パチッ・プチッ・コク・ウマ!おいしく

元気が弾ける世界の健康長寿食「ゴマ」の抗老化・ 健康増進作用は、ゴマリグナンのすごい力から

元東京農業大学客員教授・元静岡大学教授

前日本ゴマ科学会会長福田靖子先生オープン・セサミ!(開けゴマ!)

伝承されてきた健康長寿食の科学的解明は始まったばかり 古来より健康長寿食として知られ、薬用にもされてきたゴマ(図1)。
 しかし、ゴマの健康機能について科学の目が当てられるようになったのはつい最近、老化や万病の元といわれる「活性酸素」の研究に端を発しています。
 伝承にすぎなかった「ゴマの抗老化作用」は、この30年足らずの間に、日本を中心にした精力的な研究によって、主に「ゴマリグナン類」の驚くべき抗酸化パワーがもたらしていることが次々に明らかになってきました。
 「OPEN SESAME!! 21世紀は、ゴマ謎解きの幕開けとなる」と熱く語る福田靖子先生は、ゴマ研究の当初から調理科学の視点から研究に携わり、現役を退かれた今も、講演、執筆とゴマ食の啓蒙に余念がありません。
 基礎化粧品は「ごま油(ゴマサラダオイル)」、食卓には常に「卓上ゴマ油を置いて味噌汁でも何でも一振りかけて美味しく元気」といわれる福田先生、黒髪が勝った髪はふさふさ、シワも少なく、76歳とは思えぬまるで女子学生のような雰囲気です。
 そんな福田先生に、ゴマリグナンの抗酸化作用を中心に、ゴマの様々な健康効果、摂り方のノウハウなどいろいろ教えていただきました。

 世界に伝播された「ゴマ」 その歴史と特性
 古来より知られていた   不老長寿・健康増進効果と          多彩な用途

福田 ゴマ科ゴマ属の植物「ゴマ」は、高温・高日照を好む1年生草本で、熱帯から温帯地帯で栽培され、種子を食用とし、食品分類ではナッツ類と同じ種実類に分類されています。
 旱魃に強く、栽培も容易、半年足らず(4〜5ヶ月)で収穫でき、貯蔵性も高く、持ち運びも簡単、さらに栄養価も高く、薬効もあるゴマは、瞬く間に人類最古の四大古代文明の地で利用されるようになり、ゴマ食文化は世界に広がっていきました(図2参照)。
 ゴマの歴史は古く、6000年以上前に世界最古の農耕地帯の一つ、アフリカのサバンナ(北アフリカ、サハラ砂漠南側)で育種が始まり、エジプト、メソポタミア、エーゲ文明に育まれて温帯にも適応する変異を遂げて、ユーラシア大陸の西から東へ、シルクロードや海路を経て、北インド、中国、朝鮮、日本へも伝播されていきました。
 古代エジプト文明時代から、ゴマは貯蔵性が高く、たんぱく質や脂質に富んだ栄養価の高い貴重な食品として、種子はもちろん、油としても、食用、薬用、化粧オイル、灯用、香料、ミイラ作りと、多様な使い方をされてきました。
 半乾性のゴマ油はベタつかず、熱帯の乾燥地域では灼熱の太陽から皮膚を守る化粧オイルとして欠かせないものであったようで、クレオパトラも愛用していたといわれます。
 インド伝統医学のアーユルヴェーダでは現在でも薬草エキス入りゴマ油が重要な治療薬として使われ(写真参照)、また、中国では「久しく服すれば、軽身不老となる」として黒ゴマを仙薬(治療・予防・延命薬)の上薬(不老長寿的機能を持つ)として扱っています(『神農本草経』)。
 日本では縄文後期遺跡からゴマが出土しています。7世紀頃には各地でゴマが盛んに栽培されるようになり、油だけではなく、炒りゴマ等としても広く食されていたと思われます。薬用としては日本最古(平安時代)の医学書『医心方』に『神農本草経』とほぼ同様のことが記されています。また、江戸時代に出た日本初の薬草学書『本朝食鑑』には老化防止、健康増進について記されています。
 このように、ゴマは主要な作物ではないものの、ゴマを日常的に摂取していると健康度が何となく増進していくことが経験的に認められ、栄養価が高くて、健康によい、おいしい、貴重な食品として世界に伝播していったわけです。

