健康は、"腸の健全な働き”と"門脈血の浄化”から

〜「門脈血浄化論」からみた「玄米 菜食」の優位性〜

富山医科薬科大学(現富山大学)医学部名誉教授 田澤賢次先生

排泄に働く栄養素も重要
──大腸がんの研究から導き出された「門脈血浄化論」

 田澤賢次先生は消化器外科医として、大腸がん予防の研究に長く携わってこられ、リンゴ食物繊維(リンゴペクチン)の研究では、リンゴペクチンの高い大腸がん予防効果、活性酸素抑制効果を発見されました。
 この研究から、難消化吸収性で栄養にはならない食物繊維の摂取は、発がん予防だけではなく、がん再発や転移予防にも寄与することを突き止められ、「腸管の機能を健全にし、それによって門脈血が浄化され、肝臓本来の機能が取り戻せれば、がんの予防をはじめ、全身の健康につながる」という「門脈血浄化論」を導き出されました。
 栄養学においても、従来の消化吸収に重きを置いた栄養学から、腸管の働きや免疫の働きを重視した栄養学への転換を提唱され、門脈血浄化論や免疫向上の観点から、日本型食生活、特にその原点ともいえる「玄米菜食」を高く評価されています。
 大腸がん手術後の栄養管理でも、これまでの腸管安静を重視した高蛋白・低繊維で消化吸収の良い「流動食から三分粥」という術後食は、かえってがんの再発、肝転移を促す可能性があり、むしろ食物繊維を積極的にとって、本来の腸管機能を取り戻し、門脈血を浄化することが免疫力を上げ、残存がんの自然治癒や転移予防に役立つと指導、提唱してこられました。
 田澤先生に、門脈血浄化論を柱に、肉食の弊害、食物繊維の重要性、玄米食の優位性などについてお話を伺いました。

リンゴ食物繊維の研究が 裏付ける門脈血浄化論
リンゴペクチンの 大腸がん予防効果・ 活性酸素消去効果 b 田澤 私がリンゴペクチンの大腸がん抑制効果を見つけたのは、人工肛門周囲の皮膚の雑菌を少なくするために使われている皮膚保護剤の研究過程でした。  皮膚のpH5・0に対し、保護剤に入っているオレンジペクチンのpHは3・5です。それを使っても、毛穴周囲などに腐敗菌などの雑菌がいます。  たまたま私が青森出身で、同じガラクツロン酸のリンゴペクチンではどうだろうかと比較したところ、リンゴペクチンはオレンジペクチンの2倍も腐敗菌の増殖を抑える作用(静菌作用)が強いことがわかりました。  ところが、静菌力の強いリンゴペクチンでは皮膚がドライスキンになってしまい、皮膚保護剤には使えなかった。寄生虫学の藤田紘一郎先生に伺ったところ、「皮膚の常在菌が保湿成分の短鎖脂肪酸をつくって、皮膚に潤いを持たせている」というので、なるほどなと思いました。  では、腸内細菌に働きかけたらどうだろうかと、大腸がんを誘発するAOM(アゾキシメタン)を与えたネズミで実験したところ、見事に大腸がんを抑えたんです(表3)。オレンジペクチン(シュトラスペクチン)でも試したところ、リンゴペクチンの方が効果がありました(表4)。  また、ペクチンの腸管内と門脈血での炎症に対する効果をみたところ、炎症があれば増加する免疫抑制物質であるプロスタグランジンE2濃度が、リンゴペクチン投与時にどちらも下がっていました(表5・6)。  それならば、がんの肝転移も抑えるかもしれないと思って実験したところ、肝転移の個数が3分の1になりました(図4)。  また、敗血症は、腸管粘膜が抗がん剤によってダメージを受けて、そこから腸内細菌が血液の中に入っていく(バクテリアル・トランスロケーション)によって起きますが、敗血症も抑えるかもしれないと血液培養したところ、菌が半分しか出ませんでした。リンゴペクチンは、腸管粘膜のバリア(防御壁)もプロテクトしてくれて、それによっても門脈にいく血液が非常にきれいになることがわかりました。  食物繊維の大腸がん予防効果はよくわからない、あったとしても不溶性食物繊維が有効だろうというのが通説でしたが、水溶性のペクチンでこのような効果があったのは注目すべきことであり、また、ペクチンが肝転移を阻止したことも、門脈血浄化論を裏付けるものになりました。 a 生より煮たリンゴ、 青リンゴより熟したリンゴ

田澤 リンゴペクチンはガラクツロン酸という小さな糖が何百、何千とくっついたもの(多糖類)です。活性酸素の消去力は分子量の小さい方が、また、加熱した方が強くなることもわかりました(図5)。
 野菜でも加熱すると活性酸素を抑える力が強くなるのは、研究当時熊本大学教授の前田浩先生の研究でも明らかにされています。
 ともあれ、同じリンゴなら生よりも煮たリンゴ、青いリンゴよりもよく熟した食べ頃のリンゴの方が分子量が小さく、活性酸素を消去する能力は高いことがいえます。
 リンゴジャムや煮リンゴなど、皮ごと火を通せば、活性酸素の消去活性も高まり、食物繊維の量も多く摂取できます。
 「熟したリンゴほどペクチンの分解が進んでおり、おいしい上にがんや動脈硬化、老化の予防にも役立ちそうだ」ということになり、
私としては、「一日一個のリンゴ」を推奨し、私自身も実践しています。