日本人の健康長寿は、お米と豆を組み合わせた食生活から

その1 豆の優れた健康効果とその機能性

地方独立行政法人 北海道立総合研究機構 中央農業試験場農業環境部長 加藤淳先生

豆の摂取量減少で危惧される 豆と共にあった日本人の健康

 日本の伝統食に欠かせない豆は、世界に誇る日本人の健康長寿に大きく寄与しています。
 しかし、豆の摂取量は年々減っていき、1997年には1日76gだったのが2009年には59gとなり、国が健康作りの指針として定めた「健康日本21」の目標摂取量の100gを大きく割っています。
 しかも、その大半は豆腐、納豆をはじめとする大豆製品や甘く味付けた煮豆などの加工食品です。家庭で調理した豆料理を口にする機会は本当に減っているといわれています。
 加藤淳先生は「小豆・インゲン豆の加工特性と変動要因に関する研究」で学位を取得、現在、地方独立行政法人 北海道立総合研究機構 中央農業試験場農業環境部で農産物の、中でも豆の品質や機能性を研究されています。
 豆博士の異名も持つ加藤先生は、豆の優れた健康効果や、現代に受け入れられる美味しく効果的な摂取方法など、メディアや講演活動、また著書(『小豆でぐんぐん健康になる本』キクロス出版発行・BABジャパン発売)などを通して豆の普及に尽力されておられます。
 そこで加藤先生に、1月号(宸S70)では機能性を中心に、2月号(宸S71)では効果的な摂取法を中心に2部に分けて、豆全般についてお話をうかがいました。

 日本の伝統食に      欠かせない豆  日本人の健康長寿を支える         伝統的な和食  ──米と豆の組み合わせは      最適な栄養バランス

──近年の日本は食の欧米化で、がんやメタボリックシンドロームなど欧米型の病気や生活習慣病が増えてきました。
 そこで、お米と豆の組み合わせをベースにした日本食の素晴らしさを豆の観点から研究されている先生にお話をお願いします。
加藤 豆類は日本人の食生活に古くから取り入れられており、大豆や小豆、インゲン豆(菜豆)などは今でも様々な調理加工品となって食卓に上っています。
 日本人の平均寿命は長年世界のトップクラスであり、世界保健機関(WHO)が発表している寿命から病気やけがの不健康期間を差し引いた「平均健康寿命」でもトップクラスとなっています。このような健康寿命の維持には、日常の食生活が大きく関与しています。
 がんやメタボリックシンドロームなどの生活習慣病には高カロリー・高脂肪・高蛋白・低繊維の欧米型の食事が大きく関与しているといわれます。その点、お米と豆と野菜と海産物という日本型の食事は、低脂肪・高食物繊維、かつアミノ酸バランスの良い、健康的な食事となっています。
 中でも、肉を常食する習慣のなかった日本では、昔から米と豆が付き物でした。普段の味噌、醤油、豆腐、納豆といった大豆食品はもとより、季節の節目に食べるお赤飯、おはぎ、また和菓子もお米と小豆の組み合わせです。
 アミノ酸のバランスは健康を保つ上で非常に重要ですが、特に、必須アミノ酸と呼ばれる体内で生成できない9種類のアミノ酸が重要です。体内で蛋白質を合成する時、人間が食べた蛋白質は、いったんアミノ酸に分解され、それを体の中で再合成するわけですが、人間の体の中で合成することのできない必須アミノ酸は、食事から摂取する必要があります。
 日本人の主食であるお米には、この必須アミノ酸のうちリジンが非常に少ないために(基準値の61%)、これが制限になって米だけでは蛋白質は61%しか利用されないのです。豆類にはこのリジンを始めとする必須アミノ酸が豊富に含まれています。したがって、豆とお米を組み合わせて食べることにより、アミノ酸スコアを100点満点にして、蛋白質を効率よく摂取することができます(図1)。
 また豆には、便秘や大腸がん、また糖尿病や高脂血症などメタボの予防に期待されている食物繊維も豊富です。食物繊維というとゴボウなど野菜を思い浮かべがちですが、小豆はゴボウの3倍も入っています。精白米には食物繊維がわずかしかないので、この点でも米と豆の相性は良いのです。
 豆類には炭水化物のエネルギー代謝に関与し疲れを取り除くビタミンB1も豊富です。小豆やインゲン豆ではビタミンB1が多いとされる豚のバラ肉に相当するほどの量が含まれ、大豆ではこれをしのぐ量が含まれています。一方、精白米では100g中0・08gしか含まれず、米だけを食べていても炭水化物が十分に代謝できず、エネルギーがしっかりと供給されないということになります。この点でも、豆を食べることは重要です。 
 さらに、脂質代謝に関与するビタミンB2や、蛋白質の分解を促進するビタミンB6も豆類には多く含まれています。
 ミネラルは、小豆では鉄やカリウム、大豆ではカルシウムやカリウムが豊富です。ほうれん草のおひたし一食分に含まれる鉄の2倍以上の量が、大福1個で摂ることができます。
 高血圧の予防には塩分を控えると共にカリウムを多く摂ってナトリウムとのバランスを取ることも大切です。バナナはカリウムの多い食物の代表ですが、小豆や大豆にはその4〜5倍もの量が含まれており、茹でた後でもバナナ以上のカリウムが残っています。

