野菜は「万病の予防薬」

万病の元「活性酸素」を撃退する野菜のスーパーパワーと、有効な摂り方

崇城大学薬学部教授 熊本大学名誉教授 前田 浩先生

「野菜スープ」の本第二弾──『活性酸素と野菜の力』

 前田浩先生には、本誌94年6月号(bQ46)で「野菜スープに、生野菜の10〜100倍の活性酸素中和能力」というテーマでお話をうかがいました。
 "高脂肪食と赤身肉の多食が脂質ラジカルを生成し、それが大腸がんをもたらし、それを緑野菜のスープが打ち消す”という先生のご研究は、それまでの多くの疫学調査結果を裏付けると同時に、野菜の摂取は長らく良いとされていた生食から、野菜スープやホットサラダなど煮野菜・温野菜が大きくクローズアップされるようになりました。
 前田先生はこれらの研究成果を1995年に『野菜はがん予防に有効か──酸素ラジカルを巡る諸問題』という本にまとめられ、その第二弾として昨年12月に上梓されたのが『活性酸素と野菜の力』です。
 最新刊では、病気と活性酸素のかかわり、活性酸素の生成要因、活性酸素を撃退する野菜のスーパーパワーについて、最新の情報を駆使してさらに詳細に検討され、改めて野菜のスーパーパワーと、生体利用能(バイオアベイラビリティ)を考慮した野菜の摂り方の重要性を認識させられます。
 本誌でも取り上げた"緑の濃い野菜は硝酸イオン濃度が高く健康に悪い”という情報も、最近の研究では"野菜の硝酸塩はむしろ健康に寄与する”という方向に向かっているなど、最新情報を交え今回改めて前田先生に、「万病の予防薬となる」野菜の力についてお話を伺いました。

野菜丸ごとの抗酸化物質が万病を予防・改善
「野菜スープ」で老人斑・白内障が消えた

──先生の「野菜スープ」のご研究は、今になってみても画期的で新鮮なお話ですね。
前田 新刊書に推薦文を書いていただいた愛知県がんセンター名誉総長の富永祐民先生は、旧版を読まれて野菜スープを飲むようになり老人斑が消えてこられた。今はアメリカで始まった食生活運動「5─A─DAY(1日5皿以上の野菜・果物を食べる)」の日本の協会長をされていますが、そのきっかけも旧刊で野菜の健康パワーを知り、野菜摂取の普及に貢献しようと思ったからだそうです。
 九州大学医学部名誉教授の倉恒匡徳先生も野菜スープを飲み出して白内障が元に戻り、これまで白内障は元に戻らないといわれ、眼科の先生が「信じられない」と驚いたということです。
 富永先生は野菜スープを主に薄味の野菜鍋として、倉恒先生はニンジンやダイコンの葉など緑色野菜中心のスープをミキサーで撹拌し冷蔵庫に作り置きされているというので、ビタミンCを入れると良いとアドバイスしました。ビタミンCには抗酸化作用の他に殺菌作用もあり、抗酸化剤と同時に防腐剤にもなるんです。私自身はといえば、市販の野菜スープを愛用しています(笑)。

活性酸素は老化・万病の最大公約数

──先生も94年インタビュー当時と今と殆どお変わりないですね。
 天然の抗酸化物質が凝縮された野菜スープは、まさに老化予防、万病予防の妙薬といえますね。
前田 老化や、がん、動脈硬化、糖尿病、アトピー性皮膚炎、種々の潰瘍、リウマチ、アルツハイマー病、感染症など、多くの急性・慢性疾患に活性酸素(酸素ラジカル)の関与がいわれています。
 活性酸素は、紫外線や放射線、農薬や抗がん剤を含め多くの化学合成物質、タバコ、排ガスなどの公害物質等の曝露で体内で生成される他、呼吸から取り込んだ酸素、ウイルス感染、ストレスなどでも体内で生成され、細胞を傷害したり、遺伝子を損傷したりするわけです。
 人間も、活性酸素の防御機構を備えています(SODなどの抗酸化酵素やグルタチオンなどの抗酸化物質)。しかし、活性酸素の生成要因が多い現代では、これだけでは病気は防げない。活性酸素を中和する抗酸化物質が豊富に含まれている野菜を有効に摂取することがとても重要になります。

