微量放射線と生体の適応応答
ラドンガスに健康増進の抗酸化力ビタミンC・Eに劣らない抗酸化作用
岡山大学大学院保健学研究科放射線健康支援科学領域教授 山岡聖典先生
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今や世界的に有名になってきた鳥取県三朝町の三朝温泉に多く含まれるラドンガスの健康効果の解明を進めてこられた山岡教授は、これを吸わせたマウスは活性酸素の悪影響にブレーキをかける抗酸化の働きが強まり、肝機能障害などを緩和する作用があることを実験で確認しておられます。
このご研究でその抗酸化力をビタミンCとEを与えた場合と比較したところ、体重60kgの人が三朝温泉の一般的な浴室に30分間入ると、レモン3個分の摂取に相当する効果があるとも試算されました。これは、活性酸素を消去する体内の酵素SODなどが大幅に増えることを示唆しています。
ラドンガスは三朝温泉などの地下に埋まっているラジウムを微量に含んだ岩石や土から自然に気体として放出されるガスです。放射線を出していますが、これは微量ならば健康にとても良い働きをしてくれるとのこと。
山岡先生は後出のトーマス・ラッキー博士の論文を1982年に発見・紹介され、我が国における微量放射線による健康効果の先駆的研究者であり、第一人者であられます。
山岡聖典先生プロフィール
岡山大学大学院保健学研究科放射線健康支援科学領域教授。
1982年電力中央研究所入所。東京大学客員研究員などを兼務。1999年同所上席研究員などを経て岡山大学医学部(のちに大学院化)へ。教授、医学博士・理学博士。関連2NPO法人学会などの役員。
専門は主に放射線健康科学、健康長寿科学、生体応答解析学。日本過酸化脂質・フリーラジカル学会学会賞(2005年)などを受賞。
低線量放射線による 健康への有益効果の可能性
──日本における三朝温泉(鳥取県)や玉川温泉(秋田県)、あるいはオーストリアのバドガスタインなど、ラジウムやラドンガスによる微量放射能温泉が健康に良いらしいということで人気を集めていたところ、福島第一原発事故の放射線漏れ騒ぎが水をかけてしまっている状況にあると言われています。
このあたりの問題について、微量放射能温泉の安全性と健康効果を岡山大学で長期間にわたり、科学的・実証的に研究を進めておられる山岡先生にお教えいただきたいというのが今回のインタビューの趣旨です。どうぞよろしくお願い申し上げます。
山岡 原水爆で問題となるような高線量放射線による健康リスクは誰もが認めていますね。その一方で、例えば、微量放射線を放出しているラドン温泉は不老長寿の湯とも薬湯とも言われ、古今東西、多くの老若男女が治療や健康増進に利用しています。
我々は、ラドン温泉などの健康にとって有益とも考えられるラドンガスの出す微量のアルファ線である放射線の健康効果について、低線量放射線による生体の適応応答と捉え、現象の確認とそのメカニズムの解明を進めています(図1)。
また、これは薬理学での有害な作用源が少量の場合に生体に適度な刺激を与え有益な効果を生じるとの考え方と共通点があると捉え、医療や健康増進への応用の可能性についても研究を進めています(図1)。
少量の場合は多量の場合とは異なり有益な効果をもつ例として太陽紫外線があります。有害と見なされる太陽紫外線を少量浴びることにより、体内でのビタミンDの生成が促進されます。また、適量の塩分やアルコールなどの化学物質の摂取や、運動、温熱、精神的ストレスなども同様の効果を生じることが知られています。
低線量放射線による生体の適応応答の有益効果として、内外の研究機関との共同研究を含む動物実験により、例えば、生活習慣病つまり肝疾患・糖尿病・虚血─再灌流障害・高血圧症などや、老化の予防や症状緩和の可能性を確認しつつあります(図1)。
また、メカニズムとして、例えば、抗酸化機能、免疫機能、損傷修復機能、およびアポトーシスといわれる細胞自爆の活性化の可能性などを解明しつつあります(図2)。
三朝での ラドン温泉研究の歴史
山岡 さらに、低線量放射線の医療や健康増進への応用の可能性として、臨床試験により、例えば、ラドン温泉療法の効果に着目し、適応症つまり効能のメカニズムを脈管作動物質や鎮痛関連物質なども指標に加えて解明しつつあります。
