日本人の健康長寿は、お米と豆を組み合わせた食生活から
その2 豆の効果的な摂り方──美味しく食べて豆々しく元気に
地方独立行政法人 北海道立総合研究機構 中央農業試験場農業環境部長 加藤淳先生
10月13日を「豆の日」に制定──家族の元気は豆料理から
2010年、10月13日は豆名月に由来し、「豆の日」と制定されました。
旧暦八月十五夜の「芋名月」は、里芋が収穫できる時期に里芋を食べて月を愛でる風習です。旧暦九月十三夜の「豆名月」は、豆が収穫できる時期に豆を食べながら月を愛でる風習です。
平安時代から江戸時代まで伝えられた豆名月は江戸時代に廃れ、現代では芋名月の十五夜だけが残っています。「豆の日」は、この豆名月を復活させようということで、新暦に直すと10月13日に当たる日に制定したと加藤先生は教えて下さいました。
この「豆の日」の制定を記念して、一般消費者に健康的な豆や豆製品の魅力を再認識してもらうために、10月には各地でいろいろな豆のイベントも開催されているとか。
昨年北海道で開かれたそのイベント(北海道・豆トークショー2012(旭川))では、第一部の豆トークショー「家族の元気は豆料理から」では加藤先生が栄養や機能性の面から豆の健康効果についていろいろ話され、第二部の「シェフが語る家庭での豆料理」ではいろいろ魅力的な豆料理の試食と調理講習会が行われ、いずれも大変好評だったそうです。
本誌では、豆研究の第一人者で豆博士の異名をもつ加藤淳先生に、1月号(・470)の「豆の優れた健康効果とその機能性」に引き続いて、2月号では「豆の効果的な摂り方」をお話ししていただきました。
豆のもつ優れた健康効果を最大限に引き出し、かつ美味しく摂って、豆々しく元気になりましょう。
美味しく食べて
豆々しく元気に
理想は1日100グラム以上
最低でも30グラム以上
──蛋白質系・澱粉系
バランスよく
──摂取量はどのくらいが適当ですか。
加藤 厚生労働省の「健康日本21」では豆類全般で成人1日100g以上と設定しています。このうち大豆加工品は1人1日70g前後であることから、大豆に劣らず機能性の高い小豆などは30g以上摂取するのが望ましいといえます(表1・2参照)。
体調維持という面では豆類全般で、1日最低30g以上コンスタントに摂っていくと、食物繊維の摂取量の面からいってもかなりプラスになると思います。
──蛋白質系の豆と澱粉系の豆に大別されるというお話でしたが、どのくらいの割合で摂るとよいでしょうか。
加藤 普段の食生活によっても違ってきます。
菜食中心では蛋白源として大豆は欠かせませんし、肉中心で澱粉主体の豆類を多めにとると食物繊維も多く摂れます。
食生活全体を通してバランスよく摂取することが大事です。
──食べすぎによる弊害はないですか。
加藤 今のところ食べすぎによる影響は報告されていません。
大豆では、イソフラボンの摂りすぎが問題視されることがあります。厚生労働省はイソフラボンをサプリメントでとる場合1日30mg上限としていますが、この数字は大豆を食べる習慣のない人が大豆加工品またはサプリメントの摂取で何らかの不具合が出てきたのが1日30mgであったというイタリアの報告から設定しています。
しかし、サプリメントなどの精製したものではなく、大豆をそのまま食べる分には多少多めに摂っても常識的範囲内なら特に問題はないと考えられます。実際、イソフラボンの充足率を見ると、日本人の8割はまだ不足しています。
ちなみに、イソフラボンも北海道産の大豆はグンと高く、これは寒冷で登熟(発育成熟過程)した方がイソフラボンの含有量が高くなるからです。
