機能性成分の宝庫"大豆”大豆タンパクはアミノ酸スコア満点。

数多くの生活習慣病を予防・改善

熊本県立大学 菅野道廣学長

栄養的にも機能的にもこんなにも優れている"大豆”

 味噌・醤油・納豆・豆腐と昔から今も、日本人の食卓に欠かせない大豆。日本には弥生時代に伝わり、奈良時代には広く栽培されるようになり、平安時代にはすでに醤醢(味噌や醤油の原型)や納豆、豆腐などの加工食品として食べられていたといわれます。
 良質なタンパク質を豊富に含むところから「畑の肉」とも呼ばれ、お米と共に日本人の体力を培ってきた大豆は、ビタミンやミネラル、食物繊維など微量栄養素も豊富。最近では大豆の持つ様々な機能性成分(生理活性成分)が次々に解明されています。
 長年、大豆タンパク質の機能性について研究されてきた熊本県立大学の菅野道廣学長は「大豆ほど含まれている成分を徹底的に調べられた食品は少ない。大豆は機能性成分の塊といってもよいくらい素晴らしい健康食品」と絶賛されています。
 菅野先生に大豆のタンパク質を中心に、大豆の持つ多様な機能性成分、健康効果について伺いました。

優れた栄養食品 大豆の栄養価
アミノ酸スコアは満点。 脂質過剰の心配もない良質の「タンパク質」

──大豆はタンパク質が豊富なことがよく知られていますが、動物性タンパク質に比べるとアミノ酸スコアは少し劣るといわれていますね。
菅野 大豆以外の豆類は糖質(炭水化物)が主成分となっていますが、大豆の主成分はタンパク質で成分の約3分の1を占めています(図1・6頁表1)。
 これまで大豆タンパクは必須アミノ酸の中でメチオニンが少し足りないといわれ、そのため肉、魚卵、牛乳など動物性タンパクに比べてやや劣るとされていました。最近、メチオニンも十分であることがわかり、必須アミノ酸は全部必要量が揃って、大豆タンパクの栄養評価はアミノ酸スコアで満点とされています(図2)。
 ヒトのタンパク質は約20種類のアミノ酸で構成され、その組み合わせによって約10万種類のタンパク質があり、それぞれ重要な働きをしています。20種のアミノ酸のうち、体内で合成できず、食品から摂取しなければいけないアミノ酸を「必須アミノ酸」といい、ヒトではヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン・シスチン、フェニールアラニン・チロシン、スレオニン、トリプトファン、バリンの9種があります。
 タンパク質の栄養価は、この必須アミノ酸の量のバランスで評価され、必要量に比べて最も充足率の低いアミノ酸(第一制限アミノ酸)の数値が「アミノ酸スコア」になります。大豆のアミノ酸スコアがこれまで満点ではなかったのは、アミノ酸の必要量を、体毛増加にヒトより多くのメチオニンを必要とするラットの試験結果を参考にしていたからです(図2※)。
 大豆タンパクは脂肪やコレステロールのとり過ぎの心配もなく、高脂肪・高タンパク食の弊害がいわれている現代、その良さは世界的に見直されています。

「油脂分」は動物性食品に比べ断然、優位

菅野 油脂分に関しては動物性食品に比べて大豆は断然有利です。
 必須脂肪酸のリノール酸が非常に多く、脂肪酸の約半分も入っており、また最近健康効果がよくいわれているα|リノレン酸も約8%入っています。こうした不飽和脂肪酸は動物性脂肪に多い飽和脂肪酸と違って、血管を強化し、血液をサラサラにする効果があります。一方で、リノール酸は代謝の過程でいろいろなホルモン様物質(エイコサノイド)を産生し、過剰にとるとそれがアレルギーや動脈硬化を招くといわれます。私達は大豆タンパクがエイコサノイドの産生を干渉するという効果も見つけています。
 不飽和脂肪酸は酸化されやすいのが難点ですが、大豆には抗酸化ビタミンのEが豊富で、これが大豆油の安定を大きく助けています。
 リン脂質のレシチンは細胞膜や脳、神経組織の構成成分として、健脳やボケ予防にも注目されています。

