HSPを増やせば病気は良くなる! どんな病気にもマイルド加温療法を!!
愛知医科大学医学部 伊藤要子助教授
伊藤要子先生がHSPに出合ったのは、今から約15年前。大学卒業後、血液が固まったり溶けたりする、血液凝固・線溶の研究をされ、その後放射線によるがん治療、放射線防御、さらに温熱療法の研究にたずさわる過程で、「温熱耐性」の研究から、その原因物質であるHSPに出合われたそうです。
病気やストレスのときは、細胞の中にあるタンパク質が傷害をうけ、構造が崩れています。このタンパクの構造異常を見つけて修復してくれるのが、身体を加温すると増加する「HSP」(Heat Shock Protein=熱ショックタンパク質)です。
伊藤先生は次第に、このHSPが多彩な病気を治す力を秘めていることに気がつかれ、今はご研究の傍ら病気に苦しむ全ての人に、自分自身で増やすことができるHSPの存在を知らせ、元気を取り戻してもらいたいという思いで一杯だとのこと。
その思いから、NHKラジオ「健康ライフ」に出演され、その時にお話しされた内容が全国的に評判となり、青森県在住の本誌読者でもあるリスナーがこれを聞かれて感動し、ぜひ『自然食ニュース』でインタビューをして欲しいとの申し入れをいただきました。
そこで早速、伊藤要子先生に、この興味深いご研究についていろいろお話をうかがいました。
HSPを増やす
「マイルド加温療法」と
「温熱療法」
HSPとは?
伊藤 最初は、ウサギを使って温熱による傷害を調べていました。
あるとき、大変やせて実験に使用出来ないウサギが1羽いたので、その前の週に加温実験に使用したウサギを再度使用したのです。加温温度を高くしていくと、通常、ウサギは播種性血管内凝固症候群(DIC)になります。
DICとは簡単にいうと、悪性腫瘍、急性白血病、手術後などのさまざまな重症疾患をきっかけに、小さな血管に血液の固まり(血栓)が生じ、危険な状態になることです。ヒトでも重篤な病気の末期には、たいていこのDICに陥ります。
本来なら、高い温度で加温したウサギもこのDICになるはずなのですが、なぜか1羽だけ高温で加温してもDICにならないウサギがいました。それが、前の週に一度、加温実験に使用したウサギでした。つまり、あらかじめ加温したウサギは、次に高温で加温しても、温熱傷害のDICにならなかったのです。これを「温熱耐性」といいます。
DICが予備加温で防げるということは、臨床的には画期的なことです。すぐに学会で発表しましたが、あまり注目されませんでした。
この温熱耐性の原因物質が、HSPであることは後に、明らかになりました。HSPは体の細胞1個1個の中にあります。そして、細胞の中で構造の崩れたタンパクを修復して細胞を元気にしてくれているのです。
HSPは1962年、ショウジョウバエを高温環境で飼育したところ、大変増加するタンパクがあるということで発見されたタンパクで、「熱ショックタンパク質(Heat Shock Protein:略語HSP)」と呼ばれてます。さらに熱ストレス(加温)以外でもさまざまなストレス(放射線、手術、感染、疲労など)でHSPは増加するので、ストレスタンパクとも呼ばれています。
最近、このHSPがさまざまな病気やストレス傷害から体を守り、老化や痴呆の予防、さらには運動能力までも向上させることがわかってきました。
我々の研究結果では、最も効率よく増加するストレスは、熱ストレスであったことから、加温によってHSPを増加させています。加温は、安全で、容易で、誰でも出来るので、HSPは上手に加温すれば誰でも増加させることが出来るわけです。
HSPが細胞の中でつくられるのには、その細胞がストレスと感じる程度、41℃くらいに細胞を加温すれば良いので(ヒトでは舌下温38℃程度)、私たちは「マイルド加温療法」と呼んでいます。 私たちの体は60兆個の細胞からできていますが、病気になるとは、これらの細胞の中のタンパクの構造が異常(折りたたみ異常)になることです。HSPはこの折りたたみ構造の異常を修復してくれるのです。それぞれの病気に対しては、それぞれの薬がありますが、薬は特定の病気にのみ有効です。
しかしHSPはどんな病気のタンパク異常にも有効です。そして少し生活上の工夫をしていただくと誰でも自分の体の中でつくることが出来ます。そこが薬と大きく違う点です。ただし、HSPにはパワーの限界があります。有効期間もあります。あまりに強く傷害された細胞は、HSPさえつくることが出来ないので、そうなると修復は困難です。
HSPはどうすると 体内でつくれるのか?
