外食が"普通の食事”になった現代人に、日本人の食性にあった「シーフード ベジタリアン」のすすめ

南赤坂クリニック院長 安岡博之先生

多忙な現代人にも実践できる 「シーフードベジタリアン」

 狂牛病が騒がれる一方で、某家の牛丼が再開となれば殺到する。何とも脳天気な話ですが、今や普通の食事というと、コンビニ食や、ファストフード、ファミレスなどの外食が当り前。家でもレトルトや冷凍食品、スーパーの総菜という家庭が多くなっています。
 ファストフードやインスタント食品、スナック菓子など、カロリーが高いだけで体の機能維持に必須なビタミンやミネラル、食物繊維など微量栄養素がほとんどない食品は、ジャンクフード(ガラクタ食品)≠ニ呼ばれています。
 ジャンクフードや外食の多くは油脂分が多く、少量でもカロリーが高いのに、こうした食品を常食・多食していれば「体がおかしくならない方がおかしい」と、南赤坂クリニック院長の安岡博之先生は警告されています。
 しかし、女性の社会進出や何かと多忙な現代では、昔のように手作りのものばかりとはなかなかいきません。
 安岡先生は米国で最新の放射線医学、早期予防およびストレスマネジメントについて学ばれた後、90年からは早期発見以前の未病段階での予防医療に取り組まれ、西洋医学から東洋医学、食事・栄養療法、有効な民間医療まで幅広く取り入れた会員制クリニックを開業されています。
 中でも安岡先生が提唱される「シーフードベジタリアン」を基本にした食事指導は、外食を余儀なくされる多忙な現代人にも容易に取り入れられる食事法として評判を呼んでいます。
 安岡先生に、現代人にふさわしい"健康的な食生活”についてお話を伺いました。

こんな食生活では 生活習慣病が国民病に なるのも当り前
現代の、普通の食生活とは

──今や若者層はファストフード、ジャンクフードが普通の食生活になっている感がありますね。
安岡 今の若者は子供の頃から、お母さんが働いて満足に朝ご飯も食べない、放課後家に帰っても誰もいない、ジャンクフードで空腹を紛らわしながらテレビゲームに興じる。これでは良い子が育つわけがないんです。
 サラリーマンでも残業してコンビニ弁当を食べて、仕事が終わればお酒。「夜食ドカ食い症候群」というのがあります。昼間の食事は比較的コントロールされているけれど、夜は少しだけのつもりがあっという間に早食い、ドカ食いし、そこにアルコールが加わって満腹中枢が麻痺してさらにドカ食いとなり、仕上げに濃厚豚骨ラーメンなど無理矢理胃の中に流し込んで眠る。こういう生活をしている人は結構多いのです。
 これでは、大人から子供まで、肥満や、糖尿病や高脂血症などが増えるのも当り前で、生活習慣病はもはや日本人の国民病ともいうべき状況になっています。

ファストフードや 外食の問題点

安岡 今や若年層まで生活習慣病が広がった原因の一つには、ファストフードが日本に入ってきたことがあると私は考えています。
 ファストフードや外食の問題点は、動物性の蛋白質や脂肪が過剰で、油が全般に多く、添加物も多い、味付けも濃いなど、いろいろ指摘されています。
 蛋白質は動物性と植物性をバランスよく摂取しないと高血圧、糖尿病、動脈硬化、心臓病などの要因になり、動物性脂肪に多い飽和脂肪酸はコレステロール値を上げ、燃焼しきれない脂肪は蓄積されて肥満ばかりでなく、乳がんや前立腺がん、さらには大腸がんの危険因子になります(図1)。
 さらに、ファストフードの問題点は食材すべてが精製されきった「部分食」であることです。味や風味に必要ない部分を削ぎ落としているので、栄養的には抜け殻を食べているようなものですし、冷凍によってさらに栄養素が抜けてしまい、亜鉛不足による味覚障害なども起こってきます。
 O─157問題では、最初に報告されたのは大手チェーン店のハンバーガーでした。それで中身の肉を薄くし、完全に火を通すようにしたと聞いています。
──食べつけていると、食べないといられなくなるとも聞きますが、そういう中毒性のようなものもあるのでしょうか。
安岡 濃い味付けや、香辛料をふんだんに使った激辛メニューなどは舌を麻痺させて、次第に刺激のより強いものでないと満足しない舌にどうしてもなります。旨み調味料として添加されているグルタミン酸ナトリウムやイノシトールなどもそうした依存性があるといわれています。
 さらに、刺激性のあるものを食べ過ぎると、食道に炎症を起こし、食道がんを誘発することにもなり、濃い味付けは劣悪な食材をごまかすことにも役立っています。ですから、悪循環なんですよね。

