「うつは薬では治らない」・「病気は自分で治す」

──症状はストレスを受けているという体からのメッセージ

湯島清水坂クリニック院長 (薬を使わない)精神科医 宮島賢也先生

「答えは、症状が教えてくれる」
健康をもたらす食事・考え方・人間関係

 宮島賢也先生が院長を務める湯島清水坂クリニック(東京)では、自律神経のバランスを調整して、免疫力を高める「自律神経免疫療法」※を基本に、薬はできるだけ使わず、患者自身が生活習慣を見直し、改善して、本来もっている自己治癒力を発現することに主眼をおいています。
 宮島先生はさらに一歩進めて、ご専門の精神科医としては全く薬を使わず、患者自らが、症状から原因を学び取り、原因となる生活習慣──考え方、人間関係、食生活等を改めることで、病気を治していくことをサポートされています。
 宮島先生が薬を使わない精神科医となったのは、ご自身のうつ病体験から。7年間の服薬でも一向に治らなかったうつ病が、自然に即した食生活、無理のない考え方、幸せな人間関係などを、養い、築いていくうちに改善したのです。
 自然に反した食生活、自分を苦しめてしまう考え方、不幸な人間関係などはそれがストレスとなり、精神症状だけではなく、がんやリウマチ、アトピーなどを引き起こす原因になります。
 医師や治療師は患者の気づきや回復をサポートするためのパートナーであり、病気を治すのは自分しかいないといわれる宮島先生に、ストレスから解放され、健康をもたらす生活習慣──食事・考え方・人間関係のあり方をお話ししていただきました。

薬を使わない精神科医の誕生
自分も患者さんも薬では治らない

宮島 もともと自分自身がうつで7年間薬を飲んでもなかなか治らない。精神科医になって、患者さんに薬を出しても治らない。そこから精神科の領域で、「薬を使わない精神科医」になりました。
 研修医時代、循環器内科の厳しさについていけず挫折、家庭医に替わりましたが、意欲も湧かず、食欲も出ず、「これはうつ病だな」と自己診断し、精神科を受診、抗うつ薬を飲むようになりました。
 家庭医の研修に取り組めるようになったものの、元気がいい時は他大学まで研修に行ったり、不安になってくると死にたくなったり、気分の落差が大きく、この頃より薬を気分安定薬に変更しました。
 最終的には、全身を診る家庭医も幅が広すぎると思い、自分が受診している精神科は診断基準に従っていく診療なので、これなら自分でも間違わずにでき、自己治療にも役立つかと思い、精神科に移りました。
 病院の精神科医になって、結構ストレスを感じながら診療する中で、自分も患者さんも薬では治らない。薬の治療は何をもたらしてくれるのか、考えるようになりました。

根っこの原因は解決しない。薬の治療がもたらすもの

宮島 薬の治療が何をしてくれるのか、どこに病気の原因があるのかを考えていったわけですね。
 今の医療は、血圧や血糖値が高いと薬を出して基準値に落とし込む、がんになったら手術して切り取ったり、放射線や抗がん剤で抑え込む。しかし、血圧の薬を飲み続けているけどだんだん心臓や脳の病気が重なっていき、 精神科では薬はどんどん増えていく、がんは摘出しても再発する。
 患者さんが、病院に行くのは病気が治るためで、薬を飲むにしても最終的には治って薬から解放されることを期待しています。けれど、今の医療は一回かかると、むしろリピーターになって薬が増えていってしまう人の方が多い。
 今の医療では、根っこの原因を探ったり、解決することはほとんど考えないし、しない。僕は今の医者は、健康の専門家でも、病気の専門家でもなく、対症療法の専門家だと感じています。

