高血圧の新基準と、 体質別の生活改善による克服法

━高血圧食の基本は、玄米・味噌汁の一汁三菜━

水嶋クリニック院長 水嶋丈雄先生

基準値が厳しくなっていく中、生活習慣の修正を第一に

 現在、日本の高血圧患者は約4000万人、予備群は約1500万人と推定されています。
 血圧が高いほど脳卒中、心筋梗塞、慢性腎臓疾患などの合併症にかかりやすく、死亡率も高くなることが知られています。
 しかし、高血圧患者の約半数は管理不十分と推定され、また最近の研究では低めの血圧でも脳卒中や心筋梗塞を起こす危険性が高いことが明らかになっています。
 こうしたことから、日本高血圧学会は今年1月、5年ぶりに「高血圧治療ガイドライン」を改定。
これまで正常高値は、最高血圧130〜139、最低血圧85〜89としていたのを、
・若年・中年者(15〜64歳)は最高130、最低85未満
・高齢者(65歳以上)は最高140、最低90未満
・糖尿病や心筋梗塞後の患者では最低血圧80未満──と目標値を厳しく設定しました(表1・2)。
 基準値が厳しくなることで健康意識が高まり、予防につながるのは望ましいことですが、その一方で、薬の服用者が増えることや、それによる薬害が懸念されています。
 高血圧に限らず、生活習慣病の予防と改善には、まずは生活習慣の修正が求められています。
 水嶋丈雄先生は長年、農村医学・予防医学の先駆として名高い長野県の佐久総合病院に勤務され、病院所属「東洋医学研究所」の医長として漢方・鍼灸の治療と研究にあたられました。現在は水嶋クリニックの院長として、東洋医学をはじめとする伝統医学を根っこに現代医学を統合した全人的医療を施されています。
 「各人の体質を考慮した漢方治療はオーダーメイド治療。まずは薬に頼らず、食べ物で工夫」といわれる水嶋先生に、体質別に分けた高血圧の対処法、生活習慣の修正法を教えていただきました。

高血圧の新基準 厳しい一方で よりきめ細やかに

──今回の高血圧を含めて、生活習慣病の基準値は年々厳しくなる傾向がありますね。
水嶋 今回の新基準では、目標値がやや厳しくなり、リスク別では正常高値の人でもメタボリックシンドロームや喫煙など血圧以外の危険因子が1〜2個ある人は「中等リスク」、危険因子が3個以上、もしくは糖尿病や慢性腎臓病など他の病気がある人は「高リスク」として降圧薬による治療が必要としています(表1・2・3)。
 一方で、緊張やストレスからくる「白衣高血圧」や「職場高血圧」などの問題も考慮し、家庭で血圧を規則的に測ることが重要だと位置づけています(表3・4)。
 このように、今回のガイドラインはよりきめ細やかになったともいえ、一概に厳しくなったわけでもないのですね。

薬は最小限度に抑え まずは食事の是正から

──基準値が厳しくなったのは、厚労省と薬品メーカーの癒着も指摘されていますが。
水嶋 確かに、未だに今の医療は薬を出すほど、検査すればするほど、儲かるという仕組みがあり、そこら辺は改善していかないといけません。
 多くの病気は薬がもたらしているという側面もあり、薬はなるべく少なく必要最低限に抑え、自然治癒力を強くしながら病気を治していくのが一番です。それには医療制度を変えていく必要があり、今私もその一端をお手伝いしています。
 今は良い薬も沢山出ており、私も必要最低限は処方しますが、薬は少ないのに越したことなく、高血圧も高脂血症も糖尿病もいわゆるメタボリックシンドロームを中心に、まずは食べ物で工夫していくことが最優先になります。

高血圧のタイプと、 なりやすい体質 なぜ、血圧は上がるのか
──加齢・動脈硬化との深いかかわり

水嶋 血圧とは、心臓から送り出された血液が血管壁に及ぼす力をいいます。高血圧はこの血圧が正常よりも高い状態をさしています。
 血圧が上昇するのは、@心臓から送られる血液量(心拍出量)が増える場合、A動脈硬化など血管が硬くなっている場合、B血圧をコントロールしている腎臓が障害されている場合があります。
 直接的な原因としては、@心拍出量の増加と、A末梢神経の抵抗があり、これには加齢が深くかかわっています。
 加齢で血管が硬化し動脈硬化が進むと、血流が悪くなる結果、末梢血管の抵抗が増大し、その抵抗に負けないように心拍出量力が増大するからです。このように、動脈硬化と高血圧は悪循環的に相関して互いのリスクを高め合っています。

