体をサビから守り、老化・生活習慣病を予防する ・食・過剰な運動を慎み、/・α‐リノレン酸系の油を適量、/・抗酸化物質の十分な摂取

東京薬科大学薬学部 菊川清見教授

活性酸素による体のサビは、老化・万病の元

 酸素は鉄をサビさせてボロボロにしてしまうように、体もサビさせてしまいます。
 生きていくのに必要な酸素がなぜ、体をむしばむのか。
 体にとり込まれた酸素の一部は、活性酸素という傷害性の強い酸素になって、遺伝子やDNA、細胞膜や酵素など体の重要な構成成分を破壊するからです。
 日本人の死因上位を占める、がん、心臓病、脳卒中はもとより、急増している糖尿病やアレルギー疾患、リウマチなど自己免疫疾患などの現代病、さらに、関節炎、歯肉炎、胃炎などのありふれた炎症性疾患まで、この活性酸素が深く関わっているといわれます。
 活性酸素は1969年、アメリカのフリードビッヒによって、それを消去する酵素(SOD)が発見されたのを契機に、急速に研究が進みました。今では活性酸素の制御こそ、老化を制御し、多くの生活習慣病、現代病を予防する大きな鍵であるといわれています。
 万病の元ともいわれる活性酸素によるサビから体をまもり、健やかに老いていくにはどうしたらよいか。
 活性酸素や脂質の酸化防止を研究されている東京薬科大学の菊川清見教授にお話をうかがいました。

酸素は体もサビさせる 
酸素消費量が多いほど寿命が短い

──体がサビるとはどういうことですか。
菊川 鉄が酸素によって酸化するとサビてボロボロになるように、体も酸素によってむしばまれ、サビていきます。つまり、体がサビるとは老化ということです。
 老化や寿命は、・既に遺伝子の中にプログラムされているという「プログラム説」と、寿命や老化は遺伝子だけに支配されているわけではなく、・酸素ストレスによって遺伝子をはじめ体の重要な構成成分が傷つくという「酸素ストレス傷害」がいわれ、この酸素ストレスによる傷害が、体がサビることに深く関わっています。
 つまり、酸素ストレスが、いい換えると酸素消費量が、多いほど体はサビていきます。
 例えば、ハツカネズミの寿命は2〜3年なのに、象は100年近くも生きます。単位体重当たりの酸素消費量は象の方がネズミよりはるかに少なく(図1)、酸素消費量の少ない種の方が長生きなのです。
──酸素消費量と寿命は反比例するというわけですね。では、酸素消費量はどんなときに高まるのですか。
菊川 食べ物を燃やしてエネルギーを得るためには酸素が必要ですし、運動も酸素を多量に消費するので、多く食べるほど、またよく動くほど酸素消費量は上がります。
 同じ月齢のラットを使った実験では、・食事量が同じ場合は運動する方が長生きし、・食べるだけで運動をしないで太ったラットは一番寿命が短く、・運動をしないで食事の量を減らして体重をコントロールしたラットが一番寿命が長い──という結果が出ました(図2)。
 この実験から、人でも長生きの最大の秘訣は食事制限で、運動は適度にということが読みとれます。

酸素は体内で、悪玉の「活性酸素」をつくる
──酸素消費量が多いとなぜ、老化が早まり短命になるのですか。

菊川 呼吸によって体内に取り込まれた酸素の約3%は、「活性酸素」という非常に反応性が高く、傷害性の強い酸素になります。
 活性酸素は体に重要なタンパク質(酵素など)、脂質(細胞膜などのリン脂質)、核酸(遺伝子のRNAやDNAの原料)、遺伝子、DNAなどを傷つけ、生体を無差別に損傷する元になります。ですから、酸素の消費量が多いほど活性酸素が多量につくられ、それだけ老化が進むわけです。
──酸素は体の中でどんな仕組みで活性酸素になるのですか。
菊川 呼吸によって肺に取り込まれた酸素の約80%は、血液(赤血球中のヘモグロビン)に運ばれて、細胞の中のミトコンドリアで栄養素を燃やすために使われます。
 その過程で酸素は電子を4個受け取って最後には水になって安定しますが、ミトコンドリアの中で酸素は全て水に還元されるわけではなく、約3%が電子1個の還元によって活性酸素になります(図3)。
 これが「スーパーオキシド」で活性酸素の一番の元になります。スーパーオキシドからはより活性の強い殺菌剤のオキシドールと同じ「過酸化水素」がつくられ、そこに鉄イオンがあるとさらに活性の強い「ヒドロキシルラジカル」が出来ます(図3)。
 活性酸素はこのように・ミトコンドリアでつくられる他にも、
・肝臓のミクロソームで、薬や農薬などの毒物を解毒するとき
・臓器移植手術や血栓などで、一時的に血流が止まって再び流れ出すとき(虚血再灌流時)
・白血球が細菌を殺すとき(炎症時)
・放射線や紫外線を浴びたとき
・糖尿病などでタンパク質が糖化されたときにも、酸素が活性酸素をつくることがわかっています。
 さらに活性酸素はタバコの煙、大気中の窒素酸化物(NOx)などからも体内に取り込まれます。
──過食・飽食、薬漬け、環境汚染化学物質の氾濫など、現代社会は活性酸素ができやすい環境にあるわけですね。
 それでは活性酸素は、体の中では具体的にどんな悪さをするのですか。
菊川 活性酸素は、細胞膜のリン脂質や、遺伝子のDNA、タンパク質などを傷つけることによって老化をはじめ、がん、動脈硬化、炎症、リウマチ、脳疾患、糖尿病、肝疾患といった、多くの生活習慣病や現代病といわれる疾患の引き金になります。

