万病は「冷え」と「血液 の汚れ」から
(その2) 万病は血液の汚れから──冷えを防ぎ血液をきれいにする食事・運動
イシハラクリニック院長 石原結實 先生
自分の健康は自分でつくる──石原先生の超人的な日々
石原結實先生は代々種子島家の御殿医を務めた石原家に生まれ、長崎大学医学部卒業後は血液内科を専攻、さらに大学院博士課程では主に、白血球の機能と食事や運動など生活習慣との関連について研究されました。
大学院時代には、コーカサス地方の長寿村やモスクワのニコライエフ教授の断食療法病院、「人参・リンゴジュース」を加えた穀類・菜食中心の食事療法で難病治療に大きな成果をあげているスイスのベンナー病院等で、自然療法についても研修を重ねられました。
その経験を下に、1982年に東京江東区に自然療法のイシハラクリニックを開業。さらに伊豆の伊東に、ヒポクラティックサナトリウムを開設され、そこでの「人参・リンゴジュース」、「半断食」等の実践では、各界の著名人を含め3万を超える人の健康増進がはかられています。
その要諦は「自分の健康は自分でつくる」。
石原先生ご自身、朝は人参・リンゴジュース2杯に黒砂糖入りの生姜紅茶1杯、昼は取材を受けながら生姜紅茶(黒砂糖入り)2杯、夕はビール大びん1本と焼酎1〜2合に、玄米ご飯、味噌汁、納豆、豆腐、魚介類という食事。
週4〜5日は伊豆の御自宅から東京の診療所まで、車、在来線と新幹線、タクシーを乗り継ぎ、片道2時間を往復。週2〜3日は保養所で健康講演や健康相談。その間、テレビやラジオの出演、全国講演、単行本の執筆と、超人的な日々を送られています。
その上で、毎晩3〜4kmのジョギングに、週3〜4回のウエイト・トレーニングを励行され、病気知らずの「超」健康を維持されています。
「忙しさと運動と少食が、私の「超」健康法」と語られる石原先生に、先月号「万病は冷えから」に続いて、今月は「万病は血液の汚れから」をテーマに、冷えを防ぎ、血をきれいにし、「超」健康を得る生活習慣を、食事と運動を中心に伺いました。
万病一元
血液の汚れから生ず
冷えがもたらす
「?血」=「汚血」
──先生は「万病は冷えから」とおっしゃる一方で、「血液の汚れは万病の元」ともおっしゃっていますね。
石原 冷えると体の全細胞、臓器の代謝が悪くなり、心臓や血管系の働きも低下し、血液の流れが悪くなります。
血流が悪くなることを東洋医学では「?血」といいます。血とは、小川のきれいなせせらぎが、流れが悪くなってドブ川になるように、血液が汚れているということです。つまり、「?血」=「汚血」になります。
全身の細胞を養っている血液が汚れれば病気になるのは当たり前で、漢方では二千年も前から「万病一元、血液の汚れから生ず」といっています。すなわち、血液が汚れると全身の細胞が傷害される結果、体の中ではその汚れから何とかして細胞を守ろうとして、いろいろな反応が起きてきます。それが病気ということです(図1)。
血液の汚れというと単純に、血液中に尿酸、尿素窒素、乳酸、ピルビン酸などの老廃物が増える状態と考えます。
しかし、東洋医学ではもう少し大局的に血液成分、すなわち、ミネラルやビタミン、コレステロールや中性脂肪、糖、各種ホルモン、赤血球や白血球、酵素類等の過不足も血液の汚れと考えます(表1)。
では、?血の状態は何で診断するか。二千年前には血液成分や老廃物の内容はわかるはずはなく、血は血色をはじめ、顔や体表に出てくる種々のサイン(図2・3)で見極めていました。
「?」とは「滞る」という意味ですから、「?血」は血行不順ということになります。血行不順は心臓から遠いところに起こりやすいので、下半身は冷えやすくなります。下半身が冷えると、そこに存在するべき熱や血や気が上昇し、それに伴ってさまざまな症状があらわれてきます。
他覚的症状としては、赤ら顔、目の下のクマ、紫に色素沈着した歯茎、クモ状血管腫、手掌紅斑、痔疾、下肢静脈瘤などがあらわれます(図2)。
自覚的症状としては、イライラ・不安・不眠、発赤(発疹)、動悸(ドキドキ)、息苦しさ、肩こり、吐き気・咳・口内炎・口臭──など、下から突き上げてくる症状の他に、頭痛、神経痛、腰痛、生理痛など実に多彩です(図3)。
