アンチエイジング(抗 老化)の要 「ミトコンドリア」を活性しよう

─ミトコンドリアと活性乳酸─

ハートフルクリニック院長 アンチエイジング医学専門医 平良茂先生

サプリメント外来と、体質改善を視野に入れた統合医療 ──「代謝栄養療法(平良メソッド)」により、 病気の治療から予防・アンチエイジングまで──

 平良茂先生が院長を務める沖縄糸満市のハートフルクリニックでは1998年より、薬を使わずにサプリメントを用いて体に優しい治療を目指した「サプリメント外来」が開かれています。
 サプリメント外来では、血液検査や毛髪分析などの結果から体内代謝がどのようになっているかを個別に診断し、その人に合った食事・栄養療法を導き、サプリメントや点滴療法も応用した個別医療が行われています。
 この「平良メソッド」による統合医療は必然的に、予防医学、アンチエイジング(抗加齢・抗老化)医学を包括し、老化をコントロールしながら病気を予防し、健康長寿のライフスタイルを確立したものになっています。
 未病の予防、アンチエイジングの鍵となるのは、老化の元凶といわれる「活性酸素」と「AGE(終末糖化産物)」の生成を抑え除去することと、体内では細胞の中に存在するエネルギーを産生する小器官「ミトコンドリア」の働きを活性化することがいわれています。
 平良先生に、アンチエイジングに重要なミトコンドリアを活性するためのライフスタイル、中でもサプリメントを含めた食事・栄養療法を中心にお話をうかがいました。

 体質改善を考慮した       代謝栄養療法
  代謝栄養療法とは        ──無薬療法

──先生のクリニックではサプリメント外来を展開され、自由診療をされているそうですね。サプリメント外来で行われている診療を簡単に教えて下さい。
平良 各人個別の代謝を診ることが、根本療法につながります。それは、無薬療法でもあります。
 薬を使うことで代謝経路をブロックしたり加速したりするのは対症療法的であるのに対し、我々は、代謝は食べ物・栄養で改善可能であり、それによって、体質改善もされる根本療法であると考えています。
 代謝栄養療法は私の造語ですが、患者の血液、毛髪、尿等で、その人の代謝状況を調べて、それに合った食品やサプリメントをピンポイントで処方しています(表1)。
 血液データは、臓器の健康状態の把握に有用で、例えば、肝機能だとか腎機能だとかだけではなく、同じ血液データからビタミンやミネラルの過不足などピンポイントの体の状態を推測することも可能なのです。
 さらに、ほんの少しの毛髪を検査することで、有害ミネラルから有益ミネラルの過不足もチェックできます。
 特殊な検査機器を用いると、血液検査からは分からない、例えば現在ある動脈硬化がすぐに分かります。
 また、指先を針で刺し数滴の血液を採取し顕微鏡で見ると、体の酸化(錆びつき)の度合いや、血液流動性(ドロドロ・サラサラ)、ホルモンバランス、免疫力、感染症、添加物の摂取状況なども推測できます。
 その上で、個人の体質に合った栄養療法を施して、体を根本から改善していくのが、代謝栄養療法ということですね。