根っこの原因は、生活習慣
──食生活・考え方・人間関係のストレス等

宮島 軽躁とうつを繰り返しながら精神科医を続けていく中、患者さんが自殺したり、統合失調症の方に薬を出すと一生薬から離れられなくなるので診断に不安を覚えたり、精神科医も辞めようかと思いましたが、結局止めたのは薬でした。
 家庭でも妻と主導権争いをしたり、イライラを妻にぶつけたり、そんな時に自己啓発の本を読み、健康について考えるようになり、自分を変えてみることに挑戦。
 まず変えたのが食生活です。それまでストレスを居酒屋で発散し、アルコールや油っこい肴を飲んで食べて今より20 kg近く太っていました。自己啓発本で学んだ「ナチュラル・ハイジーン」──自然法則に従って食生活を本来の姿に戻す。つまり、人のご先祖様のお猿さんの食べていた食べ物、果物、野菜、木の実、豆類などをなるべく自然のままで食べる──という食生活に変えたら、2ヶ月で20 kgやせ、気力の高まりを感じるようになりました。
 これなら薬を止められる。
 まずは自分で実験。7年間飲み続けた気分安定薬を止め、考え方を変えていき、人間関係を学ぶために心理学の勉強をスタートしました。
 2007年9月、病院の精神科医を辞め、食事とサプリメントでの栄養療法で病気を治すクリニックで、薬は使わない医療に挑戦することに。うつは自分の体験から自信がありましたが、統合失調症は正直不安でした。しかし、統合失調症でも本人に治す意欲があれば、薬を慎重に減らしながら、栄養療法が功を奏していきました。
 さらに、患者さんは症状が出る前にものすごいストレス状況にあり、人間関係に問題を抱えていることも見えてきました。食事や栄養と同時に、人間関係や考え方を変えることにも力点をおきたいと、栄養療法だけで良いというクリニックは退職。
 自分のクリニックを持ち、まずは精神症状の病気では薬を使わない。メンタルセラピーと食事で症状に対応していきました。同時に心理学の勉強も深めていく中、薬を使わない療法として自律神経免疫療法も学ぶようになったわけです。

病気は自分で治せる!
症状が教えてくれる メッセージを受けとろう
心の病気も体の病気も 根っこは一緒

宮島 昨年4月から湯島清水坂クリニックに来まして、精神症状だけではなく、がんやリウマチ、アトピーといった身体症状にも対応しています。
 そこで感じるのは根っこは一緒ということ。
 自分を苦しめてしまう考え方、自分を責める考え方がストレスになって、それを年単位で抱えていると精神や身体にものすごいダメージを与えてしまい、その時は我慢して乗り切っても、その後で精神症状や身体症状が顕れてきたりします(図参照)。
 根っこの原因を解決しなければ症状や病気は治らない。
 今、病気の原因は、食生活とか考え方とか、人間関係のストレスだとかが一番大きいと考えています。そして、病気と呼ばれている症状は、考え方、生き方が苦しいことを教えてくれている。そのことを学んで、患者さんが自分で考え方や生き方を変えていくことで、健康に、幸せになっていく。自分はそのお手伝いをしているのです。

症状のほとんどは、ストレスへの反応。 警告・警報のメッセージ

宮島 いろいろな症状を診て気づいたことは、大概の症状は、ストレスによる反応であり、生活の偏りを気づかせてくれるメッセージではないかということです。
 精神的症状にしても身体的症状にしても、私たちが病気と呼んでいる症状自体が「ストレスを受けているよ」と、苦しい状態を警告してくれるもので、例えば、頑張りすぎとか、悩みすぎ、薬の飲みすぎなどへの警告ではないでしょうか。あるいは、身体が「休みたい」といっている声ではないでしょうか。その症状が、自殺や過労死から守ってくれているのではないでしょうか。
 それを今の薬の治療では、その警報装置のスイッチを切ってしまう。警報装置が鳴っていたら、その鳴っている原因を直す時なのです。
 ぜひ、病気、症状への見方を変えて、症状は、自分の健康を守ってくれている健康サインと捉え、その症状が訴えることを聞いて、それまでの生き方や考え方を楽にしてあげると、心身は健康になれるようになっていると思うのです。

人間は本来、 健康な状態が自然である

宮島 多くの人は何かしないと病気になってしまうと思っています。放っておくと、病気の方に傾いていってしまうという不安。
 しかし、人間は本来健康な状態であるものです。お猿さんのような暮らしをしていると健康でいられるのに、残念ながら今はストレスの多い社会になって、健康が害されている状態、「病気」という症状を起こしています。
 しかし、その症状自体、健康を維持していくためにいろいろ出してくれているものなのです。例えば、風邪の症状では、身体の中に溜まったものを鼻水や咳として出してくれる。お腹にきたら下痢をして出してくれる。あるいは、発熱して代謝を高めてくれる。
 このように、人間の身体は健康になる仕組みができている。自己治癒力があるのです。
 それなのに、症状を薬で止めてしまうと、長引いたり、場合によっては大きな病気になっていきます。

自分らしさの回復 ストレスへの対処
──答は自分が持っている

宮島 ストレスへの対処は、僕が答えるよりも、患者さん個々に考えてもらった方が予想しない改善策が出てきて、それが本人にとってすごく楽になったりします。
 僕が自分の経験で話すと、僕よりも小さい人間をつくってしまったり、たまたまうまく合えばいいけれど、合わなかったら本人が満足いくものになりません。
 重要なのは、自分らしさの回復なんですね。

