生ごみリサイクルの「元気野菜づくり」

いのちをいただく食のすすめ

市民団体「大地といのちの会」吉田俊道代表

長崎発・生ごみリサイクルブーム
〜生ごみリサイクルから生まれた、生きた「食育」〜

 吉田さんが美味しい野菜、元気な野菜を作りたいということで、農業改良普及センターを最後に、県職員を辞めたのが10年前。 
 7年前からは、生ごみを使った野菜づくりを市民に広げる活動を始め、生ごみの堆肥化と有機野菜づくりに取り組む「大地といのちの会」代表として幅広く、講演、指導されています。
 長崎では今、市民はもとより、70以上の小・中学校、幼稚園、保育園が生ごみ野菜づくりに取り組み、その取り組みは元気野菜づくりのみならず、子供達が、元気野菜を作って、食べる過程で、短期間で活き活きと蘇るほど、力強い生きた「食育」になっています。
 そうしたことから、「生ごみリサイクル元気野菜づくり」は評判を呼び、教師や親、栄養士や調理師、地域住民から、今では農家にまで広がり、さらに、長崎から日本全国に広がりつつあります。
吉田俊道代表のプロフィール
1959年生まれ。長崎県佐世保市在住。
1986年、九州大学農学部大学院修士課程修了後、長崎県職員として就職。
1996年、長崎県江迎農業改良普及センターを最後に退職。理想の農業を求め、有機農業に新規参入し、生ごみリサイクルなどに取り組む。
これまでに、「元気野菜の会」をはじめ、子供達の命と未来を守る市民グループ「環境を考える会」、「大地といのちの会」を結成。
現在、九州地域食育推進協議会委員。

子供達の 「生ごみリサイクル・ 元気野菜づくり」
「いのちの食育」

吉田 生ごみを使って子供達が作った野菜がとにかく美味しい。専門家が「何でこんな美味しいホウレン草ができるのか。昔のホウレン草だ」というほど、蓚酸がなく、後味が良く、えぐみのない、美味しい野菜を子供達が作ります。
 虫は来ない、病気はないという無農薬有機野菜が、学校内の土づくりが不十分な学級園ででき、子供達はその場でガリガリかじります。子供達には野菜嫌いがなくなりました。
 そんなことがだんだん広がり、長崎県では今、「いのちの食育」として、ごみ減量より、自分達の食べ物を大切に考える気持ちが広がっていくことから、「生ごみリサイクル」が大きなブームになっています。
 「生ごみ」と、「土」と、「いのち」と、「食べ物」、そして「自分」とがつながりを持つことができるのですね。

「生ごみ」を消化する 土の中の「菌ちゃん」パワー

吉田 子供達にそれをどう教えるのか。例えば大根のしっぽ。
 「これ君、食べられなかったね。ところが、この生ごみを食べる生き物がいます。菌ちゃんといいます。1ミリの1000分の1くらいの、目に見えない小さい小さい菌ちゃんが土の中にはいっぱいいて、君が食べなかった大根のしっぽを土の中に入れてやると、お腹がすいた菌ちゃんが喜んで食べてくれます。だから、君が食べ切れなかったものは、ごみに出すより、菌ちゃんにあげようね」
 「君が菌ちゃんだとして、この生ごみ食べようと思ったら、この生ごみは横浜くらい大きいから、一生懸命走りながら食べてもなかなか食べ尽くせない。だから、菌ちゃんが食べやすいように、できるだけ小さくしてあげる。厚さでいうと1センチ以下、それ以上だと腐敗菌が優勢になり、臭くなる」と教えると、子供達は大根のしっぽやキャベツの芯を、「菌ちゃん、菌ちゃん」といいながら、ちぎってつぶして、それを土の中に入れるわけです。
 その時、「生ごみを土の上に置いても、菌ちゃんは食べ切れないね。土の中の菌ちゃんが生ごみを全部食べられるようにするには、よく混ぜないといけない。よく混ぜてあげようね」というと、子供達は喜んで混ぜます。
 次に、2〜3日後にはどうなるかを話します。
 「人は約20年で子供が生まれますが、生ごみを食べて元気になった菌ちゃんは、平均30分に1匹子供を産みます。3匹いたらどうなる?6匹になる。さらに30分たったらどうなる?12匹です。それがまた子供を産んで、狭いところに菌ちゃんがぎゅうぎゅうづめになったらどうなるの?」と焚き付けます。
 菌ちゃんが一生懸命生ごみを食べると、熱くなるんです。これが発酵熱です。土を開けてみると、本当に熱い。これに子供達はびっくりします。
 ただ、野菜だけではなかなかそうは熱くなりません。米糠とか残飯とか、カロリー系のものも少し入れると熱が出やすくなります。それもなければ、天ぷら廃油をちょっと混ぜるとぐわっと熱が出ます。そこで子供達は手を突っ込むと、もう熱い熱いということで、先生もビックリします。
 その段階で子供達は、「土は生きている。土はいのちなんだ」ということを実感します。
 1週間もたつと生ごみは消えてしまいます。これにも皆びっくり。菌ちゃんパワーで、たった1週間で生ごみが消えるんです。  こうした過程を通して、子供達は「土は生きている」、「生ごみを捨てるなんてもったいない」、「自分で野菜を育てたい」という感動を覚えます。

