発酵肥料で健康菜園

"健康野菜”でハウス病による現代病を克服(前編)

薄上発酵技術研究所所長 薄上秀男先生

瀕死のハウス病(農薬中毒)から命を救ってくれた「微生物発酵肥料農作物」

 薄上先生は約30年前、福島県の農業研修場で野菜のハウス栽培の試験中、いわゆるハウス病(農薬中毒)で倒れました。つけられた病名は肝不全、腎不全、高脂血症、糖尿病、痛風、心筋梗塞など、現代病といわれるほとんどの病の合併症でした。さらにがんともいわれ、医師から見離された先生は、医学から栄養生理学の書までひもとき、無我夢中で病気の原因と処方を模索。その結果、これら現代病は"ミネラルやビタミンの不足とアンバランス”に由来すると、気づかれました。
 ミネラルやビタミンは、生命活動の全ての代謝を日夜司る酵素の構成要素であり、この酵素の働きが低下すると、全ての内臓の代謝機能が弱り、免疫力も低下し、病になるというのが、先生が自身の命を賭して得られた結論です。
 農作物、特に野菜は昭和40年代頃から産地化・施設化が進められ、堆肥主体の栽培法も化学肥料や農薬依存に変質してきました。薄上先生はその時代、まさにそれを推進する側の農業指導者のお一人だったのです。
 しかし、その方針が貫徹されるにつれ、農地はマグネシウムやカルシウムなどのミネラル欠乏症を起こし、さまざまな土壌病害、連作障害が発生しました。つまり、人間に先行して、食物である農作物にビタミン・ミネラル欠乏が発生していたのです。
 先生は病に倒れる前からその弊害に気づかれ、有機肥料を微生物で発酵させた「発酵肥料」を農家にすすめるようになりましたが、農薬と化学肥料の害が自身の身体に深刻なレベルで及んでいたことを悟ったとき、大きな衝撃を受けられたのです。
 発酵肥料を施した・健康野菜・でピンチを脱出。医者も不思議がるほど回復された薄上先生に、ご自身の体験を通して到達された「発酵肥料農業」と、家庭菜園でも応用・実行できる方法についてお伺いしました。

ハウス病で五臓六腑はズタズタ
──ハウス栽培の試験で肝・腎はじめ全身がおかされる──

薄上 私は昭和46年、福島県の農業研修場のハウスで栽培試験を担当するようになりました。
 ハウス内ではきつい作業の連続でした。真冬でも日中は40℃を超え、サウナ同然の高温多湿になるときもあり、ハウスの中で汗をかいて疲れた状態で急に外に出ると、風邪を引きやすく、これが繰り返されるうちに体の生理が狂い出し、ついには五臓六腑が変調をきたしてその機能が果たせなくなったのです。
 ハウス内では年間を通じて、化学肥料や農薬が何回も使われます。それが地表面に集積し、作物はそれを吸収して葉から蒸散します。ハウス内はアンモニアガス、亜硝酸ガス、さらに農薬に含まれている重金属ガスなどが濃度を高めながら充満します。
 これらが知らず知らずのうちに、口や鼻から吸収され、また肌に付着すれば皮膚を通して吸収され、五臓六腑をめぐり、骨や肌、脳に蓄積するのです。これが農薬中毒症を伴った「ハウス病」にかかる仕組みです。
 その兆候は2年目にして私の体にも現われ、めまい、寒気、吐き気、頭痛など数多くの不快な症状が始まりました。3年目の昭和48年には、体全体に農薬中毒による赤い斑点が発生。激しい頭痛に二昼夜襲われ、歯が上下とも浮き上がり、一斉に抜けてきました。心臓部には焼き火箸を刺したような強烈な痛みが2回走りました。
 病院での診断は手の施しようもない「ハウス病」(正式にはそのような病名はなく、農薬中毒による慢性腎臓病のネフローゼ症候群)と診断されました。
 栄養物や薬物などの分解・合成・解毒・転移などの機能を担っている肝臓にも、過剰な負担がかかり、黄疸症状が現われ、回復の見込みのない肝不全、肝硬変となり、肝臓は握り拳大に小さくカチカチになってしまいました。
 肝不全により解毒力が低下したせいで、吸収された化学肥料や農薬などの毒成分が直接、腎臓に負担をかけたと思われます。腎臓の糸球体や尿細管が傷められ、尿にタンパクが出て、余分な水分が排出できなくなり、むくむ──という典型的な腎不全、ネフローゼ症候群になりました。
 その上、ときどき不整脈が出る心不全になり、さらに膵臓のランゲルハンス島から分泌されるインスリンの量も少なくなり、一過性の高血糖もみられ、糖尿病も発症寸前。中性脂肪とコレステロールが高く、尿酸値も異常に高値でした。
 頭には円形脱毛症、難病の一つ「ナルコレプシー(嗜眠症)」も後に判明するなど、五臓六腑の全てが悪化した、全身病でした。医者から「手の施しようがない」とサジを投げられたときのショックは大きかったです。