テレビが煽る グルメ風潮と飽食

──街には食べ物があふれ、テレビでは食べ物番組を垂れ流して、まるで一億総グルメ依存症のようですね。
安岡 グルメ番組で太ったタレントさんが「まいう〜」とかいって食べているすぐ後に、痩せて綺麗なタレントさんが出て「ダイエットしましょう」と健康番組を流す。こんな節操も思想もないことを、今の日本では平気でやっているんですね。
 「テレビではこういってましたよ。先生」と患者さんがいう。ある俳優さんに肉だけではなく、牛乳やチーズも止めたらとアドバイスしたら「乳業メーカーがスポンサーの番組に出ているから止められない」と。医者よりテレビの方を信じる、自分の健康よりスポンサーが大事なんですね。
 グルメとは美食家、食通のことをいいますが、医学部の3年のときに生理学で「君たちグルメの言葉に騙されてはいけない。あんなものは高糖質で高脂質。つまり糖分が多くて、脂肪が多いものをいうんだ。そして塩分も強い。しかし、そんなものはグルメでも何でもない。体に悪いだけだ」と習いました。今まさにそういうものを「うまいうまい」と食べているんですね。グルメと称して。
 お腹が減っていれば何を食べても美味しい、減っていなければ美食もうまくない。だからグルメとはいつもお腹を空かす工夫をしている人のことなのです。
 やはり飽食による病気がかなり多くなっています。大腸がん、乳がん、前立腺がんなど、がんの6割は食べ物からきており、ことに動物性脂肪の影響は大きく、昔はがんの少なかった日本が今や死因の1位はがんですから、食事の内容を自らコントロールすれば長生きできるはずです。

シーフードベジタリアン のすすめ
肉食から シーフードベジタリアンへ

安岡 私も昔は肉が大好きでしたが、24歳のときに急性胆のう炎になり、原因は過労の他に肉類と脂肪のとり過ぎとわかり、以来22年間肉はとっていません。卵や牛乳もとらないようにして、体調は非常に良く、2年前に大腸検査をしたところ、我ながらこんなにきれいなのかと思うくらいきれいでした。
 父は心筋梗塞系の家系で肉が大好きでした。私が中学生のときに脳梗塞で倒れ、それで母が玄米食を取り入れ、我が家の食事は魚、野菜、豆腐、海藻類中心へガラッと変わりました。私も肉が好きで育ち盛りだったので、もの足りなく思いましたが、そのうち私自身が大学卒業後は病院に寝泊まりするほど忙しくなり、付き合いなどもあって、かなりいい加減な食事になっていたんです。
 最初は玄米もやってみましたが、厳格な玄米菜食では栄養の吸収が悪かったり、ビタミンB12不足で悪性貧血を起こす可能性や、蛋白質も必須アミノ酸が十分にはとれないなど、どうしても不足する栄養素が出てきます。
 そういうことから、穀類や野菜だけでは駄目で、動物性食品も補う必要がある。それには卵や牛乳ではなく、日本人が昔から食べていた魚なら、日本人の腸にも合っているということで、魚を主にとるのが良いと考えたわけです。
 魚には動物性蛋白質だけでなく、海の贈り物であるミネラル類も豊富、野菜ではとれないビタミンB12や、カルシウムを骨に運ぶDなどビタミン類も多い。何より、魚油は血液がサラサラになる、不飽和脂肪酸であるαリノレン酸系のEPAやDHAを豊富に含んでいます(表1)。
 一方、肉から必要量の蛋白質をとろうとすれば、動物性脂肪の摂取量も多くなり(表1)、コレステロールが高くなったり、カロリーオーバーになったり、欧米型のがんやアレルギーの要因にもなります。
 こうして、自分自身の体験からも「予防医学」の重要性を痛感するようになり、1990年には予防医学の実践の場として現在の人間ドック・クリニックを開きました。
 クリニックでは当初「食べ過ぎないように」、「肉は控えめに」、「たばこは禁止」、「ストレスを避ける」などとすすめていました。しかし、コレステロールなどの数値がなかなか改善しない。結局、漠然としたアドバイスや、「あれもこれも駄目」では患者さんが実践しない、効果が上がらないんですね。そこで自ら実践してきた魚介類と野菜と穀類を積極的に食べる「シーフードベジタリアン」を提唱するようになったのです。

