がんや生活習慣病 の予防は、和食が一番

狭心症発作後、和食中心 の食生活と歩くことで、 再発知らずで発作前より 健康に!

東邦大学名誉教授 黒田病院泌尿器科 松島 正浩先生

一病息災──狭心症を契機に生活習慣を見直す

 松島正浩先生は、東邦大学医学部付属病院の院長に就任されてまもなく、早朝の通勤途中で突然、狭心症の発作に襲われました。
 病院にたどり着いてすぐに検査を受け、心筋梗塞の一歩手前であるとわかり、直ちにバルーン療法を受けて経過は順調でしたが、本格的な夏に入って台湾での学会中にまた痛みを覚え、9月に再入院。この入院中に先生は、これまでの暴飲暴食で運動不足という生活習慣を反省され、退院後は食事の改善と歩くことを徹底されました。
 大好きなお酒と、好物の揚げ物、天ぷら、焼き肉など4つ足動物や油っこい物を一切止め、食事は自然と和食中心になり、階段上りも含めて歩くことを心がけて半年、77kg前後だった体重は62kgの理想体重になりました。
 同時に、高かった血圧をはじめ、その他の血液検査も全て正常という結果を得られました。
 発作を起こす前より健康で丈夫になられ、再発の危機も乗り越えられた松島先生は、「一病息災で狭心症を起こしたのが契機となり、生活習慣を見直すことができて良かった」と語られています。
 「日本人の多くが和食の良さを見直し継承することで、がんや生活習慣病は確実に減るだろう」と訴えられる松島先生に、ご自身の体験とご研究されていた「食物の抗がん効果」も踏まえて、「和食の良さ」についてお話ししていただきました。

狭心症の発症
暴飲暴食・運動不足
引き金はストレス

松島 12年前の1995年、心筋梗塞一歩手前の狭心症の発作に襲われました。
 東邦大学医学部付属の大橋病院の院長になった年で、相当ストレスがあった上に、当時はかなり太っていました。
 少し暑くなりかけてきた時期、早朝の通勤途中、家から最寄り駅までいつものように歩いていたら、急に左胸が痛いというより、熱いような初めて経験する苦悶感に襲われ、「何だろう」と立ち止まって深呼吸するうちにスーッと引いた。この妙な胸内苦悶痛が発症でした。
 駅までゆっくり歩いて電車に乗り、徒歩で約700〜800mの病院までの道のりでまた苦悶痛に襲われ、「これは心臓だな」と判断し、病院に着いてすぐに専門医の検査を受けました。心電図を撮るためにトレッドミル(有酸素運動マシン)を始動した途端、また痛みに襲われ、そのまま寝台車に乗せられてPTCA(バルーン療法。狭くなった血管に風船を入れ押し拡げる)を受けました。冠動脈の元が9割くらい詰まっていて、心筋梗塞の一歩手前ということでした。
 その時はPTCAですぐに良くなりましたが、8月に入って台湾で学会があり、また少し痛みを感じ、帰って9月にもう一度検査したところ、コレステロールによるアテローム性動脈硬化があり、バルーンだけでは無理だということで、当時最新のステント(冠動脈にコイルを入れ血管を拡げる)を入れ、それからは非常に良くなりました。
 狭心症は、血管が動脈硬化である程度詰まったところに、極度の緊張などストレスがかかると発症します。交感神経が高まってくる朝に発症しやすいというのもそういうことです。私の場合も暴飲暴食・運動不足という生活習慣に、仕事上のストレスを抱え、早朝の通勤時に発症したわけです。

