効率よく食物繊維を摂るには 大麦しかない!!麦3割の「麦ご飯」でメタボを撃退

──大麦βグルカンのすごい力

大妻女子大学家政学部食物学科教授 青江誠一郎先生

今なぜ、麦ご飯!?
──新たに脚光を浴びる大麦のパワー 麦ごはんが見直されているなど、今、大麦の健康効果が改めて注目されています。そこで、長年穀物の食物繊維を研究されている大妻女子大学教授の青江誠一郎先生に大麦についてお聞きしました。

 青江先生から大麦のすごいパワーをお聞きして早速、普段食べている玄米ご飯に押麦を混ぜる(玄米3・5合に押麦1・5合)ようになったのは、大麦には白米の20倍、玄米の3倍も多く食物繊維が含まれる上に、生活習慣病予防などの健康効果が高く、しかも他の穀類や野菜では補えない水溶性食物繊維「βグルカン」の宝庫だからです。
 大麦βグルカンのメタボリックシンドローム(以下メタボ)予防効果を研究されている青江先生は、麦ご飯なら「足したり引いたりせず、入れ替えるだけでダイエットや健康に役立てられます」といわれます。つまり、ご飯や肉や脂肪をことさら減らさなくても、ご飯を麦ご飯に替えるだけで、肥満や血糖・脂質を抑えてくれるというわけです。
 玄米の麦ご飯ならなおさらのこと。しかも、思った以上に食べやすく、玄米だけのご飯より自然に噛む回数も増え、今では麦が入っていないともの足りません。
 一方で、玄米ご飯は良く炊かないと消化に難があり、小さい子どもや胃腸の弱い人、お年寄りには不向きともいわれます。その点、白米の麦ご飯ならそうした難点もクリアされます。
 最近は、もちもち感があって美味しいというもち麦も評判で、好みで、押麦、もち麦、米粒麦などさまざまな種類を選ぶこともできます。
 健康志向を背景に、売り上げも伸びているという「大麦」について、メタボの抑制効果を中心に、青江先生にお話を伺いました。

 ここがすごい!     大麦の食物繊維
──機能性の高い水溶性と共に、         不溶性も豊富
精白してもOK!

──改めて食物繊維とはどんなものか、また水溶性と不溶性の違いを教えて下さい。
青江 日本での食物繊維の定義は、二つに大別されています。
@一つは、一般に広く使われている「食品成分表」によるもので、──ヒトの消化酵素で消化されない食物中の難消化性成分の総体──とされ、@多糖類とリグニンを含む食物繊維と、Aレジスタントスターチ(難消化性デンプン)の一部が該当します。
A「栄養表示基準」では、さらに難消化性のオリゴ糖や難消化性デキストリンなど三糖類以上の低分子難消化性成分も加えて、より生理機能を重視しています。
 最近では日本食物繊維学会が、「ルミナコイド」(luminacoid:消化管のlumen、調和するのaccord、ような物質のoidを組み合わせた造語)という、ヒトの小腸内で消化吸収されにくく、消化管を介して健康維持に役立つ生理作用を持つ食品成分をひっくるめた新たな概念を提案しています。これには従来の定義では該当しない糖アルコールやレジスタントプロテイン(難消化性蛋白質)なども含まれます。
水溶性と不溶性の分類では(表1)
@不溶性食物繊維は、細胞壁の水に溶けない繊維(セルロース、ヘミセルロース、リグニン、キチンなど)で保水性が高く、胃や腸で数倍から数十倍に膨れて便量を増やし、便秘改善に役立ちます。
A水溶性食物繊維は、細胞質に多く存在する繊維で水に溶け、水に溶けると非常に粘度が高くなりネバネバしてきて、体に不要な物質を包み込んで排泄したり、糖や脂質の吸収を遅らせたり、生活習慣病の予防に高い効果があります。
 ただし、例えばオリゴ糖は粘度がなくても水溶性繊維に似た生理作用を発揮するなど、食物繊維はまだ不明な部分が多く、摂取する際は水溶性・不溶性の関係なく様々な食物繊維を摂ることが大切だといえます。
 なお、不溶性繊維は豆や野菜などの多様な食品から摂ることができますが、水溶性繊維を多く含む食品は限られています(表1)。
──その一つが大麦なのですね。
青江 はい。大麦は食物繊維量が豊富な上に、水溶性繊維(βグルカン)と不溶性繊維がともにバランスよく含まれ、食物繊維の摂取源としても、メタボの抑制など優れた健康効果からも評価されています。
 日本では今、野菜が食物繊維の最大摂取源となっていますが、ほとんどが不溶性繊維の上に、水分が多いので、量の確保にはやはり穀類です。
 一方で、穀類の食物繊維も基本的には外側の糠(‥フスマ)に含まれているので、精白するとほとんど摂れません。しかも野菜と同様に、多くが不溶性繊維です(図3・4)。
 ところが、大麦の水溶性食物繊維「βグルカン」は、内側の胚乳部に分布しているので、精白後も、精白米の19倍以上、玄米の3倍以上の食物繊維が含まれ、さらに、生活習慣病予防効果の高い水溶性繊維が他に比べてダントツに多いのが特徴です(図3・4)。
 大麦の水溶性繊維「βグルカン」は、肥満や高血糖、脂質異常症等の改善効果が高く、今、日本人の健康を脅かしている、心筋梗塞や脳梗塞などの動脈硬化疾患を引き起こすメタボの予防改善に、大きな期待が寄せられています。
──大麦以外に、βグルカンを多く含む穀類はありますか。
青江 大麦の仲間の燕麦(カラス麦の栽培種。オート、オートミール)とライ麦があります(図4)。ただ、どちらもやはり外側のフスマに多いので、量の確保や食べやすさの点、また、デンプンにくるまれているためにデンプンがゆっくり吸収されるという点からも、食物繊維の摂取源として大麦に勝るものはないと思います。
 大麦には便のカサを増やして便秘改善に役立つ不溶性食物繊維も多く、また、外皮のフスマには、ビタミンやミネラルなどの微量栄養素、抗酸化物質などの機能性成分も多く含まれています。
──海藻は水溶性繊維ですね。
青江 海藻は量の確保という点で無理があり、成分(アルギン酸)も違うので機能性も多少違ってきます。リンゴなどに含まれる果物のペクチンも水溶性ですが、100g中0・5〜0・6gと含有量は少ないです。ただ、野菜ではゴボウにイヌリンという水溶性繊維が多く含まれています(表1)。
 主食を麦ご飯に、こうしたいろいろな食品から多様な食物繊維を摂るのが良いと思います。

