いのちをつなぐ食べもの──野草のパワーを いのちに活かして
自然の恵み豊かな里山 料理は食養の原点
食養料理・野草料理研究家 若杉友子さん
若杉ばあちゃんの強靭で、たおやかな心身 ──食べものを変えれば、体も、生き方も変わる
1937年生まれ、今年75歳の若杉友子さん。1995(平成7)年より京都府綾部市の山深い里で、築175年の古民家に住み、自給自足を実践されています。
自らは「ばあちゃん」と称されていますが、化粧水もつけないという素肌は日焼けこそせよツヤツヤ、豊かな黒髪に白髪はほとんどなく、新聞読むのにメガネは不要、縄跳びは100回、スクワット70回以上、きびきびした身のこなしと闊達自在な語り口…。
若杉さんは、「ばあちゃん」から得る語感とはいささか違う、古武士のような精悍さと観音様のような慈愛を併せもった希有な女性でした。
山里暮らしを基盤に料理教室や講演会で全国を駆け巡り、それでも疲れ知らず、病気知らずなのは、生まれつきの体質と思うかもしれませんが、「そうではなく、毎日口にしているものが本物だから健康なんです」と若杉さんは断言されます。
若杉さんの強靭にしてたおやかな心身を養ったのは、一汁一菜にこだわり、食材は日本原種の種から育てた穀物と野菜に野草という、日本の気候風土に根ざした食事でした。
こうした自身が実践する食生活により、余命2ヶ月といわれたご主人の末期がんが完治、さらに、花粉症、冷え性、不妊症、子供のアトピー等々、さまざまな健康トラブルの悩みを抱えた人たちを回復へと導かれています。
若杉さんに、いのちの原点に基づいた“食”の知恵をうかがいました。
若杉ばあちゃんの食養の原点 ──ばあちゃんの 滋味あふれる里山料理
──明け方早々に東京を発ち、綾部の山里に着いたのは午後をすっかり回っていました。迎えて下さったのは慈愛あふれる若杉おばあちゃんの笑顔と、滋味あふれる美味しい里山料理でした。
若杉 うちのラッキョウ、まだよく漬かってないけどまあ少し食べてみて。
──可愛いラッキョウですねえ。
若杉 農薬や肥料かけるから、バカでかく陰性になるの。うちは一切かけないから、身がキュッと陽性に締まってる。
──わあ、炊き込みご飯!
若杉 ヒジキとニンジンと乾シイタケ、油揚げしか入っとらん。味付けは醤油と味醂ちょこっと。どちらも本醸造。私は本物しか使わん。砂糖も一切使わない。味醂はちょこっとしか使わないので、1本あったら一人だから半年以上はもつ。
3分搗き玄米やけど餅米ちょっと入れて土鍋で炊いてるの。夏は玄米では重いから分搗き米。
本を出版したところ皆、土鍋生活で体が変わり、生き方が変わった人もいっぱいいるんよ。
土鍋はゆっくり火が通るので、澱粉がしっかりα化するので、消化も良く、冷めにくく、冷えても美味しい。
圧力鍋は高圧で玄米の脂質が酸化し、胸焼けも起こすので病気は治らない。冷めると固く、芯に固さがあり、美味しくありません。野菜の葉ものは溶けてしまいます。
高温・高圧で炊くよりもご飯、味噌汁、煮物は土鍋で炊いて食べるとどんな人も美味しい美味しいといわれます。熱伝導率の良いステンレスやアルミの金属鍋も同じよ。
──ナスの味噌汁も美味しい。
若杉 味噌汁毎日食べてる? 毎日食べなきゃダメよ。食べない日も味噌はとってね。うちの味噌は三年ものの天然醸造。速成醸造の味噌に浄血の力なし。
ナスは体を冷やすから妊娠してなければ7月8月はとっていいけれど、ごま油で右回り(時計回り)にゆっくり炒めていれる。そうすると、味噌汁もコックリとします。
その代わりいい油を使う。うちは車で15分くらいのところに住む娘(食養料理研究家の齊藤典加さん)が、ごまを作っていて、それを京都の山田製油、伝来の手作業で添加物を使わないので有名な油屋さんで絞ってもらってるの。
──このキュウリも自家栽培?
若杉 うちのキュウリ。こっちが浅漬け、こっちがちょっと古漬け。
このゴーヤはごま油で炒めて、お酒ちょっとたらして醤油だけ。何にもいろんなことしないのよ。苦みも生かす。この苦みが心臓の薬だし肝臓の薬になるの。
──油味噌も美味しいですね。
若杉 アザミとウワバミソウと半々。今(夏)採れる野草ね。夏に食べられる草があるのを皆知らない。だから私の料理教室はどこもキャンセル待ちでいっぱい。
──土瓶のお茶、遠路はるばる辿り着いた身に染み渡ります。いくらでも飲めてしまう。
若杉 今日は朝から大変だったあなたはどんどん飲んでちょうだい。このお茶は玄米を籾ごと煎って黒焼きにしたお茶で、気息奄々をおさめるのに最適、効果覿面なんよ。
──籾もいいんですか?
