肥満の危険性!

多くの生活習慣病を生む正しいダイエットで健康に

日本肥満学会理事長・共立女子大学教授 国立健康・栄養研究所特別客員研究員 井上修二先生

成人の4〜5人に1人は肥満
日本肥満学会、肥満に伴う生活習慣病の急増で「東京宣言」

 高脂肪・高カロリー食の上に、体を動かす機会がめっきり減った現代、日本人の成人の4〜5人に1人は肥満といわれています。
 肥満が危険なのは、糖尿病、高血圧、高脂血症、虚血性心疾患――など、多くの生活習慣病を引き起こすからです。実際、日本でも肥満の増加に伴い、こうした生活習慣病が急増しています。
 肥満に対する医療現場の危機意識は相当で、昨年10月に開かれた第20回日本肥満学会では、肥満の判定を、従来のBMI26・4以上を25以上と厳しく改め、さらに医療関連学会では異例の、肥満対策の重要性、国民的取り組みの必要性を盛り込んだ「東京宣言」を発表しました。
 日本肥満学会理事長で、肥満のメカニズムの研究では世界的に知られる井上修二先生に、肥満について、正しいダイエットを含めてお話をうかがいました。

肥満と、そのメカニズム肥満の決め手は「体脂肪」
――体脂肪と脂肪細胞――

――まず、肥満とは何かということからお願いします。
井上 医学的には肥満は、体重の過剰ではなく体の中の脂肪、つまり「体脂肪」が過剰に蓄積された状態をいいます。ですから、一見太って見えても鍛えられた筋肉質の体であれば肥満ではなく、反対に、ほっそりしていても脂肪の割合(体脂肪率)が多ければ肥満となります。
 体を構成している組織は、栄養学的には、
・生命の維持に欠かせない、脳神経、内臓、筋肉、骨格、体水分などで構成される活性組織と、
・飢えに備えたエネルギーの貯蔵としての役目を果たす体脂肪で構成されています。
 活性組織は、水分約60%、固形成分約22%(うち約17%が蛋白質)でできており、残り約18%が体脂肪です。体脂肪が男性では25%、女性では30%を越えると肥満となります。
――体脂肪と、脂肪組織は違うのですか。
井上 脂肪組織とは、脂肪細胞が集まったものです。
 体脂肪は一部が肝臓にたまる他は、ほとんどがエネルギーの貯蔵として脂肪細胞に蓄えられます。ですから、肥満は、脂肪が脂肪細胞の中にたまり過ぎた状態です。貯蔵庫としての脂肪細胞は、数が異常に増えたり、大きくなったりすることができるのです。
 脂肪細胞は大きさは3倍くらいまでが限度ですが、脂肪細胞の数は体の中に180億個以上と無数といえるほど存在しうるので、理論的にはいくらでも脂肪をため込むことができます。ですから、肥満に限界はないといってもいいんですね。
――結局、肥満かどうかは体脂肪を測らないとわからないわけですね。
井上 厳密にはそうなります。
 しかし、体脂肪の測定法にはいろいろあるものの、安くて簡単でしかも正確に測る方法はまだないので、現実には標準体重から肥満を割り出すのが一般的です。
――最近、体重計並に簡単に測れる家庭用体脂肪計が人気を呼んでいますが、あまり信頼できませんか。
井上 水の電気抵抗を規準として、体脂肪率を推定する測定機が出回っていますね。
 しかし、水分の量や分布は1日の中で変化する上に、機種によっても値が違ってくるので、学問的にはまだ問題があり、使われていません。ただし、同じ機種で、同じ時刻に測り続けて、自分自身の肥満の目安とするにはいいでしょう。

 BMI25以上は、要注意

――それでは、標準体重から肥満を割り出す方法を教えて下さい。
井上 標準体重を出す方法もいろいろありますが、日本肥満学会ではBMI(表1)という国際的に広く使われている体格指数を使っています。
 日本人の場合、BMI22前後が最も疾病率が低い(図1)という調査研究から、BMI22に相当する体重を標準体重とし、そこから肥満度(表1)を割り出していました。しかし、標準体重を使うと国毎に異なるために、現在はBMIを使うことになっています。学会でもこれを使うよう啓発運動をしています。
 BMIでは、25を超えると肥満と定義されます。
 このBMI25という数値は、我々厚生省の研究班が30歳以上の全国15万人の健康診断のデータを分析した結果、BMIが25を超えると、高血圧や高脂血症などの生活習慣病の危険性が高まるのがわかったことから、昨年の日本肥満学会で打ち出した新しい判定基準です(表2)。従来は、BMI22を20%超えた26・4以上を肥満としていました。
 新しい判定基準でいくと、30歳以上の日本人の5人に1人は肥満となり、今後、この数はさらに増え続けると予想されます。

