自己治癒力・免疫力の源である「脳幹」を鍛える

がん・生活習慣病の予防・改善は、生活習慣の是正から

海風診療所院長 沼田光生先生

脳神経外科医からホリスティック医学へ、
医療のウイングを広げて

 新進気鋭の脳神経外科医として活躍されていた沼田光生先生は、西洋医学一辺倒の治療では病気を未然に防ぎ、健康体を取り戻すことはできないことを痛感される中、がんをはじめとする慢性病に有効な様々な治療法に出合い、研究されるようになりました。
 05年には地元山口県徳山(周南市)に海風診療所を開かれ、現在は診療所を拠点に、治療の根幹を患者自身がもつ「自然治癒力(免疫力)」に据え、人間をまるごと全体的にみる「ホリスティック医療」を展開されています。
 窓を開ければ瀬戸内海の風が吹いてくる海風診療所では、
1.病気になった原因は自分にある
2.病気を治す力は自分の内にある
3.病気は自分で治す(慢性疾患を治すのは医者や薬ではない)──ことを治療の基本に置いて、西洋医学、東洋医学、また通常医療、補完代替医療を問わず、それらの長所を取り入れて、患者さんと共に、ベストな治療を目指しています。
 沼田先生が免疫力を高める上で特に着目されているのが、生命の維持装置であり、「生命脳」とも呼ばれる「脳幹」の活性化です。
 脳幹療法を主導され、「免疫の源である脳幹の活性化で、がんはもとより、多くの生活習慣病、慢性病を未然に防ぎ、健康を取り戻すことができる」といわれる沼田先生に、食事・栄養の摂取、脳幹マッサージなど、日常生活の中で脳幹の衰えを防ぎ、脳幹を活性化する方法を伺いました。

自己治癒力・免疫力の要は 「脳幹」にあり
原初の脳「脳幹」は 生命の維持装置

沼田 人間の脳は、一番新しくできた「大脳新皮質」が特徴的に巨大化しましたが、根源には爬虫類脳と呼ばれる「脳幹(古皮質)」や、旧哺乳類脳と呼ばれる「大脳辺縁系(旧皮質)」があります。そして、古い脳を覆うように新しい脳が生まれたために、3層構造になっています(図1)。
 一番奥の「脳幹」は、生きるための脳として最初にできた脳で、生命維持や本能を司っており、ここでは血流、心臓の拍動、呼吸、体温、ホルモンなど、生きるための機能すべてをコントロールしているので「生命脳」とも呼ばれます(図1、2)。大脳は睡眠で1日に7〜8時間休息をとりますが、脳幹は昼夜働き続け、睡眠中も、呼吸や、心臓を動かしたり、寝返りしたりできるのも脳幹のお蔭です。本来、脳死とは大脳・小脳とともに脳幹の働きが止まった時をいい、瞳孔が開くのも呼吸が止まるのも、全て脳幹の働きが停止するからです。そのく
らい大切な所なのです。
 その外側が、「大脳辺縁系(図1)」と「大脳基底核」で、ここでは記憶、好き嫌い、やる気などの情動を司っています。たくましく生きるための脳で、「動物脳」とも呼ばれています。
 最も外側が「大脳新皮質(図1)」で、ものを考えたり、感じたり、体を動かしたりする働きをしています。人間の脳は特にこの部分が発達し、大脳新皮質を巨大化することで人間は独特の文明や文化を築きました。うまく生きるための脳で、「人間脳」とも呼ばれます。

現代人の脳幹の衰えが 不健康・慢性病をもたらす

沼田 生きるための原初の脳である脳幹は、飢餓や自然災害など生命の危機にさらされた時ほど活性化し、生き抜くための力を発揮します。
 文明に守られている現代人は、脳幹への刺激が少なくなっている上に、大脳新皮質を偏重しフル稼動しながら生活をしています。これが、脳幹や大脳辺縁系の衰えにつながり、不健康や多くの慢性病をもたらす原因になっていると考えられます。
 これからの時代は、脳幹や大脳辺縁系を強化すると同時に、大脳新皮質の使い方も考えて、脳全体をバランスよく活性化していくことが求められます。健康維持にも病気治療にも、脳幹や大脳辺縁系の力を最大限に生かせるようにすることが大切なのです。

