"使い捨てカイロ”を活用「温める」と、痛みが消える

〜ミトコンドリアの"元気”が、多くの病気・ 症状を改善に導く〜

坂井医院院長 坂井学先生

痛みの取れない医療を脱し、エネルギー医療を活用

 取材で和歌山市の坂井医院を訪れたその日、院長の坂井学先生は女性スタッフと一緒に、診療を終えた医院を掃除されていました。
 驚いている取材者に坂井先生は「私も一緒にやればそれだけ早く済みます。それだけのこと」。
 そのすこぶる合理的な答えに、著書『「体を温める」とすべての痛みが消える』(写真)で知った坂井先生のこれまでの歩み──整形外科医として、「痛み」をなかなか治せない従来の整形外科診療に疑問を抱き、病院勤務を辞め、東洋医学、手技療法などを含めあらゆる医療を研究・実践、ついに痛みの本体に辿りつき、痛みを取り去る方法を編み出す──に合点がいきました。
 坂井先生が、本物の医療、根源的な医療に辿りついた大きな転換点となったのは、本誌にも連載されている西原克成先生の──温度・光・重力等のエネルギーを活用した生活習慣で、ミトコンドリアを元気にし、人体60兆個の全ての細胞を元気にする医療──でした。
 坂井先生は今、生活習慣とエネルギーを重視した医療を実践することで、整形外科的な疾患だけではなく、偏頭痛、関節リウマチなどの自己免疫疾患、喘息などのアレルギー、生活習慣病まで、多くの病気を快癒に導いています。
 坂井医院(99年開院)での診療の他、「坂井医院ハローの会」、各地で行っている「お話し会」、インターネットのブログ・メルマガ『痛みは温めよう!〜エネルギーを活用する』等を通して、"痛みが治る”方法を広めている坂井先生に、「痛み」を中心に、健康の礎を教えていただきました。

なぜ痛みが出るのか どう痛みに対処すればよいか 整形外科では 痛みは治らない?!

坂井 私は学生時代から「痛み」の問題に関心があり、「痛みに苦しむ人を救いたい」という思いから整形外科医を志し、大学卒業後は整形外科医として大阪の市民病院などに勤務しました。
 しかし、10年経った頃より、整形外科を辞めようかと思い始めました。経験を積むにつれて、診療することが苦痛になっていったからです。
 「整形外科」は文字通り、「形を整える」ことを重視し、痛みの原因は、骨や関節が変形したり、筋肉や靭帯が損傷したりするなど、「かたち」の異常から起きるとされています。私自身もそれを信じ、手術をバンバン行い、湿布を含めて消炎鎮痛剤を処方し、ひどい痛みにはブロック注射(麻酔剤)を打ったりしていました。
 しかし、診療をしていく中で、レントゲンでは股関節の軟骨がすり減ってほとんどなくなっているのに「まったく痛みがない」と言って実際歩行も自在な患者さん、椎間板ヘルニアで右脚の激痛や筋力低下を訴えているのにレントゲンではヘルニアは左側だったり、一方で、手術はうまくいったのに痛みが取れない、取れても再発するケース、さらには、「かたち」に異常はないのに痛みを訴える患者さんたちの存在…。
 整形外科では、こういう理屈に合わないケースに出合うのはまれではなく、湿布や、電気や低周波を当てたりなど、あまり効果のない保存療法でお茶をにごしているのが実態です。
 こうした実態を目の当たりにし、私の出した結論は、「これまでの整形外科では、痛みは治せないのではないか」というものでした。
 そこから、勤務医を辞めパート医になり、「痛み」と向き合う、私の旅が始まったのです。
 その旅の過程で、最初に出合ったのが「漢方」です。「漢方」では体をパーツで観るのでなく、体質や生活環境も含め人間まるごとに観ることの大切さを教えられました。
 次に出合ったのが、驚異的な治療効果のある「AKA」という博田節夫医師が関節運動学を応用して開発した手技療法でした。「AKA」では、痛みとは「かたち」の異常ではなく、「はたらき」の異常であるという大変重要なポイントに気づかされました。
 私はこの二つを組み合わせて、「痛みと漢方」外来を開き、治療効果に整形外科時代には味わえなかった充実感を覚えるようになりました。しかし、徐々に、万能と思えたAKAも、施術直後は症状が軽くなってもすぐに戻ったり、まったく効果のないケースがふえてきて、痛みの根本的な解明、解決にはまだ道遠しと感じていました。