豆の選び方
──小豆のポリフェノールも産地や品種の違いで成分含有がずいぶん異なるというお話でしたね。
加藤 はい。小豆のポリフェノールは北海道産の普通小豆は中国産の2倍程度も高くなっています。
小豆の自給率は現在50%強で大半は北海道産で、残り50%弱はほとんど中国からの輸入です。一方、大豆の自給率は製油用を含め全体で約4%、食用に限ると約15〜25%となっています。
この他、日本で栽培されているインゲン、エンドウ、ソラマメ、ラッカセイ(図1)も輸入ものが大半以上を占めています。
日本で栽培されている豆は、できれば国産ものを選びたいものですが、中でも機能性の高い小豆や大豆(表1・表2)は機能性の面からも北海道産をおすすめします。
──長期保存が可能な豆ですが、どのくらい保つものでしょうか。
加藤 15℃以下の低温貯蔵では、2年以上の保管でも問題ありませんが、家庭での常温保管はなるべく1年以内に食するのが望ましいでしょう。高温で湿気が多いところで長期間置くと品質劣化が進んで、「ヒネ豆」と呼ばれる煮えづらい状態になります。
多湿は禁物ですが、乾燥のし過ぎもよくありません。乾燥豆の水分量は15〜16%になっています。10〜11%くらいになると「未吸水粒」が発生して、煮えムラの原因になります。
その他、色・艶・形が良くて、粒が揃っているものを選ぶことが、ポイントになります(表3)。
茹で汁ごと摂ろう ──民間療法としても活躍
加藤 水溶性のポリフェノールは煮汁に溶け出します。浸し水ごと茹でて、余分の煮汁は味噌汁やスープにすると有効に活用できます。
小豆は渋みのタンニンやエグ味のサポニンが多いのですが、その小豆も渋切り(水から茹で沸騰させた後、茹で汁を捨て新たに水で煮ること)は1回以内に抑えて、さらに煮汁も摂取できる赤飯やお汁粉で食べると効果的です。
また、大豆の栄養素は消化吸収の面から、豆腐や納豆などの加工食品で摂った方が効果的です。
民間療法では小豆や黒豆の煮汁はのどに良いといわれ、また、脚気や便秘、腎臓のむくみ取りに良いとして使われてきました。現代の栄養学に照らすと、豆に多い栄養素の中で、脚気にはビタミンB1、便秘には食物繊維、むくみにはカリウムが功を奏します。
また、小豆は血のかたまりを溶かすとされ、昔は産後の肥立ちが悪い女性に小豆粥を食べさせたりしたといわれます。今でいう血液サラサラ効果で、お産の時にできた血栓が体の中を流れて心臓や脳でつまらないようにしたわけです。小豆粥や小豆の煮汁は二日酔にもよく効くとされました。体験からそうした効果を知っていたのですね。
旧暦12月8日の事始めに食べる「おこと汁(小豆と根菜類、里芋、焼き豆腐等を味噌仕立てにした汁)」、冬至には「南瓜のいとこ煮」、小正月の「小豆粥」と、暑い夏に入る前や厳しい冬を迎える前などに小豆料理がよく食卓にのぼったのは、病気の予防や回復をはかる目的があったのですね。
1食1品豆料理でダイエット ──和菓子は太らない上に 抗酸化物質の「メラノイジン」も
加藤 昨年、それぞれ異なるダイエット方法を試みたフジテレビのダイエット特集番組で、「豆ダイエット」の指導を頼まれました。
担当した女子2人組は2人合わせ体重200kg。「高脂肪の落花生を除き、納豆、豆腐の加工食品もOKとし、1日3食必ず最低1品は豆料理を食べること」を指導し、他の制限はつけませんでした。そうしたら1ヶ月で2人合わせて約40 kgも減量したんです。
その理由はあんを使った和菓子でも同じで、豆類の@豊富かつ、ノンカロリーの食物繊維が満腹感を与え、A糖質のエネルギー変換に必須のビタミンB1も豊富なのできちんとエネルギーに変換できるからです。食べ過ぎは論外ですが、普通に食す分にはきちんとエネルギーが消費できるのですね。