活性酸素を消す体内の防御システム

菊川 しかし、体の中で活性酸素は細胞の成分をどんどん酸化していくのかというと、体にはこれを防ぐシステムが備わっています。
〈消去システム〉
 第一が、活性酸素を消去したり生成を防ぐシステムで、それには活性酸素の一番元になるスーパーオキシドを消す「スーパーオキシドディスムターゼ(SOD)」、SODがスーパーオキシドを消すときに出来る過酸化水素を酸素と水に還元する「カタラーゼ」と、「グルタチオンパーオキシダーゼ」の3つの酵素が重要で、この3つの酵素が共に働いて活性酸素が消去されます(図4)。
 これらの酵素は中核に銅や亜鉛、マンガン(SOD)、鉄(カタラーゼ)、セレン(グルタチオンパーオキシダーゼ)のミネラルがないと働けません。一方で、鉄や銅イオンは活性酸素を活性する働きもあって、これらのイオンを防いでくれるタンパク質もこの第一次防御システムになります(図4)。
〈修復システム〉
 もう一つは、活性酸素によって傷ついたDNAや酵素、あるいは脂質をとり除いて、元通りに治すシステムです。これにはいろいろな酵素群が働いていることが明らかになり、その実体についての研究も進んでいます(図4)。
 こうした体内で酸化を防ぐシステムが発達している動物ほど長命で、霊長類の中では人が一番SOD活性が高く長寿です(図5)。
 ところが、こうした防御システムが十分に働かない場合、活性酸素がたくさん出てきて、それが老化やいろいろな疾病につながっていくことになります。
──植物からとったSOD様食品というものがありますが、SODは植物にも備わっているのですか。
菊川 はい。例えば、代表的な除草剤「パラコートジクワット」は植物の体内でスーパーオキシドを発生させ、スーパーオキシドの毒性で草が枯れます。パラコートジクワットは農薬被害では最大で、人間の場合、人の肝臓でスーパーオキシドができ中毒を起こします。
 ただし、SOD様食品といわれるものはスーパーオキシドを過酸化水素に変える作用のあるものを指すと思いますが、試験管内では効果はあっても、食べたら消化されて血液に吸収されず、また、血液に注射しても非常に分子が小さいので腎臓で濾過されてなくなってしまうので、外からとっても体の中でのSOD効果といったものは期待できないと思います。

 油も体をサビさせる
決め手となる油脂の中の脂肪酸

菊川 体がサビるということには油も大きく関わっています。
 油脂はグリセリンに脂肪酸が結合したものです。食物の油脂も体の中のリン脂質も、油脂の特徴や質の違いは脂肪酸が決定し、この脂肪酸の摂取バランスが体のサビに深く関わっています。
 脂肪酸は体の中で、酸素で酸化されて(燃やされて)エネルギーになると同時に、細胞の内と外をしっかりわけている細胞膜ではリン脂質という油に変わり、リン脂質は細胞膜や、細胞顆粒、リポタンパク質の構成材料になります。
 なお、油を多くとって、エネルギーやリン脂質になり切らない油は、そのまま皮下脂肪となって体に蓄積されます。