 食品の3機能を    バランスよく満たす       ──ゴマの栄養価

福田 食品には3つの機能──@栄養的機能、A味覚的(おいしさ)機能、B生体調節的機能(健康増進機能)──があり(表1)、ゴマは、調味料的なマイナーな食品に関わらず、この3つの機能をバランスよく備えているのが特徴的です。
 ゴマの主な成分は、@脂質が約50%と最多で、A次がたんぱく質と糖質が各々20%近くあり、プラス、ミネラル、ビタミン、水分が加わります(図3)。
 「脂質(油)」は、脂肪酸の80%が@不飽和脂肪酸のリノール酸(必須脂肪酸で、細胞膜成分として体の組織維持や生理活性成分に変化し免疫力を高める)と、Aオレイン酸(血清LDLコレステロール濃度を下げ、心臓病も防ぐといわれる)で構成された健康油です。
 「たんぱく質」は、アミノ酸スコアは50と低いのですが、含硫アミノ酸(メチオニン、シスチン)が高いので、例えば「ゴマきな粉」「豆腐に練りゴマを入れたゴマ豆腐」など、大豆製品と一緒に摂ると必須アミノ酸は補えます。
 「糖質」の約1/2は食物繊維で、でんぷん類は今のところ無いと思われています。
 「ビタミン」は、ビタミンB群とビタミンE(主にγトコフェロール)が多く、通常、γトコフェロールの体内での抗酸化作用は期待できないのですが、セサミンの働きによって、ゴマのγトコフェロールは体内利用できることが明らかになっています。
 「ミネラル」は、カルシウム、鉄、マグネシウム、リン、セレン(抗酸化ミネラル)が多く、各栄養素それぞれが健康増進に寄与しています。

他の追随を許さない 美味への変身力と、健康向上力

福田 3つの食品機能の中でも、Aのおいしさの機能、Bの健康増進機能は、他の食品が追随できないゴマ特有のものです。
 すなわち、炒ったりすったりなど調理加熱により、人を"ごまかす”ほど格段においしい食品に変化し、さらに健康増進機能では、特に、近年急増している活性酸素が引き金になる老化やがん、生活習慣病の防御・抑制作用は特筆すべきものと思います。

 不老長寿の鍵は  「ゴマリグナン」にあった
 「活性酸素」の研究を端緒に     ゴマの謎が次々に解明

福田 しかし、伝承にすぎなかったゴマの健康機能の研究が始まったのはつい最近、30年ほど前のことです。
 当時、老化や、発がん、多くの生活習慣病に「活性酸素(による酸化障害)」が関与していることが明らかになり、その流れの中でゴマの有効成分は活性酸素の害を防ぐ抗酸化成分であることが示されました。
 活性酸素による酸化を防ぐ食品成分の研究は、名古屋大学の並木研究室(並木満夫現名誉教授)で精力的に研究され、ゴマもテーマの一つでした。並木研究室ではセサミノールをはじめ、活性酸素を強力に消去する新たなゴマリグナン類を見出し、これをきっかけにゴマリグナンを中心にしたゴマの健康機能の研究が進み、日本人研究者により次々にゴマの健康作用が明らかになっていったわけです。
 今では、企業や大学で精力的に研究され、韓国、台湾、インドでの研究も多くなり、ゴマの科学的謎解きは着実に発展しています。