豊富な微量栄養素・機能性成分

菅野 微量栄養素も他の豆類と比べて断然豊富です(表1)。
 ビタミンではB、B、ナイアシンや葉酸などB群が多く、抗酸化ビタミンのEも豊富です。ビタミンKも納豆の形にすると多くなります。ミネラルではカルシウム、マグネシウム、カリウム、鉄などが多く、豆乳と牛乳を比べるとカルシウムは牛乳の方が3倍から5、6倍と多いのですが、豆乳も決して少なくはなく、マグネシウムは豆乳の方が牛乳の2倍以上も含まれています。食物繊維も豊富です。
 また大豆には今話題のイソフラボンや、サポニンなど大豆に特有の生理活性物質、機能性成分が含まれ、糖質には整腸作用のあるオリゴ糖も含まれています(10頁表2)。

大豆タンパク質の「生活習慣病」予防効果
コレステロールは高過ぎず、低過ぎず

──先生は大豆タンパクのコレステロール低下作用をいち早く研究されたそうですが最近、コレステロールは低過ぎても問題だといわれていますね。
菅野 コレステロールに関してはアメリカの考えが消化不良のまま入ってきて、そのため日本人は必要以上にコレステロールの値に一喜一憂しています。
 アメリカ人は分厚いステーキ、目玉焼きは2個で1皿単位と卵は1日4〜5個、牛乳はガブ飲み。それで病的な肥満者が多く、心筋梗塞など心臓死が日本の4倍も高い。それで"コレステロール値が低いほど心筋梗塞が減る”というデータが多く、コレステロールをものすごく悪者視しているわけです。しかし、日本人の場合、高血圧や肥満、糖尿病など他の動脈硬化の危険因子さえなければ、コレステロールが少し高め程度は問題はないんです。
 むしろ、コレステロールは細胞膜の構成成分の一つであり、性ホルモンやステロイドホルモン、胆汁酸の材料にもなる重要な成分で、低過ぎても問題です。
 コレステロールには、・組織や血管の余分なコレステロールを肝臓に戻して処理をするHDL(高比重リポ蛋白)コレステロールと、・食事からとったり肝臓で合成されたコレステロールを組織や血管に運ぶLDL(低比重リポ蛋白)コレステロールがあり、一般に前者を「善玉」、後者を「悪玉」と呼んでいます。善玉コレステロールが血液中に100(mg/dl)もある人は「長寿症候群」とも呼ばれ、動脈硬化など起こさずに長生きするといわれます。総コレステロール240〜259が一番長生きするというデータも出ています(図3)。
 また、コレステロールは食事からとる食事性コレステロールと、体の中で合成されるコレステロールがあります。普通は食べ物からコレステロールがたくさん入ってくれば体の中ではコレステロールが増えないようにつくる量を減らします。このように生体ではホメオスタシス(恒常性)が働いて、一時的に上がっても長期的には上がらないようになっています。
 それを日本では他に危険因子がない場合でも、食事改善で総コレステロールが240未満に下がらなければ薬の投与がすすめられます。でも本当に薬を必要とするほどコレステロールが高い人は日本人には少なく、また薬には副作用の心配もあります。

安全性の高い、大豆のコレステロール低下作用

菅野 その点、食品でコレステロールを下げることができれば、薬と違って、消化管の中で働きますから非常に安全性が高い。
 私達はこうした安全性の面からコレステロールや胆汁酸が消化管で吸収阻害されることによって、コレステロールを低下させる食品成分を求めました。それが大豆でした。大豆は昔から日本人が多く食べてきたという食経験からも安全性が高く、食習慣を変えないで血清コレステロールを低下させる申し分ない食材なのです。
 大豆タンパクがなぜコレステロールを下げるか。一番メジャーなメカニズムは、大豆タンパク質がある程度消化されたものが腸(小腸)の中で胆汁酸と結合し、コレステロールの吸収を阻害するからだと考えられています。
 食物由来のコレステロール(食事性コレステロール)は胆汁酸で溶けなければ吸収されません。大豆タンパクを十分量とっていると大豆タンパクが先に胆汁酸と結びついて、コレステロールの吸収を妨害するので、食物由来のコレステロールは腸で吸収されず、体外に排出されてしまい、結局、胆汁酸の吸収もコレステロールの吸収も悪くなります。
 一方、胆汁酸はコレステロールなどを原料に肝臓で作られ、コレステロールの腸からの吸収が悪くなると、体の中(主に肝臓)ではその分余計にコレステロールを合成しますが、肝臓はそのコレステロールを次々と胆汁酸に変えるので、肝臓には血液中のコレステロールがどんどん運び込まれ、それで血中コレステロール値が下がるわけです。この二重のメカニズムで大豆タンパクはコレステロール値の改善に有効なわけです。
 しかも大豆タンパクは、・正常者のコレステロールを低下させ過ぎる心配がなく、・高コレステロール血症者の悪玉コレステロール値を下げる、・普通の人の悪玉コレステロールと善玉コレステロールの比率を改善するという効果も立証されています(図4)。
 以前は、大豆のコレステロール低下作用は大豆のイソフラボンが主役ではないかという考えが強かったのですが、最近ではやはりタンパク質が主役で、イソフラボンは脇役と考えられています。

