発芽玄米は、お米の「母乳化食品」
死んでいる”白米・眠っている”玄米・起きている”発芽玄米
天然食材研究家・作家 大海 淳先生
玄米の栄養価がパワー・アップし、しかも、玄米の弱点を全て克服し、普通に炊けて、美味しく、食べやすく、消化吸収力にも優れる「発芽玄米」。
この発芽玄米がブームになった端緒を開いたのは、天然食材研究家で、野遊び作家としても知られる大海淳先生です。
大海先生は発芽玄米が世にほとんど知られていない時代に発芽玄米と出合い、長年、山菜やキノコ(菌類)、薬草などの、天然の植物食材とかかわってきた経験から、感覚的に「これは面白い。今までにない画期的な食品だ」と、その研究と普及に取り組まれるようになりました。
普及につれて、発芽玄米を愛好する人々の間では多くの健康効果があらわれ、それが研究者の目にとまるようになり、機能性成分を中心に研究が進められ、これまで発芽玄米は主にそうした点が注目されてきました。
一方、山野を駈けめぐり自らを「蓬莱仙人」と号する、根っからの自由人である大海先生は、そうした顕微鏡的なミクロ的観点ではなく、望遠鏡的なマクロ的観点から発芽玄米をとらえ、その本質をお米の「母乳化」という言葉で表現されています。
今回は大海先生に、マクロの目から見た発芽玄米の良さについて語っていただきました。
大海 私が発芽玄米に取り組んだのは15年くらい前。まだ全く商品が出回っていない時代にたまたま出合い、長年、天然の植物食材と付き合ってきたものですから感覚的に「これは面白い」というので、いろいろ調べ始めたのがそもそものきっかけです。
何であれ、一つのものを全体にとらえるには、ミクロ的な目とマクロ的な目が必要です。私の場合、根っからの自由人ですから、どちらかというとマクロ的観点でものをとらえる習慣があります。一方、研究者はミクロ的観察には優れていますが、マクロ的視点が疎かにされている部分があります。
例えば健康食品ですと、桑葉やイチョウ葉のお茶などは何社も競合していますが、どこも成分や効果については執拗に追求するものの、どちらも雌雄異株の植物であるという、そうした足元のところは見ていない。実は、雄の木よりも雌の木の葉の方が効果は高いはずなんです。こうした例はいくらもあって、発芽玄米にもそういう部分があります。
「主食としての米」の真価 〜でんぷん穀類は 炭水化物源食品〜
大海 私にいわせるとある意味、現在の発芽玄米は不幸な状態にあると思います。なぜかといいますと、いきなりミクロ的な顕微鏡的な観点から研究がスタートしましたから、肝心なマクロ的部分が、私が取り組んだ時代から一歩も進歩してないんですね。
発芽玄米は「ギャバが10倍含まれてボケに良い」など、ごく微量な成分や効能ばかりが強調されていますが、そもそもお米という食べ物は、その7割強は「炭水化物」です(表1)。
つまり、米という食品は何もビタミンをとるための食品ではなく、炭水化物をとる食品、すなわち「炭水化物源食品」であり、主要な炭水化物をいかに効率良く吸収するかがポイントになります。
炭水化物は、私たちの身体にとって体温を保持したり、身体を動かしたり、体内での物質合成などに費やされるエネルギーを生みだす「エネルギー源」です。車にたとえるならば燃料、すなわちガソリンのようなものですね。だから炭水化物の多いコメやムギ(表1)が「主食」と呼ばれるわけです。
炭水化物は、エネルギーになる糖質と、消化されない繊維質でできています。このうち糖質は分子量の大きさによって、単糖類(ブドウ糖、果糖など)、二糖類(蔗糖、乳糖、麦芽糖など)、多糖類(でんぷん、セルロース、グリコーゲン)に分けられ、最も多く摂取されるのが、太陽エネルギーで生まれ(炭酸同化作用)、植物の種子や根などに蓄えられる「でんぷん」です。
このでんぷんは、口から摂取すると、消化管でブドウ糖に分解されてはじめて体内に吸収され、エネルギーとなるわけです。
また、コメやムギ、トウモロコシなどのでんぷん穀類は、エネルギー源であるとともに、人類に文明をもたらすことを可能にした数少ない食品の一つです。
穀類の栽培は、毎年決まった時期に大量収穫でき、かつ長期保存が可能ですから、それが集団社会の形成と、余剰食物の産出を可能にし、余剰食物はさらに集団社会の成熟を促し、文明を築き、支える力になったと考えられます。