伊藤 私たちの細胞の主な成分はタンパク質です。髪の毛、目、耳、皮膚、ツメ、筋肉、内臓、血液、さらにホルモン、コラーゲン、ケラチン、酵素などどれもタンパクで、体のはたらきの中心をになうタンパク質の種類は10万種類以上あるといわれています。もちろんHSPもタンパク質です。
細胞の中は、たくさんのタンパクで混雑した状態にあります。そこに突然ストレスが加わると、タンパク質の折りたたみ構造が異常になったり、異常になったタンパク同士がくっついて凝集したりします。そうして、タンパク質が正常に機能出来なくなると、細胞は最終的には死んでしまいます。しかし前もって加温して(マイルド予備加温療法)、HSPを十分に準備しておけば、ストレス傷害は軽減され、早く修復出来るわけです。
加温で、HSPは増える
動物実験での結果
伊藤 図1は実験動物のマウスを直腸温40〜41℃で30分間全身加温した結果です(マウスの体温は、ヒトより約2℃ほど高値です)。
マウスではHSPは加温1日後から増加し、2日後にピークとなり、4日後には減り始め、7日後にはもとに戻りました。
このほか、十二指腸、大腸、小腸、肝臓などの臓器のHSPも、1〜2日後がピークで、7日後にはもとに戻ります(図1)。
ヒトでもHSPは加温すると、
2日後をピークに1〜4日後に増加し、7日後にはもとに戻ることがわかりました。
ヒトでも実験動物でも、加温すると2日後をピークにHSPが発現することが明らかとなりました。加温によって免疫能も高められます。
加温の効果の実証
〈ストレス潰瘍〉
伊藤 ストレスといえば、代表的な傷害は「ストレス潰瘍」です。これを予備加温で、どれだけ防御出来るかを実験しました。
ストレス潰瘍の実験は「水浸拘束ストレス実験」という方法が大変有名です。100%のネズミに胃潰瘍が出来ることが知られており、ほとんどの胃薬は、この実験で胃潰瘍をどれだけ防げるかを検討しています。
そこでこの実験方法を使って、あらかじめ加温して誘導したHSPが、どれくらいストレス潰瘍を防御出来るかを確かめることにしました。
図2は、実験装置を使ってのストレス直後と、全身に予備加温した後に同様の実験をおこなったものを比較したデータです。
加温しない群(図2─@)は、すべてのラットの胃に、出血と潰瘍がみられます。これに対して、ストレス実験の2日前に、全身予備加温(直腸温40℃で30分間)したラット(図2─A)のストレス潰瘍は、加温しないラットに比べて軽度です。
全身予備加温により、ストレス潰瘍は50%抑制出来、死亡率も33%から0%と、明らかにストレス潰瘍の防御効果を認めた実験でした。
〈腎不全〉
腎臓には体の全血液量の5分の1が常に流れ、不要物を常に濾過しています。このはたらきにより、血液成分は一定に保たれています。腎不全はこうした腎臓の調節機能が著しく低下した状態です。
加温により明らかに腎不全が軽減されています(表)。
〈肝不全〉
肝硬変モデルラットを使用して、HSPを増やすために42℃の恒温槽に15分間入れて熱ストレスをかけます。その48時間後、肝の血流を30分間止め(虚血)、再灌流しました。
その結果、加温しなかった群の7日間の生存率は、21・4%であったのに対し、加温群はなんと100%生存したというデータもあります(秋田大学医学部・加藤雄造先生)。
〈舌のやけど〉
口のまわりを温めておくと、口の中の傷も早く治ります。歯医者さんへ行くときは、お湯を含んで口の中を温めてから、出かけるといいでしょう。
〈筋疲労〉
マウスの筋肉疲労を「筋肉のエネルギー代謝」で測定します。
図3のように、加温することにより、筋肉中のHSPが増加するので、エネルギー枯渇までの時間が延長し、疲労までの時間が遅くなります。
加温による免疫効果
伊藤 私たちの体の中にはいろいろな異物が侵入してきますが、それら病原体との戦いを免疫細胞が役割を分担し、驚くほど巧妙なチームプレーで繰り広げています。