肥満の予防・改善

菅野 大豆タンパクや、タンパク質が少し消化した形のペプチドには、体脂肪分を減らす効果があるといわれ、特にペプチドではその効果が高まることが動物実験で証明されています。人の場合でもいくつか臨床例が出ています。
 標準体重より20%以上太っている女子学生を・大豆タンパク群と・カゼイン(牛乳タンパク)群の2群にわけ、21日間のダイエット効果を見たところ、最初の約10日間はほぼ同じでしたが、・群は以後も順調に体重減少が見られたのに対し、・群はほぼ横這い状態で、大豆タンパクはカゼインより脂肪を燃焼させる作用が高く、ダイエット効果が大きいことがわかりました(図5)。
 さらに、大豆タンパクには体脂肪の低減効果も明らかになっています(図6)。

大豆は機能性成分の宝庫
機能性成分の塊

──大豆の生理活性物質、機能性成分にはどんなものがあるのですか。
菅野 大豆ほど徹底的に調べられた食品は少ないと思います。大豆は機能性成分の塊といってもよいくらい素晴らしい食品です(表2)。
 しかも現時点で大豆成分で特定保健用食品に認可されているのは6つもあります(11頁表3)。一つの食品でこれだけ異なる成分が特定保健用食品に認定されているものはまず他にないでしょう。

女性の健康を助ける大豆イソフラボン

──月経前症候群・更年期障害・骨粗鬆症──
──大豆イソフラボンについては最近、その女性ホルモン様作用が女性の間で人気ですね。
菅野 イソフラボンは大豆の胚芽部に一番多く含まれ、化学構造が女性ホルモンの「エストロゲン」に非常によく似ており、穏やかな女性ホルモン様作用があります。
 そのため、メンスが始まる前にいろいろ体調がおかしくなる「月経前症候群」や、閉経前後の女性ホルモンの急激な減少で起こる「更年期障害」、「高コレステロール血症」、「動脈硬化」、「骨粗鬆症」などに役立ちます。
 特に、「月経前症候群」、「更年期障害(図7)」、「骨粗鬆症(図8)」の3つの病気の予防・改善効果がいわれ、実際、欧米人に比べて、日本人の方が月経前症候群や更年期障害が少ないのも、またカルシウム摂取量が欧米人よりはるかに低いのに骨粗鬆症の合併症である大腿骨頸部骨折が少ないのも、日本人はもともと大豆をたくさんとってイソフラボンも十分量とっているからだといわれています。
 骨粗鬆症では、イソフラボンは骨からカルシウムが過剰に溶け出すのを防ぎ、骨量を増やす働きがあります。さらに、・納豆に多いビタミンKは骨形成を促進し、また・大豆タンパクは牛乳タンパク(カゼイン)よりもカルシウムの尿中排泄が低いことも指摘されており、こうしたことも骨粗鬆症の予防に役立っていると考えられています。
 他にもイソフラボンは乳がんや前立腺がんなどを予防する作用や、脂質の酸化を抑える働きもあることがわかってきました。