三朝の温泉療法は、バドガスタインの坑道療法とともにラドン療法として世界的に有名です。
三朝においては昭和14年から、岡山医科大学(当時)三朝温泉療養所、同放射能泉研究所、岡山大学温泉研究所などを経て、現在の同病院附属三朝医療センターに至るまで放射能泉に関する学理とその応用の研究が進められてきました。今は三朝ラドン効果研究施設なども同センターに隣接して設置し、長期体内被曝を含む共同研究を進めているところです(図3)。
放射線から身を守る考えと、 低線量の放射線は 健康に良いという考え
山岡 現在、放射線からどのようにして身を守るか、防護するかという規制には、低線量域での健康リスクがまだ解明され切っていないので、一括で安全側の直線しきい値なし(LNT)仮説(10頁・図4)の考えが採用されています。
この仮説では、低線量域下で見つかっている発癌に至る多くの段階での抑制の仕組み、例えば、抗酸化物質による活性酸素の除去、正確なDNA修復、アポトーシスによる変異細胞の除去、免疫系活性化による癌細胞の除去──などについて考慮していないという課題があります。
また、同じ被曝線量でも、線量率が低いほど、すなわち、低線量率の長期照射、高線量率の反復照射、急照射の順に、健康障害が少ないことを考慮していない課題もあります。
他方、分子・細胞・組織・個体のレベルや、性・年齢・人種・個体の差などに伴う感受性の違い、喫煙・飲酒・運動──などの生活習慣の違いによっても、放射線の健康リスクの程度は異なることを放射線防護では明示していません。
このため私たちは、低線量域でLNT仮説の採用がどこまで現実的なのか慎重に検討を進めているところです。
これを一般化し安全側でリスク管理するのが放射線防護であり、これを個別化し特に低線量・低線量率放射線のより合理性の高い利活用を検討するのが放射線健康科学です。今後は、規制者・事業者・一般公衆など各々の立場から納得できる、より合理的な枠組みと体制を構築して放射線の健康科学と防護の接点が求められていくべきと考えます。
私たちの今までの研究の結果、──多量の場合では有害となる作用源でも少量では身体に有益な刺激効果を与えることがある──という意味で、低線量の放射線は健康に良いとする可能性について、科学的に実証されつつあると考えています。
但し、まだ研究段階にあるので、放射線防護の観点では、国際放射線防護委員会(ICRP)の勧告を守るべきと考えます。今後、この研究の更なる深化を通じて、広く社会の理解を得つつ、これらの医療・健康増進への応用の可能性や、より合理的な放射線防護体系の構築などを検討していくべきことは、人類誕生から放射線と共存する我々の宿命と言えますね。
他方、私たちの研究が低炭素社会実現のために解決すべき原子力施設由来の低線量放射線の健康影響の研究にも貢献しているものと考えています。例えば、今回の東電福島第一原発事故における、過度の不安による精神的・肉体的な健康被害や、科学的根拠に乏しい風評による経済の委縮などの物的損害や被災者への差別などの人的被害に対し、具体的にはチェルノブイリ原発事故などの過去の教訓を科学的・建設的に活かすことなどにより、少しでも軽減に寄与し、安全・安心を形にできれば幸甚です。
チェルノブイリの教訓
山岡 チェルノブイリ原発事故から学ぶべき教訓として、アルチュニン・ロシア科学アカデミー・原子力エネルギー安全発展問題研究所副所長は、東電の福島第一原発事故に関連して、
1.日本政府は年間累積放射線量20ミリシーベルト以上を避難対象地域としているが、100ミリシーベルトに設定しても問題ない。
2.ICRPは、「年間20ミリシーベルト以下ならば、住民の生活を規制する必要はない」「20〜100ミリシーベルトなら放射線量の低減措置を推奨」「100ミリシーベルト以上なら必ず放射線量の低減措置を講じなければならないが、必ずしも避難せねばならないものではない」としている。
3.100ミリシーベルトの被曝で健康被害や後遺症が報告された例は一つもない。ICRPは、健康被害が絶対に起こらぬよう数値をあえて厳しく設定している。
4.100ミリシーベルト以下であれば、健康被害は起こり得ない。これは子供でも大人でも適用される数値。もし20ミリシーベルトという基準を設定すると、大量の人々が避難対象となり、社会的・経済的な問題も発生する。チェルノブイリで同様の経験(基準を厳しく設定し、過大な避難を強制。結局、年間放射線量は10ミリシーベルト以下だった)をした。
