血管年齢改善生活で 血管年齢を下げ、若返らせよう

IR健康管理システム 入野医院内科部長 垣内義亨先生

血管年齢を知ろう!

 最近「血管年齢」という言葉がよく聞かれるようになりました。血管年齢とは、血管が実年齢よりどれだけ老化しているかを示す指標で、実年齢より高いほど血管の老化、すなわち動脈硬化が進んでいることになります。
 自分の血管年齢を知ることは、死因の第2位・第3位を占め、突然死にもつながる心臓病(心筋梗塞や狭心症)や脳卒中(脳梗塞や脳出血)などを未然に防ぐことができ、その重要性は以前からいわれていました。
 しかし、少し前まで血管内部の状態を正確に調べる方法はなく、最近になって、「血圧脈波検査」、「頸動脈エコー検査」、さらに「CAVI(キャビ:心臓足首血管指数)」という検査法で動脈硬化の進行度が簡単にわかるようになり、中でも、CAVIは精度の高さと血管年齢を測定できることで注目を集めています。
 血管年齢は自分でも、健診結果(高血圧・糖尿病・高脂血症(脂質異常症)・肥満度指数等の数値)、生活習慣(食事・運動・ストレス・生活のリズム等)、遺伝的素因などのチェックでおおまかには推定できるといわれます。
 そこで、「血管年齢自己算定法」(13頁表5)を監修され、『「体に悪いこと」してる人の健康術』、『突然死─働きすぎるあなたの命を守る本』、『小さな小さな大病の前兆─このサインを見落とすな』などの著書で、不健康な時代を健康に生きる知恵を軽妙洒脱かつ核心をついて語られる垣内義亨先生に、血管年齢を下げ、若返らせる生活術をうかがいました。

血管年齢と動脈硬化
10歳以上高いと相当危険

垣内 血管年齢は動脈硬化の状態を知る目安とされ、血管年齢が実年齢に比べて大幅に高いと、動脈硬化が進んで心臓病や脳卒中が起こりやすくなります。
 血管が年齢相応に老化するのはあまり問題はありませんが、実年齢を10歳以上も上回ると、心臓病や脳卒中などの危険度が非常に高まり、最近、そういう人が増えてきているといわれます。
 日本人の死因は、第1位がガンですが、第2位の心臓病(心筋梗塞や狭心症)と第3位の脳卒中(脳梗塞や脳出血)を合わせると、ガンに匹敵する死亡率となり、これらの病気には共通して動脈硬化が潜んでいます。動脈硬化は自覚症状がほとんどないまま進行するので、心臓病や脳卒中の発作は突然起こることが多く、最悪の場合は突然死(症状が出現してから24時間以内に死に至ること)を引き起こします。
 動脈とは本来、柔軟で弾力に富んだものですが、加齢とともに弾力を失い、硬くなっていきます。これが動脈硬化で、動脈硬化が起きると、血管壁が硬くなり、肥厚し、血液の通り道が狭まるために血流が悪くなり、酸素や栄養素が全身に十分に行き渡らなくなり、内臓機能が低下したり、疲れやすくなったり、シミやシワが増えたりして老いを実感するわけです。
 さらに動脈硬化が進むと血管内壁が傷つきやすくなり、つまったり破れやすくなり、それが心臓で起これば心筋梗塞、脳で起これば脳梗塞を引き起こすわけです。

脂質異常症と血管年齢 ──コレステロール・ LH比・中性脂肪

垣内 血液中にはコレステロールや中性脂肪などの脂肪が混ざり、まるで血液に生クリームを混ぜたようなトロトロとした状態で体中を回っています。そうした濃度の濃い血液が、動脈硬化でアテローム(粥腫)ができて狭くなった血管の中をスムーズに流れるわけがないのです。
 動脈硬化にはコレステロールが関与しますが、コレステロール自体はホルモンや細胞膜の原料になり、ビタミンDや胆汁酸の材料にもなる、体にとっては必要不可欠なものです。
 2007年、日本動脈硬化学会は「高脂血症」を「脂質異常症」という名に変更し、診断基準から総コレステロール値を外し、LDLコレステロール値、HDLコレステロール値、中性脂肪値を基に診断するようになりました(表1)。
 悪玉といわれるLDLコレステロールは、肝臓から全身の細胞へコレステロールを運び、血管壁にはりついて血管内外の膜をつくるわけですが、LDLが悪玉といわれるのは、増えすぎると血管に必要以上に沈着して、活性酸素や高血糖などの関与によって変性コレステロールとなり、それが血管をつまらせる原因となるアテロームを形成するからです。
 一方、善玉と呼ばれるHDLコレステロールは、血管壁に沈着したLDLコレステロールを肝臓に回収する働きをするので、HDLコレステロールが多いとそれだけ動脈硬化の危険が低下するわけです。
 最近は、LDLとHDLコレステロールの比(LH比)も注目されています。すなわち、LDLコレステロール値をHDLコレステロール値で割って2・0以上だと心筋梗塞になる危険が高く、さらに糖尿病や高血圧が併発している場合は1・5以上が危険といわれています(表1)。LH比でみると、悪玉も善玉も基準値以内でも要注意ということもあり得るわけです。
 中性脂肪もエネルギー源として必要不可欠な成分で、普段は皮下や脂肪細胞に蓄積されています。過剰になると、肥満や内臓脂肪(メタボリックシンドローム)や脂肪肝の引き金になり、また、善玉コレステロールを減らし、悪玉コレステロールを増やします。
 また、動脈硬化の増悪因子となる糖尿病にも悪影響します。糖尿病体質の人が中性脂肪が高いと糖の処理能力が低下して、膵臓のランゲルハンス島からのインスリンの分泌が抑えられる。つまり、中性脂肪は分泌されたインスリンの働きをブロックしてしまうわけです。
 血管年齢を下げるには、血液中の善玉コレステロールを増やし、悪玉コレステロールや中性脂肪を減らすことが鍵となるわけですね。

