発酵肥料で健康菜園

"健康野菜”でハウス病による現代病を克服(後編)

薄上発酵技術研究所所長 薄上秀男先生

微生物がつくる発酵肥料で健康野菜発酵肥料でミネラル・ビタミンが豊富な健康野菜をつくる

薄上 医者に見離された私のハウス病との闘いは、野菜や薬草に含まれている無毒化された有機ミネラル化合物や、酵素、ビタミンを摂取して、酵素の機能を強化し代謝機能を回復させ、集積した毒素を排除する闘いでした。そのためにはどのようなミネラルやビタミン、酵素が必要か、そのミネラルやビタミン、酵素を多く含んだ薬草や食物は何か、私は助かりたい一心で医学書、栄養学書をひもとき、人体実験をするかのように格闘してきました。
 そして、私はそのときから、いままで農家にすすめてきた「発酵肥料」を自らつくり、畑を借りて健康野菜をつくり始めました。「発酵肥料」とは、米ぬか・油かす・骨粉・カニガラなどの有機質肥料を、コウジ菌、納豆菌、乳酸菌、酵母菌で三段階発酵させてつくった肥料です。私の代謝機能の弱った五臓六腑の機能を回復させるには、微生物がつくった健全でバランスよくすべてそろったミネラル、ビタミン、アミノ酸、酵素、ホルモンなどを吸収した健康野菜が必要だからです。

栄養豊富でおいしく
抗酸化力が強い発酵肥料野菜

 化学肥料から発酵肥料に変えると、いままでいたちごっこのように悩まされてきたマグネシウム欠乏やカルシウム欠乏、尻腐れや縁腐れなどの生理障害がピタリと止まり、天候不順のときでも病気にかかりにくくなり、味も濃くおいしくなりました。
 試しに化学肥料・農薬漬けでつくったリンゴと無農薬・発酵肥料でつくったリンゴを同時に皮をむき、色の変化の違いを見たことがありました。化学肥料・農薬漬けのリンゴはしばらくすると表面が酸化し茶褐色に変色してきました。無農薬・発酵肥料のリンゴは二時間経っても三時間経っても酸化されず変色しませんでした。それは表面の果肉細胞の抗酸化代謝機能が強いからです。人間も含めてすべての生き物は常に酸化にさらされています。とくに遊離イオンの状態の活性酸素はその力が強く、抗酸化力が弱いと細胞組織はボロボロになり機能しな
くなります。現代病の多くはこの抗酸化力の低下が原因だともいわれています。この抗酸化力も、ミネラル、ビタミン、酵素、核酸などが関与し、抗酸化力の強い果物や野菜には糖分、有機酸、脂肪酸、ミネラルが豊富で、日持ちがよくおいしいのです。

発酵は自然界における
生命が営む食物連鎖
微生物が植物と動物のなかをとりもつ食物連鎖

薄上 微生物の食物も植物の食物も人間の食物も、ほぼ同じで、それが微生物から人間や野菜へ、野菜から人間や微生物にと、同じものが循環しています。
 畑でアミノ酸やミネラルなどを吸収し、子実に集積した大豆を食べれば、数時間後にはそれが人間の身体を構成しているアミノ酸になっています。もし、この大豆の栄養分に過不足があったり不完全に合成されていたり、農薬などでアミノ酸や酵素が傷ついていれば、当然のこととして人間の身体のなかでも代謝異常が起こり、病気になります。最近、除草剤に強いように遺伝子を組み替えられた大豆が輸入されていますが、このことを考えると非常に不安です。

ボカシ肥とは違う発酵肥料

薄上 有機質肥料は昔から一般的に発酵させてから施されてきました。しかし、昔の発酵は「よく腐熟させる」ことを意味する場合が多かったのです。しかし悪臭を放ち無機化した腐敗発酵肥料は、前述した植物に必要な(人間にとっても必要な)有機ミネラル化合物、アミノ酸、脂肪酸、単糖類、ビタミン、核酸、有機酸、ホルモンなどのほとんどが無機物に分解されてしまっています。これでは有機栄養型栽培はできないといわざるをえません。

