全身病とリンクする「歯周病」 その根本原因は食生活

食生活を改善すれば 歯も全身も健康に!!

丸橋全人歯科院長 良い歯の会主宰 丸橋 賢先生

「全人歯科」──健やかな歯と身心のための治療理念 「良い歯の会」──健康な歯のための食事改善指導30年

 1981年にスタートし、今年30周年を迎えた「良い歯の会」は、歯周病の根本的解決には食事改善の指導しかない≠ニいう、治療における子細な観察から得た丸橋賢先生の確信から生まれました。
 毎月第2土曜日に開かれる定例会には全国から人が集まり、歯周病はもとより、虫歯、歯列不正、咬合異常、ひいては全身病の改善・予防に大きな成果をあげています。2006年には農水省が提唱し、食育推進協議会が主催する「地域に根ざした食育コンクール2006」で特別賞・審査委員会奨励賞を受賞しました。
 今でこそ歯周病は生活習慣病に位置づけられていますが(厚生省・1996年)、丸橋先生はそれより20年も前に歯周病が生活由来疾患、特に、食生活由来の疾患であることを見抜かれました。
 最新の理論と方法に従って治療をしても、大半は治らない歯周病に対して、丸橋先生は歯周病をゼロから見つめ直し、患者さんの食生活に注目。調査したところ、患者さんの多くに、ファストフード多食などによる、高脂肪・高砂糖・低微量栄養素という共通性がみられ、貧血や高脂血症、糖尿病などの全身症状を伴うケースも多いことが明らかになりました。
 治療に食生活の改善を取り入れてからは、抜け落ちる寸前の歯が元気になると同時に、体や精神までまさに全人的に元気になり、患者さんのいのち≠サのものがよみがえるようになったのです。
 丸橋先生に、歯周病と食生活、歯と全身の健康との関連についてお話をお聞きしました。

歯周病、諦めないで 急増する歯周病 ──歯を支える組織が破壊
歯の喪失原因トップ!

丸橋 歯周病人口は年々増え、今や、小学生でさえも半数に及ぶ勢いで、36〜64歳では約80%が罹っているとされ(図1参照)、虫歯を抜いて人が歯を失う最大の原因となっています。
 歯周病は、歯ぐきの奥の、歯を支えて、固定しているあごの骨「歯槽骨」が溶けていく病気です。初期は歯ぐきの一番上の「辺縁歯肉」だけが腫れる症状(歯肉炎)がみられますが、進行とともに歯槽骨の吸収が進み(歯周炎)、最後には歯が抜け落ちてしまいます(図2)。

諦めないで!! 歯槽骨は再生する

丸橋 歯周病のほとんどは自覚症状がないまま進行し、歯がグラついておかしいと気づいた時はかなり重症です(表1)。重度になると治りにくく、歯根の先端よりさらに先まで歯槽骨が広範囲に吸収されてしまっている場合は、抜歯しかないといわれます。
 しかし、私は「諦めないで、
1本でも多く自分の歯を守ってほしい」と強く訴えたい。歯は、たった1本でも全身の健康を左右するのです。
 歯周病とは、歯根をしっかりと支えている歯槽骨が溶ける病気ですが、もともと骨は溶けたがっているのではなく、生きたがっているのです。その望みに沿った条件づくりを行い、生命力のある元気な状態に導けば、骨は回復していくのです(歯槽骨の再生。写真1)。
 私のところには「抜くしかない」と宣告された重度の歯周病の方が日本全国から来られ、そのほとんどが抜かなくても回復しています。