その一つ「マクロファージ」は、体内に細菌や異物などが侵入すると、真っ先に出動する好中球に続いてゆっくりとあらわれ、あたり一帯の異物を貪食し排除する細胞です。貪食細胞と呼ばれるこのマクロファージは、36・5℃で細菌や異物と反応させても貪食能はわずかですが、38℃、39℃と温度を高くすると急激に異物を貪食し始めます。
この結果は、生体にとって、大変合理的です。細菌やウイルスに感染し、38℃、39℃と体温が上がったときこそ、感染した細菌やウイルスを攻撃し、貪食する能力が高くなる必要があるからです。
細菌やウイルスに感染すると、発熱物質が、体温調節中枢(視床下部)の設定ポイントを、たとえば36・5℃から、38〜39℃に上げるため、体温の上昇が起こります。すると、体を守ろうとして免疫系が活性化され、感染した細菌やウイルスを攻撃し、貪食する能力が高まるのです。
体を加温すると増加するHSPも、がんや病原菌を見つけ出して殺傷する「ナチュラルキラー(NK)細胞」の活性を高めたり、抗原提示といって「ここにこんな侵入物質があるよ」と免疫系の細胞に教える「樹状細胞」を増加させ、その作用を強化する作用があります。
がんと
マイルド加温療法
がん治療時のマイルド加温
伊藤 いわゆる一般にいわれるがんの温熱治療は、がん細胞を43℃以上に加温してがん細胞を殺すことが目的です(細胞は43℃以上に加温すると死ぬので)。
マイルド加温療法は、細胞に熱ストレスを与えて、HSPを出すことが目的で、細胞を高熱で殺すことではありません、マイルドな加温で良いのです。HSPが出るような温度と時間とを与えてやれば良いわけです。必要な時は、それを上手に調節して、その目的に合わせて、そこへ一番HSPが集まるように工夫して加温します。特に手術(がんの切除術など)の際には、手術の日に最高にHSPが増加するよう加温すると、手術の傷害が軽減され、回復も早くなります。
特に、放射線治療とマイルド加温、化学療法とマイルド加温の併用は非常に効果的です。放射線治療では、マイルド加温との併用で、照射線量が軽減されます。化学療法ではマイルド加温との併用で、化学療法での抗がん剤の量が少量ですむので、副作用の嘔吐や吐き気が軽減されます。
また、加温すると、マイルド加温では免疫力が高まるので、化学療法や放射線療法の副作用として絶対起こってくる免疫能の低下をかなり軽減出来ます。実際に、化学療法や放射線療法での白血球の減少を抑制してくれます。
がん末期や帯状疱疹の 疼痛緩和
伊藤 がんの末期や、帯状疱疹、前立腺肥大など、さまざまな疾患の痛みの緩和に、加温によって誘導される痛みの緩和物質エンドルフィンが奏効します。
麻薬の使用で便秘、味覚の変調、食欲不振となり、ご自身で自分の体の変調を感じられていた人が、麻薬を中止して、加温を開始した後は、食欲も出て、諸種の変調が回復したケースもありました。ただ、味覚の変調は回復が遅かったのですが、今では味覚も回復してきました。最近は、座薬による鎮痛効果と温熱療法で痛みが制御出来るようになってきました。
加温と
運動能力、筋肉への影響
予備加温後、
より速く、より長く走れる!
伊藤 予備加温したほうが、明らかに運動能力が向上することがわかります。
加温なしでテストをしたときの乳酸の増え方と、加温2日後に同じテストをしたときの乳酸の増え方を比較しました。加温なしのときは、乳酸は直線的に増えますが、加温2日後では、ギリギリまで乳酸値を抑え、もう走れないというところで一気に乳酸が増加しています。疲労物質の「乳酸」がたまると走れなくなります(図4)。乳酸の産生が遅い、すなわち疲労しにくいので、たくさん走れ、運動能力が向上するというわけです。筋肉痛の予防にもなります。
筋萎縮(筋肉の衰え)の予防
伊藤 ギプスで固定したまま筋肉を長期間使用しなかったり、ベッド生活で筋肉を使わないでいると筋肉がやせ、萎縮してきます。
この筋萎縮の予防に有効なのが加温です。加温により誘導されたHSPが、筋タンパクの合成を手助けするので、筋の萎縮を予防出来るのです。
うつ病にも可能性!
