医療崩壊を食 い止める"救急車に乗せ ない医療(予防医療)の展開

医療法人社団「木下会」千葉西総合病院総長 鎌ヶ谷総合病院院長 前田 清貴先生
特定医療法人「徳洲会」グループと、医療法人社団「木下会」

「生命だけは平等だ」── 誰でも最善の医療を受けられる社会を目指して

 特定医療法人「徳洲会」は、「年中無休」・「24時間オープン」など、患者の側に立った病院経営で知られています。
 設立者の徳田虎雄氏は、医師は2人しかいない離島の奄美諸島・徳之島に育ち、小学3年生のときに急病の弟さんが夜間診療を断られて亡くなるという体験から「誰であろうとも夜中でも診る医者になる」と医師を志しました。
 徳洲会は、徳田理事長の「生命だけは平等だ」という理念の下、医療不足に悩む全国各地に病院建設を進め、今や日本全国150以上の病院・診療所・介護施設を運営する日本有数の医療法人グループになりました。
 グループからは地域社会に応じてさまざまな医療法人が生まれ、「木下会」もその一つです。地域に根ざした医療を進めるということで、名前は病院近隣の千葉県・木下街道から取られました。
 前田清貴先生は「木下会」の2つの病院の総長と院長を兼務されるという激務の中、地域住民のために、24時間体制で緊急医療の徹底を図ると同時に、一方で救急車に乗せない∴纓テを展開。検診の充実や「医療講演会」を開くなど、予防医療にも力を注がれています。
 取材の日、夕方6時の病院受付は夕方診療(14:30〜18:30)を受ける親子連れや勤め帰りの患者さんであふれ、地域住民優先の病院の姿勢を垣間見ることができました。
 医療現場の崩壊が危惧されている中、前田先生に地域住民のための良い医療とは何か、また、予防医療の要諦などをお話ししていただきました。

医療現場に見られる 崩壊の兆しと改善策
医療現場からの改革を!

前田 逼迫する国の財政にとって大きな問題となっているのは33兆円を超え、さらに増え続けている国民医療費の高騰です。国の財政立て直しに、医療制度の改革は最も重要課題です。
 しかし、小泉内閣で始められた医療制度改革案(表1)を見ると、どれもが当然必要なものですが、全体的には医療費を上から一方的に減らしていく強引さが見え隠れし、国民の健康・福祉を損ねるのではないかという心配や不安を感じます。
 特に介護保険制度では介護の質を落とさずに継続できるかどうか、すでにさまざまな問題が噴出しています。また、医療機関にとっては利益が減少するので、本当に必要な検査は「儲からない」という理由で省く一方で、無駄な検査や治療は行うということも起こりかねません。
 私は今本当に必要なのは「医療現場からの改革」だと考えています。医療現場ではまだまだ多くの無駄が蔓延し、現場の改革から始めていけば、結果的に医療費を引き下げることが可能です。
 具体的には、@医師の高額な人件費を減らす、A科別と地域の医師の偏在を見直す、B緊急医療を含めた高度医療の充実を図る、C予防医療の充実を図る──などのことが重要と思います。

医師の偏在

──医者は増えているのに医者不足がいわれるのはなぜですか。
前田 偏っているのです。医者の偏在が広がっている原因にはいろいろあります。
@地域の偏在──若い人が都市の大型教育基幹病院に集中して技術なり知識を得るために集まるのは当然ですし、まして離島僻地は敬遠されます。都市部では開業医も急増しています(表2)。地域遍在を改善するのは、適切な医師定数を示し、定数を超えた場合、保険点数上のハンデをつけるなどの規制が必要だと思います。
A大学病院の医師不足──今各大学病院では大学医局の崩壊を防ぐために、地方に散らばった医者を呼び戻しています。このため、小児科や産婦人科が閉鎖になるという事態があちこちで起きています。
B科別の偏在(表3)──特に今問題になっている小児科や産婦人科、また麻酔科などでは仕事がきつい割に保険点数が低く、収入が少なく、医師不足になっています。厚労省は点数の優遇を検討していますが、他にもいろいろな手を打つ必要があります。
 私は、地域や科別による偏在を解決するには、現在ある指定病院での研修制度にからめて、研修医は@1年間は離島僻地で勤務し実績を積む、A救急診療の充填に6ヶ月間は勤める、B小児科や産婦人科などの研修を3ヶ月以上実施する、C麻酔科の研修をする──などで可能になると考えています。