大麦パワーの主役「βグルカン」 メタボ中心に多彩な健康効果  盤石のコレステロール・    血糖・食欲の抑制効果

──メタボを中心にした大麦の健康効果は、主にβグルカンによるのですね。
青江 はい。βグルカンは水に溶けるとネバネバした成分になり、体に不要なものを包み込んで体外に排出したり、脂質や糖質の消化吸収を遅らせたりする作用を持つので、こうした作用がメタボなどの生活習慣病の予防・改善に働いてくれます。
 このうち、大麦βグルカンは、コレステロール値を下げ、食後血糖値の上昇を抑え、満腹感を持続させる効果のあることは私たちの研究を含めて以前からわかっていました。しかし、こうした機能性をいち早く国が認めたのは欧米です(表2)。日本ではつい最近、消費者庁の「食品の機能性評価モデル事業」の評価(9頁下欄参照)により、初めてその有効性が評価されるようになりました。
〈コレステロールの低下作用・
       脂質の改善作用〉
 高脂肪のものを食べると消化液の胆汁酸が分泌されて脂質の消化吸収が促されます。
 βグルカンは胆汁酸をからめとって体外に排出するので、胆汁酸が不足し、そのため血液中のコレステロールが分解されて胆汁酸をつくるので、コレステロール値が下がります(図5)。
 中性脂肪を下げるのにも役立つといわれ、さらに、善玉のHDLコレステロールは減少しないので、脂質異常症の改善が期待されます。
〈食後血糖の上昇抑制〉
 大麦βグルカンはデンプンを包み込んで消化酵素をブロックし、消化吸収を緩やかにするために、血糖値の急上昇を抑えます(図6)。インスリンの効きが悪くなったりするなど糖代謝には空腹時血糖よりも食後高血糖が問題となるので、その点も評価できます。
 また、インスリンは余分な糖を脂肪細胞にため込む働きもありますので、血糖が急上昇しなければ、インスリンの過剰分泌も防げるので、結果的に脂肪がつきにくくなり、肥満を防げます。
〈食欲の抑制効果〉
 高い粘着性により、消化管をゆっくり通過するので満腹感が持続し、お腹が空きにくくなり、食べ過ぎが抑えられます。

 腹囲の縮小・内臓脂肪・        体脂肪の軽減

青江 最近のデータとしては、私たちの研究で、BMI25で少し肥満気味の人に麦3割のご飯を1日2回食べていただいたところ、胴回り(ウエスト)が縮まり、内臓脂肪も軽減しました(図7)。
 体脂肪の軽減も確認しています。
 食物繊維の9つの生理作用
  ──ヒト対象の研究データ
青江 ヒトを対象にした研究で、エビデンス(科学的根拠)が示されている食物繊維の生理作用は、
@糖質代謝
A脂質代謝
B排便・便性改善効果
C腸疾患の予防効果
Dプレバイオティクス効果
E消化管機能
F免疫刺激
G有害物質毒性軽減効果
Hミネラルの腸管吸収──の9つがあげられます(表3)。
 このうち、メタボ関連では、糖質や脂質の改善の他に、過剰な塩分の排泄促進作用による高血圧の予防・改善も期待されます。
 また、有害物質の吸着排泄作用、プレバイオティクスによる腸内環境改善等の作用により、がんの予防にも期待されています。
 腸内細菌で食物繊維(水溶性繊維の方が発酵性が強い)が発酵すると、ミネラルが溶けやすくなり、過剰に摂らなければ、かえってミネラルの吸収も良くなります。