〜さまざまな細胞に
元気が出てくる〜
伊藤 気分がうつがちになったら、HSPを増加させてください。
最近の研究では、うつ病では遺伝子・DNAからHSPのアミノ酸配列の情報を写し取るメッセンジャーRNAに構造異常があるという報告があります。つまり、正しいアミノ酸配列のHSPが出来ないから、HSPの作用である、細胞を強くする、元気にすることが出来ないのです。
ではHSPはなぜ、さまざまな細胞ストレスに対して広範囲に細胞を強くすることが出来るのでしょうか。
その理由の一つは、どんな生物でもHSPを持っており、種を越えて保存されている生物の生存に大切なタンパクであるということです。生物は、基本的には共通の過程を経て傷害され死にいたりますが、HSPはその「共通の過程」を抑制出来るからです。たとえば細胞の傷害は、ほとんどがタンパクの傷害です。細胞はタンパク質の折りたたみ構造が異常になり変性して、その機能を失います。HSPはそのときに異常になったタンパクを見つけ、修復したり、分解を促進して細胞を救ってくれるのです。
細胞の死に方は「壊死」と「アポトーシス」の2種類があります。HSPはそのどちらの死に際しても「死ぬのはちょっと待って」と、細胞を強化しています。すなわち、HSPは細胞死に関わる重要なところに直接作用して、抑制的にはたらきます。よって、HSPは細胞を強くすることが出来るのです。
日々の健康のための加温
HSPの増やし方〜
自宅のお風呂で
伊藤 お風呂で「HSPを増やす加温方法」を実践するにあたって、まず用意していただきたいものがあります。お風呂用の「湯温計」と「体温計」です。
温度表示のついているお風呂でも、正確な湯温を知るために湯温計を使ってください。また体温は、舌の下において「舌下温」を計ります。
そしてすべての加温に関して、必ず、十分な水分補給をしてください。1回の加温前後で、ペットボトル1本500mlが目安です。
週に2回、熱めのお風呂で加温し、その他の日はご自分の好きなようにリラックスして入浴してください。
最初は40〜41℃で10分を目安にします。
慣れてきたら、湯温を42℃まで上げてください。体温は38℃を超えると思います。人によっては、43℃にしないと38℃以上にならない方もいます。
お風呂から出たら、温めた体温を保持することが大切です。体を冷やしたりしないよう、タオルケットや夏用布団など用いて温かくし、10〜15分保温してください。
冷え症、低体温の方の 体温上昇
伊藤 低体温で、体が思うように動かない、なんとなくだるく、気力が出ないという方は、週に1〜2回ではなく、2週間ほど毎日続けてお風呂で加温してみましょう。
毎日体温を測定すると、少しずつ体温が上がっていくのがわかります。2週間くらいで約0・5℃、上手くいけば1℃上昇します。
日本人の子供の体温が、現在では、以前に比べて1℃低下しているといわれています。最近は、子供たちの間でも、体温が35℃台の低体温児が増えています。その原因は、生活様式や遊びの変化、運動量の減少などが考えられます。毎日、シャワーではなく、しっかりお風呂に浸かって、運動もしてほしいものです。
冷え症や低体温の人は代謝が低いのです。体温はどのようにして出来るかというと、心臓や肝臓などいろんな臓器の代謝反応で出来てきます。たとえば心臓では、収縮・弛緩の心拍動の仕事と同時に熱も産生されます。その熱が血液を介して全身の体温維持に使われています。
ですから、走って筋肉を盛んに収縮させたとしますと、仕事は走ることですが、出てきた熱は体温の維持にも使われるわけです。いくら足の筋肉で収縮熱が生まれても、足は焦げたりしないで、血流が全身へ熱を運んでくれるわけです。
体熱は細胞内でつくっているわけですが、体温が低い人は、酵素活性などいろいろなレベルが低いので、その熱をなかなか十分につくれない。本来なら36・5℃の体温になるのですが、そこまで上がらない。体温が低いうえに、その人のエネルギーレベルが低いから、全身の体を温める仕組みも十分はたらかないのです。
たとえば、35・5℃の人に、外から熱を与えてエネルギーレベルを36・5℃に上昇させると、その後もその差の1℃分のエネルギーをどこからか持ってこないと36・5℃は維持出来ないわけです。それが食事からであったり、食事の量が同じであれば自分の皮下脂肪からつくるわけですから、エステなどで体脂肪を減らして強制的にエネルギーを取り出すということにつながるわけです。
それをエステに行った時だけでなく、毎日毎日、外から熱を与えることを続けていると、常にエネルギーレベルが上がって、いつも36・5℃になるようになってくるわけです。
月曜日になると 気が重くなる 学生や会社員の方に
伊藤 不登校の子供たちが、一番学校へ行きたがらない曜日は月曜日です。
土曜日の夜、お風呂の湯温を41〜42℃にして、舌下温38℃をめざして、合計10分ほど入浴します。加温2日後にあたる月曜日、爽快に学校へ、職場へと出かけられます。
お風呂以外の加温装置
伊藤 体温を2℃以上上げて、最高にHSPを増加させるためには、家庭のお風呂の他、家庭用遠赤外線サウナなどの加温装置も利用出来ます。
一般的には、1℃以上上げるように(舌下温約37℃)で30〜40分間、また必要に応じて2℃以上上げるように(舌下温約38℃以上)、30〜40分間、週に1〜2回加温します。
最初は、自分で気持ち良いと感じられる温度から始めればいいでしょう。最初はなかなか汗が出ませんが、4〜5回目から十分出るようになります。加温前に水分を取っておくと、汗が出やすくなります(冬場は汗が少ない)。加温後はやはり、タオルケットや夏用布団をかけて20〜30分保温します。