ウイルスやがんから細胞を守る植物成分「インターフェロン・インデューサー」

インターフェロンの発見から"食"による予防医学の道へ

インターフェロン・ハーブ研究所長(医学博士)小島保彦先生

インターフェロン(IFN)の発見から、"食"による予防医学へ

 C型肝炎やがんの治療薬として知られる「インターフェロン」は本来、ウイルスに感染したときなどに体の中で作られる物質です。
 抗体とは異なるこのウイルス抑制因子は、東大伝染病研究所(現医科学研究所)の長野泰一博士と小島保彦博士によって天然痘ワクチンの研究中に発見され、1954年、世界に先駆けて発表されました。3年後の1957年には、イギリスのアイザックス博士らがインフルエンザウイルスの研究中、独自にこの因子を発見し、"ウイルスに干渉する因子"という意味の「インターフェロン」と命名、世に知られるようになりました。
 以後、インターフェロンはウイルスを抑えるだけではなく、がんの増殖を抑えたり、免疫を増強するなどのことがわかり、一時期"夢の新薬"とまでいわれました。
 しかし、人工的に作ったインターフェロンを大量投与する「インターフェロン療法」ではC型肝炎の場合、日本人に最も多い1型では有効率は必ずしも高くなく(表1)、重い副作用もあり(10頁・表4)、入院治療が原則で、高額というネックもあります。
 インターフェロンを発見された小島保彦博士はその後、「いかにインターフェロンを体に作らせるか」というテーマで研究を重ね、多くの漢方生薬が体の中でインタ
ーフェロンを作ることを突き止めました。以来"食"を柱に"自然との調和と共生"に的を絞って研究を続け、その過程で安全・安価な「インターフェロン誘導物質(インデューサー)」の食品化に成功されました。
 小島先生に「インターフェロン」と「インターフェロン・インデューサー」を中心に、自然との調和に立った予防医学の重要性など、お話を伺いました。

インターフェロンとその発見
種痘ワクチンの研究中
発見されたインターフェロン

──先生がインターフェロンの存在を世界に先駆けて報告されてから50年にもなるそうですが、まずはインターフェロン発見のいきさつからお話をお願いします。
小島 天然痘※は1980年に根絶宣言されましたが、昭和20年代当時はまだまだ大きな問題になっていました。
 天然痘の根絶には、イギリスのジェンナーが世界で初めて作り出したワクチンである「種痘」が大きな役割を果たしました。ジェンナーは牛の乳を搾る女性が牛痘(ウシ天然痘)にかかると天然痘(ヒト天然痘)にかかりにくいという話をヒントに、牛痘ウイルスを人に植えたのです。
 私がインターフェロンを発見したのも、天然痘ワクチンの研究がきっかけでした。当時は種痘用の牛痘ウイルス(ワクシニアウイルス)を直接皮膚に植えていたのですが、それでは副作用も強く、瘢痕も大きく残ります。そこで、紫外線で不活化したワクチンの開発研究が開始されました。インターフェロンはその研究中に、超遠心分離機で精製する際に偶然発見されました(図1)。
 ウイルスは生命力を持った核酸(遺伝子)を、タンパク質の膜でおおったようなものです。紫外線をウイルスに照射すると、免疫に関与するタンパク質は損なわずに、ウイルスの生命である核酸だけを殺せるので、タンパク質を損なわない分だけ自然感染に近くなり、非常に良好なワクチンができるという狙いでした。
 当時は、紫外線を当てたウイルスをウサギに注射して、後から生きたウイルスを注射して、どのくらい経過したら、ウイルスを抑える力ができるのかを調べていました。通常の方法(加熱やホルマリンで不活化するので蛋白質は変性する)で作ったワクチンでしたら、だいたい2週間から1ヶ月かかるのですが、紫外線照射のウイルスを注射した場合、すぐに生きたウイルスを注射してもきれいに抑えこんでしまうのです。
 私が実験を引き継いだ頃、アメリカで開発された、当時としては最も優秀な定温装置のついた超遠心分離機が入手できました。ウイルスはバクテリアよりも小さいため、最も大きなワクシニアウイルスであっても6〜7千回転しなければ分離しません。それで精製したウイルスで紫外線にかける実験をしていましたら、効果のないワクチンにしばしば遭遇しました。精製していないワクチンでは安定した結果が得られました。原因は紫外線に不安定なウイルス粒子を除いた上清(上澄み)は紫外線に安定で、しかもウイルス増殖抑制効果も保有していたの
です。これが新発見にむすびつきました(図1)。
 後に、沈殿した不活化ウイルスはインターフェロンを誘導するインターフェロン・インデューサーで、上清の中のウイルス抑制因子はインターフェロンであることがわかりました。
 さらに実験を進め、紫外線(UV)不活化ウイルスと上清(インターフェロン)は、生ウイルスと同時に接種した0日より1日前に接種しておいた方が最も高い阻止効果を示し、その後次第に低下し、UVウイルスだけは1週間後に再び抗体産生による抑制効果が出現することがわかりました(図2)。
 同一のウサギの背中で2つの異なる阻止効果の山ができた(図2)のは、早期はインターフェロンによる干渉現象で、後期の抑制効果は中和抗体産生によるものとわかりました。なお中和抗体を接種した場合は同時接種(0日)が最も効果が高く、次第に低下します。
 1954年、私達は第2回日本ウイルス学会総会でこのウイルス抑制因子の存在を報告しました。当時はウイルスに対しては中和抗体の研究が盛んでした。ウイルス病はウイルス粒子で作ったワクチンで抑えるのが当然の前提とされていましたから、ウイルス粒子を除いた上清部分がウイルスの増殖を抑制することは思いもよらない結果で、討論はもっぱら上清液に集中しました。詳細は学会機関紙「ウイルス」に日本語で記載されています。
 それから3年後、イギリスのアイザックスらがインフルエンザの研究中、同様の作用を持つ物質を発見し、インターフェロンと名づけました。後に(1958年)これが私達が発見したウイルス抑制因子と同一のものであることが判明したのです。
※天然痘 天然痘ウイルスが人から人へ空気及び接触感染し、通常約2週間程度の潜伏期間を経てインフルエンザ様症状を突然発症。その2〜3日後に解熱し、自覚症状も改善する。その時に顔や手などに膿をもつ特徴的な発疹が出現(発痘)する。
 天然痘の病型のうち20〜50%は致命率が高く、天然痘の予防には種痘が用いられた。患者の発生は1977年を最後に報告がなく、1980年に根絶宣言された。国内では1956(昭和31)年以降発生はなく、1977(昭和52)年以降種痘は行われていない。