痛みの本体は、炎症による 体の「修復反応」だった! ──道路工事にたとえた 「痛み公式」

坂井 痛み解明に重要な視点が得られたのは、新潟大学大学院教授の安保徹先生の「痛みは治癒反応である」という視点です。
 痛みが生じて、治る過程では、「プロスタグランジン」という、血液循環をよくしたり、炎症を起こしたりするホルモン様物質がふえてきます。その結果、腫れ・発赤・発熱・痛みなどの炎症を引き起こします。それ故、炎症や炎症を起こすプロスタグランジンは悪玉と思われがちです。
 しかし、炎症は、怪我や誤った生活習慣、ストレス等で血液循環が低下して被った体のダメージを、血流をよくして修復する体のはたらきなのです。すなわち、痛みによって組織が傷ついていることを知らせ、血流がふえた結果が腫れや充血、発赤であり、発熱によって新陳代謝を高めているのです。
 私は、こうした過程を「痛み公式」として道路工事にたとえています(図1)。その機序は、
@血液循環が低下したり、怪我して傷ついたりして→道路にデコボコ(凸凹)ができる
A道路の修復に工事を発注→プロスタグランジンがふえる
B現場工事→プロスタグランジンの作用で血液循環がよくなり、同時に炎症が起こる
C凸凹が治り、工事終了→血液循環が平常に戻り、炎症やそれに伴う痛み等が治まる──となります。こう考えると、「痛み」は工事中に出る騒音やほこりであり、工事が終われば消えてしまうものなのです。
 痛みの原因は、「かたち」の異常ではなく、組織の血液循環が低下した結果の、「はたらき」の異常によるものであるとわかれば、大切なのは、体を温め、血液循環を高め、早期に工事を終わらせることだとわかります。

「痛みは温めよう!」 簡単・安価・著効の カイロ療法

坂井 私が、温める方法としておすすめしているのが、使い捨てカイロ(以下:カイロ)の活用です。
 方法は、とても簡単。痛みのある部位に、カイロを一日中(睡眠時は外す)貼るだけ。痛む箇所こそがまさに、血液循環をよくしてダメージを修復しようとしている現場です。その上で、ツボに貼るなど、工夫するといいでしょう。
 全身、腰やひざ、首や足、股関節、お腹や背中にいたるまで貼ってかまいませんし、何枚貼ってもOK。痛みが広範囲であれば数枚並べたり、冷え対策には腹部、膝裏、ふくらはぎがおすすめです(図2・3)。ちなみに、首は、積極的にカイロを貼ってほしい部位です。寝違えなど急性のものから慢性のものまであらゆる首の痛みが和らぎ、肩こりや頭痛対策にもおすすめです。冷え症対策にもいいようです。
 年齢や性別を問わず、力を発揮し、カイロを活用すれば、腰痛、ひざ痛、股関節痛といった関節痛をはじめ、腱鞘炎、肩こり、頭痛、しびれなど全身のあらゆる痛みが軽減します。椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症、変形性股関節症、変形性膝関節症といった、治癒困難とされる症状の痛みにも著効をあげています。腰やひざの痛みを「年のせい」とあきらめることはありません。
 年間通して、夏も使用できます。痛みの部位に温熱エネルギーを与えて血液循環をふやし、筋肉などの細胞の活動を活発にするものですから、痛みがあれば、真夏にカイロを貼るのは当たり前。冷房が行き渡った現代では、夏こそおすすめです。
 カイロの種類には、下着の上から貼るタイプ、肌に直接貼るタイプがありますが、貼る場所や肌の状態、使い勝手などから好みのタイプを選んでOKです。例えば、直貼りタイプはずれにくいというメリットの他に、低温ヤケドになりにくいよう温度が少し低く、持続時間も短めになっています。両タイプを工夫して使うのも智慧です。
 注意したいのは、
・低温ヤケドの恐れがあるので、就寝時は取り、起床後に新しいものを貼ること。
・我慢は禁物。カイロで修復工事の進行が促された結果、一時的に炎症や痛みが増す場合は、我慢できる範囲なら使い続けてかまいませんが、我慢できないほど痛みが強くなった場合は、カイロの使用をやめて様子を見ます。
・発汗するほど温めない。温めすぎは特に重症の場合、弱った細胞にさらなる負荷をかけることになり、また、汗が引く時に温熱エネルギーを奪ってしまうので、これによって病状が悪化してしまうことになります。