考え方を変える
──責めない・比べない

宮島 がんもリウマチも膠原病なども、今までの考え方、自分を苦しめる考え方、自分を責める考え方、あるいは人と比べてしまう考え方を手放すと、快方に向かっていきます。
 そういったことを気づかせる機会を「病気」という症状が教えてくれているので、自分を責めず、相手も責めずに、自分の行動パターンや考え方を変えていくと、健康をつくり出せるようになっていきます。
 人と比べて幸せになろうとしても、なかなか幸せになれません。しんどさがつきまとい、自分よりも弱い人を探してしまう。人と比べるのではなく、自分のいいところを見てあげる。人の良いところは誉めてあげる。人が輝いていたら、「私がダメだ」ではなく、その人を「素晴らしい」と誉めてあげていると、自分にいい循環が回ってきます。

安全ブレーキは 自分への信頼・肯定

宮島 ストレスの大きな原因は、頑張りすぎ、悩みすぎ。
 今、安全ブレーキがついていない状況になってしまって、苦しくても頑張って、自分を病気にしたり、過労死したり、自殺まで追い込んでしまうケースが多く見られます。
 そこにいく前に、自分を大切にする、自分を信じてあげる、自分を大好きになるという安全ブレーキをつけて欲しいと思います。
 子育て中の人、これから子育てする人は、子供さんに基本的な信頼感・自己肯定感という安全ブレーキをプレゼントしてあげて欲しい。
 「自分を好きになれない」、「自分を信じられない」、「自信がない」という方は、親を許し、周囲を許し、過去を許し、自分を許して、今から自分を大事にしてあげて下さい。

周囲ができることは 笑顔のプレゼント

宮島 目標が定まってないと意欲は出てきません。目標を見つけて、何をやっていきたいかが見えてくると、人は動き始めるものです。
 目標が定まらないために、怠けや我がまま病と思っても、親や周囲は、本人の生きる力を信じて待ってあげる。
 「今のままでいいの?」、「そんなんでいいの?」などと口にはしなくても、思っていることは顔に出ます。眉間のシワを解いて、笑顔のプレゼントを送って、見守って欲しいと思います。
 それには、見守る周囲も、自分を休ませてあげたり、自分の好きなことや、やりたいことをして、自然に笑顔が出るようにしてあげること。そうして、背中で「人生、楽しんでいいんだよ」というメッセージを送ってあげて欲しいと思います。

相手が助けを求めたら まず聞いてあげよう

宮島 そして、苦しい時はお互いに「助けて」といえる関係をつくっていくことが大事だと思います。
 「手伝えることある?」というサインを出して、「今はない」と返されたら、笑顔で見守り、相手が「話したい」、「助けて」とサインを出してきたら、まず相手のいいたいことを聞いてあげる、受け入れてあげる。
 「聞くしかないんです」という人がいますが、「聞く」ってすごいこと。家族が相手の話を聞けるようになったら、精神科医、心療内科医、カウンセラーは必要なくなります。

人間関係のあり方

宮島 人間関係のあり方はぜひ伝えておきたいと思います。
 1点目は、相手は変えられない。
 「私が正しい、あなたが間違ってる」、「いや、あなたの方が間違ってる」、「いうことを聞いてくれたら幸せになれるのに」と思っていると、幸せになれるのはいつの日でしょうか。
 パートナーにはパートナーの、子供には子供の考え方があり、それぞれ違いがあっていいというところを大事にし、相手は変えられない、同時に、自分も相手に変えられない。互いに影響を与え合っても、変わるかどうかは自分で選べる、自分の人生は自分で決められることを自分自身にいってあげて欲しいと思います。
 2点目は、一緒にいたいのなら、相手をそのまま受け入れる。
 前提条件の「一緒にいたいなら」が大事で、一緒にいたいかどうかわからないのに相手を受け入れようとして苦しくなってしまっている人は沢山います。
 体がメッセージを発している時、症状を出している時は、一度自分がどうしたいのかを考えてみます。うまくいっていないことがあったら、違うやり方を試してみる。人生に正解もマニュアルもない。試行錯誤しながらいい方向へ向かっていって下さい。
 3点目、それでも相手に変わって欲しい時は、自分が先に変わる。
 変わるかどうかは相手が決めること。自分が変わることで、相手が良いと思ったら、変わるかもしれない。相手が離れていったら、それも、相手は成長する力、学ぶ力があるので、信じて待っていてあげて下さい。
 4点目は、義務と責任の関係ではなく、愛と感謝の関係を築く。
 義務と責任の関係だと苦しくなります。やって当たり前、やらなかったら「何で?」となる。
 「会えてよかった」「生きていてくれてありがとう」「生まれてくれてありがとう」という愛と感謝の気持ちを大事にして、やれない時はお互い様。やれる人が代わりにやってあげたらいいのです。
 介護や子育てでも一人で負わず、自分がしんどくなった時に、暴力が出たり、きつい言葉が出てしまう時は見直す時期と考え、一人で悩まず、周りの人に相談したり、第三者機関に相談して、自分に無理をしないであげて欲しいです。

