第7の栄養素として脚光を浴びる植物のフラボノイド・ポリフェノールって!?

女子栄養大学 三浦理代助教授

 1990年代に入って、植物に含まれているポリフェノールやフラボノイドがにわかに注目されています。
 動脈硬化や心臓病の引き金となる動物性食品を多くとっているフランス人になぜ、心臓病が少ないか。ここから赤ワインに含まれているポリフェノールが注目され、研究が始まりました。
 フラボノイドもポリフェノールも、もともとは植物自身が自分の身を守るために備えている防御物質で、その主な作用は活性酸素から身を守る抗酸化作用ですが、人体に対してもさまざまな生理活性を持つところから今、「第7の栄養素」として注目されています。
 女子栄養大学三浦理代助教授は「まだ研究の初期段階で、その詳しい生理活性についてはこれからの解明が待たれる」とおっしゃっていますが、まずはフラボノイドとポリフェノールの違い、わかっている生理活性、効果的なとり方などについてうかがいました。

第7の栄養素
植物の生理活性物質
フラボノイドとポリフェノールの違い

――今、植物に含まれるフラボノイドやポリフェノールの疾病予防効果、健康効果が注目されています。
 そこで、フラボノイドやポリフェノールとはどういうものか、まずはその違いからお願いします。例えばカテキンにしても、同じ物質がポリフェノールといわれたりフラボノイドといわれたりしますが…。
三浦 野菜や果物に含まれるポリフェノールの多くは、フラボノイド化合物として存在しているので、同じものでもフラボノイドといわれたり、ポリフェノールといわれたりして、混乱を生じているのですね。
 構造的にはどちらも通称亀の甲といわれるベンゼン環(炭素元素6個が正六角形に配置された環。■)をもつ芳香属化合物(フェノール化合物)です。その違いは、例えば動物の体でも、基本骨格と手足というように、化学名も名前の付け方に違いがあり、フラボノイドは基本骨格から見てつけられた名前で、一方、ポリフェノールは手足から見た時の名前のつけられ方なんです。
 「フラボノイド」は、2つのベンゼン環が炭素3つ(C6―C3―C6)で結合された基本骨格(■)を持った化合物の仲間です。フラボはもともと黄色という意味で黄色色素に多いのですが、いろいろな色があり無色もあります。ノイドは仲間、グループという意味で、その仲間は自然界に4000種類以上あり、大きくは、中心構造にフラボン骨格をもつ・フラボンと・フラボノール、フラバノン骨格をもつ・フラバノンと・フラバノール、さらに、イソフラボン類、アントシアニジンに分けられます(表1)。
 「ポリフェノール」は、ベンゼン環に、フェノールという水酸基(OH)の手足を、2つ以上(ポリは多いの意)もっている化合物の総称です。植物によって含まれるポリフェノールは少しずつ違い、種類はフラボノイド以上に多くあります。
 そうすると自然界の中で両者は
・フラボノイドの骨格をもっているけれど、OHという手足をもたない純粋のフラボノイド
・ベンゼン環にOHという手足を2つ以上もっているけれど、フラボノイドの骨格をもたない非フラボノイド系ポリフェノール
・フラボノイドの骨格に、OHという手足を2つ以上もっているフラボノイド系ポリフェノール――の3つの形で存在しています(図1)。

色素、アク、苦味、渋味に多い植物の防御物質

三浦 ポリフェノールもフラボノイドも、植物の光合成によって糖が変化した物質で、もともとは植物が自分自身を守る、つまり、太陽光の紫外線が作り出す大量の活性酸素から身を守る抗酸化作用とか、植物の体の中に侵入してくる細菌から身を守る抗菌作用――といった防御機構として天然に備えている物質です。
 ですから、葉っぱ、花、茎、根と植物全体に分布しています。さらに、その殆どは色素、あるいはアクとか苦味や渋味など、これまではむしろ邪魔物扱いにされていた成分に多く含まれています。
 ところが、含まれているフラボノイドやポリフェノールに、抗酸化作用をはじめいろいろな作用があることがわかって、食物繊維に次ぐ、「第7の栄養素」として今、注目されているところです。
――最近はさらに、植物中の生理活性のある化合物を一括りにして、「ファイトケミカル」という言葉も使われ始めていますね。
三浦 はい。ファイトは「植物性の」、ケミカルは「化学の」ということで、直訳すると「植物性化学物質」となりますが、ポリフェノールやフラボノイドも含めて、生理活性をもつ植物中の有機化合物をファイトケミカルと総称しています。
――植物にはポリフェノールやフラボノイド以外にも、いろいろな生理活性作用をもつ物質があるわけですね。
三浦 そうです。
 例えば、がん予防で有名な、人参やカボチャに多いオレンジ色素のベータカロチンやトマトの赤い色素のリコペンなどのカロチノイド、葉の緑の色素クロロフィル(葉緑素)、血栓予防や殺菌作用で知られるネギやニラなどに多い刺激成分の硫化アリルなどと、ポリフェノールでもフラボノイドでもないファイトケミカルは多くあります。