5.健康面の安全が第一だが、住民の社会的・経済的利益を考慮し、バランスのとれた決断をする必要がある──ということを述べています。
従来、放射線による健康への影響については、原爆による被爆など高線量放射線に伴う事例を基に研究されてきました。特に、発癌など障害論が大勢を占めていて、30年前までは低線量放射線による健康影響についての検討はほとんどなされていませんでした。結果的に、放射線はたとえ低線量でも身体に害をもたらすというLNT仮説が一般的に受容されてきたのです。
しかし、その結果、福島原発事故後の避難生活の強要は、このチェルノブイリの教訓を充分生かしていないと言わざるを得ない現実があります。
食べ物の安全基準を数十倍緩めて然るべきと思えるくらいの厳しい値になっており(表)、これが風評被害を不要に拡げています。これは長期にわたる放射線教育の積み重ねでしか克服できないと思われますが、それを生徒に教えられる教師が少ないというのがお寒い現状です。
放射線ホルミシス (適応応答)仮説
山岡 1980年代に入り、NASAで宇宙での放射線の生命に及ぼす研究をしていたトーマス・ラッキー博士らをはじめ、LNT仮説を基に低線量域での健康影響を議論すると矛盾を生じる研究例が相次いで報告されました。
疾病・外傷への抵抗力の増加や寿命の延伸などがそれです。今まで考えられてきたLNT仮説は、図4の直線部分です。すなわち、全ての領域が作用ゼロを示す横軸破線より下側にあります。一方、LNT仮説と矛盾するという概念は、図4中の曲線で表した部分です。これを放射線適応応答説と言います。この曲線のうち横軸より上側の部分は、身体がしきい値以下の低線量放射線を受けると適応応答に伴う有益な効果を得ることを意味しています。例として挙げた疾病、外傷への抵抗力の増加などは、ここに入ります。この放射線適応応答説が提唱さ
れて以来、放射線防護の考え方に一石が投じられているというのが現状です。
三朝やバドガスタインでの ラドン療法
山岡 オーストリアのバドガスタイン内のラドン濃度は、概ね1立方メートル当たり44000ベクレルと報告されており、三朝医療センター・ラドン高濃度熱気浴室内のそれは1立方メートル当たり2080ベクレルです。
ちなみに、バドガスタインの場合、世界平均の約800倍、日本平均の約2800倍に相当する高い屋内濃度です。また、バドガスタインの温度は37〜42℃、湿度は70〜95%と高温多湿です。三朝の場合もほぼこれに一致します。
約40分間横臥するだけで、治療頻度は処方に従い3〜4週間、隔日に9〜12回行われます。1人当たりの治療の時間・頻度は処方に従い、1日1回40分、隔日に3〜4週間、計9〜12回のペースを目安にラドン吸入のみ(吸浴であり入浴しない)で実施されます。この治療の全被曝量を算出すると,バドガスタインの場合は約1ミリシーベルトとなります。
次に、ラドン療法の適応症として、バドガスタインでは強直性脊椎炎など、三朝では気管支喘息などがあります。三朝の場合、ラドン高濃度熱気浴療法・鉱泥湿布療法・温泉プール療法・飲泉療法などによる治療がなされています。
ラドン療法に関する 研究例とその応用例
山岡 ラドンの生理的作用についてですが、ラドンは不活性(希)ガスであるため、身体のどの構成成分とも反応しません。
ラドンは気道・肺、または皮膚(約90%は前者)を経て血流に入り身体全体に運ばれます。
ラドンは脂溶性が高いので、内分泌腺や神経繊維のような脂肪含有量の高い臓器に集積する傾向があります。
物理的半減期(3・8日)も短い上、身体中の滞留時間も短く、50%は約30分後に排出します。しかし、この短期間にラドンは組織と接触し有益な効果を発揮します。
また、ラドンはアルファ線源であり、吸入・摂取すると生体内に微量の活性酸素を生じ易いのです。また、身体組織内では約20μm(0・2ミリ)しか進まず比較的大きなエネルギーが組織に対して与えられるため、一連の複雑な刺激作用が生じると考えられています。
低線量放射線による老化・ 生活習慣病抑制の可能性例と そのメカニズム
1.脳の加齢に伴う生理学的
変化に対する抑制効果