味噌づくりに学ぶ合成型の芳醇発酵

薄上 味噌は、大豆のタンパク質などが微生物によって分解、合成され、有機ミネラル化合物、アミノ酸、脂肪酸、単糖類、ビタミン、核酸、有機酸、ホルモンなどが含まれた完全有機栄養食品です。大豆というタンパク質が多く含まれた(チッソ分の多い)材料であるにもかかわらず、発酵全過程を通じて悪臭を放つことはなく、むしろ芳醇な匂いを放ちながらできます。なぜでしょうか。
 最初は気温が低いので低温でも繁殖する混ぜられた糸状菌のコウジ菌が、煮て溶け出たデンプン質などを分解し、ブドウ糖などの糖に変えていきます(糖化作用)。それが七〜八月の高温期に入ると、コウジ菌の活動は鈍くなり、高温を好み分解力の強い納豆菌(バチルス菌)がコウジ菌のつくった糖をエサにして繁殖し、デンプンやタンパク質・脂肪など分解しにくいものをどんどん分解し、ブドウ糖などの単糖類、アミノ酸、脂肪酸・グリセリンなどに分解していきます。そしてpHはだんだんアルカリに傾いていくのです。
 そして納豆菌が活動し終え温度が下がってくる九〜十月になると空気中の乳酸菌が糖分を求めて繁殖し糖を乳酸などの有機酸に変えpHを酸性にするからです。
 そして秋から冬にかけては、低分子になった有機栄養を好む酵母菌が空気中から入り繁殖を始めます。酵母菌はアミノ酸、単糖類、有機酸などを吸収しながら体内で前述したようなさまざまなアミノ酸やビタミンを合成し、芳醇でおいしい味噌に仕上げていきます。
 これが本来の発酵であり、私の発酵肥料のつくり方のしくみもこの味噌つくりに学んでいます。

発酵肥料をつくる秘訣

薄上 発酵肥料のつくり方もこの自然界の微生物の繁殖するしくみを手本にしたものです。酸性を好むコウジ菌や酵母菌、アルカリ性を好む納豆菌などの細菌をよく繁殖させるには、最初から最後までpHが一定ではよくないのです。酸性からアルカリ性へ、アルカリ性から酸性へ急激に変化させたほうがよく繁殖し、分解もすすみます。菌同士は拮抗的作用があり中途半端な環境ではどちらも活発に活動ができないからです。
 たとえば、高温・アルカリ性を好む納豆菌から低温・酸性を好む酵母菌にバトンタッチさせるには、納豆菌がタンパク質をアミノ酸に分解した段階で、乳酸菌や酢酸菌を繁殖させpHを下げる必要があります。放っておくと分解力の強い納豆菌は、アミノ酸をさらに分解し、無機のアンモニアをつくってしまいます。こうなると酵母菌は繁殖不可能で、腐敗してしまいます。
 私は開放状態の小屋で温度処理管理もせずに年間を通じて発酵させていますが、腐敗させたことはありません。発酵肥料はこのような自然界の微生物の遷移による発酵と同様のしくみでつくった有機栄養肥料だからこそ、自然界で生きる植物の生育・生理に適した栄養分になるのです。

