お米のご飯は、頭を良くする!!

学習・記憶能力の向上から、発芽玄米ではアルツハイマー病予防も

名城大学薬学部薬品作用学教室 鵜飼良教授

お米のご飯は、健脳食だった!

 米を主食に、大豆製品、野菜や海草、魚介類など多様な食品を組み合わせた日本型食生活は、生活習慣病の予防の観点から、欧米をはじめ諸外国から高く評価されています。
 一方で最近の日本は、食生活の欧米化や副食の多様化などで米の消費が減り、逆に肉や油など脂質はとりすぎるなど、栄養バランスの偏りからくる生活習慣病が急増し、さらに輸入食品や加工食品、外食に頼りすぎ、子供や若者では朝ご飯の欠食など、食生活にさまざまな問題をかかえています。
 このような状況を踏まえて国は、平成12年、・食事を楽しむ、・1日の食事のリズムから、健やかな生活リズムを、・主食、主菜、副菜を基本に、食事のバランスを、・ご飯などの穀類をしっかり──を上位に、10項目の『食生活指針』を策定。各方面でも、米を中心とした「日本型食生活」の見直しがはかられ、小・中学校などでは完全米飯給食の導入なども叫ばれています。
 科学の分野でも米飯食の良さが研究され、いろいろなデータが出始めています。
 その中でも今年7月に発表された名城大学薬学部・鵜飼良教授の研究グループによる「ご飯の継続摂取では、学習・記憶能力が向上し、特に発芽玄米はアルツハイマー病の発症を抑制する効果がある」というマウスを使った研究成果は画期的なものでした。
 戦後、「ご飯を食べると頭が悪くなる」とパン食が奨励され、それが食生活欧米化の下地になったことを思うと、日本人としては、まさに胸のすくような研究成果です。
 「勉強の効率を高めるためにも子供の頃からご飯を食べることは重要」と指摘される鵜飼先生に、脳の機能を中心に米飯食の良さをうかがいました。 

ご飯食の見直し

──先生が米飯食と脳の機能の関連に着目されたのはどういうところからですか。
鵜飼 私たちの研究室ではアルツハイマー型痴呆を中心に、いろいろなタイプの痴呆モデル動物をつくって、発症のメカニズムの解明や、そのモデルに対してどういった薬が効果があるかという研究を重ねてきました。
 しかし、アルツハイマー病など難治性の神経疾患では薬での治療が難しいということがだんだんわかってきまして、ある人たちは遺伝子の方で解決を求めるということをしております。
 一方、私たちは戦後の食生活が変化してきたことが生活習慣病の増大につながってきたことに着目し、精進料理などに代表されるつつましい日本独特の食事に何か良さがあるのではないかと考えました。
 中でもご飯は日本人にとって重要なエネルギー源であり、日本食の中心的存在です。そこでまず、代表的なご飯に注目し、その良さを科学的に見直したいと考えました。
 米はエネルギー源となる澱粉(糖質)の他に、ビタミンやミネラル、アミノ酸、抗酸化物質などを含んでいます。特に胚芽を残した玄米にはこれらの微量成分が豊富で、さらに玄米をわずかに発芽させた発芽玄米では酵素の働きによって、栄養価がさらに高まることが知られています。
 そこで私たちはマウスに白米と発芽玄米を与え、通常の餌との比較で脳の機能を検討してみました。

ご飯を食べ続けると学習・記憶能力が向上
水迷路実験ではご飯食は好成績

鵜飼 マウスは、
・通常の餌(コーンスターチをベースに栄養成分を一定にしたもの、表1)群、
・白米を混ぜた群、
・白米よりもさらに豊富な栄養素を含んでいる発芽玄米を混ぜた群──の3群に分けて、30日間摂取させました(図1)。
 餌の摂取を開始して15〜21日目に学習能力を評価するために、プールに入れて水面に存在するゴールを探させる水迷路試験を行いました(写真)。
 その結果、通常の餌群に比べ、白米や発芽玄米を摂取した群はゴールヘの到達時間が短縮し、空間認知力や学習記憶力が高いことがわかりました(図2)。
 この水迷路試験は、何度も繰り返すうちに最終的にはどの群も同程度のレベルでゴールに達するようになります。しかし、その過程では、普通の餌群よりもやはり、白米とか発芽玄米を食べさせていると早くゴールに到達します。
 途中何度かテストを繰り返しても、白米や発芽玄米を摂取した群の方が成績が良かったわけですね。

鍵はグルタミン酸?!

