化学農薬なしで、安心・安全の虫除け!
インド産「ニーム」 が農業・植物 栽培の救世主に!!
株式会社セゾンドエール代表 内田憲元さん
国連も認めた安全な害虫防除剤「ニーム」に、ハーブを加えてさらに効果的に
「ニーム」は、葉・枝・樹皮・種実・花と捨てるところがなく、樹木全体が人間の生活に役立ち、国連をはじめとする様々な機関から「エコライフに最適の樹木」であるとして高い評価を得ています。
中でも今、世界的に注目されているのが、種子から搾油したニームオイルの害虫防除効果です。200種類以上の害虫に効果を発揮する一方で、人や農作物、益虫には害がなく、ニームオイルは「有機農業の切り札」とも評価されています。
潟Zゾンドエール代表の内田憲元
さんは30年来のハーブの研究から7年前にニームと出合い、ニームオイルにハーブを加えることで防除効果を高め、遅効性といわれるニーム効果に速効性をもたせることに成功しました。
内田さんにニームオイルを中心に、安心で安全な植物栽培における防虫の知恵を教えて戴きました。
環境に優しく、人体に害のない 忌避剤・殺虫剤を求めて フィトンチッドから ニームまでの出合い
内田 私は若い頃から山が好きで、例えば森に入るといい匂いがし、元気になる、周囲を見渡すと植物に病気が出ていないなどの体験を通して、こういう環境を農業に生かしたら良いのではないかと漠然と感じていました。
その後、日本でも森林浴成分「フィトンチッド」(1930年代、ソ連のトーキン博士が樹木の香気成分を、その働きからフィトン
(植物)チッド(殺す)と名付けた)
によるアメニティ(総合的居住環境の快適性)空間をつくる流れが生まれ、私も本格的にフィトンチッドに興味を抱くようになり、約30年前にフィトンチッド研究で知られる農水省森林総合研究所の谷田貝光克先生(後に東大教授、現名誉教授)をお訪ねしました。
当時、谷田貝先生を囲んだフィトンチッド研究会がもたれており、他の研究者も招いての勉強会に私も入り、谷田貝先生には今に至るまでたくさんのことを学びました。
フィトンチッドの勉強をしていくうちに、私はフィトンチッドがもつ害虫の忌避及び殺虫作用、すなわち人を元気にするだけでなく、他の植物や虫や動物から身を守るフィトンチッドの摂食阻害作用などに注目するようになり(図1)、フィトンチッドを利用した農薬に代わるものの研究を独自に始めました。
といいますのも、空気や水が美味しいといわれている農産物生産地では、予想外に障害者が多いということを目の当たりにして、何か自分にできることはないかということが頭にあったからです。
日本の農薬(化学合成農薬)の使用量は半端でなく、輸入農産物に対しても防疫上の問題からポストハーベスト(収穫後)農薬を使うよう要請しています。
私は環境に優しく、散布時もマスクなどの防具が要らない。散布中、人体、動物に付着しても安全で、水で洗い流せる。 そういう安全な防虫剤を何とかしてつくりたかったわけです。
しかし、フィトンチッドの精油(エッセンシャルオイル)だけでは忌虫や殺虫は非常に難しく、試行錯誤する中で7年前にニームのバイブル的な本と出合いました。
フレグランスジャーナル社から出ている『ニーム〜忌虫効果で無農薬を可能にするインドセンダン〜(ジョン・コンリック著・大澤俊彦監訳・本堂由紀訳)』という本で、この本でニームや日本ニーム協会の存在を知り、日本ニーム協会会長の稲葉眞澄さんの協力の下で、私のニームの研究が始まったわけです。
安全な忌虫・防虫剤 万能樹木「ニーム」
内田 ニームは葉、樹皮、花、種子にいたるまで樹木全体に薬効や健康効果があるといわれ、原産国のインドでは4〜5千年も前から食用や薬として使われています。インド伝承医学のアーユルヴェーダにも用いられ、民間でも「村の薬局」として万能薬のように重宝され、マラリアに罹患した人がニームの葉と実を煎じて飲んだりもしていたようです(表1)。
ニーム成分の本格的な研究は、ドイツの昆虫学者ハインリッヒ・シュムッタラー博士が1959年にスーダンでイナゴの大襲来があった時に、ニームの木だけが残ったのを目撃した調査研究を端緒としています。その後、ニームの害虫忌避効果や安全性が次々に確認され、2001年には国連が安全農薬として承認しました。(表2)
部位別に見ますと、