注目のフラボノイド・ポリフェノールとその働き
フレンチパラドックスの謎を解いた赤ワインのポリフェノール

三浦 ポリフェノールという言葉が知られるようになったきっかけは、赤ワインです。
 欧米人には冠動脈硬化が原因する虚血性心疾患が多いのですが、それは肉や乳製品など動物性脂肪を多くとるからだといわれています。ところがフランスでは、動物性食品の消費量が他の国に比べて多いのにもかかわらず、心臓病の死亡率が低くなっています(図2、3)。
 ここから「フレンチパラドックス」という言葉が生まれました。フレンチパラドックスとは、"動物性食品を沢山とると心臓病になりやすい”という定説からはずれている、つまり定説に対して逆説(パラドックス)ですね。では何故フレンチパラドックスなのか。
 フランスは、肉にバターやクリームをたっぷり使ったソースという脂っこい料理と同時に、世界最大のワイン消費国でも知られています。ここからワインが注目され、疫学調査では、特に"赤ワインを多く飲んでいる地方ほど心臓病が少ない”ことがわかり、赤ワインが心臓病の死亡率を下げているのではないかという仮説が出されました。
 1993年、カリフォルニア大学のフランケル博士が、「赤ワインにはアントシアニンをはじめ、多くのポリフェノールが含まれ、これが動脈硬化の直接の原因となる悪玉コレステロール(LDLコレステロール)の酸化を防いでいる」という研究を発表し、フレンチパラドックスの謎を解く鍵が、赤ワインのポリフェノールであることがわかったのです。
 この研究をきっかけに各国でも追試され、日本でも国立健康・栄養研究所を中心に、世界で初めて人での効果を確かめた研究が脚光を浴び、赤ワインブームを起こしたのと同時に、ポリフェノールという言葉が一般に広く知られるところとなったわけです。
 赤ワインの代表的なポリフェノールはワインの赤い色をつくる「アントシアニン」ですが、果皮から種子まで丸ごとつぶして発酵させる赤ワインには、苦味や渋味の成分となる「カテキン」や「タンニン」、「クロロゲン酸」、黄色色素の「ケルセチン」など、多種類のフラボノイド系および非フラボノイド系のポリフェノールが含まれ(図4)、これらをひっくるめて「赤ワインポリフェノール」という言葉の使い方もされています。
 ワインが熟成するにつれて、こうしたポリフェノールは重合してポリマー(重合体)を作り、ポリマーになると抗酸化作用は一層、強くなるといわれています。
 なお、赤ワインには、・抗酸化作用の他にも、・脂肪の吸収を遅くしたり、・血栓を予防する効果も報告されています。

最初にわかったフラボノイドの作用

三浦 フラボノイドの生体への作用が初めてわかったのは1930年代、柑橘類の皮に多い「ヘスペリジン」や「ルチン」の、毛細血管の浸透性の増加を抑え、血管を強くする作用です。
 当初はビタミンPと命名され、ビタミン扱いされていたのですが、その後欠乏症が認められないなどの理由で、ビタミンからは外されていた物質です。