複合して生体を守る植物の抗酸化物質群

前田 太陽光(紫外線)が植物の水に当たると活性酸素ができる。それを中和(無毒化)する抗酸化物質なしには植物は生き延びられないわけですから、植物は進化の過程で活性酸素による障害(酸化的ストレス)を回避する機構、すなわちさまざまな抗酸化物質群を獲得してきたわけです。
 野菜やお茶、種子などの植物性食品には、ビタミンB群、C、E、ベータカロテン(プロビタミンA)、フラボノイドやポリフェノール、バニリン、バニリン酸、カフェ酸、没食子酸などの植物性芳香族化合物が含まれ、一般に強い活性酸素中和能を有します(表1・2)。
 これらの成分は互いに共役して生体を防御しています。つまり、公害の複合汚染とは逆に、多成分であることが生体をより安全な方向に向かわせているわけです。
 つまり、野菜の成分は固有の働きより、複合成分による働きが重要になります
 例えば、ビタミンEは脂質ラジカルを消去すると自らビタミンEラジカル(E・)になりますが、これがビタミンCによって還元されて元のEに戻る。その時、ビタミンCはビタミンCラジカル(C・)になり、これをNADH(ビタミンB群の一つ。ナイアシンの誘導体)やグルタチオンが元に戻してくれるわけです(図1)。
 かつて緑黄色野菜のがん予防効果はベータカロテンによるものではないかと推測されていましたが、喫煙者へのベータカロテン単独投与ではかえって肺がんのリスクを高め、ビタミンCの単独投与も発がんを促進することがわかってきました。ちなみに、ベータカロテンは紫外線でできる活性酸素などには有効な消去剤になります。
 このように、野菜は多種類、複合成分をとることが大事です。

凶悪な活性酸素「脂質ラジカル」を消す「野菜スープ」
緑の濃い葉菜

前田 数ある活性酸素種の中でも「(過酸化)脂質ラジカル」は、長寿命で、脂質でできている細胞膜との親和性が高く、細胞内に容易に侵入し、大変毒性が強く、がんや動脈硬化などにも深くかかわっています。がんにおいては、がん化の全ての段階(図2)に関与し、特にプロモーション(促進)からプログレッション(増殖)の過程で強く作用していると考えられています。
 脂質ラジカルは、脂肪の酸化物(過酸化脂質)に鉄などの金属が接触するとできます。大腸がんは「高脂肪食と赤身の肉を多くとるほど頻度が高い」ことが多くの疫学調査で報告されていますが、これは高脂肪食によって糞便中にできた過酸化脂質が赤身肉の鉄(ヘム)と反応して脂質ラジカルができ、大腸がんを引き起こすと考えられ、私たちは実験でそれを証明しました。
 さらに、この凶悪な脂質ラジカルを、野菜のスープ(煮汁)が中和し、ラジカルによる遺伝子損傷を抑えるだけではなく、がん化の促進も強く抑えることを明らかにしたわけです。
 ラジカル中和能は、太陽光を強く浴びた緑の濃い野菜ほど強く、ヨモギ、シソ、ニンジン葉は特に強く、ダイコンやカブなども根よりも葉に強い活性がみられ、キャベツやハクサイなども外葉の方が内側の白い葉より5〜10倍と断然高い活性がみられました(図3)。
 なお、黄斑変性症や白内障など目の老化予防に良いとされるルテインやゼアキサンチンも、ケールやホウレン草など緑色野菜に多く含まれています。