免疫とインターフェロン
──"敵と味方が同居"する

──インターフェロンと抗体とでは、ウイルス抑制作用はどう異なるのでしょうか。
小島 特定のウイルスで免疫して産生された抗体はその特定のウイルスのみに直接結合(特異的)してウイルスの増殖を抑えます。量が多い方が勝つので、試験管内で10億個もの大量のウイルスと抗体が共存することはあり得ません。
 一方、インターフェロンはウイルスを選ばず非特異的で、ウイルスには直接作用せず、試験管内では互いに共存します。
 この「敵(ウイルス)・味方(インターフェロン)共存」の現象は免疫には見られないものです。私が紫外線不活化種痘ワクチンの開発研究中に、10億個ものウイルスが存在する試験管内で見つけたウイルス抑制因子はインターフェロンだったわけです。
 1個の細胞に2種類のウイルスが感染した時、どちらか一方あるいは共にその増殖が抑制されるという、免疫では説明されないこの現象を、干渉現象と呼びました(インターフェレンス)。
 当初それはウイルス同士が互いに細胞の栄養源を奪い合うことによるものと考えられました。後になって、それはインターフェロンが引き起こすウイルス同士の干渉現象であることがわかり、この干渉(インターフェレンス)を引き起こす原因物質を、インターフェロンと名付けたわけです。
 一方、免疫は元来"二度無し現象"として税金や病気(疫)を免れることを意味します。今は専ら医学用語として自己と自己でないもの(非自己)の識別に基づいて、生体が非自己を排除する生体防御システムのことを免疫といっています。
 哺乳類の免疫には、
・マクロファージ(NK細胞も含む)を中心として非特異的に幅広く、しかも早期に外敵に対抗する「自然免疫(広義の免疫)」と、
・リンパ球を中心にした、ハシカのワクチンはハシカにしか効かないように、抗原(感染源)に対して特異的な「獲得免疫(狭義の免疫)」の二つが備わって、互いに協働して生体を外敵などから守っています。さらに、獲得免疫は・T細胞が直接抗原をやっつける「細胞性免疫」と、・抗原に出合った時に抗体が作られ、二度目に同じ抗原に遭遇した時に抗体が素早く抗原を処理する(抗原抗体反応)「液性免疫」があり(表2)、ワクチンなどは防御抗体が体液の血清成分にできるものです。
 つまり、ウイルスと抗体は直接対決する間柄なのに対して、インターフェロンはウイルスに直接的には何の作用もすることなく、細胞に作用して細胞を丈夫にしてウイルスの増殖を抑えるのです(表2)。ですから、ウイルスとインターフェロンは共存できるのです。言いかえると、免疫はウイルスやがんなどの病原体を担った細胞を直接攻撃するのに対して、インターフェロンは免疫とは異なる作用機構として、細胞側を抵抗力の強い姿にすることで病気から身を守っているのです。人間のような複雑な機構を持った高等動物は、両者が互いに協力して
健康を維持しているわけです。

