成人病予防のエース、ビタミンACE

――異なる働きと、大量摂取の是非――

京都府立医科大学 吉川敏一助教授

成人病の予防へ期待されるビタミンACE

 ビタミンにはさまざまな生理作用があり、不足すると欠乏症をおこすことが知られていますが、最近になって、大量に摂取すると薬理作用を発揮することが分かってきました。
 中でも、ビタミンC、ビタミンE、体内でビタミンAに変化するベータカロチン(プロビタミンA)の3つは、"抗酸化ビタミンACE”と呼ばれ、万病の元といわれる活性酸素の障害から体を守る働きが注目されています。
 厚生省の「日本人の栄養所要量」はあくまで生理作用を発揮する量であり、薬理作用を期待する量ではありません。京都府立医科大学の吉川敏一助教授は「ビタミンの抗酸化作用を期待するなら、所要量を満たしているだけでは不十分」と、ビタミンACEの積極的な活用をすすめています。
 一方で、過剰摂取の害をいわれるビタミンもあり、昨年5年ぶりに改定された栄養所要量では、初めて、ビタミンではA、D、E、K、B、ナイアシン、葉酸の7種に上限値が設けられました。
 抗酸化ビタミンによる疾病予防研究の第一人者である吉川先生に、抗酸化ビタミン大量摂取の是非、ビタミンACEの効果的なとり方などについて成人病予防との関連でお話を伺いました。

ビタミンACEの抗酸化作用と、活性酸素の害  
炎症の背後に活性酸素

―――がんや心臓病など、多くの病気には活性酸素が関与しているといわれています。その一方で、ビタミンACEの活性酸素を消去する抗酸化作用が注目されていますね。
吉川 活性酸素は体にとって諸刃の剣で、例えば、病原菌などが体内に侵入すると、白血球は活性酸素の強力な酸化力を武器にこれをやっつけようとします。
 ところが困ったことに、細菌などの外敵が入ってきていないのに白血球が活性酸素を出してしまうことがあります。
 アレルギーや膠原病などの自己免疫疾患もその一つです。体内に入ってきた花粉や、あるいは自分の細胞などを、免疫系が異物と感知してしまうと、白血球は外敵がきたと勘違いして活性酸素を放出し、体内に余計な炎症をおこしてしまいます。
 このように、胃炎、肝炎から歯肉炎に至るまで、「炎」という字のつく病気の背後には、必ずといっていいほど活性酸素による炎症がおこっています。

動脈硬化の真犯人も活性酸素だった

吉川 また、心筋梗塞や脳梗塞の引き金となる動脈硬化の発生にも、活性酸素がからんでいます。
 動脈硬化は、以前はコレステロール、特に悪玉コレステロールと呼ばれるLDL(低比重リポ蛋白)コレステロールが多いとなりやすいといわれましたが、最近になって、真の悪玉は、活性酸素で酸化された酸化LDLであることが分かってきました。酸化LDLになると、白血球の一つで大食細胞といわれるマクロファージに食べられる対象となり、酸化LDLでふくれあがったマクロファージが血管壁に蓄積して動脈硬化をおこすのです。
 ここで大事なのは、動脈硬化を促進するのはLDLコレステロール自体ではなくて、LDLを酸化させる活性酸素だということです。
 ですから、LDLの値が多少高くても、血液中に活性酸素が少なければ動脈硬化にはなりにくく、逆に、LDLが正常値であっても、酸化を抑える力が弱ければ動脈硬化になりやすいといえます。

抗酸化ビタミンで発がんリスクを下げる

吉川 がんに関しても同様のことがいえます。
 発がん物質は多くの場合、活性酸素を発生させて遺伝子(DNA)を傷つけ、正常な細胞をがん化させます。
 ところが、このとき体内に抗酸化物質がたくさんあれば、がん化を防ぐことができ、逆に、発がん物質がごくわずかしか体内に入ってきていなくても、酸化を抑える力が弱ければ、それだけがんになりやすいことがいえます。
 ですから、発がんの危険因子のある人、例えば喫煙者などは肺がんになりやすいことが分かっていますから、普通の人よりも抗酸化物質を積極的にとり、活性酸素の消去を良くしておくことが大切です。
 もちろんタバコをやめるのが一番いいのですが、ある程度リスクを回避することで、普通の人と同じくらいの発がん率に抑えることも可能になってきます。
 そこで注目されるのが、ビタミンACEの抗酸化作用です。

