体も環境も健康!「ピロール農法」

ラン藻の働きを生かすピロール農法

〜真紅の土に魅せられて35年〜

全国ピロール会代表 黒田与作さん

ピロール農法の技術開発・普及にかけた35年

 土壌菌のシアノバクテリア(ラン藻類)の増殖を促すことで、ミネラル豊富で美味しい農作物を作るという「ピロール農法」。
 この農法により、安定的に高ミネラル作物が生産できる資材の技術が確立するまでには、20年以上の歳月がかかったといわれます。
 黒田与作さんは、その間ずっと資材の技術開発、農法の普及に取り組み、暗中模索の中、迷路に分け入ったこともあると話されます。
 ピロール農法が確立して15年、今やピロール農法は日本全国から海外にも広がり、医学分野からも注目されています。
 掲げられた理念の中にある「私たちは100年の計をもって国民の食生活の健全化、自然愛護、環境改善について誇りある使命感に目ざめ、ピロール農法を確立してゆきたい」とは、まさに黒田与作さんの35年にわたる歩みそのものです。

ピロール農法の誕生 殿様専用「おひきどり米」 ──田が赤から青緑に変化し
ミネラル豊富で美味しい

──ピロール農法が確立されたあらましからお願いします。
黒田 ピロール農法は、コシヒカリを生んだ福井県農業試験場に勤めていた寺島利夫農学博士によって、30年ほど前(1978年)にその基礎が作られました。
 寺島博士は、福井市の灯明寺畷(とうみょうじなわて)に江戸時代に殿様専用の「おひきどり米」を生産した水田の名残があり、そこでは今でも収穫量が多く、味の良い米がとれることに注目され、調べたところ、そうした田の米はカルシウムやマグネシウムなどのミネラルが非常に多く、さらに水田の土壌が赤から青緑色に変化することに気づきました。
 寺島博士はこの水田の土をビーカーに入れ、緑のワラを混ぜ、石灰と苦土を加えてpHを高くし、さらに塩化アンモニウム少々を加えて水を入れ、太陽光を当てておいたところ、2週間で紅色になりみるみる深紅色となり、1〜2ヶ月経つと今度は土の上面から緑色になりだんだんと下方に移っていくという現象を見ました。
 寺島博士はこの現象とミネラルとの関係を追究し、土壌を赤から青緑へ変化させる微生物を増やす資材、つまり、現在のピロール資材の原型を作りました。
 当時私は、公害問題の解決を模索しており、また、生来の人がやらないことをやりたい≠ニいう性格も手伝って、寺島博士の「土が真紅の色になる」という言葉に吸い込まれ、ピロール資材の技術開発に関わるようになりました。
 しかし、寺島博士自身が暗中模索で、資材開発には時間とマネーが空しく費やされていくばかり。周囲の理解もなかなか得られず、迷路に入った時に出会ったのが、後に北陸のエジソン≠ニ呼ばれ、200以上の発明を残した酒井弥(みつる)理学博士です。
 アメリカ留学から帰国されて間もない酒井先生が地元にいることを新聞で知った私は、酒井先生の元に赤い土の入ったビーカーを携え「田畑の土がこのように真っ赤になるんです。人間も血液が命です。私はこの赤に魅せられています。しかし、土がこのようになっていくのは何故かまだよくわかっていません。研究してくれませんか」と飛び込んだのです。
 何度も先生の元に通ううちに、先生から「黒田さん、これはなかなかおもしろい」と自ら研究に協力して下さることになりました。
 しかし、この後も試行錯誤の連続で、理論の完成、技術の確立は1995年、酒井先生によってようやく、土を赤から青緑へ変化させる微生物の正体が「ラン藻類(シアノバクテリア群)」であることが突き止められ、同時にラン藻の働きや増殖法も解明され、ピロール資材の改良が進み、「ピロール農法」が確立したというわけです。

ラン藻の働きを生かす ピロール農法
酸素を出す微生物「ラン藻」 ──土を肥沃にし 作物の栄養価を高める

黒田 「ピロール農法」を一言であらわすと、「ラン藻」の増殖を促す「ピロール資材」を田畑に撒いて、ミネラル豊富で美味しい作物を作る農法となります(図1)。
 古代より土壌中に棲む「ラン藻(藍藻)」は、「シアノバクテリア(藍色細菌)」とも呼ばれ、その名の示すように青緑色した真正細菌の一群です(図2)。46億年前に地球ができ、35億年前に光合成を行い酸素を放出する細菌が出現し、この細菌の仲間の一つがラン藻であり(図3)、ラン藻は有機物のない不毛の地や岩石でも水分があれば生育します。
 水と、岩石(ミネラル)と、光エネルギーという条件で生育するラン藻は、二酸化炭素を吸収し酸素を土の中に出すので、根が強くなり、土の中の微生物も豊かになり、ビタミンなどの様々な有用物質を土壌に供給し、ミネラルもキレート化して吸収しやすい形にしてくれるのです(図1・表1)。
 すなわち、ピロール農法の最大の特徴は、ラン藻が光合成により
酸素を生み出すことにあり、酸素の多い土で育った農作物は根が強く、栄養価が高く、腐りにくいのです。

