ボケない・切れない脳を正常化活性化させる栄養・食品

鍵となる神経伝達栄養・食品 ドーパミンとセロトニン

埼玉医科大学 野村正彦教授

新時代に入った脳科学──ブラックボックスに光

 人間の脳はあらゆる生命活動の司令塔であり、基本的な生命維持機能から、喜怒哀楽の感情、さらに言語、学習・記憶、創造といった高度な知的機能を司っています。
 このように、人を人たらしめているのは高度に発達した脳のお蔭ですが、脳の研究は長い間手探り状態で、脳はブラックボックスといわれていました。
 近年、CT(コンピューター断層撮影)やMRI(磁気共鳴画像装置)などのハイテク機器の開発で、生きている人間の脳の活動状態を血流量などから観察できるようになり、また、遺伝子解析や分子生物学の進展によっても、脳の精巧な仕組みや心の働きが明らかにされつつあり、脳の研究は新時代に入ったといわれています。
 埼玉医科大学の野村正彦教授は、分子生理学の分野から脳の機能を、神経伝達物質、特にドーパミンとセロトニンを通して研究され、中でもセロトニンは「ボケが心配される高齢化社会、殺伐な事件の絶えない現代には特に必要とされる」とその重要性を指摘されています。
 野村先生にドーパミンとセロトニンを中心に、脳を活性化する食品・栄養についてうかがいました。

脳と栄養 脳は大量のエネルギーを消費する
──ブドウ糖と酸素──

──生体はエネルギー源として糖質、脂質、蛋白質を利用していますが、脳のエネルギー源はブドウ糖と酸素しかないといわれますね。
野村 脳はエネルギー源としてブドウ糖(グルコース)しか使えないんです。肝臓や筋肉はブドウ糖をグリコーゲンとして貯蔵していますが、脳にはその貯えがほとんどなく、脳細胞は絶えず血液中のブドウ糖をとり込んで主にTCAサイクル(クエン酸サイクル)で燃やしてエネルギーにしています。
 脳は非常にエネルギー代謝の活発な器官で、脳の重さは体重のわずか2%と、体重70kgの人では1400g程度しかありませんが、脳は全身のエネルギーの実に18%も消費しています(図1)。
 この脳のエネルギー代謝はグルコースと酸素に支えられ、心臓から拍出された血液の15%は脳に流れ、酸素に至っては全酸素摂取量の20%も必要としています。
 ですから、筋肉は血流を止めても30分後であれ血流が再開すれば回復可能ですが、脳に血液が全く行かなくなれば10秒以内に意識がなくなり、数分で回復不能のダメージを受けます。それだけ脳は他の臓器や組織と違って、大量の糖分と酸素を必要としているわけです。それは、脳が大変高度な機能を行って活動量が高いということですね。
 呼吸にしろ、心臓を動かすにしろ、脳は生命維持にかかわる基本的な機能を、自律神経を介して睡眠中でも行っています。食べて生きているだけという下等動物でも自律神経は脳の真ん中にある脳幹に局在して絶えず働いているわけです。さらに哺乳類になり、霊長類になり、人間になると生命維持以外の機能、例えば考えたり、言葉を獲得したり、創造するといった高度の機能を大脳皮質で行っているわけです(図2)。

他の栄養素
──構成成分の脂質と蛋白質──

──エネルギー源はブドウ糖だけですが、脳の正常な働きには脂質や蛋白質、ビタミンやミネラルなどの栄養素も必要なのですね。
野村 エネルギー源は糖質だけですが、脳も他の臓器と同じように全ての栄養素が必要です。
 脳は、・神経細胞(ニューロン)、・グリア細胞、・血管の3つから成り立っていますが、その主役は神経細胞です。神経細胞は、グリア細胞が毛細血管からとり込んだ栄養素をとり入れて老廃物を捨てて環境を整えています。つまり、脳細胞は分裂増殖はしないけれど活発な代謝はしているわけです。
 健康維持には毎日食べ物を栄養的にバランスよく摂取し、消化・吸収することが重要です。特に脳への十分な栄養分の供給は、脳本来の働きはもとより、その命令で働いている全身のいろいろな細胞や組織、臓器と体全体にも必須です。
 脂質に関しては、脳の乾燥重量の約50〜60%は脂質です。細胞膜や核膜など膜を構成するリン脂質、神経細胞間をつなぐシナプスの合成には魚油に多いDHA(ドコサヘキサエン酸)などが必要です。機能的にもこうした脂質が不足すると知能の発達に悪影響します。
 蛋白質は、脳の機能に特に重要な栄養素です。いろいろな神経活動を担っている神経伝達物質は、蛋白質の構成成分であるアミノ酸そのものであり、形を変えて活性アミンとして働いたり、神経蛋白質(ペプチド)として働いています。
 ビタミンやミネラルも補酵素として、脂質や蛋白質の代謝に必要ですし、神経伝達物質の合成にも必要です。特にビタミンB群は重要で、不足するといろいろな神経障害を起こすことが知られています。ミネラルは輸送システムや、金属酵素の成分に欠かせません。特にカルシウムは神経細胞間の情報伝達に重要なミネラルです。