自然治癒力・免疫力の根源
──脳幹がコントロールする 「ホメオスタシスの四角形」

沼田 全ての生物は、体内環境を一定に保とうとする、生きていくのに必要な調整機能、すなわち「ホメオスタシス(恒常性・生体恒常性)」を備えています。
 人間の場合、ホメオスタシスは「自律神経系」、「脊髄・筋肉系」、「内分泌系」、「免疫系」の4つの要素で維持され、互いに協力し合うことで、体の内部環境は健康な状態に保たれます(図3)。
 脳幹は、これら4つの機能をコントロールしています。この4つが維持された状態を「ホメオスタシスの四角形(図3)」といって、四角形がきれいなひし形を保っている時は、健康が維持できている状態です。この状態こそが治癒系であり、このホメオスタシスを維持する力が「自然治癒力」、「自己治癒力」と呼ばれているものなのです。
 いい換えれば、人間が本来備えている自然治癒力、免疫機能をフル活動させるためには、その司令塔の脳幹を鍛え、活性化することが重要になるわけです。

日常生活から 脳幹の衰えを防ぎ 活性化する
脳幹に着目した 「患者自立型 ホリスティック療法」

沼田 海風診療所ではホリスティック療法を展開していますが、ホリスティック療法を提唱している医師が皆、同じ治療をしているわけではありません。
 私は、これまでの治療経験から、脳幹の活性化をホリスティック療法の中心にすえています。脳幹が正常に機能すると、体は自ら病気の治療を開始します。この力を100%引き出すためには、脳幹を正常にする治療が必要なのです。
 具体的には、脳幹療法、自律神経免疫療法、食事療法、グループワーク、ミネラルの摂取、胸腺マッサージ、運動療法、脳幹マッサージなどを取り入れた治療を行っています(表1)。いずれも自分の体が持っている治癒力を引き出す治療法であり、私が「患者自立型ホリスティック療法」と呼んでいるのはこのためです。
 治療を始めるに当たっては、まずは患者さんと一緒に、病気の真の原因を探り当てていきます。真の原因がわかれば、対処法が見えてきます。慢性病の根本原因は、6つに集約できると私は考えています(表2)。そして、原因は1つではなく、6つのうちいくつか複数持っているケースが多いのが一般的です。
 また、私は自宅でできる治療法を重視しています。病気を治すのは自分自身ですから、自分でできる治療法が中心になるのは当然です。そして、これらの療法は、病気の人ばかりではなく、病気を未然に防ぎ、健康の維持・向上に役立つ、いわば万人にとっての健康法にもなるのです。

頚椎の歪みを正す 「脳幹(賦活)療法」

沼田 脳幹療法は、頚椎を自然に矯正することで、脳幹の働きを開放します。
 脳幹は頭部の最も奥に位置し、その一部は頭蓋骨の底部にあって、頭蓋骨や頭を支えている第1頚椎、第2頚椎にはまり込んだ状態になっています。
 病気を患っている人の多くは、第1、第2頚椎が歪んでいます(図4)。そのために、内部にはまり込んでいる脳幹が圧迫され、まるでガスの元栓が締まっているような状態になって、脳幹の指令が全身に伝達されなくなっています。
 脳幹療法では、患者さんに横になってもらい、高さの調節できる枕を使って頚部の位置を微妙に調節しながら、第1、第2頚椎が歪みなく内側が広くなるように、自然な矯正を行います。
 これにより、脳幹の働きが正常になると、筋肉や腱の緊張具合が脳幹に伝わり、関節の正しい位置や筋肉の正しい力の入り具合が指示されるために、自らの力で背骨も元の位置へ戻ります。すなわち、第2頚椎から下の背骨のズレも、自然に整ってくるのです。脳幹は体内のあらゆる部位が本来あるべき姿を記憶していますから、それがズレていれば、例えば、「肩の位置が前にズレている」というような情報が脳幹に伝わり、それを正せという指令が局所に届けられるというわけです。
 この脳幹(賦活)療法により、脳幹への圧迫がなくなり、脳幹が正常に働くようになると、免疫など体を健康に維持するための機能が活発に働いて、それによって、がんなどの慢性病も治療できるのです。ただし、この脳幹療法は専門の施術者にやってもらう必要があります。

家庭でできる「脳幹マッサージ」
〜温熱刺激で自律神経も改善〜

沼田 自宅で脳幹にほど良い刺激を与えて、自己治癒力を含めた免疫力を高める方法が「脳幹マッサージ」です。脳幹マッサージは、適度な刺激で脳幹を活性化させると同時に、現代人がフル稼動で偏重している大脳(新皮質)をリラックスさせ、ストレスを解消させる効果があります(図5)。
 特に基本になる、ペットボトルと手技(指圧)を使った「脳幹ゾーンマッサージ」(図6)は、温熱刺激も加わります。脳幹を温めて活性化させれば、体温調整などの生命活動の中心となる自律神経の働きも整えられ、免疫力のさらなる向上が期待できます。自律神経は、ストレスなどからバランスを乱しやすい傾向があり、自律神経の乱れは、免疫機能に大きな影響を及ぼし、がんをはじめ、あらゆる病気の引き金になります。その上に、脳幹の衰えがそれに拍車をかけるのです。
 ちなみに、安保・福田理論に基づく自律神経を整えて免疫力を高める「自律神経免疫療法」を応用した「爪もみ」も、家庭でできる療法として素晴らしいものと思います。(本誌01年10月号bR34・01年12月号bR36インタビュー)

