ケフィアによる豆乳 発酵食品の意義と可能性

健康効果抜群の、豆乳とケ フィアのコラボレーション

「ケフィア豆グルト」の誕生

元東京農業大学教授 小原直弘先生

ケフィアと豆乳から生まれた、本ものの健康食品
豆乳ケフィアヨーグルト「ケフィア豆グルト」の誕生

 優れた栄養価と理想的な栄養バランスを誇り、さらに近年次々に機能性成分が解明され「機能性成分の宝庫・塊り」といわれる大豆。
 その大豆から生まれた豆乳を、長寿地域で知られるコーカサス地方で飲み継がれてきた発酵乳「ケフィア」と融合したのが「ケフィア豆グルト」です。
 獣乳の発酵が得意なケフィア種菌(ケフィアグレイン)を、豆乳発酵させることに成功した蔭には、小原直弘・元東京農業大学応用生物学科教授をはじめとする東京農業大学の研究者や多くの関連企業の協力がありました。
 自然食ニュース社も「ケフィア豆グルト」の美味しさと健康力に感動、販売の応援をすることになりました。
 そこで今月は、現役時代からケフィアを研究し、「ケフィア豆グルト」の誕生に一役買われた小原直弘先生に、ケフィアと「ケフィア豆グルト」についてお話を伺いました。

ケフィアとは
長寿地域コーカサスを発祥に 世界に広がるケフィア

小原 ケフィア(Kefir)はロシアではケフィールと呼ばれ、グルジア、アルメニア、アゼルバイジャンの3ヶ国にまたがるコーカサス (カフカス)地方(図1)を、発祥の地とする発酵乳飲料です。
 コーカサス地方は世界三大長寿地域の一つとされ、この地に健康長寿者が多いのは、この地方独特の発酵乳、ケフィアに鍵があるのではないかということで研究が始まり、旧ソ連時代に科学アカデミー微生物中央研究所で相当調査研究されました。医療にも取り入れられて多くの臨床報告があり、今でもロシアでは沢山のケフィア商品が売られています。
 世界的に注目されるようになったきっかけは1938年、WHOの人口調査(20ヶ国60地域対象)で、コーカサス地方は百寿者の割合が最も高く、昔からケフィアが常食されていたことが明らかになったからです。
 1982年に旧ソ連科学アカデミー微生物中央研究所が工業生産に成功してからブームになり、東欧から北欧、さらに北米などにも広がりました。日本では10〜20年前「ヨーグルトきのこ」の名で口コミで広まり、今でも愛用者がいるようです。

一般のヨーグルトとの違い
──乳酸菌と酵母菌の共生発酵と「ケフィアグレイン(ケフィア粒)」

小原 このヨーグルトきのこは、スターター(種菌)となるカリフラワー状の菌の塊を牛乳に入れて発酵させ、それを濾したものを飲用し、できた塊はまた種菌として殖やしていくわけです。これはケフィアの伝統的製法(図2)にほぼ準じています。
 カリフラワー状の菌の塊は「ケフィアグレイン(kefir grain;ケフィア粒)」(写真)と呼ばれ、ケフィアの大きな特徴となっています。
 ケフィアと一般のヨーグルトの大きな違いは、ヨーグルトが乳酸菌のみの発酵であるのに対し、ケフィアは乳酸発酵と酵母によるアルコール発酵が同時進行してつくられることにあります。そのため、ケフィアは二酸化炭素(炭酸ガス)と微量のアルコールを含み、独特の臭いとピリッとくる発泡性、適度な酸味があります。
 ケフィアグレインはプルプルした弾力のある塊で、その中には多種多様な乳酸菌と酵母が複雑に共生しています(表1)。
 ケフィアに含まれる乳酸菌は、胃酸や胆汁酸に対する耐性があり、ヨーグルト中の乳酸菌のほとんどが胃酸で殺されてしまうのに対し、我々の研究ではケフィア乳酸菌の10〜33%は生きたまま腸に達することを確認しております(図3)。
 微生物は通常、他を排除して生き残りを図る一方で、単独では生育できない環境に他の微生物と協力して生育する共生がよく知られています。ケフィアはまさに乳酸菌と酵母の共生によってできる産物です。
 乳酸菌の有効性は菌種の違いによってさまざまであり、菌種が多いケフィアの乳酸菌は、菌の種々の機能性を発揮する可能性が高いのではないかと推察されます。