インターフェロンの多様な生体調節機能と功罪

──インターフェロンはがんの抑制効果などもよく知られていますね。
小島 インターフェロンは発見当初、正常細胞に悪影響をおよぼさず、あらゆるウイルス感染を抑えるという素晴らしい特性を示しました。
 その後、ウイルス抑制作用以外にも、・がん細胞を直接殺すリンパ球、マクロファージやナチュラルキラー(NK)細胞の活性を高めたり、・がん細胞の増殖を直接抑制したり、・がん細胞を正常細胞に分化させる因子の働きを助けたり、・また免疫力の増減に関与する──など多くのいろいろな働きがわかってきました(図3・表3)。
 このような性質から、インターフェロンは広い意味で「サイトカイン(種々の細胞が産生する、細胞間のいろいろな生体調節に関与する液性因子)」に位置付けられています。
 産生する細胞によって種類も性質も異なり、大きくはα、β、γの3つに分けられ、治療にはαとβが使われています。
──インターフェロンは体の中でどのようにして作られるのですか。
小島 インターフェロンは常時作られているわけではなく、ウイルス感染があったり、刺激物質(インターフェロン・インデューサー)の作用を受けた時に、細胞内のインターフェロン遺伝子が発現し、糖蛋白性のインターフェロンを合成し細胞外に分泌します。分泌されたインターフェロンは細胞表面の受容体に吸着して細胞に作用し、作用を受けた細胞は抗ウイルス性や抗腫瘍性を得て、炎症型であろうとがん型であろうと広範囲にウイルスやがんの増殖を抑制します。
 このような優れた特性から、1980年初頭にはインターフェロンは「夢の特効薬」とまでいわれました。
 しかし、インターフェロンは抗生物質やワクチン抗体と違って、種依存性が強く、ヒトにはヒトの細胞から作られたインターフェロンを用いなければ効果がありません(表2)。大量生産が可能になるまでには、今日のバイオテクノロジーや遺伝子技術を待たなければなりませんでした。
 また抗生物質やワクチンは2〜3回の注射で済むのに対し、インターフェロンの製品化には百〜数百倍も濃縮精製しなければならず、治療も毎日から1日おきに数ヶ月注射を続ける必要があり、治療費は年間百万円単位にもなります。
 副作用も風邪症状、無気力、脱毛から、ウツや自己免疫疾患などの重い副作用が現れることもあります(表4)。

注射によるインターフェロン(IFN)・インデューサーの失敗

小島 そうしたことから、インターフェロンの研究は世界的に、安価で量産可能な、身体の中にインターフェロンを作らせる「インターフェロン・インデューサー」に向けられました。インターフェロン・インデューサーとは、生体や生きた細胞との相互作用により、インターフェロンを作り出す刺激物質の総称です。
 世界では、簡単に出来、実験しやすい培養細胞やリンパ球を用いて注射方式で行いました。この方式では短期間で大量のインターフェロンが血中に現れます。しかも、注射方式では脾臓や肝臓や肺の大事な臓器でインターフェロンを大量に作ります。本来臓器は大事な仕事をしています。インターフェロンを作るようなアルバイトは短期間ならばともかく、長期では発熱や毒性で実用に耐えられるものはありませんでした。インターフェロンは細胞に作用するもので、血中に大量に出ることは無駄をしていることです。無駄は病の長期戦には禁物です。
 以後、研究はインターフェロンの生産と治療に向けられ、ウイルス性肝炎や一部のがんの治療薬として注目を浴び、大量生産の方向に向かいました。
 こうした世界の趨勢に反して、私はいかにして体の中に、自前の安全なインターフェロンを作るかという研究に専念しました。
 医薬品ではなく、食べ物からとるIFN・インデューサーなら、細胞を刺激して自前のインターフェロンを作るのを助けますから、自分の体でできたインターフェロンは副作用もなく、過剰になることもないと考えました。