歯周病は身体の赤信号
原因はプラークだけではない 生命力の衰え! ──常在菌と免疫力のアンバランス

丸橋 そうした現在まで約600
0人を越える歯周病の患者さんを見て痛感するのは、ブラッシングをしっかりしていても治らない歯周病が確実に増えていること。
 従来、歯周病の原因はプラーク(歯垢)とされてきました。プラークとは、食べかすに口腔内細菌が増殖して糊状になったもので、顕微鏡で見ると1r中に数百種類、10億個の細菌が棲みつき、そのうちのバクテロイデス・ジンジバリスが主犯となって歯と歯ぐきの隙間「歯周ポケット」にたまり、毒素を出し、それが歯肉と歯槽骨に炎症を起こし、歯周組織を破壊する。ですから、歯周病の唯一の予防はブラッシングとされてきたわけです。
 ところが、バクテロイデス・ジンジバリスは誰の口の中にもいる常在菌で、通常は数百種類いる他の菌と一丸となって外部からの異物侵入を防ぐなどの働きをしています。
 実際、原因菌を歯肉に塗布しても歯周病にならない人もいれば、逆にブラッシングを励行し、口腔内を清潔に保っていても歯周病になってしまう人もいます。
 この違いはなぜ起きるのか。
 歯周病は、生体に備わっている防衛機構(免疫機構)と細菌群とのバランスが崩れた時、すなわち、@生体の免疫力は同じでも細菌の量が増えた時、A細菌の量が同じでも免疫力が低下した時──に発症する。これはつまるところ、生命力が衰えているということです。
 近年、松の大量枯死が全国的にみられ、松と共生関係にある虫や菌の仕業とされ大量の殺虫剤が空中散布されましたが、くい止められませんでした。
 先駆植物で照葉樹の代表である松は、地面まで陽が入り、風通しや水はけの良い、痩せた土地を好みます。ところが、現在の松林は下払いがされなくなって半陽樹や耐陽樹がはびこり、さらに大気汚染に酸性雨が追い打ちをかけ、松が生きたい条件でなくなっています。松を救うには、松が生きたい条件を整えてあげるしかないのです。
 人間も一緒です。 松が常在虫にやられた背景に生育環境の悪化があったように、歯槽骨が常在菌におかされる根底には、その生体の育つ環境の悪さ、そこからくる生命力の衰えがあるのです。病みたい体から、生きたい体へ誘導した上で治療すると、歯槽骨ばかりか、全身も驚くほど治っていきます。
 発症の要因は幾つか重なっており、中でも全身病と食生活が深く関連しています(表2)。歯周病は、歯周組織から全身的な健康状態までトータルに観察して原因を見極めなければならない。プラークのみが原因でブラッシングで回復するのは、「口腔内不潔型」だけなのです。

歯周病は怖い! 全身疾患とリンクする

丸橋 歯を失うと、脳の働き、特に記憶力が低下します。脳が活性化するには常に新鮮な血液が巡っていなければなりませんが、歯を失うと噛む力が低下して脳への血流も悪くなると考えられます。
 また、歯が1本でも抜けると、隙間を埋めようと他の歯が動き、歯列が乱れて咬み合わせが狂い、肩こり、眼精疲労、腰痛、頭痛など様々な全身症状を誘発します。
 歯が抜けて噛む回数が減ると、骨粗鬆症も進行します。患者さんの骨密度を測ると、骨密度が非常に高い人では歯周病になっていない人が46%もいるのに対し、骨密度の低い人ではたった12%しか認められません。
 さらに、歯周病が原因で、重い全身疾患を引き起こすことがあります。歯周病の病巣から細菌がまき散らされ、心臓や腎臓に感染し、心内膜炎や糸球体腎炎などの感染症を起こす他、血管壁や膵臓のβ細胞をおかして、動脈硬化や糖尿病の引き金にもなります。
 しかし、歯周病が最も恐ろしいのは、歯周病が起きた背後に全身の様々な疾患が隠れていることです(表2・3参照)。頭痛、便秘、不眠、冷え性といった症状から、動脈硬化、肝硬変、糖尿病、腎臓疾患、貧血まで多岐にわたります。
 歯周病、すなわち、骨が溶けるような人は全身的にも病んでいる、病んでいるから骨が溶ける。歯周病は身体全体の赤信号であり、そしてその根底には食生活があるのです。