ケフィランの生成と ケフィアの健康効果

小原 ケフィアグレインを塊状に固める糊の作用をしているのが、「ケフィラン」というネバネバした粘質性多糖類です。
 乳酸菌が、培地となる乳中の乳糖を分解して単糖(グルコース、ガラクトース)をつくり出し、その単糖を酵母が食べてアルコール発酵し、次に他の乳酸菌が生育します。
 この過程でpHが下がり、一番最後にpHが下がった状態でよく働く菌(ラクトバチルスケフィラノファシエンス)がケフィランをつくり、ケフィアグレインを構築していくわけです。その中にはいろいろな乳酸菌や酵母、あるいは酢酸菌や乳中の蛋白質などが一緒に含まれて増えていくわけですね。
 ケフィランには、キノコの多糖類(ベータグルカン)と同様に、抗腫瘍活性や免疫活性が認められています。このケフィア独特の多糖類が、他のヨーグルトとは違う健康効果をもたらしている可能性もあり今後の研究が期待されます。
 かつてはケフィアの健康効果、治療効果は、民間伝承や臨床報告が多く、旧ソ連科学アカデミー微生物中央研究所のコロレバ博士は著書で、「ケフィアは優れた治療効果が認められ、医療機関では広く高血圧、心臓の阻血症およびアレルギー性疾患患者の食事療法に取り入れられている他にも、消化機能の向上、抗腫瘍活性、免疫機能の賦活、腎臓病、循環器病、貧血、神経症──など様々な疾病に効果がある」と紹介しています(表2)。
 近年は日本でも薬理学的に検討した報告が見られるようになり、動物実験では、先程のケフィランの抗腫瘍活性や免疫活性の他に、凍結乾燥したケフィアにも抗腫瘍活性が認められています。
 また、ケフィアのスフィンゴミエリン(リン脂質の一種)にはインターフェロンの生産増強効果が認められています。
 我々の研究では、ケフィア乳酸菌は胃酸や胆汁酸に強く(7頁図3参照)、中でもGKL─2には胆汁酸の吸着・排泄促進作用が高いことが明らかになりました(図4)。さらに、全てのケフィアの乳酸菌に胆汁酸の腸管循環による回収阻害の可能性があることが示されました(図4)。
 この実験結果からは、ケフィアの摂取が高血圧や高コレステロール血症、大腸がんなどの予防・改善効果につながることが期待されます。
 また、ケフィアの美肌(美白・保湿)作用はよく知られていますが、それは酵母の働きによるところが大きいと考えられます。

豆乳ケフィアの誕生
ケフィアの種菌を 豆乳で発酵する

小原 ケフィアは牛、山羊、羊など家畜の乳からつくられ、生産量が多いのはやはり牛乳です。味の点でも癖がなく、ケフィア商品のほとんどは牛乳製品です。
 乳酸菌は酪農地帯のヨーロッパでは、牛乳に生えてチーズやヨーグルトをつくり、それらの乳発酵食品をメチニコフが長寿説の中で高く評価したところから研究が進み、乳酸菌イコール乳発酵食品のイメージがあります。
 しかし実際は、乳酸菌は糖質のあるところにはどこにでも存在し、日本の漬け物、韓国のキムチも乳酸菌発酵ですし、日本酒なら生酉元だとか山廃酉元など、酉元をつくる最初の大きな働きをするのは乳酸菌です。
 むしろ、牛乳の糖分である乳糖(ラクトース)を発酵できる乳酸菌は少なく、酵母も少ない。動物の乳の中にはラクトフェリンなど微生物を抑える成分もあるので、それに耐えるもの、選び抜かれたものが今のヨーグルト菌となっているわけです。そこへいくと、グルコース(ブドウ糖)やフラクトース(果糖)はどんな乳酸菌でも発酵できます。
 酵母も同じように糖源があるところならどこにもいますが、ケフィアの酵母の中にはブドウ糖など単糖しか発酵できないものもあります(7頁表1参照)。ですから、牛乳の中では増殖するはずがないのですが、共生関係の中で乳酸菌がラクトースを分解してできたブドウ糖やガラクトースを食べて増えるわけです。
 ですから、含有する糖が異なる豆乳でケフィアをつくるのは簡単なことではなく、実際、豆乳ケフィアを開発した技術陣は、豆乳の培地の中でケフィア菌群の共生をさせるために、多くの試行錯誤、工夫を重ねたことと思います。