シーフードベジタリアン による改善

安岡 約10年間、サラリーマン約100人を追跡調査した結果、シーフードベジタリアンを実践している人たちは平均で総コレステロールが195mg/dlから191mg/dlに(図2)、中性脂肪は124mg/dlから121mg/dlとなりました(図3)。
 受診者約800人の検査でも3〜4カ月の実践で血糖値や総コレステロール値、血圧値や尿酸値が改善し、便秘の解消など効果が目に見えてあらわれました。
 さらに、体力アップや健康の改善だけではなく、脳が活性化されることで仕事の効率アップにもつながることを、実践者の方々の結果から確信しました。

和食用の日本人の大腸に 肉食は合わない

安岡 しばらく肉をとらないでいると、気持ちが悪くて食べられなくなり、日本人の身体に肉は合わないと身体でわかってきます。
 長い間、穀物や豆類、海藻類、きのこ類などを食べてきた日本人の腸は欧米人に比べて長く、これは穀物や野菜には食物繊維が多く含まれているために腸でゆっくり消化する必要があるからです。そのため、肉などが腸に滞留する時間もそれだけ長く、欧米人よりも、肉食の害を受けやすくなります。
 肉類は腸内に長いこと留まるので腸に負担や圧力がかかり憩室ができやすくなり(大腸憩室症)、腸の掃除をしてくれる食物繊維が不足すると、便秘になりやすく、それが大腸がんを誘発したりもします。

卵・牛乳もすすめられない
〜家畜への薬剤投与〜

安岡 牛乳や卵を食べているベジタリアンもいます。
 しかし、卵黄はコレステロールを上げます。実際に食べないと下がってきます。
 牛乳はアメリカでもその害がいわれ始めています。ハーバード大学のデータでは10年間牛乳を飲むと逆に骨粗鬆症になると報告されています。牛乳にはカルシウムも多いけれど、同時にリンも多く、それがカルシウムの吸収を妨げるんですね。カルシウム源としては、やはり魚介類がすすめられます(表2)。大豆イソフラボンには、骨粗鬆症予防効果もあります。
 また、牛乳に含まれるアンドロゲンというホルモン系も乳がんや前立腺がんなどの要因になります。
 これは肉も同じことですが、家畜には肉を柔らかくするために副腎皮質ホルモン、成長を早くするための成長ホルモン、病気にならないように抗生物質が投与され、これらが特に脂肪にたまり、それを摂取することでがんやアレルギー、男性の女性化、さらに薬剤耐性などが引き起こされるという怖い面があるのです。
 卵、牛乳はアレルギーの最大要因でもあります。戦後のアレルギーの増大は目を覆うものがありますが、昔の日本人は乳製品や卵などめったに口にせず、それこそ風邪のときくらいしか食べさせてもらえないものだったのです。それが今は日常過剰にとっていますからね。
 肉や卵、牛乳が簡単に手に入るようになった裏側には、大量生産のためにこのような不自然なホルモン投与が行なわれてきた事実があることを忘れてはいけません。

消化がスムーズになり  脳を活性化する

安岡 食べ過ぎたり、脂っこい肉を食べた後は胃がもたれ、仕事に集中できないというのは誰でも経験することです。食べ過ぎや、肉などの脂っこい食事は消化にそれだけエネルギーを使い、食後は血液が消化器官に集中するため、脳に送られるべきエネルギーや酸素が脳に届かないのです。
 魚の脂肪は飽和脂肪酸の多い肉の脂肪とは違い、不飽和脂肪酸が多く、消化に時間がかからず、野菜・魚介類のシーフードベジタリアンでは消化がスムーズになり、いつまでも胃に血液が集中することがありません。
 さらに、血液脳関門をくぐりぬけることができるのは糖質と魚の脂質(DHA)だけで、DHAには脳を活性化させる働きがあります。

自然なダイエットで、 動脈硬化や 肥満・便秘の予防、美肌効果

安岡 通常体重が5kg減ると、動脈硬化が5%低下するといわれ、5kg増えると動脈硬化が10%進むといわれています。
 しかし、無理にカロリー制限すると、ストレスがたまって、かえって無茶食いする結果になるというのもよくあることです。
 無理なダイエットではリバウンドが起きやすく、例えば体重60 kgの人が短期間で55 kgに減らして、また60 kgに戻ったとすると、体重はやせる前と一緒でも、動脈硬化は以前より5%進んでいることになり、ダイエットをしない方が良かったという結果にもなります。
 結局、人は美味しいものを食べたいわけです。その点、シーフードベジタリアンなら、刺身やお寿司、マグロのトロや脂ののったサンマの塩焼きも食べられますし、魚介類、海藻、野菜との組み合わせで、肉中心の食事よりも、無理なく自然にカロリーが抑えられます。
 また、便秘はダイエットや美肌の大敵ですが、シーフードベジタリアンでは、便秘が解消され、消化に負担がかからず、血流を良くすることで肌にビタミン類が多く行き渡る可能性が高くなり、美肌効果も期待できます。

