笑う顔には福来たる"笑い”でクリア、長生き4つのポイント

「元気で長生き研究所」所長 昇幹夫先生

"笑い”でクリア、長生き4つのポイント

 人生の終わりのときには、楽しかったことしか思い出さないそうです。ぼけてしまっても、"楽しかったことは覚えている”ことがわかっています。
 機会あるごとに「楽しい思い出をいっぱい作りましょう」と呼びかけられているのが、「元気で長生き研究所」所長として活躍されている昇幹夫先生です。
 昇先生が研究所を立ち上げたのは、超お忙しの産婦人科医を長く続けるうちにこのままでは過労死しかねないと気づき、"自分の時間は自分の時間割で過ごそう”と決意されたのがきっかけです。
 その昇先生は、元気で長生き出来るポイントとして、・食、・動、・息、・心の4つを上げられています。
 この4つのポイントをクリアしてくれるのが"笑い”です。笑いは、・食欲を増進し、消化吸収を促進し、・腹筋や胸筋を動かし、・腹式呼吸で酸素を十分取り込み、何より、・心を明るくさせて免疫力を高めてくれます。
 日本笑い学会健康法師として全国で講演活動を展開されている昇先生に21世紀の幕明、「笑う門(顔)には福来たる」ということで、長生きの秘訣を"笑い”を中心にお話ししていただきました。

「がん患者の生きがい療法」 モンブランツアー
先のことはわからない 確かなのは今
──10年後、がん患者の生存率の方が高かった!!──

昇 先のことはわからない、確かなのは今だけです。
 それをはっきり教えてくれたのが1997年8月、がんの患者さん15人と、モンブランツアーに参加したときのことです。
 初の試みとして、がん患者さんを連れてモンブランに行かれたのは「がん患者の生きがい療法」で知られている岡山県倉敷市の柴田病院の伊丹仁朗先生です。伊丹先生は"がんの患者さんだって、がんを持ちながら普通の人と同じ生活ができるはずだ”ということで富士登山から始まり1987年、アルプス山脈最高峰のモンブランに登られました。
 この時、現地では、モンブラン登山史上初の試みであり、近い内に亡くなる方ばかりだろうということで、山岳警備隊や登山ガイド10人がボランティアとしてお世話してくれ、そのお蔭もあって、患者さん7人のうち3人が4807mの登頂に成功、4人は頂上直下4000mを越える山小屋まで行くことが出来ました。
 その10年後の1997年、私が参加したモンブラン山麓ツアーでは、一つは10年前にお世話になったあの屈強な山男たちを招待して謝恩パーティを開く、もう一つはあの時登った闘病者たちの思いを追体験するという、二つの大きな目的がありました。
 ところが、招待状を出した山男10人のうち1人は交通事故死、2人は山で遭難死と、なんと3人がすでにこの世の人ではなく、一方、がん患者さん7人のうち亡くなられたのは2人だけ。5人は生存中で、登山を助けてくれた山男たちの方が死亡率が高かったのです。

楽しい思い出づくりで、心境・生き方が大変化。
「がんさん、ありがとう」

昇 私が参加したツアーでは、最高齢者は84歳のおばあちゃんでした。それまでは「私はがんだし、高齢だし」と家に引きこもって誰とも会わなかったのですが、息子さんのお嫁さんが看護婦さんで、「生きがい療法」に大変関心があり、このツアーの"拉致監禁コース”に送り込んだのです。
 標高1030mのシャモニーの町から富士山より少し高い3800mの展望台までゴンドラでわずか15分、さいわい高山病は誰も起こさず、おばあちゃんも目の前に広がる真っ白な雪原、氷河、峨峨たる岩山、そして青い空…と、雄大な大自然を前に大感激。思わず手を合わせ「南無阿弥陀仏。いつ死んでもいい」とまでいってました。
 それからというもの、おばあちゃんの生き方はガラリと変わり、「モンブランに来ることなど考えもしなかった私が、がんになったお蔭で来ることが出来た。これも病気になったお蔭、病がくれた贈り物。がんでも何でもいい、生きている間は楽しい思い出をいっぱいつくろう」と、「本当にあの人、がんなの?」といいたくなるほど元気にあっちこっちに行かれるようになったんです。
 これほど、たった1週間のこのモンブランツアーは、心の健康に最高のものとなりました。
 そういう思い出をいっぱいつくることが大切なんですね。そして、人生いつだってこれからなんです。

最後まで楽しく。 元気が出る人とつきあおう!