発酵肥料も三段階発酵

薄上 発酵肥料は主力微生物として糸状菌のコウジ菌、細菌の納豆菌、細菌の乳酸菌、糸状菌の酵母菌を利用します。
第一段階・糖化作用…コウジ菌
 低温(八〜四五℃)、酸化状態、低水分(四〇〜五〇%)を好むコウジ菌によって、有機質肥料のデンプンをじっくり分解し、ブドウ糖や乳糖などの糖に変えていきます(糖化作用)。
第二段階・分解作用…納豆菌
 温度が五〇℃以上になるとコウジ菌などの糸状菌は死滅し、高温(二五〜七〇℃)を好む細菌の納豆菌が優勢となって、アルカリ性の強力な分解酵素を出して、タンパク質をアミノ酸に、脂肪を脂肪酸やグリセリンに分解します。分解しにくいセルロースやリグニンなどの多糖類もブドウ糖や単糖類に分解します。温度は七〇℃くらいまで上昇します。
第三段階・乳酸とアミノ酸
合成作用…乳酸菌・酵母菌
 切り返しを数回行なううちに発熱が少なくなり、醤油のようなアミノ酸臭がしてきて色も暗褐色になりサラサラしてきます。温度が三〇〜四五℃になると、乳糖などの低分子糖類をエサにする乳酸菌が繁殖してくる環境になります。乳酸菌は盛んに乳酸などの有機酸を分泌するので、発酵材料のpHが低下し酸性になってきます。するとそれまで繁殖してきた中性から微アルカリ性を好む納豆菌の活動は衰え、雑菌の侵入をも阻みます。酸性化が進み(pH四・○〜四・五)、温度がさらに二七〜二六℃まで下がると、単糖類を好む酵母菌の繁殖環境にな
ります。酵母菌を、あらかじめ砂糖水で増殖させて、この段階で発酵材料に混入します。
 酵母菌は乳酸菌と同じく酸性を好む条件的嫌気性菌で、酸素のない状態では盛んにアルコールをつくり、酸素がある状態では盛んに増殖し、乳酸菌と共同して有機ミネラル化合物をつくると同時に、無機栄養も摂取して菌体内でアミノ酸やタンパク、ビタミン、酵素、核酸など植物に活力を与える有機栄養を合成します。酵母菌は三〇℃以下の低温を好むのでときどき切り返して薄く広げて温度を下げ、酸素を補給します。
 これで三段階発酵させた芳醇発酵肥料の完成ですが、匂いの変化からみると、最初はコウジ菌による糖化作用による甘酒臭、次は納豆菌によるタンパクがアミノ酸に変わる醤油臭、最後に乳酸菌と酵母菌によるお酒臭の三段階に変化して完成します。第三段階は、つくり方にもよりますが低温で発酵するため、普通二カ月かかります。
 また、酵母菌が増殖すると強酸性となり最後は酵母菌も自滅していき、さらさらに乾燥してきて放線菌が繁殖してきます。放線菌は難分解性のリグニンなどを分解し、抗生物質をつくります。

野菜を活性化させる
発酵肥料の効果
発酵肥料で変わる野菜の育ち方

薄上 発酵肥料を元肥や追肥に施した野菜は、化学肥料で無機栄養を吸収したものとは育ち方が違い、以下のような育ち方をし、おいしさ、品質も栄養も格別のものがとれます。
・根の伸張が速く根毛群が発達
 どの野菜でも発酵肥料を施すと、根の発育が極めて早くなります。とくにキュウリやトマトなどの果菜類は顕著です。
・節間が詰まり、小型で肉厚の葉
 茎葉の形態も違ってきます。茎の節間が短くなり葉が肉厚で小型になり上向きに立ってきます。
・活性が高まり生殖生長が強くなる
 夕方から朝方には葉先から露が出る溢泌現象が激しく現われ、体内の活性が高くなります。
・微量要素欠乏や生理障害の発生が少ない
 発酵肥料に切り替えたとたんに微量要素欠乏や生理障害の発生がなくなります。
・果菜類では果梗が太くなる
 とくにトマトに顕著に現われ、果梗が太くなり、着果がよくなり肥大もよくなります。
・収穫物のテリ、糖度が高まり日もちがよくなる
 果菜類はもとより、葉茎菜類、根菜類を問わず、収穫物に光沢(テリ)が出て、日もちがよくなります。甘さが重視される野菜は確実に糖度が高まり、日もちも顕著によくなります。
・耐病性が高まる
 発酵肥料の微生物は土壌中で繁殖して土壌病害菌の繁殖を抑えます。そのため樹勢がよくなり耐病性が強まります。
・作物体内の代謝を活発にする
 有機栄養で吸収されると、養分の合成、転流、蓄積などの代謝がスムーズにすすみます。化学肥料の場合、アミド態のチッソが体内にたまりやすくなり、それを好む病害虫に冒されやすくなります。

土壌もだんだん軟らかくなり肥えていく

薄上 発酵肥料を施すと土壌の微生物が豊かになり、団粒構造が発達するため、だんだん深くまで軟らかくなり、通気性や水はけがよくなってきます。私の畑はカチカチの鍬も刃が立たないほどの土でしたが、発酵肥料を施すにつれだんだん軟らかくなり色も黒っぽくなってきました。土がバランスをくずすことなく肥えてきます。発酵肥料を施すにつれ、畑自体が発酵場となって、米ぬかなどの有機質肥料を表面に播くだけで、四季の微生物遷移のなかで自然と発酵してくるようになります。