また、でんぷん穀類を主食にするということは、脳の活動の唯一のエネルギー源であるブドウ糖を脳に常時供給することになりますから、知恵や知識の発達という面でも、文明の形成に役立ったと考えられます。
発芽玄米では、そのでんぷんが最初からブドウ糖化されて摂取できるので、直ちに体内でエネルギー化されるのです。これが発芽玄米の一番の大きな意味であり、メリットなのです。
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「死んでいる」白米・
「眠っている」玄米・
「起きている」発芽玄米
大海 玄米はイネの種子ですから発芽能力があるのは当たり前ですが、外皮の籾殻を取り除いた状態の玄米でも芽が出るというのは、やはり驚くべき生命力です。
これに対して、糠層も胚芽もはぎ取られた、胚乳だけの白米には芽を出す力はなく、その意味では、玄米は「生きている米」、白米は「死んでいる米」といえます(図1・写真2)。
また、同じ「生きている米」でも、私は玄米を「眠っている米」、発芽玄米を「起きている米」と表現しています。
それは、発芽玄米は、「発芽」という植物生理に基づいて活性化し、かつ軟化するために、コメ(玄米)がもともと備えている貯蔵栄養素がピークに高まるだけではなく、成長に必要な新たな栄養成分も生まれ、消化吸収も抜群に良くなるからです(図2)。つまり、「母乳化」するんですね。
発芽玄米は、 お米の「母乳化食品」 c 発芽によって、コメの 貯蔵栄養素が母乳化する
大海 コメ(玄米)はイネの種子ですが、コメに限らず、植物の種子は、新しい生命を誕生させるための栄養貯蔵庫となっており、新しい芽を育む「胚芽」という器官を持っています。
新しい芽が生まれ育つためにはそのエネルギーとなる栄養素は、より小さな分子量の吸収しやすい形で胚芽に送り込まれなければなりません。
そのため、発芽の準備が始まると、種子の中で眠っていた酵素が目覚め(活性化)、発芽のために蓄えられていた栄養成分、例えば「でんぷん」は「ブドウ糖」に、「タンパク質」は「アミノ酸」に、「脂肪」は「脂肪酸」に分解されて、胚芽部に送られます。
ということは、発芽の開始とともに、コメの内部に貯蔵されていた栄養素は、「母乳化」された状態で胚芽に送られるといえます。
「母乳化」とはどういうことかといいますと、動物でも、種の保存という基本的な部分での仕組みは、植物と大差ありません。新しい芽を育む「胚芽」は、哺乳動物でいえば「子宮」にあたります。
そうすると人間でも、子宮の胎児にはでんぷんをブドウ糖化したり、タンパク質をアミノ酸化したりする能力は備わっていませんから、母体でつくられたブドウ糖やアミノ酸などが臍帯を通って子宮の胎児に送り込まれます。また、新生児の場合には、「母乳」という食べ物が与えられているわけです。
人間にとって一番理想的な食品はヒトの母乳です。母乳はあらゆる栄養素が吸収しやすい状態で全て含まれ、しかもいろんな免疫力まで備えています。そういう意味では、発芽玄米を見つけたことによって、人間は、母乳化した理想的な食品を手に入れたともいえると考えられます。
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ビタミン類も増え
ミネラルの吸収も良くなる
大海 そういう観点から見ると、あらゆる植物の種子は、発芽によって、そうした栄養的な変化が起きるわけです。
コメの場合、エネルギー源となる三大栄養素だけではなく、発芽時にはコメの糠層や胚芽部に多く含まれるビタミン類(ビタミンB1、ビタミンB2、ナイアシン、ビタミンB6、ビタミンE)も増えて(表2)、中でもB1とナイアシンは顕著に増加していることが確認されています。
でんぷん(糖質)がエネルギー化(燃焼)するためには、ビタミンB1が必要です。その意味で、でんぷん源としてのコメを摂取するには、糠層や胚芽部をつけた玄米の方が、それを取り除いてしまった白米よりも優れているのは確かです(表2)。ただし、玄米を炊く時に圧力鍋で高圧をかけると、ビタミンB1は半分以上壊されてしまうので、その点でも、普通の炊飯器で白米と同じように炊ける発芽玄米は、玄米よりも優れているといえます。