昇 「人生80年」として、80年は日数にするとざっと29000日。そのうち3分の1は寝て、仕事をして…。本当に楽しい日というのは何日もありません。
 人は一生の終わりには、"楽しいことしか思い出さない”ということがわかってます。ボケていても、楽しい思い出だけはちゃんと思い出すそうです。その楽しい思い出は自分でつくらないと、他人は誰もつくってくれません。
 統計的にはこの7年間で、がんの死亡者は年間に約1万人ずつ増え、今、死亡原因の3人に1人はがんです。誰もがいつがんになっても不思議ではない、がんはそれくらい身近な病気になりました。
 がんを抱えていながら元気でちゃんと普通に生活をしている人達はいっぱいいます。がんの患者さん達は「私には時間がない」、だから、嫌なものに対してははっきり嫌といいます。
 この世の中で一番ストレスになるのは何といっても人間関係です。周囲とどうつきあうか、結論は単純です。自分の周りの人間を、体にいい人と悪い人に分ける。体に悪い人とは一緒にいて疲れる人、体にいい人は一緒にいて元気が出る人です(図1)。
 がんでなくても出来るだけ、体にいい人と沢山つきあって楽しい思い出をいっぱいつくり、「じゃあね」といきたいものです。

"笑い”の免疫療法
──笑いでがん細胞が消える── 
がんはなぜ出来るのか? がん免疫療法の原点

昇 なぜこんなに日本にがんが増えたのか。それは、「日本人が長生きになったから」といわれています。
 では、なぜ長生きするとこんなにがんが増えるのか。体というのは1個の受精卵(細胞)が2倍、4倍、8倍という具合に60兆個になるまでコピー(分裂)を繰り返した結果、出来上がっています。
 体が出来上がってからも、体の中では毎日沢山の細胞分裂が起き、その細胞分裂の過程では正常ではない変な細胞が必ず出てきます。その最たるものが、がん細胞です。その数は何と1日に5000個、一生の間には1億個のがん細胞が生まれるといわれます。
 このがん細胞がどんどん増えて腫瘍をつくっていったら、我々はこんなに長生き出来ません。長生き出来ているということは、がん細胞を絶えず殺すシステムが体の中に備わっているからです。これが"免疫”の働きです。
 体の中のがん細胞をやっつける免疫のシステムは、具体的な担当細胞でいうと白血球の中のリンパ球、そのリンパ球の1割、特にがん細胞を専門にやっつけている、天然の殺し屋「ナチュラルキラー細胞(略してNK細胞)」が主に担っています。
 ところが、NK細胞の働きも年齢と共に落ち、20歳の時の力を100とすると、40歳で半分、60歳で4分の1。それと同時に病気が増え、がんが増えるということになります。
 人生50年の時代からずっと長生きになった現代のストレス社会、高齢社会では、毎日毎日つくられる5000個のがん細胞を抑え切れなくなったその結果、がんがこれだけ増えたのです。
 早期がんといわれる直径1cmくらいの腫瘍は細胞の数でいうと約10億個。1個のがん細胞が10億個に増殖するまでにはざっと10年かかります。ですから、NK細胞をいつまでも元気にしておけば、がんにもなりにくいし、なっても平和共存ができる。これが免疫療法の原点になっています。
 免疫のシステムは気の持ち方に非常に関係します。気が張っている時は風邪を引かない。落ち込んだ時ドーンと風邪を引きます。がんも同じです。ですから、前向きでプラス思考の考え方を身につける。そうすると、NK細胞はいつも元気で、免疫力が活性化するということになります。

"破がん一笑”、がん細胞は瞬時に百個消失!!

