目、いつまでも若々しく

眼の生活習慣病(黄斑変性症・白内障・緑内障)にルテインとゼアキサンチン

葉山眼科クリニック院長 葉山隆一先生

急増している目の生活習慣病
──黄斑変性症・白内障・緑内障──

 目の悪い人が今とても増えているといわれます。
 背景には、高齢人口の急増に加え、食生活をはじめ生活習慣の欧米化、環境汚染、TVゲームやコンピュータ、車の運転などによる目の酷使──等、現代ならではの生活環境・習慣が大きく影響していると指摘されています。
 特に問題になっているのが、黄斑変性症、白内障、緑内障など老化が引き金になる目の生活習慣病です。老眼や飛蚊症などを含めて40代、早い人では30代でなる人も増え、白内障では約1000万人、そのうちの30%が40歳代と推定されています。
 中でも急増しているのが網膜の病気の黄斑変性症で、厚生労働省の調査ではここ6年間で患者数は2倍にも増えています。この病気は決定的な治療方法がなく、最悪の場合は失明に至り、欧米では以前から成人後失明原因のトップクラスになっている怖い病気です。
 こうした目の生活習慣病に、食事・栄養面から大きな治療成果を上げられている葉山眼科クリニックの葉山先生は、「高齢化社会、IT革命(情報革命)の進展で、目の果たす役割は今後ますます大きくなっていく時代、若いうちから食生活をはじめとする目に良い生活習慣を心がけることが大切」と強調されています。
 食事・栄養は土台作りとおっしゃる葉山先生に、目に良い食事・栄養、中でも今最も注目されているルテインとゼアキサンチンを中心にお話をうかがいました。

目の生活習慣病の予防と改善にルテイン・ゼアキサンチン
目に存在するカロテノイド

──目の生活習慣病にも食事や栄養の重要性がいわれ、最近は目に特異的に良い食物成分も注目されていますね。
葉山 目は代謝が盛んな器官で、各栄養素を大量に消費します。ビタミンではβ―カロチンを含めてA、B群、CやE、ミネラルの亜鉛などの微量栄養素は目の健康に欠かせないものです。
 特に最近大変注目されているのが、カロテノイドの仲間のルテインやゼアキサンチンです。
 カロテノイドは動植物に広く分布する黄・橙・赤・紫などの鮮やかな色をした天然色素で、確認されているだけでも600種類以上あります。
 人間を含めて動物は体内でカロテノイドを合成することが出来ないので、植物や微生物(細菌類や藻類)が合成したものを食物として摂取して、皮膚の色や生体の維持に役立てています。
 食物から摂取し、血液に吸収されたカロテノイドは、特定のカロテノイドが特定の部位に蓄積され、用途に応じて出動します。
 そのうち、目に蓄積されているのはルテインと、その同族で構造も働きもよく似ているゼアキサンチンだけで、この二つのカロテノイドは常にセットで存在し、協力して働いています。ですから、私の話でルテインは、ゼアキサンチンと一緒になっていると思ってください。