「生ごみリサイクル・ 元気野菜」のパワー
生命力が強いから腐敗が遅い!

吉田 最終的に生ごみが跡形もなくなると、菌ちゃんだらけの畑の中に、子供達は一生懸命苗を植えます(写真1)。この野菜が奇跡を起こしました。
 今のニンジンはすりおろして1時間もたつとどす赤くなります。ところが、子供が作ったニンジンはニンジンの色のままです(写真2)。元気野菜は、ビタミン、ミネラル、ファイトケミカル(植物性生理活性物質)などの抗酸化物質が多く、酸化しない、錆びない、生命力が強いのです。
 トマトは冷蔵庫の中に入れておくと、梅干しになる。水分だけ飛んで、しわしわになる。ところが、今の市販のトマトのほとんどは、冷蔵庫で1ヶ月もすれば溶けています。
 切り口を護れるキュウリと切り口から腐るキュウリがあります。ニンジンも冷蔵庫の中で溶けるのと干からびるのがあります(写真3参照)。皆、土の違いです。
 包丁を入れた瞬間でもわかります。包丁の通りの良さ、包丁を入れた時の香り、しっかり土づくりしている野菜は、香りがぷーんと来ます。生命力の強い野菜は本当に良い香り、強い香りが出てきます。それが生命力なんです。そういうニンジンはすった時に、色が変わりません。

生命力がある野菜は 栄養価が高い
〜栄養価の低い野菜は、 たくさん食べればいいのか〜

吉田 生ごみリサイクルで育てた野菜と、市販の野菜のビタミン量を比べたところ、生ごみリサイクルの野菜の方が明らかに多くなりました(図2)。生ごみに捨てられる皮やへた、根元は栄養が豊富で、それが土に返され、元気な野菜が育つからです。
 今の野菜は生命力が落ちているのと同時に、栄養価が低くなっています(図3)。昔と今の野菜とでは栄養価が違うのは皆知っていますが、よく間違うのは、「栄養価が平均して3分の1に減っているから、3倍食べろ」という専門家の言葉です。
 「野菜をいっぱい食べよう」とは、未だによくいわれます。しかし、切ったら色の変わってしまうニンジン、傷口が溶けてしまうキュウリ、そういうものを3倍食べたら、栄養成分は3倍とれたとしても、体は元気になりますか?
 外科のお医者さんは、「手術すると、傷口の塞がり方が昔の高齢者と今の高齢者は違う」とはっきりいいます。それだけ、今と昔の食べ物の生命力が違うのです。

