「ホルミシス力」をつける!!
ストレスを契機に、 病気になるのでなく、人間力・ 健康力をレベルアップ!
都立駒込病院脳神経外科部長 篠浦伸禎先生
ホルミシス効果は、 放射線ホルミシスだけではない!
篠浦伸禎先生は、脳外科の最先端技術である脳の覚醒下手術では、日本でトップクラスの実績を誇る脳外科医として活躍されています。
その篠浦先生は、「薬をなるべく使わず、手術もなるべくしない」医療を目指され、その一環として、「放射線ホルミシス」効果を高く評価されています。
「ホルミシス」とは、"高レベルでは有害なものも、低レベルでは有益である”という現象を指しますが、篠浦先生は最先端の脳科学から照らして、ホルミシス現象は放射線に限らず、あらゆるストレスがホルミシス効果を有しているといわれます。
ストレスをコントロールし、上手に活用する能力を、篠浦先生は「ホルミシス力」と呼ばれています。すなわち、「ストレスを契機にして病気になるのではなく、ストレスを契機として生き方をレベルアップする」能力が「ホルミシス力」であり、ホルミシス力こそ、人間が生きる上で一番大事な能力であると断言されています。
脳科学から人間学まで幅広い分野を駆使されてホルミシス力を高める研究をされている篠浦先生に、脳とストレスを中心にホルミシス力についてお話をうかがいました。
*記事をまとめるにあたって参考にさせていただいた篠浦先生のご本
『驚異の「ホルミシス」力 眠っている能力を蘇らせ人間力をアップさせる』(太陽出版)・『脳神経外科医が実践する ボケない生き方』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)・ 『臨床脳外科医が語る 人生に勝つ脳─脳のしくみを知り、生き方をコントロールする─』(技術評論社)・『脳は「論語」が好きだった』(致知出版社)
尚、最新刊として『相性は脳で決まる』(エイチエス)があります。
ストレスとホルミシス力
軽度・適正の「ストレス」は
「ホルミシス力」を生む
──ホルミシス現象と
ホルミシス力
篠浦 「ストレス」は、多くの病気の引き金になり、脳梗塞や認知症など脳の病気、がん、糖尿病、動脈硬化症などの生活習慣病もストレスが引き金になるのはよく知られていることです。
しかし、最近比較的若い人が脳の病気になるのを見てみると、ストレス=悪ではなく、問題は、ストレスヘの対処だと感じずにはおられません。
今の時代は、少子化の進行、産業競争力低下等々のストレスで、多くの自殺者や、発達障害、うつ病、認知症などが増えています。
しかし、約70年前の終戦直後、ストレスは今よりはるかに高かったはずです。ストレス=悪という図式は、人生や歴史を知っていれば当てはまらないのです。
同じストレスを受けても、自分をダメにするのではなく、レベルアップする能力、すなわち、私が「ホルミシス力」と呼んでいる能力は自分の中にあり、その能力を呼び起こすのがストレスなのです。
「ホルミシス」という現象は、約30年前、──低線量放射線は生物にとって有害ではなく、むしろ生物を活性化させる──という現象がわかってからいわれるようになりました。すなわち、体内に有害な活性酸素を生じさせる放射線照射も、低線量なら有益になるという現象です。
ホルミシス現象は、ストレスを乗り越えて生き続けるために備わった生物特有の現象であり、その現象を人間の生き方までに敷延し、
健康問題にとどまらず、生き方をレベルアップする能力を、私は「ホルミシス力」という言葉で呼んでいるわけです。
契機は、「放射線ホルミシス」 ──放射線は高レベルでは有害 低レベルでは有益
篠浦 放射線ホルミシスの研究は、1982年、米国ミズーリ大学のトーマス・ラッキー博士が「低レベルの放射線は健康に有益」という論文を発表したことを端緒に始まりました。