遺伝よりも、生活習慣

――最近、肥満遺伝子が見つかって、肥満になりやすい人は遺伝的に決まっているという見方をする人もいますが…。
井上 双子や移民の研究などから、肥満の原因は遺伝は2割5分で、7割5分は食べ過ぎや運動不足などの生活習慣が影響していると考えられています。
 「両親が太っているとその子供の3分の2は肥満になる」といわれ、遺伝的要素は否定できませんが、これも遺伝だけではなく、食生活などの生活環境も影響を及ぼしているのです。
 実際、肥満遺伝子の異常をもったマウスも、食事をコントロールすると肥満がなくなるんですね。
――それでは遺伝的素因がない人は、いくら食べても太らないということにはならないわけですね。
井上 同じ条件で太る人、太らない人がいるように、体質は確かにありますが、消費エネルギー以上に食べ続けていれば、誰でもいずれは太ります。
――肥満遺伝子とはどんなものですか。
井上 1994年に遺伝性の肥満マウスから、ob遺伝子という肥満遺伝子が見つかりました。
 ob遺伝子によって、脂肪細胞からつくられるホルモンのレプチンは、脳の視床下部にある食欲をコントロールする満腹中枢に命令して、食欲を抑制したり消費エネルギーを促します。つまり、レプチンは肥満を抑える働きをしますから、ob遺伝子に障害があると肥満になるわけです。
 しかし、レプチンを使った抗肥満薬の臨床実験ではほとんどの人に効果がなく、また、肥満の人はレプチンがむしろ高い傾向がみられるなど、この遺伝子異常による肥満は人にはあまり存在しません。
 その他、ベータアドレナリン受容体遺伝子の異常もいわれています。この遺伝子に異常があると、熱産生がうまくいかなくなるのですが、この遺伝子に異常があっても肥満でない人は大勢います。

肥満の危険性
――肥満は生活習慣病を生む―― 

お腹の脂肪、特に「内臓脂肪」が危険
――それでは、肥満はなぜいけないかということですが。
井上 一番の危険は、糖尿病、高血圧、高脂血症、さらには動脈硬化症など、多くの生活習慣病を引き起こすことです。
 中年になると特に男性は、お腹に脂肪がつきやすくなり、腹が出てきます。これはリンゴ型肥満といって、女性に多い太ももやお尻など下半身に脂肪がつく洋ナシ型より生活習慣病になりやすくなります(図2)。ウエスト÷ヒップの値が女性で0・8以上、男性で1・0以上の人は要注意です。
 さらに、お腹の脂肪の中でも、皮下に脂肪のつく皮下脂肪型よりお腹の内側につく内臓脂肪型の肥満(写真)が、生活習慣病にかかりやすいことがわかってきました。これは特に、日本人を含めアジア人に特徴的です。
――脂肪は皮下だけでなく、内臓にもたまるわけですね。
井上 脂肪の多くは皮下脂肪として蓄えられますが、肝臓、腸などが収まっている腹腔の内側にも蓄えられます。腹腔内に蓄えられた脂肪が内臓脂肪です。
――皮下脂肪型と内臓脂肪型は、外見から見分けがつきますか。
井上 正確にはCTスキャンで見ないとわかりませんが、ある程度太っている人では目安として、お腹をつまんでみて、つまみやすければ皮下脂肪型、つまみにくければ内臓脂肪型と考えるといいでしょう。
 内臓脂肪はつきやすいけれど、とりやすいので、早いうちからダイエットして、生活習慣病を防ぐことが大事です。