──発芽玄米でも白米でも、お米を摂取した群の方が成績が良かったのはなぜでしょうか。
鵜飼 お米にはアミノ酸系の神経伝達物質(表2)である、グルタミン酸や通称ギャバと呼ばれるγ|アミノ酪酸が豊富に含まれ、どちらも記憶や学習能力に重要な働きをしています。
 成分やメカニズムについてはまだ検討中の段階ですが、私たちはそのうちのグルタミン酸が関与しているのではないかと考えています。お米に含まれているグルタミン酸が、学習・記憶能力では最も重要といわれているグルタミン酸作動性神経系を活性化するのではないかということですね。
 グルタミン酸は脳の中では、記憶の中枢である海馬に最も多く存在しています。そして、この海馬で記憶は一時的に保存され、最終的に大脳皮質に保存されると考えられています。
 最初、私たちはギャバが関係しているのではないかと考えていました。ギャバは抑制性の神経伝達物質で、何でもそうですが、記憶にしてもアクセル(興奮・促進)とブレーキ(鎮静・抑制)があって、アクセル役がグルタミン酸、ブレーキ役がギャバで、そのバランスが重要になります。
 しかし、発芽玄米では白米の10倍もギャバが含まれているのに対し、グルタミン酸は同程度です。水迷路試験では、白米食でも発芽玄米食と同程度の効果があったというのは、ギャバだけでは説明できないわけです。
 また、ギャバを投与しても最終的にはグルタミン酸が関与する神経系が活性化されるといわれています。そうしたことからも、学習・記憶能力にはお米に含まれているグルタミン酸が関与しているのではないかと推測されます。
 グルタミン酸はアクセル役ですからとりすぎれば興奮しすぎて、例えばグルタミン酸ナトリウムのような化学調味料を多用する中華料理では「チャイニーズレストランシンドローム(中華料理店症候群)」のような症状を来す可能性もあるわけです。
 適度なとり方、食べ方というのが良いわけですね。その点からも、ご飯というのは適切な摂取源であると思います。

子供の学習能力向上に貢献

──ご飯食が子供たちの学習能力に貢献すると先生はおっしゃっていますね。
鵜飼 はい、そうです。
 マウスは生まれてから4週間ほどでお母さんから離して離乳させます。私たちの実験では生後5週から餌を摂取させましたので、人間では若齢期に当てはまると考えられます。
 今回の実験結果から、若いときからご飯を食べ続けると効果が出やすいということですね。

発芽玄米では、アルツハイマー病予防効果も
発芽玄米食のみ好成績

鵜飼 2週間継続的に白米および発芽玄米を摂取させた後、22日目にアルツハイマー病の原因物質であるβ|アミロイド蛋白を脳内に注入してアルツハイマー病のモデルマウスをつくり、今度は短期記憶、例えば電話帳をちらっとみて電話番号を覚えてかける、それはすぐに忘れてしまうわけですが、そうした短期的な記憶を調べる実験(Y字型迷路試験)を30日目にしてみました(図1・写真)。
 その結果、標準飼料群、白米摂取群ともにβ|アミロイド蛋白の注入によって短期記憶が低下するのに対し、発芽玄米を摂取した群ではその低下が抑制され、記憶障害が起きにくくなっていました(図3)。
 発芽玄米を食べさせますと、アルツハイマー病になりにくいことが証明されたわけです。

ギャバとビタミンE

──発芽玄米食だけに効果が見られたということは、やはりギャバが関与しているのでしょうか。
鵜飼 メインの一つにはやはり、ギャバの関与が考えられます。
 発芽玄米では、玄米中のグルタミン酸が発芽時の酵素の働きによってγ|アミノ酪酸(ギャバ)に変化・増加し、白米の約10倍、玄米の約3〜6倍もギャバが含まれています(図4)。
 ギャバは哺乳動物では脳や脊髄に存在し、主に抑制系の神経伝達物質として働きます。また、脳機能の改善作用としては、脳の酸素供給量を増やし、脳内の血流を活発にして、脳細胞の代謝を高めることがわかっており、最近では、老化による認知能力低下の改善作用も報告されています。
 もう一つ、私たちが注目しているのは、発芽玄米中にはビタミンも多く、中でも抗酸化作用のあるビタミンEです。特に玄米や発芽玄米中には、ビタミンEの中でも強力な抗酸化作用を持つトコトリエノールが多く含まれていることが知られています。
 アルツハイマー病の原因も、とどのつまりはやはり、万病の元、老化の元といわれる活性酸素ではないかと報告されています。
 細胞膜や遺伝子などを破壊する活性酸素などフリーラジカルが、神経を破壊していくということでは、発芽玄米の中に含まれるビタミンEなどがこれを防いでくれている可能性が十分考えられるわけです。
 他にも発芽玄米にはイノシトール、フェルラ酸、フィチン酸など各種の抗酸化物質が多く含まれており、ビタミンEなどと一緒に、神経細胞における活性酸素の害を防いでくれるのではないかと考えられます。

子供のうちからご飯食を

──戦後、ご飯は頭を悪くすると、パン食が奨励されたそうですが、胸のすくような研究成果ですね。
鵜飼 近年はさらに、ご飯を食べない子供が増えております。
 ご飯はこれまでエネルギー源として重要視されてきましたが、私たちの研究によって、ご飯が学習能力を高めることが初めて科学的に実証されました。
 このことは、学校における授業効率を高めるためにも朝ご飯をとることは非常に重要であることを示していると考えられます。
 また、これまでも発芽玄米中に豊富に含まれる栄養成分がアルツハイマー型痴呆症に有効であると注目されていましたが、私たちの実験でも、発芽玄米がアルツハイマー型痴呆症の予防に有効であることが強く示唆されました。
 高脂肪・高蛋白に偏りがちな現代の食生活は、高齢化と相まって生活習慣病の増大につながっていることで今、世界的にも日本食が見直されています。
 ご飯を基本に、味噌や豆腐・納豆などの大豆製品、魚介類、野菜や海草類が豊富な日本食は、脳の機能ばかりでなく、多くの生活習慣病の予防にもつながります。
 私たちの研究が米飯食の見直し、日本食の見直しにつながることを願っております。
(取材構成・本誌功刀)