ビタミンだけではなく、糠層や胚芽部にはミネラルも多く含まれています(表2)。発芽時にはこのミネラルも増え、カルシウムでは約25%増加していることが確認されています。
その上、玄米中のミネラルの多くは「フィチン酸」という有機化合物と結合して貯蔵されているために、その大半がわれわれの体内で消化吸収されずに排出されてしまいます(表3)。白米よりミネラル含量の多い玄米を食べていても、しばしばカルシウムなどのミネラルの代謝障害を起こすことがあるのは、こういう理由からです。
ところが、発芽の条件が整って芽を出す準備が始まると、「貯蔵ガード」というフィチン酸の役割は終了し、ミネラルとフィチン酸とが分離します。ですから、発芽玄米を食べるというのは、ミネラルとフィチン酸が分離した状態で食べることになりますから、フィチン酸は消化吸収されずに排出されますが、ミネラルはそのまま消化吸収できるのです。
なお、消化吸収という面では、時期が来るまで発芽にブレーキをかける発芽抑制因子の「アブシジン酸」も、消化吸収の邪魔をします。この発芽抑制因子は、条件が揃って発芽し始めると、自然と構造が変わって消えていくので、発芽玄米には含まれていません。玄米ご飯ではよく噛んでも消化が悪いという人は、発芽玄米ご飯を試されると良いと思います。
発芽玄米食で、
美味しく、健康に
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多大な健康効果の報告例
大海 玄米食で健康効果があらわれるということは、それをはるかに凌ぐ発芽玄米食では、それ以上の効果が得られるのは当然のことです。発芽玄米を普及する中で、私のもとに寄せられた体験例と、私自身の体験から、最も多いのは次の3点です。
・便通の快調さ ほぼ全員が食べ始めてから2〜3日で自覚し、便秘に悩まされたことのない私でも、毎朝の排便が規則正しくなり、排便後の爽快感を感じるようになりました。
・肥満抑制(プラス動脈硬化の予防・日本食への回帰) 発芽玄米には肥満や動脈硬化をもたらす中性脂肪を抑制する「γアミノ酪酸(GABA)」が多量に含まれ(玄米の1・7倍、白米の10倍)、食物繊維も多い。さらに、発芽玄米食を続けていると、少しずつ食べ物への嗜好が変わり、自然に甘いものや高脂肪の動物性食品を好まなくなる傾向があり、これは多くの人が指摘していることです。これまで白米食で動物性食品をおかずに食べていた人が、発芽玄米食にしておかずの好みが変わり、つまりは本来の日本食に回帰していくことで、それによ
る効果も大きいと考えられます。
・高血圧の正常化 報告によれば、早い人で発芽玄米食スタートの10日後、遅い人でも1ヶ月後くらいから症状の改善があらわれ、中には降圧剤をやめるまでに改善した人も少なからず見られました。発芽玄米に多いγアミノ酪酸は、血圧降下にも優れ、また、含まれているカリウム、マグネシウム、カルシウムなどのミネラルや、不飽和脂肪酸(リノール酸)なども効果を発揮すると考えられます。
この他にも、私のもとに寄せられた約1000例の体験例では、健康な黒髪に戻った、ドライマウスが改善し、食べ物の味がよくわかるようになった、尿蛋白がとまった、タバコがまずくなって禁煙した、アレルギー性鼻炎が改善、美肌、血糖値の改善、鉄欠乏性貧血の改善、肝炎による疲労が改善、冷え症からの解放、肩こり・膝の痛みが改善、胃弱体質の改善、睡眠の改善、目の疲れが治った──等々、たくさんの健康効果が報告されています。
また、機能性成分の研究からは発芽玄米には、γアミノ酪酸の他にも、IP6、イノシトール、フェルラ酸、トコトリエノールなどの抗酸化物質・抗がん物質が豊富に含まれ、メタボリックシンドロームをはじめ、がんや、アルツハイマー病を含めた認知症まで、多くの生活習慣病の予防が期待されています。
良いお米で ほど良い発芽状態
大海 日本でつくられているお米の品種は百何十品種あり、発芽という観点からは、コシヒカリやササニシキのような品種改良型のお米よりも、原種に近い品種、赤米とか黒米の方が3分の2くらい早い時間で発芽します。また、農薬米と無農薬米では、無農薬米の方が約半分の時間で芽を出します。