青々した、硝酸塩の多い 「毒野菜」!
〜肥料過多の腐れ野菜〜

吉田 自分で自分を護れない野菜をいっぱい食べたらどうなるか。硝酸塩が多過ぎて、健康にはなりません。かえってがんになりやすくなると報告されてます。
 ヨーロッパでは、硝酸塩が多いと出荷禁止です。その基準が導入されれば、今の日本では出荷禁止になる野菜が多過ぎます。
 なんでもかんでも追肥。特に春先3〜5月に出回る小松菜、キャベツ。昔は冬に追肥はしなかったから、収穫時期には肥料が切れ、冬野菜の葉っぱは黄色っぽくなって、そして美味い。ホウレン草などは砂糖キビを食べているような感じです。
 今は冬でも肥料を入れるから、青々して収量もとれますが、食べたらまずい。3月になるとそういう野菜が多く出回ります。キャベツなどぴりぴりする。硝酸塩がいっぱい入っているということです。
 ホウレン草も、硝酸が摂取許容量を超過し、乳幼児では2・2倍もとってしまう、そういう野菜になっています。
 人間は、青々して元気そうだと、色の濃い野菜を食べる。ところが、牛は青々した草は食べない。堆肥を与えた周りは青々とした草がわっと生え、その横に若草色のひょろっとした草が生えます。牛はそれを食べるんです。
 牛に青々とした草を強制的に食べさせるとバタッと倒れます。硝酸が多いと赤血球が酸素を運べなくなって、倒れるんですね。
 人間にも今、同じことが起きています。青野菜ばかりを食べる人間はいませんから、たまたま倒れてはいませんが、お母さんのお腹の中で膨大なスピードで細胞分裂している受精卵にとって、お母さんがそういうものを食べて酸素が十分ない中で細胞分裂をしたらどうなるでしょうか?
 科学的にはまだ明確ではありませんが、今生まれながらにしてハンデを持った子供が増えています。その理由の一つに、硝酸塩の問題があります。ヨーロッパではとっくに出荷禁止になる野菜が、日本では野放しになっているのです。

かじればわかる 「元気野菜」

吉田 怖い話をしましたが、美味しい野菜を選べばいいんです。
 調理の前にまずかじってみる。味のないキュウリ、昔の味のするキュウリ、不快な味のするキュウリと、千差万別です。キュウリはカボチャに接ぎ木をしているのが多く、それはキュウリの格好をしたカボチャですから、味が薄いんです。そして、上等な土で育ったキュウリは美味い。
 最終的には後味で判断します。後味の良さは、硝酸の少なさで決まります。後味と、全体の美味しさを大事にして欲しいですね。

「生ごみリサイクル」で 「元気野菜」ができるのは いのちの循環

吉田 生ごみリサイクルでなぜ、こんなに強くて元気な野菜ができたのか。
 野菜の強さは菌ちゃんからきていたのです。菌ちゃんは地球で一番最初に生まれた生物で、水がなくても死なないほど強いのです。
 最大の弱点は、小さ過ぎることと、寿命が短いことです。だから微生物の小さいいのちが、より大きないのちの中に入っていく、このいのちの循環を子供達に教えています。私たちは自分の細胞のいのちが減った分だけ、このいのちをもらった野菜を食べるからいつまでも元気なんです。
 野菜の強さが土中の微生物から生まれることは、今までわかりませんでした。昔は、窒素、リン酸、カリの化学肥料だけで、十分良い野菜ができたのです。それは、代々ずっと、土の中に菌ちゃんが喜ぶものを入れ続けてきたからです。腐蝕という形で、微生物の代謝物や死骸の塊が、しっかり土の中に残っていたから、化学肥料だけでも十分野菜ができたんです。
 けれども、現在に至っては、いよいよ栄養価も低下し、切り口さえも護れない野菜が市場にあふれ出してきています。
 今になってわかったことは、「いのちのもと」を土に戻していかないと、元気なものは生まれないということです。いのちを循環した時に、昔のような美味しい野菜ができるんですね。