緊急医療の危機
現場では救急車のたらい回し

──奈良県で緊急の周産期妊婦さんが大阪までたらい回しにされて赤ちゃんが助からなかったニュースが報じられましたが、救急車のたらい回しは相当深刻だそうですね。
前田 皆さん病気で倒れて救急車に乗って初めて気がつくのですが救急医療は悲惨です。緊急医療を断られる事例は頻発しており、このままでは今後もっと増えます。
 千葉市内でも救急車で18件もたらい回しされるケースが起きています。我々のところに来て「8件目でやっと引き受けてくれました」などといわれますが、当然引き受けるべきものを断っているわけです。
 「救急輪番制」という、各救急告知病院が救急車の受け入れを当番制で行う制度があり、多くの補助金が出ていますが、当番の病院であっても断る場合が多いのです。受け入れ拒否を絶対にしないという鉄則の下に、救急輪番制度を敷かなければ、税金による補助金も無駄になってしまいます。
 緊急医療を何とかするには、救急医療の現場が行政や政治家たちに現場の声をしっかり伝え、行政や政治家たちはその声に耳を傾けなければいけない。ところがそのパイプがほとんどない。救急も含めた高度先進医療が一番大事なのに、そこにお金をかける流れはできていない。現場がもっと声を上げて、政治・行政とのパイプをつくり、行政を動かさないといけないんですね。
──先生の病院は24時間体制で動いているそうですね。
前田 緊急医療は原則断らない。だから信用が生まれ、患者さんが集まってきます。乗車拒否したら信用が落ちます。公的医療機関が今傾いている基本はそこにあります。国立病院に救急車が行っても半分は断られる。患者さんを選んでいるのです。
 技術や知識は患者さんに還元しないといけないのに皆、楽な方、楽な方にいって、本来の実力を発揮しない。宝の持ち腐れです。こんなことをしていたら日本の医療はだんだん荒んできます。
 医者の義務とは知識や技術をもった人が奉仕の心をもつことです。その心構えをしっかり教えないといけない。困っている患者さんが来たら、土日を返上してでも仕事する。命を預る医療とは本来そういう仕事です。
 そしていかに優秀なお医者さんたちをしっかり使うかが、政治家や行政マンの考えるところです。県単位、国単位で厚労省も含めて動いてもらわないといけません。それをどうしたらいいかが私のテーマで、まずは病院づくりで実践をし、行政を動かし、厚労省を動かし、場合によっては政治家まで動かすつもりで動いています。

少数精鋭で、良い医療の実現
〜総合診療医と 質の高い、専門医と 看護師・介護士・医療技師の養成〜

前田 日本の医療で今一番弱いところは幅広い医療のできる「総合診療医」が少ないことです。
 今の日本は1割は本物の専門医、1割は総合医、あとの8割は専門医と称して実際の専門医の仕事はできないか、やっていない医者で占められています。医師の9割を救急総合医、1割を専門医とし、専門医のハードルを高くして人口に対して何人と配分していけば、地域格差も科別の格差もなくなると思います。
 総合医は、内科や外科、小児科、皮膚科、精神科など幅広い知識と技術をもち、どんな病気にかかっても必要な治療ができ、必要な場合は専門医に責任をもって紹介してくれる。そんな総合医が増えれば、患者さんの立場からも一人の医師がきちんと全身管理をしてくれるので安心です。
 一方で、質の高い専門医を養成する。専門医は今、大学卒業5年目で資格が取れるので乱発されすぎて数だけは多い。しかし、卒後5年で手術をさせたら、合併症が頻発し混乱が起こります。専門医の資格を取るには、ペーパーだけでなく、知識や技術の試験も厳しく評価し、さらに5年ごとの再評価なども必要です。
 さらに、救急医療でも救急救命士に挿管させた方が患者さんのためになるのにそれができない。麻酔も麻酔技師を養成すれば十分ローコストになり、アメリカでは看護師がしています。内視鏡も内視鏡技師がします。日本だと医者本来の仕事が皆それに取られてしまう。看護師なり介護士なり医療技師なり、専門性の高い、医師に近いレベルの権限をもつ国家資格をつくり、医者はチーム医療の中心に立って自分の技術を教えてリーダーシップを取っていけば、少ない医者で良い医療ができるのです。

予防医療の重要性

前田 医療現場の崩壊が叫ばれ、予防医療どころではない状況であっても、予防医療をしっかり展開しないと医療制度改革を進めることはできないと私は思います。
 火事を起こさない、起こしてもボヤの内に消して大火事を防ぐのと同じで、予防医療は医療の質向上の上でも、医療費削減の上でも重要です。
 例えば、少し前迄は血糖が1000近くもあるのに本人は「ちょっと高いくらいで大丈夫だよ」という患者さんも結構いました。高血糖ではどんどん血管がボロボロになり最後は倒れてしまうことを周囲の誰も教えてない。高度な知識も技術もいらない基本的なことすら教えられてないから、倒れてから病院へ運ばれる。そうすると高額な医療費がかかり、医療費はどんどん上がっていく悪循環に陥ります。それをしっかり断ち切っていかないといけない。
 予防医療については小泉内閣の医療制度改革で初めて取り入れられ、特定健診やがんの予防拠点病院もつくり始めましたがまだまだ不十分です。

