永遠の健康食材「ショウガ」を究める

ショウガを、正しく知って、賢くとって、健康に!

大阪家庭薬協会専務理事・薬学博士 田部昌弘先生

空前のショウガブームの背景に、「現代人の低体温」 ──古来より蓄積された「経験知」が支えに

 ショウガを持ち歩き、何にでもショウガをかけて食べる「ジンジャラー」と呼ばれる人たちまで生み出している最近のショウガブーム。
 ショウガ博士こと、薬学博士の田部昌弘先生は、ブームの背景には「現代人の低体温」があるといわれます。
 田部先生は、大阪大学薬学部生薬学教室を卒業後、漢方薬メーカー、北海道薬科大学、京都大学薬学部大学院で生薬の研究を進め、「ショウガの生薬学的研究」で学位を取得。現在のショウガブームの一翼を担っている金時ショウガなど小ショウガの「抗コレステロール作用(体内合成阻害作用)」を突き止められたのも田部先生です。
 ブームはいずれ鎮静するもの。しかし、生薬から食材まで2千年以上もの長い間使われ続けているショウガは、ブームとは無縁のところで今後も使われ続け、人々の健康に寄与していくだろうと田部先生は話されています。
 ショウガの成分解明も進み、ショウガの体を温める成分「ジンゲロール」や「ショウガオール」の作用もいろいろわかってきました。
 しかし、各成分の各作用がわかったところで、それで食材の持つ健康効果が解明されたというのは早計で、例えばショウガの場合、約490あるといわれる全ての含有成分を調べても、その成分の2つ3つが合わさると、どういう作用に変化するかはわからない。それよりも「長い経験でわかってきたことを大切にすることの方が重要」とも田部先生はおっしゃっています。
 田部昌弘先生に、新たにわかってきた健康効果も含め、特性を生かした賢い使い方など、ショウガのあれこれを教えていただきました。

ショウガの起源と種類
熱帯産のショウガ 冷蔵庫保存はNO!

──普段使い慣れているショウガですが、最近のブームの中で、種類もいろいろあり、よくいわれる体を温める作用も生と乾燥ではずいぶん違うなど、初めて知ることも多く、改めてショウガ博士の田部先生にいろいろ教えていただきたいと思います。
田部 ショウガはインドから東南アジアを起源として世界に広がり、古来より根茎が生薬や食材として利用されています。
 インドの伝統医学「アーユルヴェーダ」では薬として幅広く使われ、インドから中国に入って漢方にも用いられるようになり、約2千年前に書かれた医学書『傷寒論』や薬物書『神農本草経』にはショウガの記述があります。
 日本には文献では3〜4世紀とありますが、3世紀前に渡来し、栽培も始まっていたことがわかっています。
 本来は多年生ですが、熱帯産のショウガは寒さに弱く、日本では
霜が降りる前に掘り起こし、種芋として昔はウロ(洞)、今は13℃くらいの低温倉庫に保存します。そうすると腐らない。ですから、ショウガを冷蔵庫に入れるのは間違い。湿らせた新聞紙で包んで、涼しいところに置いておくと鮮度が保てます。もしくはスライスして冷凍庫に入れる。
 保存した種芋は翌年の4月頃に植え付け、種芋から新しい根茎が分けつ(株分かれ)し、露地栽培では8〜9月頃に急激に分けつが進み、秋に収穫されます。
 それが新ショウガで、色白で瑞々しい感じがします(早生やハウス栽培で急成長させたものは5〜6月に出回る)。一方、保存用の種芋はヒネショウガとして新ショウガが出回るまで用いられ、表面は乾燥を防ぐためにコルク層で自衛するのでやや固くなり、色も茶褐色になります。生薬で用いられるのもヒネショウガです。また、葉ショウガ(芽ショウガ)は5〜6月頃に根茎に10cmばかりの茎をつけたものを収穫したもので、繊維や辛味が少なく、焼き魚に添えたり味噌をつけて食べたりするわけです。

大・中・小で 風味も作用も多少異なる

田部 大きさ別に、大・中・小に分類され、それぞれ品種があります(表1)。
 今、国内で生産され消費されているほとんどは大ショウガです。大ショウガは水分が多く、その分辛味性が弱く、繊維が少なく軟らかいので好まれるようになったのですね。
 日本ではもともと耐寒性が強く、早生、貯蔵が容易な小(〜中)ショウガが栽培されていました。薬用には小ショウガが用いられ、江戸末期から明治期にかけて小ショウガは高く評価され、海外輸出もされました。今では限られた地域でわずかに栽培しているだけとなりましたが、金時や谷中などの小ショウガは辛み成分も強く、大ショウガにはない成分や作用もあり、もっと見直されて欲しいものだと思っています。

