最近わかってきた老化・生活習慣病の原因物質「AGE(終末糖化産物)」とは

AGEの蓄積は、食生活から防ごう!

久留米大学医学部教授 山岸昌一先生

食品分野で注目されていた褐変物質が体の中で悪さをする

 最近、「AGE」という茶褐変の物質が、体内で「活性酸素」と並ぶ重要な老化物質であるということで注目されています。
 血管、皮膚、骨、目──等々、全身のさまざまな老化には、体内で糖と蛋白質が結びついてできる「AGE」(Advanced Glycation End-products終末糖化産物)が深く関わっていることが、最新の研究で明らかになってきたのです。
 糖と蛋白質が糖化反応を起こしてできるAGEは、これまで食品分野で注目されていました。
 糖(還元糖)とアミノ化合物(アミノ酸、ペプチド及び蛋白質)を加熱した時に、褐変物質(メラノイジン)を生み出すこの非酵素的糖化反応は、フランスの研究者ルイ・カミーユ・マイヤール(Louis Camille Maillard)の名前から「メイラード反応」と呼ばれ、食品の色づけ、香りづけ、うま味、抗酸化成分の生成、また逆に、酸化劣化等に関わっています。
 山岸昌一・久留米大学医学部教授は、「この反応が、加齢や高血糖が引き金になって体内で起きると、AGEという糖化蛋白が生成され、AGEとそれによる酸化ストレス(活性酸素によるさび)が、糖尿病、動脈硬化症、アルツハイマー病、がんなどの生活習慣病の発症や促進、老化に関わること」を報告されています(6頁図3)。
 このAGEは食生活、特に食べ方に気をつけることで増加が抑えられ、アンチエイジングにつながることがわかってきました。
 AGEや酸化をターゲットに、糖尿病や老化の研究をされている山岸先生に、AGEとはどういうものか、また、AGEの蓄積を防ぐ食生活についてお話をしていただきました。

老化・万病の元「AGE」 AGEが体内でできる仕組み ──高血糖・加齢が引き金

──AGEが体にできる仕組みからお教え願います。
山岸 非常に簡単に申しますと、血糖が高い状態が続きますと、血管から糖がしみ出して、体内の蛋白質(アミノ基)と結びついて、AGEが生成すると考えてよろしいかと思います。脂質などにも反応しますが、メインは蛋白質です。
 高血糖状態が長く続くとAGEは不可逆的に生成、蓄積されていき、一度生成されると極めてゆっくりにしか代謝されません(図1)。
 「高血糖の記憶」という概念があります。糖尿病で、ある程度の期間、高血糖にさらされますと、体がそれを「返せない借金」と認識・記憶してしまい、その後に、血糖コントロールの改善が図られても、血管合併症の進行を十分に抑制できないことが明らかになっています(図2)。一方、初期からの厳格な血糖管理は、血管合併症に対し、長期にわたって(正の)「遺産的効果」を及ぼすことも明らかにされています。
 この二つの現象は、AGEによって説明がつきます。
 ですから、糖尿病においては、早期から厳格に血糖をコントロールして、AGEの生成・蓄積を防ぐことが非常に重要になるということですね。
──AGEは高血糖だけではなく、加齢も引き金になりますか。
山岸 答えはイエスです。
 AGEは、糖にさらされている期間が長いほど生成されていきますから、高血糖ではなくて、通常の生理的な加齢でも、長く生きていればそれだけ多く蓄積されていきます。
 要は、長方形で示されるような面積で考えればよいと思います。血糖はあまりひどくないけれど、長く生きれば、掛け算の結果、出てくる数字は大きくなります。逆に、糖尿病になって5年ほどしか経っていなくても、普通の5倍、6倍の血糖であれば、数値は大きくなるということですね。
 そして、糖尿病は最も顕著に加齢(老化)が認められる、特徴的な病気と考えてよいかと思います。
──糖尿病は老化のモデルとなる・全身の老化病・と考えてよろしいわけですか。
山岸 まさしくその通りです。糖尿病では、健康で若々しく過ごせる「健康寿命」が男女とも約15年短いことが報告されています。
 昔は「風邪は万病の元」と申しましたが、今は「糖尿病は万病の元」と警告してよいかと思います。 そして、その万病を引き起こしているかなりの部分は、AGEという糖化現象で説明できるのではないかと思います。血管が硬くなったり、白内障になったり、骨がもろくなって骨折しやすくなったり、認知症になったりするのに、AGEは関係しています(図3)。