ケフィアを豆乳でつくる 良さ・メリット

小原 豆乳ケフィアの誕生にあたっては、今豆乳そのものの健康効果が評価されている中、それにプラス、ケフィアの菌の効果が加われば、これはより一層良いものになるだろうと思います。
 豆乳で発酵させる良さはまず、豆乳の方が牛乳より脂質が少なくしかも不飽和脂肪酸であるのに対し、牛乳の方は過剰にとると動脈硬化や高コレステロール、肥満が心配される飽和脂肪酸であることです。
 本来牛乳は子牛にとっての完全食であり、飽食している日本人がいつまでも牛乳を飲むことで、高血圧や高コレステロールの一因になっているとするならば、豆乳を用いる価値は大きいと思います。
 さらに、豆乳を使う大きなメリットには、ゲニスチンをはじめとする、牛乳にはない大豆イソフラボン効果があげられます。
 大豆イソフラボンの女性ホルモン様作用では、更年期障害の改善効果、乳がんの予防効果、骨粗鬆症の予防など多くの効能がいわれています(12頁表3参照)。
 豆乳ケフィアの中ではゲニスチン(配糖体)は吸収されやすいゲニステイン(アグリコン型)になっていますので、豆乳ケフィアではこのゲニステインが豆乳よりも増えているわけです(図5)。
 また、豆乳(大豆)中の糖(スタキオース、ラフィノースなど)のほとんどは人間では消化できず、腸内に入ると大腸の下部、ビフィズス菌が働く結腸あたりまで到達します。ですから、大豆の糖を餌にビフィズス菌が増え、そこでビフィズス菌が乳酸などの酸をつくって、老化に関わるウエルシュ菌などの悪玉菌の繁殖を抑えてくれるのです。
 ところが、乳糖を含めて他の糖は、そこまで到達する以前に、腸管が吸収したり、他の微生物が喜んで餌にしたりするので、悪玉菌を増やしたりもするのです。
 腸内細菌叢における大豆、豆乳の良さは、まさにそこにあるわけです。
 逆にいえば、大豆の糖はケフィアの菌にとっても発酵しづらいわけですが、そこをクリアして豆乳ケフィアをつくることに成功した技術には脱帽します。

大豆食品として ケフィアをとる意義

小原 自然のものをいただいて、それが健康に良いというのは大変結構な話です。健康な食生活を考えると、やはり日常食から必要な栄養成分を補給するようにしたいものです。
 その点、豆乳をケフィア菌で発酵させた「ケフィア豆グルト」は、食べることによって健康な身体をつくる、まさに、本来あるべき健康食品であると思います。
 ケフィアの健康・美容効果は昔から知られており、研究が進むにつれて臨床的にも広く認められるようになりました。一方、大豆は栄養価も機能性も高い食品として知られ、大豆からできた豆乳は戦前までは母乳の出の良くない母親が乳児に豆乳を与えて母乳の不足を補ったものです。
 こうした健康的に優れた食品を融合し、さらに食品として美味しい「ケフィア豆グルト」は栄養的にも味の面でも優れた食品です。これを多くの人々が継続的に摂取することで健康増進につながるとすれば、どんな試験研究にも勝ると思います。