ACE、それぞれ異なる活性酸素消去作用
水溶性の活性酸素を消去するビタミンC

吉川 例えば、血漿など、水分の多いところで発生した活性酸素の「スーパーオキシド」などを消去するのが、水溶性のビタミンCです。
 スーパーオキシドは酸素からつくられる最初の活性酸素で、スーパーオキシドから他の活性酸素がつくられていくので(図1)、活性酸素の中でも特にその消去は重要になります。
――スーパーオキシドの消去というと、体内には抗酸化酵素のSOD(スーパーオキシドディスムターゼ)が備わっていますね(図2)。
吉川 ビタミンCがスーパーオキシドと反応する速度は、SODの7000分の1にしか過ぎません。しかし、SODは血漿などでは活性が低く、そういったところではビタミンCが威力を発揮します。
 また、SODをはじめとする抗酸化酵素の活性は40歳くらいを境に低下し、それが成人病や老化を招く要因にもなってくるので、年をとるほど酵素以外の抗酸化物質の役割が重要になってきます。
 酵素以外の抗酸化物質としては、ビタミンACEなどの抗酸化ビタミンの他に、フラボノイドなどの植物性生理活性物質、尿酸、ビリルビン(胆汁色素)などがあります(図2)。
 人の血漿をとって水溶性ラジカルを発生させた実験では、ビタミンCは血液中に存在する種々の抗酸化物質の中でも最も早く消費され、活性酸素やフリーラジカルの消去に速やかに働くことが分かっています(図3)。

脂質の酸化を防ぐE
Cと協力し細胞膜を守る

――水溶性のビタミンCが水溶性ラジカルの消去に働くということは、ビタミンEなど脂溶性ビタミンは酸化された脂質(脂質ラジカル)の消去に働くわけですか。
吉川 そうです。脂溶性のビタミンEとベータカロチンは、細胞膜や血液中のLDLコレステロールなど、油の多いところで働きます。
 細胞膜が活性酸素の攻撃を受けると、細胞膜に含まれる多価不飽和脂肪酸はたちまち酸化され、「脂質ラジカル」や「脂質ペルオキシラジカル」といったフリーラジカルが発生し、ドミノ倒しのように次々に細胞膜の酸化が進みます(図4)。
 細胞膜に過酸化脂質が蓄積していくと、膜の構造が破壊されるだけでなく、そこで働く蛋白質の酵素作用や、膜表面にある受容体(レセプター)の機能なども損なわれてしまいます。
 これを断ち切る役割をしているのがビタミンEです。
 ビタミンEは細胞膜の表面に突き刺さったような形で存在し、脂質ペルオキシラジカルに自らの電子を1個与えて細胞膜の連鎖的な酸化をストップさせます。ペルオキシラジカルを消去するとビタミンEは抗酸化力を失いますが、このとき細胞の外にいるビタミンCから電子をもらうと、Eは再び抗酸化力を取り戻すことができます(図5)。