ギンナン療法とドクダミで腎臓の機能を回復

薄上 不思議なもので、どん底に突き落とされると、「そうだ!病気を治してくれるのは医者でなく、自然治癒力である」と思うようになったのです。
 人も自然界の一員であり、その自然と同化して、知力・気力・体力を高め、自らの努力で健康を取り戻すより外に方法がないと思ったのです。今から考えると、医薬漬けにされるより、その方が良かったのです。
 最初の努力目標はすぐに決まりました。せっぱ詰まった状態にある腎臓と肝臓の機能の回復、特に毒素や尿を排出できなくなっている腎臓機能の回復が先決だと思いました。
 放置しておけば尿毒症になるという危機感で、私は医学書をひもとくと共に、良いといわれる方法は次々と実行しました。
 漢方薬に希望を抱いて漢方薬局を歩き、処方してもらいましたが思うような効果は上がらず、またドクダミ、スイカ、キササゲ等、民間薬も良いと聞けばそれを探し求めて煎じて飲みましたが、どれも効果は今一でした。
 思い余って実家の母に電話で相談したところ、ギンナン療法が良いと教わり、早速実行してみました。生のギンナンをハチミツと共にミキサーにかけて飲むのです。作り方は簡単ですが、実に飲みにくい。しかし、これで助かると思えば、人間何でも飲めるものです。但し、このギンナン療法は、体重に応じてギンナンの数量を決めることが極めて大切で、量を誤れば命にもかかわり、また長く飲み続けるものではないともいわれました。
 ギンナン療法の効果は抜群でした。飲んで2〜3時間すると排尿を催し、これほど出るかと思うほど一気に出たのです。むくんだ体から一気に水を絞りとったようでした。
 ギンナン療法は毎日1回実施、3〜4日後には腎臓機能の回復を感じられたため、ドクダミ療法に切り替えました。ドクダミは花が咲き始めたときに採取して陰干しし、細かく切って保存し、1回に3つかみほど土瓶に入れ、半量になるまで煎じたものを1日3回、食後に飲みます。すると以前は効果のあまりなかったドクダミでしたが、今度ははっきり効果がわかるようになったのです。このときの喜びは一入で、「薬効は、同じ病気でも発症の原因と病気の程度によって、その効果に差がある」ということがわかったわけです。

回復につれ、食欲も回復
3年間の食事療法でハウス病を克服
──ビールから味噌汁、味噌雑炊、普通食へ──

薄上 ハウス病になり始めて、だんだん食欲もなくなり、御飯と味噌汁と漬物以外は欲しくなくなってきました。急に味覚が変わり、食べるとよく嘔吐していました。大好きだったアルコール類は赤玉ポートワインでさえ飲めなくなり、最後は養命酒さえも嘔吐するようになったのです。
 不思議なことに、ビールだけは受け付けました。ギンナン療法を行なっていた頃はビールだけが命綱でした。私はビール酵母の細胞内に含まれる必須アミノ酸やミネラル、酵素、ビタミンなどを摂取しようと、ビールをすり鉢ですって飲んだものです。すったビールは不味いものでしたが、これを飲むと少量ですが小便が出ました。
 ギンナン療法で排尿が多くなると、大豆を微生物で発酵させた味噌汁が欲しくなり、上質なタンパク質を含んだ豆類を欠かさず食べるようにしました。
 味噌汁には徐々に具の種類を増やし、それに少しずつご飯を加え、雑炊の流動食にしていきました。
 普通のご飯が食べられるようになったのは、ビール以外は口にすることができなくなってから4ヶ月後。以後、腹八分目にして、以前のようにガツガツでなく、ゆっくりと食べるようになりました。
 御飯は実家から取り寄せた胚芽米、味噌は手作り、汁の実は自家用菜園で発酵肥料で作った野菜を中心に必ず山、海、里の産物を組み合わせ、おかずは野菜、肉、魚、卵、海産物、海草類、山菜と何でもとるようにしました。
 三度の食事に必ず添えたのは、発酵食品の漬物や梅干し、ラッキョウ、それにゴマ塩。食後はお茶に果物、中間に豆乳と青汁。この食事療法を3年間続けたのです。
 毎日朝、食前4km速歩の運動療法も3年間続けました。1年目で黄疸がなくなり、身体は徐々に回復してきました。