ラッキー博士は、NASAから宇宙飛行士が地表の数百倍という宇宙放射線を浴びることの人体影響について研究を依頼され、10年以上の歳月をかけて膨大なデータを検討した結果、「宇宙飛行士が浴びる地上の百倍程度の線量の放射線はむしろ人体にとって有益である」と結論しました。
その発表に驚いたのが、当時、電力中央研究所研究開発部の初代原子力部長だった服部禎男博士でした。服部博士は、ラッキー博士と連絡をとり、それを契機に日本でも放射線ホルミシスの研究が始まり、今や放射線ホルミシスの効果は国内外で3000を超える研究論文により証明され、治療現場での応用もすすめられるようになっています。
低レベル放射線がもたらす健康効果で最重要なのは、老化・万病の元といわれる「活性酸素」の抑制効果です。放射線は活性酸素を生成しますが、低レベルの放射線はSODなど体内に備わっている抗酸化酵素のスイッチを入れ、活性酸素を打ち消してしまうのです。
低線量放射線をマウスに照射した実験では、放射線によって発生した活性酸素を消去する抗酸化酵素が通常の1・5倍に増加という通常の治療法ではここまで増えるものはないというほど、驚異的なものでした。
活性酸素を掃除する抗酸化酵素の増加が、細胞を若返らせ、免疫系、ホルモン系、DNA修復を活性化し、それが様々な病気の改善に結びつくわけです。
放射線のホルミシス効果は実験レベルでも実証されてきましたが、歴史的にも多くの証拠がこの効果が正しいことを示唆しています。
そこで私自身も、ホルミシス効果を自分の体で試してみました。ステロイド治療でも改善されなかった膝裏の湿疹に年来悩まされていた私は、「ダメ元」で低線量の放射線物質を含有したクリームを数日間患部に塗ったところ、湿疹が治癒したのです。放射線ホルミシス治療をされている水上治先生の健康増進クリニックで、ラドン坑道療法で知られるオーストリアのバドガシュタイン並みの放射線量を出すラドン温湿浴や、放射線ホルミシスクリームによるホルミシスリンパマッサージも経験し、両者共にきわめて興味深い効果を得ました。
放射線だけではない!! ストレス全般にホルミシス効果 ──ホルミシス現象は 人類の進化の源泉
篠浦 人間は、進化の過程で様々なストレスを乗り越え、その過程でストレスを乗り越える能力が遺伝的に備わっています。
DNAに含まれている遺伝子には、必要に応じて活動すれば良いと待機しているものが数多くあります。待機遺伝子は、年齢と共に蓄積された老廃物のために活動が低下します。しかし、低線量の放射線を浴びることで活性酸素が少し発生すると、「これは大変だ」という刺激が細胞に与えられて、細胞はこの刺激を受けて目覚めるわけです。その結果、活動が低下しつつあった待機遺伝子が活性化し、細胞が若返り、活動的になります。この一連の反応が、ホルミシス効果の原理であると考えられています。
人間はストレスを乗り越える潜在的な能力を持っていますが、ストレスのないときはその機能は眠っており、その機能を揺り起こす有効な手段が、放射線を含めたストレスであるということです。
放射線は唯一、数値化できるストレスであり、ストレスがどのような影響を生体に与えるかを研究するのに、放射線は一番適していますが、ホルミシス現象は、放射線のみならず、様々なストレスに対して起こる、一般的な現象であることが最近報告されるようになってきました。
これは、薬を考えてみれば自明のことで、どんな薬でも適量があり、それを過ぎると毒になり、逆に、どんな毒でも、少ない量であれば薬となることが往々にしてあります。
生物は、様々なストレスを乗り越えないと次世代に生命を引き継いでいけません。ストレスを乗り越えるために、生物は様々な機能を発達させてきました。紫外線などに強い皮膚、活性酸素を掃除する体内の抗酸化酵素、毒となる金属(水銀、銅、セレン等々)に結合する蛋白、厳しい環境を逃れる移動する能力──など、生物が発達させてきた様々な機能がストレスを乗り越えるための力となります。