生薬から発見したインターフェロン・インデューサー
──"自然との調和と共生"の漢方の道へ──
多くの漢方生薬からインターフェロン(IFN)・インデューサーを発見

小島 1967(昭和42)年、私は東大伝染病研究所(現医科学研究所)から当時は半官半民のような北里研究所に移りました。その3年後、日本初の「東洋医学総合研究所」が北里研究所に設立されました。
 免疫には見られない、ウイルス材料中の"敵(ウイルス)・味方(インターフェロン)共存"の現象は私の興味を引きました。この現象は東洋医学、東洋思想に伝わる「身土不二」、「自然との調和と共生」に通じます。
 北里に移ってから私は「自然との調和と共生」に的を絞って、インターフェロン・インデューサーの研究を続けました。
 世界の研究者が行ったマウスを使った注射方式では、短期間で高力価のインターフェロンが得られますが、毒性が強く、実用には耐えない。ましてやがんや肝炎など現代病は長期戦(14頁・図5)ですから、長期間にわたって細胞を守る必要があります。しかも、注射方式ではマウスの臓器でインターフェロンを作ります。マウスとヒトでは細菌内毒素の毒性の感受性も違い、また各臓器は独自の重要な役目を果たしていますから、その役目を疎かにしてインターフェロン作りに専念させるのは長期にはよくありません。
 北里研究所に移ってから私は、漢方生薬からインターフェロン・インデューサーを探してみました。漢方生薬70余種を調べたところ、約30種ほどがインターフェロンを誘発しました(17頁・表5)。これは驚くべき数でした。
 この発見から、私は漢方の神髄を探ってみました。漢方生薬ではなぜ、注射でなく内服なのか? 
百度の水で煎じるのか? 乾燥させるのか? 何種類も混ぜるか?──等の基礎研究を重ね、これらは病いの長期戦に対し、口を通じてもろもろの細胞を強化していることがわかりました。
 例えば、乾燥させると水が中まで入って十分な成分が出るのです。また、点滴から栄養補給していた患者が口から食事をとれるようになるとにわかに元気になるように、漢方薬が注射ではなく、内服で行われていることの重要な意味合いもこれに含まれています。
 こうした漢方の基礎研究から、材料となる生薬は、生薬の中でも食品に分類されるようなより安全なものを用い、マウスよりも細菌毒性の感受性がヒトに近いウサギの新鮮なマクロファージに着目し、長期実用が可能なインターフェロン・インデューサー開発の成功の糸口をつけたのです。

IFN・インデューサーを口からとることの重要性
──腸管(粘膜)免疫とマクロファージ──

小島 腸管は食物を通して、常に大量の微生物や寄生虫ともふれ合い、時にはこれを排除し、時には共生関係が成立しています。
 系統発生的に、動物が多細胞化した時に最初に出現したのが腸です。同じことが個体発生でも見られ、肺、肝臓、脾臓、胸腺や尿道も腸に由来しており、腸は母なる臓器とも言われています。
 このように、腸管は血中とは異なる独自の免疫系、神経系、内分泌系が、ネットワークとなって展開しています。口の中の微妙な出来事が脳を刺激し、これらと関連をもつ食事からのインターフェロン・インデューサーや腸内細菌の存在が、免疫とは異なる非特異的防御作用として重要視されてきています。
 調和のとれたこれらのダイナミクなネットワークにより、私達のエネルギー源である食物を無毒化して消化吸収し、時には特定の抗原に対して免疫学的に不応答になって腸管を通過させる免疫寛容の現象も見せるのです。
 消化器系は口に始まり肛門に終わる約9m(食道25cm、胃1〜2・、小腸6〜7m、大腸1・5m)の消化管と、肝臓、胆嚢、脾臓などの付属臓器から構成されています。
 腸管の粘膜は皮膚や呼吸器と共に外界にさらされている点で特異な臓器です。皮膚は外界のバリア(防御壁)になっていますが、その面積は1・6平方メートルです。それに対し、腸管は小腸と絨毛の表面積だけでも200〜400平方メートルもあります(図4)。
 腸管粘膜は、リンパ小節が集まったパイエル板という免疫細胞のたまり場があり、またM細胞という特殊な細胞もいて、細菌などの大きな分子でも取り込んで細胞内で分解することもなくマクロファージに引き渡します。
 漢方生薬に見出された高分子のインターフェロン・インデューサーも消化されずにこのルートを通り、マクロファージ内にインターフェロン生産の下地が築かれます。
 また、別に侵入した抗原はマクロファージに消化され、作り出された抗原情報はヘルパーT細胞(胸腺由来のリンパ球)に提示されます。そして、B細胞(骨髄由来のリンパ球)による抗体産生へと進展します。腸管に存在するヘルパーT細胞は胸腺で分化教育を受けたαβT細胞の他に、肝臓の類洞で分化教育を受けたより強力で早く作用するγδT細胞が約50%ほど存在します(図4)。
 さらに、腸管には全身のB細胞の約70〜80%が待機しています。これらのB細胞が作り出しているのが分泌型の抗体IgAで、血管には行かずに粘膜表面に分泌され、細菌やウイルスなどの侵入を防いでいます(図4)。