ビタミンAにもなるβカロチンはそれ自体が抗酸化作用を示す
──細胞膜や脂質の内部の酸化を防ぐ──

吉川 一方、細胞膜の奥深くに存在するベータカロチンは、活性酸素のうちの主に「一重項酸素」を取り除く働きをしています。
 ベータカロチンとビタミンEはまた、LDLコレステロールの酸化防止にも活躍しています。ビタミンCにはLDLの酸化を抑える効果はありませんが、ここでもLDL中のビタミンEに電子を補うサポート役をしています。
 このように、ビタミンC、E、ベータカロチンは、互いに役割を分担したり、協力し合いながら効率よく活性酸素の消去に働いています。
――ビタミンACEのうち、Aの場合は主にベータカロチンが、抗酸化の主役なのですか。
吉川 そうですね。
 ベータカロチンは天然色素のカロチノイドの一つですが、体内で必要に応じてビタミンA(レチノール)に変化することからプロビタミンA(ビタミンA前駆物質)と呼ばれます。ビタミンAに変化しない分は、ベータカロチン自身が抗酸化作用を発揮しています。
 ビタミンAの所要量(表1)のうち半分はベータカロチンの形でとるといいといわれ、レチノール1IUはベータカロチン1・8μgに換算されるので、成人男性の場合、1日1800μg(1・8mg)がベータカロチンの摂取の目安となります。日本人は普段の食生活でおよそ2〜3mgのベータカロチンはとっています。

疾病の予防と、ビタミンACEの大量摂取

――それでは、ビタミンACEは病気の予防・改善にはどのくらいの量をとったらいいのでしょうか。
吉川 厚生省で定められている所要量は、あくまでも欠乏症を防ぐためのものであって、所要量を満たしている程度では十分な抗酸化作用は期待できません。もっと大量にとる必要があると思います。

βカロチンの大量摂取とがんの予防

――ベータカロチンはがんの予防で注目されましたが、それにはどのくらい必要ですか。
吉川 米国国立がん研究所では、がんの予防に1日6mgとることをすすめています。
――第六次改定「日本人の栄養所要量」で、ビタミンAの上限値は5000IUと設定されましたが(表1)、ベータカロチンのとり過ぎの害はありませんか。
吉川 ベータカロチンは過剰症の心配はありません。1日30mg(1万6666IU)以上とっても皮膚が黄色くなる程度です。
 一方、レチノールはとり過ぎると激しい頭痛やめまい、吐き気などをおこします。妊婦がレチノールを毎日1万IU以上とると先天性異常児の発生率が高まるという報告も出ています。
――ベータカロチンはがんを予防するといわれる一方で、がんのリスクを高めてしまうという報告もありますが…。
吉川 多くの疫学調査の結果から、ベータカロチンの摂取量が低い人は高い人に比べて7倍も肺がんになりやすく、肺がん予防には1日4mg以上のベータカロチン摂取が有効だといわれています。
 ところが、高齢喫煙者約3万人を対象としたフィンランドの試験では、1日20mgのベータカロチンで、逆に肺がんが増えるという結果が出てしまいました。
 このような結果が出た理由の一つには、試験開始以前にすでにがん細胞(潜在がん)がひそんでいた可能性があると思います。1個のがん細胞が、がんと診断される大きさ(臨床がん。直径1cm以上)に増殖するまでには数十年かかります。
 つまり、この研究からは、ベータカロチンは「潜在がんが臨床がんに増殖するのを抑えることができなかった」とはいえても、「がんを予防できなかった」かどうかは分からないのです。
 また、ベータカロチンの大量摂取でかえってがんの発生率が高かったのは、潜在がんの芽をつもうとして白血球が盛んに出している活性酸素を、逆にベータカロチンが消してしまった可能性もあります。
 それでも、ベータカロチンの豊富な緑黄色野菜をたくさん食べる人にがんが少ないのは確かで、野菜にはベータカロチンの他にもαカロチンやルテインなどのカロチノイドが含まれていて、がん予防にはベータカロチン単一ではなく、カロチノイド全体の摂取が大切なのではないかともいわれています。
 いずれにしても、多くの疫学調査の結果から、がんの予防には、やはりある程度はベータカロチンが必要だといわれています。