発酵材料の選択〈台所の生ごみも貴重な発酵肥料材料〉

薄上 台所から毎日出る生ごみ。ダイコンやニンジンなどの根菜類の葉や皮、キャベツやハクサイなどの葉色が濃い外葉、メロンやスイカ、リンゴ、ミカンなどの皮や種子部分、さらに卵の殻や魚の骨や内臓などなど。これらはマズイ、カタイなどの理由から食べられずに捨てられていますが、白米よりも米ぬかのほうがタンパクやミネラルが豊富であることと同様に、栄養分は食べる部分以上に含まれています。
 お茶も同様で、食材のなかでは飛び抜けて栄養価が高い飲みものですが、お湯で一、二度抽出しただけではそれほどお茶に溶け出ず、茶がらのほうが多く栄養分が残っています。茶がらを少し放っておくとすぐに白いカビが生えてくることからもそれがよくわかります。
 このほか、食べ残しの残飯や料理、味噌汁、古くなった牛乳、煮干しやカツオ節の出しガラ、廃油などなど、いずれも有機質肥料と比べても栄養たっぷりです。これらは、昔はブタや牛、馬のエサとなり、その排泄物はワラなどといっしょに積まれ発酵し堆厩肥として、田畑に還元されていました。そして再び野菜や米や果物となって台所に戻ってきたものです。昔は自然に行なわれていた微生物を介したこのような循環こそ、地球全体の環境問題が深刻になっている現在、取り戻していきたいものです。
 さらに台所で毎日生ごみ発酵肥料をつくっていると、発酵を司るコウジ菌、納豆菌、乳酸菌、酵母菌の胞子などの善玉菌が活発に浮遊し、悪玉菌の増殖・侵入を阻止するので、伝染病の予防にもなり、人間も健康になります。

発酵微生物の種類と入手法

薄上 発酵肥料をつくる主力の発酵微生物は、コウジ菌(糸状菌)、納豆菌(細菌)、乳酸菌(細菌)、酵母菌、放線菌など、生きている細胞には侵人しない死物寄生菌です。発酵肥料づくりでも、これらの発酵菌を段階ごとに投入して、増殖を促し、発酵を進めます。
・コウジ菌
 麹屋さんや味噌・醤油を製造販売している店から譲ってもらうとよいでしょう。
 甘酒用や大根などのこうじ漬け用にスーパーなどで市販されている「こうじ」は、コウジ菌体ではなく、米・麦などに繁殖させたもので菌体数が少なくそのままでは増殖力が弱いので、使う前に一度、薄い黒砂糖液を散布し活力を高めてから、米ぬかで増殖してタネ菌とするとよいでしょう。
・酵母菌
 酵母菌(イースト)はコウジ菌以上に低温を好み、最適活動温度は二六〜二七℃。最適pHは四・〇〜四・五で、水分もコウジ菌よりも好みます。また、エネルギー源としては、コウジ菌以上に単糖類を好むので、増殖させるには、砂糖を加えてやることが秘訣です。
 発酵肥料つくりには、スーパーなどでも売られているパン用酵母菌(イースト菌)が入手しやすいでしょう。
・納豆菌
 市販の納豆を米ぬかに混ぜれば簡単に増殖できます。
・乳酸菌
 乳酸菌が生きているヨーグルトやぬか味噌漬けの米ぬか床を代用してもよいのです。