若杉 籾はケイ素を持ってるの。ケイ素は体に入ると、血液中にカルシウムイオンが増え、体温を上げて、骨の再生もしてくれる元素。だから貧血や冷え性、低体温の人はとても温まる。骨粗鬆症とか、いろんな人に牛乳飲むのをやめさせて、このお茶をすすめると、美味しいので本当に牛乳やめて、骨粗鬆症が治ったという人がいくらもいるのよ。
うちの主人は小細胞性肺がんで余命2ヶ月といわれたとき、これを飲んで6年間生き延びたの。
玄米、梅干しの黒焼きは昔は「起死回生の妙薬」と呼ばれ、実際、死にかかった病人に黒焼き玄米茶を飲ませると、水やお茶はダメでも、このお茶は受けつける。炭素のかたまりだからとても陽性。
──このおもてなしで、若杉おばあちゃんの食養の原点、概要がうかがえる思いです。
若杉 75歳になるけど、目は悪くない、歯もそんなに悪くない、耳もよう聞こえる。畑仕事してると「もう休みなよ。そんなに働いちゃダメだよ」と村の人が心配してくれるけど、「ここで汗を流すのが私の健康法」と答えるの。
1ヶ月の電気代は1100円からせいぜい1300円。クーラー、電子レンジはもちろん、冷蔵庫もない、テレビは息子が置いてくれてあるけど元線切って見たことない、竈に七輪、お風呂は五右衛門風呂。だから、かかるのは電灯代くらい。
水は山の水、食事は一汁一菜。米と塩と味噌、在来種で育てた野菜と家のまわりの野草。
買う生活はお金も出るしゴミも出る。ばあちゃんのやってることをひと言で表すなら「天産自給」。こういう生活をしていれば、お金もいらない、ゴミも出ない、大災害に遭っても何とか生き残ることができるかもね。
食養に野草をとりいれた
「天産自給」の生活
桜沢如一・福岡正信・
安藤昌益・出口王仁三郎
──先生が食に、食養や野草を取り入れるようになったのは?
若杉 結婚して静岡で子育てをしていたとき、川の掃除から始まり、手作り石鹸運動などいろんなボランティア活動するようになって、そんな中でマクロビオティックの桜沢如一先生の『新食養療法』を読んで、陰陽や食養に興味を持ち、勉強を始めたの。1989年(平成元年)には自然食品店や料理教室を開き、それが評判となって結構繁盛していたのよ。
野草のことを勉強するようになったのは、農作物の種が「F1種」という一代限りの交配種、いわば死の種ね。それが多くなっているのを知ったから。
そこから、人が手をかけなくても力強く根を張って伸びる野草のすごさを学ぶようになり、その頃、「自然農法(不耕起・無肥料・無農薬)」の福岡正信先生とのご縁があり、簡素な生活を目の当たりにして魂が揺さぶられ、「将来、自分もそういう生活を送るだろう」と直感したの。
実現したのが17年前。ここ(綾部)に移り住んだ直接のきっかけは安藤昌益の「米を作らずして買って喰う奴は、天下の大盗賊である」という言葉に我が身を恥じ、米作りから始めねばと、主人を静岡に残し、(今は近くに別所帯を持つ)娘と幼い孫三人と、家電製品一切持たず、雪深い田舎生活が始まったの。
綾部は、出口なおさんと王仁三郎さんの大本(教)の聖地。直系の子孫の方に「王仁三郎さんのところにはよく桜沢先生がいらっしゃっていた」と教わり、ご縁があったのね。今、綾部の料理教室は本来の直系である六代目出口春日さんと一緒に月1度開いてます。
あばら屋を直し直し手を入れながら、米を作り、野菜を作り、野草を摘み、山から薪を拾って風呂を沸かし、煮炊きし、暖を取る。大切な薪や山菜、野草をいただいている感謝として山の掃除はずっと続けています。
野草を食べているせいか、日が暮れて野草が休息する時間になると眠くなり、野草が目覚める日の出前に目覚め、今日は何をしようか布団の中でワクワク。お腹が空いたときが私の食事の時間。
料理教室や講演会があれば全国に出かけ、4〜5時間立ちっぱなしで料理を作り、健康指導。疲れるどころか人と会うのも楽しみだから、毎日楽しく感謝と感動の日々。
元気の元は食べもの──
身土不二・一物全体・一汁一菜
夫の末期がんも完治
若林 その私の元気を作っているのは、いのちのある食べもの。
主食の米・味噌汁・惣菜一品に漬物という一汁一菜は、粗末な食事という意味で使われることも多いけれど、昔からのこのシンプルな食事こそ日本人にとって基本の、究極にバランスの取れた食事。