 何をどう食べるか、摂るか   薬とサプリメントの違い

──平良先生は心臓内科医だったそうですが、薬による西洋医学と決別されたのは?
平良 例えば心臓では血管を拡げたり、止まった心臓を動かすのは、薬物でかなり有効性が発揮できます。しかし、退院した患者さんがまた同じように救急車で運ばれてくるケースが多くあるのです。
 一方、食事など生活習慣から原因を突き止めることからスタートする予防医学は、
@最初は薬の効きを良くする目的で食べ物を指導することから始まって、
A栄養補助食品のサプリメントを加えるとさらに効果が上がり、
B点滴療法、例えば通常のビタミン量が1だとすると少なくとも3にするなど倍々量を使ったり、キレーションという特殊点滴で解毒するとさらに病気から離脱することができるようになり、
C最後は食の組み合わせ、食べる順番、食べるタイミング、何時に何を食べるとどういった体内成分が何時にピークを迎えるか、それに合わせて何を食べたら良いかを考慮するに至りました。
 こうした段階を経て、今でもより有効性を発揮できるような方法を探っているところです。
──薬とサプリメントの違い、また先生が薬を卒業されたのは?
平良 抗生剤にしてもカビが出す物質を濃縮し取り出した薬ですし、コレステロール低下薬のスタチン系薬剤もカビからつくられます。
 自然界の成分を濃縮抽出できる技術を獲得したところから薬ができたわけですが、例えば、紅麹をそのまま摂取しても効果の作用点は薬と一緒でコレステロールが下がるわけです。ということは抽出濃縮するまでもない話で、紅麹を乾燥させてカプセルに入れてサプリメントとして摂取しても良いわけです。
 つまり、食と薬は分子的には同じように作用するなら、より有効なのは、安全性は薬よりはるかに高く、体質をも改善する“食”であろうということで、薬は卒業した形になっています。
 代謝は、うつや統合失調症など神経疾患にもかかわっています。がんやメタボリックシンドロームをはじめとする生活習慣病から、アレルギーや自己免疫疾患、神経疾患まで、代謝メカニズムを考慮しながら、東洋医学、サプリメント療法、点滴療法、そして栄養療法を統合して実施すると、病気の根本治療から予防医学、アンチエイジングにまで有効な医療が展開されるわけです。

アンチエイジングの要    ミトコンドリアの活性
代謝の重要性と アンチエイジング

平良 人は誰も加齢しますが、同じ年齢でも老化が進んだ人もいれば、ストップしている人もいます。アンチエイジングとは、できるだけ老化の進行を遅くして、病気になるのを防ぐことです。
 アンチエイジングの根本は、目に見えない細胞レベル、分子レベルでの若返りです。その細胞レベルでアンチエイジングの中心的な役割を果たしているのがミトコンドリアです。
 理想は、20代の体質を維持すること。ミトコンドリアの働きが良いと、代謝がよく回りますから、体質も維持、改善されます。太っていてなかなか痩せない、体が冷えるというのも、ミトコンドリアが働いてない証拠ですね。
 そうした太りやすい体質や冷え症、さらに、高血圧や糖尿病、がんやアルツハイマー病も、全てなりやすい体質というものがあり、ミトコンドリアの働きをアップさせることで体質を改善でき、病気を予防、治す可能性があり、そのようにしていきたいと思います。
 ミトコンドリアも加齢に伴ってその質や量が低下し、機能が低下していきますので、放置しているとどんどん老化が進んでしまいます。シミ、シワ、タルミ、疲れやすいなどから始まり、アンチエイジングの対極ともいえるがん、糖尿病などの病気が発生してきます。

エネルギー代謝の中枢    ミトコンドリアとは
    ──ATPの産生

平良 ミトコンドリアは細胞内に複数ある小器官で、よくカプセル状に描かれますが、実際には糸状の形状で、さかんに分裂増殖しダイナミックに動いている、それ自体が独立した生命体のような存在です(図1)。実際、ミトコンドリア自身、遺伝子(ミトコンドリアDNA)を持っていることが近年明らかになっています。
 ミトコンドリアの重要な働きはエネルギーの代謝、すなわち、食事から得られた糖質(グルコース)、脂肪(脂肪酸)、蛋白質(アミノ酸)を、呼吸から得られた酸素を使って、ATP(アデノシン三リン酸)というエネルギーを放出する物質を産生することです。
 ATPの産生には、
@酸素を使わないで、糖を分解しエネルギーをつくる解糖系と、
A酸素を使って、ATPをつくり出すミトコンドリア系があります(図2)。
 ミトコンドリア系では、解糖系で得られたピルビン酸がミトコンドリア内でアセチルCoA(コエンザイムA:補酵素A)になり、ミトコンドリア内のクエン酸(TCA)回路でATPを産生し、最終的にはCO2(二酸化炭素)になります(図2)。
 このように、ミトコンドリアは酸素を使って最終的にCO2を出すので、「細胞の呼吸装置」とも呼ばれています。
 ミトコンドリアではさらに、最終段階の電子伝達系で水素(プロトン:H+)を使って、大量のATPを産生します。この時、酸化的リン酸化といって、電子の処理に当たって活性酸素を発生させ、最終的には水になります(図2)。この水は代謝水といって、ミトコンドリアでの代謝がよく機能するほどつくられます。ですから、寝る前と起きたときに体重差がない人はミトコンドリアがうまく機能していないと推測できます。