AGEが老化や万病を もたらすメカニズム ──酸化ストレスの産生亢進・ コラーゲンのAGE化

──どんなメカニズムでAGEは生活習慣病や老化へつながるのですか。
山岸 AGEは、AGEを認識する鍵穴(AGE受容体 : RAGE)にはまり込むことで、細胞をアタックして酸化や炎症反応を起こし、血管や組織の障害を引き起こします(図4・5)。また、酸化ストレスの産生亢進によっても、AGEや活性酸素などが活性化され、例えば糖尿病においては、それが血管合併症の発症、促進につながります。
 それ以外にも、AGEが血管や組織を障害するメカニズムがあります。
 細胞を取り囲んでいるコラーゲンやラミニンなどの細胞外基質にAGEが結合してAGE化され、物理化学的に硬化を起こすということです。
 例えば、血管や関節のコラーゲンにAGEがペタペタくっつくことによって血管が硬くなって弾力を失い、動脈硬化が起こったり、関節の可動域が障害されたり、あるいは、骨の基質となるコラーゲンがAGE化されると骨が茶色くなりもろくなったり、皮膚のコラーゲンがAGE化されることによってシミやタルミの原因になったり──等々、老化を引き起こします。
 コラーゲンは、三つ編みのようにしなやかな架橋形成をとって、細胞の機能や恒常性の維持、すなわち、人間が健康に生きていく上で重要な役割を演じています。
 ところが、AGE化などによりねじ曲がった、いわば病的な架橋になりますと、当然硬化します。コラーゲンは細胞が休むベッドのような役割もしていますので、病的架橋になると細胞は居心地が悪くなり、機能障害が起こってきます。
 例えば、血管においては、そこにコレステロールが沈着し、酸化されやすくなったり、糖化されやすくなったりして、動脈硬化を促進する。あるいは、生体内の蛋白が、ねじ曲がったコラーゲンの網に引っかかりますと、これが抗原になって、自己免疫疾患が起こるということもあります。
 このように、日頃からAGEをためないような食習慣や運動習慣を身につけることは、健康生活を送る上では非常に大事になります。

最大のAGE対策は、 血糖値を抑える食習慣 規則正しい食習慣で よく噛んで楽しく

山岸 AGEを抑えるには、血糖値を抑えることが最大のポイントになります。空腹時だけではなく食後の高血糖が特に要注意です。血糖が急激に上がると、それだけ戻るのに時間がかかり、この間に糖化反応が起こってきます。
 ですから、朝食は抜かない、間食はしない、食事は三度三度規則正しく、腹八〜七分目でカロリーは抑え、よく噛んでゆっくり食すことが大事です(表)。
 朝食を抜いてしまいますと、昼食時に一気に栄養を吸収してしまいますので、どうしても血糖値が高くなってしまいます。
 間食をとりますと、食事で上がった血糖が下がり切らないうちに甘いものが入ってきて血糖が上がり、一日中だらだらと血糖が高い状況が続き、AGEがたまりやすくなります。特に女性は、AGEで血管がボロボロになりやすいので、甘味をとるなら食後のデザートでとるのがおすすめです。
 ゆっくり食べることは非常に重要です。消化吸収もゆっくりになり、満腹感も出ますので、過食や急激な血糖の上昇を防ぐことができます。単身赴任の男性が一人寂しく、5分くらいで食事を済ませるなどは、どうしても食べすぎて急激に血糖が上がり、栄養バランスも悪くなりがちです。私はゆっくり食事できない患者さんには「箸を少し置きながら食べなさい」とアドバイスしています。早食いの人は箸を全く置かずに食べ終わってしまいます。一〜二度箸を置くだけでも、かなりゆっくりと食べられる効果があると思います。