木材は、家具や家屋資材として利用される他に、日本の政府開発援助で炭焼き技術対象樹木として、炭焼きの会会長・杉浦銀治先生の指導の下、樹皮を剥がないで炭化することが進められています。
葉は、アーユルヴェーダでも使われ、欧米では今、葉の抽出物質から健康食品もつくられています。
害虫防除剤としては、活性成分をその都度熱水抽出するために、安定した散布剤はつくれません。谷田貝先生のお話では、東南アジアでは葉を畑に鋤き込んで害虫除けに使っているということです。
樹皮は、アーユルヴェーダでは葉と同等の効果がいわれています。
樹皮の害虫防除成分はニンビン、ニンビニン、ニンビディン、ニンボステロール、マルゴシンなどがあり、ニームオイルに比べると活性は少ないと報告されています。
種実・仁(種実の核)は、最も利用価値があり、アーユルヴェーダでも重要な材料とされ、中でも、仁から抽出するニームオイルは今、安全な害虫防除材として世界中で脚光を浴びています。油の絞りかすのニームケーキは有機肥料と、害虫除けを兼ね備えた土壌改良材として畑に鋤き込まれています。
これらニームの多岐にわたる効能や利用により、石鹸、練り歯磨き、シャンプー、クリーム、ローションなどがつくられ(表3)、ニームの栽培は、開発途上国の経済発展に役に立つということで、ニームの植林が推進されています。
ニームオイルの害虫防除効果
〜200種以上の害虫に効く〜
内田 ニームオイルの害虫防除効果の90%はアザディラクチンという成分によります。その主な作用は害虫を植物から避けさせる忌避作用です(表4)。
すなわち、アザディラクチンは害虫を殺すのではなく、摂食阻害作用によって虫の成長や繁殖を阻止し、最終的には絶滅させるのです。つまり害虫は、ニームオイルを散布した植物を食べることを拒否するわけです。
最近の研究では、サランニンという成分にも強力な拒食作用があることがわかってきました。
また、ニンビン・ニンビディンという抗ウイルス作用をもつ成分では、害虫のもつウイルスを植物に感染させない効果があります。
さらに米国農務省のリポートでは、ニームの各種成分は害虫の内分泌機能の働きを阻害し、それによって害虫の行動や生理機能に変化が生じて、脱皮ができなくなるなど変態機能や繁殖能力を失って害虫の数が減少することが報告されています。
ニームの臭いで害虫が近づかなくなり、さらに散布によりニームが浸透した葉などを摂取した毛虫などの幼虫は、消化阻害や変態ができなくなり、成虫にならず産卵もできずに死んでいくわけです。
こうしたニームの忌虫効果は200種以上の虫に作用するといわれています(14頁表9参照)。
耐性がなく、
益虫やヒトには安全
〜米国・国連・日本での
安全承認〜
内田 ニームは天然の材料ですから、生分解性があり、環境を汚すことなく害虫を抑えます。
化学殺虫剤の場合、使用後あらかたの害虫が死んでも、生き残る害虫がわずかでもいると、殺虫剤で天敵の数も少なくなるので次年度は猛烈に増えるとか、耐性ができてしまって次年度は効かなくなるということがよく見られますが、ニームは耐性ができないので何回でも使える上に、私どもが開発したニーム製品「ニームサイド」は、植物への浸透性がよく、少々雨が降った後でも、害虫が植物を食べることで死んでくれます。
一方で、ニームは鳥や益虫、動物や人間に対して無害です。鳥や益虫は、ニームによる悪影響を受けず、生き残って弱った害虫や幼虫を食べることでも害虫が減ります。
ニームは長い間食用にされてきた歴史があり、近年の成分分析から、その安全性は科学的にも認められるようになりました。
アメリカでは1985年に環境保護庁(EPA)が安全農薬として許可し、国連は2001年の「残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約」で安全農薬として認証しました(7頁表2)。
日本でも昨年(06年)5月、ポジティブリスト制度799品目に残留農薬の網がかかり、そのうち65品目に厚生労働省食品衛生法による安全認定が下り、その中にニームオイルと主成分のアザディラクチンの二種が食品添加物として入りました。
ニームにハーブを加え
効果を増強・難点をクリア
ニームに速効性、殺虫効果
をもたせたニームサイド
内田 ニームオイルはそのままでは散布できず、いろいろな方法で水溶性にしてあります。