抗酸化成分の宝庫
  「ゴマリグナン類」の   多彩な生活習慣病予防効果

福田 健康機能の主役となる成分は種子に約1%含まれる「ゴマリグナン類」です。1%とは少ないようですが、大豆の機能性成分、大豆イソフラボン類は0・07〜0・3%ですから、ゴマリグナン類は大豆イソフラボン類よりも、種子の中に2〜3倍も多く含まれているのです。
 「リグナン」は植物に広く存在する化合物で、代表的なものに樹木のリグニンがあります。リグニンは繊維質のヘミセルロースとともに木の強度を支えています。そのため分解しにくく、ゴマリグナンの多くも調理加工で分解しにくい性質を持っています。
 ゴマリグナンは現在、10種類ほどが見つかっており、代表的なものが@セサミン、Aセサモリン(抗酸化前駆体)、Bセサモールで、10種類のうち8種類に抗酸化活性があり、中でも代表的な抗酸化成分が@セサミン、Aセサモール、Bセサミノールです(表2)。
 ゴマリグナンの多くは糖が結合した配糖体で、体内では腸内細菌によって配糖体の糖が切れたり、約8割を占める脂溶性リグナンの一部が水溶性になったりして、活性酸素による酸化を防ぎ、脂質改善や動脈硬化の予防等々、生活習慣病の予防が期待されています(表2)。
 日本人の研究者がこれまで明らかにしてきたゴマリグナンの健康増進効果は、
@ゴマ添加食による老化抑制
 老化促進マウスにゴマ20%含有餌を7ヶ月与えたところ、目の充血、毛艶や脱毛程度などが普通食マウスに比べて明らかに正常で、若さが維持されていた──この研究でゴマの老化予防作用が明らかとなり、次々と基礎研究が発展
A脂質過酸化抑制作用
 ゴマに多いビタミンEのγトコフェロールは肝臓で利用されないが、セサミンやセサミノールの働きで活性化し、セサミンやセサミノールを混ぜた餌を食べたラットは肝臓の脂質過酸化が抑制された──血管やLDLコレステロールの酸化抑制、血小板凝集抑制にも関わってくる重要な知見
Bコレステロール低下(ヒト)
 高コレステロール血症の人にセサミンを投与するとコレステロール値が改善した
Cアルコールの分解促進(ラット・ヒト)
 普段からセサミンを食べているラットは、食べていないラットよりアルコールが早く分解され、その後ヒトでも確認された
Dその他
 セサミンが体内の脂肪酸合成や代謝を遺伝子レベルで制御し脂肪の蓄積を防御することや高血圧抑制作用も報告──等々があげられます。

ゴマ油に見る ゴマリグナンの強力な抗酸化力  ──焙煎・精製でさらに増強

福田 ゴマの強力な抗酸化力は、ゴマ油を見ても顕著です。
 ゴマに52%も含まれる脂質の主成分は、@多価不飽和脂肪酸のリノール酸(約42%)と、A一価不飽和脂肪酸オレイン酸(約39%)です。リノール酸は体内で合成できず食物から摂取しなければならない必須脂肪酸ですが、酸化しやすく、一方、オレイン酸は酸化しにくいことが知られています。
 ところが、ゴマ油はリノール酸が多いのにもかかわらず酸化しにくく、酸化の安定度はオレイン酸が主成分(約70%)のオリーブ油と同等であり、他のリノール酸油との比較では断トツに高い安定性を備えています(図4・5・6)。
 ゴマ油の種類には
@種子を焙煎してから搾った褐色で独特な香りを持つ焙煎ゴマ油
A原油(生搾りの未精製油)を脱酸、脱色、脱臭、脱ロウ(蝋)した無味、無臭、無色透明のゴマサラダ油
Bこれら2通りのゴマ油をブレンドした調合ゴマ油があり、製法によって太白油、純白油などさまざまな品名がつけられています(表3)。
 原油(未精製油)にはセサミンとセサモリンが含まれ、セサモリンは加熱(炒る・焙煎油のフライ時)により分解して抗酸化作用を持つセサモールになり、ゴマサラダ油では精製時(酸性白土による脱色時)にセサモリンがセサミノールへ変換します(図7)。
 これらの熱安定性は、セサミン、セサミノール、セサモールの順に高いことが、コーン油にこれらを添加した加熱実験(180℃)でわかりました。
 加えて、ゴマ種子に含まれるビタミンE(γトコフェロール)や、焙煎油では焙煎時に生成する褐色色素メラノイジンなどとの複合的効果で、酸化を強力に抑えていると考えられています。
 ですから、ゴマ油を用いた揚げ物は胸焼け(油酔い)がなく、100%ゴマ油を使っている老舗の天ぷら屋さんなどは油は捨てることなく、次々に差し油をして使っていることも聞いています。
 家庭でも、天ぷらの油に焙煎ゴマ油を30%くらい混ぜると香りもよく、からっと揚がります。