抗酸化力の強い大豆サポニン

菅野 大豆サポニンには、・脂質の酸化を防止したり、・コレステロールを下げたり、・食欲を改善するなど、さまざまな効用があることも最近わかってきました。特に抗酸化作用は強いといわれています。
 豆を煮ると泡立つ、あれがサポニンですね。一種のアクです。ですから普通は取り除かれるのですが、凍り(高野)豆腐や湯葉などには多いようです(図9)。

「日本型の食生活」と大豆の効果的なとり方
いろいろな大豆食品の組み合わせで

──難消化性は防衛本能──
──最後に大豆の効果的なとり方ということですが、大豆は消化があまりよくないと聞きますね。
菅野 これほど大豆には大変な健康効果があるわけですが、ただ、大豆は消化があまりよくない。
"健康成分の宝庫”というのは人間の勝手で、大豆の方はそう目茶苦茶食べられると困るから、トリプシンインヒビターなどを持って防衛するわけです。それで動物や虫が生で食べると消化されないで下痢したり、ネズミの実験でも膵臓がんになるという報告があります。そういう意味で大豆は熱を加えて食べる。それでも少しトリプシンインヒビターは残ります。
 味噌や納豆などの発酵食品はかなり消化がよくなっています。ですから、大豆は他にも、黄粉、豆腐、豆乳、煮豆といろいろ組み合わせてとる。中でも納豆は大変優れた食品だと思いますが、納豆を毎日食べるのは抵抗があるという人も多い。その点、豆乳などは飲めばいいわけですから簡単に比較的多くの大豆タンパクをとれます。
 ですから、カルシウムさえ十分にとっていれば、今の食生活では牛乳の代わりに豆乳を飲むというのはすすめられます。豆乳はあの独特の青臭さが嫌われる元でしたが、製造技術の飛躍的な進歩で、最近は飲みやすく美味しい豆乳が数多く出回るようになりました。ただ、調製豆乳には白砂糖添加のものもあり、生活習慣病の方は注意しましょう。
 機能性の発揮には──効果を期待できる摂取量は?
菅野 人にもより一概にはいえませんが、大豆タンパクのコレステロール低下は1日10g程度で効果がみられています(表4)。
 イソフラボンの場合は、1日50〜70mg程度でいわゆる健康効果が期待できます。日本人の食事では味噌や豆腐、納豆などいろいろな形で大豆をとります。それに豆乳1本(200ml)を加えると豆乳には約30mg程度含まれているので、合わせて1日70mg近いイソフラボンを摂取できます(11頁図7参照)。

米と大豆を組み合わせた"日本型の食生活”は生活習慣病も飢えも救う

──今、健康長寿に和食が世界的に脚光を浴びていますね。
菅野 欧米型の高脂肪・高タンパク食に傾くほど生活習慣病が多くなることはよく知られています(表5・6)。それで、日本でも1975年くらいからこの傾向が目立ってきました。
──和食は特にお米と大豆の組み合わせがよいといわれますね。
菅野 ご飯に味噌汁、納豆の組み合わせでは、白米に足りない必須アミノ酸のリジンやビタミンB、ビタミンBを補ってくれます。
 そして日本型の食生活では何よりも油が少なく、米と大豆を中心に、いろいろなものを食べる。これが健康面においてとても優れているのですね。
 そればかりか、米というのは恐らく単位面積当たりのエネルギー供給量からすれば抜群の穀類だと思います。しかも小麦みたいに粉にしないで粒で食べる。これは最大の特色です。例えば牛肉1kg得るには餌としてトウモロコシが10kgいるなど、肉食過多の欧米型食生活ではものすごくエネルギーを消費しているわけです。肉をとる割合を少しずつ改善して食生活を変えていけば、生活習慣病はもとより、地球上の全員を飢えさせないですむと思います。
 大豆は今90%以上が輸入です。納豆用大豆などはアメリカに委託して特別に作ってもらっています。このように日本では食料が輸入であふれ、その20%は捨てるというもったいないことをしているわけです。ところがアフリカでは、その20%分で結構な数の人が救える。つまり、今の食糧生産でも、流通さえ滞らず、どこでも届くようになれば飢餓は救えるわけです。
 健康面だけではなく、環境共生という観点に立って、そういうエネルギーや飢えの問題からも今一度、米と大豆を中心にした日本型食生活を見直して欲しいと思います。