中でも「痛み」は、体に真っ先に発せられる血の黄信号です。なぜなら、過剰な水分がたまって体が冷えると、血液の流れが滞って痛みが起きやすくなり、また、血中の老廃物が増えたり、血液成分の過不足からも、血流が滞り、痛みが起きてくるからです。
さらに、下半身が冷えて血行が悪くなると、下肢の冷え、しびれ、むくみがあらわれ、大腸、膀胱、子宮など下半身にある臓器の機能低下を招き、便秘、乏尿(尿の出が悪くなる)、むくみ、生理不順などの症状も出てきます。
突然死した人のうちの90%は死の1週間から1ヶ月前に、家族など周囲の人が動悸、頭痛、肩こり、赤ら顔、目の下のクマ、鼻出血などのサインに気付いていたといいます。まさしく「万病一元、血液の汚れから生ず」であり、血のサインが見られる人は要注意ですね。
「食べ過ぎ」も、 血を汚す最大の要因
石原 冷え以外に、血液を汚す最大の要因は食べ過ぎです。
かまどいっぱいに燃料を入れると燃えにくいのと同じで、食べ過ぎると食べ物が燃え残って老廃物になり、それによって血管がつまったり、血液が汚れます。
細菌はそういう血液が汚れた状態のところに好んで入ってきて、炎症を起こします。ですから、感染症は細菌が血の汚れを掃除してくれている状態ともいえ、がんも、血液の汚れを何とかきれいにしようとしてできると考えられます。
食べ過ぎると、コレステロールや糖などの余剰物も血液中に増えます。それによって血流が悪くなり、血が汚れ、高脂血症や動脈硬化、糖尿病などさまざまな生活習慣病を招く元になります。
また、食べ過ぎると、それを消化するために胃腸に血液が集まり、他の臓器に回る血液が少なくなります。それによって他の臓器の血行が悪くなって、いろいろな病気を引き起こすことにもなります。
人類三百万年の歴史は飢餓との戦いの歴史でもあり、ごく最近まで、人類は飢餓と戦ってきました。ですから、我々の体は空腹にどう対処するかは十分知っていますが、現代のような飽食には慣れていない。過剰な栄養物をどう処理してよいかわからないのです。
ですから、現代病のほとんどは食べ過ぎからくる文明病といって過言ではないと思います。
「食性」の誤りも血を汚す
〜食の欧米化と病気の欧米化〜
石原 病気の欧米化の原因は、食生活の欧米化がです。その欧米食の特徴というか、欠点は、「高脂肪・高蛋白食」です。
ではなぜ、高脂肪、高蛋白に傾くと良くないのか。
動物は歯の形で「食性」、すなわち食事の性質が決まっているといわれます。32本ある人間の歯のうち、20本が穀類を食べる臼歯で62・5%。8本は野菜や果物をガブッと食べる門歯で25%。残り4本が犬歯で12・5%ですから、肉と魚は1割強でいい。つまり、人間の本来の食性は、穀類、野菜、海藻をしっかりとるということです。
人類発祥の地アフリカからヨーロッパに渡った人種は、寒いヨーロッパでは穀物や野菜が基本的にあまり採れないために、仕方なしに歯の形と相反して、牧畜をして肉食を始めたわけです。腑(胃腸)に肉が入ると書いて「腐」、すなわち腐る。腸で食べ物が腐ったら大変ですから、ヨーロッパ人は腸を短くして、それを収めている胴が短くなったといわれます。
その欧米でも20世紀初頭までは、穀類や芋類が多く、動物性食品は少なかったんです。国が豊かになるにつれて肉、卵、牛乳、バター、マヨネーズなど動物性食品の摂取が多くなり、穀類と芋類が減る。これは、世界中どこでも共通しています。ですから、人類というのは文明が発展してくると、病気のタイプが変化していくんですね。
私達の子供の頃の食事はご飯に味噌汁、納豆に豆腐、それにせいぜい目刺し。それが今では食品があふれ、何でも食べられる時代になり、しかも、軟らかくて食べやすく、美味しくて栄養になる動物性蛋白、動物性脂肪を食べ過ぎ、人類の食性とは大きくかけ離れた食生活になり、これが現代人の血液の汚れの原因になり、ひいては欧米型の病気を引き起こす原因になっているわけです。
汚血に拍車をかける 運動不足・ストレス
石原 運動不足になると、血液中の余剰物や老廃物の燃焼が妨げられ、血液が汚れてきます。
逆に、運動して筋肉が動くと、血管の動きも良くなり、血流もスムーズになります。
人間の体温の40%以上は筋肉で産生されるので、運動によって筋肉が収縮・拡張されると体熱が上昇し、体熱が上昇すると、脂肪や糖類をはじめとする血液中の余剰物や老廃物の燃焼が促進され、血液が浄化されるのです。
過剰なストレスも血行を悪くし、血を汚します。