金時・谷中など小ショウガの 抗コレステロール作用 ──血液ドロドロを防ぐ

──ショウガブームの背景には、金時ショウガの人気もあるようですね。
田部 金時、谷中の二つの小ショウガには、大ショウガにはほんのわずかしかない、「ジテルペン系」の成分が存在します(図1)。
 体内のコレステロールは、食物由来は約2〜3割で、ほとんどが主に肝臓で生合成されます。その生合成の機能をブロック(阻害)する作用が、小ショウガ系のジテルペン系成分にあり、私の学位論文がそれです。
 日本で従来用いられていた薬用ショウガは金時ショウガと考えられることから、金時ショウガを乾燥し、成分を調べてみました。
 重量が4分の1になった乾燥ショウガには、辛み成分や精油成分の他に、ショウガでは初めてジテルペン系の成分が見つかりました。
 このジテルペン系成分の構造は、コレステロール生合成阻害剤のロバスタチンやプラバスタチンとよく似ていることから(図1)、ラット肝臓におけるコレステロール生合成抑制を調べたところ、顕著な抑制効果がみられました。このことは、ショウガの薬能の一つである駆血作用、すなわち、活血作用を裏付けたものと考えます。
──いわゆる血液ドロドロを防いで、血液をサラサラにする効果ですね。

主役は、辛み成分の温め作用 生と乾燥ではこんなに違う
低体温を防ぎ、体を温める ──免疫・基礎代謝の向上等々 多彩な効能もここから

──血液ドロドロを防ぎサラサラにするということでは、ショウガの体を温める作用も大きく、ショウガブームの理由もこれが一番ですね。
田部 今の空前のショウガブームの背景に、現代人の低体温があるのは間違いないでしょう。
 日本人の平均体温は36・5℃前後とされていましたが、ここ10年で36℃を切る人が急増し、原因として、運動不足による筋力低下、体を冷やす食生活(生野菜や果物、白砂糖、脂肪、冷たい飲食物などのとり過ぎ)、エアコン完備など居住環境の変化、過労や加齢──等があげられています。
 "冷えは万病の元”といわれる通り、体が冷えるとさまざまな不調を引き起こします。数ある漢方薬の約7割にショウガが用いられているのも、体を温めるとそれだけ多くの症状を和らげ、本来の調子を取り戻すからです。
 実際に、体温が1℃下がると、
@免疫活性は30%下がり
A基礎代謝は約13%下がる
Bもう一つ、がん細胞は34〜35℃あたりで最も増殖しやすく、39〜40℃あたりになると大体死滅する──等といわれます。
 ショウガの効能には、新陳代謝の向上・痩せる・免疫能の向上・排毒・美肌・鎮痛・健胃──等々いろいろいわれていますが、その多くは体を温める作用によります。
 そうした低体温の弊害、体を温めることの意義がいろいろわかってきて、温め作用のある紅茶とショウガをドッキングさせた「ショウガ紅茶」がまずブームになり、さらに、NHK『ためしてガッテン』などで乾燥ショウガのパワーが注目され、ブームに拍車がかかったわけです。

「生姜」は温薬・「乾姜」は熱薬

田部 生薬の世界では昔から乾燥ショウガの方が温め作用の強いことがわかっています。
 中国漢方(中医)でショウガは
・生で使う「生姜(ショウキョウ)」(調味・解毒・発表=発汗・嘔吐・気鬱等)、
・乾燥させて使う「乾姜(カンキョウ)」(鎮痛、温中、止瀉=下痢止め等)があります。
 簡単にいうと、「生姜」は嘔吐の聖薬、発汗解熱の温薬となり、「乾姜」はさらに温める作用が強くなった熱薬となります。
──熱のある風邪によいという「葛根湯」は生のショウガ(生姜)が用いられているというわけですね。
田部 本来はそうなのですが、日本ではそこが問題なのです。
 日本薬局方では「生姜」は乾燥ショウガ、「乾姜」は蒸して乾燥させたものと定め、生のショウガは用いないのです。
 ですから、日本では葛根湯に乾燥ショウガを用いるので、発汗解熱作用が弱く、「葛根湯はあまり効かない」などといわれたりするのです。
 発汗を期待するなら、葛根湯エキス剤(顆粒や錠剤として販売)は生のショウガをすって入れた「ショウガ湯」で服用し、暖衣暖房など暖かくしておくとよいのです。
──漢方薬も今は、錠剤など気軽に使えて、市販で買えたりもしますのでよく性質を知ることが大切ですね。
田部 その通りです。
 副作用もあり、例えば熱性疾患に乾姜(本来の)が入っているものを与えるのは問題ですし、日本のエキス製剤中の生姜は乾姜と考えて用いるなど注意が必要です。

放熱の「ジンゲロール」と 熱産生の「ショウガオール」 ──キーポイントは乾燥!!