冷やすのは禁忌 ──湿布を含め、消炎鎮痛剤は 血液循環の低下をもたらす

坂井 捻挫や打撲など急性期の痛みも、湿布ではなく、カイロを貼ってください。整形外科の診断名のほとんど、例えば椎間板ヘルニア、変形性関節症、腱鞘炎などでも、温めるが第一選択です。発赤、発熱で冷やしたりしますが、やはり温めるのが第一選択です。炎症は、まず冷やすという発想は、修復過程としての炎症の意味を取り違えているからです。
 その典型的な「治療法」が、湿布を含めた消炎鎮痛解熱剤です。整形外科では、修復工事中には湿布をはじめ、飲み薬や注射等による消炎鎮痛剤が用いられます。ところが、消炎鎮痛剤はプロスタグランジンのはたらきを抑制し、血液循環を低下させ、無理に炎症を止めてしまうためにかえって逆効果となります。
 そればかりか、消炎鎮痛剤は体全体に広がり、心臓、肝臓などあらゆる部位の血液循環を低下させてしまい、安易な使用は危険ですらあります。
 湿布といえども、皮膚から薬剤が体内吸収されます。温感湿布も、温かく感じるのはカプサイシンなど刺激成分が含まれているためで、皮膚の表面温度を上げることはできても、やはり、血液循環を低下させます。
 だからこそ私は、「湿布や痛み止めの薬を安易に使わないように」と明言しているのです。