糖尿病の克服でわかったミネラル・ビタミンの相互作用
──単身赴任で糖尿病に──

薄上 3年間かかってハウス病を克服したものの、私の病気との闘いはそれだけでは終わりませんでした。
 昭和62年、福島県喜多方農業改良普及所長として転勤を命じられ単身赴任し、盛り沢山の事業で毎日多忙を極めたものです。
 糖尿病が発症したのはその2年目の暮れでした。
 病院で血糖値を測ると何と約700(正常参考値70〜110)。即入院といわれましたが、いわき市の自宅に戻り、主治医と相談。ここでも入院をすすめられましたが、食事と運動療法を必ず守ると約束し、自宅療法をすることにしました。
 単身赴任になってから、ハウス病克服のために続けていた食事療法はガタガタに崩れ、会議の連続、食事は着色料や保存料いっぱいの仕出し弁当や出来合いの食事、加えて宴会に明け暮れる毎日。糖尿病を発症しない方がおかしかったというところでしょう。
 糖尿病は昔から肥満が原因だと聞いていたので、当時70kgを超えていた体重を60kgを目標に、1日の摂取カロリーを1600キロカロリーに定め、酒を控え、タンパク質、炭水化物、脂肪、ビタミン、ミネラルを考慮して、朝・昼・晩平均にとるように努力しました。
 運動療法は、足の感覚がなくて普通には歩けなかったので、幸い近くにある常磐ハワイアンセンターの50mの温泉プールで歩きました。
 その甲斐があって、約1週間で指先の感覚が戻り、3ヶ月後には体重も目標値近くなり、あれほど高かった血糖値も食後1時間の高いときでも200を割るようになりました。
 こうなると人間、欲が出てくるものです。「糖尿病は一生治らない。友達として上手につきあいなさい」といわれていたことをすっかり忘れ、なんとか完治させようといろいろな文献をあさりました。
 糖尿病と関係のある栄養素は、ビタミンではA、E、B1、B2、B3、B5、B6、B12、C、Q、ミネラルはカルシウム、亜鉛、マンガン、クロム、イオウ、アミノ酸はリジン、トリプトファン、スレオニン、バリン、イソロイシン、ロイシン、フェニールアラニン、メチオニンであることがわかりました。
 その中でも特にビタミンB6、C、ミネラルの亜鉛とクロムが重要なことを知ったわけです。
 この他、食物繊維が重要であることを知り、玄米食を主食に具沢山の味噌汁などの献立にして、血糖値は急激に低下。最高が120前後、最低が90以下とほぼ平常値になりました。
 人間の糖尿病の場合も亜鉛、クロム、ビタミンの三つを同時に摂取することが重要であることがわかったわけです。健康は、必要な栄養素をバランスよく摂取することが大切で、一つでも欠けたり、一つでも過剰に摂り過ぎたりすると欠乏症や過剰障害となって不健康な身体になると考えられます。

生命の源である「核酸」摂取の重要性

薄上 また、遺伝情報を構成する核酸(DNA、RNA)は、これらの酵素の生成、働きを制御する生命の源です。
 DNA、RNAを酵素によって切り取り、組み替える「遺伝子組み替え」が問題となっていますが、全ての生き物は環境に適応するために、遺伝子情報を自ら常に調整活性化しているわけです。
 健康を維持していくためには、この核酸の正常な働きを維持していくことが大事です。そのためには良質の必須アミノ酸と共に、栄養素として活性の高い核酸を摂取することが、重要になってくると思われます。

