"やせ地・少水・節肥”で、美味しさ、健康、安心の永田農法

過剰な投与と摂取は、作物も、人も、自然も破壊する

永田農業研究所 永田照喜治先生

「甘い」と書いて「うまい」と読む
美味しさを追求していったら……

 絶品のトマトを、一流シェフがその持ち味を最大限に生かして調理する。それはえもいえぬ、感動の美味です。それでも、丸かじりのトマトにはかなわない。塩すら不要と思うほど、永田農法の作物は完成されています。
 永田先生に初めてお会いした04年夏、生の茄子を丸のまま差し出され「このまま食べてみてください」といわれた時の驚き、さらに食べてみての驚き。トマト、茄子だけではない、生のトウモロコシはクリーミーな甘さでいっぱい。
 うまいは漢字で「甘い」とも書きますが、作物本来の生命力にあふれ、うま味が充実した永田農法の作物は、格段の「甘さ(あまさ・うまさ)」です。
 美味しさだけではありません。ミネラル、ビタミンなどの含有量も高く、糖度が高いのに血糖値は上がらない健康野菜、環境破壊の心配もありません。
 「美味しさを追求していったら、結果的にそうなった」と淡々と語る永田先生ですが、農業を始めて約60年、異端視される中、農業の常識を覆す「やせ地・少水・節肥」を貫き通した永田先生の眼光は時に鋭く、多くの慣行野菜同様、心身に贅肉をしょい込んだ人間をも正される思いがします。

「やせ地・少量の水と液肥」 永田農法の原点
石ころだらけの岩山で育った ミカンは美味しかった

永田 大学で経済学を専攻した私は、最初から農業を志していたわけではありません。大学を卒業する頃に父が亡くなり、長男だった私は、昭和23(1948)年に卒業と同時に故郷の天草に帰り、実家を継ぎました。
 山が海に迫るような天草島は、田畑のほとんどは傾斜地で、岩山も多く、多くは半農半漁の貧しい島でしたが、海の幸も山の幸も豊富で、食のバラエティということを考えれば、とても豊かだったと思います。子どもの頃に採った、野育ちの果実、様々な山菜、自分たちで釣った魚……。私の子どもの頃は食べものとの距離がとても近く、食べものへの感性も培われたと思います。
 実家は代々の地主でしたが、私自身は農業経験は全くなく試行錯誤の毎日、ある時、岩山のミカンが美味しいことに気がつきました。私がツルハシで岩を砕いた、やせて石ころだらけの土地です。農業の常識からいうと、肥えた土地ほどいい作物ができるはずです。しかし、子どもの頃に培った感性は、「こういう土地ほど美味しいミカンができるはずだ」といっていました。
 私は先祖伝来の美田を売り、岩山を買い付け、つるはしで岩を砕き、水田を埋めて石ころだらけの畑をつくり、大実験を始めました。ゴロゴロした場所から土に近い細かい場所まで、いろいろな状態の畑ができ、面白いことに、岩に近い状態のところほど、美味しいミカンができたのです。
 肥料も、下肥(人糞)、腐葉土、牛の糞、鶏糞等々、種類や量を変えて実験しました。腐葉土や牛糞をたくさんやったところは根腐れを起こしたり、肥料が多すぎて、葉っぱばかり大きく、皮の硬い、すっぱいミカンができてしまったこともあります。結果、十分に発酵させた下肥を水で薄めて少量散布すると、最もできがよいことがわかりました。
 私はこの天草で、今の農法の原点である、「やせた土地に、少量の水と液肥」の農業を生み出したのです。