大気中で酸化されやすい多価不飽和脂肪酸

菊川 脂肪酸の中で植物油に含まれるリノール酸(n|6系列)やα|リノレン酸(n|3系列)など二重結合を2個以上持つ脂肪酸を多価不飽和脂肪酸といいます(図6)。
 二重結合を2個以上持つと、その間に「活性メチレン基(図6)」というものができて、これが光や熱、酸素によって水素引き抜き反応を起こし、脂質を連鎖的に次々に酸化していきます(ラジカル連鎖反応。自動酸化ともいう。図7)。この反応が起きると油はどんどん酸化し最後にはどろどろして嫌な臭いを放つようになり(図7)、そういった酸敗した油を食べると中毒を起こします。
 活性メチレン基は、リノール酸に1個、リノール酸が動物の体内で変化したアラキドン酸に3個、α|リノレン酸に2個、α|リノレン酸が体内で変化したEPA(エイコサペンタエン酸)に4個、同じくDHA(ドコサヘキサエン酸)に5個と、活性メチレン基が多いほど酸化されやすくなります(図6)。
 ですから、EPAやDHAが多い魚油は非常に酸化されやすく、一方、二重結合のほとんどないラード(豚脂)やヘット(牛脂)はほとんど酸化されません(図6※)。

多価不飽和脂肪酸が多い体内の「リン脂質」はむしろサビどめに

菊川 さて、体の中のリン脂質は食べ物から摂取したリノール酸やα|リノレン酸などの多価不飽和脂肪酸を利用してつくられる(図8)ので、これまでリン脂質は活性酸素による酸化を受けやすいといわれてきました。
 リン脂質は摂取した脂肪酸に応じて組成されるので、α|リノレン酸や魚油のEPAやDHAなど二重結合の多いn|3系脂肪酸を多くとるとそれに応じてリン脂質にもn|3系が増え、余計に酸化されやすくなるというわけですね。
 ところが、実際に正確に測定してみると、リン脂質は決して酸化されやすくない。
 私たちがラットを・魚油群と・リノール酸の多い紅花油群とに分けて、体の中で比較的酸素が多い赤血球中のリン脂質の脂肪酸をみた実験では、確かに・群の方が二重結合が多い脂肪酸で占められていましたが、酸化の程度は・群も・群も変わらないという結果が出ました(図9)。
 赤血球だけではなく、他の部位のリン脂質でも同じ結果が出て、リン脂質に不飽和脂肪酸が多くても大気中のような酸化反応は起きないということが示されました。
 なぜ、こういう結果になるか。体の中では酸素の量は大気中と違って制限され、特に細胞内では大気中の160分の1と低く、また活性酸素によって少量の過酸化脂質ができても、ビタミンEがラジカル連鎖反応を断ち切るからだと考えられます。
 むしろ、リン脂質は極端な状態を除いては、体の中の酸素を奪ってDNAやタンパク質の酸化を抑えているんです。
──自らが酸化することによって、酸素をより減らすということですか。
菊川 はい。それで、遺伝子もタンパクも変性しないようにまもっている。つまり、リン脂質はビタミンEと協力して体のサビどめ、つまり抗酸化物質として働いているんですね。
 唯一、リン脂質の酸化が問題になるといわれているのは動脈硬化です。動脈硬化では、これまで一般に悪玉コレステロールと呼ばれていた「低比重リポタンパク(LDL)」が酸化され、この酸化LDLを白血球の一つで大食細胞と呼ばれるマクロファージが食べてふくれあがり、ふくれあがったマクロファージが血管壁にたまって血管を狭めるというわけです。
 しかし一方で、・n|3系の不飽和脂肪酸は動脈硬化や血栓、またそれが引き金になる脳梗塞や心筋梗塞を防ぐ働きがある、また、・n|3系の不飽和脂肪酸を含むLDLは酸化されにくく、マクロファージにとりこまれるのを防ぐという報告もあり、脂質の酸化と動脈硬化の関係はさらなる研究成果が待たれるところです。

体をサビからまもる


1.過食・過度の運動は避ける
──それでは、体をサビからまもるにはどうしたらよいでしょうか。
菊川 まず第一に酸素をとりすぎない。
 そのためには過食と過度の運動を避ける。ちなみに腹八分よりは腹六分の方ががんにもなりにくいというデータも報告されています。