予防医療と食生活
救急患者の多い 離島で始めた医療講演

──先生は予防医療の一環に、地域の人たちに「医療講演」を定期的にされているそうですが、何かきっかけはあったのですか。
前田 平成9年から2年間、奄美諸島の沖永良部徳洲会病院の院長に赴任しました。
 救急車台数は通常、人口1万人に週1台くらいですが、人口13000人の島で毎日救急車が来る。患者さんのカルテを見ると高血圧、糖尿病、高脂血症、痛風と生活習慣病だらけ。高血圧や高脂血症をほっといたら動脈硬化が起こって脳卒中や心筋梗塞になるというのを誰も知らない。外来では薬を出すだけで、予防医療がされていなかったんです。
 後手に回る救急医療にストレスを感じ、何とかしなければいけないと思って思いついたのが医療講演です。「病気を教えに行けばいい」と。外来で1人1人に30分以上教えても時間がかかるばかりですから。
 それで、島のお爺ちゃんお婆ちゃんにわかりやすい言葉で話していく内に、救急車台数が何と月に1〜2台まで減ったんです。外来患者は微増し、救急車の台数は激減、寝たきりのお年寄りが減ってきた。これらのことは、小さい島ですから3ヶ月くらいで証明できました。
 これはすごい成果だと、それからはどこの病院に赴任しても医療講演をするようになり、そうするとやはり救急車が減り、医療費も減ることがわかりました。
 腸閉塞を起こして救急車で運ばれてくる患者さんも多く、そこで大腸カメラで検査をしたら、大腸のポリープがいっぱい見つかった。それで島中の人たちを大腸カメラ検査してポリープをどんどん取っていったら、がんがドーッと減ってきたんですね。

沖永良部島で予防医療の大切さを学んだわけです。
メタボリックシンドロームと 健康ダイエット

前田 日本人の死因の第1位はがん、第2位が心臓病、第3位が脳卒中ですが、これらはどれも食生活が大きく関係しています。
 第2位と第3位の心臓病と脳卒中は、血管が動脈硬化でボロボロになって起こる病気です。この予防は、前段階のメタボリックシンドローム(肥満・高血圧・高血糖・高脂血症・高尿酸血症)をしっかり抑えることです。
 そこで一番大事なのは肥満(腹部内臓型肥満)対策です。一番のポイントは食生活によるダイエットです。食生活の改善を禁煙や運動も含めてやりますと、内臓脂肪が減少し、それだけで高血圧、高血糖、高脂血症が解決することがわかっています。
 人類は長い間、飢餓と闘ってきましたから、食糧難を乗り越えてきた遺伝子、要するに食べたものを脂肪に変えて備蓄する遺伝子を我々はもっています。
 ですから「30品目バランスよくとりましょう」、「三食きちんきちんととりましょう」と管理栄養士さんの教え通りすると大体が太ります。なぜなら昔と違って、車社会、電化社会の現代では、そういう食べ方をしていると、摂取カロリーが運動によって消費されるカロリーより上回りますから、余ったカロリーは脂肪となって腹部に溜まっていくわけです。
 ところがカロリーを下げると、栄養バランスが悪くなり、ミネラルやビタミン類の微量栄養素が足りなくなり、代謝が悪くなります。
 例えば、ビタミンB群が不足すると脂肪の代謝が悪くなり、太ってきます。ミネラルのクロムは、ブドウ糖を体内にとり込んで血糖を下げるなど、いろいろな働きをします。筋肉をつくるアミノ酸にしても、必要な栄養素は必要量摂らなくてはいけません。いかにカロリーを下げて栄養をバランスよく摂るかが勝負になります。
 それには野菜をいっぱい食べる。しかし、野菜をいっぱい食べてもミネラル分は少ない。そこでサプリメント(栄養補助食品)が大事になります。カロリーコントロールすると、炭水化物や脂肪などのカロリー源だけではなく、微量栄養素も足りなくなりますから、これらはサプリメントで補うしかありません。
 そして、ウォーキングや水泳など、酸素を十分に筋肉が取り入れてエネルギーを消費していく有酸素運動で脂肪を燃やしつつ、筋肉を鍛える。熱を産生する筋肉量を増やすことも大事です。