理論的裏付けと 液体肥料への転換

永田 私のミカンの味は評判となり、国のパイロット事業として農事組合法人を作り、岩山をブルドーザーで崩し、15 ha(ヘクタール)の広大なミカン園を開きました。
 その頃、砂栽培を提唱されていた九州大学の福島栄二教授が、新聞記事で私の農法を知って、訪ねてこられました。昭和38(1963)年のことでした。
 福島先生が提唱する砂栽培の考え方は、「刻々と変化する土と違って砂は一定で、与える栄養分の調節がしやすく、水も肥料も必要なだけ与えればいい」というもので、これは、私が試行錯誤で作り上げた農法を理論的に裏付けてくれました。
 すなわち、石ころだらけの土地で栽培すると、水や肥料のコントロールが容易で、必要なときに必要なだけの肥料を与えて、必要でないときは肥料を土壌中に残さないでできるのです。
 肥料については、福島先生から、「有機物を使わず、この液肥だけで試してほしい」と依頼され、私は、チッ素(N)・リン酸(P)・カリ(K)の3要素からなる液肥を使うことにしました。結果は上々で、堆肥をすき込んだ畑よりも約3倍も成育がよく、糖度15〜16度というミカンができ、障害もありませんでした(表1)。液肥は、人糞尿と違って成分が安定し、施肥設計がしやすく、しかも清潔です。以来、私はこの液肥を使い続けています。

大規模ハウス事業への妨害
"おいしく・安全で・体によい、 自然破壊のない農業”〜

永田 その後、福島先生の依頼により、鹿児島県の砂丘で、液肥と砂栽培による大規模ハウス事業に挑みました(1964年・表1)。
 経済界も協力し、スプリンクラーで水も肥料も自動的にコントロールするという最新のシステムを導入。面積は110haから始め、その後、2500haに拡張、最終的には300万本のミカンに、3万坪の冷暖房付きハウスでマスクメロンを栽培する予定でした。
 しかし、昭和43(1968)年9月に鹿児島を襲った台風の最中、災害時でも作動するはずの、潮水を流すスプリンクラーが作動せず、塩害でミカンの木は全滅しました。天災ではなく、何者かによって、スプリンクラーのパイプが切断され、作動しなかったのです。
 実験は打ち切りになりました。しかし、火山灰と砂丘ばかりの広大な土地で農業を成功させた実績は、現在私の取り組んでいる、
農地の枠を超えたマクロな大規模施設農業の先駆になり、同時に、"美味しく、安全で体によい作物”、さらに、"自然破壊のない農業”をしたいという、私の目的を明確なものにしてくれました。
 その後、兵庫県加古川市に移り住み、全国に私の農法を伝え歩く一方で、福智盛先生との出会いから、老人大学で一坪農園を指導することになり、それまでの大規模農業から家庭菜園の鉢植えの野菜へと、マクロ的視野とミクロ的視野の両方から、農業を見るようになりました。

少肥料・少農薬・少灌水の 「永田農法」とは

 農業は環境破壊の始まり
自然に遠慮しながらの農業≠
永田 私は、「自然農法」という言葉には、うそを感じます。農業という行為自体が自然ではなく、農業そのものが環境破壊なのです。
 穀類や野菜は人間に必要だからいっぱい作る。でも、雑草は邪魔だから根だやしにする…。野生の動物や植物の中から人間に必要なものを選び出し、家畜化したり、栽培化したりした時点で、人間は自然の生態系のバランスを崩してしまったのです。
 狩猟・採集時代の人間たちは、必要な量以上は決して採取しませんでした。とり尽くしてしまえば、自分たちが食べられなくなることがわかっていたからです。ところが、農耕がスタートすると余剰物資ができ、備蓄したり、ほかのものと交換したりという経済が発生してきます。そうすると、人はさらなる利益追求へと駆り立てられ、森林を伐採しての大規模な開拓、増収のための大量施肥、農薬の使用、大量灌漑用水の使用などで、地球規模での環境破壊を繰り広げてきたのです。
 だから、私は遠慮しながら、できるだけ環境を破壊しないように考えながら農業を続けています。そこに、少肥料・少農薬・少灌水という考え方もあるのです。

