子供・若者・男性まで、冷え症が増えている"冷え”は万病の元
ヨシコクリニック 高木嘉子院長
からだ、冷えていませんか?!
冷暖房の普及、食生活の変化、ストレスの増大など、現代の生活環境が今、多くの人に冷え症をもたらしています。
かつては女性特有の症状と見られていた冷え症ですが、最近は男性にも多く、子供の「低体温症」も問題になっています。秋から冬にかけてひどくなるのが常識だった症状も、冷房完備で夏でもひどい症状に悩まされている人が多くなっています。
冷え症は「万病の元」といわれていますが、西洋医学の概念には「冷え症」という病気はなく、病気の一つの症状か、もしくは自律神経の失調からくる不定愁訴とみなされ、解決策はこれといってありません。
一方、病気をトータルにとらえ、患者の体質や生活環境を重視する東洋医学では"冷え”の概念を重視し、「冷え症」への対策も万全です。
子供の頃からの虚弱体質で、風邪を引いていない日は年に何日もなかったという高木嘉子先生は、西洋医学では改善できない虚弱体質、冷えからくる諸症状を治す方法を模索する中、東洋医学に出会いました。
昭和48年の開業以来、患者さんに東洋医学の概念を取り入れて治療をしていくうちに「"冷える”のは徹底的に駄目だということ、また、冷え症を治すともろもろの病気や諸症状も改善する」ことを、自分自身と患者さんの身をもって知ったと話される高木嘉子先生に、冷え症とその対策について伺いました。
冷えは万病の元
「冷え」をもたらす現代の生活
――女性に多いと言われていた冷え症が子供や男性にも増えてきたといわれます。その原因はなんでしょう。
高木 ・冷暖房の完備、・冷蔵庫でとことん冷やしたものや、南国の果物や夏場にとれるものをいつでも好きな時に食べる、・さらに過度のストレスで自律神経を狂わせる――こうして内と外から体を冷やす現代の環境が、子供から大人まで多くの現代人に"冷え”をもたらしています。
――糖尿病や動脈硬化性疾患など、いわゆる慢性病や生活習慣病といわれる病気の背景にも、冷えが関係しているといわれますね。
高木 冷えからくるものがすごく多いと思います。
しかし、西洋医学では生活習慣病といっても、せいぜい「食事と運動に気をつけましょう」程度のことしか言わない。「冷えることを止めなさい」とはどなたもおっしゃらない。医者自らちょっと暑くなれば5月でも冷房を入れて涼しい顔をしているのが現実です。
でも、日常の生活で"冷える”ことをやればやるほど、新陳代謝が低下して老化現象が早く来て、若いうちから生活習慣病といわれる病気が発症してくるのです。
冷房、冷たい食べものと、外と内から体を冷やしていけば、次第に体の抵抗力が落ちて、病気になるのは当り前。そういうことをしてあの世行きの切符をせっせと買い求め、自ら病気になるように導いているのが現代人なのです。
「文明は文化を駆逐する」という言葉がありますが、私は「文明は人間の本能を駆逐することもある」と考えています。冷えを感じているうちはまだ対処も可能ですが、冷えが蓄積してくると、次第に本能が衰えて冷えや寒さにも鈍感になり、そうすると体はさらに冷えて、いろいろな症状、病気となって体にあらわれてくるのです。
体の危険信号「冷え」は、足もとから忍び寄る
――冷えと冷え症は違うのですか。
高木 冷え症と冷えは違うと私は思っています。
「冷え」は誰でも起こることです。例えば、冷房の効いた部屋で体が冷えても、戸外に出れば冷えの状態は解消されます。
風邪を引きかけた時にクシャミが出るのも冷えに対する反応の一つで、クションとやって筋肉を動かして熱を発生させる。寒いとガタガタ震えるのも、筋肉を震わせて熱を発生しているわけです。
体がほてって暑いというのも、その多くは体が冷えに対して「ほてり」反応をしているのです。
冷えると、体は何とかしなくてはと脳から命令が出て一時的に血流が多くなり、血管が拡張して温かくなるわけですが、その状況が亢進するとほてるわけです。ほてりはまだ冷え症まではいってないけれど、冷えが徐々に体の中に蓄積してきて、体の方で一生懸命反応している状況です。