 大豆のフラボイド「イソフラボン」

三浦 フレンチパラドックスの謎が赤ワインにある一方で、日本人に心臓病が欧米人より少ないのは、昔から日本人は大豆を多くとっていたことから、大豆のフラボノイドが欧米で注目され、ポリフェノールと同時にフラボノイドという言葉も流行ってきました。
 大豆フラボノイドの「イソフラボン」は大豆の胚軸に多い、大豆製品やモヤシにも含まれているフラボノイド系のポリフェノールで、その主体はダイゼインとゲニステインという糖と結合した(配糖体)2つの物質です。両者とも非常によく似た構造をしていますが、ほんの少しの違いで名前も違ってくるわけですね(図5)。
 イソフラボンの抗酸化作用はあまり高くありませんが(図7)、血圧や血中コレステロールを下げる作用もあり、こうした作用によって心臓病の予防に働くと考えられています。
――イソフラボンは、ファイトエストロゲン(植物性エストロゲン)といって、女性ホルモンのエストロゲンに似た作用でも今かなり注目されていますね。
三浦 ダイゼインとゲニステインは、代表的なエストロゲンの17βエストラジオールとも非常によく似た構造をしています(図5)。
 そのため、体が間違えて、エストロゲンの受容体にイソフラボンが鍵穴に鍵がぴたっと入るようにおさまって、エストロゲンと同じような働き、つまり骨からカルシウムが溶け出して血液の中に入るのを防ぐ働きをしているんですね。
――閉経期以降の女性は、豆腐や納豆を心してとるとよいといわれていますね。
三浦 閉経すると女性ホルモンは極端に減り、骨からカルシウムがどんどん持ち出されてしまうので、その時、イソフラボンは助っ人となってくれるんですね。
 カルシウムは血液の中にいつも一定量あって、イライラを防いだり、心臓の筋肉を働かせたりと、重要な働きをしています。カルシウムが、オーバーフローすると骨に蓄えられ、少なくなると骨から持ち出されるという具合に、血中のミネラル濃度を一定に保つ仕組みはいろいろなホルモンの働きで常時調節され、女性ホルモンの場合は、骨からカルシウムの持ち出しを抑える防波堤のような働きをしているのです。
――本誌は、動物性食品はなるべく少なくして、蛋白質もお米と大豆の組み合わせを中心にと提唱しているのですが、大豆の女性ホルモン様作用を気にする読者もいます。
三浦 女性ホルモンを過剰にとると、乳がんになる率が高まるといわれますね。
 しかし、大豆の女性ホルモン作用は薬と違って作用が穏やかですし、基本的に食品からとる以上、とり過ぎの心配はまずない、むしろ、"大豆食品を多くとっているアジア女性には乳がんが少ない”という疫学調査(図6)からも、がん予防にはプラスに働くと思います。
 健康食品や機能性食品からとる場合は、注意しないととり過ぎる危険性があると思います。
――大豆のサポニンも抗酸化作用があると聞きますが、これはイソフラボンとはまた別の物質ですか。
三浦 サポニンはフラボノイドではない、非フラボノイド系のポリフェノールです。
 大豆の他にも小豆など豆類に多く、お茶などにも含まれています。豆を煮ると泡立ちますが、あの泡の正体がサポニンです。
 サポニンにはコレステロール低下作用もあります。

抗酸化力の強いお茶のカテキン

三浦 強い抗酸化作用で知られる「カテキン」はフラバノールという骨格に、数個の水酸基をもつフラボノイド系ポリフェノールです。
 赤ワインにも含まれていますが、圧倒的に多いのがお茶で、主なカテキンにはエピカテキン(EC)、エピガロカテキン(EGC)、エピカテキンガレート(ECG)、エピガロカテキンガレート(EGCG)の4種類があり、ひっくるめて茶ポリフェノールという呼び方もされています。構造の少しの違いで抗酸化力の強さも違ってきます(図7)。
 お茶をよく飲む日本ではカテキンの効能はいろいろいわれていますが、特にお茶どころには胃がんが少ないという疫学調査で、胃がんの予防効果はよく知られています。他にも、高血圧を下げたり、血中コレステロールを下げたりする働きがよく知られています。
 カテキンが2つ3つと結合して重合体になったものがタンニンです。結合していくほどだんだん茶色く色が出て渋味を出します。
 発酵茶の紅茶の場合は、発酵過程でカテキンの酸化重合が起き、テアフラビンやテアルビジンという化合物ができ、紅茶特有の色を出しています。
カテキン並の抗酸化力をもつケルセチン三浦 カテキン並の強い抗酸化力をもっている(図7)のが、フラボノールにフェノールの手足がいっぱいついた「ケルセチン」です。
 玉ねぎやブロッコリーなどに多く、"ケルセチンを多くとっている人は冠動脈硬化が少ない”というオランダの研究で注目を浴びました。
――特に、玉ねぎの皮に多いといわれますね。
三浦 そうなんですが、皮には農薬が沢山含まれています。可食部にもケルセチンは含まれていますから、わざわざ皮をとる必要はないですね。ケルセチンは赤ワインやおそばにも含まれています。
 おそばというと、高血圧に効くルチンも構造がちょっと違いますけれどこの仲間ですね。