少肥料・少灌水の 「スパルタ農法」

永田 私は、野菜や果物たちの生命力を最大限に発揮させ、本来の力のある味を蘇らせてやりたいと願っています。私の農法が「スパルタ農法」、「断食農法」と呼ばれるのは、植物を甘やかさないからです。人間でもそうですが、満腹だと怠け者ものになり、飽食では体がやられます。
 土地は地力のないやせ地を中心にし、草刈りはなるべくせず、耕さず、むしろウネをたたいて固めてしまうくらいです。
 水は最小限に抑え、チッ素・リン酸・カリの液肥を、必要最低限の量を水で薄めて与えます。液肥だと、薄めて使えるので、必要最低限の肥料を、灌水と同時に行えます。
 植物は、たっぷりの水と肥料を与えられると、まず根っこが十分に働かなくなり、地上部の重さを支えるためだけに太い直根が出て、美味しい作物になるための、微量栄養素を吸収する細かい毛細根がありません。
 ところが、私の農法では、私が「うまい根」と呼んでいる、白くてふわふわの細かい根っこが地上近くにびっしりできます。この根っこができると、植物は、チッ素・リン酸・カリだけの肥料でも、土からカルシウムや鉄、銅などの微量栄養素を吸収します。
 そして、地上部の茎・葉・花・果実には、あらゆるところにびっしりと産毛のような毛が生え、空気中の水分を取り込みます。
 その結果、どの作物も糖度が高く、栄養価も一般のものより高くて、美味しく、しかも丈夫で収穫量も多くなります。

有機も無機も、 高栄養はマイナス

永田 自然界は動物の死骸や糞尿などの有機物を微生物が分解して無機質にし、植物はその無機質を吸収して光合成を行い、有機物を作るというサイクルになっています。植物が直接有機物を吸収することは珍しく、有機肥料もチッ素・リン酸・カリという無機物に分解されて初めて吸収されます。植物にとって、肥料とはいつも無機物なんです。
 このことからも、植物にとって無機より有機肥料の方がいいとは必ずしもいえず、かえって有機肥料が分解するときに出るメタンガスが、植物の根を傷めます。
 私は有機肥料を否定しているわけではありません。ゆっくりと3年ほどかけて熟成させたものは完璧な堆肥になり、ガスもあまり発生せず、植物の根を傷めることもありません。しかし、よく売られている未熟なものや、わざわざ防腐剤を入れたものなどは植物が吸収しにくく、ガスも大量に発生します。有機栽培のブームにつけこんだ、自然を無視した質の悪い有機肥料が大きな問題です。
 有機、無機のどちらにしても、高栄養はマイナスにしか作用しません(図1)。
 濃い肥料は根っこを傷めるだけでなく、作物の硝酸塩を増やし、エグ味やアクなどの有害成分の原因にもなります(写真)。さらに、植物が吸収しきれなかった肥料は土の中に残留し、連作障害や、地下水汚染につながり、環境破壊の最大の原因ともなっています。

除草剤は排除 農薬は極力使わない

永田 美味しい野菜や果物は、
イコール人間にとって安全であり、安全な野菜や果物は、それ自体が健康に育っています。
 私は先ず除草剤を排除しました。除草剤を撒いた畑の作物の根は、ほとんどが茶色か黒っぽく変色し、うまい根(白いふわふわの毛細根)など探すべくもなく、こんな状態で美味しい作物が育つはずがありません。
 除草作業は大変ですが、不織布の除草シートを敷く方法もありますし、健康に育った作物なら多少の雑草には負けないのです。
 ただ、お米だけは残留農薬の影響の出ない時期に1回だけ、認めています。米作りは除草剤を一番必要とし、そうした中で人手の足りない農家の現状を考えれば、すべて手作業で行うのは大変なことなのです。
 農薬は極端に減らしています。完全無農薬は理想ですが、農家の人の生活のことを考えると、それは大変なことです。私たちは、
@なるべく即効性があって残留性が少ないもの
A出荷するときに作物にいっさい残留しないように撒布時期を限ること──等の一定の基準を設け、使用する農薬をできるだけ減らすように努めています。
 殺菌剤も基本的に使いません。果樹やハウス栽培ではゼロです。畑の周囲の雑草は簡易火炎放射器で焼き払い、ハウス栽培では夏にハウスをビニールで密閉し、太陽熱で消毒をします。太陽熱で中を高温にし、農薬を使わず殺菌・殺虫する方法です。色々な農薬を使わずとも、工夫をすればできることもたくさんあるのです。