 食用にされる豆類 ──脂質・蛋白質主体の豆類と     炭水化物主体の豆類

加藤 マメ科の植物は、クローバーやアルファルファなどの牧草からニセアカシアの木など世界中で約1万8千種と様々あり、そのうち人間が食用にするのは約70種といわれ、この中には小豆やインゲン豆、エンドウのように炭水化物(澱粉)主体の豆類と、大豆や落花生のように蛋白質と脂質が主体の豆類があります。
 その中で日本で栽培され、食べられているものとしては、「ササゲ属」、「インゲン属」、「ソラマメ属」、「エンドウ属」、「ダイズ属」、「ラッカセイ属」の6属の豆類になり、さらに同じ豆でもいろんな品種があり、例えば小豆でも中粒のエリモショウズ、大粒の大納言など品種も様々あります(図2)。
 小豆は国内生産量の8割以上、インゲン豆では9割以上が北海道で栽培されています。大豆に関しては国産大豆はほぼ全量が食用に使われており、その約半分は豆腐に加工されます。国内における大豆の生産量は20万トン前後(自給率約4%)ですが、食用の自給率としては15〜25%程度で、その2割前後は北海道で栽培されています。

 豆の健康効果と機能性   三つのキーワード

加藤 豆には機能性成分も豊富です。では、それらは健康にどう寄与するか。そのキーワードは、@アンチエイジング、Aプロバイオティクス、B抗メタボリックシンドロームの3つが大きなポイントになります。