昇 呵々大笑という大笑いでは、体の中で一瞬の間にがん細胞が100個位ぽんと消えるんです。ウッソーといわれるかも知れませんが、そういう実験を今から9年前、先ほどの「がん患者の生きがい療法」の伊丹先生達と一緒に我々は大阪のなんば花月(NK)、お笑い大元締め「吉本新喜劇」の協力で行いました。
 吉本新喜劇3時間の大笑いで、NK細胞は見事に数が30%も増え、非常に活性化し、さらに免疫力のバランスを示すOKT4/8比も改善するというデータがきれいに出たんです(図2・3)。
 "人は笑うことによって免疫力が非常に高まり、がん細胞が瞬時に100個も200個も消える”ことを証明したこの実験は、日本心身医学会で最優秀論文にもなった素晴らしい仕事になりました。
 "笑い”は腹式呼吸昇 さらに、笑うということは、連続して息をはき出しますから、腹式呼吸になるんですね。
 腹式呼吸はそれはそれで、一つの立派な健康法です。吸い込む空気の量が4倍から5倍違います。酸素はそれだけ十分に入ってきて、腹の底から大笑いするということは十分に酸素をとり入れることなんですね。

「笑い療法」の元祖
ノーマン・カズンズ氏の体験
──半身不随の難病や心筋梗塞を、"笑い”で治した──

昇 ユーモア療法とか笑い療法を最初に始めたのはノーマン・カズンズという、日本では広島の被爆女性をアメリカに呼んで当時最新の医療を受けさせたことで知られているアメリカのジャーナリストです。
 彼は49歳の時、治る確率500分の1という難病で膠原病の一つである「強直性脊椎炎」にかかり、口も開けられない、手足は動かない、全身はダンプに轢かれたようなものすごい痛み、正常で1時間に10mmくらいの血沈が115mmにもなって入院しました。
 いろいろな薬を使ってもアレルギーがあって全く合わない。
 その時アフリカのシュバイツァー博士の「人間の体内には本来治る力(自然治癒力)がある。そういう力をもっと活性化したら80%は元気になる」という言葉、また、ストレス学説で有名なカナダのセリエ博士の「いわゆる落ち込んだり、悲しんだり、マイナスの感情は体の抵抗力を落してしまう。逆に、希望や夢を心に描いたり、笑いや楽しい気分になることは体にいいのではないか」という言葉を思い出したんです。
 そこで、ドクターの協力の下、ストレスに良いといわれるビタミンCを大量にとると共に、日本でいうドッキリカメラなどのコメディビデオをたくさん集めて声に出して10分間大声で笑ったところ、あれほど痛くて眠れなかったのが2時間ぐっすり眠れ、それを1週間も続けたら115mmあった血沈は80mmに改善し、2週間目には半身不随の体が徐々に動くようになって、半年後にはジャーナリストの仕事に戻れたんです。
 その体験を、アメリカで最も権威のある医学誌『ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスン』1976年12月号に掲載し、その仕事によってUCLA(カリフォルニア大学ロサンジェルス校)の客員教授にもなったんですが、出版パーティーの時に、ある皮肉屋のドクターから「もう一度、そんな難病になった場合、同じ治療をやるかね?」と聞かれ、「もちろん」と答えたところ、本当に3年後に心筋梗塞になって集中治療室に緊急入院するはめになってしまいました。普通ならバイパス手術を受けるところ、それを拒否してまた前と同じ
ことをしようとしたら、膠原病の時に協力してくれたドクターは今度は、「大笑いすると心臓に負担がかかる。前のは奇跡なんだ。今度はあんな変な治療はやめろ」と止めたんですが、「いや、俺はやるんだ」と、心筋梗塞も笑いで治してしまったんですね。
 この二度の体験でいよいよ確信を得たカズンズ氏は財団をつくって笑いの健康への影響の学術的研究を始め、今では世界中で、「笑うことはこんなに体にいい」、「ユーモアは健康にいいんだ」というデータが次々に発表されるようになり、代替医療の一つとして認知されるまでになったのです。

"笑い”はリウマチなどにも大いなる効果

昇 日本では、伊丹先生はじめ、日本医科大学のリウマチ科の教授で30年間リウマチに取り組まれ、リウマチの患者さんは、"とても真面目である”、"病院の中で最も笑うことが少ない”という性格的特徴を突き止められた吉野教授などが率先して研究されています。
 吉野教授は、「笑いはリウマチにもきっと良いだろう」と重度のリウマチの患者さん26人を呼んで、病室に紅白の幕をはって寄席の雰囲気をつくり、落語家の林家木久蔵さんに1時間たっぷり笑わせてもらってデータをとられています。
 落語を聞いた前後でまず痛みがどう変化するか、血液のデータはどうかを検査したところ、痛みは全員が全部とれて、ある人などはそれから3週間鎮痛剤なしです。血液のデータでは、リウマチを悪くする因子、「インターロイキン6」が正常の10倍もあった人が正常値に戻った例もありました。
 そういうことが日本でも行われてきています。