2.n|6系の油を極力減らし、 n|3系の油を適量摂取

菊川 第二にリン脂質をつくる脂肪酸のバランスを考える。
 リン脂質を構成するリノール酸もα|リノレン酸も体の中では合成されず、食物から必ずとらなければならない必須脂肪酸です。
 油脂は今、過剰摂取の害がいわれ、油脂をとりすぎると乳がんや大腸がんになりやすいことはよく知られていますが、中でも問題になるのはリノール酸系の油です。
 リノール酸は体内でアラキドン酸という脂肪酸に変わり、アラキドン酸からは体に必要ないろいろなホルモン様物質(アイコサノイド)ができます(図10)。ところが、リノール酸をとり過ぎて、アラキドン酸が過剰に体内に生成されると、アラキドン酸からは虚血・炎症に働く物質が生成され、血栓やがん、動脈硬化、アレルギー疾患などの病気の原因になるのです(図10)。
 しかも、虚血や炎症時には活性酸素が過剰に生成されるので、それがまたこうした現代病の引き金になります。
 一方、α|リノレン酸からEPA、DHAというn|3系の脂肪酸の系列は、こうしたアラキドン酸過剰生成の害を防ぐ働きをします(図11)。
 リノール酸とα|リノレン酸の摂取バランスは現在約6対1となっています。これをできる限り1対1ないし1対2に近づける。
 リノール酸は穀類や豆類、種子類から十分必要量(1日2g)とれるので、油をとるならα|リノレン酸系のシソ油やエゴマ油、亜麻仁油を少量とり、また、新鮮な魚からEPAやDHAを適量とるとよいでしょう。
 アラキドン酸はリノール酸から動物の体内でできます。アラキドン酸の多い乳・乳製品はとらない、肉などもとりすぎないことです。

3.食物からの抗酸化物質の十分な摂取

〈脂質の自動酸化を防止するビタミンE・Cの連携プレー〉
菊川 第3に、ビタミンEとCをはじめとする食物からの抗酸化物質を欠かさない。特に重要なのが、体の中で一番傷つきやすいリン脂質の酸化防止に最も効果的に働くビタミンEです。
 ビタミンEはリン脂質の連鎖的酸化を停止します。このときビタミンEは自らビタミンEラジカルになって抗酸化力を失いますが、細胞膜の表面で水溶性のビタミンCがラジカルを受け取ってもとのビタミンEに再生されます(図12)。
 そうすると、今度はビタミンCがビタミンCラジカルになり、ビタミンCラジカルはビタミンB群のニコチン酸アミドを原料として体の中でつくられる補酵素NADPによって再び還元されてもとのビタミンCに戻ります(図12)。
 脂溶性のビタミンAやベータカロチンも脂質酸化防止に働きますが、ビタミンEと違い、連鎖を停止するほど強力ではないです。
 また、赤ワインやお茶などに含まれるフラボノイドやポリフェノールも直接的にはリン脂質の酸化を抑えませんが、ビタミンCと同じようにビタミンE再生能力で期待されています。ただし、これらは血中での寿命が短いのでちょくちょくとる必要があります。
 ビタミンEの1日必要量は7〜10mgといわれていますが、・ビタミンEの血中濃度が高い動物ほど長命であるという報告や、また、・ビタミンEが不足すると動脈硬化症の原因になるという疫学調査もあり、病気や老化の予防には300mgくらいはとるとよいと思います。
 ところが、ビタミンEは植物油に多く、油をたくさんとると害になるという矛盾が起きます。ですから、ビタミンEはサプリメントなどで補うしかない。ビタミンEは同じ脂溶性でもビタミンAと違い、300mgとかなり大量にとっても害はありません。
 一方、ビタミンCの必要量は100mgとなっています。老化防止にはもう少し余分にとるとよいと思いますが、果物や野菜を十分とっていればまかなえるでしょう。
〈リン脂質を除去するグルタチオンパーオキシダーゼ〉
菊川 さて、酸化されたリン脂質を除去するのには、グルタチオンパーオキシダーゼが重要です。
 この酵素は、スーパーオキシドからできる活性酸素の一つ過酸化水素を消去すると同時に、過酸化脂質の一つヒドロペルオキシドを消去します。ただし、この酵素はミネラルのセレンがないと活性できません(図12)。
 また、グルタチオンパーオキシダーゼがリン脂質の酸化防止に働くと、体内に備わっている抗酸化物質のグルタチオンが酸化型グルタチオンになります。酸化型グルタチオンはNADPというグルタチオン還元酵素によってもとのグルタチオンに戻るのですが、NADPはビタミンB2がないと働けない(図12)。
 ですから食物でいうと、セレンとビタミンB2も抗酸化系の微量栄養素ということになります。
 使われたNADPは、グルコース6リン酸脱水素酵素で再生され、この酵素はX染色体でつくられます。女性が男性より長生きの原因の一つには、女性がX染色体を2つもっていることも関係しているともいわれます。
 長寿ということでは、抗酸化系を十分備えている母親から生まれた子は男女差なく両方とも長寿だという実験データが報告されています。生まれるときは、無酸素状態の胎内からわーっと酸素がいっぱいの世界に出てくる。そのときに、母親から十分な抗酸化系を引き継いだ子供は酸素ストレスに強く、またこの状態が一生影響すると、推測されます。
 こうした抗酸化物質は植物性食品に多いので、穀類・野菜・魚が中心の伝統的な日本型食生活は油の摂取量が少ないこととあいまって、サビどめの食生活として評価できます(表1・2参照)。