強力な抗酸化力で目を酸化の害から守る

葉山 カロテノイドには抗酸化作用や抗がん作用があり、自らが酸化することで細胞などの酸化障害を防いでくれます。
 中でもルテイン、ゼアキサンチン、リコピンには優れた効果があることが最近の研究で明らかになっています。
 それまで「緑黄色野菜を多くとっている人ほどがんの罹患率が低い」という疫学調査から、緑黄色野菜の抗酸化作用、抗がん作用は主にβ―カロチンによると思われていました。しかし、アメリカの研究で人間の血清中からはβ―カロチンを含めてカロテノイドの酸化物は見つからなかったのです。ただ、β―カロチンは目、特に網膜には重要なビタミンAの前駆物質としてやはり必要な栄養素です。
 ルテイン(とゼアキサンチン)は目の中でも、特にカメラでいうとレンズにあたる水晶体や、光を受けて像を結ぶフィルムにあたる網膜、その網膜の中でも網膜の中心にあって光が集中的に入り、ものを見る中心的な働きをする黄斑部に多く存在し(図1)、黄斑部が黄色いのはルテインの色によっています。
 ものを見るのに光は必要不可欠なものである反面、体内で活性酸素を生成し、活性酸素は細胞などを酸化させて傷害します。太陽光の中でも紫外線は大量に活性酸素を生成し、蛍光灯や電球の光も作用は弱いものの酸化力があります。ハーバード大学の研究では、ルテインは光の中でも特にエネルギーが強い青色光を吸収して、目の酸化障害を防いでくれることが明らかになっています。
 ですから、目の中でも水晶体や網膜など、光による酸化障害を最も受けやすいところにルテインが多く存在しているというのは生体の妙としかいいようがありません。
 実際、ルテインの摂取は、老化やストレスなどによる目の生活習慣病に素晴らしい効果があります。それはルテインの蓄積量は加齢やストレスで不足してくるからだと考えられます。

黄斑変性症にはほぼ100%有効

葉山 中でも、黄斑変性症にルテインは特別の力を持っています。
 黄斑部の脂質や細胞が酸化変性されると、ものをきちんととらえられなくなり、ものが歪んで見えたり、視野の中心が見えにくくなって暗くぼんやりしたり、色覚異常が起こって色が見分けにくくなったりして、次第に視力が低下していきます。これが黄斑変性症です(図2)。
 ルテインはこの黄斑部の脂質や細胞の酸化変性を強力に防ぐことで、黄斑変性症を予防してくれるのです。
 ルテインが黄斑部にあるのが見つかったのは1945年ですが、その働きがわかってきたのは80年代半ばからで、米農務省やFDA(米国食品医薬品局)、ハーバード大学を中心に研究が急速に進み、私自身84〜86年にかけてハーバード大学に留学した折、同様の研究・調査に何度も参加しました。
 90年代に入ってからはルテインの黄斑変性症への予防効果が次々報告されるようになり、
・ルテインの血中濃度が高いほどリスクが低減(93年)、
・ルテインを日常多くとっているグループは、ほとんどとらない、または全くとらなかったグループに比べ罹患率が43%低下(94年)、
・黄斑変性症のリスク低下にルテイン以外のカロテノイドは効果がなかった──などのことが報告されています。
──先生は実際の治療にも素晴らしい効果をあげられているそうですね。
葉山 そうなんです。ルテインは予防だけでなく、すでに黄斑変性症になってしまった患者さんに、ほぼ全員有効という素晴らしい効果があることが私の臨床試験で明らかになりました(図3・表1)。
 実際の治療にも有効ということは、ルテインは黄斑部の酸化障害を防ぐだけではなく、異常が起こっている部分に直接作用していると私は考えています。
 黄斑変性症では、黄斑部にはもともとない血管(新生血管)が現れ(図2)、これが複雑にからみ合ったり、出血を起こしたりして障害を起こします。
 新生血管には今のところ、レーザーで焼きつぶす光凝固法などの対症療法しか手立てがないのですが、ルテインを摂取すると新生血管が萎縮しているのが観察されます。
 ということは、ルテインには新生血管を萎縮させる作用があり、さらに萎縮した新生血管はその後のルテインの摂取によって自然消滅する可能性もあると考えられます。また、新生血管が萎縮・退行した後、黄斑部で明・暗順応(明るさや暗さに馴れる反応)をつかさどっている錐体細胞の状態が良くなって、光覚が改善されることも私の臨床試験でわかりました。
 黄斑変性症では飛蚊症も現れます。目の前に黒い蚊のようなものが数匹チラつく程度なら問題ありませんが、多量に飛んで物が見づらいほどになったら黄斑変性症の疑いがあります。また、黄斑部に血漿がたまってふくらむ中心性網膜症も黄斑変性症へ発展することがあります。とにかく、黄斑変性症はほっておけば失明することもある怖い病気です。ルテインを摂取する場合にも必ず診断を仰ぐことが大切です。