アンチエイジングと抗酸化活性  ──小豆は赤ワインより強い

加藤 アンチエイジング(抗加齢)とは老化防止とも訳せます。では老化と何か。単純に年をとるから老化するわけではなく、同じ年齢でも若く見える人もいれば老けて見える人もいます。
 基本的には、鉄が錆びるのと同じように細胞も錆びていく。その錆び具合、進行度合いの違いが、老化の程度の違いになります。
 錆びる原因はこれも鉄と同じで酸素です。呼吸で取り込む酸素の約2%は傷害性の強い活性酸素になります。活性酸素に対して生体は活性酸素消去酵素などの防御機構を備えていますが、そうした酵素のピークは20代で、40歳過ぎ頃から急激に衰え、活性酸素を十分に消去できなくなってきます。
 特に、@疲れている、Aストレスがたまっている、B病気がある──という状況では活性酸素の発生量が多くなり、消去しきれなくなってくると細胞をどんどん傷害し、さらに遺伝子も傷つけてしまいます。
 これが老化進行の原因となり、がんをはじめとする多くの生活習慣病の引き金になります。がんの場合は、遺伝性やウイルス性のがんを除くと、発症の9割は活性酸素が引き金になっているといわれています。
 老化を防ぐ最大のポイントは、活性酸素を体内にため込まないこと。そのために最も重要なのは、過剰な活性酸素の生成を防ぐ食品です。野菜にはビタミンC、ベータカロテン、ビタミンE、各種ポリフェノールなどの様々な抗酸化物質が含まれています。では豆には何が入っているのか。
 小豆、特に「エリモショウズ」を代表とする北海道産の小豆には100g中400〜600mgと、一般の赤ワインに比べて、1・5〜2倍ものポリフェノールが含まれており、活性酸素を除去する抗酸化活性が高いことがわかりました(図3)。日本人が伝統的に小豆を食べてきた背景にはそうしたこともプラスの影響があると思います。
 インゲン豆の一品種の金時豆も大納言に近い活性があり、それ以外の白系のインゲン豆は低いですね。大豆は大豆サポニンに抗酸化活性があるものの、北海道産大納言小豆は普通の黄大豆、黒大豆の約5倍も高くあります。(図3)
──小豆ポリフェノールの主体はカロテノイド(色素)ですか。
加藤 小豆の赤いのはアントシアニン系色素のプロアントシアニジンやアントシアニンなどですが、我々と大学の共同研究では小豆中最多のポリフェノールは、抗酸化活性の高いカテキングルコシドというカテキン分子にブドウ糖1分子が結合したカテキン類でした。他にはお茶と同じカテキンも入っていますし、ソバに多いルチンも入っています。抗酸化にはこうした多種類のポリフェノールがトータルに働いているのですね。
 また、同じ小豆でも中国産は、北海道産の約半分から半分以下でした(図4)。北海道産は遺伝的バックグラウンドがかなり揃っているのに対し、中国産のほとんどが大陸の在来種で遺伝的に違うんですね。日本で小豆は年間約12万トンがあんこを始めいろいろな形で消費されていますが、そのうち6万トンが輸入物でほとんどは中国産です。ぜひとも北海道産を選んで欲しいところです。
 小豆の抗酸化活性は栽培環境によっても異なります。同じ北海道産でも産地や収穫年次によって違います。これには日照時間が関係し、花が咲いて実が熟すまでの登熟期間のうち、8月上旬から9月上旬の日照時間が一番影響しています。この間の日照時間が長くなればなるほど抗酸化活性も高くなります。すなわち、太陽の照っている時間が長いところで登熟した小豆は、抗酸化活性やポリフェノールの量が多くなるということになります。
 なお、小豆は普通茹でて食べますが、ポリフェノールは煮汁に多く溶け出します。例えば、あんですと、原料豆の抗酸化活性を100とすると、煮ている過程で8割ぐらいに減り、さらに煮汁を全部捨て水でさらした生あんにすると2割程度にまで減ります。このように大きく減少はしても、ゼロにはなりません。
 野菜などでは煮ている過程でポリフェノールはどんどん煮汁に溶出しますが、小豆の場合はあん粒子の表面に蛋白質があり、蛋白質とポリフェノールは結合する性質を持つので、ポリフェノールは煮てもあん粒子の表面に吸着されて残るのです。
 さらに、加糖あんの場合は、砂糖を加えて加熱することにより、メラノイジンという物質ができます。これもまた抗酸化活性の非常に高い物質ですので、和菓子として食べる時にはこれらの成分による効果も期待できることになります。
 なお、ポリフェノールを十分に摂取しようとするならば、煮汁も残さずに使う汁粉や赤飯などが効果的でしょう。

 プロバイオティクス   ──腸内細菌叢を改善する        豊富な食物繊維

加藤 ヨーグルトをはじめとする発酵食品によく使われる「プロバイオティクス」という言葉は、腸内フローラ(細菌叢)のバランスを改善することで人に有益な作用をもたらす生きた微生物という意味です。
 プロバイオティクスによる健康効果は、整腸作用と、近年注目されているのが腸管免疫の免疫調節作用です。腸管免疫は実にヒトの免疫の半分以上を担っており、その主体は我々のお腹の中に約100兆もいる腸内細菌です。
 生まれたばかりの赤ちゃんの腸内細菌は100%近くが善玉菌のビフィズス菌ですが、いろんなものを食べるに従い菌種はどんどん増えて、老化と共にウエルシュ菌や病原性大腸菌などの悪玉菌や体調が悪い時に悪さをする日和見菌などが増えてきています。
 その腸内細菌のバランスをどう改善するか。そこにビフィズス菌や乳酸菌類などのプロバイオティクスが役立つわけです。
 腸内細菌叢を正常に維持し整えるには、人体にとっての栄養ではなく、プロバイオティクスにとって栄養になるものを食べることです。それは我々が消化できない食物繊維であり、難消化性のオリゴ糖です。
 豆にはゴボウの3倍もの食物繊維が含まれ、オリゴ糖も多く含まれています(12頁図5)。すなわち豆の摂取は腸内細菌にとってもプラスになるというわけです。
 また、食物繊維は次に述べるメタボの予防にも有効です。食物繊維はコレステロールや血糖を抑えてくれます。