血管年齢と糖尿病

垣内 糖尿病は、血管壁を直接傷害し、血管の透過性を高めたり、酸素運搬を障害したりするので、血管の中で血小板が凝集しやすくなり、動脈硬化を促進します。
 突然死を引き起こす心筋梗塞や脳梗塞の背後には、糖尿病が隠されている場合が非常に多く、心臓病などの合併症を引き起こす糖尿病は、突然死を誘発する一大要因として何より注意する必要があります。
 高血圧と血管年齢
       ──脈圧
垣内 高血圧は、血管年齢と動脈硬化に深く関連しており、次のような悪循環を招きます。
 血圧が高いと、血管に常時負荷がかかるために、血管は傷みやすくなり、それを守ろうとして血管は肥厚します。また、動脈硬化になると末梢血管抵抗が増大し、そうすると心臓はより強い圧力をかけて多くの血液を全身に送ろうとするために、血管壁が強く圧迫されて血圧が高くなり、血圧が高くなって血管の内壁が損傷すると、コレステロールなどがたまって動脈硬化が悪化するというわけです。
 高血圧は、最大(収縮期)血圧140ミリ以上、最小(拡張期)血圧90ミリ以上のいずれかに当てはまる場合を指します(表2)が、最大血圧と最小血圧の差を「脈圧」といって、脈圧が大きいほど動脈硬化が進行し、心筋梗塞などの危険性が高まることがわかってきました。最大血圧が140ミリ以上、脈圧が65ミリ以上では心臓病や脳卒中の発作を起こす危険性が極めて高く、また、脈圧の大きい人ほど生存率が低くなることもわかってきています(図)。
 また、最大血圧だけが高い人は太い血管の動脈硬化が深刻で、心筋梗塞が発生しやすいことなどがわかっています。

血管年齢を測定する

    ──注目の「CAVI」
垣内 健康長寿をめざすには、血管年齢を知ることが重要で、例えば、35歳の男性の場合、高血圧がない人の平均余命が41・5年あるのに対して、高血圧の人は余命は25年しかないというデータもあります。特に脂質異常や高血糖、高血圧がある人は医療機関で検査を受けて血管年齢を正確に知ることをすすめます。
 最近まで、血管内部の状態を、体に負担をかけずに正確に調べる方法はありませんでしたが、最近はPWV、頸動脈エコー検査、CAVIで動脈硬化の進行度や血管年齢がわかるようになりました(表3)。
 「PWV(血圧脈波検査)」は心臓から押し出された血液の拍動(脈波)が、血管を通じて手足に届くまでの速度を測ります。血管が硬いほど速くなるので動脈硬化の程度が判定できるとされています。
 「頸動脈エコー検査」は、首に超音波を当てて頸動脈を画像で示すことで、脳の血管のつまりぐあいを判定する方法です。
 「CAVI(キャビ・写真)」という、心臓足首血管指数の英語の頭文字をとった最新の検査法は、動脈硬化の進行度、血管年齢が正確にわかるということで最近注目されています。両腕と両足首にセンサー(カフ)をつけて血圧や脈波などを測る簡単な検査法で、体の負担は全くなく、ベッドに5分程度横になっているだけで終わります。健康保険適用で、一回数千円程度で検査が可能です。
 健診結果や生活スタイルなどから、自分で大まかに推定することもできます(13頁表5)。この算定表で血管年齢が10歳以上も実年齢を上回っている場合は動脈硬化がかなり進行しており、脳卒中や心筋梗塞を起こす危険も高いと考えて、医療機関で正確な血管年齢を調べてもらうことをすすめます。