脳の機能と神経伝達物質
神経ネットワークと神経伝達物質

──今日は神経伝達物質のドーパミンとセロトニンとの関連で脳の働きを良くする栄養・食品についてお話ししていただきますが、まずは神経伝達物質とは何かということからお願いします。
野村 人間の脳には約1千億個の神経細胞(ニューロン。図3)があります。神経細胞はそれ自体では機能せず、一つの神経細胞の興奮(電気的信号。インパルス)が、他の神経細胞に伝わることで機能しています(図3)。
 この神経細胞間のさまざまな情報伝達を担っているのが神経伝達物質です。現在50種類以上の神経伝達物質が見つかっており、それぞれ脳の固有の働きにかかわっていると考えられています。また、特定の神経伝達物質を受け取る受容体(レセプター)も一つとは限らず次々に見つかっています。

神経伝達物質と蛋白質

──神経伝達物質は神経細胞が作るのですね。
野村 そうです。
 神経伝達物質は、蛋白質の基質であるアミノ酸を原料に神経細胞が合成するアミン(モノアミン、脳内アミン)や、またアスパラギン酸やグルタミン酸など直接神経伝達物質として作用しているアミノ酸もあり、さらにアミノ酸が数種類結合したペプチド(小型の蛋白質)もあります(表1)。
 人間に必要なアミノ酸は約20種ありますが、そのうち体の中で合成できず、食べ物からとらなければいけないアミノ酸を必須アミノ酸といい、神経伝達物質を作る必須アミノ酸はフェニルアラニンとトリプトファン、メチオニンがあります(表2)。
 材料となるアミノ酸が不足しても、直接神経伝達物質となるアミノ酸が不足しても、神経伝達物質は欠乏してしまうので、神経活動になくてはならない神経伝達物質そのものが作用できない状態が起きてしまいます。ですから、脳の機能にはこうした物質を不足させないことが大切です。
情動の制御とモノアミン
──ドーパミン・セロトニン── 
精神活動に重要な神経伝達物質「モノアミン」
野村 神経伝達物質の中でも、特に情動や知的機能に重要になる神経伝達物質が、ドーパミン、ノルアドレナリン、セロトニンです。
 これらの神経伝達物質はモノアミン(活性アミン、生体アミン、脳内アミン)と総称され、昔から行動の制御に密接な関連性があることが知られています。
 モノアミンには、ノルアドレナリンやドーパミンなどカテコール基を持つ構造式のカテコールアミンのグループと、セロトニンなどインドール基を持つ構造式のインドールアミンのグループとがあります。

