放射線ホルミシスとラドン浴

放射線ホルミシス効果を自宅で手軽に!

「移動可能なラドンガス発生装置」の開発

ウェルネス研究所所長・工学博士 小笠原英雄先生

原子力・放射線の利用による安全性と健康を願って

 自己治癒力を刺激する「放射線ホルミシス」について本誌はこれまで、村上信行先生(2005年4月号)、服部禎男先生(07年6月号)、川嶋朗先生(08年8月号)、水上治先生(09年9月号)の各先生にお話をしていただきました。
 究極のアンチエイジング≠ニの期待も高い放射線ホルミシスですが、その利用にはこれまで、ラドン温泉や治療施設(ラドン坑道治療施設、ラドンルーム・ラドンボックス設置施設等)に赴くか、高価で場所も取るラドンルームやラドンボックスを自宅に設置するしかなく、足の便が悪い人などの利用は困難でした。
 そこで、自宅で手軽にラドンガスを吸入できる「移動可能なラドンガス発生装置」が開発されました(写真)。安価で持ち運びも可能なラドンガス吸入装置の開発で、誰もが日常的に放射線ホルミシスの恩恵が期待できることになりました。
 そこで今月はこの装置を開発された小笠原英雄工学博士に、改めてラドン浴による放射線ホルミシスの意義と効用についてお話を伺いました。
 小笠原先生は長年、原子力の技術応用分野で活躍され、重粒子線がん治療装置「ハイマック(HIMAC)」の開発や、原子力発電の安全部門に携わり、平成15年には経済産業大臣より原子力安全功労者表彰を授与されています。

電源オンにすると、装置内に溜まった ラドンガスが送風口から送り出される。

放射線ホルミシスとは

小笠原 「ホルミシス(hormesis)」とは、生物にとって通常は有害作用を示すものでも、微量であれば逆に良い刺激(活性)を示す場合があり、この生理的刺激作用を指します。薬学の分野では古くから知られていた概念で、語源はホルモン(hormone)と同じく、ギリシア語で刺激を意味する「hormaein」に由来しています。
 「放射線ホルミシス」は、1982年に米国ミズーリ大学のトーマス・D・ラッキー博士が発表した概念です(図1)。──放射線は低線量なら生体の生命活動を活性化する──というこの概念は、これまで考えられていた「放射線しきい(閾)値なし直線仮説──放射線はどんなに微量でも安全量はなく有害である(図2)」という概念とは大きくかけ離れたもので、関係者に大きな衝撃を与えたといわれます。
 この論文をきっかけに日本では1989年、電力中央研究所の主導で各大学・研究機関で低線量放射線の研究がスタートし、多くの動物実験などによる基礎研究では
・活性酸素消去酵素の活性
・がん抑制遺伝子p53の活性
・DNAの修復
・免疫バランスの向上
・細胞膜流動性の向上
・ホルモンの増加
・血中コレステロール値の減少
・過酸化脂質の減少──などさまざまな効果が明らかになりました。
 今では臨床医の間でも注目され、微量放射線ホルミシス治療をとり入れているクリニックも増えつつあるようです。
 放射線の被曝とがんなど悪性腫瘍にかかる割合(罹病率)との間にも「放射線が全く影響ない状態より微量な放射線下の方ががん罹患率が低くなる」という関係が、疫学調査(日本では、三朝温泉と周辺地域の住民のがん死亡率は全国平均より低いなど)や、動物実験で明らかになっています(図3)。

放射線ホルミシスと ラドンガスの吸入
放射線ホルミシスと放射線 ──鍵となるアルファ線

小笠原 放射線は、人間の体に入ると水の分子などに衝突してエネルギーを失っていきます。そのときに「電離作用」(プラスとマイナスの電気に分離すること)を起こします。
 この電気的刺激が放射線ホルミシスの元になり、その刺激の度合いは放射線の種類とエネルギーで変わります。
 放射線には、アルファ線やベータ線のような粒子線と、ガンマ線やエックス線のような電磁波があります(表1)。
 粒子線は細胞の構成物質と衝突して急激にエネルギーを失い、特にアルファ線はエネルギーにもよりますが、空気中でも約4センチメートルしか飛びませんので、体の外からでは皮膚表面で止まって、体内組織には入りません(表1)。
 他方、ガンマ線やエックス線は電磁波ですから、体内を透過しながら次第にエネルギーを失っていきます。エックス線写真で人体内部の撮影が可能なのは、このような電磁波線の透過性を利用したものです。
 放射線を診断や治療の目的で使う場合、ガンマ線やエックス線は外部の線源から人体の任意の場所に到達できますが、途中にある健全な細胞組織にも影響を与えます。
 他方、ラドンガスを発生源としたアルファ線は、呼吸器から血液中に取り込まれたラドンガスが人体のすみずみに運ばれて、アルファ線が発生した場所の極く限られた数10ミクロンの周辺だけに電離作用をもたらします。
 放射線の生物影響を表す指標の「RBE(相対的生物効果)」ではガンマ線を1とすると、ベータ線は10倍、アルファ線は20倍の影響があり、アルファ線はそれだけ1個の放射線が引き起こす電離作用(プラスとマイナスの電気を作る能力)が大きく、標的場所の至近距離に限って、「刺激」を与えるわけです。

