再発がん・晩期がんにも有効な、食事による「栄養・代謝療法」

消化器外科医の名医が提言・実践する究極の健康食は、玄米菜食が基本の「縄文食」

西台クリニック院長 浦和・三愛病院研究所長 済陽高穂先生

がん治療法は今後、三大療法を基本に、 食事と生活の改善による"体の免疫機能を引き出す”方向に!

 消化器外科の専門医で、30年間に4千例以上の手術をされている済陽高穂先生は、多くの臨床体験から「がん治療にも食事は大いに有効」と断言され、がん治療法は今後「手術、放射線、薬の三大療法を基本に、食事と生活の改善によって体の免疫機能を引き出す方向に向かうはずだ」といわれています。
 ご自身、がんの治療にあたっては、患者さんになるべく負担のかからない手術、放射線、薬を基本に、長年の研究で編み出した食事による「栄養・代謝療法」を導入することで、進行がんでは66・3%、さらに、余命数ヶ月とされた晩期がんや末期がんに対しても奇跡的な改善率を得られています(図1)。
 済陽先生が、食事・栄養の研究に取り組まれるようになった原点には、恩師中山恒明先生の「免疫力を高め、治癒力を引き出すのが本当の名医だ」という言葉と、
晩期がんの患者さん数例に「徹底した食事療法」でがんの自然退縮が見られたことがありました。
 済陽先生は、洋の東西を問わずさまざまな食事療法を研究される中、縄文時代から続けられてきた日本人の「低塩・低脂肪・低たんぱく」の食事こそ、日本人の体質に合った、免疫力を強め、治癒力を引き出し、健康を守ってくれる最適の食事であることを見出されました。

がんの診察・治療を ライフワークとして
手術成績の追跡調査から 食事療法を本格的に研究

済陽 私はがんを治そうと思って医者になり、がん疾患の最も多い消化器外科の道を選んで、がんの診断・治療をライフワークにしてきました。外科医になって30年目に当たる2000年までに執刀した手術は約4000例。そのうち約半数が消化器がんでした。
 しかし、現代医療では進行がんや晩期がん、再発がんに対してはなかなか治しきるのは難しい。私はいつしか、手術・抗がん剤・放射線という現代医学の三大療法に頼るだけの治療に疑問を抱くようになりました。
 その疑問が確信に変わったのは、
2002年、都立荏原病院の外科部長時代に行った7年間にわたる追跡調査でした(図2)。消化器がん手術成功例1402例のうち、約半数の48%は5年以内に再発、死亡という結果に愕然とし、私は治癒率を上げるにはどうすればよいかを必死に模索しました。
 そんな時期に、恩師の中山恒明先生(元・千葉大・東京女子医大教授)に、「医者が病気を治すのではない。手術で治してやるというのはレベル以下の医者であり、患者さんの免疫力を高め、治癒力を引き出すのが本当の名医だ」といわれた言葉が、今の私の原点になりました。
 またそれ以前、1990年代半ばから、私は「がんと食事」との関連に注目していました。きっかけは、進行した肝臓がんで病巣を残したまま手術を終え、自宅療養となった患者さんが「徹底した食事療法」でどんどん良くなり、1年半後のCT検査ではがん病巣が完全に自然退縮したことを確認したことでした。
 当時は特殊な症例と思っていましたが、その後も、少ないながらこうした例を複数体験したことも、現在私が行っている食事によるがんの「栄養・代謝療法」の原点になっています。

がんを治すのは自己治癒力
──がん三大療法と食事療法の コンビネーションで 最大限に引き出す

済陽 私は現代医学の三大療法を否定しているわけではなく、今も行っています。しかし、患者さんの体の代謝や免疫を考慮しないで三大療法だけで突き進めば、がんの治癒率はどうしても頭打ちになります。
 抗がん剤は多量に使わないと効果がないといわれています。しかし、抗がん剤はリンパ球が減少するだけでなく、骨髄が疲れ果て、貧血症状はもとより、免疫能が落ち回復力が弱くなります。放射線治療は2ヶ月以上は続けられないので、抗がん剤の量も多くなり、そうすると、副作用などで亡くなる患者さんも出てきます。
 私は現在、進行がんの場合はまず手術で病巣を取り除き、最低限の薬と放射線治療を施し、そこに代謝を整え免疫を高める「食事療法」を加えています(図3)。そうすることで、治癒率は飛躍的に高まります。
 たとえ、手術で病巣を完全に切除できたとしても、がんに至る体質をつくってきたこれまでの生活習慣、中でも食生活が元に戻れば再発は必至です。大切なのは、がんになった今までの食生活を反省し、二度と同じことを繰り返さないこと。
 しっかりと食生活を守った患者さんは、晩期がんであっても悪化せずに、長生きして人生を謳歌している人もいます。冒頭にあげた肝臓がんの患者さんも、今も元気に定期健診に通って来られています。