食事とウォーキングで肥満・高血圧・高脂血症を改善
好物の酒・肉・揚げ物を絶ち 青魚・大豆製品・海藻・野菜

松島 当時体重は身長168cmに対して75〜77kg。血圧が少し高く、お酒や油っこいものが大好き、運動不足もあって、動脈硬化になるのは当然だったのです。
 入院中に計画を立てて、退院後は食事改善と歩くことを徹底的に実行しました。
 毎晩焼鳥屋でジントニックや焼酎の水割りを飲んで帰宅というパターンを、焼鳥屋ではネギだけ食べてウーロン茶を飲む、好物のカツなどの揚げ物、四つ足の肉は一切止め、蛋白質は魚類、中でも動脈硬化に良いEPAの豊富なイワシやサバなどの青魚、豆腐や納豆の大豆製品を中心に、ヒジキなどの海藻類や野菜類を積極的に食べ、歩くことに心がけました。
 それだけで体重が月に2kgずつ減り、6ヶ月で12kg痩せ、62〜63kgと理想体重(身長とBMI指数から割り出した私の理想体重は1・68(身長)×1・68×22=約62kg)になりました。
 それが良かったのでしょう。太らないように毎朝体重を測り、前日の反省を怠らないようにしているうちに、動脈硬化など生活習慣病にかかわる血液検査の数値は全て正常になりました。
 ただ、定期健診では高血圧は少し高めで軽い薬も出ていましたが、高脂血症はあまり出ていませんでした。定期健診だけでは動脈硬化の進行はなかなかわからないものなのですね。
 それでも瞼の横にいわゆるコレステロール斑という黄色い脂肪腫ができていて、それが血管の中にもできているのではないかとは思っていました。それも食生活を変えたら退縮し、なくなってしまいました。

1日1万歩と 歩きの効果を上げる工夫

松島 運動は、車は一切乗らず、1日1万歩を目標に、駅の階段から、病院でも4〜5階までは緊急時以外はエスカレーターやエレベーターは使わず、ひたすら歩いて今、10数年経ちました。
 スポーツクラブやプールなどに行く時間はありませんし、心臓に負担のかかる激しい運動は無理です。毎日の動きの中で無理なく続けられるものといったら、やはり歩くことです。
 運動効果を高めるために、足には負荷サポーターをつけ(写真)、500gから始めて1kg、今は2kgの負荷で両足で4kg。階段を努めて上るのも同じで、そのくらいの負荷をつけて、ウォーキングの効果を上げています。
 今は便利になって携帯電話には万歩計機能がついていますから、それで歩数をチェックしています。携帯電話にはカロリー計算表もついているので、カロリーチェックもそれでしています。

ストレスをためない 継続の知恵

松島 ただ10年も経つと人間は忘れてくるんですね。「少しぐらいなら。いっぱい食べなければ」と少し食生活を緩めましたら、今回の検査で「この1年間何か反省すべきことがあるでしょう」といわれてしまいました。また少し冠動脈が詰まりかけていたんです。
 コレステロールの代謝が悪い人は、少しでもコレステロール食(肉食)をすると蓄積しやすいということで、それからはまた肉や揚げ物は止めました。
 酒を完全に断ったのは狭心症を発症してからの半年間だけです。お酒まで完全に止めてしまうとストレスになりますから、標準体重になって復活しました。その代わり、ジンなど酸性の酒は止めて、アルカリ性で冠動脈疾患に良いという「赤ワイン」に切り替えました。赤ワインはポリフェノールのアントシアニンが豊富でそれが動脈硬化の予防になるわけですね。
 ただし飲み過ぎは禁物。主治医からも「肝臓のγ─GTPが上がるから、赤ワインでも飲み過ぎないよう」と注意されていますので標準体重を目安にして、ほどほどに嗜んでいます(笑)。

がんも生活習慣病も 伝統的な和食が一番
遺伝子よりも食生活

松島 発作を起こす前までは、朝はパンにバター、卵焼き、コーヒー、お昼は主に病院の食堂でしたがハンバーグやカツなどが多く、夜は外食、仕上げは焼鳥屋。
 今は朝は食べても軽く果物を半切れ程度、昼は蕎麦、夜は魚や豆腐などをつまみにワイン。立食パーティーなどでは、ローストビーフやキャビアなど高カロリーのものがたくさんある真ん中のテーブルは「毒のテーブル」として避け、端のテーブルの蕎麦やスシ、野菜や果物などを食べるようにしています。
 そういうパターンにすれば血液検査で、コレステロールや中性脂肪、尿酸や血糖も引っかからないようになります。
 私の専門の泌尿器でも今、前立腺がんが急増していますが、そうした昔は欧米型といわれていたがんが増え、心臓病などの生活習慣病が増えたのは、やはり戦後の日本人の食生活が四つ足動物や油をとり過ぎるようになったことが大きいと指摘されています。
 やはり伝統的な和食が一番なんですね。日本はプロテインスコアの良いお米を主食としているので、蛋白質はお米と大豆、小魚程度で十分まかなえるんです。ところが、欧米諸国はプロテインスコアが50そこそこの小麦やとうもろこしが主食ですから、肉や卵をつけて100になるようにしているわけです。
 日本では終戦後、食生活が非常に厳しい時代に進駐軍政策によって脱脂粉乳が入り、肉が導入された。その後、田畑も復活して米がとれるようになっても、その上に肉食を乗せてしまって40〜50年きてしまった。そのツケが、がんや生活習慣病の急増になったのでしょう。
 明治時代から始まった日本からの移民の疫学調査では、二世、三世になると、移民先の国のがんに近づいていくというのは食生活が変わったからで、遺伝子ではないんですね。
 日本に住む日本人も戦後の食生活の欧米化で、生活習慣病もしかりがんもしかり、結石も増えているというのはやはり、肉などをとり過ぎているからです。
 欧米人でも、アメリカのモルモン教徒やアーミッシュの人達はタバコは喫わない、酒も節制し、非常に質素な食生活をしていますから、同じアメリカ人の中でも発がん率など半分以下です。食生活というのは非常に大事なのですね。