人間関係を打ち壊す 悪魔の習慣

宮島 人間関係を打ち壊す簡単な方法があります。
 相手を責めたり、文句をいったり、批判したり、ガミガミいったり、罰したり脅したりしていると、相手との関係は簡単に離れていきます。
 また、相手の意思を変えようとしたり、餌や媚びで釣ったり、比較したりすると、相手をどんどん苦しめていくことになります。
 こういう悪魔の習慣を、自分に対して使うと、例えば自分を責めたり、自分と人とを比べたりしていると、自分が苦しくなってしまうので、ぜひ悪魔の習慣は捨てて、相手を、自分を、受け入れる習慣、幸せにする習慣を身につけて欲しいと思います。

植物食中心に、 心配・不安を手放し、 人生を楽しむ
食生活の影響

宮島 自分が薬を止めた上では、食事を変えたことが大きく役に立ちました。
 お猿さんの食べ物を基本にして、お猿さんが食べていないもの、肉や乳製品、加工食品など、人間だけが食べているものを食べていくと、どんどん精神の死、身体の衰退へつながっていくような気がします。
 果物や野菜など、植物食中心の食事にストレスを感じる人は、サプリメントも使いながら、徐々に移行していくといいと思います。
 ただ、食事を頑張りすぎている人を見ていると、「ねばならない」に捉われて苦しんでいる人も結構いるように感じます。完璧主義はかなりストレスフルになるので、そこは楽にしておかないと、と思います。
 精神症状では、白砂糖、カフェイン、アルコールなどを沢山とっていると幻覚・妄想が見えやすくなります。ニコチンもそうですね。精神科の病棟では、ジュースやお菓子、タバコは制限しないんです。そういう意味では、ストレス発散に身体に合わないものを沢山とって、それが身体的ストレスになるという悪循環が起きているように思います。
 子供の食事を変えていくと穏やかになったり、学校給食でもそうして実績を上げているところがあります。病院でも、患者さんが薬から解放されるような食事を提供してあげられたらいいと切に思っています。

サポートになるもの

宮島 心の持ち方、考え方を変えるサポートになるのが、食生活だったり、趣味や生き甲斐だったりします。
 また、現在のクリニックに来て感じるのは、お話をしていてちょっと固いなと感じる時は問診を短かめにして、鍼灸師さんに身体をゆるめて温めてもらうと、温かい気持ちとか、中には幸せを感じられる人もいます。 爪もみを始めて、受診前に心身が楽になってきたり、「眠りやすくなった」とか、「腸が動き始めて便が出やすくなりました」という方もいます。
 クリニックでは毎月1回、診療を終えてから18時半から20時まで「宮島講演&相談会」※を開いています。その講演の中でも、その場で楽になる方、講演を何度か聴いて薬から解放される方、休職状態から復帰される方がいます。家族で参加すると、家族の中でバチバチ感じているところが楽になったりしていますね。
 ぜひいろいろ試みて、心配や不安を手放して、人生を楽しんでいただきたいと思います。

メンタルセラピーで 精神医療を変えていく

宮島 今、カウンセラーとはまた違った、実践的にうつの予防、改善の手助けをするメンタルセラピストを養成していて、精神科医療にとって代わるものをつくりたいと思っています。
 精神科医療の現状と、症状が示す心の状態を理解し、薬を使わずに症状を軽減し、心の状態を健全に保つ食生活や人間関係、潜在意識が及ぼす影響などを学んでいただき、多くのメンタルセラピストを輩出して日本の精神科医療を変え、薬を飲む人をなくし、自殺者をなくし、健康な人、幸せな人を増やしていきたいと思っています。
※「宮島講演&相談会」のお問合わせは
 湯島清水坂クリニック TEL 03(5818)6886に