老化制御が期待されるアントシアニン

三浦 赤ワインポリフェノールの代表格である「アントシアニン」も、カテキン並の高い抗酸化力をもち(図7)、老化制御で注目されています。
 アントシアニンはアントシアニジンというフラボノイドに糖が結合したもの(配糖体)で、本体と配糖体をあわせてアントシアンと呼びます。
 食べ物の中ではほとんど配糖体のアントシアニンとして存在し、果物の色素に多い物質です。ブドウの紫、イチゴやリンゴの赤、ブルーベリーや茄子の濃い青紫もアントシアニンです。
――ブルーベリーのアントシアニンは目にいいということで注目されていますが、他のアントシアニンではどうなんでしょうか。
三浦 ブルーベリーのアントシアニン特有の作用があるかもしれませんし、量的な問題も関係していると思いますね。
――リンゴは皮をむいて空気に触れると色が変りますね。
三浦 リンゴの場合はカテキンやクロロゲン酸に、ポリフェノールオキシダーゼというポリフェノールを酸化する酵素が働いて色が茶褐色に変ります。
 これは、植物の防御機構の一つで、リンゴが木から落ちたり包丁で傷つけられたりすると、傷つくとかさぶたができて傷口を守るように、傷を広げないように酵素が働くんですね。

カカオポリフェノール

三浦 チョコレートやココアの原料である、カカオ豆に多いカカオポリフェノールも今、注目されていますね。
 カカオ豆には、エピカテキン、クロバミド、ケルセチンなどのポリフェノールが含まれ、油の酸化を抑えたり、胃潰瘍には薬と遜色ない効果が報告されています。

健康効果の発揮にはいろいろな食品から多種類組み合わせて

――今までうかがったフラボノイドやポリフェノールの様々な疾病予防効果は主には抗酸化作用によるのですか。
三浦 主には、活性酸素の発生を抑えたり、除去する抗酸化作用によっていますね。
 活性酸素は反応する力が強く、細胞膜や遺伝子、体の脂質を酸化させ、老化やがん、動脈硬化、糖尿病、アレルギーと多くの病気の発症や促進にかかわっているといわれます。
 呼吸でとり込んだ酸素のうち約2〜3%が体内で活性酸素になる他、農薬等の化学物質や食品添加物、タバコ、紫外線、過度のストレス等、私達は、体内で活性酸素を過剰に発生させる多くのものにとり囲まれています。
 そこで今、フラボノイドやポリフェノール、ビタミンCやE、ベータカロチン、カロチノイドなどの食品中の抗酸化物質が注目されているわけです。ビタミンCは水溶性、ビタミンEやカロチノイドが脂溶性で、フラボノイドやポリフェノールは主には水溶性ですが、脂溶性の部分もあり、相補い合って連係プレーで活性酸素から生体を守っています。
 また、これまで個々に見てきた、免疫を調整する作用や、高血圧を下げたり、血中コレステロールを下げたりする作用には、また別のメカニズムが働いていると考えられています。
 こうしたことから、ポリフェノールにしてもフラボノイドにしても、いろいろな食品から多種類バランスよくとることが重要になります。
 まだまだ研究が始まったばかりで詳しいことはこれからですが、自然界、特に植物にはいろいろな生理活性物質が含まれているということで、米を主食に野菜や大豆製品、魚を中心にした日本の伝統食は脂質、蛋白質、糖質のエネルギー源のバランスが良いというだけではなく、抗酸化作用という側面からも見直されていくのではないかと思います。
(インタビュー構成・本誌功刀)