ストレスを乗り越えるために発達してきた多くの遺伝子が普段は眠っていますが、適量のストレスがあると、それらの遺伝子にスイッチが入り、生体が活性化することになります。これらの遺伝子は適度のストレスにより、30〜60%という、普通の刺激では考えられないくらい強く活性化されるといわれています。
地球は、放射線、紫外線、飢餓、寒暑、有毒金属──などの様々なストレスを乗り越える力のある生物が、ダーウィンのいう適者生存です。そういう意味では、地球上で一番広範な地域に生存している人間が、最もホルミシス現象を起こす力が強い、つまりホルミシス力が強いといえます。そして、一番の適者である人間でさえ、適度のストレスがないとホルミシス力が弱るのも、生物としての法則なのです。
脳機能の向上・低下も
「ストレス」が関与
脳の「見える化」で
見えてきた脳の機能
──脳の6つの発達段階
篠浦 私はここ数年、意識がある状態で行う「覚醒下手術」という、最先端の手術法を積極的に取り入れています。脳には、痛覚がないので、皮膚などへの局所麻酔だけで、ほとんど痛みを感じることなく開頭手術ができるのです。
脳腫瘍の摘出では、脳神経回路をちょっと圧迫するだけで症状が悪化することがあります。摘出の際にはやむを得ず腫瘍周囲に触ったり動かしたりしますが、そのときに神経回路に傷がつき、マヒや失語症が残ってしまうことがあります。全身麻酔手術では、麻酔が覚めないとこうした機能障害が確認できませんが、覚醒下手術では摘出中にマヒや失語症が出るのがわかるので、その場合は手術を一旦中断し、回復を待ってまた手術という具合に腫瘍を摘出していくので、手術後に障害が残らないのです。
さらに、覚醒下手術中には、脳への刺激で起こる患者さんの反応がつぶさに見られるので、脳のどの部位にどんな機能があるかという、脳機能の具体的で重要な情報を知ることができるようになりました。さらに、fMRI(磁気共鳴機能画像法。MRIを使い無害に脳活動を調べる方法)等の新しい脳機能検査方法などでも、人間の脳で、どの場所にどのような機能があるかが少しずつわかってきました。
脳は解剖学的に、
@最も内側の下方にある生命活動の基本を司る「脳幹」
A脳幹を取り巻き、知覚や運動機能を司る「小脳」
B脳幹や小脳の上側にあり、思考や感情、言語など知性を司る「大脳」に大別されます(図1)。
大脳はさらに、「大脳新皮質」と「大脳辺縁系」に分けられ、私は、人間ならではの高度な思想や行動を司る大脳新皮質を「人間脳」、大脳新皮質の内側にあり、食欲や性欲、快感や恐れといった、より本能的な情動を司っている大脳辺縁系を「動物脳」と呼んでいます(図2・3)。さらに大脳は、左半球の左脳=論理の脳と、右半球の右脳=感性の脳に分けられます。
私は、覚醒下手術やfMRI検査等で得た様々な症例に加え、過去の神経学、さらには歴史学、文学、人間学といった様々な分野を検討した結果、脳機能に法則性があり、脳には6つの発達段階があるという仮説を考えました。
@受動脳・能動脳 神経の基本である情報を受動し、能動的に判断。大脳の後ろが受動、前が能動に関与。
A動物脳・人間脳 本能的情動を司り生命を存続させ自分の身を守る動物的な機能に関わっている動物脳、その外側のより高度な人間的機能に関わる部位が人間脳。
B左脳・右脳 左脳は攻撃、右脳は逃避の傾向があり、左脳をよく使う人は知的、右脳をよく使う人は元気がよく、両方バランスよく使えるのが一番だが、どちらかに偏りやすい。また、左脳は時間の流れの中で質を上げることに、右脳は今現在の空間において量(エネルギー)を集中することに関与。
C次元 情報を統合する段階を意味し、一次元は得たままの情報、二次元は相手中心の詳しい情報を統合する虫の目、三次元はさらに情報を統合して自分を中心に全体を俯瞰し優先順位をつける情報の統合に関与する(鳥の目)。
Dアイデンティティーとバランス