足は冷えて頭や顔がカッカして上半身が熱いのは「のぼせ」。これも冷え・ほてり反応の一つです。
足は心臓から最も遠く、もともと血行が悪くなりやすい上に、冷気は下にたまるので、冷房等でさらに足は冷えやすくなる。足が冷えると、体は足もとの血管を収縮させて体温を保とうとします。そうすると、体の中でほぼ一定に保たれている血液の量は上に押し上げられて、上半身の血液量が過剰になる。これが、冷え・のぼせ反応で、頭痛や肩こりの原因になります(表1)。
――冷えの反対に見えるほてりやのぼせも、実は冷えからきているのですね。
高木 もちろん、もともと体温が高くて暑いという人もいますが、今の環境では冷えからくるほてりやのぼせで暑がっている人の方が多いと思います。
冷えは体の危険信号です。ほてりやのぼせがある時に冷える生活を改善しないと、何年か後には冷え症になってしまいます。
「冷え」の蓄積が「冷え症」に
――体をいくら温めても、冷えてどうしようもない人というのもいますね。
高木 それが冷え症です。
「冷え症」は、今お話しした一時的な冷えが蓄積して、冷えた状態が常態化し、新陳代謝の低下が起き、自分で冷えをコントロール(改善)する能力がなくなって、冷えによっていろいろな症状(図)が出てくる病状を言います。
冷え症になると自律神経が失調し、自律神経が失調すると冷えるという悪循環が起こってきます。
自律神経は、体温の調節や、血管の拡張・収縮、ホルモンのバランスなど、体の基本的な働きを調整していますから、自律神経が狂うと、低体温、肩こりや頭痛、生理痛など女性特有の症状、不眠やイライラなど、西洋医学でいうさまざまな不定愁訴が起きるのです。
さらに、冷え症になると、新陳代謝が鈍くなって老化現象が早まりますから、若いうちから、生活習慣病といわれる病気も発症しやすくなります。
冷えは万病の元。 「低体温」になると…
――冷えは万病の元ということですね。
高木 冷えが体の中に入ると、体はそれに対して末梢血管を収縮させて手足に行く血液量を減らし、臓器の働きを守るために「体内温度(内臓温度)」を保とうとします。
臓器は、体内温度37度で順調に働くようになっています。一方、外から計った体温は外気温によって体内温度より5〜6分低くなっています。
冷えが体に入ると、体は優先的に体内温度を保つために、外から計った体温は低くなります。
この状態が続くと、いわゆる「低体温」となります。
外から計った体温が36度2分以下の「低体温」になると、体内温度も36度7〜8分にしかならない。そうすると、新陳代謝が落ちて熱の発生率も少なくなって、体の中でさまざまな代謝を担っている酵素の活動も鈍り、免疫力や自然治癒能力といわれる機能が衰え、各臓器もくたびれてきます。
血流が悪くなれば高血圧や血栓に、体内温度が低いと糖分や脂肪がうまく燃焼しないので糖尿病や高脂血症に、腸が冷えれば食べものが十分消化されないから、下痢や便秘、さらにアレルギーを招くということにもなるわけです(表1)。
結局、体は家族と一緒で、どこか1個所が故障すれば、周りの皆が助けるわけです。
冷たいものを食べて胃が「大変だ」と叫ぶと、腸も助けるし、肝臓も助ける、心臓も一生懸命血液を送る、そうすれば腎臓は早く水を出そうと働く。このように、一つでも悪くなると全身の臓器が協力して助けるので、全身が疲れて、それが、万病の元ということにつながっていくわけですね。
冷え症が子供や男性にも増えている 隈の出来ている子供達…。 深刻な子供の低体温
――子供たちの間にも低体温が増えているそうですね。
高木 今の子供たちは、生まれ落ちた時から冷暖房完備の生活で、汗腺が十分発達しない。汗腺が発達しないと、体温の調節機能がうまくいかなくなって、自律神経の変調をもたらします。
北欧の人たちが寒さに強いのは汗腺が少ないからですが、その代り、暑さへの適応力は非常に弱い。汗腺が少ないから発汗による放熱がうまくできないんですね。こんなにどこでも冷房が入っていると、日本人もだんだんそうなってしまうのではないかと思います。その前段階として今、低体温になっているんですね。
――子供の適正体温というのは?