体に肉体的・精神的なストレスが加わると、それに対抗するために、副腎髄質からはアドレナリンが、副腎皮質からはコルチゾールが分泌されます。アドレナリンは、血管を縮め、血行を悪くして、体内に老廃物をためやすくすると同時に、血液中のコレステロール、中性脂肪を増加させて、血液を汚すのです。
「少食」・「半断食」で排泄を促す
石原 「吸収は排泄を阻害する」というのは、人間の生理の特徴です。
食べ過ぎると、生命力は消化・吸収に費やされ、排泄がおろそかになります。よって、食べ過ぎたり飲み過ぎると、かえって便秘したり、尿の出が悪くなったりします。逆に少食にすると、大小便の排泄が促進されるので、少食は血液をきれいにします。
その究極の状態が「断食」です。断食中は宿便や濃い尿、痰、吐息の悪臭、舌苔などが出て、体の毒素や老廃物が排泄されるのが実感されます。
しかも、断食をすると、胃腸に血液が集中せず、他の臓器に血液がたくさん供給されるので、その活動が活発になり、病気の臓器も治っていきます。
現代人が断食を実践する現実的な方法として、私は「半断食」をすすめています。朝は「人参・リンゴジュース」か「生姜紅茶」だけ、昼は蕎麦などの麺類、夜はアルコールを含めて、好きなものを好きなだけ飲んでも食べてもOK──というのが「半断食」です。これは、日常の基本食にもなります(表4)。
「朝は脳を働かせるためにもしっかり食べなさい」という医師や栄養学者も多いのですが、脳は100%糖をエネルギー源にしていますから、糖分プラス、ビタミン、ミネラルを十分に含む「人参・リンゴジュース」を飲むだけで十分なのです。
強い味方の 「人参・リンゴジュース」と、 「生姜湯・生姜紅茶」(表5・図4)
──「人参・リンゴジュース」と「生姜紅茶」は、誰にでも良いのですか。
石原 「人参・リンゴジュース」は95%の人は大丈夫です。ただ、極度の冷え性の人では、体を冷やして調子が悪くなる人がいます。そういう方は、温かい「生姜湯」や「生姜紅茶」、「梅醤番茶」をおすすめします。
私がかつて研修を積んだスイスのビルチャー・ベンナー病院は1897年の設立以来、動物性食品はヨーグルトだけで、黒パン、ジャガイモ、ナッツ、生野菜、漬物、果物などの食事で、世界中から集まる患者たちの難病・奇病を治していました。
この病院で毎朝必ず飲ませていたのが「人参・リンゴジュース」です。朝から全ての患者に、人参2本、リンゴ1個で作ったジュースを3杯飲ませる(表5)。それでどんどん難病、奇病が治っていくので、「なぜそんなに人参が効くのか」と当時の院長に聞きましたら、人参の中には「人間に必要なビタミン、ミネラルが全部含まれている」という答えでした。
実際、摂取するとお通じや、お小水の出が良くなり、過剰な塩分や老廃物も抜け、血圧や肝機能値、尿酸値が下がったりと、すごい効果が出ています。もちろん、がんの予防にもなります。
今は各メーカーからもパック入りや缶入りが出ていますが、旅行や外出時は缶でも良いですが、なるべくなら家で作って飲むのが一番です。
「生姜紅茶」は体が温まって、代謝が良くなります。「生姜紅茶」を飲んで、便秘がすっかり治った、むくんでいたのがお小水が大量に出るようになった、温まって痛みが軽くなったなど、たくさんの効果が報告されています。
イギリス人が、インドから茶を持ち帰り、熱を加えて一旦発酵させて赤い紅茶にしてお茶を飲むようになったのは、寒いイギリスでは、南方産の緑茶は美味しくないからですね。漢方では紅茶は体を温める食べ物に分類します。
生姜には昔から薬理効果が認められており、胃の薬の安中散、肝臓の薬の小柴胡湯、風邪の薬の葛根湯等、ほとんどの漢方薬には生姜が入っています。
最近は現代医学の薬理学でも、生姜のいろいろな効果が報告されています。@血管を拡張し血流を良くし血圧を下げる作用、A血栓を溶かす作用、B殺菌作用もあります。お寿司にはガリとお茶がつきものですが、生姜と茶カテキンによる殺菌作用の効用を、昔の寿司職人は知っていたんですね。それから、C抗ウイルス作用、D胃液、唾液の分泌を良くする作用、E脳の血流を良くしてウツにも効くと報告されています。
生姜は常時切らさず、すりおろした生姜をタッパーに入れ、冷蔵庫に入れておくと便利です。
──最近は生姜湯の粉が売ってますけど、あんなものでも良いのですか?