子供時代は極貧に育ち、一汁一菜どころか一汁、あるいは一菜だけでご飯をかき込む食生活だったけど、それで家族中が健康だった。
肉好きの夫と結婚して、夫の口に合う料理は作ったけれど私はほとんど口にしなかった。夫は私の食養には理解も関心もなく、暴飲暴食で元気でいたけれど、9年前に「小細胞性肺がん」で余命2ヶ月と宣告され、食養を始めたの。
といっても特別なことはしない。肉、卵、牛乳、乳製品を一切やめ、日本型の一汁一菜。土鍋でじっくり炊いた玄米ご飯、飲む点滴ともいうべき味噌汁には浄血作用のある海藻をふんだんに入れ、一菜はヒジキを炊いたもの、切り干しダイコンを炊いたもの、野菜の煮物、キンピラゴボウといった昔ながらの和の惣菜。それに玄米の黒焼き茶、マコモ茶、梅干しの黒焼きを耳かき一杯程度。
この食事で半月ちょっと、レントゲンでがん細胞が縮んでいた。納得のいかない医者は体を開き、結果はレントゲン写真通り。
がんは肉食で血を汚すのと甘いものの冷えが関係する病気だから、動物食をやめ、黒焼きを飲んで塩気を利かせた一汁一菜の体温を上げる食事で進行を抑えられるとは思っていたけど、これほどの効果とは正直思っていなかった。改めて食養の威力に感嘆しましたね。
そんな食生活を続けて6年、夫は医者から「完治したので病院に来る必要はない」といわれた途端、元の暴飲暴食生活。私の直感通り、数ヶ月後、あっという間にがん(肝がん)が再発。
がんを抑える体を作るのも食事、がんが巣食う体を作るのも食事。一度改めた食生活を元に戻してはいけないのね。
夫は「今回は医者に任せる」と抗がん剤を打ち、それでも元気で好きなゴルフが楽しめ感謝の心で逝けたのは、小細胞性肺がん完治後も「飲んでいると調子がいい」と手放さなかった黒焼き茶のお陰と私は思ってます。
──いのちのない食べものと、 欧米の栄養学に洗脳され、 もたらされた日本人の不健康
若杉 戦後、「米を食べるとバカになる」、「日本人は栄養が足りないから小さい」とバカにされ、テレビが普及すると「蛋白質が足りないよ」というコマーシャルが日本中に流れ、肉はスタミナ食、卵は完全栄養食、牛乳はカルシウム源ともてはやされ、「1日33品目、2400kcalとりなさい」。
お人好しの日本人はすっかり洗脳され、気がついたら日本人の三大死因はがん、心臓病、脳卒中。糖尿病はゴロゴロ。
子供もアレルギーやがんに苦しみ、もっと深刻なのが低体温。昔の子供たちは平均37度あったのに、今は35〜36度。それでは細胞は活性化しない。骨はもろく、目は近視や弱視や乱視、歯も砂糖で溶かされてぐらぐら。
昔は貧乏人の子沢山、飽食の今、不妊に悩む人の多いこと。私の教室にも多くの方が相談にきます。便秘、貧血、低体温。子供を産む能力が衰えて、産んでも母乳が出ないから人工哺育。お乳は赤ちゃんの食べもの。まして牛乳は牛の子のもの。
豊葦原瑞穂の国の農耕民族は、穀物と野菜と少しの魚だけで足りていた。戦後を境に、お米からパン、主食のご飯が副食のおかず優位に逆転し、土地で採れた天然・自然の食べものが人工・加工食品、輸入食品へ代わり、天地がひっくり返って逆さまの逆転を経済成長と一緒にやってしまったからよ。
最近は血糖降下には炭水化物はとらないことまでいわれている。昔は糖尿病なんてなかったのに。
「御飯三口にお菜が一箸」って小笠原流作法が教えているけれど、32本の歯は、穀物を噛み砕く臼歯が20本、切歯の8本は野菜、豆、根菜や果物、残り4本の犬歯で魚貝や肉を引き裂くのに丁度いいようにできているのよ。
自然と離れ、自然に反したところから、体も心も蝕まれていく。計算重視の栄養学で、人の健康や生命は計れない。太陽、風、雨、土など自然のエネルギーをそのままに受け止めた元気な野菜や野草を取り入れることで、はじ
めて自身の生命力と結び付くのよ。
冷えからのトラブルが多い ──玄米菜食でも不健康なのは
若杉 玄米菜食をしている人の中にも元気のない人がいるでしょう。人それぞれ食歴や体質が違うから、玄米一辺倒、植物菜食なら何でも良いわけではないのよ。
身土不二。生まれ育った風土で育った食物は体に順応し適応──つまり地元でその季節にとれた旬の食べ物がいい。
