老化予防の切り札といわれるコエンザイムQ10とは

細胞を元気にし、サビを防ぐ

東京工科大学バイオニクス学部 山本順寛教授

細胞の元気を実感する

 体内で酵素の活動を助ける補酵素の一つ「コエンザイムQ10」は、日本でも最近注目を集めています。
 コエンザイムQ10は、細胞内のミトコンドリアでエネルギー(ATP)を産生するのに不可欠な物質であり、また、ビタミンEと協同して細胞の酸化を強力に防ぐ働きから、欧米では10年ほど前からアンチエージングや抗酸化物質としてサプリメントで盛んにとられています。
 20年来、活性酸素の研究をされている東京工科大学バイオニクス学部の山本順寛教授は、コエンザイムQ10の強力な抗酸化作用に注目され、ビタミンEとの関係や、酸化ストレスマーカーとしての働きなどを明らかにされました。昨年11月には山本先生らを中心に「日本コエンザイムQ協会」が設立され、理事長として研究だけではなく、コエンザイムQ10の正しい知識の普及にも尽力されています。
 今月号は日本でいち早くコエンザイムQ10の研究に手がけられ"細胞の元気を実感できる"サプリメントとして、自らもコエンザイムQ10を愛用されている山本順寛教授にお話をお伺いしました。

コエンザイムQ10とは
体内で合成される補酵素
──生命に不可欠な基本物質──

──最近コエンザイムQあるいはコエンザイムQ10、略してCoQ10(コーキュウテン)とかよく耳にするようになり、老化予防の切り札という声も聞かれます。そこで研究の第一人者である山本先生に、コエンザイムQ10とはどういうものかお話をお願いします。
山本 コエンザイムは補酵素、Qはキノンの頭文字で、コエンザイムQとは、キノン化合物の補酵素ということになります。10というのはイソプレノイド側鎖の数です。コエンザイムQには側鎖の数が6〜12の同族体があって、人間はじめ高等動植物の多くはCoQ10、酵母や細菌などはCoQ6〜8が多く利用されています。
 酵素(エンザイム)は生体内で物質の分解や合成など、あらゆる化学反応の触媒となって働いています。補酵素はその酵素の働きを助ける働きをします。
 酵素は複合蛋白質で熱に弱く、一方、補酵素は酵素における非蛋白質部分で一般に熱に安定で、両者は結合した状態ではじめて触媒として働きます。
※キノン(quinone 水素2原子が酸素2原子と置換されたベンゼン核をもつ化合物の総称)
──補酵素ということでは、ビタミンなども補酵素の働きをしますね。
山本 そうです。
 ただ、ビタミンが食べ物など外界から摂取しなければならない栄養素であるのに対して、コエンザイムQは体の中でつくられます(生合成される)。つまり、生体の基本設計に組み込まれている基本部品の一つですから、食べ物から摂取する栄養素よりはるかに基本的な、われわれの生命活動に必須の物質なのです。
 コエンザイムQ10はほとんど全ての細胞に存在し、・細胞内のミトコンドリアではエネルギー産生に不可欠な成分として、また・ミトコンドリア以外の生体膜やリポ蛋白質中にも存在し、第一級の抗酸化物質としても作用している、生体にとって非常に重要な成分です。
 しかし、コエンザイムQの細胞内濃度は加齢とともに減少しますので、欧米ではサプリメントによる摂取が盛んになっています。日本でも2001年3月の食薬区分法改正でサプリメントでの利用が可能になり、高齢化が進む中、老化予防の切り札的な存在として期待されているというわけです。 