山岡 ラット脳のうち比較的酸化を受けやすい大脳皮質において、7週齢から65週齢、91週齢と加齢が進むと抗酸化酵素であるスーパーオキサイドディスムターゼ(SOD)の活性が有意に減少し、老化や生活習慣病の原因となる過酸化脂質の量が有意に増加しました。これに対し、低線量を全身照射すると加齢に伴う変化がいずれも有意に抑制されました(図5)。また、細胞の内外において、物質の交換などに関与する膜流動性やATPase活性にも同様の有意な若齢化が見られることから、低線量照射が老化抑制に寄与していることが示唆できました。
なお、低線量照射後のSOD活性の増加とともに生じる過酸化水素を水と酸素に分解し無毒化するグルタチオンペルオキシダーゼ(GPx)の活性なども同様に増加することや、さらにはヒートショックプロテイン70(HSP70)などのストレスタンパク質が発現誘導することも、私たちの研究で明らかにしています。
2.膵臓障害(糖尿病)や 肝臓障害(脂肪肝)に対する 抑制効果
山岡 ラットにある薬剤を投与すると、膵臓中のベータ細胞が選択的に破壊され、インスリンの分泌が抑制され、糖尿病状態が誘発されます。しかし投与前に低線量を全身照射すると同じように投与してもベータ細胞は破壊を免れ、インスリン分泌は抑制されませんでした。
他方、マウスの肝細胞に別の薬剤を投与すると、細胞膜脂質の過酸化を介して脂肪肝が生じました。これに対し、同様に投与前に照射すると、脂肪肝の増加が抑制されました。これらの抑制効果は、投与により増加した血糖値は半分、血清中のGOTやGPTの値は約30%、それぞれ低線量照射により有意に減少することからも確かめられました。
また、メカニズムとして、低線量照射により抗酸化機能が亢進したためとする実験データも得られています。
3.虚血─再灌流障害に対する 抑制効果
山岡 マウスヘの事前低線量照射が虚血─再灌流障害である浮腫に及ぼす影響についても検討しました。その結果、浮腫は抑制され、障害の回復も早く、骨格筋の細胞間隙や筋細胞間隙も有意に減少し、正常に近づきました。
また、SOD活性なども有意に高くなりました。これにより、事前の低線量照射が虚血─再灌流障害に伴う浮腫を抑制することが形態学的・病理学的に示唆され、これに抗酸化機能の亢進が関与している可能性も明らかにできました。
本研究の応用として、低線量照射は心筋梗塞や脳梗塞などの際の虚血─再灌流障害に対して抑制に働く可能性があり、検討中です。
4.他の低線量照射による 健康効果例
山岡 小動物における同様の低線量照射による生活習慣病の抑制効果の可能性例については、脳(パーキンソン病)、腎臓、高血圧などの疾患に対しても報告されています。
また、関節リウマチなどの自己免疫疾患治療への可能性も報告されています(図6)。
これらの抑制効果は、低線量放射線に対する生体の適応応答の結果生じた抗酸化機能などの誘導現象を利用したものが一因と考察されます。
ラドンミスト発生装置の 開発とその効果
山岡 私たちは、ラドンをコンパクトかつ場所・時間にとらわれず効率的に安全衛生的にミスト状に発生させ、汎用性も高い装置を共同で開発しました。
この装置はラドン療法の最適条件を再現するために開発したラドン線源を収納したユニットの数量とユニットへの送風量を調整することにより、ラドンを効率良く発生させ、その発生量も使用目的や症状の程度に応じて調節できます。なお、使用のラドン線源は規制値以下を順守し、装置自体も国の許認可を得ています。
ここで、前記ユニットを用いマウス諸臓器中の抗酸化機能の変化特性を検討しました。
400─4000Bq/m3(ベクレル/立法メートル)のラドンを吸入させた結果、SODとカタラーゼの両活性が増加し過酸化脂質量が減少しました。この抗酸化機能の亢進により、ラドン吸入は活性酸素障害を抑制することがわかりました。すなわち、老化や生活習慣病の予防や症状緩和をすることが改めて示唆できたのです。
ラドン療法による 症状改善例と そのメカニズムの解明例 ──変形性関節症・気管支喘息 の症状改善
山岡 ラドン高濃度熱気浴治療による変形性関節症や気管支喘息の症状改善の機構について、私たちの研究例を紹介します。
適応症の多くは活性酸素が関与していることを踏まえ、血液中の免疫機能・抗酸化機能・疾患関連指標などに着目し、三朝でのこれらの治療に伴う変化特性について検討しました。すなわち、患者に対しラドン療法ができる浴室(42℃)において1日1回40分、90%の高湿度下の治療を隔日に施しました。