自分の得意分野で社会で生きていく武器になる脳の使い方を意味する。それだけでは極端に偏り、破綻する可能性があるので、バランスをとる必要がある。
E統合と拡散 ある方向に統合し安定していた脳の使い方が、環境の変化などによるストレスでバラバラになり(=拡散)、新しい状況に合わせ脳の使い方を再度まとめ直す(=統合)必要に迫られる。脳の統合と拡散を諦めずにやり続けてより高レベルに統合できれば脳をさらによく使えるようになる一方で、拡散したまま諦めれば脳機能が低下し様々な疾患につながる。
この中で、脳機能を低下させる最大原因の一つは、第6段階の「統合と拡散」に関与するストレスです。
脳機能を低下させる
最大の要因は「ストレス」 ──「動物脳」の暴走と脳疾患
篠浦 人間関係や仕事上のストレスは、思う以上に人間の心と体に大きな影響を与えています。
ストレスを受けることで脳は様々な影響を受けたり、反応するわけですが、脳から見ると、ストレスは自らの存在や生存を脅かす強敵と同じです。ですから、自らを守ろうとする動物脳(図3)が反射的に作動し、過剰に働いて(暴走して)しまうと、様々な脳の病気が引き起こされます。
ストレスがかかると、動物脳は様々な神経伝達物質を分泌して、強敵(ストレス)から身を守ります。例えば、ノルアドレナリンが分泌されると、恐怖を感じて逃げようとしたり、逆に怒りや興奮が伝わって攻撃に転じるなどして、強敵に対処します。ところが、動物脳が過剰反応してノルアドレナリンの分泌や作用のバランスが崩れると、恐怖や不安感に襲われるパニック状態になったりします。
ストレスが長く続いたり強くなりすぎると、不安と恐怖が強くなり、精神的活力が失われ、うつ病にもつながります。災害や戦争などをきっかけに扁桃核が異常に反応すると以降、少しのことでも強い不安を感じ、日常生活を送れなくなってしまうPTSD(心的外傷後ストレス障害)も引き起こされる症状です。今問題になっている引きこもりや自殺も扁桃核の過剰反応に大きく関係しています。
快感や喜びを伝えるドーパミンも適切に分泌され、作用されればストレス緩和に役立ち、やる気を起こしますが、側坐核を中心とした回路の働きがおかしくなって、ドーパミンが過剰に作用すると、より強い快感刺激に依存するようになり依存症になったりします。 扁桃核付近にある、短期記憶を司る「海馬」も、ストレスがかかると「コルチゾール」というストレスホルモンが分泌され、持続的に大量のコルチゾールが分泌されると海馬が萎縮したり、機能が落ちたりして、ストレスがアルツハイマー病や認知症に結びつくことも解明されてきていま
す。
右脳には、自律神経の交感神経の中枢があり、空間や高さを認知したり、体のバランスを取ったりする機能が集中しています。この右脳が外部からの強いストレスを受け続けると、不安に関係するホルモンが長時間分泌され続け、交感神経が過剰刺激されて右脳が疲弊し弱ってしまう結果、自律神経失調症やうつ病の原因になったりします。実際、自律神経失調症やうつ病の人では右脳の血流が悪くなっていることが認められます。
動物脳は、生命を維持し、脳を機能させるのにきわめて重要な部位であり、動物脳が適度に働くことが人間にプラスになる一方で、過剰に反応したり逆に機能低下することで、認知症など様々な脳の病気につながるわけです。
脳の病気を防ぎ、脳機能を向上させるには、動物脳を適度、かつ適切に働くようにコントロールすることが重要になりますが、強いストレスは動物脳のコントロールを難しくします。
ストレスを乗り越えることで 脳機能はレベルアップ!! ──「動物脳」を飼い慣らし 強くしなやかな自我を確立
篠浦 このように、脳のホルミシス力を阻害するのが動物脳です。動物は敵(ストレス)に遭うと反射的に、強ければ逃げようとしたり、弱ければ攻撃しようとしたりします。ホルミシス力を上げる努力をしないと、全てのストレスが強敵に見え、脳の機能が落ちていきます。