石原 忙しい時や会社などでは、それでも良いと思います。
筋肉を鍛える
石原 食べ物と共に重要なのが筋肉を鍛えることです。筋肉は体重の48%もありますから、筋肉をしっかり鍛えないと健康に結びつかない。
というのは、筋肉を動かすと体温がまず上がる。体温が上がると免疫力も上がりますし、筋肉の中を走っている血管が収縮したり拡張したりして、心臓の負担を和らげます。筋肉を動かすとカロリーを消費しますから、お腹が空いて消化も良くなります。
筋肉が弱り、足腰が弱ると、必ず膝が痛くなったり、つまずきやすくなったりします。足腰が弱くなると漢方では「腎虚」といって、いろいろの病気が出て、老化も進んできます。ですから、筋肉というのは極めて大切です。
──筋肉が弱るとか、痩せるとかいいますが、それは筋肉細胞が減るということですか。
石原 筋肉細胞の数は生まれつき同じで、変わりません。
それは筋肉細胞が肥大するかどうかなんです。筋肉中に蛋白や脂肪、ビタミンやミネラル、水分を適正に蓄えていれば、筋肉細胞は肥大してボディビルダーみたいになるわけです。反対に、筋肉細胞が痩せてくると、その間に過剰に脂肪や水分がたまって、ぼよぼよっとした状態になります。
筋肉が痩せてきて、例えば1秒1歩で歩いていたのが、2秒で1歩になると、つまずきやすくなります。逆に、1秒2歩になると、つまずきや、寝たきりにもなりにくい。
特に、老化は足腰から起こりますから、歩かないとダメです。スクワットもおすすめします(図5)。
「入るより出す」を大切にし、 体の声に耳を傾ける
石原 野生の動物は、医者も看護師も病院もないところで皆、元気にしています。万一病気したり、怪我をすると、食べないか、発熱を起こして、治す。少食にして、温める、この二点はとても重要です。
そして何より、入るより、まず出すことが非常に大切です。人間はオギャーッと息を吐きながら生まれ、死ぬ時は息を引き取る。ですから、出す方が先なんですね。
出すためには、体温を上げると良いのです。私も毎日4kmジョギングしてますが、まず汗が出る、痰も出てきます。もっと走ると鼻がやたらと出てきます。
サウナもあれだけ汗かくと翌日、お小水やお通じの出が良くなります。やはり温めた方が排泄が良くなるんですね。人間の体というのはそうなっているんです。普通、心臓病にはサウナはいけないといいますけれど、鹿児島大学医学部の第一内科では、5年前から心不全の患者にサウナ療法を取り入れて、体を温めることで良い結果を生んでいます。
水分摂取にしても、運動やお風呂やサウナで汗をかいて、飲む分には体に良いと思います。でも、動かない人が1日2リットルとか大量に飲めば、水毒になり、調子が悪くなるのは当たり前です。
過ぎたるは及ばざるが如しで、いくら良いものでも、過ぎると体に悪い。酸素でも過呼吸症候群といって、息を吸い込み過ぎて痙攣を起こして倒れる。酸素も多過ぎると良くないということです。
塩もとるのが悪いのではなく、出さないのが悪いんですね。だから、お小水を出す、汗を出す、お通じを出す。そこが一番、健康の基本だと思います。
──体が本当に欲するものが良いといいますけれども、出し切らないとそれもわからないですよね。
石原 その通り、まず出すことですね。
人間というのは、生命の最高傑作ですから、本来自分で病気を治すとか、防ぐ方法を全部わかっているんです。水でも喉が乾けば飲む、塩が欲しい時はとる。これが一番なのです。
今、いろいろな健康法がいわれています。患者さんからもよく、サプリメントや、医療健康器具について聞かれます。そういう質問には、まず試してみて、@お通じが良くなる、Aお小水が良くなる、B体が温まる、C気分が良い──の4つを基準に判断してくださいと答えています。試してみて調子が良かったらそれで良い。それだけのことなんです。
(取材構成・本誌功刀)