 ちなみに、オランダの大規模研究では、お茶(紅茶)1日500mlを飲む人は250mlの人に比べて心筋梗塞の頻度が半分で、これは紅茶のフラボノイドがLDLの酸化を抑えるためと考えられます。
 なお、お茶は濃い茶よりも薄い方が抗がん効果が高いという報告があります。お茶にはタンニンが多く、過剰なタンニンは消化酵素の働きを邪魔したり、胃の上皮細胞を変性するので、それが関係している可能性もあります。
茶色や褐変する根菜類前田 根菜類でも、ゴボウ、レンコン、芋類(サトイモ、サツマイモ、ジャガイモ)等、茶色や、白くても空気に触れて茶色に変色(褐変)する種類は、ラジカル中和能が高いことがわかりました(図4)。
 葉の部分も当然、ラジカル中和能が高く、その利用も考えるべきです。
 これら根菜類には食物繊維も多く、その効能も見逃せません。
豆類・種子類前田 豆類では、我々が「豆の四天王」と呼んでいる黒豆、小豆、緑豆、大豆に大変強い抗ラジカル活性がありました(図4)。
 豆類同様、ゴマ、ナタネ、ナッツなどいわゆる種子類は、子孫を残すためにDNAとそれを育てるための栄養素がビッシリ詰まった命の本体のようなものですから、酸素や光で損傷しないように強力な防御成分が含まれているのも当然です。

野菜の有効利用

加熱の重要性とビタミンC・酵素の問題
前田 植物中の抗酸化物質の多くは熱に強く、加熱によって生体への利用度は格段に上がります。
 植物の細胞壁は硬い繊維質でできており、その主要成分のセルロースの分解酵素(セルラーゼ)を人間はもっていないので、噛むだけでは有効成分はほとんど体内に摂り込めず、排泄されてしまいます。ところが5分以上、硬いものでも20分も加熱すれば細胞壁は壊れ、中の有効成分が溶け出します(図5)。要は、柔らかくなれば良いのです。
 私たちの実験では、煮汁は生に比べて、10〜100倍も効果がありました(9頁・図3)。有効成分の多くは水に溶けるので、ボイルした汁を摂らないと意味がありません。また、セルロースはいろんな物質を吸着するので、水を加えて煮れば、細胞の中の有効成分も、セルロースに吸着している成分も外れて、煮汁の中に遊離して来るわけです。
 戦後アメリカ食文化の影響で、野菜の摂取はサラダなど生野菜の方がビタミンCなども壊れず、優れていると喧伝されてきましたが、複合成分やバイオアベイラビリティ(生体利用能)の影響からは、野菜は加熱して摂るのが一番です。
 ビタミンCも、ジャガイモなどの芋類や多くの野菜は丸ごとの加熱で大半が残っています。これは他の抗酸化成分と共存しているからです。また、ビタミンCは保存剤として多くの加工食品に添加されていますが、食品の保存に使われて酸化したとしても、体内でグルタチオンなどが元に戻してくれるので生体では元通り利用されます。
 酵素も、生野菜でないと摂れないといわれますが、生野菜に限らず、食品中の酵素はほとんど消化管で失活してしまうので、あまり考慮する必要はないのです。酵素由来でできた物質が大切なんですね。
青菜に多い硝酸塩はむしろ有用
──最近、青菜に多い硝酸塩の害がいわれていますが。
前田 食品からの硝酸・亜硝酸塩は、飲料水や野菜の硝酸塩が口腔内や消化管の微生物によって一部亜硝酸に変わるのと、また、亜硝酸塩はハムやソーセージの発色・保存剤として摂取されます。
 ここ3年くらいの間に、食品由来の硝酸・亜硝酸塩は、抗酸化作用や血液をサラサラにするなど、むしろ有用であるといわれています。一昨年カリフォルニアで開かれた「国際NO学会」でも、硝酸や亜硝酸は体内で最終的にはNO(一酸化窒素)になり、NOはまず血圧を下げる方向に働き、抗酸化作用もあり、血液循環が良くなり、がんや心臓病、糖尿病、認知症などの予防になるなど、良いことばかり出てきました。
 NOは大気中やタバコの窒素酸化物(NOx)など活性酸素もつくりますが、これもタール成分やディーゼルエンジン排出微粒子(DEP)などとの複合汚染が怖いといえます。程度問題ですが、野菜は普通に洗浄すれば過剰なものは取れますから、ほとんど心配ないと思います。
 ちなみに、胃がんの原因は、かつては@亜硝酸と肉や魚などに多いアミンが胃酸と反応してできるニトロソアミン(ビタミンCはニトロソアミンの生成を防ぐ)、A肉や魚などの高蛋白食品の焦げにできるヘテロサイクリックアミンの関与がいわれてきましたが、B80年代後半に胃や十二指腸潰瘍の原因菌であるヘリコバクター・ピロリが見つかり、それが長期に慢性感染すると胃がんになることがわかってきました。すなわち、胃がんの発症と硝酸・亜硝酸塩は有意な相関はなく、むしろ負の相関、すなわち予防に働き(表3参照)、胃がんは、細菌の
慢性感染で炎症が起き、炎症部位からは活性酸素が生じ、これに高塩分食やヘテロサイクリックアミンが補助因子となって引き起こされると考えられています。