動物脳をコントロールする最大のポイントは、強くてしなやかな「自我」の確立です。不屈の精神を持ち、どんな困難も乗り越えられる自我を確立することです。
最近脳科学の進歩により、自我のある場所が画像で見えるようになってきました。大脳の正中で、動物脳と人間脳との間にある帯状回を中心にした場所です(10頁図3)。この自我の様々なパターンの障害が、うつや統合失調症、自閉症など様々な精神疾患に結びつくこともわかってきました。
自我とは、動物脳が適度・適切に働くようにコントロールし、状況に応じて適切な人間脳の部位を使うための司令塔といってもよく、自我と動物脳のせめぎ合いの結果が、生き方を決めるといっても過言ではありません。
ストレスがあると、動物脳が過剰に刺激され、視床下部を中心とする自律神経のバランスを崩します。つまり、戦いの主役を果たす自律神経である交感神経優位に傾きすぎることが、脳機能を落とす大きな原因の一つです。
人生においても、会社の倒産、リストラ、離婚、病気など、様々な問題が突然降りかかって、今までにない強いストレスを感じることがしばしばあります。
そのような強いストレスを受けたときには、必ず動物脳の強い活性化を引き起こし、少なくとも一過性にはコントロールが困難になります。パニックになったりキレたりするのはその典型です。
動物脳の過剰反応を乗り越え、自我を強くしなやかにするには、ホルミシス力を高めることです。
ホルミシス力は、人間が生きる上で一番大事な能力だと私は考えています。
ホルミシス力を高める!!
ホルミシス力をつける
脳にいい5つの習慣
篠浦 厳しいストレスを乗り越えるのは、とても大変なことです。脳を使うのを助けてくれる人類の叡智といってもいいものが、昔からあります。それが「脳にいい5つの習慣」です。これらの習慣は、@脳の病気の治療に役立つ、A長い歴史で淘汰され生き残ったものである、B現代の脳科学でも効果が証明されつつある、C体験した多くの人たちが効果を実感している、D私自身も体験して効果を実感している、E超人的な努力や高価なものは必要でない──といった特徴があります。
〈1.「ニンニク油」の摂取と
脳の微小循環の改善〉
篠浦 脳を活性化する習慣の一つがアホエンオイルの摂取です。アホエンは、ニンニクに含まれる「アリシン」という成分が低温の油脂の中で変化してできる成分で、生のニンニクにはほとんどなく、刻んだニンニクを60〜80℃前後の油に浸け込むことで溶け出してきます(表1)。
アホエンオイルとの出合いは、患者さんからのすすめです。自分自身で効果を実感してからは、外来患者さんにすすめるようになりました。アホエンオイルを摂取した患者さんからは、脳の血管狭窄の改善、記憶力改善、めまいの改善、風邪など感染症にかかりにくくなった──等々、いろいろな効果を聞くようになりました。
その作用機序は、微小循環の改善です。アホエンオイルで微小循環がよくなることで、ひいては脳の神経の活動が活発になるからだと考えられます。
さらには、神経活動が活発になることで脳がストレスに強くなっていくと考えられます。アホエンオイルの継続摂取により、5年前に発症した脳梗塞の後遺症で失った言葉が少しずつ出るようになり、現在ではアホエンオイルを手元から離さず、1日3万歩も歩くまでに回復された方もいます。
これほどの効果があり、しかも副作用がない薬を私は聞いたことがありません。人類の叡智ともいうべき食品の威力と、それを科学的に見て作り方を改善したことへの偉大な効果には、私も目を見張るばかりです。
アホエンだけではなく、ニンニクには、ガン、心臓病、脳卒中、認知症等の予防効果も報告されています。摂りすぎは禁物ですが、日常ニンニクを様々な形で摂取することをおすすめします。
〈2.情報を遮断し
脳を大きくする「瞑想」〉
篠浦 私は1日のうち朝晩、5〜10分間目をつむって呼吸に集中する瞑想法を行っています。