 ミトコンドリアの劣化は     老化や病気を促進!

平良 このように酸素を使うミトコンドリアでは、活性酸素が生まれます。
 過剰な活性酸素は細胞を酸化障害し、老化や万病の元になるといわれます。質の良いミトコンドリアでは活性酸素の発生量は少ないのですが、劣化したミトコンドリアからは過剰に活性酸素が発生し、それが老化につながっていきます。
 生体は、SODをはじめとする活性酸素消去酵素など、活性酸素に対するさまざまな防御システムを備えています。
 しかし、ミトコンドリアが劣化するような体内環境、例えば有害金属をはじめ環境汚染物質の取り込みや、高血糖とか、あるいは抗酸化に働くビタミンやミネラルの不足──等々があると、活性酸素が過剰に産生され、当然、ミトコンドリアは劣化してきます。
 ミトコンドリアが劣化すると、代謝がうまく回らないので当然、細胞の新陳代謝は落ちてきます。
 ミトコンドリアの重要性は、生命維持に重要な組織や臓器ほど多く存在することからも分かります。ミトコンドリアは細胞内に平均約2000個あるといわれますが、特に卵子には大変多くのミトコンドリアが存在するといわれ、10ヶ月で3kgもの赤ちゃんを育てるのには、それだけ多くのエネルギーが必要であることを物語っています。
 この他、筋肉細胞(赤筋)、心臓、肝臓、腎臓、脳神経細胞などにもミトコンドリアが多く存在します。心臓が1日10万回休むことなく拍動し続けるのも、ミトコンドリアがエネルギーをたくさんつくるからです。自閉症、統合失調症、うつ、ADHD、さらにアルツハイマー病などの脳の病気が最近増えていますが、私はこれらの病気の背景にはミトコンドリアの活性化がうまくいっていないのではないかと思っています。
 ミトコンドリアの活性化は、どの疾患においてもとても重要なのです。
 また、ミトコンドリアは@エネルギーの産生以外にも、A熱の産生、Bアポトーシス(細胞自死)の誘導──などの重要な働きがあります。冷え症、発がんにはミトコンドリアの働きがうまく機能していないことが考えられています。