ピロール化合物が豊富な 合成型土壌 ──ピロールとピロール資材

黒田 ラン藻の増殖を促す「ピロール資材(写真)」は、ラン藻が中性から弱アルカリ性を好み、またミネラルバランスが整っているとよく繁殖する──という特性をふまえて、生石灰および微量ミネラルを独自な方法で合わせた高pHの資材です。
 一般の微生物は有機物をエサ(エネルギー源)として増殖する従属栄養微生物ですが、ラン藻は自ら光合成を行い、太陽エネルギーを自らの生命活動のエネルギーにする独立栄養微生物です。
 「ピロール農法」の名は、生命の基本的な単位である「ピロール」に着目し、その循環を促す農法であることからつけられました。「ピロール」とは窒素を含んだ五員環化合物の総称で、「ピロール化合物」は葉緑素のクロロフィルや血液のヘモグロビンを構成する重要な要素の一つであり、動植物では生命活動の基本物質になっています。
 植物のクロロフィルや動物のヘム(ヘモグロビン)などはピロール環が環状に結びついた閉環ポリフィリンになります。植物や動物が死んだり、食べられて消化されたりすると、この環が壊れ、ビリルビンなど開環テトラフィルになります(図4)。だから糞尿にはビリルビンが多く、ビリルビンは分解されると1個のピロールになり、さらに分解が進めば有機酸や無機物となります。堆肥などに見られる有機物の分解はこの過程のことで、これを担っているのが従属栄養微生物です。
 これに対し、ラン藻という独立栄養微生物が関与すると、ビリルビンとは異なる過程、すなわち、光合成を行うラン藻はその過程で還元作用(酸素を奪う)を示し、これによって開環テトラフィル(ビリルビン)が元の閉環ポリフィリンに戻るのです(図4)。
 光合成を行うラン藻は、光エネルギーを利用して炭酸ガス(CO2)を還元し、炭素と水素が結びついた有機物を生成します。ラン藻はこの還元物質を作るのに必要な水素を、水を分解することによって得ています。すなわち、水(H2O)を分解して水素(H)をとり込み、その結果、酸素を放出するわけです。
 土壌ではピロール化合物の閉環と開環が並行して行われていることになりますが、開環(分解)の方向に対して、閉環の方向を優位にもっていくのがピロール資材であり、ピロール農法なのです(図4)。
 つまり、従来の有機農法は酸化・分解(発酵)型であり、我々のピロール農法は還元・合成型の農法といえます。
 土壌の有機物を還元・合成へ向かわせるのがピロール農法の特徴であり、こうした合成型の土壌では、ビタミンやホルモンなどの有用物質が豊富に作られ、さらにミネラルを吸収しやすい形にするキレート物質が作られて、ミネラルがキレート化されます。
 一方、従来の有機農法は微生物が土の中で酸素を使って有機物を分解するので、二酸化炭素やメタンガスなどが放出され、土の中が酸素不足になりやすく、根腐れも起きやすく、このため中干し作業が必要です。

環境も体も健康!!
酸性雨にも強く 環境保全型の農法 ──地球温暖化防止・ 農薬などを分解

黒田 今、日本の農業が抱える一番の問題は雨です。栄養評価では、昭和20年代の米に比べ、今の米はデータが低い。なぜなら、昔の雨はpHが中性ですから当然、微生物もその範囲で生きる微生物です。今pHは年間平均4・6。当然田んぼの微生物は昔の微生物ではない。お腹の中と一緒で、悪玉菌が増えている田んぼです。その中で昔のような有機米を作ろうとしても作れるわけがない。ピロール資材は高pHですから、できる作物は弱アルカリ性を示します。
 ピロール農法でも、農薬は一般よりは少ないけれど使用します。しかし、ピロール農産物から農薬は検出されません(表2)。土壌菌の大半は農薬分解能があり、土壌菌が多い土で育った作物は農薬汚染が少なくなりますが、ピロール農法ではさらにラン藻以外の農薬分解能力のある独立栄養微生物が増殖してくるようです。
 塩素系農薬などから生成されるダイオキシンやトリハロメタン類を分解する菌もピロール施用土壌からは検出されています。
 また、ピロール農法では二酸化炭素(CO2)を放出しないので地球温暖化防止にも役立ちます。