覚醒・興奮・意欲に働くカテコールアミン系のドーパミン

野村 カテコールアミン系のモノアミンは、必須アミノ酸のフェニルアラニンや非必須アミノ酸のチロシンから作られ、やる気を起こさせたり、興奮させたりする働きをします。
 必須アミノ酸のフェニルアラニンは脳内では働かず、肝臓内で水酸化酵素が働いてハイドロキシル基(OH基)が1つつくと脱炭素酵素が働いてカルボキシル基(COOH)が飛んでチロシンというアミノ酸になります。
 このチロシンが脳内で、水酸化酵素が働いてOH基が1つつくとドーパというアミノ酸になり、ドーパに脱炭素酵素が働くとドーパミンになり、ドーパミン作働性神経系の神経伝達物質として機能するわけです。さらに、ドーパミンからは、興奮物質として知られるノルアドレナリン、アドレナリンができます(図4)。
 ドーパミンは、A|10と呼ばれる原始的な神経核から始まって高度な機能を司る前頭葉まで達している神経系に作働して、快楽や興奮、また思考力や集中力、運動機能に関係しています。
 ドーパミンの働きはその不足で起きる「パーキンソン病」からも知ることができます。パーキンソン病は中脳黒質のドーパミンを作る神経細胞が変性壊死してドーパミンが作られなくなり、ふるえ(振戦)、筋肉のこわばり(筋強剛)、動作の緩慢(寡動)などの運動障害や、高齢者では痴呆も起きてきます。治療にはドーパミンの投与が考えられますが、アミンは一種の異物ですから、血液の中には脳関門といって悪いものは脳に入れない機構があるので、ドーパミンを直接投与しても入っていかないのです。そこで、Lドーパというドーパミンになる
1つ手前の物質を飲ませたり、注射したりすると、脳の中でドーパミンになって劇的に改善したという有名な逸話があり、今も治療に使われています。
 ドーパミンは構造的に覚醒剤とよく似た構造を持ち、過剰になると、食欲や性欲など本能的な欲求が強まり、また幻覚や妄想が出てくるようになるといわれます。

抑制・鎮静に働くインドールアミン系のセロトニン

野村 インドールアミン系のモノアミンは、ドーパミンやアドレナリンなど興奮に働く物質とは逆に、神経を鎮め、抑制する方向に働き、リラックスした状態を作り出します。
 インドールアミン系は、必須アミノ酸のトリプトファンを材料に脳内で水酸化酵素や脱炭素酵素の働きによって、セロトニン、N|アセチルセロトニン、メラトニンに変化します(図5)。中でもセロトニンは、セロトニン作働性神経系の神経伝達物質としてインドールアミンの基質そのものとして働き、他の神経系に対して抑制的に働きます。
 最近、衝動殺人事件だとか、親が子を殺したり、子供が親を殺すといった不本意な事件が目立ちます。これはドーパミンやアドレナリンが過剰になると興奮しっぱなしになって自分自身を制御できなくなり、怒りを爆発させて人に危害を与えてしまいます。ですから、現代はむしろそれを抑えるセロトニンのような物質を十分とる必要があると思います。動物実験でも、セロトニンの材料となるトリプトファンを減らした餌を与えたネズミは凶暴になって、他の正常なラットに噛みつくようになります。
 一方、セロトニンが過剰になると、抑鬱的な気分に陥りやすくなります。

学習・記憶機能とドーパミン・セロトニン
老化ラットも学習次第
──ドーパミン作働神経を壊すと若いラットも憶えない──

野村 私の一番興味ある研究テーマは、脳はどのように記憶、学習しているのかということです。
 ことに、たかだか16年間位で世界一の長寿国になった日本では、80や90になってもボケずに、自分の身のまわりのことはどうにかできるようでないと大変な社会問題になります。日本は欧米と違って、急速に高齢化社会になったことで、受け入れ態勢ができていません。ですから、脳の働きをちゃんとしてボケないようにするにはどうすれば良いかをいつも考えてこれを裏づける実験を重ねています。
 私の実験方法は、刺激に対して餌という報酬を与える「正の課題」で行ってます。電気ショックや水に入れていじめる「負の課題」は実験が簡単ですが、ストレスによる変動もあり、第一それでは人間に置き換えられません。非常に手間暇がかかりますけれど正の強化学習実験を行っているわけです。
 実験は、年齢2年の人でいえば90〜100歳に当たる老化ネズミ(ラット)と、月齢3ヶ月の人でいえば20歳位に当たる若いラットに、20秒間電気がついている時にあるレバーにさわると餌が出て、次の20秒間は電気を消してレバーにさわっても餌が出ない2つの条件を弁別させます(図6)。餌は1日の中でこの実験の時しか与えないので、ラットは一生懸命餌にありつこうとレバーを押します。
 そうすると、若いラットは2週間以内位で80〜90点位取れるようになります。しかし、老化ラットは4週間やらせると80点位とるようになるんです。つまり、老化ラットもゆっくりだけど、学習していくうちに覚えていくわけです。
 ところが、その学習を1ヶ月位毎日続けて翌日から条件を逆にする逆転学習を行うと、若いラットは逆転したことを6日位で判断できるようになるのですが、老化ラットは2週間経っても4週間経っても覚えない。というより、最初の学習課題に固執していつまでも電気がついている時にレバーを押すんです。これは人間でもいえることで、年を取ると環境の変化についていけなくなるんですね。
 ところが若いラットでも、ドーパミンやアドレナリンの作働神経系を壊してしまうと、老化ラットと同じような脳、つまり学習ができない脳になってしまうんです。ドーパミンは集中力や注意力といった機能に必要な神経伝達物質だということですね。