歯周病の根本原因は 食生活だった!!
「難治性歯周病」を観察する

丸橋 私が臨床をスタートした当時、「難治性歯周病」という言葉が流行りました。何をやっても治らない。
 歯周病の唯一の原因はプラークであるということで、治療目的はすべてプラークの除去(プラークコントロール)にあり、ブラッシングを基本に、進行した場合は、歯石除去や、ルートプレーニング(歯周病細菌除去療法)、フラップオペレーション(歯周病外科処置)を行い、連結補綴で仕上げたりします。しかし、治らない。
 定説に従って治療しても治らないのは、定説が変なのだと私は思いました。わからないことはわからないままじっと観察し、疑問に従っていろいろ調査研究し続けました。
 まず体調と食事を疑いました。患者さんをはじめ、食事戒律のある宗教の人たち、文明におかされていないモンゴルの遊牧民族やケニアのマサイ族の人たちなど、食事、口腔、体調との関係を調査分析した結果、歯周病の根本原因は生活、特に食生活にあると確信しました。そこで、治療の前提に食事改善をとり入れたところ、抜け落ちる寸前の歯周病も治るようになったのです。
 当時は袋叩きにされた私の理論は、1996年に厚生省が生活習慣病という言葉をつくり、歯周病は食生活が原因と分類されるに至ったわけです。しかしながら今なお、多くの歯科治療はプラークコントロールが主流であり、治療が進んでいないのが現状です。

歯周病になりやすい人の 食事パターン
──高脂肪・高砂糖・低繊維・ 低ビタミン・ミネラルの軟食

丸橋 常在菌の一部だけを増殖させ、また免疫力を低下させる原因は何か。
 歯周病の患者さんに共通してみられる特徴があります(表3)。中でも重要なのが、1番目にあげた食生活です。
 ファストフード、外食、精製・加工食品が多い、「甘くて(砂糖過剰)、 軟らかい(低食物繊維、低カルシウム)、こってり(高脂肪、高タンパク)食」。
 脂肪、砂糖の過剰で高カロリーの一方で、それを燃やして利用するためのビタミン、ミネラルなどの微量栄養素、特に、ビタミンB群・C、カルシウム、食物繊維が不足しています(図3)。これらの微量栄養素は、どれもが細胞の代謝や免疫力に大きく関わっている栄養素ですから、不足が続けば免疫力、生命力が低下し、常在菌のバランスが崩れて悪玉菌が増えたりします。
 その上、多用されている加工食品には防腐剤等の化学物質が多く、野菜や肉にも農薬が残留し、水道水には塩素が含まれる。これらはもともと細菌の活動を抑えるために用いられる薬物ですから、当然、口腔内の細菌バランスにも作用するはずです。
 さらに、精製品や加工食品の多用による食の軟食化≠ヘ、噛むことで造骨細胞を活性化し堅固な新しい歯槽骨をつくるのを妨げます。軟食化で噛まなくなったあごは発達が遅れ、そうなると、小さなあごに歯が密生し、「咬合異常」を引き起こします。咬み合わせが悪いと特定の部位にばかり力が加わり、しかも噛まないために軟弱化してしまった歯槽骨は噛む力に骨が負けていってしまいます。すると、歯槽骨から破骨細胞が出て、歯周ポケットができ、プラークがたまりやすくなるのです。
 食物繊維がなく、高脂肪・高タンパク、高砂糖で粘着性の強い食物を食べていれば、歯に食べかすが付着・発酵しやすく、プラークになりやすい条件も備わります。

歯周病になりにくい人の 食事パターンに変えると ──低カロリー・高繊維・ 高ビタミン・ミネラル

丸橋 一方、歯周病にならない人、なりにくい人にも共通した特徴がみられ、食生活は、砂糖、脂肪控えめ、ビタミン、ミネラル、食物繊維が十二分に摂られていました(図4)。
 この食事パターンの人には、ブラッシング不良でプラークがあるのに歯周病が認められなかったり、なっていても軽度で、全身的にも高血糖や高血圧など生活習慣病の人はほとんどおらず、適度な硬さのある食物をよく噛んで食べているので、あごの発達や咬み合わせも良好でした。
 歯周病治療の基本に食事改善をとり入れ、歯周病になりやすい食事パターンから、なりにくい食事パターンに改善してもらった上で、手術やブラッシング指導などの処置を行うと、難治性と諦められていた歯周病が実によく治るようになったのです(表4・写真2)。