肥満が原因となる生活習慣病

〈糖尿病は3〜4倍〉
――肥満が関係する代表的な生活習慣病というとやはり、インスリン非依存型の2型糖尿病でしょうか。
井上 はい。太っている人は、正常体重の人の3〜4倍も糖尿病にかかりやすいといわれています。
 2型糖尿病では、インスリンは出ていてもその効きが悪く、そのために血糖値が上がります。
 インスリンは、脂肪細胞と筋肉細胞の表面にあるインスリン受容体(インスリンレセプター)と結合して、その作用が発揮され、血糖を下げるんですが、太ると受容体の数が減ってインスリンの作用が悪くなるのです。
 肥満からくる糖尿病の約3割はダイエットで治るといわれますから、早目の肥満対策が糖尿病の発症や進行を防いでくれます。
〈高血圧は3・5倍〉
井上 肥満の人は正常体重の人の3・5倍も高血圧になりやすいというデータも出ています。
 肥満の人は多く食べる分、塩分もとり過ぎになります。
 また、肥満になったり、食べ過ぎたりすると、インスリンが多く出ます。インスリンには、ナトリウムの体外排泄を妨げる働きや、交感神経を刺激して血管を収縮させる働きもあるので、インスリンが多く出ると血圧が上がりやすくなります。
 ダイエットすると、体重が減らないうちに血圧が改善する人が大勢います。それはダイエットによって、塩分のとり過ぎや、インスリンの過剰分泌が抑えられるからですね。
〈高脂血症〉
井上 食物からとった脂肪は中性脂肪やコレステロールとして、そのまま血液中に送り出されます。
 肥満になると、余分な栄養素から肝臓で中性脂肪やコレステロールが多くつくられるようになります。そのため、血中の中性脂肪や総コレステロール値が上がり、その一方で、善玉コレステロールが下がる傾向があります。
〈そして動脈硬化に〉
井上 この3つに喫煙が加わると、動脈硬化の4大危険因子といわれます。
 肥満の人は正常体重の人の3倍も動脈硬化になりやすく、しかも普通ならあまり問題にならない軽い動脈硬化でも症状が出やすいので、狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患、脳出血や脳梗塞を招きやすくなります。
〈脂肪肝や胆石症も〉
井上 砂糖や炭水化物は小腸でブドウ糖に変わります。余分なブドウ糖も、脂肪細胞や肝臓で脂肪に変わります。
 肝臓でつくられた脂肪が多いと肝臓に蓄積され、これが続くと脂肪肝になります。脂肪肝の人が肝炎になると、この肝炎は肝硬変に移行しやすくなります。
 また、肝臓でコレステロールが余分に多くつくられるようになると、胆汁にもコレステロールが余分に排泄され、コレステロール胆石ができやすくなります。肥満の人はそうでない人の2倍もコレステロール胆石ができやすいといわれます。
〈尿酸が増え、痛風に〉
井上 肥満の人は血液中の尿酸も増えやすく、それが関節に結晶化して沈着すると痛風発作を引き起こします。
 肥満の人は、肉など尿酸の材料になるプリン体を多く含む食品を好んで食べる傾向がある上に、肥満になると体内で尿酸を作る働きが高まり、さらに、尿酸を尿に排泄する働きが弱くなるからです。
〈欧米型がんの誘因にも〉
井上 肥満は、従来は欧米型のがんといわれ、今日本でも急増して問題になっている、子宮がん、乳がん、前立腺がん、大腸がんなどの誘因にもなります。
 乳がんや子宮がんでは、脂肪細胞には男性ホルモンのアンドロゲンを女性ホルモンのエストロゲンに変える働きがあるので、肥満の女性は脂肪細胞から出るエストロゲンの刺激を子宮内膜や乳腺に絶えず受け続けることが、がん化に結びつくと考えられています。
 ちなみに、がんにならなくても肥満の女性は、月経異常(肥満女性の約半分が無月経や過少月経)や、妊娠中毒、無排卵による不妊にかかりやすくなります。
 前立腺がんと肥満の関係はよくわかっていませんが、肥満の人はそうでない人の2・5倍、中でも動物性食品を多く食べている人は3・6倍もかかりやすいと報告されています。
 大腸がんは肥満のほかに高脂肪で食物繊維の少ない食生活が大きく影響します。高脂肪食では、胆汁が腸に多く出るようになり、胆汁が腸で変性して大腸の粘膜を刺激するといわれています。
〈変形性関節症〉
井上 年をとって膝や股関節の軟骨がすり減ってくる変形性関節症も、骨粗鬆症とともに、過体重による関節への負担が原因なのです。

肥満は、病気や事故の死亡率を高める!