アンチエイジングの秘訣 ミトコンドリアを元気にする  食事・栄養摂取を中心に    鍵を握るのは生活習慣

平良 ミトコンドリア機能は@数の多さと、A質の良さの二つを合わせて高まります。
 ミトコンドリアの活性化には、まず栄養素。ビタミンB群を中心としたビタミン、ミトコンドリアを酸化の害から守るために代表的な抗酸化ビタミンであるビタミンA、C、E。その他に、αリポ酸、Lカルニチン、コエンザイムQ10。マグネシウム、鉄、カルシウムなどのミネラルも必要です。
 反対に、ミトコンドリアの働きを阻害するのがカロリー過剰、水銀、鉛などの有害金属や、ホルモンをかく乱する環境汚染物質、炎症、トランス脂肪酸などです。できるだけ取り込まないようにします。
 食事は、糖質や脂肪の摂りすぎには十分注意し、納豆などの発酵食品を必ず加え、野菜や果物を多く摂ることが大事です。
 野菜や果物などの植物性食品にはビタミンやミネラルの他にも、ポリフェノールなどさまざまな抗酸化に働く成分(ファイトケミカル)が含まれ、多種類複合的に摂ることで、体内の活性酸素消去酵素──SOD、カタラーゼ、グルタチオンペルオキシダーゼなどの酵素の働きを助けてくれます。
 運動はミトコンドリアの数を増やし機能も高めます。ミトコンドリアは酸素なしでは働けませんから有酸素運動はとても重要です。
 がんは酸素が嫌いです。嫌気性の解糖系で酸素を使わずエネルギーを取り込んで生きています。逆にいうと、酸素が入り込まない生活をしている、つまり有酸素運動をしていない、日頃から体を動かさないでじっとして酸素が足りない生活をしている人はがんになりやすいと思います。
 一方で、激しい運動は活性酸素を過剰に生成します。運動は適度にということもとても大切です。
 反対に、食べすぎ、飲みすぎ、睡眠不足は絶対に避けるべきです。忙しい病院の看護婦さんが働きづめに働いて、とうとう自分の病院のストレッチャーで仮眠したらそのまま亡くなってしまった例もあります。人間にとっていかに睡眠が大切かということです。
 結論としては、体に悪いものを避け、良いものを摂り、良いライフスタイルを続けていくこと。それがミトコンドリアを活性化して、長生きをする秘訣です。日ごろから、摂生に努めることです。私がまとめた10項目の健康習慣(抗酸化をもたらす10の健康習慣)は、ミトコンドリアを活性化し、アンチエイジングライフを築く良い指標になると思います(13頁・表2)。

注目される  レスベラトロール・活性乳酸

平良 他に、最近注目されているミトコンドリア活性化素材としては、レスベラトロールや活性乳酸があります。
 レスベラトロールは、ブドウの皮やピーナッツの薄皮に存在するポリフェノールの一種です。ブドウを皮ごと発酵させた赤ワインにも含まれています。
 レスベラトロールは長寿遺伝子の活性が有名ですが、活性酸素および活性酸素による炎症を取り除く働きがあり、がんを抑制する働きもあります。
 我々のレスベラトロールを用いた治療例では、関節リウマチ、クローン病、潰瘍性大腸炎、多発性硬化症とか自己免疫疾患等に功を奏しています。関節リウマチでは、コンドロイチンとかグルコサミンなど関節の軟骨成分とレスベラトロールの併用で軟骨破壊を食い止めています。
 乳酸(活性乳酸)も良い働きをしています。無酸素の解糖系で糖(グルコース)からつくられる乳酸はピルビン酸になって、ミトコンドリア内のTCAサイクルでATPをつくります(図2)。
 乳酸自身、疲労回復物質でエネルギーになります。乳酸は筋肉(白筋)でつくられますが、さらに再利用されて体の隅々までいきわたります。
 赤血球のヘモグロビンから酸素を引き抜いて酸素を全身隅々まで送る働きもあります。一部は心臓の中に入ってエネルギーをつくり、次に肝臓の中に入って再びエネルギーのグリコーゲンとなって、また筋肉に入ってグルグル回ります。このように乳酸にはリサイクルされて捨てるところがないという代謝のメカニズムがあります。
 乳酸はミトコンドリアを活性化する以外にも、成長ホルモンの分泌を高めます。成長ホルモンが出ると筋肉が増え、脂肪は減り、傷の治りが良くなり、心臓の機能が高まります。さらに精神安定、冷え改善、ダイエット効果などなどいろいろあります。
 特殊なところでは、育毛効果もあり、放射線防護効果も指摘されています。
 大腸がんの抑制にも働き、体内の水分調節にも関わり、冷え症の改善にも効果が期待できます。
 私も1日1回は摂っています。がんの患者さんにも試みています。