セロトニン欠乏食では学習能力が低下

野村 この学習を、正常蛋白の餌を与えたラットと、セロトニンの材料となるトリプトファンが少ないトウモロコシを与えたラットに行うと、正常餌ラットは10日もすると80点になり、90点に近い成績を示します。しかし、トリプトファンの足りないラットは80点以下止まりです(図7A)。
 さらに逆転学習では、正常餌のラットは5日目、6日目位になると条件が逆になったことが判断できるようになりますが、トリプトファンの足りないラットはばらつきが多いだけではなく、成績が上がってこないんです(図7B)。
 トウモロコシには必須アミノ酸のトリプトファンが非常に少なく、トウモロコシだけ食べていると、血中でも脳内でもトリプトファンもセロトニンも、セロトニンの代謝物も少なくなります(図8)。その昔、中南米地域の人々はトウモロコシを主食として「ペラグラ」という病気を起こしたのです。この病気になると、太陽に当たると皮膚が真っ赤になるという皮膚症状の上に、知能低下も起きていたのです。

学習中の脳の中では、ドーパミンが増えている

──ドーパミンの神経系を壊すと学習能力がなくなるということですが、ドーパミン欠乏食の実験はないのですか。
野村 ドーパミンの欠乏食というのは作れないんです。なぜかというと、ドーパミンの材料となるチロシンはどんな食べ物の中の蛋白質にもいっぱい入っているからです。
 それで最近、学習させるとドーパミンが増えるという実験を始めました。
 実験は、学習中のラットの脳に直接、透析膜のチューブを海馬まで差し込んで、膜部分から灌流した液を採取して分析するものです(図9)。海馬は大脳辺縁系にあって、記憶したものは一旦、海馬に納められてそこで整理されて、大脳皮質にためられていくんですね。今までは学習を終った後に動物を殺して脳の中身を測定していたんですが、この実験方法を考えついたために、学習している最中の脳内の物質変化が測れるようになったわけです。
 その結果、学習の最中には、ドーパミンもドーパミンの代謝物であるドパックやホモバニリン酸も、学習前より増えているのが分かりました(図10)。
 ただし、これは若いラットの話で、年を取ったラットは増えなかったんです。ところが、老化ラットもセロトニンの代謝物は増えていたんですね。
 結局、記憶・学習にはセロトニンも関与するし、ドーパミンも関与する、両方なければいけないということですね。ただ、先ほども申しましたが、情動面からいうと現代では興奮に働くドーパミンより、セロトニンの方がより必要とされているのではないかとは思います。

ボケない、切れない
 脳を活性化する栄養・食品 必須アミノ酸中心にアミノ酸のバランスよい摂取

──切れる若者もボケる老人にも、脳の機能を正常に活性化するには神経伝達物質の材料となるアミノ酸が鍵となるわけですね。
野村 そういうことですね。
 脳の正常な機能の活性化には、集中とリラックスの切り替えがうまくバランスがとれていることが重要です。それには、カテコールアミン系のドーパミンもアドレナリンやノルアドレナリンも必要ですし、それを抑える側のセロトニンも必要です。
 それ以外にも、グルタミン酸も、アセチルコリンもあり、脳に必要なものは全部必要なわけです。ですから、自分の体の中では作れない必須アミノ酸を中心に、いろいろなアミノ酸を摂取することが大事です。
 特に、セロトニンを作るトリプトファンは蛋白質の中でも非常に量の少ない必須アミノ酸ですから、欠乏になりやすいんです。
 一方、グルタミン酸は血中では他のアミノ酸と同程度なのですが、脳の中にどういうわけか200倍もあるんです。これは人間の古来の脳がグルタミン酸が必要だということでポンプのような形で一生懸命とり込んでいると考えたらいいと思います。足りなくなると困りますが、とり過ぎると、「チャイニーズレストランシンドローム」といって、中華料理は化学調味料(グルタミン酸ソーダ)を大量に使うので、人によっては血圧が下がったり頭が重くなったりする症状が出ます。大量にとれば何でも悪いわけです。
 また、ドーパミンの材料となるチロシンも先ほども申しましたが、どんな食品の蛋白質にもある非常にありふれたアミノ酸ですから、蛋白質の豊富な食品をとっている限り、欠乏することはありません。
──ドーパミンを増やすには筍が良いとか聞きますが。
野村 筍の白い粉がドーパミンの材料となるチロシンというわけですが、今いったように普通の食事でチロシンが不足することはまずありませんので、特に注意して筍をとる必要はないと思います。