さらに、私どもはハーブの精油(エッセンシャルオイル)を添加することで、ニーム独特の臭気を抑え、遅効性のニームに速効性をもたせることに成功しました。すなわち殺虫効果も併せもたせたのです。
というのも、摂食阻害効果、忌避効果だけでは農家さんがなかなか納得してくれないのです。農業には忌避剤と殺菌剤が必要ですがニームにハーブオイルを使うことで、安全に殺虫効果を期待できるようになりました。
エッセンシャルオイルは、ハーブオイルとも、フィトンチッドとも呼ばれ、一般にはアロマテラピーで知られていますが、エッセンシャルオイルには殺菌作用の強いものがあり、これを加えることで殺虫効果をもたせたのです。もちろん安全性には十分配慮し、FDA(米国食品医薬品局)が承認したものを使っています。
効果の高い南インド産のニームオイルに、ユーカリ他、3種類の精油を添加した、私どもが開発したニームサイド(表5)は、濃度2000倍で忌避し、1000倍で殺虫できます。ちなみに、現在2000倍で効果をあげている製品はニームサイドだけです。
エッセンシャルオイルを加えることでニームオイルの酸化防止にもなり、さらに台所にもある調味料を加えたことで、15℃以下で固まってしまうニームオイルを、12℃以下にならないと固まらないようにしました。この3℃の差は大きく、これで冬期のハウス内でも使うことが可能になりました。ニームオイルには一価不飽和脂肪酸のオレイン酸が多いので、植物油としては固まりやすいのです(表6)。
対象害虫は多く(表7)、私どもが提案している栽培管理表に基づいて施せば、着実に効果をあげると考えています。
ハーブオイルだけで殺菌
CCLガード
内田 最初に私が開発したのは、フィトンチッド(エッセンシャルオイル。ハーブオイル)でつくったCCLガードです。
ニームサイドで足りない殺菌剤で、土壌殺菌にも有効です。3000〜5000倍で糸状菌を殺菌し、さらにウイルスも殺していると考えられ、植物は元気になります。
CCLガードは、エッセンシャルオイルの中でも最も安全といわれるティートリーが主成分で、ティートリーはユーカリと同じフトモモ科の常緑樹で、強い香気があり、木から取れるオイルは殺菌力が強く、石鹸やアロマオイルに使われています。オーストラリア先住民族は昔から、この葉を砕いてケガや皮膚の治療などに使ってきたそうです。
害虫や病原菌、病気では、シルバーリーフコナジラミ(ウイルス病の媒介)、カビ菌、糸状菌(白絹病など)、ウドンコ病などに効き、タンソ病の依頼も見事に解決し、その後、ゴルフ場の芝生に取り付くシバオサゾウムシの問題も見事に解決しました(表7)。
散布状況
都市部での散布状況
内田 平成15年に世田谷土木公園事務所から依頼され、三軒茶屋緑道でアブラムシやグンバイムシの退治に成果をあげ、それをきっかけに平成18年度から世田谷区の街路樹で採用されるに至りました。
世田谷区が使うということは、撒いて数時間のうちに害虫がやられ、(幼児を含む)人には害が出るおそれがないから使ってくれるわけです。
都市部で発生する病害虫は、アブラムシ、グンバイムシ、ハムシ、アザミウマ、ハダニ、チャドクガ、モンクロシャチホコが代表的なもので、薬剤散布は農業とは異なり、1回限りとなっています。
したがって、ニームサイドは農業現場と違って、1000倍を基準に、モンクロシャチホコは700倍で対応しています。ニームサイドは希釈倍率が高くてもよく効き、香りが良いと評判です。
農産物への取り組み
内田 農家さんにニームサイドやCCLガードを提供し始めてこれまで、お茶、トマト(表8)、サンチュ、ピーマン、白菜、大葉、リンゴ、イチゴ、米、大豆、切り花等で試みられ、農家さんからは散布すると農作物が元気になるなどの報告をいただいています。
農家さんとお付き合いが始まって、実際に農作物の病害にふれ、研究を進める中で、野菜や果物の病害は土壌のミネラル不足によることが多いのに気づきました。ミネラル不足で生産物の果菜割れや、カビが発生することもあります。これからは、肥料の方でも検討を加えていきたいと思います。
ニームを含めフィトンチッドについては、今後さらに未来を切り開き、安全で安心して使える多くの防除剤、殺菌剤、除草剤、ポストハーベスト用殺菌剤等の開発に努めていきたいと考えています。