シーフードベジタリアンで 美味しく健康に
シーフードベジタリアン の基本

安岡 シーフードベジタリアンの基本として、まず積極的にとりたいものは魚介類(魚類・貝類、海藻類)、野菜類(野菜・果物、穀類、イモ類、豆類、キノコ類)です(図4)。
 魚はマグロなどの赤身の魚、タイやヒラメといった白身の魚、サンマ、イワシ、アジなどの青魚を日替わりでいずれかを毎日。
 野菜類は旬を中心に、根菜類、葉もの、トマトやピーマンといった実をカロリーを気にせずたくさんとりましょう。 
 米や麦などの穀類は「全体食」の考えから、胚芽も食べる工夫をすればベストです。玄米は消化が悪いため、私は胚芽米をすすめています。蕎麦も更科粉(外皮を削って挽いた粉を使用)を使った白い蕎麦よりも黒い蕎麦、パンも全粉パンをおすすめします。ただし、穀類は糖質ですから、とり過ぎれば中性脂肪として蓄えられ、肥満や高脂血症を招くことになります。
 全体食の考え方から、精製したものもすすめられません。例えば、白砂糖や精製塩はミネラル類が抜け落ちてしまっています。野菜もなるべく皮ごと食べます。
 植物性蛋白源の大豆は豆腐、納豆といった大豆加工食品を積極的に、他の豆類もとりましょう。 
 逆に、控えたいものとしては、肉類(全ての動物の肉)、乳・乳製品、卵黄となり、これらを原料とする加工品も含めます。

空腹感のない 三食ドカ食いは危険!

安岡 食事は空腹感を伴ってとることでホルモンや自律神経のバランスが整えられ、また、同じカロリーなら一度にまとめて食べるより、少しずつ分けてとる方が内臓への負担が少なくすみます。
 人間の胃は本来、少ない食べ物をためて少しずつ小腸に流し、エネルギーを分散させて吸収させるようにできています。
 ところが、時間通りに胃に大量の食べ物が入ってくると、まだ前に食べた食物が胃に残っており、それらをすぐに小腸に流そうとします。そうすると、すい臓からインシュリンやリパーゼなど種々のホルモンが一気に出て、血糖値やコレステロール値は一旦急上昇し、その後反動で一気に下がるということが起きます。
 そういう三食しっかり食べ、夜間ドカ食いの生活をしていると30歳を過ぎる頃から、すい臓からのインシュリンやリパーゼなどのホルモンが枯渇し、すい臓や胆のうなど消化液を出してくれていた臓器が機能とともに弱ってくるため、糖尿病や胆石症、すい炎に若くしてかかるのです。
 また、1日1食しか食べないと、体はその1食から栄養分を吸収、蓄積しようとするので肥満にもなりやすく、特に夜寝る前のドカ食いは肥満の大敵です。
 「朝だけネズミ」と「夜だけネズミ」というデータが出ています。ネズミは夜行性ですが、一日の行動を開始して暫くたってからエサを食べる「朝だけネズミ」は太らず、毛並みが良く、コレステロールも低く、反対に十分行動して寝る前にエサを食べる「夜だけネズミ」は太ってきて、毛並みも悪くなり、脂肪がたまり、高血圧になってしまいます。寝る前にたくさん食べるのは良くないので、量を少なくしてできるだけ分けて食べた方がよいのです。

外食は 蕎麦屋、居酒屋で

──最後に家庭で手作りのものばかりとはいかない現代人に、おすすめの外食メニューを。
安岡 私は昼はお蕎麦屋。夜は居酒屋をすすめています。
 居酒屋のメニューは基本的には和食ですし、野菜もそろっているし、海のものもそろっています。豊富なメニューから良いものを選んでいけば良いと思います。
 ただし、私は居酒屋では、お酒は飲まず、烏龍茶をもらいます。頭が真にシャープでいられるのは70歳代くらいまでで、その間はできるだけ脳のクリアなリアルワールドにいたいですからね。