─「人には低毒性」・「害虫には効果」の "夢の新農薬として登場した 「ネオニコチノイド」は "悪魔の農薬だった!!

地球環境問題評論家 ジャーナリスト 船瀬俊介先生

このまま使い続けていけば、 食物連鎖崩壊・地球の砂漠化・動植物の絶滅……「沈黙の夏」に

 船瀬俊介さんは、著書『悪魔の新・農薬「ネオニコチノイド」─ミツバチが消えた「沈黙の夏」』(2008年6月・三五館刊)の後書きに次のように書いています。
 地上の植物の約八割はミツバチの受粉によって生存している。ミツバチなど受粉昆虫の死滅は、即、植物たちの死滅を意味する。農作物も例外ではない。
 ネオニコチノイド→蜂群崩壊症候群→植物群の枯死→砂漠化→動植物の絶滅……「沈黙の夏」へと恐怖の連鎖は続く。
 ミツバチが死に絶え、植物も枯れ、川も涸れ、赤茶けた砂漠が……。照りつける太陽の下、すべては静まり返っている。死の沈黙……。
 荒涼たる静寂の光景「沈黙の夏」をサブタイトルにしたのは、私の心の底からの警告である。人類は今、間違いなく、だれも望んでいないこの「夏」に向かって死の行進を続けている。
 ネオニコチノイドは、フランスなどではミツバチ大量死の原因として使用禁止(2006年)となりましたが、一方で、日本での食品残留基準はEUに比べて数十〜数百倍も緩く、汚染作物の流通が心配されています。
 さらに日本では中国の百倍も使用が広がるネオニコチノイド系農薬に対し、船瀬さんは「一刻も早く中止させないと第二のアスベストになりかねない!」という思いで筆を執ったといわれます。
 低毒性で人間には比較的安全な農薬として、有機リン系農薬後の次世代農薬のヒーローとして登場した「ネオニコチノイド系農薬」は、ミツバチだけでなく、人に対しても深刻な被害が出ていることがわかってきました。
 公表されているデータが異常に少ない上に、人類が初めて接する農薬。人体への影響の多くは未解明なのに、普及が先行している背景には、農薬メーカーと、行政、マスコミの癒着があると船瀬さんはお話しされています。

ポスト有機リン系農薬 「ネオニコチノイド」の出現
有機リン系が効かなくなった!! ──「農薬ジレンマ」

船瀬 なぜネオニコチノイド系農薬が現れたのか。これまでの有機リン系の農薬が限界に達していたからです。農薬を撒けば撒くほど昆虫や雑草は遺伝子変換で薬剤耐性を獲得し、耐性昆虫・耐性病原菌・耐性雑草が蔓延して効かなくなる。もう新しいエスカレーターに乗るしかなかったんです。
 これが「農薬ジレンマ」です。農薬を使うと、昆虫や病原菌や雑草が農薬への耐性を獲得する。そうすると、より強力な農薬を求め、使用量を増やすという二つの悲劇が待ち構えている。レイチェル・カーソン女史が、『沈黙の春』(1962年刊)で「我々は降りられないエスカレーターに乗ってしまった」と警告した如く、その悲劇は永遠に続くわけです。
 殺そうとしても死なないことから英語では、耐性昆虫を「スーパー・インセクト(超昆虫)」、耐性雑草を「スーパー・ウィード(超雑草)」と名付けていますが、アメリカでは1945年から45年間で殺虫剤使用量は10倍に激増し、逆に、害虫被害率は7%から13%と倍増した。それは、農薬耐性昆虫が爆発的に増えてきたからです。