田部 ショウガの体を温める成分は、辛み成分の「ジンゲロール」と「ショウガオール」にあります。
 生のショウガにもともと含まれるジンゲロールは、乾燥や加熱によって、ジンゲロールより水分子が1個少ないショウガオールに変化します(図2)。
 この2つの辛味成分は、どちらも体を温める作用を持っていますが、温め方に違いがあります。
 ジンゲロールは末梢血管を拡げることで血流を促進し、足先や手先を温めます。体の深部を放熱させることで体表温度を上げるわけですが、最終的には熱を下げてしまいます。
 一方、ショウガオールは胃腸の壁を直接刺激して熱を産生し、内臓つまり体の深部で熱を発生させるのです。
──体を芯から温めるには、乾燥したショウガの方がよいわけですね。
田部 そういうことです。
 実際に、私が「乾燥ショウガと生では作用が少し違う」ということを助言し、乾燥ショウガ(番組ではウルトラしょうが)がテーマになったNHK『ためしてガッテン』で行った実験でも、生のショウガでは手指の温度はすぐに上がりますが、1時間後には体表温度も深部体温も下がり(図3上)、一方、乾燥ショウガは深部体温を維持したまま手指の温度が生ショウガ以上に上昇するのに加えて、持続効果も高いという結果が得られました(図3下)。
 ショウガオールは、乾燥や加熱時間が長いほど生成され、カラカラになると生のショウガに含まれるジンゲロールの約半分がショウガオールに変わります(図4)。
 乾燥ショウガにはジンゲロールとショウガオールの2つの成分が含まれているので、相互作用により、末端の体表温度も体の深部体温も温めてくれるのです(図5)。

まさに薬食同源 美味しく賢くとって健康に うまみでまさる乾燥ショウガ 香りでまさる生ショウガ

──私も早速乾燥ショウガを作りましたが、1片でも強烈に辛いですね。
田部 ショウガをカラカラに乾燥させると、水分の多い大ショウガで約10分の1(中・小ショウガで約3〜4分の1)になり、辛みも凝縮されるので、調理での使用量は生の10分の1を目安にします。
 冷えには、漢方薬の場合、日常的に悩まされている人には1日4gの乾燥ショウガを処方するのが一般的なので、それを目安にするとよいでしょう。
──『ためしてガッテン』では天日干しで1日とあったのですが、それでは生乾きでした。
田部 それは真夏の暑い時期の話です。生乾きだとカビが生えてくるので、とにかく早くカラカラにすることが大事です。
 乾燥ショウガは簡単に作れます(表2)。水分を飛ばせばよいだけなので、電子レンジでも作れます。ただし、電子レンジだと、スライスしたショウガはすぐに焦げたり黒焦げになって煙が出たりするので、焦げないように様子を見ながらすばやく乾燥することです。
 ショウガオールは不可逆性なので水に戻してもジンゲロールに戻ることはなく、スープや煮込み料理に用いると、水分を吸い込むと同時に凝縮されたうまみがサッと溶け出して、非常によい味を出します。乾燥ショウガは細胞壁が破壊されているので、うま味がすぐに出るのです。
──ショウガオールは、調理での加熱でも生成されますか。
田部 はい。加熱時間が長いほど生成されるので、「ショウガの炊き込みご飯」などはおすすめです。
──お寿司のガリなど、生のショウガは殺菌作用もいわれますね。
田部 ショウガの殺菌作用は研究が少なく、魚や肉にショウガを使うのは精油成分による臭い消し効果が大きい。ガリだと口直し。
 ショウガには、モノテルペン類やセスキテルペン類といった精油成分が含まれています。独特の香りを発するだけでなく、料理の味を引き立てる上で非常に大きな役割を果たします。
 肉や魚の臭い消しにショウガが広く用いられるのも、口の中に清涼感を与えるガリが必ず寿司に添えられるのも、精油成分があってこそです。
 イワシやサンマなど青魚をショウガと一緒に煮付けると、魚の生臭さが抜け、ショウガも美味しくいただけるのはよくご存知と思います。乾燥ショウガと煮付けても、ただ辛いだけの仕上がりになってしまいます。精油は、乾燥や熱によって蒸発したり分解されるので、乾燥ショウガに精油成分はわずかしか残っていないからです。
 和え物やそうめん、また温菜も含めて、夏の料理に針ショウガやすり下ろしショウガを上手に使うと、精油成分の清涼感とジンゲロールの発汗作用が功を奏します。ビールも本来は温性の飲み物で、夏はショウガのすり下ろしを入れて冷やさないで飲むとよいのです。
 野菜でも果物でもそうですが、ショウガも有効成分は皮の側に多いので、皮はむかないで使うことも大事なポイントです。
 漢方薬には体を温める生薬として・「ショウガ」(特に乾姜)・「朝鮮ニンジン」・「附子」があります。この中でショウガは、価格面でも流通面でも入手しやすく、食材としてさまざまな料理や飲み物にも利用できる、一番のものだと思います。
 「薬食同源」。健康を維持し病気にならないようにと使うときは食材として、病気になったときは自然治癒力をサポートしてくれるものとして、ショウガのさまざまな特性を知って、ショウガを賢く、美味しくとっていただきたと思います。