適作・適地の 「ルーツ(原生地)農法」

永田 また私の農法は、「原生地農法」とか、「ルーツ農法」といわれるように、その植物の原生地の環境の再現に努力しています。
 美味しい作物は、適作適地。私は適地とは原生地ではないかと思って、原生地に近い環境づくりを心がけていました。
 それを確信したのが、昭和58(1983)年9月22日号の「週刊文春」のグラビア記事です。アンデス高地で発見されたトマトの原生種の写真は、私たちが育てているトマトとそっくりでした。私たちは、「雨よけ」のために、ビニールハウスか、ガラスの温室でトマトを育て、石ころ混じりの粘土を固め、水は一般栽培の百分の1程度しか与えません。まさしく、アンデスの砂漠の状態を再現していたのです。
 現在栽培されている野菜や果物のほとんどは、原生地が日本ではありません(図2)。日本の気候風土の中では、何らかの無理を強いられて、育っている上に、利便性や経済性から、その植物にとっては劣悪な環境で育てられているものさえあります。それで、美味しい作物が育つはずがありません。
 例えば、促成栽培のピーマンなどは、いくら熱帯性植物とはいえ、高温多湿のビニールハウスで、肥料も水もたっぷり与えられ、葉が茂ってジャングル状態になり、通気性も悪く、病害虫も発生しやすく、農薬もたっぷりかけられています。子どもたちがピーマン嫌いになるのも無理はありません。不健康でまずい、安全でない野菜だからです。

美味しいものは体にもよい 甘く、香りが高く、もっちり

〈甘さが最大の特徴〉
永田 肥料や水、農薬を控えると、野菜も果物も甘くなります。甘さは、私たちの作物の最大の特徴です。
 私たちは糖度計で野菜や果物の糖度を調べていますが、例えば、市販トマトの糖度の平均は4〜5度に対し、私たちのトマトは6度以上もあり、最高記録は19度もありました(表2参照)。
 甘ければいいというわけではなく、甘みと酸味のバランスがよくて初めて美味しいと感じますが、そのバランスもいいのです。
〈芳香〉
永田 美味しさには、香りも大事です。さらに、香りのよさは安全性のしるしであり、作物の色や香りがよいものは味もよく、ビタミンやアミノ酸成分も多いのです。
 つまり香りのよいものは味がよいだけでなく、栄養価が高く、体の健康によいのです。香りは心の健康にもよいのです。私たちの作っている芳香パイナップルは、部屋に一つあれば素晴らしい香りで、食べる前に幸せになります。
〈締まった肉質で、もっちり〉
永田 私たちの野菜や果物は肉質が締まって、もっちりしているという評価もよくいただきます。細胞が充実していて、弾力性があるからだと思います(図3)。
 オクラやモロヘイヤ、サトイモ、ナガイモなどの粘り気も、一般のものより強く、これは食物繊維が豊富なためだと思われます。
 肉質が締まっていて堅いのに、火の通りが早いのは、細胞が緻密で、きれいにそろっているためと思われます。生で食べられるものはできるだけ生で、火を通すなら手早く。これが美味しさも、ビタミンなどの栄養も逃さない秘訣です。

糖度が高く、美味しいほど ビタミン・ミネラルが多い

永田 国立栄養研究所の加賀綾子博士の研究で、「糖度の高い果物、野菜ほど、ビタミンCが多い」ことがわかりました。私たちのトマトではビタミンCは一般の野菜の30倍以上もあったのです(表3)。 この研究では、ほとんどの人たちは、ビタミンの多いものは美味しく、少ないものはまずく感じることもわかりました。
 さらに、加賀先生のデータからは、私たちの野菜はカルシウムが豊富なこともわかりました。他のミネラル類も一般の野菜に比べると多いようで、アミノ酸の種類も量も多いことがわかりました。