タネ菌の培養法

薄上 培地はそれぞれの繁殖条件に調整した米ぬかでコウジ菌、納豆菌、乳酸菌、酵母菌を培養して保管しておけば、毎回購入する必要はありません。
 菌を培養する培地は、どの菌でも米ぬかに微生物の大好物の砂糖を混ぜるだけで十分です。ポイントは、培地を菌ごとに好むpH、水分に調整することです。
・まず、米ぬか六〇〇ccを淡いキツネ色になるまで煎り上げ殺菌する。そして、コウジ菌用、納豆菌用、乳酸菌・酵母菌用二〇〇ccずつ三つに分ける。
・酸性・乾燥を好むコウジ菌(カビ)の培地には、砂糖四〇グラム、食酢(または木酢)二〇ccを混合する。
・アルカリ性・多水分を好む納豆菌(細菌)の培地は、砂糖四〇グラム、木灰四〇グラム、タンパク質やミネラルが豊富な味噌汁を人が飲む二〜三倍に薄めたもの三〇〇ccを混合攪拌する。
・酵母菌や乳酸菌の培地には、砂糖六〇グラム、水三〇〇ccを混合攪拌。
・それぞれに市販の種菌三種を加えて混合攪拌し、新聞紙や古タオルなどを被せて直射日光の当たらない薄暗い部屋に放置する。
・一週間後には肉眼で見えるくらいにそれぞれの菌のコロニーが確認できる。
・発熱しコロニーが全面に拡大してきたら、生の米ぬかを加えて攪拌し拡大培養していく。
・それぞれ、何回か攪拌し発熱しなくなったら、自然乾燥させて水分を二〇%以下にして布袋に入れ、冷蔵庫か涼しい暗い部屋で貯蔵する。貯蔵期間は六カ月以内。

台所でつくる発酵米ぬか

薄上 菜園の面積が一〇〇平方メートル(三〇坪)くらいなら、年間に使う発酵肥料は四〇〜一〇〇キロもあれば間に合うので、台所の隅か庭の片隅でつくることができます。台所などでつくる場合は、米ぬか主体の発酵肥料がおすすめです。米ぬかは、非常に微生物が好み、しかもチッソ分が少ないため、悪臭が発生しにくいからです。

生ごみ利用の米ぬか発酵肥料
〈生ごみを米ぬかに混ぜ、納豆菌で発酵させる〉

薄上 台所から毎日出る生ごみは、前述したように栄養分が豊富な有機質です。生ごみも野菜と同様にまだ細胞が生きており、分解しにくいセルロースやリグニンが多いため、原形がわからなくなるまで分解することはできません。生ごみを分解・発酵させるには、本格的な発酵肥料の第二段階で活躍する分解力の強い納豆菌の力を借りる必要があります。納豆菌の発酵では七〇℃もの高温になるため、生ごみが腐敗しやすい夏でもよく発酵しつくりやすいのです。
〈米ぬかにモミガラ、納豆を混ぜて元種をつくる〉
 まず、発泡スチロール箱か漬物用のポリ容器(二〇〜五〇リットル)に、米ぬか一五キロを入れ、そこにモミガラ一リットルか市販の納豆一パックをいれて混合します。モミガラには納豆菌がついているので、どちらか一方で構いませんが両方入れてもよいでしょう。
 よく混ぜたら、熱湯五リットルを注ぎながらよく攪拌します。納豆菌は好気性菌で酸素を好み、また後から混ぜる生ごみに水分が多いので、最初の米ぬかの水分はやや少なめにします。布か新聞紙でフタをし一晩おくと、六〇〜七〇℃にも発熱し盛んに納豆菌が繁殖し始めます。中性からアルカリ性を好む納豆菌は、弱酸性の米ぬかでは最初は繁殖しにくく、発熱が思うようにいかない場合があります。そのようなときは、木灰か消石灰を一握り(五〇グラム)加えて攪拌するとよいでしょう。
〈生ごみは細断して毎日加え攪拌し、原形がわからなくなるまで発酵〉
 発熱してきたら、この米ぬか納豆菌の元種に、野菜くず、残飯、味噌汁、古くなった牛乳、茶ガラ、果物の残り、料理の食べ残り、天ぷらなどの廃油など、台所から出るすべての生ごみを出るつど加え混合し、毎日攪拌します。野菜くずなどはよく水を切り、できるだけ細かく細断して入れます。発熱が思うようにしないときは、元菌づくりのときと同様に、木灰か消石灰を一握り(五〇グラム)加えて攪拌するとよいでしょう。
 生ごみを毎日加え攪拌していくと、生ごみの水分が溶け出て水分が多くなってきます。水分が多いと納豆菌の繁殖が鈍くなり腐敗菌が多くなってしまうので、ときどき米ぬかを加えながら、常に水分五〇〜七〇%程度のパサパサした状態を保つようにします。容器の底を二重底にし、余った汁が底に溜まるようにしておくと水分調整がしやすいでしょう。溜まった汁はそのつど抜いて、一〇倍程度に薄めて液肥として利用します。放っておくと悪臭を放ちます。
〈容器がいっぱいになったら
畑の隅で拡大再発酵〉
 容器がいっぱいになったら、庭や畑の隅にシートを敷いてあけて攪拌し、新聞紙を全体に被せてシートで覆って発酵を続けます。発熱するつど攪拌すると、生ごみの原形がだんだんわからなくなりサラサラしてきて、発熱しなくなります。発熱しなくなったら完成で、前述の発酵米ぬか肥料と同様に施用できます。
 また、シートにあけたあと、米ぬか三〇キロに水一〇リットルを加えて攪拌したものを、発酵中の生ごみの上に包むようにのせると、発酵中の生ごみが元種となって拡大発酵させることができます。二〜三日後にはのせた米ぬかも発酵し発熱してくるので、四〜五日おきに攪拌します。発熱しなくなったら完成です。 