ユビキノンとも呼ばれるコエンザイムQ
──発見・研究の課程──

──コエンザイムQの重要性は昔から知られていたのですか。
山本 発見されたのは1957年で、アメリカのクレイン博士がウシの心筋ミトコンドリアからキノンを分離し、コエンザイムQと名付けました。ミトコンドリアは細胞内でエネルギーの元となるATPをつくる工場となっています。エネルギーの産生には一連の酵素がないとうまく働けませんから、そういうことから酵素を助ける物質としてコエンザイムQと名付けられたと思います。
 同年、イギリスのモートン博士は、ビタミンA欠乏飼料で飼育したラットの肝臓中に増える新規の物質を単離し、これが生物界に広く、また細胞のいろんなところにあるキノンであることから、"あらゆるところに存在する"という意味のユビキタスからユビキノン(ユビキタスキノン)と命名しました。
 翌年、両者は同一の物質であることが明らかになり、さらにアメリカのフォーカス博士を中心に化学構造が確定され(図1)、コエンザイムQとユビキノンは全く一緒の物質であることが証明され、ここから本格的な研究が始まりました。
 心臓はエネルギー代謝の盛んな臓器ですが、フォーカス博士は体内でコエンザイムQが不足すると心臓病にかかりやすくなることを明らかにし、日本では1974年に先進諸国に先駆けて心筋の代謝改善薬としてコエンザイムQを臨床に用いて成果を上げています。
 抗酸化作用については、1966年にタッペル博士がコエンザイムQに抗酸化作用があるのを見つけましたが、次第に忘れられ、80年代に入って数名の研究者の仕事があり、
90年代に入って急速に進展しました。
 私も89年から90年にかけて、過酸化脂質を測定する装置をつくっていた時に、分析の邪魔をする物質としてコエンザイムQが出てきて、最初は我々にとっては困る物質だったんですが、だんだんコエンザイムQがフリーラジカルに対して面白い働きをするということがわかってきまして、コエンザイムQの研究に本腰を入れるようになったわけです。 

老化を予防する2つの働き
細胞の元気の元「ATP」の産生

山本 人間の体は約60兆個の細胞からつくられています。その細胞が活動するのに必要なエネルギーは、1個の細胞の中に複数あるミトコンドリアという小器官(図2)で作られます。ミトコンドリアはエネルギーの生産工場であり、貯蔵庫にもなっています。
 ミトコンドリアは「細胞の呼吸装置」とも呼ばれ、食べ物から摂取した栄養素(糖質・脂質・蛋白質のエネルギー源)はミトコンドリアで酸素によって燃やされて、エネルギーの元になるATP(アデノシン三リン酸)に変えられます(図3)。これまで述べたように、このATPを作る上で、コエンザイムQは必須の物質なのです。
 生きていく上で我々はATPに依存しているわけですから、コエンザイムQが十分ないと、細胞の元気も生まれてこないわけです。ミトコンドリアもコエンザイムQも、エネルギーを多く必要とする心臓、肝臓、腎臓に特に多く含まれていますが、コエンザイムQが十分にないと細胞は力が出せず、臓器の機能も損なわれてしまいます。 