生ごみは、 「いのちのもと」の宝庫

吉田 なぜ、生ごみを入れると良い野菜ができるのか。野菜のすごいところが、生ごみになっているからです。
〈皮〉
吉田 その一つが皮です。例えば、木を考えてみると、木は外側しか生きてないんです。中は全部腐って、皮一枚で生きている大木もあります。外側は形成層があって、中は全部死骸なんです。その形成層のいのちのところに、生命力にかかわる生理化学物質が全部集まっています。
 体を守るバリア(防御)成分は外側にあります。玄米の糠の部分、ニンジン、ゴボウ、ナスなど、皮にはミネラルや、紫外線などから身を守る抗酸化物質がいっぱいです。焼き芋の焦げた皮を取って中身だけ食べたら、胃もたれします。腸内細菌を整える物質は、皮の方にあるんです。
〈成長点〉 
吉田 もう一つ土を元気にしてくれるものが、成(生)長点です。根や茎の先端や葉のつけ根付近にあり、細胞分裂のさかんなところで、成長点こそいのちの源なんです。
 ニンジンでもダイコンでも、ここから葉っぱが出てきます。キャベツの成長点は芯の近くにあります。成長点はミネラルやビタミンの宝庫、栄養の塊です。
 うちの子供は、キャベツの千切りは、ぎりぎりまで切ります。今から出回るキャベツは成長点が小指大ぐらいになっているのがあります。そうなったら花芽分化しています。花芽分化したら、ますます栄養価がここに集まってきています。成長点は大事ないのちのもとなんです。
 キャベツ、レタス、白菜に薹(とう。花茎)が立つ、その薹が大切なんです。薹が出だしたら、葉っぱはただの飾り物。葉っぱの中の大切なものはどんどん、薹にいってしまうんです。
 その一番大切なところを今、全部捨てています。野菜全部を食べるのならいいのですが、一番大切なところを土に戻さずに捨ててしまう。そういう文化だから、土が弱くなり、子供達がここまで弱くなってしまいました。
 食育体験教室の時には、学校給食の現場にいってキャベツの芯、ニンジンの首、ホウレン草の根元付近、ピーマンのヘタや種など、生ごみとして捨ててあるのをもらってきて、それを油炒めして「君達が今食べているのは捨てたとこだけ。これがいのちの塊だよ」 と食べさせると、こんなに美味しいのというくらい、美味しく感じます。
 タマネギの皮はポリフェノール40倍という説がありますが、ポリフェノールだろうとなんだろうと、タマネギを護っているものです。だからタマネギの皮は土に入れてもなかなか分解しない。それくらい強いバリアです。ごみに出すのはおろか、土に戻すのももったいないということで、煎じて、このタマネギの皮の煎じ汁で、カレーライス、味噌汁を作って食べるんです。
 そういうことで、リサイクルをやり出すと、今まで捨てていたところも食べてしまって、生ごみが出ない。仕方ないから、生ごみを集めにいきます。「生ごみ下さい」と看板を立てる人もいます。近所の人がどんどん生ごみを持ってくる。「お蔭様で良い野菜ができました」と野菜を置いとくと、すぐなくなってしまう。こんな究極の生ごみリサイクルが、今だんだん増えつつあります。

土にパワーがあれば 無農薬でも虫はこない
〜完熟(完全分解・発酵)が鍵〜

吉田 4〜5年前までは無農薬野菜は虫食いだらけでしたが、今、無農薬で虫食いだらけというのは少ない。これはこの5〜6年間の農家の努力の賜です。我慢して土づくりをしてきて、やっと土にパワーが甦ってきたんです。
 ところが、その農家の努力を嘲笑うかのように、土づくりができていない学級園で、最初から虫の来ない野菜を作りました。
 専門家は「たまたま狭いから、虫が来なかったんだろう」と考えます。違います。ちょっとでも野菜が不健康なら、たった1株でも虫はわっと来ます。
 生ごみリサイクルを始めた頃、同じ畑に未熟な豚糞と、完熟生ごみ堆肥を入れて数ヶ月後、鍬を入れたら、未熟豚糞の土からはカナブンの幼虫が出るわ出るわ。一方、完熟堆肥の土にはほとんどいない。
 虫はどこに来るのか。昆虫はアンモニアガス、ダニはエチレンガス、弱った野菜の出すガスに吸い寄せられるんです。
 一般的に未熟な堆肥が入った土で育てた野菜は、面白いほど病害虫にやられます。カナブンは未浄化な土のにおいに誘われて産卵し、そこに植えられた不健康で硝酸塩を多く含む野菜を食べていたのです。