──すぐれたセロトニン供給源──
バナナをとってセロトニンをしっかり確保

野村 トリプトファンは牛乳、マグロ、納豆・豆腐・味噌などの大豆製品、それとバナナやパイナップルに多いんです。
 特に私はバナナをしっかり食べようと提案しているのですが、セロトニンの合成にはトリプトファンだけでなく、糖質やビタミンBも必要です。バナナにはそれらの栄養素も多く、また皮をむくだけで簡単に食べられるので、落ち着きのない子や怒りっぽい人にはバナナを朝食やおやつに食べさせるとよいと思います。朝食時やおやつの時間というのは低血糖になりやすい時間帯なので、そういう意味でもバナナはおすすめです。
 バナナは夜食にもおすすめできます。果物は消化酵素も多いので消化の負担も少なく、セロトニンそのものに鎮静効果がある上に、セロトニンから作られるメラトニンには睡眠を誘導する働きがあります。ただし、これから徹夜で試験勉強という時は食べないことですね。眠くなりますから。

ボケ予防の最大の秘訣は記憶のイン&アウト
──毎日新しいことを覚えてそれを引き出す──

──脳の活性には、アミノ酸たっぷりの食べ物と、先程の老化ラットの学習テストのように、やはり頭を使うことが大切なんですね。
野村 結論はそれなんです。脳は使わなければ駄目ということです。
 老化ラットも学習すれば80点とるんですから毎日、身近な事柄で好きなものを一つでもいいから新しいことを覚える。ただ、覚えただけでは引き出しにしまい込んでしまうだけですから、引き出しをしょっちゅう開けて、それを使うことが大事です。
 例えば相撲が好きなら、好きな力士を場所中の成績を追うだけで勝ち負け15の情報が入ってきます。さらに、相手力士のシコ名は、決め手になった技は、と情報を拡げます。そして先場所は、先々場所はどうだったかということまで拡大していく。そうして誰かをつかまえてその話をすれば、入力された記憶が引き出しから出力されます。
 朝食時に夫婦で何か新しいことを3つ4つを覚えて、それぞれ仕事に出掛けて夕飯時に思い出し合うのでもいいんです。その間、時々反復しておくとさらにいいわけですね。新しい事を憶えて、それを"思い出す"、"記憶を引き出す"というのがボケない訓練に非常にいいのです。
 脳細胞は再生せず、20歳をピークに減る一方になりますが、シナプスは増えていきます。神経細胞は使えば使うほど、シナプスが働いて学習回路が広がっていくわけですから、頭を積極的にプラス方向に使う、これがボケない最大の秘訣です。

表1 主な神経伝達物質
神経伝達物質アミノ酸

GABA(γ−アミノ酪酸)
アスパラギン酸
グルタミン酸
グリシン
タウリンアミンドーパミン
ノルアドレナリン
アドレナリン
セロトニン
メラトニン
ヒスタミン
アセチルコリンペプチド
(小型蛋白)アンギオテンシン
カルノシン
コレチストキニン
エンドルフィン
エンケファリン
モチリン
ニューロメジン(A、B、C)
ニューロペプチドY
ニューロテンシン
オキシトシン
ソマトスタチン
サブスタンスP
TRH(甲状腺刺激ホルモン
      放出ホルモン)
LHRH(黄体形成ホルモン
      放出ホルモン)
VIP(血管作働性
    腸管ポリペプチド)
バゾプレッシンプリンアデノシン
AMP
ADP
ATP
(『脳の栄養』中川八郎著、共立出版より)