細胞障害の元「活性酸素」を消去し、体をサビから守る

山本 最近わかってきたコエンザイムQのもう一つ大事な働きは、体内のあらゆるところで抗酸化物質として働いていることです。
 コエンザイムQはユビキタスキノン(あらゆるところに存在するキノン)の別名通り、ミトコンドリアに限らず、あらゆる細胞膜、さらには血液中のリポ蛋白質にも存在しますが、その理由として現在では抗酸化物質として機能するためと考えられています。
 老化のメカニズムには、・ホルモン、・免疫、・フリーラジカル(活性酸素)の3つが関係しているといわれています。そのうち活性酸素は体内で細胞を傷つけ、それが老化の引き金になり、生活習慣病をはじめ多くの病気を引き起こす要因になることはよく知られるようになりました。
 活性酸素による酸化ストレスは、体をサビさせることで、老化に深くかかわっています。この活性酸素に対抗する抗酸化物質の代表選手がビタミンE、C、コエンザイムQなのです。
 活性酸素による酸化障害の中でも一番問題になるのが脂質の酸化です。私たちの体の中で一番酸化されやすいのは高度不飽和脂肪酸を含む脂質であり、脂質が一旦酸化されて脂質ラジカルになると、連鎖的に次々に酸化が進行します(ラジカル連鎖反応)。1つラジカルが出来たら、無防備の状態だと100も1000も過酸化脂質が出来てしまう。つまり、このラジカル連鎖反応が100回続けば100分子の脂質ヒドロオキシドが、1000回だと1000分子が生まれるわけです。
 それでは困りますから、そのためにビタミンEにプラス、コエンザイムQ、ビタミンCが必要になってくるのです。脂質の酸化を防ぐ主役はビタミンEですが、ビタミンEの能力をフルに発揮させるためには、コエンザイムQとビタミンCの助けが必要だということです。
 このことを、私たちはヒトの血漿を用いた酸化実験で確かめました。ヒトの血漿に銅イオンを加えて気温37度条件下で穏やかに酸化させて抗酸化物質と脂質過酸化物の変化を見たところ、前半ではビタミンCとユビキノール|10(コエンザイムQ10の還元型)が使われて過酸化物の生成を抑えていますが、ビタミンEはほとんど変化せず、ビタミンCとユビキノール|10が消滅した後半はビタミンEが残っているにもかかわらず、かえって脂質過酸化物(コレステロールエステルヒドロペルオキシド:CE|OOH)の増加が観測されたのです(
図4)。
 つまり、ユビキノール|10とビタミンCはいち早く脂質の過酸化を抑制しているわけです。ただ、脂質に馴染むのはビタミンEで水溶性のCではないですから、ビタミンCは水の中にあって脂質過酸化の引き金になるものを抑制する、そして、ユビキノール|10は脂質の過酸化を直接抑えているわけです。
 この現象は、ペルオキシルラジカルが、ビタミンEラジカルと反応する前に、すべてビタミンEに消去されてしまうためだとされています。
──ビタミンEはまず自分が酸化されてラジカルになることで油の酸化を守っている。しかし、ラジカル化したビタミンEは酸化を促進するので、その時に、ビタミンCは自分から電子をビタミンEにやって酸化されたビタミンEを還元させる。それと同じように、コエンザイムQ10も、酸化されたビタミンEを還元する働きをしているわけですか。
山本 同じ作用です。
 ただ、脂質の中にあるビタミンEの場合、水の中にあるビタミンCより、同じ脂質の中にあるユビキノール|10の方がビタミンEラジカルを還元するのにずっとやりやすいわけです。
 例えば、ビタミンEは細胞膜のリン脂質の酸化を防ぎますが、生体膜にビタミンEだけしかない場合にはかえって酸化を促進してしまいます。特にラジカルの量が少ない時にはそういう現象が非常に起きやすい。ところが、ビタミンEとコエンザイムQが一緒にあれば、非常にきちっと酸化を抑えてくれます。コエンザイムQはビタミンEを守ってくれるわけです。
──体の中で酸化を防ぐものとしてこの頃、ニンジンのβ―カロテンやトマトのリコピンなどのカロテノイド、赤ワインや緑茶のポリフェノール系の物質も注目されていますが。
山本 確かにカロテノイドやポリフェノールも大事な成分ではありますが、抗酸化の主役はあくまでビタミンE、C、コエンザイムQです。特に、脂質の酸化を防ぐという点ではビタミンEとコエンザイムQはトップランクです。
 カロテノイドは活性酸素の一つである一重項酸素に対しては素晴らしい働きをしますが、ラジカルの酸化に対してはほとんど無力ですし、ポリフェノールも水溶性ですから、脂質の酸化に対してはあまり得意ではないと思います。

高齢化社会で必要とされるサプリメントとしてのコエンザイムQ
加齢やコレステロール低下薬で減少

山本 体内にはコエンザイムQが大人で約700mgが存在し、中でも大量に含まれているのが、心臓、腎臓、肝臓、筋肉、膵臓、甲状腺、脾臓、脳などの組織です。
 体内で合成されるほか、毎日の食事から平均約5mgとっていますが、それでも細胞内のコエンザイムQの量は部位によっても違いますが、20代をピークに少なくなり、心臓などでは40代でピーク時の約30%、80代では50%以上減ってしまいます(図5)。
 このような重要な臓器を支えているコエンザイムQが加齢と共に減っていくのは非常に問題です。特に心臓は1日24時間休みなく活動し、その拍動エネルギーはATPによっていますから、ATPをつくるために必須のコエンザイムQが加齢と共に減ってしまうのは問題です。実際、心臓病の人では心臓の組織中のコエンザイムQが低く、それが心臓病の原因の一つになっていると考えられています。
 また、体の中でコエンザイムQが作られる過程は、コレステロールをつくる過程と途中までは一緒です(図6a)、そのため、コレステロール低下薬のスタチン系の薬(図6b)では、コレステロールと同一の生合成経路を持つコエンザイムQも同時に減らしてしまいます。
 コレステロールを下げるのは良いけれど、コエンザイムQまで下げてしまうのは問題です。スタチンには一部脱力感などの副作用もあるので、スタチンが処方される時にはコエンザイムQも一緒にとるのが良いと思います(図7)。 