放射線ホルミシスと ラドンガスの吸入 ──ラドン222

──放射線ホルミシスに使われる放射線は、主にラドンガス由来のアルファ線と理解していいのですか。
小笠原 そうです。
 ラドンは、自然界にある86番目の元素(放射性元素)です。ウランの崩壊によりラジウムが生成され(半減期1602年)、そのラジウムの崩壊(アルファ崩壊)によって生成される気体(希ガス)です(9頁図4)。(ラドンとはラジウムから生まれる気体という意味のラテン語が語源です)。常温で安定した気体で、水にはわずかしか溶けません。
 ラドンの仲間には質量数により
3種類あり(表2)、それぞれアルファ線とガンマ線を放出します。
 このうち、放射線ホルミシスには半減期の最も長い「ラドン222(ガス)」が使われます。半減するのに3・82日かかるので、それだけ体内効果が持続するわけです。
 ラドン222は自然界に存在する元素で、私たちは知らず知らずのうちにある程度の量を呼吸(吸入)していますが、放射線ホルミシスによる健康の維持・増進、疲労回復、予防医学などの目的に利用するのに格好の元素なのです。

ラドン222と「ラドン浴」

──ラジウム温泉やラドン温泉、またラドンルームやラドンボックスなども、ラドン222を吸入することで健康効果が見られるわけですか。
小笠原 はい、それらは全てラドンガスという気体を吸入する「ラドン浴」になります。ラドンガスが呼吸によって取り込まれ、さらに肺から血液に取り込まれて、全身を巡るわけですね。
 ラジウム温泉(鉱泉)は、ラジウム(ラジウム226)が温水に溶けたものですが、ラジウムのアルファ崩壊によりラドン222が発生し、このラドンガスは3・82日で半減してポロニウムに変わります。ラジウム温泉は、ラドンガスが微細な気泡となって温泉水から分離・上昇するのでラドン温泉とも呼ばれているのです。
──例えば、ラドンボックスやラドンルームは、ラジウム鉱石が散りばめられているわけですが、どういうメカニズムで体内に取り込まれるのですか。
小笠原 ラジウム鉱石が散りばめられていると、そういうものから出てくるアルファ線は空気中で止まってしまうのでダメですが、
ガンマ線は機能しています。さらにラジウム鉱石からラドンガスが出てきますから、これを吸引することによりアルファ線源として体の中に入ってきます。
そうすると、アルファ線やベータ線が出てきます。アルファ線や、ベータ線のほとんどは、例えば、血管なら血管の壁のあたりで止まってしまうわけですが、その場合も血液中の白血球などへの刺激効果がずいぶんあるわけです。
それと同時に、ガンマ線が出ます。アルファ線が放出されますと、原子核を安定化させるためにガンマ線が出てくるのです。ガンマ線は透過性がありますから、血管の中で発生したガンマ線は周囲の体組織に影響を与えます──ですから、ラドンガスを吸うと、ラドンとラドンより軽い娘核種によるアルファ線・ベータ線やガンマ線が体の中で機能するということです(表3・図4)。
──ラドンガスが体の中でどんどん放射線を出して、次のものに変わっていくということですね。
小笠原 そうです。
 ただ一ついえるのは、ラジウム以前の親の原子核(親核種)は、半減期がすごく長く、ウラン238は45億年ですが、その次からは比較的短くて、ラドンは3・8日でちょうど良く、あとは半減期がかなり短い核種が多くなります(図4)。

熟慮した安全量は 1年間1シーベルト(1Sv/y)