IFN・インデューサーと連携プレイ

──マクロファージを活性化し
自前のインターフェロンを作る──小島 漢方生薬(食物)由来のインデューサーはマクロファージが好んで食べ、インターフェロンを作り出したり、リンパ球を活性化したりします。
 マクロファージは、生物に備わった最も基本的な防御システムで、アメーバのような単細胞生物から高等な多細胞生物まで備わっている原始的な免疫細胞です。貪食(大食)細胞などとも呼ばれ、相手を選ばず(非特異的)、体の中に入ってきた異物や壊れた細胞を掃除する働きをします。それと共にいろいろな化学物質を放出して免疫の応答を活発にしてくれます。
 マクロファージは普段は掃除や生体調整に働いていますが、活性のある外敵が侵入して来たり、体内にあるウイルスやがん細胞が活性化し始めると、途端にマクロファージが活性化して「活性マクロファージ」となり、殺作用を発揮し、私たちの体を守ってくれます。
 インデューサーはこのマクロファージを活性化してくれるのです。しかも、マクロファージが活性化すると炎症反応が強くなるといわれますが、漢方生薬由来のインデューサーは免疫力を高めながら、炎症を起こさせない珍しい作用を持っています。炎症を抑える薬は同時に免疫力も落としてしまうので、これは漢方独特の作用です。
 インデューサーでマクロファージの活性を高めると、
・異物や老廃物などの食作用、清掃作用が高まる
・ウイルスや寄生虫などが細胞に感染するのを防ぐ働きが高まる
・がん細胞を傷害する作用が高まる
・免疫のシステム(体液性免疫・細胞性免疫(9頁・表3))が正常な働きを始める
・分泌活性が高まり、生体調節の機能が促進される
・その他、脂質の蓄積や排除、骨の形成や吸収、鉄の代謝、炎症反応や発熱──など、生体の恒常性を維持するための反応が促進されます。

自然との調和と共生の医学
長期戦の現代病と食べ物の重要性

小島 食品の機能には
・身体構成に必須な蛋白質、糖質(炭水化物)、脂質、ビタミン、ミネラルの五大栄養素の供給機能
・味、臭、色、形、触の感覚機能
・免疫力をつける生体防衛機能や生活習慣病などの予防と改善に役立つ生体調整機能があります。
 自然の植物に含まれる成分から作られたインターフェロン・インデューサーは、まさに第三の機能を発揮する食品なのです。
 機能性成分は皮や根っこ、食物繊維に多く、精製加工食品や部分食が多い現代では、機能性成分が不足します。また、野菜などはミネラルをバランスよく含んだ本物が少なくなっています。少し高くても無農薬・有機栽培を選び、皮、葉や根もできるだけ利用し、魚なども汚染の少ない小魚を骨や皮ごと食べるようにしたいものですね。
 野生の動物たちが病気になると薬草を食べるように、自然界は実に良くできていると驚かされます。文明の発達につれて、人はそうしたものを食べなくなってしまいました。
 代わりに登場した現代医学は、科学の力で自然をコントロールできるという想いから急性疾患の中でも原因が単純な多くの病気を克服してきましたが、次々に形を変えるウイルスや免疫の異常で起きる病気、狂牛病などのプリオン病、がんなどの細胞の病気は長期の戦いを必要とし、未だ有効な回答を見出せないでいます。それどころか勝ったと思った細菌との戦いも耐性菌の出現など、いたちごっこを繰り返すような状況になりました(図5)。
 そろそろ医学の発想も変えなければならない時に来ています。感染しても発病させない、病気と共存するなど、新しい発想が必要です。免疫現象のように敵を直接攻撃するだけでなく、インターフェロン・インデューサーのようなもので自ら身を守る、細胞を守るという発想がますます大切になってくると考えられます。
 21世紀は自然と調和・共生する医学に向かわなくてはなりません。外敵を殺す医学から、細胞を健康にして細胞を守る医学へ、そして何よりも自然感染を防ぎ、感染しても発病させない予防医学が、現代病の根絶に大きな役割を果たすことになるでしょう。「物から心の時代」はそれを意味します。