井上 さらに、肥満は生活習慣病をはじめほとんどの病気の死亡率を高めます。例えば、糖尿病では正常体重の人の3倍以上も多く亡くなっています(図3)。
 交通事故での死亡率も高く、その一つには、胸やお腹に脂肪がつき過ぎると換気が悪くなるために睡眠中枢が刺激され、突然眠気に襲われるピックウィック症候群も関係していると思われます。
 高度の肥満で気道に脂肪がつき過ぎると、寝ている時に気道がふさがれ、一時的に呼吸が止まる睡眠時無呼吸症候群の原因にもなり、それが突然死を招く場合もあります。
 手術も、皮下脂肪が邪魔して難しくなり、うっかり皮下脂肪を散らして血液の中に脂肪の粒子が入って脳や肺の血管をつまらすと、脳梗塞や肺梗塞を起こして死亡するケースもあります。術後も、傷口がなかなか閉じないなど経過がよくありません。

肥満の最大の敵は、高脂肪食と運動不足摂取カロリーは昭和30年代と変わらない

――肥満や肥満に併う生活習慣病が急増している一番の原因は?
井上 肉や乳製品などの動物性食品の摂取量が飛躍的に増えて、その上、ファストフードや外食、油の多いスナック菓子の普及と、高脂肪に偏る現代の食生活が、肥満やそれに伴う生活習慣病の急増の重要な要因になっています。
 それに関して、非常に興味深いデータがあります。
 エネルギーの摂取状況を見ると総摂取カロリーは昭和30年代と今とでは殆ど変わらない、むしろ減ってるくらいですが、これを栄養素別に見ると脂質が3倍近くにもなっているんですね(図4)。
 肥満も同様に、昭和30年当時と今とでは3倍にも増えています。これには消費エネルギーを減らす運動不足も重要な要因になっていることも示されています。
 糖質も余分なものは体脂肪として蓄えられますが、結局、糖質より脂質の方が体脂肪として蓄えられやすいんですね。
――日本人は飢餓にはよく耐えるけれど、飽食には耐えられない体質とかいわれますね。
井上 というより、日本人は農耕民族のためか、食事の内容に影響されやすいのです。つまり、コレステロールが多いものを食べればコレステロールが高くなるし、糖分が多い食べ物を食べると血糖が上がりやすくなるという具合に、ダイレクトに食事の影響が出やすいんです。
 ですから、アメリカ人などは動けなくなるほど太って、ドアも通れないという高度肥満がいますが、日本人の場合は、あんなに太る前に糖尿病などでやせ始めてしまうケースが多い。そういう民族的な差はありますね。

生まれついての高脂肪食。 現代っ子の肥満は深刻

井上 ただ、民族的な差はあるけれども、今では向こうに負けないくらいの肥満児が、数は少ないけれどもいますね。胎児の頃から高脂肪で育っているから、これからは肥満のタイプもかなり変わってくると思います。
――アメリカより日本人の子供の方が脂肪の摂取量が多いようなことも聞きますね。
井上 国民栄養調査でみると、大人の脂肪のカロリーの占める比率は27%とかいいますが、日本の子供はもう37%とか40%近いでしょう。アメリカが40%くらいですから非常に近いですね。
 子供はハンバーガーとかフライドチキンとか、脂っこいものを好んで食べますからね。
――子供の頃から高脂肪食で太っていると将来、虚血性心疾患などの危険性もアメリカ人並になってくるでしょうね。
井上 心筋梗塞などは欧米並になるかもしれません。
 脂肪細胞は一生を通じて増えますが、分裂して数が多くなるのは主に、乳児期、思春期と妊娠末期です。一旦、脂肪細胞が増えると減ることはないですから、あとは脂肪細胞の中の脂肪量を減らすしかなく、肥満の予防には、子供の時から脂肪細胞を増やさないことが重要です。
 さらに、子供の時から太っていると大人になってから、脂肪細胞が大きくなる肥大型肥満と、脂肪細胞が増える増殖型肥満が混合したやっかいな肥満に移行しやすく、こうなると、なかなかやせにくく、合併症を併発する危険もグンと高まります。
 日本の子供も今の育ち方をしていると寿命も短くなるかもしれませんね。
――子供の頃からハンバーガーを食べさせれば一生食べる。それには親をファンにしろ、味噌と醤油の味で育つからインターナショナルにならない、こんなことをいってハンバーガーを売っている日本人がいます。そうして、日本人の間に肥満や生活習慣病を増やす。とんでもないことですね。
井上 アメリカの食事はよく癖になるといいますね。脂肪の味を一旦覚えるとなかなか止められない、そういうところがあります。
 コーラも飲まずにいられなくなる、アメリカでは、ああいうものが多いですね。