瞑想を始めてから、お酒を飲まなくても眠れるようになりました。もともとお酒が好きで体質的にもアルコールに強く、大酒家でしたが、瞑想を始めたとたんに、お酒への依存、こだわりがなくなったのです。いまだに、お酒は週に2〜3日は飲んでいますが、以前に比べれば信じられない量で、この変化は、瞑想によるものとしか考えられません。
瞑想によってうつ病、自律神経失調症、不安神経症、更年期障害、依存症(アルコール、買い物、甘い物、占い)、パニック症候群、対人恐怖や、認知症が改善した例もあります。
こうした様々な症例から得た率直な印象は「瞑想を習慣化すると動物脳がコントロールできるようになり、人間脳が主体の脳の使い方ができるようになる」ということです。
瞑想では、@呼吸を腹式呼吸で意識的にゆっくり行う、A目をつむり、周りの情報を遮断する──2点に効果の秘密があると私は考えています。どちらも人間脳が動物脳をコントロールすることに関係するからです。
禅を長期に続けている人ほど、帯状回前部にあたる脳の「灰白質」という部位が厚くなっていくという報告もあります。瞑想により、脳が大きくなり、脳の構造そのものが変わっていくわけです。
帯状回が厚くなる(=脳が大きくなる)と、脳の機能が強化されます。それにより自律神経が、心身安静へ導く副交感神経優位になり、ストレスで乱れた自律神経が改善されます。いわゆる心身一如の状態になるわけです。
いずれにしろ、心身を覚醒した状態で休息させるのが瞑想の本質です。これこそ、人間脳が動物脳をコントロールしている仕業であるといえるでしょう。
〈3.「運動」。特に有酸素運動〉
篠浦 現代は、左右の脳のバランスが崩れやすく、右脳が弱りやすい環境になっています。パソコン作業やデスクワークが多くなったことにより、言語や論理が関係する左脳を使い、空間認識やコミュニケーションにかかわる右脳を使わない、また、子どもが戸外で遊ぶことも少なくなり、そういった社会背景も一因でしょう。
弱りがちな右脳を手っ取り早く使うことができるのが「運動」です。運動は、加齢による脳機能の低下や、様々な脳の病気を予防・改善することが科学的にも明らかになってきました。
アルツハイマー病は、帯状回や海馬の血流低下が発症の発端であるとわかってきています。運動は全身の血流を増やすので、結果として帯状回や海馬の血流低下を防ぎ、アルツハイマー病の発症を予防するわけです。特に有酸素運動は脳機能の改善に役立ちます。
早足でのウォーキング、ジョギング、サイクリング、水中ウォーキングといった有酸素運動を週3回以上、1回に30分以上行うのが理想です(表2)。
高齢の方や関節や筋肉等が弱っている方は、まず筋力をつけること。無理のない負荷をかけてのスクワットや腹筋といった運動をゆっくりと行うと、成長ホルモン分泌が促され、筋肉線維が容易に太くなります。
〈4.消化器から
脳の活性化を促すコーヒー・
ハーブティー・日本食・地中海食〉
篠浦 コーヒーに含まれる「カフェイン」の覚醒作用では神経伝達物質の「ドーパミン」の分泌や働きを高めることで、パーキンソン病やうつ病の予防、また認知機能を高めるなどの働きがあります。
ストレスへの反応を軽減する作用も報告されています。
コーヒーには抗酸化物質のポリフェノールも豊富です。コーヒーを日に4杯以上飲む人は2杯以下の人に比べて、糖尿病、肝臓がんの予防効果が高いという報告もあります。
レッドクローバーをメインに3種類のハーブをブレンドしたお茶「レッドクローバーのブレンドティー」(商品名:ジェイソンウィンターズティー)では、飲んだ直後に前頭葉の血流が上昇したのを、私はNIRS(近赤外光脳機能イメージング装置)で確認しました。上昇が見られたのはいずれも「右側の前頭葉」で、右脳が活性化したといえます。右脳の血流が上昇したのは、消化管から右脳に働きかける作用があると思われます。