1回目の治療前(対照)、治療後、治療開始2、4、6週間目の各治療後に採血し、分析しました。
結果は、以下の通りです。
@両疾患患者ともリンパ球刺激試験では有意に応答しました。変形性関節症患者にはヘルパーT細胞のマーカーとなるCD4陽性細胞の増加とサプレッサーT細胞のマーカーであるCD8陽性細胞の減少に有意な変化がありましたが、気管支喘息患者には有意ではないものの、逆の変化をしました。
これにより、当該療法は本来、免疫促進的に作用するが、自己免疫疾患の一つである気管支喘息の患者には免疫抑制的に作用する、すなわち免疫調節機能を亢進させることが示唆できました。
A喘息即時型反応初期の気管支攣縮に関与するヒスタミンの値が有意に減少したことから、この療法は気管支攣縮を抑制させることが示唆できました。
以下の現象は、両疾患患者で認められました。
B抗酸化酵素であるSOD・カタラーゼの両活性と総グルタチオン量がともに有意に増加し(図7)、組織循環や血管に関する疾患の原因となる総コレステロール・過酸化脂質の両量は有意に減少しました。これにより、当該療法は抗酸化機能を亢進させ、酸化障害を緩和させることが示唆できました。
Cモルヒネ受容体と特異的に結合しモルヒネ様作用を発現する内因性ペプチドであり神経末端から分泌され痛覚の制御に関与するベータ・エンドルフィンの値と、抗炎症作用などを示す糖質コルチコイド産生を促すACTHの値がともに有意に増加しました。これにより、当該療法は疼痛の寛解に関与していることが示唆できました。
Dまた組織循環を促進させることも示唆できました。
Eこれらの現象はラドン療法によりいずれの値も健常者の正常な状態の値に近づくことを意味し、効果は治療開始4週間後を中心に認められました。
ラドン効果と 温熱効果の比較
山岡 ラドン温泉には物理効果・化学効果・温熱効果・放射能効果などがあり、特に後2者を比較することは適応症のメカニズムを解明する上で重要です。健常者の血液成分の変化特性で検討した結果、48℃の温熱効果よりラドン(36℃、2080Bq/m3)効果の方が、概ね抗酸化機能や免疫機能の亢進、組織循環の促進、疼痛の寛解のいずれも数10%大きいことが示唆できました。
ラドン温泉による 癌抑制効果の可能性
山岡 ラドン泉として有名な三朝温泉の地区住民の癌死亡率は、全国平均の約50%との報告があります。関連報告も含め、ラドン含有に伴う効果として癌死亡率の抑制が示唆されています。他方、癌死亡率に有意差がなかったとする疫学調査の結果もあります。このため、ラドン効果と癌死亡率との関係に関する研究に資するため、三朝地区と周辺の対照地区の住民(52〜93歳、28名)を対象に採血し、代表的な癌抑制遺伝子であるp53の蛋白量とSOD活性を分析しました。
その結果、三朝地区は対照地区に比べ、p53蛋白量は男性では約2倍有意に多く、女性でも多かったが有意差はありませんでした。また、SOD活性は女性では約15%有意に高く、男性でも多かったが有意差はありませんでした。さらに、三朝地区の女性は高齢にも関わらずSOD活性が基準値より高いことがわかりました(図8)。
これにより、三朝地区住民は日常的に全国平均の約3倍の屋内濃度(54 Bq/m3)に相当するラドンの吸入により体内に生じた微量の活性酸素が癌抑制遺伝子の増強と抗酸化機能の亢進を誘導していることが示唆できました。また、p53蛋白量が多いことから癌細胞のアポトーシス(細胞自爆)を誘導していることも示唆できました。
高齢化社会の到来とともに健康長寿社会の実現が期待されています。低線量放射線は、健康維持を目的とした適度な運動などと類似した少量酸化ストレスを示します。この効果を活性酸素に由来する生活習慣病の予防・治療、健康増進へ応用できるか否かなどについて、リスクも考慮しつつ研究を発展させて社会に還元していくことが、私たちの今後の課題と考えています。
また、発癌をはじめとする種々の放射線による身体的障害などの発生に基づく線量規制を克服できれば、老化や生活習慣病の予防や治療に低線量照射を応用することの可能性は高くなると信じています。
──貴重なお話の数々、誠にありがとうございました。