「いのちの食育」を!
本物の「食育」は 30日で奇跡を起こす

吉田 「いただきます」。食べる時の基本はいのちへの感謝です。
 生きているニンジンさんは、本当は食べられたくない。今から花を作るのですから。でも、「ごめんね」といったら、ニンジンさんは「わかった、そこまでいうんなら、お前の中に入ってやる」といってくれていると思います。
 ニンジンさんの生きている力、微生物由来のいろんな抗酸化栄養素、ファイトケミカル(植物性生理活性物質)は、煮ても焼いても死なない。ニンジンさんのいのちは死んでも、ニンジンさんを支えてくれた生理活性物質は、私達の体の中に入っていって、私達のパワーになっていくわけです。
 子供達にそういうことをしっかり教えると、子供達は手を合わせて感謝し、「ニンジンさんありがとう」、「ニンジンさんごめんね」といって食べます。それができる子供はもう成功です。
 皮を食べ、成長点を食べ、微生物食品を食べて、子供が30日で変わりました。食べ物を変えてたった30日で、子供が風邪を引かなくなり、引いても治りが早く、そして集中力がついてきた。それに子供自身がビックリしていると、お母さんや保健室の先生が報告しています。
 今、栄養ばかりいっているうちに、食の中にいのちがなくなってきています。そして、土とつながりがなくなった子供達は、慢性疲労状態で、感情の調整力がなくなり来つつあります。
 それがたった30日で奇跡が起きる。食育とはお題目でもなんでもない。簡単です。@まず自分で土をさわる、いのちの循環を知る、そして、食べ物が自分なんだということを感性の中でわからせることです。
 そして、毎朝5分、今日1日の食を書き、その時、17あるポイント(表)の3つを選ばせ、できることからスタートします。
 そうすると少しずつ変わってい
く。一生懸命やっている子供は、
一週間で変わります。ますますやる気になって、3つから4つ、4つから5つとポイントを増やしていきます。
 今の子供はそんなに強くない。意志力がない。それは、今までの食が悪かったからです。だから、最初に、30日で終わることを伝え、30日だけ、みんなで本気にやってみるわけです。
 生ごみを入れ、土が元気になり、苗を植えると、子供はその苗がかわいくて毎日水をかける。その時に「この子(苗)を強く美味しくしたいのなら水をやったらダメだよ。いつ水をやったらいいか、夕方になっても萎れているようだったら、その時は水をやってね。毎日やったら、この子は弱い体になるんだよ。水をやらなかったら、このピーマンさんは自分の力でしっかり根を下に張って、強いピーマンになるんだから、よーく眺めて我慢させとき」というと、子供はそれでわかる。子供が子育てを勉強するんです。
 そして、「君も、おやつをがまんして、しっかりお腹を空かせてから夕ごはんを食べてごらん」といってやると、それが鍛錬になるんです。

6歳までの現体験が重要

吉田 たくあん、梅干し、納豆、味噌汁、微生物発酵食品は、日本人が開発した菌ちゃんを直接食べる最高の方法です。今世界中を席捲している発酵食品、乳発酵食品は2〜3日でできます。ところが、たくあん、梅干し、醤油は、塩のきいた生きにくい環境の中で必死で生きていきます。その時に微生物はパワーが出るんです。
 そのようにいくら教えても、小学生以上の年になると臭いものは嫌いです。ところが、幼稚園、保育園児が生ごみから大根を作って、「干してがまんさせると強くなるよ」というと、つの字になるまで干す。つの字になったら、塩漬けにします。「大根パワーが菌ちゃんのパワーに換ったものが、たくあんだよ」と教えておくと、できあがったたくあんが臭かろうと、美味しい美味しいと食べるんです。生ごみから始まってここまで自分で作ってきたわけですから、美味しいわけです。それができるのは、5〜6歳までです。
 6歳までに、いのちの循環、土と自分のつながりを、原体験として持つことができたかどうかは、その子の人生に大きな違いが出てくると思うのです。

消費者が変われば 農家も変わる

吉田 長崎では農家が今、やっと動き出しました。今まで私は農業改良普及員として、農家に無理なことはいえませんでした。農家が良い野菜をつくっても、100円で売って生活できるわけがない。それだけ土づくりには手がかかるし、時間がかかります。農家は生活がかかっているから、たとえ虫食いでも、消費者が買ってくれれば、喜々として無農薬作物を作りますが、売れなければ作りません。
 だからまず、消費者が土のパワーを知り、野菜を通して土を選ばないといけない。消費者が一歩踏み出して、生ごみリサイクルを体験して、微生物の力で野菜くず、魚の骨が土に変わり、それからできた元気野菜の美味しさに感動すれば、「本物の野菜がほしい」という声が大きなうねりになって、農家もまた一歩を踏み出せるのです。
 今、体験者の感動の声がパワーになり、生ごみリサイクル野菜づくり運動は、大きなブームになろうとしています。「生ごみを捨てるなんてもったいない。自分で野菜を育てたいね」という声が、「この感動をみんなに伝えたい」に変わり、仲間が広がっていくことで、自分が社会に貢献する楽しさを感じ始めます。だから、この運動は止まらないのです。