ニコチンを主成分に 「減農薬」・「低農薬」として 急速に広まった新型農薬 ──種類も、用途も、多彩

船瀬 しかも、ネオニコチノイド系農薬は、「低毒性」という嘘八百を売りに販売を推進した。
 日本で合成農薬が本格的に使用され始めたのは、@第二次大戦後にDDTやBHCなどの有機塩素系農薬が最初で、その毒性は昆虫以外にも強く、また分解されにくく蓄積しやすいことから環境汚染を引き起こし、1970年頃には国内外で使用禁止となり、A次に出てきた有機リン系農薬も急性毒性やヒトへの神経毒性などが指摘され、環境汚染も引き起こすということで問題視されていました。
 そこで、「次世代農薬」のスーパーヒーローとして登場したのが、ネオニコチノイド系農薬です。
 「人間には有機リン系農薬の3分の1以下の悪影響、益虫のクモや魚類は実験室ではかなりの安全性が確認」というふれこみで登場してきたこの新型農薬は、
「減農薬」の流れに乗って急速に全世界に広まり、ネオニコチノイド系農薬が登場した1991年から10年余りの間に、「恐らく地球規模で最も大量に使用されている殺虫剤」に急成長したのです(表1参照)。
 「ネオニコチノイド」とは「新しい(ネオ)ニコチン様(ノイド)物質」という意味で、ネオニコチノイド系農薬は、タバコに含まれる猛毒ニコチンに似た構造と作用を持っています。
 このニコチン系新農薬は1991年に「イミダクロプリド(10頁・表4参照)」が市販されたのを皮切りに次々に開発され、構造によって「ニトログアニジン系」・「ニトロメチレン系」・「ピリチルメチルアミン系」の三つに分けられます。さらに、添加物の配合により、多種類が開発・市販され、日本では2002年時点ですでに7種類のネオニコチノイド系殺虫剤が国内市場に流通、田畑に散布され続けています(表1)。
 用途も驚くほど広く、野菜、穀物、芝生、観葉植物から、ゴキブリ駆除、シロアリ駆除、ペットののみ取り、屋内殺虫剤、住宅床下消毒と、今やネオニコチノイド系農薬は知らないうちに身のまわりにあふれ返っているのです(9頁・表3参照)。

ネオニコチノイド系農薬の 恐怖
人類存亡危機の兆し!? 世界的ミツバチ大量死

船瀬 ところが、低毒性が売りのネオニコチノイド系農薬の容器に「ミツバチ・カイコを飼っている付近では使用しないこと」と注意書きがある。メーカーが、ミツバチ大量死の犯人はネオニコチノイド系農薬と自白したのも同然です。
 1990年代にヨーロッパで始まったミツバチの大量死は今や全世界的に広がり、日本でも2005年に岩手県で、08年には北海道などで報告され(表2)、その原因としてイネのカメムシ防除のために撒かれたネオニコチノイド系農薬が疑われました。死んだミツバチの体内にネオニコチノイドが残留していたのです。
 2006年4月、農業大国フランスでは長年の審議を経て「ネオニコチノイド系農薬の販売及び使用を禁止」という最高裁判決が出され、デンマーク、オランダ、イタリアでも同様の判決が出ています。
 2006年10月、アメリカではミツバチが一夜で姿を消す怪奇現象が多発、わずか半年間で全米で養蜂されていたミツバチの4分の1が消え失せた。その突発的異常性から「蜂群崩壊症候群(CCD : Colony Collapse Disorder)」と命名されたこの怪奇現象は、カナダ、欧州全土、台湾などでも発生し、日本国内でも宮崎、長崎、鹿児島などから報告されています。帰巣本能があるミツバチが忽然と消えたのは、帰巣本能が阻害され野原のどこかで死に絶えたことを意味しています。
 これら一連のミツバチ大量死は、最後にはアインシュタインの「ミツバチが地上から消滅したら4年後に人類は消滅する」という言葉に行き着くのは、あり得る話です。
 なぜなら、ミツバチは自然環境の変化を真っ先に感知する「環境指標生物」であり、代表的な「受粉昆虫」だからです。
 世界中でミツバチを媒介に受粉する受粉作物は100種類を下らず、ミツバチの消滅は即、農作物を含めた受粉植物の死滅を意味し、全世界的な食糧恐慌を引き起こす恐れから、さらに、地球の砂漠化、動植物絶滅にも連鎖する可能性があるのです。

ミツバチ大量死の主犯は、 ──無味無臭・浸透性(水溶性)
半径4kmに拡散する "原爆級の新農薬”