高木 5〜6年生になってくると36度5〜6分のところに安定してきますが、小さい子ほど新陳代謝が激しいから体温が高い。昔から子供は火の玉、風の子といわれ、「風に吹かれても良し」とされていましたが、今の子は冷暖房完備の部屋でテレビゲームに、塾、これでは低体温になってしまうのも無理ないですね。
私は小学校の校医をしていますが、10年前頃から身体検査の度に目の下に隈が多い子が目立って増えてきて、体温を計ってみたらほとんどが36度2〜3分。36度4〜5分の子は1クラス30人で2人位、35度台、34度台というひどい子もいました。
隈が出来るのは血の巡りが悪くて冷えの状態にあるわけですが、隈の出来ている子はアトピーや喘息があったり、しょっちゅうお腹を壊したり、風邪を引きやすい。さらに、いわゆるすぐ"切れる”。内臓が疲れて体力がないから、忍耐力がないんですね。
そういう子があまり多いので、牛乳を、給食の盛りつけ30分前に冷蔵庫から出して瓶に汗をかかせてから飲ませたら、見事に目の隈がある子や低体温の子が減って、同時に、給食を残す率も少なくなり、クラスも騒がしくなくなって担任の先生から授業がやりやすくなったと喜ばれました。
――家庭でも実行されたのですか。
高木 養護の先生からお母さんたちに、ジュース類は冷やさないように、冷やしたものを食べさせないように注意してもらいましたが、家庭でどれだけ実行されたか…。今のお母さんたちは朝ご飯も食べさせないで子供を学校に出す人が多いですから、恐らくほとんど無視されたろうと思います。
――昼の牛乳1本だけでそんなに効果があったということは、いかに冷えたものが体を冷やすか、体に良くないかがよく分りますね。
高木 給食の牛乳1本でも毎日のことですから、それだけでもずいぶん違うのですね。
自動販売機の普及で、現代人は大人も子供も季節を問わず手軽に冷たい飲みものを口にします。そこにさらに運動不足が加わって、余分な水分が汗や尿から排泄されずに体にたまり、余計に冷えやすい。寒さを感じたり風邪の引きかけには鼻水が出ますが、これも体が余分な水分(東洋医学でいう水毒)を出して、冷えから体を守る防御反応の一つです。最近、洟垂れ小僧がいなくなったのは、いろいろな意味で過保護になって、子供の体が鈍くなっていることも原因だと思います。
問題になっている成人病の低年齢化は、子供の早老化を物語っていますが、これも低体温の影響が大きくあるのではないかと心配しています。
最近、騒がれている子供の事件も、問題を起こした子たちはむしろ被害者だと私は思います。そこまでいく迄に子供は必ずサインを出しています。ところが子供だけではない、お父さんもお母さんも先生も今、皆冷えて自分の心身に余裕がないから、子供が一生懸命サインを出してもそれを受け止められないんですね。
女性に多い冷え症が、男性にも増えている
――お父さんも冷えているということですが、女性に多いといわれていた冷え症が最近、男性にも増えてきているのは何が一番の原因ですか。
高木 女性が冷えやすいのは、
・月に1度の生理で貧血になりやすく、貧血になると酸素の供給が悪くなって血の巡りが悪くなる、・また、子宮には大量の血液が流れて血液のプールになっています。こうした子宮を持つ体の構造からも血の巡りが悪くなりやすい、
・さらにファッション面からと、冷えやすい要素が大きいのです。
一方、男性は女性に比べて熱代謝が高く、体の構造からも、また衣服からも冷え症になりにくいのですが、ここ10年、男性の冷え症が目立ってきました。やはり一番の原因は冷暖房の普及、次に、ビールや缶飲料など冷たい飲みもののとりすぎだと思います。
最近言われている男性の生殖能力の退化や、若いうちからの精力減退も、冷えがずいぶん影響していると思います。
冷えと賢くつき合って冷え症を予防
足を冷やさない
――それでは、冷えや冷え症の予防・改善にはどうしたらいいでしょうか。
高木 体の末端は血流が悪くなりますから、やはり足から先に冷え、また、足が冷えると全身の血行が悪くなります。ですから、足を冷やさない、足を常に温かい状態にしておくことが大事です。
まず、冷房を賢く使うこと。できるだけ自然の風で涼をとるようにして、冷房をつける時は温度設定に気を付ける。日本人が裸で寒さを感じない限界温度は25度くらいですから、長時間過ごすには冷房の温度は25度を少し上回る温度、27〜8度に設定し、外気温との差は5度に抑える。冷気は下にたまるので窓を開けたり、扇風機や換気扇で部屋の空気を循環させることも大事です。これは暖房にもいえることです。