日本食に多いがん予防食品

──先生には本誌1994年11月号(No.251)で、当時ご研究されていた「お茶の抗がん効果」についてお話しいただきました。
松島 アメリカのウィスコンシン大学に留学していた当時、ウィスコンシンのがんセンターはネズミを使ったがんの抑制実験が盛んで、それから食物と抗がんの研究をするようになりました。
 緑茶のがん予防効果を研究したきっかけは、静岡の川根茶の生産地では胃がんをはじめ、がんが少ないという報告に興味をもったからです(図1)。
 川根ではお茶の消費量が全国平均の約10倍と高く、それも最初の一煎だけ飲んで、抽出後の葉っぱは夕食に炒めて食べる。つまり、お茶の全てをとっていたんですね。その流れの中で、山の中ですから穀類と一緒に豆類、豆腐だとか煮豆をよく食べていた。そうした食習慣ががん予防につながっていたわけです。
 抗がん効果については緑茶だけではなく、玄米茶、そば粉、きな粉、昆布、小豆、ヨモギなどと手当たり次第に調べました。
 中でもそば粉、きな粉、緑茶、玄米茶などはがんの増殖を抑える働きが高く、その中でも、やはり決定的に緑茶や玄米茶は良いという結果が見出されました。
 例えばマウスに膀胱がんを起こす物質を5週間与えた後、1日に摂取する飼料(約20g)の中に、そば粉やきな粉、緑茶などを混ぜて与え、10ヶ月後にがんの発生率とがんの大きさを調べた実験では、膀胱がんの大きさは何も加えなかった飼料のマウスに比べて、
@そば粉やきな粉を加えたグループのがんは半分以下、
A緑茶だけを混ぜたグループのがんは6分の1、
B玄米茶と緑茶の両方を混ぜたグループは20分の1──という結果が得られました(図2)。緑茶と玄米茶の両方を混ぜたグループでは、がんの発生率も45%と、何も加えないグループの半分でした。
 えさに混ぜた量は、そば粉ときな粉が0・3gで、そばは人間なら1週間に1度食べる程度の量、緑茶や玄米茶は計0・6gで、1日に10杯程度に相当します。
 一方で、マウスにワラビやゼンマイを食べさせると1年間で100%膀胱がんができます。アク成分のアルカロイドの中に強力な発がん物質があるからです。ですから、アクの強い野草や山菜はごく短い旬の時期に少量いただくという食べ方が理にかなっているわけですね。
 魚を焼いてできるお焦げには発がん性があります。大根おろしといっしょに食べると、お焦げからできる発がん物質のニトロソアミンの毒消しになることが実験でもわかっています。
 ニンニクやネギの硫黄化合物も、がん予防食品、血栓予防食品として非常に優れています。カツオのたたきにニンニクやタマネギのスライスを薬味にするのも大変すすめられる食べ方です。
 私の研究では、緑の野菜ジュースも良い結果が出ました。これは緑の野菜を多くとるということですね。
 ですから、日本の伝統的な食文化の中で、和食の中の良い物をうまく組み合わせてとっていけば、がんや心臓病などの生活習慣病などは相当予防できると思います。今、日本人が忘れかけている日本食の良さを海外では気がついて取り込んでいる中、日本人も自国の食文化を顧みて、継承していくことを願っています。