脳幹を活性化させ 免疫力を高める食生活
基本は「玄米菜食・自然食」

沼田 食生活は、玄米菜食を基本とした自然食をすすめています。
 玄米菜食・自然食を心がけることで、遺伝子を傷つけやすい人工物や精製加工食品が避けられ、免疫力低下につながる活性酸素の害を防ぐビタミンやミネラル、ファイトケミカルが豊富に摂取でき、よく噛まないといけないので、この噛むという運動が脳幹を適度に刺激して、脳幹の働きを調整するのです。
 多種類の食材を摂取する上で良い目安となるのが、見た目の色で緑、赤、黄、白、黒の5色に分けた「食材5色バランス健康法」です。
 断食(ファスティング)は、過食や肥満、宿便の問題ばかりではなく、「飢餓」という刺激が、原始的な脳である脳幹を活性化することになります。飢餓状態は体にとっては生命の危機ですから、何とかしようと脳幹は活発に働き始めるわけです。
 1日程度の「プチ断食」でしたら準備食や副食に神経を使わずにすみ、健康な方は自宅で定期的に行うのも良いでしょう。また、私がおすすめしている「ファスティング・ダイエット」は、体を維持するのに最低限必要なアミノ酸、ビタミン、ミネラル、水分などを補いながら断食を行いますので、体脂肪は減りますが、筋肉や臓器や骨がダメージを受けることはありません。ファスティング・ダイエットは、3日間の「ファスティング期」と、その後3日間の「復食期」から成り立ち、ファスティング期間中は固形物はとらず、水、ミネラル溶液、植物
発酵エキスだけをとります。
 免疫力を高める食事として、私はがんの患者さんに、次の7つのポイントをあげています。この7つのポイントは、がんのみならず、メタボリックシンドロームをはじめとする生活習慣病にも、アトピーなどのアレルギー疾患にも、また、健脳食・健康食としても、広くおすすめできるものです。
1.食の基本は玄米や雑穀などの無精白穀類、豆頬、野菜、海藻、きのこ類、果物で構成。
2.野菜ジュースで、野菜の摂取量を多く。
3.過食をしない。
4.デザイナーフーズを積極的にとる(図7)。
5.脂肪、動物性蛋白質、塩分を控える。
6.免疫力を増強するきのこ類をたくさん食べる。
7.外食は高脂肪・高動物性蛋白食、高塩分食になりがちで、がんやメタボリックシンドロームの進行を促進させる。外食するなら和食か自然食の店を利用。

がん発症・免疫力低下の 最大の原因は、 「精神的ストレス」

沼田 がんには、食事も、運動不足も、精神的ストレスも関係していますが、その中で私は多くの臨床例からも、がんの最大の原因は精神的ストレスであると考えています。
 精神的ストレスがかかると、交感神経が緊張して血管が収縮し、血流が悪くなり、体のすみずみに十分な酸素を送ることができなくなります。血流が悪くなって酸素が十分に運ばれてこないと、通常の細胞はエネルギーを作れなくなり、こういう状況で、がん細胞が生まれるのだろうと考えられています。
 がん細胞は、嫌気性解糖といって、酸素を使わずにエネルギーを生み出す方法を持っています。地球上に最初に誕生したのは嫌気性の単細胞生物で、それが進化することで酸素を使った効率の良いエネルギーの作り方ができるようになってきたのです。
 私たちの体を構成している細胞のひとつひとつは、嫌気性解糖の記憶を残していると考えられ、血流が悪くなって十分な酸素が運ばれてこなくなると先祖返りをしてしまいます。がん細胞は、酸素のない中で生き延びるために、やむを得ず酸素を使わずに生き延びることができる細胞に変化したものとも考えられるのです。
 また、精神的ストレスは、自律神経のバランスを乱し、免疫力を著しく低下させます。
 先にあげた脳幹マッサージは、ストレスで興奮した大脳をリラックスさせ、興奮した時に活性化する交感神経を鎮めて自律神経のバランスを整えてくれます(10頁・図5)。
 この他、適度な運動、生き甲斐や打ち込める趣味を持つことや、人との温かい交流などを通して、ストレスを緩和し、解放し、時には上手に利用する、生活・人生の知恵を備えておくことが非常に大事になります。