心臓薬から一般向けのサプリメントへ

──最近アメリカに行くと、コエンザイムQ10のサプリメントがすごい人気で、それで我々も注目していたんですが。
山本 日本でコエンザイムQは1974年にうっ血性心不全薬として出て、一般には入手出来なかったんです。
 しかし、コエンザイムQは循環器系の病気の人に役立つだけではなく、すべての細胞に必要なものなのです。
──コエンザイムQ10をとることで細胞が元気になり、その結果、自分の中の弱い部分に対して「元気になった」実感がわくということでしょうか。
山本 おっしゃる通りです。
 欧米では80年代よりサプリメントで気軽に買えるようになり、たくさんの人が飲んで効果があり、それで広がったという背景から、日本でも2001年3月末に厚生労働省の通達が出て薬から食品に分類し直し、去年あたりから各社がサプリメントを出し始めてきているわけです。
 私は研究者でありますが、コエンザイムQ10の正しい知識を広めることも大切なことだと考えています。1997年に「国際コエンザイムQ10協会」が設立され、その下で昨年6月には「日本コエンザイムQ協会」の設立が承認され、11月に正式に発足し、理事長としてコエンザイムQ10の正しい知識の普及に努めているわけです。
 世界で活用されているコエンザイムQの原料は全て日本でつくられていますが、これも知られざる事実です。また世界中の医療現場で、コエンザイムQ10をさまざまな病気の治療に用いることも進められています。

最新のトピックス
──パーキンソン病の抑制
皮膚美容やスポーツにも貢献──

山本 その一つとして、昨年11月にロンドンで開催された「国際コエンザイムQ10協会」の大会で、カリフォルニア大学のシュルツ博士が行った「初期パーキンソン病の進行制御作用」の発表はとても興味深いものでした。
 パーキンソン病の原因が、ミトコンドリア機能に関する遺伝子異常によることと、パーキンソン病患者のミトコンドリア中のコエンザイムQ10濃度が正常値より低いことに着眼した患者投与試験で、パーキンソン病の初期患者80人を対象に、・プラセボ(16人)、・コエンザイムQ1日300mg(21人)、・同600mg(20人)、・同1200mg(23人)──の4群に分けて経過をみたところ、CoQ10の血中濃度は摂取量に応じて増加し、・群では16ヶ月目において明らかに症状の進行が抑制されました。
 この実験では、大量投与による副作用が見られなかったことも大きな成果といえます。
 もう一つのトピックスとしては、ドイツの化粧品会社が白人女性の皮膚表皮のコエンザイムQを測ったところ、やはり年齢による変化が非常に激しく(図8)、コエンザイムQ10入りのクリームの使用によって6ヶ月でしわの深さが27%、面積が26%減ったというデータです。
 コエンザイムQ10が十分にあれば、表皮中の細胞の活性が高まり、コラーゲンの新陳代謝が活発になるのではないかと考えられます。また、紫外線による活性酸素の生成も皮膚の老化の大きな引き金になりますが、コエンザイムQ10の抗酸化作用も肌の老化を防いでくれるのに役立ってくれます。
 スポーツの分野でも多くのアスリートたちがコエンザイムQ10を愛用しています。運動はエネルギーを大量に消費し、その分、活性酸素も大量に生成されますから、アスリートたちが愛用するのも当然のことと納得されます。

効果的なとり方
──どの程度とれば老化防止に役立つか──

──老化予防にコエンザイムQ10はどの程度とればいいのでしょうか。
山本 体内のコーキューテンが減る40代半ば以降は健康維持や老化防止の目安に、1日30〜60mgとることが望ましいといわれます。
 アメリカでは消費者が自分に適した含有量のサプリメントを選んで使うのが常識となっています。私は比較的多目に1日100mg程度はとった方がよいと考えています。
 30mgのコエンザイムQ10を食物でとるには、イワシなら約6匹、牛肉なら約950g必要です。100mgではイワシ20匹が必要ですね(表1)。
──食物からコエンザイムQを十分量とるとなると、相当高脂肪・高蛋白になってしまいますね。
山本 そういう意味からも、サプリメントからの摂取がすすめられます。
 コエンザイムQは油に溶けるものですから、単独では吸収効率が悪い。ご飯を食べた時に食べ物と一緒にとるといいですね。
──過剰症の心配はないのですか?
山本 心配は全くないと考えられています。
 先ほどのパーキンソン病に関するアメリカのスタディーでも、1日1200mgという量をとっても副作用はありませんでした。
──欧米型の高脂肪・高蛋白食は生活習慣病の引き金になるということで、日本食が見直されていますが、老化だけではなく生活習慣病の予防にはバランスのとれた日本食をベースに、コエンザイムQ10をサプリメントで補うことがすすめられるわけですね。
山本 はい。私自身も食事は日本食を基本に、食べ過ぎに気をつけ、コエンザイムQ10のサプリメントは、朝昼晩と分けて1日200mgくらいとっていますが、大変体の調子がよいです。
 40代を過ぎたら、コエンザイムQ10のサプリメント摂取を含めたこうした食生活をおすすめします。