細胞を守るIFN・インデューサーで長期戦の現代病に対処

──個々の病気にインターフェロン・インデューサーはどう対処しているのでしょうか。
〈肝機能の強化〉
小島 近年は飲みすぎ食べすぎ、ストレスなどで肝臓の機能が低下している人が増えています。特にお酒や脂肪分の多い食べ物が好きな人は注意が肝要です。
 肝臓の機能が衰えると、様々な病気になりやすくなり、ウイルス性肝炎などの症状も悪化します。
 肝臓にはマクロファージの仲間であるクッパー細胞が多く存在し、腸管から吸収した食物の解毒をしたり、再生のための老廃物処理、そして異物や微生物の処理をします。
 IFN・インデューサーを与えるとマクロファージは盛んにインターフェロンを産生し、その情報が細胞に伝わることで細胞の防御体制が整います。
 B型、C型のウイルス肝炎ではインターフェロンが特効薬とされ、最近では長期に投与することで肝がんヘの移行を防ぐのに効果があるとされています。インターフェロンは量よりも濃度が重要です。つまり、肝臓のマクロファージが産生するインターフェロンは肝臓で産生されるため、肝臓での濃度が高くなり、有効性が高まるのです。
 治療では高単位のインターフェロンを注射しますが、単に血液中のインターフェロン濃度が高ければ良いというわけではありません。また、肝臓以外にもインターフェロンが大量に行くために副作用も出てきます。
 インターフェロンを投与した後にIFN・インデューサーを与えると細胞は10〜20倍ものインターフェロンを産生します(プライミング効果)。インターフェロン療法においても、IFN・インデューサーは有効に働くのです。
〈風邪などの感染症の予防〉
小島 免疫力の弱いお年寄りや子供たち、病人は風邪、特に症状の強いインフルエンザが命取りになることもあります。
 現在のところ風邪に対する十分な特効薬はなく、特にインフルエンザに対しては、発病を防いだり症状を軽くするためには抗ウイルス剤が開発され利用されていますが、予防にはワクチンに頼るのが一般的です。このワクチンもタイプが合わないと効き目がないなどやっかいです。
 IFN・インデューサーでマクロファージを丈夫にしてやると、もろもろの自然感染を防ぎ、一般の風邪に対しても抵抗力が強くなります。
〈花粉症などアレルギー体質の改善〉
小島 アレルギーも典型的な現代病の一つです。遺伝も関与していますが、食品添加物、様々な化学物質、ダニやハウスダスト、ストレスなどが誘因となってアレルギー症状を起こします。機構が複雑で未知の部分も多く、それだけに決定的な治療法も見つかっていません。
 ことに過剰なIgE抗体によって起きる花粉症やアトピー、気管支喘息などの1型アレルギーは、免疫機能のバランスの崩れが問題です。マクロファージやTh1型のT細胞は、Th2型のT細胞が産生するIgE抗体の産生を抑えます。
 インターフェロン・インデューサーはマクロファージを活性化して、アレルギーを引き起こす元になるIgE抗体の産生を抑制する働きがあります(表5)。
〈皮膚のバリアの強化〉
小島 皮膚は私たちの体を病気から守る最大のバリアです。病気の予防のために皮膚を鍛えるということは昔からいわれていますが、皮膚の衰えは健康の赤信号です。 発生学的には大腸も皮膚も呼吸器と同じ系統に属します。皮膚には外界からの異物の進入を防ぐため、たくさんのマクロファージが働いています。
 インターフェロン・インデューサーはこれらのマクロファージを活性化します。微粉末のインデューサーを水で練ったり、エキスにしたインデューサーを内服したり、鼻の粘膜や皮膚に塗ることで細菌やウイルスの感染への抵抗力をつけ、代謝を良くすることが実験的に証明されています。
〈がんの予防と再発防止〉
小島 健康な人でも日常的にがんが発生しているといわれています。
 しかし、調和のとれた免疫の働きでその増殖が抑えられています。老齢や体力の衰えで免疫の調節作用がくずれるとがんは増殖し発病に至ります。また、長寿がんといって、高齢で亡くなった人を病理解剖するとがんが見つかることも珍しくありません。これらは上手にがんと共存して天寿を全うする例です。
 免疫学的にがんを予防し、また再発を防ぐには活性マクロファージの働きが極めて重要です。
 がんに対してはNK(ナチュラルキラー)細胞が有名ですが、増殖のしやすさや細胞数からもマクロファージの働きには及びません。マクロファージがIFN・インデューサーなどで活性化すると10〜20倍増えるのです。また、マクロファージが活性化しなければ、NK細胞も十分な働きができないのです。
 マクロファージはその他のいろいろな腫瘍壊死因子と連携してがん細胞を消化してしまうのです。
 食の改善によってがんのリスクを減少させ、IFN
・インデューサーによって身を守るように心がければ、細胞が健康になって、がんだけではなく、O157もMRSA(メシチリン耐性黄色ブドウ球菌)もそう怖いものではありません。