血管年齢を改善し、 若さを保つ生活術
魚菜豆食の日本食で少食・ よく噛んで
──高塩分にはこうして対処

垣内 血管年齢を改善し、若さを維持するには、まずは食生活。基本は、カロリーのとりすぎを改め、栄養バランスの取れた食事をとる。それにはやはり、昔ながらの日本食がすすめられます。
 主食はお米のご飯、主菜は魚を中心に、野菜の具が沢山の味噌汁、納豆や豆腐の大豆製品、それに、浅漬けやおひたしなどの組み合わせは、蛋白質のバランスも非常によく、エネルギー源の燃焼や細胞の新陳代謝に必須のビタミンやミネラル、酵素活性や脂質の酸化を防ぐ抗酸化成分、コレステロールの排泄を促し吸収を妨げる食物繊維も十分に摂取できます。
 食べすぎを防ぐには、一口ごとに箸を置き20〜30回噛む。満腹中枢が速やかに働いて無理なく食べすぎが防げます。ご飯を食べる前に、浅漬けやおひたし、味噌汁などをとると、主食の量を自然に減らせます。水溶性食物繊維の多い海藻やキノコは腹持ちがよいので、摂取カロリーを減らすのにも一役買います。
 大豆食品は動脈硬化予防に働く成分が多く、努めてとるようにしましょう(表4参照)。
 ただし、日本食の欠点は高塩分になりやすいこと。酢や香辛料をうまく使うと薄味でも美味しくいただけ、中でも酢は塩分を減らす最高の調味料で、エネルギー代謝、アテロームコレステロールの代謝にも役立ちます。すだち、ゆず、レモンなどを利用すれば香りにより味わいも深まります。カリウムの多い野菜や果物も塩分排泄に役立ちます。
 とにかく日常、肉食偏重、高脂肪食、高カロリー食、アルコールの多量摂取、高糖質食のいずれかをしていると、中性脂肪が増えて、高血圧、高血糖、脂質異常症、ひいては動脈硬化を引き起こしてしまうわけです。
 そしてドカ食いを防ぐ上でも、朝食はしっかり摂って1日3食を心がけることです。

脂質の摂取は これに気をつけよう

垣内 肉の脂肪は、血液中のコレステロールを増やす飽和脂肪酸を多く含んでいるのに対し、魚はコレステロールを低下させる多価不飽和脂肪酸「α─リノレン酸」が多く、血管を拡げたり、血栓をできにくくしたり、血管の若さを保ち、動脈硬化を防いでくれます。
 α─リノレン酸は植物油では亜麻仁油や紫蘇油やエゴマ油などに多く、これらを加熱せずに1日小さじ1〜2杯とるとよいでしょう。動脈硬化予防に期待のできる成分の多い納豆にかけてとれば食べやすく、効果もアップします。
 動脈硬化には4つ足の動物性脂肪の他に、トランス脂肪酸、リノール酸の摂りすぎにも要注意です。
 リノール酸は必須脂肪酸ですが摂りすぎると炎症や血栓の形成に働き、また、マーガリンやショートニングに多いトランス脂肪酸は植物油に水素添加して固形化した人工油で、動脈硬化を促進します。スナック菓子や揚げ物などの加工食に多く、摂らないのがベスト。
 酸化劣化した油がよろしくないのはもちろんのことです。

寒さ・冷えは大敵

垣内 突然死は冬に多く、寒さや冷えは大敵です。体が冷えると、血管が緊張して細くなり、血行が悪くなります。最近は冷房で夏でも冷えている人が多く、要注意です。
 冷え込むときは鍋物。お酒は、冷酒よりも熱燗、ウイスキーや焼酎はお湯割りで、鍋を囲んでほどほどのホット酒で楽しいコミュニケーションをとればストレス解消にもなります。

ウォーキング中心に適度な運動 ──足裏・ふくらはぎほぐし

垣内 適度な運動は善玉コレステロールを増やし、肥満や高血圧の予防にもなります。
 誰でもできる手軽な運動としてウォーキングがありますが、漫然と歩くのではなく、@膝をしっかり伸ばし、Aカカトから着地してつま先へと体重を移動させ、B腕を前後に大きく振り、胸を張って歩く。こういう歩き方をしばらく続けると少し汗ばんできます。そうなると心肺機能も高まり、脳に送られる血液量も多くなって脳も活性化します。1日30分は歩きたいものです。
 デスクワークの多い人は、仕事しながら時々、机の横木を利用して足裏を刺激したり、反対側の膝でふくらはぎをこすり上げたりします。足裏にはツボが集中していますし、ふくらはぎは第二の心臓といわれ、ポンプ効果で血液を心臓に押し戻してくれます。
 足をよく動かしたり、足への適度な刺激は、足の血行が良くなり、心臓への負担を減らし、脳も活性化されます。

笑いこそ百薬の長 ──ストレスの解消が一番

垣内 食べすぎ、飲みすぎはストレスからくることも多く、心の問題でもあるのです。ストレスが血管に与える障害は多大なものがあります。
 笑いは、緊張やストレスを解消して明るい気持ちをつくり出してくれます。さらに、お腹から大声を出して笑うと呼吸は深くなり、酸素の供給が増え、心臓の負担も軽くなります。さらに、深呼吸は腹筋運動にもなり、内臓すべてに良い影響を与える。まさに笑いは百薬の長≠ネのです。
 冷笑は最悪。心が後ろ向きに薄暗くなります。
 笑えるチャンスを利用して「ワッハッハ」と笑う。あまりおもしろくない映画や漫才でも、積極的に笑ってやろうという心がまえが大切です。
 あまり神経質に健康生活にこだわるのもストレスの元になります。基本がしっかりしていれば、たまには羽目を外して上手に息を抜くのもストレス解消になります。