよく組み合わせ、肉はこれまでの半分から3分の2程度に、血圧降下作用もある大豆食品を種々取り入れ(飲料も牛乳ではなく豆乳に・表4注)、調味は可能な限り薄味にします。
 DASH食の注意点は、@カリウムや蛋白質が制限されている腎臓病の方には不適なこと、A果物の食べすぎは禁物。果糖が多く含まれ、砂糖を摂っているのと同じようだからです。果物は1日1個程度。分割して毎食時に食べるのもありですね。
 塩分も糖分も、いろいろな食材に元々入っています。肉にも魚にも塩分は含まれ、特に魚は多量に塩分を含んでいますから、殊更塩味を加える必要はないんですね。糖分も穀類や果実類、豆類、芋類だけでなく、野菜にも結構含まれているので、持ち味を上手に生かす工夫も大切です。
 だからといって、我慢大会では続きません。今の食生活の中でアレンジしながら、一つずつ変えていくことが長続きのコツです。

有酸素運動でさらに血圧低下
――歩行中心に、現状にプラス

堺 有酸素運動(ウォーキング、ジョギング、サイクリング、水泳、ラジオ体操、エアロビクスなど)は、高血圧改善に確実な効果があり、高血圧対策として毎日30分以上の有酸素運動が推奨されています(8頁図3)。最近の研究では、10分ずつ3回など小分けにしても効果があることがわかっています。継続を念頭に、無理のない範囲で行いましょう。
 最も手軽なのが「ウォーキング」です。長続きのコツは、現状にプラスして歩行時間を増やすこと。患者さんの中には1日中ほとんど動かないという人は少なくありません。そういう方は「5分でもいいから」と歩くのをすすめます。5分歩けるようになったら、7分、さらに10分と増やしていけばいいのです。スーパーに自転車で買い物に行くなら、往きは自転車を押して歩く。電車通勤なら最寄り駅までを遠回りしたり、1駅隣の駅まで歩いたり、とにかく現状にプラスして歩行量、活動量を増やしていくことです。そうした積み重ねが確実に血圧降
下につながります。
 より効果を高めるには意識して少し速めに歩く。特に「インターバル速歩」は高血圧改善効果があるといわれています。普通の速度と速歩を3分ずつ交互に繰り返すウォーキングで、1日15分程度でも効果があるといわれます。
 体力に自信がある人なら、「スロージョギング」。歩くのと同程度のスピードでゆっくり走ります。足腰にかかる負担は普通のジョギングに比べてかなり少なくなります。
 全身運動して最も効率的なのが、「水泳や水中運動」。膝や腰に負担をかけないで全身の筋肉を使うので効率的に運動効果が得られます。
 掃除、床の雑巾がけなど日常の活動も立派なエクササイズになります。
 軽度の運動でも、10週ぐらい続けると半数の人で降圧効果があると報告されています。

 他に気をつけたい生活習慣
――飲酒・喫煙・ストレス・入浴

――他に生活習慣で気をつけたいことはありますか。
堺 タバコは血管を縮め、お酒は飲んでいる時は血管が拡張して血圧は下がりますが、切れるとリバウンドで一気に上がります。ニコチンやアルコール等、成分自体も悪さをしますし、お酒はカロリーもあるので、禁煙・節酒ですね。
 ストレスで血圧が高くなるのは事実です。血圧をコントロールしている自律神経のうち、緊張・活動時に優位になる交感神経は血圧を上げ、リラックス時に優位になる副交感神経は血圧を下げます。
 特に注意したいのは、急激な温度変化。血圧の乱高下で、心筋梗塞や脳梗塞が起きやすくなります。 温かい場所から寒い場所に移動する時、体は体温を調節するために血管が収縮し、血圧や脈拍がグンと上がります。この温度差からくる血圧の上昇と低下が大きいほど身体への悪影響(「ヒートショック」)は大きくなります。
 特に冬場の冷えきったトイレ、洗面所、浴室などは要注意です。中でも入浴中は、脳卒中や心筋梗塞による突然死や、入浴時の血圧の急激な低下で浴槽内で意識を失い溺死することもあります。室温と浴室の温度差がないように、脱衣場や浴室は予め温めておくことが重要です。入浴はややぬるめの(38〜40℃)のお風呂に、心臓に水圧をかけないようにみぞおちまで浸かり、ゆったり入る半身浴がすすめられます。

継続には知恵と努力で

堺 食事も運動も継続しなければ意味はありません。
 今よりも徐々に、食事は体に良いものを増やし悪いものを減らしていく、運動は活動量を増やしていくことが長続きするコツです。
 ただし、生活習慣の改善だけで高血圧を治すには、弛まぬ努力と知恵が必要です。
 生活習慣の改善の成果を挙げるには、高血圧がいかに危険か、生活習慣がいかに大切かをよく理解した上で、自分なりに継続的、効率的にできる工夫をしながら取り組んでいくことが大切です。

 薬の飲み時・止め時

――最後に、薬の飲み時、止め時についてお願いします。
堺 薬は化学物質ですから、飲まなくてよければ飲まないのに越したことはありません。薬には副作用もあります。それを天秤にかけて副作用を押してでも薬が必要な人は薬を飲まなければいけません。
 食事と運動で血圧値が改善し、その状態を維持できているなら、薬は不要です。その状態が維持できない人、生活改善で効果が上がらない人、合併症や何らかの病気を併発している人などは、薬は必要です。
 薬の止め時は、例えば薬と生活療法で体重150kgの人が3分の2の90 kgになった時点で他に病気がなく、正常を維持できている場合に止めることもあり得ます。あるいは夏は正常値でも冬場は血圧が上がり、脳梗塞の危険が高まるため冬のみ服用する方法もあります。
 但し、血圧が下がったのは、薬で落ち着いている数字なのか、薬がなくてもその数字なのか、その辺を見極めるには、やはり経験豊富で信頼のおけるかかりつけの家庭医の指導が必要だと思います。