メタボの予防 ──小豆など澱粉主体の豆が鍵

加藤 2005年に日本内科学会が作ったメタボリックシンドローム基準では、内臓脂肪蓄積(100Cを超えると危険)を必須条件にプラス、@高脂血症、A高血糖、B高血圧──のうち二つ以上が当てはまるとメタボとされます。こうなると動脈硬化が促進され、脳梗塞や心筋梗塞になる危険率がメタボのリスクのない人の30倍以上も高まるということで、メタボ予防は非常に重要です。
 メタボの予防には小豆やインゲンなど消化しにくい澱粉、すなわちレジスタントスターチ(抵抗性澱粉)主体の豆が重要になります。小豆やインゲンなどの澱粉主体の豆を煮るとあん粒子を形成します。澱粉の粒子は水を吸って加熱されると膨潤・糊化しますが、細胞壁(セルロースで形成され蛋白質でコーティングされている)で守られているので人間の消化酵素では消化できないのです。これがレジスタントスターチで、食物繊維と同じような働きをします。
 ただし粉砕して粉にしたり、また煮続けることでも細胞壁が壊れて澱粉は細胞の外に出てくるので、普通の澱粉になってしまいます。例えば作りたてのお汁粉はサラサラですが、2〜3日経つとどんどん粘ってくるのはあん粒子が崩壊し中から澱粉が出てくるからです。
 図5―1で示すように、乾燥小豆の食物繊維は100g中17・8gとゴボウの3倍、茹で小豆でも11・8gと2倍強です。乾燥小豆の水分約15%に対し茹で小豆は60%超えているにもかかわらず、食物繊維は煮た後でも多いのです。一方、大豆の食物繊維は乾燥で17gですが、茹でると7gと半分以下です(図5―1)。
 実は、茹でた小豆やインゲンはあまり減っていないどころか増えています。図5―2で示したように、乾物換算値すなわち水分を除いた固形分に占める食物繊維の割合を見たところ、乾燥小豆の水分約15%を除いた残り85%の固形分中、食物繊維の割合は乾燥小豆が21・1%なのに茹で小豆は33・5%と1・5倍、インゲンも約1・5倍増となりました。一方大豆は茹でても増えません(図5―2)。
 ここが豆の不思議なところで、これは成分に由来しています。大豆は全成分中、蛋白質は35%以上と非常に多く、二番目に約20%を占める脂質です。一方、小豆やインゲンは蛋白質は20%以上入っていますが、全成分の5割が澱粉の形の炭水化物で、脂質は約2%と大豆の10分の1しかない。この澱粉主体の豆が大事だと思います。
 では実際に、小豆がメタボリックシンドロームのリスクをどのように抑えているか。
 血糖値は、帯広畜産大学との共同研究で糖負荷検査をしました。ネズミに砂糖水を与えて血糖値の推移を見ると、飲んで30分でピークに達し2時間かけて徐々に下がるという人間と同じパターンが見られました。ところが、小豆ポリフェノールを混ぜた餌を食べさせておくと、砂糖水を飲ませてもピークが60分まで遅れ、しかもその値は低く、GI値(グリセミック指数:炭水化物が消化され糖に変化する速さを相対的に表す数値)が下がり、血糖の上昇が抑えられていました(図6)。
 コレステロールは、3週間高コレステロール食などを与えたネズミは1週間目でボーンと悪玉のLDLコレステロールが上がり3週間維持されます。ところが餌に小豆ポリフェノールを混ぜておくとその上昇が抑えられ、一方で善玉のHDLコレステロールは全く変化しませんでした(図6)。
 高血圧では、47都道府県中で高血圧が最多の青森県の青森県立保健大学との共同研究で小豆の効果を見てみました。SHRという自然高血圧発症モデルラットに小豆ポリフェノールの濃度を変えて餌に混ぜて与えたところ、どの濃度でも血圧の上昇が抑えられました。
 人の介入試験では、健康なボランティア32名に小豆茶(175g缶入り小豆抽出液。小豆ポリフェノール105mg含有)を1日3回食事の度に4週間飲んでもらいました。ポリフェノール効果は1日300mg以上で発揮とされているので3缶で315mgの小豆ポリフェノールを摂ったことになります。その結果、中性脂肪が高かった8名は4週間摂取して有意に中性脂肪が減少し、LDLコレステロールはほとんどの方が減少傾向を示し、メタボに対してプラス効果が認められました(図7)。