高食物繊維・低GI値の 野菜・海草から先に

山岸 主食となるご飯やパンなどの炭水化物を真っ先に食しますと、血糖値が上がりやすくなります。
 ご飯を食す前に、食物繊維が多く、GI値の低い野菜や海草類などから先に食しますと、食べものが胃から腸に送られるのが遅くなり、腸から糖が吸収されるのがゆっくりになって、血糖が上がりにくくなります。
 寒天や蒟蒻の類ではコレステロールの吸収も抑えられますので、AGEという観点だけではなく、脂質異常症なども管理できますから非常によいと思います。ただし、寒天などはとりすぎますと、下痢などを起こしやすくなりますので適量にということですね。
 GI値とは、体の中に食べものが入って糖に変わるスピードを表す値です。精白度の高いもの、消化吸収しやすいものはGI値が高くなり、反対に、野菜など繊維の多いものは比較的消化吸収が遅く、GI値が低くなり、血糖が上がりにくいということです。
 そうした観点から申しますと、白米よりは胚芽米、分搗米、玄米、白パンよりも全粒粉パンなどがすすめられます。
 野菜類を先に食す習慣をつけますと自ずと、野菜の摂取量が多くなり、ご飯や肉などの摂取量は控えめになりますので、糖化予防だけでなく、ダイエット効果も期待されます。
──野菜サラダはドレッシングやマヨネーズとかをかけますね。
山岸 量によってはかなりのカロリーになります。小さじ一杯でご飯半膳か一膳分くらいに相当するカロリーがあるかもしれません。
 できればそのままか、薄塩や少しの酢で調味した浅漬け、酢の物、蒸し野菜、あるいは和え物などで召し上がるとよいかと思います。
 油を使うなら、オリーブ油やごま油を風味づけに少量用いる程度にしますと、酢や油は食べものを腸に送らせるのを遅くする働きがありますのでおすすめできます。
 煮物は、調味料の砂糖に注意していただきたいですね。GI値の低い味醂を少量用いるとよいかもしれません。
 また、果糖(フルクトース)はGI値は低いのですが、私どものAGEの観点からは、ブドウ糖よりもフルクトースの方がAGEを10倍くらいつくりやすく、これも要注意です。フルクトースの多い「コーンシロップ」は非常に廉価なことから、米国では多くのメーカーが甘味料に使うようになって20年くらい経ちますが、比例的に肥満が増えて心筋梗塞や血管障害も増えています。
──野菜の量はどのくらいが適当ですか。
山岸 野菜は1日350gということですので、1食あたり100g強を目安にとられるとよいと思います。
 旬の野菜や果物、海草を青、緑、赤、黄色とバランスよくとれば、抗酸化物質も豊富ですし、それも抗老化につながるかと思います。
 ジュースなどよりは丸ごととられた方が、食物繊維も多く、よく噛む観点からもすすめられます。

AGE含有食品・高脂肪食・ ファストフードは控える

──焦げや褐変物質が入った食品はいかがですか。
山岸 AGEを多く含む食品はファストフードに多く、食品を高温で焼いたり、揚げたりすることによってつくられることが知られています。
 日本での検討は行われていませんが、欧米の臨床研究では3ヶ月〜半年くらいの期間、AGE含有食品を食べた人の方が臓器障害や病気が進行しやすいというデータがあります。昔は食品中のAGEは消化吸収されないと考えられていましたが、今は7%程度吸収されるといわれています(図6)。
 動物性脂肪を多く含み、高温で揚げたり焼いたりして焼き目のつくようなものを沢山食べるのは、アクリルアミドなどの悪い成分もつくられますので、健康によくないといえます。
 さらに、ファストフード店のハンバーガーでは、どんなにゆっくり食べようとしても5分もかかりません。それを甘いジュースやコーラで流し込むのですから、体によいわけはありません。
 ただし、同じ褐変物質でも味噌や醤油など、日本人が古くから食べてきたものにはかえって機能性成分があるともいわれています。コーヒーなども焙煎しておりますのでAGEを含むことは事実ですが、コーヒーを1日5杯以上飲む人は糖尿病になりにくいという報告もございます。
 ですから、AGEでも組織障害性の強いものと弱いものがあると考えられます。AGEという一面だけから、ある程度機能性を持った食品の是非を論じるのは難しいと思います。

全身老化病「糖尿病」の 急増・蔓延から 生活習慣・食生活を考える

──血糖を下げるには、脂質制限よりも、糖質制限の方が効果的という意見はいかがですか。
山岸 低インスリンダイエット、アトキンズダイエットというのがあります。糖質をとらないと確かに体重増加作用は軽度で、血糖がよく下がることは事実です。
 では糖質を食べない分、何を食べるかと申しますと、ステーキなどを食べてコレステロールが上がるんですね。こうしたダイエットは、短期では糖を絞った方が痩せて見かけはよさそうですが、長期経過を観察した研究では、ステーキを食べ続けた方が心筋梗塞などで多く亡くなっています。
 肉などは低GI値食品ですが、GI値が低いからよい、高いからダメということではないのですね。やはりトータルでバランスよく考えないといけない。
 AGEが怖い、糖さえとらなければ全てのリスクから血管を守れる、老化が予防できると考えるのは短絡的で、糖質をとらない分、コレステロールが入ればコレステロールから血管は障害され、酸化コレステロールは同時に糖化も受けることになります。
 戦後、日本で糖尿病が30倍にもなった背景には、一つには便利になって動かなくなり、エネルギーを使わなくなったことと、もう一つは食べもの。これは必ずしも大食いではなく(日本人成人男性の摂取カロリーはむしろ減っているくらいです)、食べものの質がかなり変わってきたことが大きいと思います。
 主食のお米や、大豆などの良質の蛋白源が減り、油、特に動物性脂肪は戦後約4倍にもなっています。また、間食が多く、ソフトドリンクなど甘味の強い習慣性のある飲みものが手軽に手に入るようになったこと。そうしたさまざまな要因が糖尿病の蔓延につながっていると思います。
 食事は満遍なくバランスよく、会話も楽しみながらゆっくり、体によいものをという観点で、トータルに考えることが大切なことだと思います。