がんの主因は食生活
がんの原因の約7割は 口から入る

済陽 がんにはさまざまな原因が関与していますが、NCI(米・国立がん研究所)に在籍していた英国の著名な疫学者リチャード・ドール博士は1981年、がんの原因は、食事が35%、喫煙が30%、飲酒が3%と報告しています(図4)。
 アルコールやタバコ、薬剤や添加物まで含めると、がんの原因の実に7割は口から摂取するものとなります。
 この統計は生活習慣を改善すればがんの7割近くは防げることを示しています。

食生活の啓蒙運動で アメリカではがんが減少

済陽 日本では年間死亡者数のうち、がんは約3割(100万人のうち33万6千人)を占め、1981年からトップを独走しています。
 ところが、アメリカでは1992年以降、がんは減り続けています。
 その違いは、アメリカでは19
77年に出されたマクガバンレポート、すなわち、"がんや心臓病などは肉食中心の食生活が生み出した食原病であり、肉中心の高脂肪・高たんぱく・高カロリーの動物性食品を減らし、未精白穀物、野菜、果物を多く摂取する”という報告書を契機にして、FDA(米・食品医薬品局)やNCIを中心に国を挙げて食生活改善運動をくり広げ、その啓蒙を各医療機関がバックアップしていることです(図5)。
 しかるに、日本では、米飯食に魚介類と野菜中心という理想的な食生活を捨て、高脂肪・高たんぱく・高カロリーの欧米食に走り、がんをはじめとする生活習慣病を増やしています。また、医療技術は進んでいるのに、食事や生活指導をきちんと行う医療機関はまだ非常に少なく、国が遅まきながら取り組み始めた生活習慣改善運動もあまり功を奏していないのが現状です。
 そもそも人間は穀物(炭水化物)の消化を得意とする、植物食系の動物であることは、消化酵素や歯や爪の構成からもわかることです。
 その人間がアニマル食品をとると血液はドロドロになり、抗酸化活性の高い植物性食品(図5)を主体にすると血液はサラサラになります。
 血液がサラサラになれば、白血球の免疫細胞などがすみやかにがんの芽や、感染細胞にたどりつくことができ、乳酸などの代謝物質もできにくくなります。

がんは、誤った食事による 全身性の「慢性代謝障害」

済陽 昔から、代謝が異常を来すと病気になり、代謝異常を正常化すれば病気が治るという思想がありました。
 マックス・ゲルソン医師は、がんを全身の栄養障害・代謝障害ととらえ、食事改善によって、がんを退縮させたり、再発を予防する治療法(ゲルソン療法)を1930年代に確立し、これまで相当な成績を上げています。その内容は、動物性食品・脂肪・塩分を厳しく制限し、新鮮な野菜や果物を大量にとることで代謝を整え、免疫力を高めるというものです。
 他にも、星野仁彦医師の「星野式ゲルソン療法」、甲田光雄医師の「甲田療法」、桜沢如一氏が提唱した玄米菜食の「マクロビオティック」、栗山毅一氏が提唱した自然食療法「栗山式食事療法」、1930年代にアメリカで起こった自然主義運動「ナチュラル・ハイジーン」など、がんに有効といわれる食事療法は、野菜を中心とした植物性食品の摂取、動物性食品や、塩分、脂肪の制限などが共通しています。
 これらの業績と米国での研究結果を踏まえて、私は具体的ながん食事指針を作成しました。がん三大療法にこの食事療法を加えることで、患者さんの6〜7割が改善しています(表1)。
 私はこうした自分自身の臨床経験からも、一見局所的な疾患と見えるがんも、全身性の「慢性代謝障害」の病気であり、代謝異常の主な原因は、塩分過剰(ミネラルのアンバランス)、動物性たんぱく質・脂肪のとりすぎによる代謝障害、クエン酸回路の障害、血中の活性酸素過剰(増えすぎると細胞を傷害する)──という4つが重要であるという考えを導き出しました。