がんと食生活
〜ご先祖様の食生活が大事〜

前田 がんの原因も実は、食生活をはじめとする環境因子が一番大きいことがわかっています。
 総論としては、我々のご先祖様があまり見たこともない、さわったこともない、食べたこともないようなものを体に入れますと、がんになりやすい。ご先祖様がいろいろ食べてきたものは栄養になって血となり肉となり、がん細胞はつくらないのです。
 ですから、化学物質、特に石油製品が多いわけですが、これが燃えたり腐ったりすると化学変化してどういう毒物、発がん性物質が生まれるかわからない。排気ガスにしても、食品添加物にしても、タバコにしても、ご先祖様はそういうものをほとんど吸ったり、口に入れたりしてこなかったはずです。
 がんを抑制する遺伝子を支えるのがビタミン類です。野菜中心の食生活はメタボリックシンドロームを予防するだけではなく、がんも抑えてくれます。
 日本人は元々農耕民族で狩猟民族ではないですから、ご先祖様はほとんど肉を食べてきていない。魚、特に近海魚、青魚を食べてきた。肉を日常的に食べるようになったのは戦後から今日に至る50年くらいの期間です。その短期間に、がんが増え、メタボリックシンドロームが増えてきたんですね。一方で子どもたちの体格は良くなりましたが、腸の中はまだ対応しきれないのが現実です。ですから肉食の好きな人は特に、野菜を十分にとらないといけない。
 野菜の好きな人、繊維成分をいっぱいとる人は腸が長くなり、大腸カメラはやりにくいけれど、そういう人は大腸がんになりにくい。逆に、肉の好きな人は腸が短く、大腸カメラはやりやすいけれど、大腸がんが見つかりやすい。肉の好きな人は便秘症も多いのですが、大腸がんがあると便秘になりやすくなります。便秘症イコール大腸がんとは限りませんが、便秘症の方、肉好きの方は、一度は大腸のカメラをとることをすすめます。
 油っこい食事をとることで今、乳がんが増えてきております。少数ながら男性でも乳がんがありますから注意してください。
 食生活と病気予防ということでは、結論をいいますと、メタボリックシンドロームでもがんでも、野菜を中心にした和食が日本人の体には合っているといえます。

「生命だけは平等だ」
私の原点とこれから

──「年中無休」で「24時間オープン」の経営方針を掲げる徳洲会グループの病院の総長をされながら、この9月にオープンした鎌ヶ谷総合病院の院長も兼務されるとは大変な激務ですね。
前田 仕事は楽しみながらしております。流石の徳田理事長も「前田には体力はかなわん」といってましたが、体力だけは自慢です。
 鎌ヶ谷病院では、病院を拠点に「健康ネットワーク」を立ち上げ、健康で明るく元気に120歳まで≠モットーに、各人が健康寿命で自立し社会に役立つことを目指しています。
 この10月20〜21日には一般市民の方々を対象に、皆で健康にかかわる勉強会『健寿・健康サミット 〜心と身体と食の祭典〜』を開いて、予防医療の基本となる心・食・運動≠ノよる健康づくりの重要さを実践を通して知っていただき、同時に来年あたりは、病院としてのエビデンス(証明)づくりに「健寿医学総合研究所」を開く予定でいます。
──そうした医療に先生を駆り立てる原点はどこにあるのですか。
前田 私は出身が沖縄で、当時は沖縄の離島医療はまだまだでしたから、離島医療を志しました。
 それで、これができれば他の手術もできるだろうと、食道がんや肺がんなど胸を開ける一番難しい手術をマスターし、同時に離島医療に必要な総合医療を身につけるために、整形も小児科も麻酔も内視鏡も自分で段取りを組んで、秋田大学出身ですから、秋田県の各病院でローテーションし、秋田県の全てのいいところを盗みながらオールラウンドに勉強しました。
 この間に徳田理事長の「生命だけは平等だ」という理念・哲学に出合い、それに基づいて離島医療だけではなく、緊急医療や予防医療をはじめ、医者の教育、病院経営、病院づくりなど、行政も動かすつもりで日夜動いているわけです。
 今は、海外の困ってるところに病院をつくるのが徳田理事長の夢でもあり、私もそれに賛同しているものですから、成田のある千葉の病院を拠点にそのお手伝いをしています。
 さらに、未来医療として最近注目され、災害医療にも大きく貢献すると思われる、IT(情報技術)を利用した電子カルテや、ネット医療、遺伝子に関係するゲノム医療などにも目を向けています。
──最後に激務をこなす一番の健康法を。
前田 健康法は時間が少しでもあれば熟睡する。寝て頭がすっきりすると仕事ができます。食道がんの手術で1週間泊り込みで患者さんを診て「前田はいつ寝てるのか」といわれましたが、仮眠を10分、20分とるとまた仕事ができるんです。睡眠時間も個人差があって、8時間たっぷり寝て初めていい仕事ができる人と、僕みたいに3時間睡眠でもいい人といろいろですが、だらだら睡眠ではいけない。寝るときは意識不明になるくらい寝る。深さが大事なんです。そうするとすっと仕事ができます。
 食事は野菜の摂取に注意して、3食。過食を慎んでいます。