白内障にも大きな効果

──ルテインは白内障にも有効だそうですね。
葉山 白内障は光や高血糖による糖化などで水晶体の蛋白質が酸化変性して白濁し、視力が低下していく病気です。
 ルテインが水晶体にも多く蓄積されているということは、水晶体の機能維持にも働いていると考えられます。実際、アメリカでは、・ルテインを多く含むホウレン草を週4皿食べた人たちでは白内障が40%も減少したのに対し、β|カロチンが豊富なニンジンやサツマイモ、カボチャなどを週5皿摂取した人には効果がなかった、
・ルテインの摂取量が高い女性では白内障のリスクが22%、男性では19%低下したことがわかっています。
 私の臨床試験でも、ルテインの摂取で水晶体の濁りが改善し、視力が向上するなど、症状が改善されました(表2)。
 水晶体が一旦混濁すると元に戻らないというのがこれまでの眼科の常識でしたが、ルテインが症状を改善させたということは、ルテインには水晶体をはじめ角膜、硝子体、網膜の透明性を維持し、その土台を再強化する働きがあるのではないかと私は考えています。
 そう考えるとルテインが目に良いのは当然の成り行きなんですね。目が光を通してものが見えるというのも、光を通す目の部分が透明であるからこそ可能なんです。
 白内障が進行すると手術ということになりますが、多くの場合、手術するほど進行しておらず、また手術自体を嫌がったりと、見えづらいのを我慢している人が実に多いのです。そういう人はあきらめないでルテインを試していただきたいと思います。

緑内障にも有効

──緑内障においてはどうですか。
葉山 黄斑変性症や白内障ほどではないものの、緑内障においても眼圧を低下させる点眼薬との併用で、視力向上や眼圧低下の効果が見られています(表3)。
 緑内障は、房水の流れが悪くなって眼圧が上がったり、血流障害などによって、視神経が萎縮していく病気です。
 ルテインの摂取では、眼内の血流や視神経の血流が増加していることが認められています。こうした血流改善作用も緑内障に良い影響を及ぼしている可能性も考えられます。
 また、ルテインには目の血管を丈夫にする働きもありますから、それによっても、目全体の機能を強化する効果が期待できます。 
目をいつまでも若々しく
ルテインの効果的なとり方
ケール・ホウレン草…
緑の濃い緑黄色野菜に多い
──目の健康を保つための、ルテインの効果的な摂取法をお願いします。
葉山 ルテインは体内では作られないので食物からとるしかありません。
 緑黄色野菜、特にケールやホウレン草など緑の濃い野菜に非常に多く含まれていますから、まずは日頃からこうした野菜を多くとることです(図4・表4)。そうすれば、他のカロテノイドやビタミンC、カルシウムなど他の微量栄養素も一緒にとれます。
 中でもホウレン草はとりやすさや、栄養効率からもすすめられます。ルテインは加熱しても損なわれないので、おひたしや油炒めをはじめいろんな料理に利用できます。苦味が強いケールは青汁や粉末などでとるといいでしょう。
 ルテインは血液の中でコレステロールに乗って組織に運ばれますから、善玉コレステロール値を上げる植物油や魚油のDHAなども適正量とることが大事です。
 また、他のカロテノイドとの複合摂取(マルチカロチン)で相乗効果をあげますから、いろいろな野菜や果物をバランスよく満遍なくとることも大事です。

がん年齢になったら心して摂取

葉山 40歳を過ぎるとルテインの蓄積量は減ってきます。がん年齢といわれる40歳を過ぎたら、積極的にルテインをとるようにしたいものです。
 ちなみにルテインには肺がんや大腸がん、子宮がん、乳がんなどの予防効果も明らかになっています。ルテインは子宮頸部にも多く蓄積されていることがわかっています。
目安量は日に6mg
過剰摂取には要注意
──1日にどのくらいとれば効果がありますか。
葉山 目の健康維持に摂取の目安は、ホウレン草で1日60g程度、ルテイン自体で1日に6mg程度が望ましいとされています。
 10mg以下では過剰症の報告はありませんが、とり過ぎは決して好ましいことではありません。特にサプリメント(栄養補助食品)で摂取する場合は、純粋なだけに過剰摂取には注意したいものです。
 栄養素は全てバランスが大事で、多ければ良いというものではないのです。