発酵肥料で育てる健康野菜
健康菜園の作付け計画年中切らさずつくりたい葉っぱ類〈ミネラル、ビタミンが豊富な葉っぱが健康菜園の主役〉

薄上 現代病の原因は、ミネラル、ビタミンの不足、アンバランスです。それは肉食が多くなるなど食生活が欧米化したことにもよりますが、野菜など食物そのものにミネラルやビタミンが欠乏してきたことが大きいのです。化学肥料偏重栽培となったため、カルシウム欠乏、マグネシウム欠乏、亜鉛欠乏、さらには無機の硝酸、亜硝酸、アミド態タンパクがたっぷり蓄積した野菜がほとんどになってしまったからです。野菜の体内でタンパクやアミノ酸にまで合成できずに蓄積した硝酸、亜硝酸やアミド態のタンパクは、発癌物質だといわれています。
 自分や家族の健康のための健康菜園では、ミネラルやビタミンが豊富な野菜が主役です。一般に家庭菜園の人気野菜はトマト、キュウリ、ナスなどの果菜類ですが、ミネラルやビタミンが豊富な野菜は、コマツナ、シュンギク、ホウレンソウ、菜花、シソ、ブロッコリー、カブ(葉)などの緑黄色葉菜です。これらには腸内微生物のエサとなる食物繊維も多いのが嬉しいです。とくに、ミネラルのうちでも亜鉛は多くの酵素の働きをパワーアップする重要なミネラルです。また、銅も亜鉛に次いで活性酸素分解酵素などの酵素を活性させる力が強いのです
。微生物がつくったミネラル有機化合物を含んだ発酵肥料でつくった野菜には、安全でバランスのよいミネラルが豊富に含まれています。野菜のなかでもこのミネラルが抜群に多い葉っぱ類こそ、年中切らさずつくって食べたい健康菜園の主役です。
 種の安いアブラナやコマツナを主体にするか、自分で種を採取すれば、気楽に混播できます。
 密にまくと野草も発生せず、草生マルチのように土壌の微生物を保護する効果もあります。ダイコン、キャベツ、ハクサイなども春はこのような葉っぱ類としてバラまきしたり、この葉っぱのウネの中にスポット状に作付けすると害虫も葉っぱについてこれらにはつかなくなります。たいていは近所におすそわけしても余るため、次のまき時期がくると刈って敷わら代わりにしたり、堆肥代わりに埋め込みます。ミネラルやビタミンが豊富な葉っぱの残渣は、微生物も大好物です。
 夏は暑さに強いパクチョイ、フダンソウ、チンゲンサイなどがおすすめです。冬は寒さに強いホウレンソウ、シュンギク、コマツナ、カラシナなどがおすすめです。初夏からは亜鉛が抜群に豊富なブロッコリーが欠かせません。同じくシソも亜鉛が豊富で梅漬けばかりでなく、芽ジソ、穂ジソ、実ジソを晩秋まで楽しめます。