あんこを作る時に砂糖を入れて加熱するというのも、昔からの日本人の知恵ですね。糖(グルコース)と小豆のアミノ酸を一緒に加熱すると、メラノイジンという強力な抗酸化物質が新たに作られます。
ポリフェノールの摂取には、粒あんの方がより有効です。漉しあんは茹でた小豆を水にさらして絞るので水溶性のポリフェノールの約8割は水に流失してしまいます。それでも、約2割はあん粒子表面に再吸着されて残ります。そこに砂糖を加えて加熱すると、強い抗酸化活性をもつメラノイジンができ、これが失われた8割のポリフェノールを補ってくれます。
メラノイジンは味噌や醤油の熟成過程でもできます。長期熟成するほどできてきますが、あんこの場合は加熱するだけでできるんですね。
一方、洋菓子は、植物性ならカカオ系(チョコレート系)、動物性なら乳脂肪と脂質を多用しているので高カロリーになってしまいます。対してお米や豆を原料とする和菓子はカロリーが低く、さらに素晴らしいのは食物繊維が多く、抗酸化物質も含まれていることです。
──血糖値が高いと余分の糖がメイラード反応を起こして、それが活性酸素と並ぶ老化促進物質である「AGE(最終糖化産物)」をつくると最近いわれていますが…。
加藤 それは糖が体内に溜まった場合です。あんこは血糖値の上昇を抑える抗酸化活性をもたらすので、全く逆の話です。
糖尿病は、血糖の急上昇をもたらす生活でインスリン機能が弱ったり、遺伝的にインスリン分泌不足だったりすると、細胞内に糖を取り込んでエネルギーにすることができず、血液中に糖がだぶついた状態です。あんこは血糖の上昇をゆるやかにするのでインスリンの負荷がかからない上に、ポリフェノールやメラノイジンといった抗酸化物質が体を酸化や糖化から守ってくれるわけです。
──食養生では糖尿病には「小豆南瓜」と昔も今も指導していますが、まさに理に適っているんですね。
加藤 そう思いますね。
他にも、昔の人は豆料理をつくる際、昆布やわかめなどの海藻を一緒に用いました。豆に多いサポニンはポリフェノールの一つですが、サポニンには甲状腺肥大化作用があるため、甲状腺ホルモンの成分であるミネラルのヨウ素を多く含む海藻と合わせたと考えられます。昔の人々の知恵の深さには驚かされるばかりです。
次代に豆を継いでいく ──若い人が好む豆料理
加藤 豆料理は戻したり、煮るのに時間がかかるなど面倒と思われがちですが、寝ている夜間に戻し、茹でる際も沸騰後は弱火にしておけば他の家事に取りかかれます。一旦茹でておけば、家庭での冷凍保存でも1ヶ月は保ちます。
それでも面倒という方や、時間のない時は、今は水煮缶、瓶詰め、レトルトパウチ、冷凍品などさまざまな形で売られています。これらを使い分けるのも生活の知恵だと思います。
豆料理を次の世代に伝えるには、特に子供に味を伝える子育て世代に喜んで食べてもらえるメニューを考えていくことが大事だと私は思っています。
豆というと甘い煮豆やあんこのイメージが強いのですが、野菜と一緒に和え物やサラダ、スープに入れたり、小豆など澱粉系の豆はカレーやコロッケの具にしても合います。
世界中で最も食べられているインゲン豆は、西部劇でおなじみのポークビーンズ、メキシコのチリコンカンなど、豆の味わいが際立つ煮込みがよく知られています。
南米のチリビーンズやイタリアではトマトソース味で豆をよく食べるように、いろいろ工夫をこらして美味しい豆の料理レパートリーを広げた豊かな食卓から健康を生み出して欲しいと思います。