麦3割のご飯でメタボを撃退  3割麦ご飯の主食で   食べやすく、長続き
──刑務所の食事で    糖尿病が著しく改善

青江 大麦の食物繊維を効率よく摂るにはやはり主食として毎日食べるご飯です。1回の摂取量も多く、3割大麦を混ぜたご飯(1膳150g)を1日2回摂るだけでメタボ予防効果を発揮する約3gのβグルカンが摂れますし、食物繊維の目標摂取量も確保できます。
 大麦の割合を増やせば、より効果が期待できますが、水に溶けるβグルカンは腸を通過してしまうので食べだめはできず、毎日無理なく続けることが大事です。そのためにも主食として摂るのが一番なのですね。
──麦飯というと刑務所という決まり文句がありますが、先生が出演されたNHK『あさイチ』(14年6月9日放映「イチおし! 大麦がスゴイ!」)では、刑務所の麦ご飯で糖尿病が治ったというエピソードが紹介されていました。メタボ体型だった堀江貴文さんも出所時はすっかりすっきりして若返っていましたね。
青江 福島刑務所の受刑者の健康管理にかかわったお医者さんが糖尿病の受刑者のデータを分析され、麦ご飯の食事で84・4%の人が糖代謝が改善され、糖尿病の人が大分改善したという話は大きいですね。(編集部挿入:09年12月2日6時13分配信『河北新報』より──日本の刑務所の受刑者は運動量はさほど多くなく、1日の平均摂取カロリーは日本人男性の平均値より高い一方で、食物繊維は約2倍、うち水溶性食物繊維は5倍の摂取)。

 セカンドミール効果 ──朝食べると昼も効果が持続

青江 最近は「セカンドミール効果」といって、最初の食事に大麦を摂れば、次の食事では大麦を摂らなくても血糖の上昇が抑えられることがわかっています。
 例えば、朝食に麦ご飯を食べると、血糖の上昇抑制効果が、次の昼食でも持続するのです。
 私自身は主に夕食に3割ご飯を食べていますが、アメリカの研究では、前日の夕食に大麦を食べ、翌朝は好きなものを食べても血糖値の上昇が抑えられたと報告されています。
 セカンドミール効果は、大麦が大腸に辿り着いたところでもう1回、腸内細菌が大麦の食物繊維を食べますので、それが刺激になって血糖値が上がりにくくなるのですね。食べたものが大腸に到達するまで10数時間かかるので、その間は効果があるということです。ということは、1日1回でも効果が出るということです。

 種類も豊富になり     調理法も広がる
 ──美味しく摂取して      バラエティー豊かに

──「玄米を食べているから食物繊維は十分」という人もいますが、これだけ量も成分も違うと、玄米にも大麦を入れた方がいいですね。
青江 もちろんそうです。玄米はどちらかというと食物繊維以外の成分の健康効果が期待されているわけですからね。
──100%麦ご飯というのはありでしょうか。
青江 蛋白質の量もお米と大差ないので、お好きならそれもOKです。海外では朝食にオートミール(脱穀した燕麦を調理しやすく加工したもの。またそれを粥状に調理したものをいう)を牛乳粥にして食べたりしています。
 ただ、日本人は普通は3割、好きな人で5割を混ぜたご飯が適しているとは思います。
──朝はライ麦パンが多いのですが、やはり麦ご飯がベターでしょうか。
青江 同じ量を食べるのでしたら大麦の方が効果的とはいえますが、やはり食事は、大麦の時も、ライ麦の時もあれば、時にはオートミールにしたりして変化を楽しむと、飽きずに長続きできます。
──押麦の他にも、今はいろいろな種類があるそうですね。
青江 精麦法もいろいろ工夫がされ、ビタミンBを添加したビタバレーや胚芽押麦もあり、最近はもちもちした食感のもち種も出回って人気があります(表4)。
 品種改良で2倍近く食物繊維を含む大麦もあり、これですと半分量で済みますね。
 市販の大麦の種類が多様になって、最近は野菜や雑穀感覚で、ミンチに混ぜたり、サラダやスープなどの具材としていろいろな使われ方がされています。
 茹でて冷蔵・冷凍保存しておけば、いつでも使えて便利なようです。
 豊かな食卓は、栄養バランスもよく、美味しさもバラエティーに富んで、心も豊かになります。麦ご飯を基本に、使い方をいろいろ工夫して大麦を食べていただきたいと思います。