生活習慣がつくり出す 高血圧になりやすい 3つの体質

水嶋 高血圧は、原因がよくわからない「本態性高血圧」と、腎臓障害や内分泌異常などが原因となる「二次性高血圧」に大別されます。そのうち、日本人の9割以上を占めるのが本態性高血圧です。
 本態性高血圧は、原因ははっきりしないものの、最近では遺伝的要因にプラス、食塩の過剰摂取や肥満、ストレスなどの生活要因が重なって発病することがわかってきました。
 しかし、遺伝的要因を持っていても、高血圧になる人もいれば、ならない人もいます。この違いは体質が関係しています。
 体質といっても、生まれつきのものではなく、血圧を上げる体質は、悪い生活習慣のために後天的に血圧が上がりやすくなった、いわば長年の生活習慣がつくり上げた体質です。例えば、塩分の多い食生活や、運動不足、肥満、多量の飲酒、喫煙、過度のストレスなどが積み重なって、内臓の働きが衰えたり、体に備わっている血圧を一定に保つ働きが損なわれたりして、高血圧になりやすい体質に変わっていくわけです。
 高血圧になりやすい体質は、大きく次の3つに分類できます。
@心臓虚弱体質は、動脈硬化も含みます。
 心臓から血液が全身に送られる時に通る動脈の血管壁に中性脂肪やコレステロールが付着していると、血液がスムーズに流れるように心臓は強い力でポンプを働かせるために疲弊し、結果的に血圧が上昇してしまうタイプです。
 甘い物や肉、高脂肪食の多食、ドカ食い、酒飲みの人などが当てはまります。
 高血圧の他に、疲労感、息切れ、動悸、不整脈、めまい、失神などの症状を起こすことがあります。
A腎臓虚弱体質は、ふだんから塩分をとりすぎて、血液中のナトリウム量が増えて腎臓の働きが悪くなってしまったタイプです。
 腎臓の働きが悪くなると体液がうまく排泄されず、血液量が多くなるために血圧が上昇しやすくなります。
 塩辛いものや濃い味つけを好む人がなりやすい体質です。
 尿量が増えたり減ったり、むくみやすくなったりします。
B神経虚弱体質はストレス体質とも言い換えられます。
 真面目で、物事を真剣にとらえる人や几帳面な人に多く、ストレスを深刻に受け止め、イライラしたり、落ち込んだりするのをくり返すとなりやすくなります。

血圧を調整する 腎臓から出るホルモン 「レニン」の量で分けると

水嶋 内科的には最近は腎臓から出る血圧を上げるホルモン「レニン」の量で分けることが多く、レニンが随時高いケースは「老化による高血圧」、レニンが低いケースは「ストレス性の高血圧」とされています。
 腎臓は血圧を調節している臓器です。血圧が上昇すると尿量を増やして血液量を減らし、血圧が下がると尿量を減らし、血圧をコントロールしています。また、腎臓は血圧が下がるとレニンを分泌し、レニンは細動脈を収縮させる「アンギオテンシン」を生成して血圧を上げます(レニン・アンギオテンシン系)。
 レニンは腎臓の動脈に狭窄があると増え、一方で、高血圧は腎臓の糸球体の内圧を上昇させたりして腎臓を障害しますので、腎臓障害と高血圧の関係も悪循環になりやすくなります。

タイプ別の高血圧の対処法
高血圧食の基本は 「補腎」となる 玄米・味噌汁の一汁三菜

水嶋 高血圧の治療は現在、薬で血圧の上昇を抑える対症療法が中心ですが、高血圧になりやすい体質を見極めて、その体質を改善すれば根治に向かい、血圧が低く安定するようになってきます。
 漢方でいう「補腎」の食べ物、すなわち腎臓を守る食べ物は、レニンを落とす働きを持っています(表5参照)。
 玄米食はメタボリックシンドローム全般、中でも高血圧では一番のベースになります。玄米のミネラルは、血圧を下げる上で非常に重要です。玄米に含まれているミネラルは、体にとって「補腎」、いわゆる腎性の活性酸素を取ってくれ、腎臓から分泌されるレニンを下げる働きを持っているのです。
 中国漢方でいう補腎は非常に重要で、補腎とは結局、腎の血管の弾力性を強くすることなのです。血管の弾力性を強くすることによって、腎臓の糸球体の濾過機能を強くし、なおかつ腎の輸入動脈の弾力が良くなり、レニンが落ちてきます。それが高血圧対策にもなり、不老長寿、老化防止にも相繋がる中国の知恵だったのです。
 その代表が玄米であり、味噌もそうなのです。味噌には小腸の絨毛細胞を強くする働きもあり、もちろん高塩分ではいけませんが、血圧には非常によろしいのです。今、検査はCTなどの放射線の被曝量が気になります。それで一番影響されるのは小腸の絨毛です。私はレントゲンやCTを撮られた時には「必ず味噌汁を飲んで小腸を守って下さい」と指導しています。
 ただし、漢方では玄米は「涼」という体を冷やす性質を持ちます。胃腸の弱い人、体が冷えている人は、圧力鍋で炊いたり、五分搗きにしたり、発芽玄米にすると良いでしょう。
 結局、塩分を控えた上で、一汁三菜でバランス良くということですね。味噌汁は具沢山にして、あとは野菜と魚、漬け物など少々。
 魚は白身魚でも、また青身魚のEPAやDHAも血管の若さを保ち、活性酸素を防ぐ上でも大変良いです。イワシを製剤化した「エバデール(EPA剤)」という薬は血流改善等により動脈硬化、高脂血症、高血圧に効果があります。
 塩の主成分であるナトリウムは水分を取り込む性質があり、血液中の水分が増えて血液量が増えると、血管内の圧力が高まり、血圧が高くなります。
 健康を維持するのに必要な食塩の最少摂取量は1日当たり0・5〜1・3gと報告されています。先進国の食塩摂取量は約10〜15gですから、我々がいかに塩分をとりすぎているかがわかります。
 一方、高血圧の人では、血圧が食塩に敏感に反応する「食塩感受性」タイプと、反応しにくい「食塩非感受性」タイプがあり、本態性高血圧のうち、食塩感受性の人は約4割、非感受性の人は約6割といわれています。
 食塩感受性のある人は、腎臓の働きが悪く、塩分をうまく排泄できないタイプ。食塩非感受性の人は腎臓の働きが良く、体内の余分なナトリウムを速やかに排泄でき、食塩をとっても血圧がほとんど上昇しないタイプです。
 しかし、食塩非感受性の人でも長期にわたって塩分を過剰にとっていると、次第に腎臓の働きが悪くなって食塩感受性の体質に変わっていきますから、やはり食塩の摂取は控えめにするべきです。
 ただし、高塩分は良くないけれど、完全になくすのもダメなのです。ナトリウムが極端に不足すると、食欲不振や筋力の低下、無気力状態を起こします。
 塩分は自然塩にして量は半分くらいに抑え、少しお酢を加えると薄味でも食べやすくなります。