船瀬 世界的ミツバチ大量死の原因として、寄生生物からのウイルスやバクテリア感染、殺虫剤(ネオニコチノイド)、人為的環境破壊(過労ストレス・栄養など)、電磁波、地球温暖化まで様々あげられていますが、今のところは確定されていません。
 ところが、岩手県の養蜂家で、日本在来種みつばちの会の藤原誠太さんは「表面的にはウイルスやダニが直接原因だとしても、それはネオニコチノイドによってミツバチの免疫力が弱体化した結果」と確信しています。
 なぜならば、岩手県では2005〜06年に、県や全農の指導により、稲のカメムシ防除にネオニコチノイド系農薬を水田に散布後、周辺のミツバチ(主に西洋ミツバチ)大量死が相次ぎ(約700群 : 1群には約4万匹)、分析した結果、巣や死んだミツバチから、ミツバチの致死量に近い値のネオニコチノイド(カメムシ防除に用いたダントツ)が検出されたからです。
 藤原さんは犯人がネオニコチノイドの証拠として、
超微量で狂い死に ミツバチ半数致死量は0・0179μg(μg : 100万分の1g)〜0・0218μgという超微量で、ミツバチの神経を興奮させ、狂い死にさせる
半径4km四方で死ぬ 有機リン系のスミチオンは数100m範囲の拡散だが、ネオニコチノイドは半径4km四方に拡散し、ミツバチ大量死を引き起こし、周辺住民も毒の霧を吸わされる
無臭だから気づかない 臭いのある有機リン系のスミチオンがかかったハチは巣箱から追い出されるが、ネオニコチノイドは無臭なので巣箱の中のハチも追い出せず、飛び立っても戻って来ない
汚染された水を飲む 無臭でミツバチは警戒せずに、汚染された葉の水滴や田んぼの水などを飲む
方向感覚マヒで戻れない 神経が興奮してマヒし、視野狭窄で巣の方向がわからなくなる。自分の巣に戻れずに近所の明るい軒先で死んでいたケースもあった──と列挙しています(表3参照)。
 大量死したミツバチの死骸からネオニコチノイド系農薬が検出されたことにより因果関係は明らかであり、岩手県と岩手県全農が、損害賠償請求した県養蜂組合に、500万円の見舞金を出したのはその証明の一端です。
 藤原誠太さんは水田へのネオニコチノイド散布後、道端や草むらにはトンボなどが死体をさらしていたことも確認。誠太さんはこの農薬を「原爆並の猛毒農薬」と呼んでいます。

神経毒の被害は人にまで

船瀬 この新農薬の恐ろしさは、生物の神経回路を遮断する神経毒性にあります。ミツバチの神経系と人間の神経系はきわめて似ており、人にも影響を与えると指摘する学者もいます。
 実際、群馬県前橋市で開業医をしている青山美子先生は、群馬県前橋市周辺でのマツクイムシ防除の空中散布後、心電図に著しい不整脈を示す患者が急増したと報告しています。
 例えば、優秀なエリートサラリーマンが方向感覚を失って、会社にたどり着けなくなった、あるいはOLが具合悪くなって這ってやってきたという症例は、心電図が同じパターンで乱れている。過敏な人ほど大きなダメージを受けるんですね。
 同じ神経毒性でも、有機リン系は行動を促進する方向に働き、ネオニコチノイド系は神経伝達を阻害して行動抑制的に働くので、人間ではうつ病、引きこもり、ハチは自分の巣に帰れなくなってしまうというわけです。
 青山先生も指摘していますが、近年のうつ病、引きこもり、自殺の急増の背景には、ネオニコチノイド系農薬の大量普及の影響がある可能性が大いにあり得ます。

神経毒性だけではない! 甘い日本の残留基準

船瀬 しかも、こんなに情報がオープンになっていない農薬は珍しく、私が唯一手に入れ、著書にも入れた英文資料(表4)以外にはありませんでした。
 この資料には神経毒性のほかにも、生殖障害(図1・2)、遺伝子(DNA)損傷とあります。遺伝子損傷は、生殖異常、流産、催奇形性、発ガン性、遺伝毒性の元凶です。この資料には発ガン性は報告されていませんが、それはこの農薬が登場間もないことに起因していると思われます。
 さらに怖ろしいのは添加剤により毒性は倍加、「イミダクロプリド」単体では急性神経症状は5日で治まるのに、有毒添加物を配合した商品「ゴーショ」は中毒症状が12日間も続いたのです(図3)。さらに分解して発揮する毒性はヒトに影響を与えるということです。
 これほど恐ろしい毒性にもかかわらず、日本のネオニコチノイド農薬の残留基準は非常に緩く、例えばお茶では欧米の500倍も高く(表5)、無農薬栽培以外のお茶はもう飲めない状況です。
 水溶性だから、洗っても剥いても落とせない。青山美子先生は1〜2km先まで土壌を汚染するので、ペットボトル入り天然水なども非常に危ないといっています。