サプリメントからの摂取

葉山 食事から十分なルテインをとれない人や、すでに黄斑変性症や白内障を患っている人はサプリメントをおすすめします。
 アメリカの研究ではホウレン草からの摂取に比べ、サプリメントではルテインの体内活性が約2倍も高かったことが報告されています(図5)。
 ちなみに、サプリメントに入っているルテインは、ハーブのマリーゴールドの花弁から抽出した不純物のない純粋のルテイン(精製ルテイン)が望ましいとされています。ホウレン草などの野菜に比べて、マリーゴールドは一種の雑草ですから栽培しやすく、大量採取が可能で、ルテインの純粋抽出がはるかに簡単なんです。

ブルーベリー(アントシアニン)との併用で相乗効果

葉山 なお、目にはブルーベリー(野性種のビルベリー)に多い暗青紫色素のアントシアニンも、黄斑変性症や網膜症、また、近視や遠視などの視覚改善に非常に効果があることが知られています。
 ルテインと一緒にとることでさらに良い効果が期待でき、私自身治療にブルーベリーを併用して、黄斑変性症や網膜症などに効果をあげています。
 網膜には光に反応して、脳に伝える働きをする視細胞があり、この中にはロドプシンという物質があります。ロドプシンは光の刺激を受けるとビタミンA(レチナール)に分解され、分解されたビタミンAはすぐにロドプシンに再合成されます。この分解・再合成の連続作用で光を信号に変えて脳に送り出すわけですが、目を酷使するとロドプシンの働きが鈍り、特に再合成がうまくいかなくなり、これが視力低下などにつながります。アントシアニンは、このロドプシンの再合成を促進することがわかっています。
 アントシアニンもルテイン同様、強力な抗酸化物質ですが、私はアントシアニンの血管を強化したり、血行を促進する働きがこうした視覚改善効果につながっているのではないかと思っています。
 特に効果があるのは野生種のビルベリーで、ブルーベリーはジャムよりドライフルーツでとることをおすすめします。
 注意したいのは、やはり目に良いといわれるアスタキサンチンとの併用ではルテインの効果がなくなるということです。アスタキサンチンは藻類や蟹やエビなどの甲殻類に多く、人間の体には存在しないカロテノイドです。蟹やエビなどにあたることがよくあるのは、アスタキサンチンがアレルゲンになっている可能性が考えられます。

目に良い生活習慣で脳から全身まで健康に!

葉山 今、30年前の日本ではほとんど見られなかった黄斑変性症などが急増しているのには、食生活の欧米化が進んで野菜や果物が不足したり、動物性脂肪の過多などで動脈硬化など血管・血流障害が大きく影響していると思われます。
 また、タバコや、大気汚染物質も目に大敵です。空気中の酸素やタバコの煙を含めて大気汚染物質も体内で活性酸素を生成します。目は光だけではなく、常に大気にもさらされているのでより酸化障害を受けやすいのです。特にタバコが目に悪いのは多くの研究で明らかです。実際タバコを吸うとルテインが著しく消費されることがわかっています。黄斑変性症が男性の方に多い一つには喫煙の影響も指摘されています。
 目の酷使、運動不足、睡眠不足、ストレスも大敵であるのはいうまでもありません。
 胎生期からいうと目は脳の一部なんです。だから目が悪くなれば脳もボケる、反対に目が良くなれば痴呆症も治ってきます。目はそれほど大事な器官です。日頃から目に良い生活習慣を心がけることは、脳から全身の健康につながります。