夜と朝の血圧差が少ない ストレスタイプの高血圧

水嶋 最近はストレス系の高血圧も多くなっています。
 ストレスタイプでは、交感神経の過緊張で血管収縮すると体液がオーバーフローになってしまい、心拍出量が多くなりすぎて血管壁の血圧の受容体を刺激することで血圧が上がってきてしまうのです。
 このタイプは夜と朝の血圧差が少なく、こちらの方がむしろ、脳梗塞とか脳出血の合併症を起こしやすいのです。血圧は夜は低くて、朝高くないといけないのに、逆になっている人もいます。
 リラックスには基本的にハーブを中心に、ストレスを除去するものをとります(表6参照)。それ以外では、いわゆるセロトニンを誘導するベータ酪酸というグループ。セロトニンの元の材料になるバナナ、牛乳、玄米もそうですし、納豆もいいですね。
 ただし、精神的ストレスに対しては食事だけでは難しく、気功療法、腹式呼吸などリラックス方法を習得すると良いと思います。スポーツや趣味で発散したり、あるいはカウンセリングを受けたりするのも良いと思います。どうしてもダメな時には、最近副作用のない抗うつ剤も随分できてますので、それを使うケースもあります。

突然死が心配な「早朝高血圧」に 即効性抜群の「足裏たたき」

水嶋 血圧は1日の中でも常に変動をくり返しています。夜間は副交感神経が優位に働き、血管が拡張して血圧が低い状態になります。起床後は行動を起こすために、交感神経優位に替わり、血管が収縮し血圧を上げるカテコールアミンというホルモンが分泌されるので、朝は血圧が急激に上がります。
 最近、朝目覚めたばかりの血圧が異常に高くなる「早朝高血圧」が問題視されています。健康な人ではある程度血圧が上がると、血管内皮細胞から血管を拡げる物質が分泌されるので、血圧が上がりすぎることはないのですが、喫煙、過度の飲酒、肥満、高血糖などが原因で血管内皮細胞が衰えていると、血管を拡げる物質が十分に分泌されなくなるため、血圧が異常に上昇して、心筋梗塞や狭心症、脳卒中などの発作が起こりやすくなるのです。
 こうした朝の血圧の急上昇を防ぐ方法として最も効果的なのが、足の裏の降圧の急所を刺激する「足裏たたき」(図)です。
 東洋医学では、足の裏にはさまざまな病気の予防・改善に役立つツボが散在していると考えられています。その中でも湧泉というツボ(図)には、高い血圧を安定させる優れた働きのあることがわかっています。
 また、足裏の土ふまずには全身の血流と関係が深い、心臓・肝臓・腎臓の働きをつかさどる、通称「高血圧ゾーン」が広がっています(図)。ここにも刺激を加えることで全身の血流が促され、高い血圧を低く安定させられるのです。
 実験でも、足裏全体を数分間たたいて刺激しただけで、全身の血流が大幅に増えることが証明されています。

くよくよせず 自然に即して生きていく

水嶋 長野県は寒いのにもかかわらず長寿県です。
 長野では10月末ともなると朝2℃で、日中24℃くらいになる日もあり、1日の中ですごい寒暖差があるのですが、実はその差が大事なんです。その差が血管を伸びたり縮めたりする働きをしているんですね。
 ただし、トイレは一番気をつけないといけないので、「トイレは必ず温かくして下さい」と指導しています。
 そして、アンケートを取ると皆さん、一番の長寿の秘訣は、クヨクヨしない、与えられた環境の中で自然に生きていくというのが一番だといいますね。神経質にならない、クヨクヨしないという答えは女性は第1番、男性でも3番目くらいに上がっています。
 老人は交感神経が過緊張になりやすいのですが、長野県だけは副交感神経優位のリンパ球が高く、80歳で30%を超えています。