一物全体。野菜は皮ごと、穀物は精白せず、根菜類は根も葉も丸ごといただくと、陰陽の調和がとれ、栄養素のバランスもとれ、生命力を丸ごと取り入れられる。
陰性・陽性。食べものには、体を冷やし、ゆるめる陰性の性質、体を温め、ひきしめてくれる陽性の性質がある。
こうした食べものの原則、性質を知って(図参照)、自分の体質と照らしていかないと本当の力は生まれない。例えば、玄米が重ければ分搗き米にするとか、陰性のトマト、セロリ、アスパラガス、ピーマンなどの外来野菜や夏野菜は、虚弱な人や冷え性の人は夏でも控えるとかがとても大切。
菜食の人に多いのが大豆蛋白のとり過ぎ。大豆は体を冷やすから、昔の人は陽性のニンジンやヒジキと一緒に炊いてとったものよ。冷奴なんて健康な人でも夏だけの食べ方。陰性や菜食の人が酢大豆なんて以ての外だし、とにかく今はおしなべて蛋白質が過剰。それは肉に限らず大豆でも同じ。
塩梅って言葉があるでしょう。塩気も一人一人違うから味加減も違う。味はその人が美味しいというのが一番。陽性の子供が塩気をとり過ぎると反動で甘い物や果物を欲しがる。反対に、低体温、貧血、冷え性の人は塩気が不足しているから、味噌、醤油、梅干し、黒ごま塩(表2)、沢庵など、塩気を効かせて陽性にすることが大事。
とにかく今、老若男女、冷え性、便秘、貧血で、元気のない人が多い。生命力のないF1作物、化学工業化し大量生産された野菜など、命のない野菜をいくら食べても元気にはなれないのよ。
農薬や化学肥料も怖いけど、バイオやF1の種はもっと怖い。日本人の体は化学物質で悲鳴を上げている。病気になって当たり前。ならなかったら奇跡だわね。基となる作物の種に生命力がないんだもの。そんなものを食べ続けて元気になるはずがない。
とりあえず、米や野菜は必ず在来の種で育ったものに限り、F1の怖さを知った頃から、野草料理を手がけるようになったの。
生命力あふれる 野草のパワーをとり込む
若杉 健康になりたかったら野草を食べるのが一番の早道。
野草は水一滴やらなくても、人が手をかけなくても、力強く根を張って伸びてくる。自力で命をつないでいる生命力は、そのまま私たちに力を与えてくれるのではないか。その生命力をいただくことで人間もはじめて元気が出るのではないかと思ったの。
そのことに気がついて、昔から伝わる自然療法を土台に、自分自身の実証を積み重ね、独学で食べて良い草、悪い草、灰汁(アク)の取り方など全部覚え、その知恵を広めるようになったの。集まってきてくれる仲間も「美味しい、美味しい」と食べてくれて、心も体も軽くなるって喜んでくれましたね。
ただし、野草は人間が育てた野菜と違って、精が強いからあまりガバガバ食べちゃダメ。アクを塩や火、灰を上手に使って抜くことも必要。
都会にだって、硬くて重いコンクリートをめくり上げれば野草がたくましく生えている。何処にいても、野草のパワーは取り込めるのよ。
──東京練馬の我が家には、野ブキ、ノビル、ヨモギ、ナズナ、ヨメナ、タンポポ、イノコヅチ、オオバコ、ドクダミ、スギナ…、夏は草むしりでけっこう大変です。
若杉 とても陰性の強いドクダミやスギナ以外は皆食べていいもの。ドクダミも膿出しとして手当て(外用)には使えるけれどね。
時には山野を歩いて、ツクシ、セリ、ウド、ノカンゾウ、クワ葉、ギボウシ、ベニハナボロギク、ホシノシズク、タデ、マコモタケ…、草摘みすれば身も心も洗われます。
数ある野草の中でもヨモギの力は本当にすごい。ヨモギはいろんな薬効成分を持っていて、昔の人は、それを手当てに使い、食用にもしていた。ヨモギは本当にすごい、摩訶不思議な草。
お米と地野菜、野草中心の粗食暮らしをしていると、血がきれいに完全燃焼して細胞と内臓が元気になり、体が変わり、生き方、考え方まで変わって、自分自身が生まれ変われるから、おもしろいよ。
草は、自分の体を救ってくれるし、困った人を助けることもできる。これからは自分のことだけ考えてやっていてもダメ。人のことも考えて、共感しながら生きていかなくちゃ。今、困っている人が世の中にいっぱいいる。そんなときは、草の力を伝えてあげて、お互いに助け合ってよ。そうすれば人にも喜ばれ、自分自身の心も体も喜びでいっぱいの人生が送れますよ。