主食はミネラル・繊維が豊富な「玄米」・「胚芽米」

薄上 闘病生活では、主食(エネルギー源となる炭水化物)は、先祖様が利用したと考えられる玄米食としました。
 病気が回復するにつれて、五分搗き、七分搗きの胚芽米にしました。白米の表層を覆う米糠や胚芽には、カルシウム、マグネシウム、銅、亜鉛などのミネラル、酵素やビタミン、さらには、有機酸や核酸などの生理活性物質が沢山含まれているからです。これらは、まさに現代病(生活習慣病)を予防する上で欠かせないものです。
 また、白米は死んでいますが、玄米は炊く直前まで生きているので、細胞の酸化を防ぐ抗酸化力が強いわけです。抗酸化力の強い食品を摂れば、人間も病気に対する抵抗力が高まります。
 さらに、玄米は食物繊維が豊富です。食物繊維は直接人間の栄養素にならないために軽んじられ、昔と比べて摂取量が少なくなりました。しかし、腸内の消化活動のなかでは次のような重要な働きをしています。
・腸壁を刺激し、胃腸の運動や消化酵素の分泌を促し、排便を促進。
・腸内微生物の棲みかや栄養源となるため腸内微生物がよく繁殖し、分泌される各種の酵素によって人体に必要なビタミンや必須アミノ酸(有機酸)が合成され、ミネラルも吸収しやすい形に変えられる。
・有害物質や毒性の金属、さらに過剰の糖分、塩分、油脂分を吸着し、胃腸での吸収を抑える。
・胆汁酸の再吸収を抑えて、血中コレステロールの量を減少させるともいわれています。
 玄米を研ぐ前に、ミキサーに数秒間かけると吸水しやすくなって便利です。水は白米の2倍量にし、1回に2日分、2合程度の玄米を普通の電気釜で2度炊きしました。
 玄米は食欲中枢の活動を抑制しますので、無理なく自然に少食となり、肥満予防やダイエットにはもってこいで、生活習慣病対策の出発点は玄米食だといって良いと思われます。できるだけ、安全な無農薬栽培の玄米を使いたいものです。

タンパク質は大豆とその発酵食品で

薄上 米にはタンパク質も多く含まれていますが、タンパク質の摂取源としては大豆や小魚も選び、少量でも毎日摂りたいものです。
 タンパク質は生命体の構成要素の中心をなすもので、非常に重要です。赤血球も白血球も、神経伝達物質もホルモンも酵素も全て、タンパク(一部ペプチド)です。不足すると、新陳代謝や知的感覚も鈍り、老化を早めます。摂取量は減らしても毎日摂らなければならないものです。
 注意したいことは、肉類などの酸性食品を多く摂ると身体が酸性化しやすいことです。特に歳をとるにつれ酸性化しやすいのです。身体が酸性化すると、カルシウム、マグネシウムなどの多くのミネラルが体外に出ていきやすくなります。酸性体質化が極度に進行すると、いわゆる老人病といわれる骨粗鬆症をはじめ、現代病の代表である糖尿病、高血圧、心筋梗塞、アトピーなどを誘発しやすくなるわけです。
 酸性化を防ぐには、できるだけアルカリ性の食品でタンパクやその他の栄養分を摂り、特に高齢になるほど、肉類は控え目にし、大豆や大豆製品、小魚で摂りたいものです。小魚は酸性食品ですが、腸内発酵後はアルカリ性で吸収されます。
 私が大豆にこだわるのは、大豆には非常にすぐれた栄養分がバランスよく含まれているからです。
・免疫力を高める
 味噌、醤油、納豆などの重要な発酵食品だけでなく、豆腐、油揚げ、黄粉、打ち豆、凍み豆腐、オカラ、湯葉、はるさめ、豆乳など、大豆からできた多くの伝統食は、免疫力を高めるためにも重要です。
・老化、高血圧を防ぐ
 大豆には良質のタンパク質が豊富に含まれ、新陳代謝を活発にし老化や現代病を防ぐ効果が高いのです。ただ、イオウ分を含んだ含硫アミノ酸が少ないので、これを含んだ米と食べ合わせることによって欠点を補えるわけです。
・良質の脂肪を含む
 豆類には良質の脂肪が多く含まれています。脂肪は糖類とタンパク質から合成されますが、人間の体内では合成できない脂肪酸は20種類以上あるといわれています。中でもα|リノレン酸は重要で、喘息(アレルギー)や心筋梗塞の発症予防に効果があるといわれています。大豆にはこのα|リノレン酸も多いのです。さらに、大豆油には抗酸化力のあるビタミンEも含まれています。
 また、動物性の「脂」は血管内でどろどろとなって動脈硬化を起こしやすい欠点がありますが、植物性や魚の「油」はサラサラと流れやすく動脈硬化を予防する作用があります。
 私は肉を食べるような場合でも、前日に煮て一晩冷蔵庫の中に保存しておき、表面に白く固まって浮いてくる脂分を取り除いてから、料理するようにしています。
・食物繊維とミネラルが多い
 大豆には、不足しがちな食物繊維も多く、しかもカルシウム、リン、鉄、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、亜鉛、銅など、生活習慣病予防に重要なミネラルがバランスよく含まれています。