ピンピンコロリで死ぬまで元気で生きる極意
ピンピンコロリ4つの法則

昇 ピンピンコロリ、要するに、死ぬまで元気、略してPPKのそのコツは、・食べること、・運動すること、・息の仕方、・心の持ち方の四つに分けて考えます。
 まず第一の「食」ですが、「食」という字は人を良くすると書きます。食べ方の誤りで病気になる。だから食養生が大事です。旬のもの、そして世界の人が注目している日本の伝統食を中心に、ゆっくりよく噛む、これが原則です。  手足をよく動かす昇 廊下で転ぶようになったら老化現象の始まりといいます。足から年をとるというのは本当で、歩ける間は大丈夫です。外国には、「2本の足は2人の医者」という諺もあるくらい、足から年をとる、それを防ぐにはまず歩く。「青竹ふみ」をやったのは徳川家康です。足の裏にはいっぱいツボがあ
るわけですね。
 次は手を鍛える。脳の働きは3分の1はしゃべるため、3分の1は手を使うためにあります(図4)。昔は小さい頃に、お手玉、あやとり、おはじき、影絵、折り紙と、いろいろな指遊びをいっぱいやっていた。だから、日本人は器用で、優秀な民族だというお墨付きを世界中の人々からもらえたんですね。指をよく使うことは、頭をよく使ったことと一緒です。脳卒中で片方が麻痺した時も、指を一生懸命使う。それを繰り返すことによって、残された脳を刺激し活性化して回復を図る、これがリハビリです。
 手足を使い、好奇心旺盛な知的ミーハーになって頭を使う。これがとっても大事なんですね。「やる木(気)にこそ良い実がなる」、やる気を出してまず実行。そして続ける。「継続こそが力なり」です。

不真面目でなく、非真面目のすすめ

昇 吉野教授の研究によるとリウマチの人は生真面目な人が多いということですが、「氷が溶けたら何になる?」と質問すると、真面目な人は10人中9人が「水になる」と答えるでしょう。でも、「氷が溶けたら春になる」、そういう答えがあってもいい。魚屋さんに聞いたら「魚が腐る」という答えが返ってきました。
 話をちょっと違う角度から物を見る。これがユーモアの原点です。真面目で何が悪いと怒るでしょうが、真面目というのは白か黒か、正しいか正しくないか、しかありません。真面目、不真面目、もう一つ、非真面目というのがあってもいいのではないでしょうか。

ストレスの上手な対処法 
「逆らわず、いつもニコニコ従わず」

昇 英語で人のことを指すパーソンは、ラテン語のペルソナ(仮面)からきた言葉です。人生劇場では、人は自分が主人公になって、いろんな仮面を取っ替え引っ替えしながら踊っています。
 職場での顔、家に帰って父親の顔、亭主の顔、そして男の顔と、場面に応じていろんな仮面をかぶり分けて対処している、それが実はストレスに対して一番の治療法なんです。
 セリエ博士は「ストレスはお料理のスパイス」といっています。適度にスパイスが効いて初めてカレーは美味しくなる。ですからいくつになっても適度なストレスは必要です。
 そして、ストレスが過剰になるのを上手に避ける。サラリーマン川柳で見つけた「逆らわず、いつもニコニコ、従わず」。この精神で、ストレスを上手に回避したいものです。

ミラーの法則
──私が笑えばあなたが笑う──

昇 顔にはその人の生活、考え、健康状態が出ます。顔は、人生そのものを映し出す鏡です。その顔は、自分のものだけど自分では見ることは出来ない。ということは、顔は人様に見ていただくためにあるんです。
 人の体は使えば発達する、使わなければ退化するという法則がある通り、いつも難しい顔をしていると、そういう筋肉だけが発達をします。私が笑えばあなたも笑う。これがミラーの法則です。鏡に向って、鏡の中の自分の顔、自分の目を見て、にっこりする習慣をつけると、とても良い顔ができるようになります。