──放射線ホルミシスによる治療は微量の放射線を用いて自己治癒力の活性化を期待するわけですが、現在行われているがんの放射線治療は、がん細胞を放射線で直接やっつけるわけですね。
小笠原 現行の「放射線がん治療」は一度に非常に強い放射線を使ってがん細胞を撃ちます。当然放射線障害のリスクがあるわけですが、医師も患者自身もそのリスクを容認して治療に当たるわけです(表4参照)。
 一方、放射線ホルミシスを目的に医師の管理下の治療や、個人責任で健康管理を目的にラドンガスを吸入する場合は、一度にドーンと浴びせるのではなく、定期的に徐々に浴びせていきます。
 その安全量は線量率でいくと、1年間で100シーベルト/年といわれています(表4・図5・6参照)。しかし、東京女子医大の川嶋朗先生はさらに安全性を考慮し、その約100分の1を安全域として1年間1シーベルト/年を上限とする提案をされています。
 ラドンガスの吸引のみに限ると1シーベルト/年は4万ベクレル/m3(1立方メートルにおけるベクレル)に相当し、これは1年間、毎日24時間4万ベクレル/m3のラドンガスの吸入は安心して利用できるということです。
──では放射線ホルミシス効果を期待する場合、どのくらいの濃度が一番良いのですか。
小笠原 これは放射線ホルミシス治療の臨床データが蓄積されるとはっきりしてくると思いますが、私は医師ではありませんので医師の方々のお話を引用しますと、5000〜6000Bq/m3程度はあった方が良いのではないかと思います。クリニックでの治療の場合は、1回に15〜30分程度ですから、20000〜40000Bq/m3くらいは欲しいといわれる先生もおられます。
 また、オーストリアのバドガスタインの坑道治療では1日1時間、1週間に2回という制限の中で、平均のラドンガス濃度は44000Bq/m3程度だそうです。これはいろんな経験から割り出された数字で、放射線障害の心配からではないと思います。
 1シーベルトは100万マイクロシーベルトですから、安全量の上限とみられている100シーベルト/年に相当する総量線量は、空中ラドン濃度400万Bq/m3のラドンガス(空気lcc内にラドン起原のアルファ線が毎秒4個生じることを意味します)を四六時中、年間を通じて吸収したことに等しいことになります。
 つまり、1年を通じてこれだけのラドンガスを吸入できることになります。
 日本人が自然に吸引するラドンガスによる年間被曝量は約0・4ミリシーベルトです。1000Bq/m3のラドンガスを1年中吸引すると自然被曝量の約65倍になりますが、数百倍までは障害になる影響は無視できるようです。
 したがって、ある程度の健康影響を期待する場合は、1000Bq/m3のオーダーの空気中のラドンガス濃度なら、十分安心して利用できるのではないでしょうか。

移動可能な ラドンガス発生装置 だれでも、どこでも 利用できる

──先生が自宅で手軽にラドン浴ができるラドンガス発生装置を開発されたのはどういうところからですか。
小笠原 ラドン温泉やラドン吸入施設などを利用するには、時間も費用もかかる上に、予約が取れない、遠距離で通いきれない、また移動そのものが困難である方もおられます。
 そこで、自宅で手軽に利用できる移動可能なラドンガス発生装置を開発したわけです。この装置では、どなたでも自宅(寝室、居間、書斎、応接室等)で放射線ホルミシスを体験でき、またオフィスや病室など、どこでも利用することができます。

装置の構造・性能・利用法

小笠原 この装置は、ケース内にラジウム鉱石粉末を板状に成形したラドン発生体を複数枚装着し、発生体の周辺に滞留しているラドンガスを、送風機によって送風口に送り出すようになっています。
──濃度はどのくらいのレベルなのですか。
小笠原 発生体の枚数によって異なりますが、5枚でも三朝温泉級のラドン濃度が得られるようになっています。
 ラドンは空気より重い気体で、発生した場所に停滞し(下に沈む)拡散しにくい傾向があります。この装置ではラドンガスは、送風口より約1・5メートル程度の位置で普通に呼吸することにより得られます。送風口から離れるにしたがって外部の空気と混ざって次第に濃度が減っていきますので、送風口での空気の流れをできるだけ散らさないように吸引するのが最も効率的な吸引方法です。
 ただし、送風口の直近では空気の流れが強すぎて口腔粘膜が乾いたりしますので、水分を補給しながら行って下さい。
 また、吸引マスクを用いて送風口から直接吸引される場合は医師や専門家の指導に従って下さい。マスクでの吸引では発生体の枚数が10枚の場合は、最低でも2万Bq/m3は出ています(写真)。

効果・体験談

──効果とか体験談はいかがですか。
小笠原 臨床データはお医者さんの領域です(表5・6参照)。
 私の周辺での体験談はありますが、ただし、この装置の活用による放射線ホルミシス効果であるかどうかは厳密には不明です。装置を活用されている方の中には病院の治療、食事療法、サプリメント、その他、いろいろ併用されているケースもありますので。それで、私がいつも申し上げているのは「何が効いていても、効いていればOK」ということです。
 それをお断りした上でのお話としては、この装置を活用してから
・壊疽で歩けなかった方が今では車を運転している
・肺がんが消えた──という方もおられます。
 一般に、糖尿病の数値は大抵の方が良くなっておられます。また、最近忘れっぽくなってきたのが、すぐに思い出せるようになったという方もいます。ラドンガスが出ているときはマイナスイオンも多く出ていますから、非常にリラックスでき、安眠できて気持ちがいいという方は多いですね。
 私自身の体験としましては、常に装置の近くで生活するようになってから風邪をひかなくなりました。もともとあまり病気はしない質ですが、これまで以上に免疫力、自己治癒力が高まったということでしょうね。