有効率6割を超す がん「食事療法」(縄文食)
9つの基本

済陽 この4つの原因を防ぐために考えたのが、私が現在行っているがんの「食事療法」です(表2)。
1. 塩分の制限 
 細胞内にはカリウムが多く、ナトリウムは少なく、細胞外の血液やリンパ液にはカリウムが少なく、ナトリウムが多く含まれています。
 ナトリウムをとりすぎたり、カリウムが不足したりすると、このバランスが乱れ、細胞内にナトリウムが入ってきて細胞を傷害し、老化が進み、細胞のがん化に直結します。
 ほとんどの食材にはナトリウムが含まれているので無塩でもナトリウム不足の心配はありません。少量の塩分が必要な時は減塩塩または減塩醤油に酢やレモン汁、ダシや香辛料を効果的に用います。
2. アニマル(四足動物)
   たんぱく質・脂肪の制限
 人体は炭水化物(糖質)の代謝は得意ですが、脂肪とたんぱく質は苦手です。特に動物性脂肪(四足動物)の代謝がうまくできないと、さまざまな問題が起きてきます。
 動物性脂肪の過剰では、血液中に悪玉(LDL)コレステロールが増え、これが活性酸素で酸化されて酸化LDLコレステロールになると動脈硬化を起こしたり、免疫力が低下し、がんが起こりやすくなります。
 動物性たんぱく質については、米国コーネル大学のキャンベル教授が30年間の研究から、「動物性たんぱく質があらゆる物質の中で発がん性が最も高い」と結論づけています(図6)。動物性たんぱく質は肝臓で酵素の力を借りて分解・代謝されますが、とりすぎると肝臓での酵素の浪費が多くなり、肝臓本来の解毒作用がおろそかになり、毒性物質が分解されずに体内に増え、発がんを招きやすくなると考えられます。
 私は患者さんには、がん体質改善がある程度進むまで(一般に半年〜1年)は、牛・豚肉は完全禁止、鶏肉や魚も控えめ(週1回か、それまでの量の半分程度)に指導しています。
3. 野菜・果物の大量摂取
 野菜にはポリフェノール、フラボノイド、カロチノイドなど、活性酸素を除去するさまざまな「ファイトケミカル」をはじめ、代謝に必須のビタミン・ミネラル、酵素もたっぷり含まれています。
 大量の野菜を生でとるには野菜ジュースが有効です。がんを抑制し、がん体質を改善するには、無農薬や低農薬の野菜・果物の生ジュースを1日に1・5リットル前後を目安に。
4. 未精白の穀物や豆類の摂取
 全粒穀物、その中でも玄米は最高の食べ物です。玄米の抗がん効果は次々と報告され、また玄米にはビタミンB群やビタミンE、セレン、食物繊維、リノール酸などが多く含まれています。ただし、玄米は消化吸収に難があり、胚芽のついた分搗米でもよいでしょう。
 発がんには糖の代謝の中心となる「クエン酸回路」の障害が関与しているという研究があります。そのクエン酸回路に不可欠の補酵素として働くのがビタミンB群です。ビタミンB群が豊富な、玄米をはじめとする未精白穀類の摂取は、がん治療に欠かせないと私は考えています。また、農薬は胚芽に蓄積されやすく、無農薬米を選びます。
 大豆・大豆製品(豆腐、納豆、豆乳など)も毎日少なくとも1品はとります。大豆のイソフラボンは、乳がんや前立腺がんなどの抑制効果があり、全てのがん抑制に役立つ抗酸化物質でもあります。
5. 乳酸菌(ヨーグルトなど)・
    海藻・キノコの摂取
 腸内細菌叢を整える乳酸菌は、最近の研究では、菌体成分そのものの刺激によっても免疫物質のインターフェロンが多くつくられたり、がんを攻撃するNK(ナチュラルキラー)細胞が活性化したりすることが確かめられています。
 キノコと海藻にも、さまざまな免疫賦活物質が含まれています。
6. レモン・ハチミツ・
   ビール酵母の摂取
 レモンはクエン酸回路を正常化するクエン酸を豊富に含み、ハチミツにはビタミン・ミネラルやオリゴ糖、体の免疫を賦活する花粉も多く含まれています。
 ビール酵母からつくられた「エビオス錠」はアミノ酸やビタミンB群が多く、動物性食品を厳しく制限するがんの患者さんにはピッタリの補助食品です。
7. オリーブ油・ゴマ油を活用
 植物油の中では安定し酸化しにくいオリーブ油やゴマ油を適量。
8. 禁酒・禁煙
 アルコールは消化器の壁を荒らし、発がん物質の吸収を高めます。発がん物質、活性酸素生成物質の宝庫、タバコは禁煙が大前提。
9. 自然水の摂取
 水道水には塩素やフッ素が含まれているので、代謝に不可欠な水分はできるだけ自然水を。