伝統的な日本食をよくかんで

――私共は食事はカロリーを気にするよりも、二分搗米に麦や雑穀を入れたご飯・納豆や大豆製品・芋や野菜たっぷりの具沢山の味噌汁を基本に、よくよくかんで少食にと提唱していますが。
井上 納豆をはじめとする大豆食品は、ベストダイエットフードとしてすすめられます。
 蛋白質を減らしてはいけませんが、蛋白質をとるのに、例えば、脂身の少ないビフテキでも30%くらいは脂肪です。ところが大豆はそんなに脂肪がないから、納豆50グラムとビフテキ50グラムでは蛋白質の量は大豆の方が多く、ビフテキだと蛋白質と同時に脂肪もいっぱいとってしまうんですね。
 ただ、今の生活でそう極端なことをいっても冷暖房をやめろというのと同じで、なかなかできることではない。でも、誰かいい続ける必要はあると思います。
 かむのは非常に大切です。よくかまないで食べると、満腹中枢が刺激されないうちに多量に食べてしまうし、また、血糖値が上がると満腹中枢、下がると空腹中枢が刺激されるわけですが、早喰いドカ喰いは、・血糖値を急上昇させて、・インスリンが過剰に分泌され、・血糖の急激な低下を起こし、・食欲を亢進させ、・ドカ喰い――という悪循環を生んでしまいます。
――最近、高脂肪・高蛋白食で、炭水化物をとらないダイエットがアメリカで流行っているそうですが。
井上 高脂肪食に影響を受けやすい日本人には合わないと思いますね。欧米人でも、長期間続ければ弊害が出てくるのではないかと思います。
 炭水化物をとる場合は、糖質だけでなく、蛋白質、脂質、微量栄養素などいろいろな栄養素が含まれている複合糖質を、胚芽米、雑穀、豆類、芋類などといろいろ組み合わせて、ほどほどに食べるのは良いと思います。複合糖質は単純糖質に比べて血糖値の上昇もゆるやかです。
 一方、砂糖、アルコールなどの単純糖質は糖質以外の栄養素も少ないし、血糖を急上昇させるので、とらないですめばそれに越したことはありません。
 果物やハチミツも、含まれている果糖は、吸収時間が早くて脂肪に変わりやすいので、とり過ぎは禁物です。

健康的なダイエット
体重の5%減らすだけでも大きな効果 ――1ヶ月1〜2kgの減量を――

――では、健康的なダイエットということですが。
井上 高血圧、高脂血症、糖尿病など生活習慣病には、今の体重の5%を落とすだけでも大きな効果があります。
 100kgなら5kg、60kgなら3kgと、そのくらいをまず目標にして、月に1〜2kgの減量が、体の免疫力も落とさず、一番リバウンド(ゆり戻し)がないダイエットができます。
 例えば、体重60kgの人が毎月5kg落とすと計算上は1年で0kgになってしまいますから、そんなことにならないように体は、極端なダイエットをすればするほど、やせない様に防衛反応を起こします。極端なダイエットによってリバウンドし、また極端なダイエットに走るという具合に、ダイエットを繰り返す毎に防衛反応は強くなります。
 普通の人は5〜10kgの減量で十分でしょうから、半年くらいかけて減らし、それでもまだ太っている人は、また次の5kgを目標にすると、次のステップへの励みにもなり、ダイエットしやすくなります。