シンプル&ナチュラルに 自然農法「天敵農法」の勝利

船瀬 農業の生産性を上げるための農薬で、生産性が激減している。農薬に頼る農業はもう完全に破綻しているということです。
 自然農法の代表的手法「天敵農法」は、農薬に頼らず天敵生物によって害虫から守る。自然界のおびただしい生き物たちが絶妙のバランスを保って共存共栄しているのは、この天敵関係による食物連鎖で互いの種の調和を保っているからです。
 熊本農業研究センターは、ハウス栽培のメロンにつく害虫の代表ワタアブラムシを対象に、
ネオニコチノイド粒剤の定植時植穴処理と、
天敵のコレマンアブラバチを放した実験を行い、見事に天敵農法が勝利しました。
 図4は、定植時に苗穴に処理されたネオニコチノイド粒剤は定植後30日までは何とかアブラムシの繁殖を抑えたものの、以後は猛烈に繁殖し、60日後には「無処理○」と同じくらいに増殖しています。アブラムシが耐性を獲得したと思われます。
 図5は、ハチを放さない「無放飼区○」ではアブラムシが激増、
一方、天敵のハチを放した「放飼区●」はゼロで、ハチの寄生率は80%超にも達しています。
 天敵農法は害虫を駆除しているのに対し、ネオニコチノイドはタイムラグがあるだけで結局元に戻ったということです。

全世界の農薬を廃止したら ──コーネル大リポート

船瀬 1978年にコーネル大学が「全世界の農薬を廃止したらどうなるか」シュミレーションリポートを発表しました。
 農業壊滅かと思うでしょうが、最終的には作物はギュッと締まり、カロリー4%減となり、それに留まりました。
 コーネル大リポートの素晴らしい点は、猛毒の農薬による作物汚染がなくなり、さらに土壌汚染、水質汚染、大気汚染、海洋汚染が全てなくなり、最大の利点は、それを食べた人間の人体汚染がなくなる。それが事実です。自然も人体も、毒物から解放されるわけです。
 さらに素晴らしいのは、ミミズなど土壌微生物は毒のダメージから免れて土が蘇る。するとできた作物のミネラル・ビタミンが数倍、数10倍に跳ね上がる。
 要するに、安全性は数10倍に跳ね上がり、栄養価も数10倍に跳ね上がり、風味がまた跳ね上がり、美味しくなるわけです。
 農薬をやめると全てがプラスになる。農薬代がかからないということは、差額費用代もいらず、人件費もかからない。ところが、農薬メーカー、化学肥料メーカーは、これが一番困るわけですね。

基準をEU並みに 無農薬・自然食で自衛

船瀬 青山美子先生は、ペットボトルのお茶や天然水、リンゴが危ないといってます。健康に良いというので、リンゴを常食している人、ペットボトルのお茶、天然水をガブ飲みしている人に神経症状が現れていると青山先生ははっきりいっています。
 全国50を超える無農薬の茶園があり、農薬がなくても農業はやっていけ、ない方が安全で美味しいお茶ができることを実践しています。農薬なくして栽培は不可能≠ニいわれていたリンゴでも無農薬栽培を成功させた人がいます。
 まずは、ネオニコチノイドの残留基準を少なくともEU並みに行政に求める。そうしたら今日本は全部基準をオーバーしていますから、全部使用禁止になります。
 藤原誠太さんがオーガニック認証は、「ミツバチ認証」にすべきだといっています。すなわち、環境指標生物であるミツバチが飛んでる田んぼ畑は、オーガニックだから安全だという判断ですね。
 ちなみに、ニコチン(タバコ)を吸う私の兄の髪は真っ白ですが、僕の髪が真っ黒なのは、一つはタバコを吸わない。もう一つは、@無農薬番茶のガブ飲み、A海苔のバカ食い、Bご飯(主には玄米)にゴマの黒がけ(ご飯が見えない程かける)という食生活のお蔭と思っています。
 結局、大事なことはシンプル&ナチュラルに尽きるということですね。