驚くべき有効率
再発がん・進行がんで66・3%
晩期がんでも5割強

済陽 患者さんの治療成績は、集計の度に有効率が高まっています。最新の集計結果では、対象は、胃がん、大腸がん、肝臓がん、胆道がん、すい臓がん、前立腺がん、リンパ腫など計110例で、全て晩期がんを含む進行がんで、手術後の再発例も約半数含みます。
 食事指導後の結果は、完全治癒13例、改善58例、不変2例、進行3例、死亡34例で、有効率66・3%となっています(9頁表1)。さらに、乳がん、前立腺がん・悪性リンパ腫といった、食事療法が功を奏しやすいものは70〜75%の有効率となっています。
 つまり、再発を含む進行がんでも、きちんと食事療法を行っていけば6〜7割が改善するのです。現代医学では、「打つ手はない」といわれてしまうような晩期がんや再発例も含んでいますから、これは非常に大きな数字です。
 さらに、私は過去10年間に診察した晩期がんの患者さんについても調べています(余命半年前後)。食事療法を半年以上続け、さらに抗がん剤治療を47例に、肝動注ポート療法を5例に、放射線照射を22例に施した結果、生存は42例(60%)、死亡は28例(40%)でした。生存例のうち、完全寛解は8例、有効は29例、不変2例、進行3例で、奏功率は52・98%でした(4頁図1参照)。晩期がんではまだまだ5割強の奏功率ですが、私は何とかこれを7割近くまでもっていきたいと考えています。
 ただし、食事療法が効果を発揮するには、患者さんの免疫力が最低ライン(血液1mm3中、リンパ球が1000個以上、白血球が3000個以上)を切っていないことが重要です。

「まず隗より始めよ」
私の食事法

済陽 医者が不健康では説得力に欠けます。
 「まず隗より始めよ」ということで私自身は、毎朝5時に起床。煎茶を2〜3杯飲みながら新聞を読み、朝食は7時頃にグレープフルーツ2個とレモン2個のしぼり汁にハチミツ大匙2杯を入れたジュース500cc。週に2回ほどそれに大根葉、小松菜、ほうれん草、キャベツ、レタス、セロリ、パセリなどからつくった青汁を100cc加えています。
 食事は、玄米、納豆、味噌汁、漬け物、梅干が原則。味噌汁の具はシジミ、アサリなどの貝類、ワカメと豆腐、ナメコ、シメジなどが定番。副菜にモヤシ、タマネギのスライス、キャベツなどの野菜炒めと目玉焼き、大根おろし。大根おろしは湯飲み茶碗一杯。
 昼食は、リンゴとヨーグルト500cc。3時頃にバナナやオレンジ、マンゴー、またはアーモンドなどのナッツ類を間食。この昼食はほとんど無塩。なお、我が家では醤油は減塩醤油に同量の酢を入れて使っています。
 晩酌は毎日。つまみは野菜の浅漬け、ザーサイ、枝豆、ナッツ、魚介類など。肉料理は週に1回程度で、夜は比較的食事の制限をゆるやかにしています。
 そして、9時過ぎには就寝するようにしています。
 この食事に変えて、驚いたことに約1ヶ月半で、抗菌剤、軟膏を毎日処方しても一進一退だった爪水虫が完治してしまいました。
 患者さんの中にもがんだけではなく、リウマチなどの難病や生活習慣病が同時に良くなった例は多く、食事療法で代謝が整い、免疫が向上した結果で、当然といえば当然です。いずれにせよ、がんをはじめ病気を治すのは医者ではなく、患者さん自身の治癒力です。治癒力を高めるには食事による「栄養・代謝療法」が最も有効だと私は信じています。