欠かせないのが"運動”
――1日10分の運動を5〜6回に分けて1時間――

井上 今いった防衛反応を出さないようにするには、カロリー制限を緩くして運動を併用することが大切です。運動は、カロリー制限の食事効果を高めるんです。
 1万歩歩いても消費カロリーはたかだか300キロカロリー程度、脂肪1kgで7000キロカロリーですから、運動自体でやせようというのは誤りです。
 けれども、その位の運動をすることによって、太りにくい体質が作られます。
――運動はカロリー消費が目的ではないということですね。
井上 カロリー消費の側面も無論ありますけれども、それよりは代謝の是正ですね。
 エネルギー消費には、30%の活動代謝、60%の基礎代謝と、10%の食事誘導性熱産生の3つがあります。中年になると基礎代謝量が下がるので、若い頃と同じ食生活だと太ってきます。運動は基礎代謝量を上げる効果があります。
 それと運動は、インスリンの感受性を良くしてインスリンの過剰分泌を抑え、脂肪合成酵素の活性を抑えますから、そういう形で食事療法がよく効く代謝状態にします。だから運動すると、入ってきたカロリーをなるべく体脂肪の蓄積に行かないようにする体になります。
――どの程度の運動がいいですか。
井上 やせるにはやはり1日1時間くらい必要です。
 ただ、1回の時間は10分程度で、それを1日5〜6回すれば、1日1回60分の運動と効果は同じことが最近わかってきました。つまり、1日の総計が1時間になればいいんです。
 脂肪の燃焼には、持続的に酸素をとりこむ有酸素運動(エアロビクス)が適していますが、瞬間的には無酸素運動でも、その後は酸素が必要な運動になりますので、持続的に運動すればみんな有酸素運動なのです。有酸素運動はウォーキングが手軽ですが、ラジオ体操、サイクリング、水泳などでも続ければいいのです。
 一方で、ダンベル体操やチューブ体操など、筋肉を鍛える静的な運動も必要です。筋肉を鍛えると、体脂肪が燃焼しやすい体になるんです。全身の筋肉をバランスよく鍛えると効果的です。

間違ったダイエット

――最後に、間違ったダイエット、ダイエットで陥りやすい誤りを。
井上 まず、カロリー制限だけで、運動しないのは駄目ですね。
 できるだけ食欲を我慢して一度にドカ喰いするのも駄目。1日3食きちんと食べる。反対に、ダラダラ喰いも総量が増えて太る元です。
――いわゆるダイエット食品は?
井上 コーラやジュースの代わりにウーロン茶を飲むとか、口寂しい時に低カロリーのダイエット食品で食欲を抑えるという補助効果はあります。
 でも、ウーロン茶など、脂肪の燃焼に働くという効果は、ものすごく濃縮して試験管の中や副作用を無視して大量に動物に与えればその効果もあるかもしれませんが、実際に体の中でそんなことは起きていないのです。
――唐芥子の辛み成分カプサイシンが、エネルギー代謝を高める褐色脂肪細胞の働きを高めるとかいわれて、唐芥子をどんぶりいっぱい食べる若い子もいるそうですね。
井上 脂肪細胞には、・脂肪を蓄える白色脂肪細胞と、・脂肪を燃焼して熱産生に働く褐色脂肪細胞があります。ただ、人間の場合、褐色脂肪細胞は1%くらいで、ほとんどは白色脂肪細胞ですから、褐色脂肪細胞の働きはほとんど否定されています。カプサイシンには食事誘導性熱エネルギーを高める効果はありますが、それも1日60キロカロリー位です。1kgの体脂肪のエネルギー含量7000キロカロリーに比べたら問題になりません。唐芥子でやせようなんて愚の骨頂で、胃腸を荒らすだけですね。
 この他、りんごダイエット、卵ダイエット、下剤ダイエットと、馬鹿げたものがいっぱいあります。栄養のバランスを崩すこうしたダイエットは、体の活性組織を破壊して、身も心もボロボロにする元です。
 脂肪をなるべく減らし、栄養のバランスをとった上でカロリー少なめの食事を良くかんで腹八分、運動を必ず併用し、食欲異常を起こしやすい精神的ストレスを上手に回避する――これが遠回りのようで最も近道の、健康に良いダイエットの要諦です(表3)。
(インタビュー構成・本誌功刀)