糖度が高くても 血糖値は上がらない 芳香パイン

永田 糖度が高いと、糖尿病の心配をされる方もあると思います。貴重なデータがあります(図4)。「パイナップル果実と栽培方法」で特許をとった、「芳香パイン」のデータです。ブドウ糖75gを摂取して1時間後と2時間後の血糖値と、同じカロリーの糖度15度の本パイン500gを摂取した場合とでは、パインの方が血糖曲線が低い結果となりました。つまり、血糖値の上昇も、下降もゆるやかだったのです。
 このパイナップルは熟度に完熟し、糖度が高く、芯まで生食できます。エグ味もなく、一回に500gと大食しても、痒みや口内炎ができませんでした。さらに、生食していると、カロリーが高いのに、高血糖を下げ、肥満も抑制されたのです。これは特に、血糖値の高い人では顕著でした。 この研究は、私の九州時代からの古い友人であり、農業の共同研究者でもある故・張双滿先生と、
日本人医師の外園久芳先生との共同研究で、糖尿病の治療に果物を使う「フルーツ・クリニック」を実践される中でなされました。
 張先生は果物の権威であり、特別なパイナップル園を屏東県の山岳地帯で開いて下さいました。ここは岩だらけの、パイナップルの栽培には非常に適した土地で、除草剤や農薬、ホルモン剤をまったく使わずに育てました。果実こそ小さいのですが、色は赤みを帯びた鮮やかなオレンジ色、香りは遠くからでもかぎ分けられます。そのあまりの香りの良さから、私たちはこのパイナップルを「芳香パイン」と名づけました。
 この台湾のパイナップルと同じ品種の苗を、四国高知の土佐清水に根づかせることに成功しました。今では、国産の甘くて美味しい、芳香パインを食べることができます(写真)。

これからの農業 マクロとミクロの二極分化
大規模農業への道

永田 これからの農業は、大規模のプロの農業と、家庭菜園や市民農園でのアマチュアの農業と、二極分化していくと思っています。
 今後離農が進めば、この二極分化はますます進み、少人数で広い面積を管理するプロの大規模農園が出現するでしょう。そのときに私の農法は真価を発揮してくれると思います。なぜなら、水も液肥も、コンピュータでの管理が容易だからです。
 一定の基準のものを大量に作るには、コンピュータ管理は不可欠だと思います。現在、息子が社長をしているトマトの実験農場(写真右)では、東京大学をはじめ、各大学との色々な共同研究が進められています。
 ただ、コンピュータのできることの限界もあります。

アマチュアによる 貴族農園のすすめ

永田 私はもう一つの農業のあり方として、アマチュアによる家庭菜園や市民農園の可能性を信じています。
 現在は主に、プロ農家への技術指導を行っていますが、かつては老人大学、精神病院、身体障害者施設、不登校児の施設、家庭菜園などでの野菜作りの指導も行っていました。
 私はアマチュアの方にこそ是非農業に関わっていただきたいと思っています。そうすれば、自分の食べものを自分で作る、生命を育む、採れ立ての美味しさを味わうなどの喜びを得られ、農薬も使わず、安全なものを味わえます。
 庭がなくても、ベランダで鉢やプランターでできます(写真)。そして、是非一度は失敗してください。やっているうちにうまくなります。
 庭があれば、家庭菜園をおすすめします。ベルサイユ宮殿にはマリー・アントワネットだけのための家庭菜園がありました。今も専属の庭師がいて守られています。イギリスの貴族の別荘には必ず、野菜から果樹までまかなう家庭菜園がありました。贅沢なディナーには、ハーブや美味しい野菜・果物が不可欠だったのです。いわば家庭菜園は、貴族の高級な趣味だったのです。ガーデニングも、ハーブや野菜、果物でレイアウトするのも立派なガーデニングであり、これこそが本来の姿であるといっていいかもしれません。
 私は自宅の庭に、年間百種類ぐらいの野菜を育てています(写真)。肥料は液肥と水だけです。それだけで、香りの高い、美味しい野菜ができます。都会のみなさんにお届けして喜ばれています。見た目は悪いかもしれませんが、実際、買ったものよりはるかに美味しい野菜が作れ、新鮮なうちに味わえます。楽しみながら、心身ともに健康になれる、いいレジャーだと思います。
 誰でも永田野菜が作れるように、全10巻のDVDもできました(写真下)。作物別に、大変わかりやすく作られていますので、是非ご活用されるとよいと思います。

土に生かされて

永田 60年近くこの仕事を続けて、農業が自然と切っても切れないものであることを、改めて痛感しています。農業は自然破壊の始まりであり、人間は自然に依拠して生かされている存在なのです。
 人間は野菜や果物を育て、牛やブタを飼って、それらのものを食べて「生かされている」存在なのです。今、都会に住む人々が、強度のストレスにおかされているのは、いかに自然から遠く生きているかということに他なりません。そのようなストレスから解放されるためには、もう一度謙虚になって、自分が自然の一部であり、自然によって生かされていることを、身をもって知る必要があるのではないかと思います。