外出時は冷房をコントロールできないので、脱ぎ着のできる長袖と、レッグウォーマーと使い捨てカイロ3〜4個携帯し、まずレッグウォーマーで自衛し、それでも冷える時は靴下の裏側か靴の内側に使い捨てカイロを貼り、それでも冷える時は腰にも貼ります。冷房で冷えた時は、温かい飲みものをとることも重要です。
衣服は普段から、ズボンやロングスカートにして、靴下は5本指靴下に木綿の靴下を重ねる。それでも冷える人は、絹のレッグウォーマーをつける。ひどい冷え症で、血流が極端に悪くて歯茎まで真っ黒だった若い女性の患者さんの場合、毎日、ズボンに、靴下の重ね履きとレッグウォーマーの励行だけで、薬も使わずに治ってしまった例もあります。
5本指靴下は寝る時にも履くといいです。夏、それでは暑いという人は、足首にレッグウォーマーをまく。そうすれば、足を出して寝ても大丈夫。
半身浴や足湯、足裏にドライヤーをかける等は血液の循環をとても良くします。
戸外に出てウォーキングなどで汗をかくのも非常に大切です。仕事の合間には竹踏みや足踏み、足の指圧やマッサージもおすすめします。ちなみにふくらはぎをつまんで痛いのは、足の血行が悪くなって足が冷えている証拠です。
――冷房病という言葉もあるくらい、今、夏に冷えを訴える人がとても多いですね。
高木 冷房、冷蔵庫で冷やしたものと、今は夏の方が人工的に冷やされる環境にあるわけですね。
暖房でも冷気は下にいくので、頭寒足熱ではなく頭熱足寒になって冷えは作られるのですが、冬場は温かい衣服で自衛しているので、冷えに対して無防備な夏の方が冷えやすいといえます。
温かい食べもの・飲みもの。 自然に即し、旬を大事に
――食生活の面では、どんな注意をしたらいいですか。
高木 冷たいものは食道と胃を最初に冷やし、次に腸を冷やし、腸が疲れると下痢や便秘になります。普段から、温かい食べもの、飲みものをとるように心がけます。
冷たい温度で口に入れていいのは自然界にあるものでは井戸水です。井戸水より低い温度は体にすごく負担をかけますから、暑い時でも、冷蔵庫で冷やしたものは室温にしばらく置いてから口に入れる。
老化すると、新陳代謝が低下して体温が下がってきますから、特に、高齢の方は天然の温度に近い14度から以下のものは口にしないようにして欲しいですね。
冷房が強いところでもアイスクリームやかき氷が食べたいのは胃腸がほてっている証拠。それを我慢して1週間、冷たいものとお砂糖を止めると、1週間後には冷えたところで食べるアイスはあまりおいしくなくなります。
そして、旬を大切にして、自然の摂理に逆らわないこと。原則的に砂糖など南の国でとれるものや夏場にとれるものは体を冷やし、北の国でとれるものや冬場にとれるものは温める作用があります(表2参照)。
大豆・小豆・麦・お米・生姜・大根・ごまなどと、日本人にとって最高の薬膳は伝統的な和食です。和食を基本にして、穀類でも魚でも野菜でもなるべく全体を食べるようにして、ミネラルやビタミンなど代謝に重要な微量栄養素を十分とりこむ。そうすると、白米より玄米、切り身魚より小魚が良いということになります。
消化器がくたびれている時は、お粥や温かいスープ。具沢山の鍋料理は、体も温まるし栄養的にもすすめられます。夏でも、体が冷えた時はおすすめです。
朝食をしっかりとるのも大事。無茶なダイエットは貧血や冷え症の大敵です。反対に、過食も血行阻害を起こしたり、体脂肪の過度の蓄積が冷えの原因になります。
こうした日常の注意でも冷え症が改善しない人は、証(体質)に合った漢方薬がすすめられます。体に合えば、漢方薬は冷えに対して劇的な威力を発します。
――最後に、先生ご自身の冷え症対策を。
高木 外出時のレッグウォーマーと、使い捨てカイロ4〜5個は必携です。冷房の効いた電車ではすぐにレッグウォーマーをつけます。余分なカイロは、冷えた方に差し上げたりもしています。
食事は、和食を基本に偏らず、少飲少食・咀嚼に心がけ、3食しっかりとって、間食なし。
お茶は「らふま茶」を愛用しています。中国の北の方でとれる植物で、体を温める作用が強いのです。
そして、休みがあれば山野を跋渉して自然に親しみ、自然の気を十分体に取り入れるようにしています。
気の巡りということでは、腹式呼吸もすすめられます。東洋医学では、気・血・水の循環が言われ、気の巡りを良くすれば血の巡りも良くなり、体液の循環も良くなる。腹式呼吸では、酸素も十分取り入れられ、自律神経の働きを正常にして、心を鎮めるのにも役立ちますから、ぜひ習慣づけることをおすすめします。
(インタビュー・構成 本誌功刀)