家庭菜園で、ビタミン・ミネラルを補給
──特に菜花を愛好──

薄上 残念なことに豆類にも、ビタミンは玄米と同様、少ないのです。
 私が闘病生活中に家庭菜園を始めた理由は、買ってきた野菜にはこれらのビタミン、ミネラルが少ないからです。
 発酵肥料を使って無農薬で作った家庭菜園の野菜には、ビタミン・ミネラルが豊富で、この健康野菜を毎日、たっぷり食べたかったからです。
 さらに花芽が分化し、蕾をもった野菜には、ビタミン、ミネラル分だけでなく、花粉などの生殖細胞には核酸や酵素が豊富に含まれています。
 この点から、私は緑黄色野菜の中でも菜花を特に重視し重宝しています。
 あの小さな蕾の一つには3万個以上の花粉の基ができ、一株では数億となっています。その数だけ核酸と関連酵素ができているわけです。野菜も花が咲くまで一部を残しておき、摘蕾をしながら次から次と伸びる腋芽の蕾を最後まで利用しているのです。

味噌などの発酵食品で酵素を

薄上 炭水化物、タンパク、脂肪、ミネラル、ビタミン、食物繊維の六大栄養素をほぼ万遍なく摂取をしても、それだけでは十分とはいえません。
 これらの栄養素が体内で分解したり、吸収されたり、合成されたり、変化したり、排出されたりするためには、その都度、タンパクからできた酵素が必要になるからです。
 酵素は人間の体内でも合成されますが、その合成能力は微生物が一番高いのです。酵素の種類は実に多いのですが、働きから分類すると、
・酸素や水素で、電子のやりとりのとき働く酸化還元酵素、
・化合物間で原子を移す時に働く転移酵素、
・水に溶かした環境で分解する加水分解酵素、
・化合物から反応基を除去する時に働く除去酵素、
・化合物の構造を変える異性化酵素、
・化合物の合成に関わる合成酵素──の6種類に大別されます。
 これらの酵素の働きによって、新陳代謝ができ、生命維持が可能になるわけです。また、酵素はミネラルを吸収しやすくし、無毒な形に変える働きもしてくれます。
 微生物が分解、合成することによってできる発酵食品(味噌、醤油、納豆など)には、酵素が多いのです。そのため、私は伝統発酵食品である味噌、醤油にこだわっています。
 私は味噌を自家製造し、材料となる玄米、大豆は発芽させてから煮て発酵させています。発芽する際に酵素ができて活性化するからです。それをさらに年間2回以上、新しい材料を加えて麹菌、酵母菌の活動を持続させて作る「連続醸造法」で作っています。しかも、寒さに向かう秋に追加するときは食塩を減量した減塩味噌とし、梅雨期に入る前には若干塩を加え、瓶をすっぽりポリ袋で包む「還元発酵方式」で熟成させて腐敗を防いでいます。
 この方式で作ると味噌は、色が褐色に変化しにくく、長い間黄色のままを保ちます。微生物の活力が高いために酸化されにくいからです。私はこの自家製味噌を「抗酸化味噌」と名付けています。
 そして、味噌汁の中身は、キノコなどの山のもの、海草などの海のもの、芋類など野菜の里のものの具沢山にして、毎食の度に摂るようにしています。
 緑黄色野菜の他に、家庭菜園で重視しているのは、ニンニク、ネギ、タマネギ、ニラ、ラッキョウなどのネギ類です。
 ネギ類には、イオウを含んだ酵素が多いのですが、これは解毒作用が昔から有名で、越後の毒消し売りもイオウ粉を丸めたものを毒消しと称した解毒剤として売り歩いていました。しかもそれを摂ることでエネルギー代謝を司るATP(アデノシン三リン酸)の活動が活発になり、エネルギー放出が速くなり、身体が温まるため、新陳代謝が旺盛になり病気の予防や回復力が高まるのです。
 自家製「抗酸化味噌」に刻みネギを入れ、熱湯を注いだものを飲むと、風邪の予防に抜群です。私は春はニラ、夏はタマネギ、秋はネギ、冬から早春はネギと葉タマネギで、ネギ類を年間食べられるように作っています。
 以上のような健康を保つ食事を続けるうちに、私は医者が驚き、教えを乞うほどの健康体になれました。
(以下次号に続く)