つまり、同じ発芽玄米をつくるにしても、「発芽好適米」という品種があってもおかしくない世界なのです。ところが、そういう研究はほとんどされず、いかにコストを低く抑えることしか考えていないところにも、今の発芽玄米産業の不幸な現状があります。スーパーで安く手に入るものと違い、良いお米で良心的につくった発芽玄米はそれだけ値も張るのです。
発芽には、良い玄米と、適度な温度(27〜30℃)と、良い水(最低でも塩素は抜く)と、酸素が必要ですが、基本的なやり方は簡単ですから、一度この方法で試してみるのも良いでしょう(図3)。
0・5〜1mmほどチョコンと芽を出したところ(ハト胸状)がポイントで、その時が最も栄養活性した状態になっています。
ちなみに、私の家では、家庭用発芽器で発芽玄米をつくり、24〜25時間くらいかかります。
白米と同じように炊けて、白米との混合炊きもできる発芽玄米をまずは召し上がってみて、その良さをぜひ、ご自分の舌と、体とで、体験してみてください。
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玄米食から白米食、
そして発芽玄米食に
──戦国時代、外国人宣教師が日本人を観察して、「礼儀正しく清潔で、兵士も圧倒的多数は足軽で、馬のあとを走って戦する。あの体力はヨーロッパ人にはない」と感嘆していますね。
食べ物といえば米と雑穀と野菜と少々の干し魚。玄米食の人はそれは「玄米食のお蔭」といいますが、今の玄米とは違い、当時は臼と杵で米を搗いて籾すりしていましたから、米の表皮にはいっぱい傷がつく。そうすると、そこから水がサッと浸透して直ちに胚芽に到達し、胚芽は水に出合うと30分程度で変化するといわれていますから、戦国時代はいわば発芽玄米を食べて、体力を養っていたと考えられるのですが、どうでしょうか。
大海 胚芽が軟化してふくらむという変化は起きていたと思います。ただ、0・5〜1mm発芽する状態になるまでにはやはり、それなりの時間はかかりますね。
実は、今の玄米でも、玄米食で圧力鍋を使わない人などは、前の晩から水に浸けたりします。すると発芽までいかなくても、半発芽状態というのは十分あり得ます。
米をつくり始めて比較的早い時期から、耕作者は発芽玄米の存在を知っていたと私は理解しています。米を倉庫などに貯蔵しておきますと、昔はあばら家ですから、ちょっとした雨でも降ればすぐ雨漏りして、夏だったら1日で芽を出すんですね。それで、食べてみると、柔らかくてうまい。
ではなぜ、これほど長い間、発芽玄米は日の目を見なかったのか。
発芽させるには、無作為に玄米を水に入れて外に出しておくだけでも何割かは必ず発芽します。しかし、9割方を発芽させるのには、かなりの作為が必要です。
つまり、安定的に発芽させるには、@自然条件の中では比較的整い難い、A水温管理など余分な労力がかかる、B何よりそのまま食べられるものをわざわざ手間をかけて発芽させ食べる必然性がなかったということだと思います。
日本人が米を食べるようになったのは、少なくとも縄文時代末期にまで遡り、その歴史はざっと3千年に及びます。
今のような白米を常食するようになったのは、江戸時代中期の元禄時代(1688〜1704年)で、当時、江戸で脚気(江戸患い・ビタミンB群欠乏症)が流行したのは江戸市民の間に白米食が普及し始めたからですね。それも江戸、京、大阪などの大都市に限られ、今日のように白米食が広く普及するようになったのは明治時代以降です。
糖質以外には栄養的に玄米より劣る白米が普及したのは、煎じ詰めれば白米に比べ、玄米は、炊くのに手間がかかること、硬くて食べづらく、ぼそぼそして食味が悪いということでしょう。
ところが、発芽という植物生理作用を経ることによって、@軟化して食べやすくなり、Aさまざまな栄養活性が見られ、Bいろいろな健康効果をもたらすということが明らかになってきた今、意識して玄米を発芽させ、それを炊いてご飯として食べる「発芽玄米食」という画期的な食べ方は、われわれが3千年かかってやっと気が付いたということです。
※資料出典:『発芽玄米のすべて──生活習慣病の予防・改善からダイエットまで』大海淳著、総合労働研究所刊