ミトコンドリアを元気に! 痛み・病気から 解放される生活習慣
「痛み」も「病気」も、 ミトコンドリアの障害による 細胞の「傷」 ──「痛みを治す7つのステップ」

坂井 「痛み」をもっと簡単にいってしまえば、細胞の「傷」、ダメージです。
 人間の細胞は、どのようにしてダメージを受けるのか、逆にどういう状態で生命を維持するのか、そういうことがわかれば、なぜ痛むのか、なぜ病気になるのか、どうすれば痛みや、病気が治っていくかがわかってきます。
 それが一挙に明確になったのは、
@温度や重力、光などのエネルギーの観点と、
A細胞内のミトコンドリアの働きに焦点を合わせた、西原克成先生の「エネルギー医療」との出合いからです。
 西原先生は、「身体のエネルギー代謝を司るミトコンドリアの元気こそが健康の鍵となる」といわれています。
 ミトコンドリアは赤血球を除いて、全ての細胞内にある小器官で、ATPというエネルギーの元やホルモンなどの活性物質をつくっています。ミトコンドリアが障害されれば、人体60兆個の全細胞も元気を失ってしまうのです。
 ミトコンドリアは、酸素と栄養からエネルギーを生み出していますが、エネルギー産生の過程では、温度や重力、光、気圧等の外からのエネルギーが非常に関係してきます。例えば、細胞は37℃で働きますが、呼吸や食物などから寒冷エネルギーを体内に取り込むと、その恒常性を保つために、ミトコンドリアは多くのエネルギーを消費しなければならず、結果、疲弊し、障害されてしまうわけです。
 西原先生は、ミトコンドリアが障害を受ける因子として、@サリン、シアン、CO、農薬、殺虫剤などの毒物、A環境エネルギー(温熱、寒冷、湿度、気圧、重力、光、音波)、B寄生体(バイ菌やバクテリアウイルス、原虫、無害の常在菌)、C栄養障害(酸素、水、栄養の過不足)、D生体力学エネルギー、E移植の不適合(輸血も含む)、F生命エネルギー(喪失、恐怖、ストレス)──等をあげられ、これによって病気のタイプを分類されています。
 特に、口呼吸や冷飲食で寒冷エネルギーが体内に入ると、免疫の最前線である咽喉(ワルダイエル扁桃輪)や、免疫の最大器官である腸(小腸のパイエル板M細胞)で活動している白血球の働きが弱り、細菌を抱えた白血球が運び屋となって、体中の細胞に細菌がばらまかれ、体のあちこちで「細胞内感染症」を起こすことが、ガン、難病、精神疾患など現代病の原因となっているといわれています。
 私は、こうした西原先生の理論から「痛みを治す7つのステップ」、
@「自分で治る」ことに気づく
痛みは、修復過程としての炎症の一症状とわかれば、痛みを治す修復工事をスムーズに進めていけばよいとなります。その工事を担当しているのは細胞であり、細胞の働きは生活習慣によって決まりますから、「治す」のは自分なのです。
A温める 湿布ではなくカイロ
B細胞の働きを高める ミトコンドリアが決め手
C40〜42℃の温飲食
D鼻呼吸 口は昼も夜も閉じておく
E骨休め 重力エネルギーの負担を解除
F生体力学エネルギー 運動、寝相・両噛み──を導きました(13頁・表1参照)。
 このステップに基づいた生活習慣の実践で、血液循環とその質がグンと高まり、さらにミトコンドリアのはたらきがよくなり、60兆個ある細胞の一つ一つが活発に活動することができます。
 そうすれば、人間本来のあるべき姿・状態、すなわち、痛みも病気もない、活力にあふれた健康な状態になります。
 当院でも、患者さんたちがこの生活習慣の実行で、整形外科疾患だけではなく、多くのアレルギーや生活習慣病、慢性病などが快癒されています(図4)。

40〜42℃の温飲食 ──生野菜も果物も温めて

坂井 「温飲食」は細胞にとって「温熱エネルギー」のご馳走になる一方で、「冷飲食」は細胞にとって「寒冷エネルギー」によるダメージを与えてしまうものになります。
 飲食物は、いくら体によいとされるものでも、体温以下というだけで、細胞の元気の源であるミトコンドリアの元気を奪ってしまうのです。
 現代では、ビールやアイスクリームなどの冷たいものが季節を問わず好まれ、消費されています。目先の「のどごしの快感」を優先し、細胞に大きな負担を与えていることに気づいていないのです。
 「温飲食」と「冷飲食」の境界線は細胞が働く37℃ですが、実際に口にする温度は40〜42℃が目安です。ですから、体温より低い常温(約25℃)は「冷飲食」となります。また、42℃以上の高すぎる温度の習慣的な摂取もよくありません。慢性的な火傷を引き起こしてしまいます。
 生野菜や果物も、ビタミンや酵素は40〜50℃では壊れませんから、温めて摂るようにします。私は、少し熱めのスープに切った生野菜を浸したり、ニンジンなどはすりおろして熱いお湯をかけて食べたりしています。果物も食べやすい大きさに切り、オリーブオイルでフライパンで温めたり、電子レンジで少し温めて食します。温めることで、果物の味や甘みが濃厚になり、慣れると温めた果物の方がおいしく感じられます。

お酒は、お湯割り焼酎がおすすめです。 「冷やす」文化から 「温める」文化へ

坂井 「低体温」や「冷え」の人は、細胞の活動が低下していることを示しています。その結果、現代はさまざまな痛みや病気に悩む人であふれています。
 「冷えは体によくない」という本当の意味は、寒冷エネルギーによるダメージを受けて、ミトコンドリアが生命エネルギーをつくれなくなるということです。
 私たち日本人は今、経験したことのない「冷やす」文化の脅威のただ中に立っています。
 ぜひ、「カイロ」の活用をはじめ、「温める」生活習慣の実行で、痛みから解放され、体調がよくなられることを願っています。

(取材構成・本誌くぬぎ)