旬の新鮮なもの

前田 出盛りの旬の野菜には有効成分が多いことがわかっています。私たちの研究でも有効成分はハウス物より太陽によく当たった露地栽培物に多く、味の点でも旬の新鮮な野菜は美味しいです。
 今は長距離輸送で時間がかかり、その上に冷蔵庫に入れると、例えばホウレン草のビタミンCなどは5℃1週間で約半分、室温では2日で約70%も消失します。
農薬の問題前田 農薬は活性酸素を生成しますから、無・減農薬が望ましいのはいうまでもありません。
──野菜の抗酸化力が農薬の害を相殺するということはないですか。
前田 余計な合成ケミカルは体に入れない方が良いと思います。ミカンでも皮にはかなり良い成分がありますが、農薬もかなりかかっているからやはり捨てた方が良い。
 中国毒野菜を契機に、日本では06年5月より食品中の残存農薬や飼料添加物などに関する「ポジティブリスト制度」が発足し、日本で使用が認められない農薬の残留が陽性(ポジティブ)であれば廃棄処理するということになりました。しかし、最近の中国毒餃子で見られるように、加工食品には適用されず、しかも圧倒的な人材不足で制度がよく機能しておらず、マスコミにも忘れられています。
 長期に複合して入ってくる食品の毒物の影響は、よくわかっていないだけに怖い。食の安全に、政府はもっと本腰を入れ、お金も十分かけて取り組む必要があると思います。
 なお、植物自身も身を守るための天然の農薬ともいうべき化合物を有していますから、長い間食用にされてきた野菜は、野草などよりもその点安全だといえます。

塩分・鉄分・脂肪控え目で多種類の野菜をとろう

前田 これまでお話しした野菜の他、植物性食品には脂質ラジカルの消去物質に限らず、多くの抗酸化物質が含まれています。葉菜、根菜、種子等、多種類の植物食品を摂取するのは、老化やがんを含めた生活習慣病の予防に確実につながります。
 加熱すればカサも減り、それだけ多食でき、繊維質も十分量とれます。野菜の多食が動脈硬化など生活習慣病の予防になるのも、その分、高脂肪食品の摂取が少なくなることも関係するかと思います。
 塩分、鉄分、脂質(特にコレステロールやリノール酸)の長期過剰な摂取は害になります(図6)。味は薄め、油は少なめ、鉄分の多い赤身の肉や魚は控えめで、多菜食に心がけて欲しいと思います。
※図表は12頁表3を除き、『21世紀の健康を考える−活性酸素と野菜の力』 前田浩著・金澤文子執筆協力、  幸書房刊より