 おいしく、元気が弾ける  パチッ・プチッ・コク・ウマ!  ──炒る・砕く・擦る・練る

福田 ゴマは調理加熱によって「人をごまかす」ほど格段においしい食品に変化します。
 まずは「炒る」。炒るという数分間の簡単な加熱でゴマ独特の香りが生まれ、噛むと「プチッ」と砕けて油滴がじわっと口の中に広がり、「コク」といわれる濃厚なうま味がもたらされ、芳香とコクが口の中で一体になって広がります。
 炒ることにより、@リグナン類の抗酸化成分が増え、Aメラノイジンやピラジンなどの香気成分やうま味成分も生まれ、ゴマ特有の芳香やうま味が生まれます。メラノイジンには抗酸化作用、ピラジンにはリラックス効果があるといわれています。
 家庭で炒る場合、中火から弱火でやや時間をかけるのがコツで、炒り器には熱伝導率の良いアルミ製よりも、鉄製や陶磁器(特にゴマ専用の焙烙は使い勝手に優れている。写真)が適しています。最近は市販の炒りゴマを使う方も多いと思いますが、使うときにさらにサッと炒ると、香りもうま味も増すのでぜひおすすめします。
 続いて「す(擦)る」ことにより、消化吸収がぐっと良くなり、食材にも絡みやすくなり、食べやすくなります。ゴマは50分すり続けてもすり切れない部分とペースト状になる部分があり、この不均一性、ざらつきこそが、すりゴマのおいしさです。
 さらにすり続けていると、「練り」状(ペースト状)になり、油が出た油状になります。ゴマペーストでつくった「ゴマ豆腐」は、日本の代表的ゴマ料理であるとともに、禅僧の栄養源、健康増進源でもあります。ペーストの技術も向上し、非常になめらかなペーストも作られるようになり、最近ではアイスクリームやケーキに入れたり、応用範囲が広がっています。

 多様な食材とのコラボで  美味しさも健康力もアップ

福田 ゴマは調味料、油として、どんな料理、加工食品にも合う食材です。
 最近はゴマのサプリメントも出回っていますが、食の原点は様々な食材を組み合わせて調理し、食べることだと思います。
 炒ってすったゴマの「和え衣」で緑黄色野菜を和えれば、健康増進機能は何倍にもなり、私は「健康増進調理法」の代表格ではないかと思っています(図8)。
 和え衣は、今ではマヨネーズや生クリームなどに取って代わられた感がありますが、それと同時に生活習慣病も増えてしまいました。それでも、ドレッシング類の売り上げ第一位はゴマドレッシングだというのは、今でもゴマが日本人に愛されている証拠で、嬉しく思います。
 「ゴマは1日にどれくらい食べるとよいか」とよく聞かれますが、食べ過ぎればアレルギーの問題も出ますが、毎日何気なく使うことで知らず知らずのうちに健康がアップすると思います。私は食卓には常時卓上ゴマ油を置いて味噌汁などにも垂らし、炒りゴマ・擦りゴマも臨機応変に用いています。例えば市販のプリンに炒りゴマなどを振ってもおいしいものです。
 なお、ゴマ油には約0・6〜0・8%のゴマリグナンが含まれるので、大さじ1杯程度炒め物に使うと20〜30mgのリグナンが摂取できます。
 また、「黒ゴマは白ゴマより健康にいい」ともいわれますが、種皮の色による成分の差はあまり問題にしなくてもいいでしょう。白、茶、金、黒、各々味わいや香りは違い、例えば赤飯のゴマ塩などは黒ゴマと、色も考慮して料理に合ったものを選ぶと良いと思います。

 ゴマの世界を      さらに広げよう
  品種や加工の工夫から     食育・平和貢献にも

福田 最近は科学技術の進歩に支えられて、ゴマの微粉末化や未利用だった脱脂後のセサムフラワー(脱脂ゴマ粉)も有用な食材として新たな扉が開かれようとしています。日本独自の麹菌利用のゴマ発酵食品も市場で見かけるようになっています。
 また、食育教材としてもゴマは打ってつけの食材だと思います。栽培が容易であり、種まきから収穫まで通常5月から9月までの約5ヶ月間と短く、成長過程や収穫時の精選、さらに調理実習では体験豊かな高齢者の智惠を活かせば、高齢者と子どもをつなぐ世代間交流の食材ツールにもなり、和の食文化も伝承されていくことが期待できます。
 また、最近のニュースを見聞きするにつけても、紛争地域など貧困にあえぐ地域でゴマ栽培が広がれば、そうした地域に今より少しでも平和と健康と豊かさがもたらされるのではないかと痛切に思ったりもしています。