医食同源のピロール作物 ──高ミネラル・高ビタミン医師も注目

黒田 私共のモットーは「いい緑をつくりましょう」。それだけなんです。
 今の日本人は本物の緑を食べていないのでいい血液ができない。クロロフィルの緑から赤いヘモグロビンへというプロセスがうまくなされないからです。
 ピロール米、ピロール野菜は高ミネラルです。金属ミネラルはキレートされていないと吸収されない。ピロール資材を施してラン藻が増殖した土壌ではキレート作用をもつ有機酸などのキレート物質が含まれているので、その結果、高カルシウム・高ミネラル作物が生産されると考えられます(表3・4)。
 ビタミン含有も高く、中でも、動物性食品にしか含まれていないといわれるビタミンB12(コバラミン)が含まれているのがすごい(表3・4)。ビタミンB12は造血ビタミンとして知られ、葉酸と一緒になってヘモグロビンの合成を助けていますが、こんなところにもピロール作物がいい血液をつくる作用があるのではないかと考えられるわけです。
 ピロール米は、赤血球をつくるビタミンB12(コバラミン)がある。そんなお米は世界中どこにもない。酸化もしにくい。当然こういうものを毎日食べる食べないで差が出てくると思います。
 貧弱な体格でも重い背嚢を背負って何10 kmも歩けた昔の兵隊さんが食べたものを、もういっぺん作りましょうということです。
 福井県ではアトピーや花粉症に効果があるとお医者さんもピロール米をすすめています。また、長年食べていると肝機能が向上したり、コレステロール値が下がった人も続々現れてきました。
 ピロール作物はまさに、医食同源の食べ物なのです。

食べ物で日本を変える 従来の農法の利点を併せもち 高品質で美味しい作物を生む

黒田 ピロール農法にはデータがある、基準がある。ですから、お医者さんが注目します。
 海外から注目されている理由も過去から蓄積されている確かなデータがあるということです。
 今の有機作物は名前だけの有機となっており、単に美味しいだけでは世界に通用しません。ピロール作物はミネラル・ビタミンが豊富で、かつ美味しい。糖度が高くて美味しいという作物と異なり、糖尿病などにも安心です。
 これからの農法は、生産者にとっても消費者にとっても、安全でおもしろく(楽しく)、役に立つ(得をする)ものが選ばれます。
 ピロール農法は、ピロール資材を施すことでラン藻を繁殖させるので「微生物農法」ともいえますし、作物自体が強くなり農薬も減らせるので「減農薬農法」ともいえる、また、ピロール資材は90%以上が有機物ですから「有機農法」ともいえます。
 しかし、ピロール農法がこれらの農法と差別化できるのは、収穫された作物の内容成分が大きく変わるということにあります(表5)。つまり、ピロール作物は、高カルシウム・高マグネシウム・高ビタミン・弱アルカリ性であり、分析データでは20年来、無化学肥料・無農薬で生産された作物よりも格段に高品質でした。

お金より笑い ──人生は面白く楽しく

黒田 人生は面白く楽しく、「笑いがなかったら生きる値打ちがない」と私の人生の師匠、神門酔生師匠がおっしゃった。
 ピロール農法と悪戦苦闘し、社員にも辞めてもらうことにした頃、神門酔生師匠とのご縁をいただきました。師匠は私のこれまでのあらましを聞いて「この仕事を止めなさんな」「いやあ、もう止めることにしましたんですよ」 「いやいや、続けなさい」
 「…このまま続けますと食えなくなるんですわ…」「いやいや、食えなくても続けなさい」
 「今、日本民族は歴史が始まって以来の堕落ぶりです。小さい子供から明日亡くなるかというお年寄りまでが二言目には金、カネ、銭と叫んでいる。金のためなら百姓は農薬であろうが毒であろうが何でも撒くのよなあ…。いずれ自分の命が危うくなるのを知らんのじゃよ」
 「黒田のう、これから日本は貧乏になるんじゃよ。銀行がこれから潰れるのじゃよ…」
 「必ずピロールは、日本の国がやらねばならぬ仕事になるんじゃよ…」
 私が止めようとしたピロールの仕事を続けたのは、この師匠の教えでした。そして、この言葉通りになりました。
 「生まれた時も死ぬ時も裸。必要なのは生きる知恵、それも、どうにか食えればそれでいい。その原点を押さえて踏みとどまることが大切」だとも諭されました。
 「貧乏になるとどうなるんですか?」と聞いたら、「この国を立ち直らせなあかんという人たちが必ずピロールに集まってくる。そうしたら、その中でお前がこれはと思う人たちと手を組んで、この仕事を大きくしてもらいなさい」
 「お前の仕事は、そういう人たちに橋渡しをする役。その仕事を食われなくても続けなさい。橋渡しが済んだら、お前は退くんですよ。それで、十分お前は食っていけます」といわれました。
 私たちの世代は親の面倒を見ますけど、今の子供たちは親を見られる心身を備えているかどうかわからない。これやっぱり心配ですよ。我々も一生懸命勉強し、次の子供たちを、心身共に、食べ物で良くしなければ。それが我々の責任かなと思っています。