 ビタミンCの大量摂取と高血圧、心筋梗塞の予防

――次に、ビタミンCはどれくらいとるとよいでしょうか。
吉川 ビタミンCの所要量は、今度の改定で50mgから100mgに増えましたが(表2)、抗酸化作用を期待するなら1日500〜2000mgはとりたいものです。
 500〜2000mgという数字は、いろいろな研究で臨床的にデータがとられている量なので、それくらいまでの摂取は安全だろうといわれています。
――水溶性のビタミンCは、とり過ぎの害はないともいわれますが…。
吉川 ビタミンCはとり過ぎてもすぐに尿中に排泄されるので、過剰症の心配はありません。
 ただし、半分はシュウ酸の形で尿中に出てくるため、腎臓に障害のある人がビタミンCを大量にとり続けると、シュウ酸がカルシウムと結合して腎臓結石や尿路結石をおこしやすくなるといわれています。ただ、健康な人がビタミンCのとり過ぎをあまり気にすることはないと思います。
 最近のアメリカの研究では、1日500mgのビタミンC摂取群は、偽薬群に比べ、1ヶ月後の血圧が有意に下がることが確認されています。
 また、ビタミンEとCを一緒にとっている人は、Eだけをとっている人より心筋梗塞の死亡率が低くなるという報告もあります(図6)。

ビタミンEの大量摂取と老化、痴呆症、心臓病の予防

――ビタミンEは第五次改定までは、目標摂取量しか示されていないビタミンでしたね。
吉川 今回の改定では成人男子10mg、成人女子8mgという所要量が定められました(表3)。しかし、Eも、病気や老化の予防には、1日100〜300mgはとった方がいいでしょう。
――脂溶性ビタミンは過剰摂取の害がいわれますが、Eも上限値(表3)が設定されましたね。
吉川 上限値600mgは、その摂取量までは保証するという量で、これ以上とったからといってすぐに害があるわけではありません。
 脂溶性ビタミンは体内に蓄積されるのでとり過ぎの害が心配されますが、最近になって、肝臓から体内にビタミンEを運ぶビタミンE結合蛋白の存在が明らかになり、さらに、ビタミンEは大量にとっても血液中の濃度は3倍程度まで上昇すると頭打ちになって、それ以上増えないことも分かっています。
 これらのことから、ビタミンEは大量に摂取しても無駄になっている可能性がありますが、その代わり害がないともいえるわけです。
 実際、進行性の痴呆症であるアルツハイマー症の患者に、1日2000IU(1333mg)という大量のビタミンEを2年間摂取してもらったアメリカの研究では、重篤な過剰症の報告はなく、痴呆の進行が抑えられたというプラスの結果が得られています(図7)。
 また、冠動脈硬化の患者2000人にビタミンEを1日400〜800IU(267〜533mg)とってもらい、2年半以上の追跡調査を行ったイギリスの研究では、心筋梗塞をおこす率が大きく減少し、特に、一度発作をおこしたことのある人が二度目の発作をおこすリスクは77%も下がったことが報告されています(図8)。

食事の度に、複合的に成人病の予防にはサプリメントの活用を

――最後に、ビタミンACEの効果的なとり方をお願いします。
吉川 食事からビタミンをとる場合、野菜などは炒めた方が脂溶性ビタミンの吸収が良くなります。水溶性のビタミンCは、茹で汁や煮汁に溶け出しやすく、熱にも弱いので、調理による損失を考えて多目にとることを心がけて下さい。
 ビタミンの抗酸化作用を十分に得るには、ビタミン剤などのサプリメント(栄養補助食品)を積極的に活用した方がよいでしょう。一度にたくさんとるよりも1日に何回かに分けてとった方がいいので、サプリメントは三度の食事のたびにとるといいと思います。先程お話ししたように、ビタミンACEは互いに助け合って活性酸素の消去に働くので、それぞれ単独にとるより、併せてとることをおすすめします。
 さらに、ビタミンの他に、食品中の抗酸化物質には、ゴマのセサミノールやお茶のカテキン、玉ねぎのケルセチンなどがあり、その抗酸化作用が期待されています。ビタミンACEだけではなく、成人病の予防には多くの抗酸化物質をとることが望ましいと思います。
(インタビュー構成・編集部)