野菜と魚中心の、日本食や地中海食が、認知症を防ぐことが知られています。私は脳のことを考えるようになってここ数年、朝食はご飯・味噌汁・魚・納豆・生野菜・生卵を定番にするようになりました。コーヒーと赤ぶどうジュースも朝食後欠かさず飲みます。
なぜ、魚と野菜中心の食事が認知症予防に良いかは、動脈硬化予防になるなど様々な要因があるのでしょうが、日本や地中海のように自然が豊かな地域は、伝統的に肉ではなく、野菜、魚中心の食事になり、そのために長生きするのを見れば、人間にとっては、自然の豊かな中で生活し、その恵みを食することが一番なのでしょう。
自然が厳しい環境になればなるほど、人は肉食に傾きます。それは、人間が傲慢さのゆえに、必要以上に自然を破壊して、砂漠のような厳しい環境に自らを追い込んだ面もあると思います。食事という人間にとって一番根源的な行為が人と自然との共生という、人のあるべき姿を図らずも教えてくれている気がしています。
〈5.「人間学」 ──いくつになっても 脳を若返らせる学びの習慣〉
篠浦 人間学とは、様々な先人の言葉や行動から、「人間とは何か」「人間とはどうあるべきなのか」という普遍的な問いを学んでいく学問です。論語や聖書はもとより、優れた文学、映画も人間の生き方について様々なことを教えてくれます。歴史を学ぶのもしかりです。
論語の中心思想は、
・仁=愛、慈しみ。相手を思いやる心
・義=正義。弱い者を助ける心や行い
・礼=謙虚。相手に敬意を示し、礼節を重んじる態度
・智=知識。考え学ぶ力
・信=信用。自分や人を信じる心──の5つの徳目です。それぞれフォローできるように脳を使うことは、脳を広い範囲で使い、レベルの高い脳の使い方になります。
なぜかつての日本人は ホルミシス力が高かったのか
篠浦 人間が地球上で一番進化した生物になったのは、脳が発達したお陰です。様々なストレスに対して、言語を基に智慧を使ったり(左脳)、集団を作ってお互いの気持ちを気遣いながら(右脳)、乗り越え、進化してきました。
ずっと鎖国をしていた極東の小国である日本が、門戸を開いてたった30年位で大国ロシアに勝つほどの国力を持ち、大東亜戦争の敗戦で全土が焼け野原になってからわずか数年で国民総生産が世界第2位になったことを見ても、日本人のホルミシス力がいかに高いかわかります。
その源泉は、自然が豊かで、なおかつ厳しい、独特の環境にあるのではないか、と私は考えています。地震や台風という強烈なストレスがあって、そのあとにそれを乗り越えるための優しくて豊穣な自然があることが、日本人のホルミシス力を自然に高めたのでしょう。
何かの原理を基に争うのではなくて、自然に溶け込んで、自然のサイクルの中で生きていく日本人独特の脳の使い方は、地球にとっては持続可能な、長い目で見て一番強いホルミシス力を持っているのではないかと、私は考えています。しかし、最近の事象、例えば毎年3万人を数える自殺者、無縁社会という言葉の誕生、企業が世界の競争に勝てなくなってきたこと──など、多くのマイナス要因が顕在化してきて、私だけではなく多くの日本人が、自分たちのホルミシス力に不安を持ちだしたように見えます。
私は、こういう時代だからこそ、どうすれば日本人のかつて高かったホルミシス力を取り戻すことができるか、を真剣に考える時期がきたと感じています。
まず、日本人のホルミシス力の源泉である、人と人とのつながり、真摯に物事に取り組む姿勢、つまり右脳に少し傾いた得意な脳の使い方を、もう一度評価し直すべきだと思います。
最後に、ホルミシス力は、人により違います。ホルミシス力を上げるには、その人にとっての適量のストレスを、適切な期間与えるさじ加減が大切です。その人の持つホルミシス力の程度と、その人の置かれた状況にあわせたきめ細かな対応が、その人のホルミシス力を上げ、幸せに生きていくためにきわめて大事なことであると、私は感じています。