歯も全身も回復する「健康食」

丸橋 歯周病を防ぎ、回復させ、生命力全体を高める「健康食」にすると、背後にある全身病も驚くほど回復します(15頁表5参照)。
〈主食は未精白〉
 主食の穀物は未精白のものを食べることが健康食の基本です。穀類はエネルギー源だけでなく、食物繊維やビタミンB群の宝庫です。ビタミンB群は、脂質、タンパク質、アミノ酸、炭水化物の代謝に働き、皮膚や口内の粘膜の発育に必須ですが、白米にはビタミンB1は5%しか残っておらず、パンも天然酵母で発酵させたものはビタミンB群の損失が20〜30%に留まるのに対し、イーストパンでは80%も失われます。米は玄米、胚芽米、三分搗き、五分搗き米など、パンは未精白の天然酵母パンを。
〈緑黄色野菜は毎食〉
 ビタミン、ミネラル、食物繊維の供給源として毎食摂ることで、栄養バランスは図4のように改善されます。栄養所要量をはるか上回りますが、高ビタミン、高ミネラルの食事は免疫力を高めます。昆布、煮干し、干し椎茸に様々な緑黄色野菜を加えた具沢山味噌汁はおすすめです。
〈小魚・海草は毎日摂取〉
 煮干し、チリメン雑魚、メザシ、シシャモ、桜エビなどの小魚は骨をつくるカルシウムが豊富。ミネラル豊富な海草類も毎日欠かさず。ただし、小魚、海草とも吸収率が悪いので、よく噛んで食べます。
〈大豆とゴマを増やす〉
 大豆・大豆製品を積極的に摂取。植物性タンパク質2に対し動物性タンパク質は1程度のバランスに。ゴマは良質な脂肪に富む高カルシウム食品。種実類はすべて栄養、味、香りともすぐれているので大いに食べてください。
〈砂糖・化学物質を避ける〉
 砂糖は中性脂肪を上げ、大量のビタミンB群、カルシウムを浪費し、すべての化学物質はビタミンA、C、Eを浪費します。

歯も全身も健康に ──健康に生きる四原則
「良い歯の会」を通して

丸橋 私が歯科クリニックを開業して35年、「良い歯の会」を主宰して30周年を迎えました。「良い歯の会」では、いのちが求める本物の食とは何なのか、人間的生き方とは何かを問い、探求し続け、全国各地から多くの方に参加していただき、多くの方から歯周病が治った、良い歯の子に育った、健康になった、難病が治った──という感謝が寄せられました(表5参照)。
 私も同時に学び、身にしみて理解できたのは次の4点です。
食の改善は健康の絶対条件。
本物の食だけがいのちの食。
生き方の発見に支えられない食生活の改善はあり得ない。
文化が崩れた程度に食も崩れる。
 そして、「良い歯の会」の経験から、次の「健康生活四原則」を守れれば、かなり高いレベルの健康が実現できることを知りました。
第一に、食生活を健全にする。
 人間の生命を維持する基本は食生活にあり、歯列不正、虫歯、歯周病などといった歯科疾患のほとんども、生活由来性疾患、特に食生活由来性疾患です。そのため、食事バランスを整えることが第一の基本となります。
第二に、咬合バランスを整える。
 咬み合わせが狂うと下顎の位置がずれ、からだの重心が偏り、姿勢が歪みます。脊椎の歪みは中枢神経系の働きを阻害し、血流も阻害します。その結果、全身の各部の痛み、麻痺、こり、機能低下、冷え等が起こり、元気を失っていきます。咬み合わせを正しく直し、下顎位を正中に戻すことで全身の機能が正しく働くようにすることは非常に重要です。
第三は、適度な運動と
休養のバランス。
 運動によって必要な筋肉量を保ち、正しい姿勢と機能を維持することが大切です。そして、運動を続けるためには当然、適度な休養が必要になります。
第四は、精神のバランス。
 近年、前向きな精神バランスを保つことが生命力や免疫力を大きく向上させること、ストレスなどが健康度の低下を招き、ガンなどの原因となることも分かってきました。ですから、気持ちが前向きであること、精神的に良いバランスにあることが、からだの健康のためにも大変重要なのです。
 4つの原則の実践によって人間の生命力がどれほどの力を発揮するかということには、私もしばしば驚かされてきました。