豆類やネギ類も年中〈春から秋はサヤマメ、冬は豆もやし〉

薄上 必須アミノ酸を摂取するために欠かせない豆類も健康菜園では重要な野菜です。豆類には良質のタンパク質だけでなく、亜鉛などのミネラルや食物繊維も多いのです。狭い家庭菜園では味噌用の大豆はできませんが、エンドウ、インゲン、エダマメなど、生育中にサヤごと収穫する豆類をできるだけ切らさないように作付けしています。
〈解毒作用の強いネギ類も年中切らさず間作栽培〉
 イオウ分が多く抗菌殺菌作用が強いネギ類も欠かせません。アデノシン三リン酸の代謝が活発になるので、身体が温まり風邪にも強くなります。ネギ類にはイオウばかりでなく酵素を活性化させる亜鉛や銅も多いのです。発酵肥料でつくると病気も出ず、甘味や辛みが増しておいしくなります。
 タマネギは九月にまいて十二月ころから葉タマネギとして間引きながら収穫し、ネギは三月にトンネルにまき五月に植えて、夏から秋は葉ネギ、冬は土寄せした根深ネギを食べます。ニンニクも十月末にまき、間引きながら食べ翌年の五月下旬に収穫して保存しておきます。ニラは春から夏に一度まいておけば、春から晩秋まで毎年いつでも食べられます。

漬物野菜やビタミンCを補給するカンキツ類

薄上 そのほか、カロチンが多い緑黄色野菜のトマトやニンジン、ぬか漬けなどの漬物用に欠かせぬキュウリ、ナス、ダイコン、ハクサイ、食物繊維が多いジャガイモやサツマイモ、サラダに欠かせぬキャベツやレタス、春のビタミンCのイチゴ、甘い夏から秋のトウモロコシなどなど、ひととおりのものは作付けしています。また、夏の緑黄色野菜としては、ツルナ、ツルムラサキ、モロヘイヤなど、ネバネバしたものがおすすめです。ネバネバはタンパク質をつくるペプチドで静菌作用があるとともに、夏バテ回復に効果があります。
 さらに、私は畑の周囲部分に、梅、ユズやミカンやキウイフルーツ、カキなどの果樹を植えています。これらは、ビタミンCの補給に大変貢献しています。果樹の下には、ミツバやミョウガ、フキなどの半日陰を好む多年草の野菜をつくります。
〈葉っぱ類は混播バラまき栽培〉
 ウネに主力の野菜を作付けし、雑草が二〜三センチに伸びるころに、前述したように混合した葉っぱ類の種子をバラまきます。葉っぱ類の生育中に、その中にキャベツやレタス、ハクサイなどの苗を植えることもあります。混植栽培は、極めて省力的で狭い畑を一〇〇%以上に有効利用できるばかりでなく、次のような相乗効果を発揮してくれます。
〈野菜が一面に覆い、野菜マルチ効果を発揮〉
 最初の発酵肥料の表面散布で表層の野草の種子のほとんどが発芽してきます。その後に葉っぱ類を散播し、除草と覆土を兼ねて土寄せをします。その後は葉っぱ類にウネや通路がマルチされてしまうので、野草の発生が大変少なくなり、その後の除草が必要でなくなります。葉っぱ類が一面に生えるとマルチをしなくても乾燥しなくなり、保水力が高まります。土壌に紫外線が当たらないので微生物も地表面まで生息でき、急激な地温の上昇も防止できます。降雨による土壌のはね返りや侵食も防止でき、土壌病害も軽減し、野菜の生育もよくなります。
 マルチはビニールやポリマルチでもよいのですが、微生物の活力を維持し根を自然に保護するには自然に見習い、落ち葉や腐葉土、イナワラなどでマルチするのがもっともよいでしょう。しかし材料が入手しにくかったり経費や労力がかかります。その点、葉っぱ類マルチなら、手間も経費もかからず収穫もできます。
〈葉っぱ類が天敵を呼び、害虫害が少なくなる〉
 葉っぱ類はアブラナ科の野菜が多いこともあって、害虫がよく集まってきます。害虫がよく集まってきますと、これをエサにするクモ、ハチ、トンボ、カマキリ、カエルなどの天敵に昆虫や小動物、さらに野鳥も集まってきます。そうすると自然に畑全体に害虫が少なくなってきます。実際に始めた当初は病害虫に困ったときもありましたが、四年目からはなにもせずとも無農薬で問題なく収穫できるようになりました。