捨てる部分に多いIFN・インデューサー。
その上手な活用法
──食生活の改善が前提──

──最後に、インターフェロン・インデューサーの上手な活用法をお願いします。
小島 私の実験でインターフェロンの誘発が確認されたのは生薬の一部、カボチャの種子、ウコンやガジュツ、ハトムギなど漢方生薬の約30%にインターフェロンを誘発させる作用のあることがわかりました(表5)。これは世界的な特許をとっています。
 基礎研究を終えた後、数千頭の家畜を使った実験で、コクシジウムや乳房炎、ウイルスヘの感染症を防ぐことに成功しました。そして、IFN・インデューサーはごく微量を続けることで効果が続くことも発見しました。
 日常の食品ではアワ、ヒエ、ムギ、野菜、果物、穀類の皮、種子や根茎などがインターフェロンを誘発します。美食が好まれる現代では、固い、不味いなどの理由から料理で捨てられてしまいがちなのがIFN・インデューサーです。
 昔の日本人は、アワ、ヒエ、ムギなどを常食し、果物なども皮ごと食べていました。これらはIFN・インデューサーとしての機能があるので、昔の人は現代人よりもマクロファージの活性が高く、病気に対する抵抗力が強く、アレルギーにもならなかったと考えられます。
 いずれにしろ、普段あまり食用として使われるものが少ないので、お湯で煮出してエキスにしたり、微粉末にして食べるのが適当です。ただし、あまり高温で長時間煮出してしまうとIFN・インデューサーとしての働きがなくなってしまうものもあります。
 IFN・インデューサーは、高分子多糖体(数万の分子が結合したもの)という独特の構造があって働くので、あまり高温・高圧にすると、この構造が壊れます。ですから、揚げたり焼いたりも適当ではありません。また、アルコール抽出ではインデューサー以外の不純物成分の毒性が出ることがあり、薬草酒のようなアルコール漬けもおすすめできません。
 今、医薬品は低分子ブームですが、漢方が高分子の湯液を使い、内服することで穏やかな作用として働くのは科学的に根拠のあることです。
 IFN・インデューサーの機能を引き出すためには、普段の食生活にも気をつけ、高脂肪・高蛋白・低繊維質の欧米型食生活は避け、バランスのとれた伝統的な和食を基本によく噛んで少食(現代生活では腹6分が妥当)を心がけ、細胞を丈夫に保つことが大切です。健康な細胞ほどIFN・インデューサーを与えるとインターフェロンをよく産生します。
 IFN・インデューサーの主な使用目的は、細胞を丈夫にして病原菌への自然感染を防いだり、さまざまな現代病への抵抗力をつけることです。ごく微量ですむので毎日とるようにしましょう。特に、マクロファージが働き出す朝(朝食前)に微量を毎日欠かさずにとることです。量を多くとっても害にはなりませんが無駄です。体の弱っている人は1日2〜3回、毎食前に分けてとるとよいでしょう。
 エキスなら体重60kgの人で1日に1・5〜3gが目安です。エキスやエキス末は家庭でも作れますが、製品化もされているので、市販品を上手に活用されると便利ですね。