1日半個の玉ねぎが糖尿病の妙薬にも、成人病の予防にも

―玉ねぎは機能性成分の宝庫―

お茶の水大学 永川祐三教授

――代替医療に活躍する食品の機能性成分――

 食品成分の研究が進むにつれ、食品には・エネルギーや栄養素の供給や、・美味しく食べられるという機能の他に、・免疫や疾病予防に働く多くの生理活性物質が生体調整に機能していることが明らかになりました。
 中でも、穀物や大豆、野菜などの植物性食品には、抗酸化物質をはじめとする多くの生理活性物質が含まれ、それらはファイトケミカル(植物性生理活性物質)と総称されています。
 昔から経験的に生薬としても用いられてきたニンニクやネギなどの有効性も、ファイトケミカルの解明によって作用のメカニズムがわかってきました。"玉ねぎ”については現在、20種類以上の生理活性物質が明らかにされ、糖尿病をはじめ多くの成人病予防効果が明らかになっています。
 こうした食品中の生理活性物質には薬と同じもしくはそれ以上の効果をもつものもあり、薬に比べて副作用もほとんどなく、医学の世界でも注目されています。中でも病気を心身両面からトータルにとらえ、個人の体質に合せ自然治癒力に重きをおく代替医療の分野では積極的に評価されています。
 循環器の専門医で、代替医療学会の理事も務めるお茶の水女子大学の永川祐三教授も、西洋医学の治療に加えてファイトケミカルを応用して成果をみられています。
 日常ありふれた野菜の中では特に"玉ねぎは機能性成分の宝庫”と評価されている永川先生に、玉ねぎに含まれる種々の生理活性物質について糖尿病を中心に成人病との関連でお話しいただきました。

玉ねぎの 糖尿病への抜群の効果
インスリンを効率良く働かせ 血糖値を下げる

――まず、著効があるという玉ねぎの糖尿病効果からお願いします。
永川 日本人の糖尿病の9割以上を占める「・型糖尿病(インスリン非依存型糖尿病)」では、インスリンはある程度は出ているけれどインスリンの感受性が悪く(インスリン抵抗性がある)、インスリンが効率よく働けない。そのため、血液中の糖がうまく利用されないで血中に糖がだぶつき、その結果、脂質をはじめいろいろな代謝異常を起こし、多くの合併症をもたらすわけです。
 こうした・型糖尿病では、自分の体が分泌するインスリンを十分に役立てるということが重要で、インスリンをいっぱい出させる必要はないというのが今の医学の考え方です。ですから、薬もまずはインスリンの働きを助ける、つまりインスリンの活性を高める薬が使われます。
 インスリンというのは量があれば良いというものでもない。むしろインスリンが多く出る(高インスリン血症)と動脈硬化の引き金になりますから、糖尿病では自前のインスリンを上手に利用するというのが一番よい事なんです。
 玉ねぎの血糖を下げる作用も、インスリンそのものの分泌を促す作用もあるといわれてますが、主には、インスリンを効率よく利用させる作用によると考えられています。
 有効成分は、サイクロアリインやプロピル・アリル・ジサルファイドなど、玉ねぎに多い硫黄を含む成分(イオウ化合物)で、中でも「ジサルファイド類」と呼ばれる物質群が有効とされています。
――血糖値を下げるには、どのくらい玉ねぎをとればよいですか。
永川 諸外国の臨床データでは、1日50〜60gの玉ねぎをフライやジュースでとって有効と報告されています。文京第一医院の斉藤嘉美院長はやはり生の玉ねぎに換算して大体同じ量の玉ねぎ乾燥エキスを用いて効果をみられています(図1、2)。
 玉ねぎが嫌い、料理が面倒という方には健康食品もいいですが、玉ねぎ50〜60gというと中くらいのもので約3分の1〜4分の1、小さい玉で半個くらいですから、基本的には普通に食べればよいと思います。
 血糖を下げる成分は、煮ても焼いても損なわれませんから、スープでも生のスライスでも好きに食べて下さい。ただし、生の玉ねぎは刺激があるので胃の弱い人は加熱してとるとよいでしょう。

細小血管症の引き金 「糖化蛋白」を抑える

――玉ねぎは血糖を下げるだけではなく、合併症にも有効だそうですね。
永川 玉ねぎの成分は、合併症の危険因子となる「糖化蛋白」と、「活性酸素」の両面において、糖尿病合併症を抑制する作用があると考えられています。
 糖尿病は血管がやられる病気といわれ、全身の血管のどこに障害があらわれるかで合併症が違ってきます(図3)。大別すると太い動脈が動脈硬化でやられる「大血管症」と、細い動脈がやられる「細小血管症」に分けられ、特に細小血管症では高血糖が影響します。
 高血糖の状態が長く続くと、糖が血管にからみついたり、蛋白質と結合して「糖化蛋白」をつくります。このように糖が体の中で重要な働きをするいろいろな蛋白質と結合すると、本来の働きとは違うものになり、活性酸素などの有害物質も生じて、全身の組織や細胞を変性させてしまいます。こうなると毛細血管も含めて細い血管はグズグズになって、栄養も酸素もいきわたらない、細胞内の代謝も乱れてきます。
 玉ねぎのジサルファイド類などのイオウ化合物には、この糖化蛋白を抑える働きがあります。例えば有名な糖化蛋白、「ヘモグロビンA1c(グリコ(糖化)ヘモグロビン)」は、血球に含まれる赤色色素蛋白のヘモグロビンに糖が結合したもので、血糖値の約1ヶ月間の平均をみる指標に使われます。この値も、玉ねぎの摂取で下がることが明らかになっています(図2)。
――なるほど。玉ねぎを常食していると糖化しにくくなるわけですね。
 最小血管症では糖尿病の三大合併症といわれる神経障害、腎症、網膜症がよく知られていますが(図4)、これらは高血糖がどう影響しているのですか。
永川 神経障害は運動血管神経がまずやられ、特に足の血管運動神経がやられてしびれや、こむらがえりを起こしやすくなります。進行すると感覚が麻痺し、そうなると小さい傷や火傷は気づかないから、その傷に細菌が入ると化膿して壊疽を引き起こすことがあります。高血糖で神経細胞に栄養や酸素を送っている毛細血管がやられると、神経に酸素がいきにくい、栄養もこないから、リンゴに喩えれば萎びてくるような感じになるわけです。
 腎症では、特に毛細血管のかたまりの糸球体がやられます。血液は糸球体で濾過され、大事なものは再吸収されるのですが、糸球体がやられると蛋白質なども尿にもれていわゆる蛋白尿が出るようになります。腎臓の組織にまで糖が入り込むと、腎臓組織の蛋白と結合してコラーゲン繊維などが多くなり、組織を変性させてしまうと考えられています。
 網膜も無数の毛細血管が走っていますから、高血糖の影響を非常に受けやすく、網膜症が進行すると失明に至ることもあります。

大血管症(動脈硬化)の引き金 「活性酸素」を消去する ケルセチン

――糖化蛋白は活性酸素をつくる要因の一つになるということですが、活性酸素は合併症にどのように関与しているのですか。
永川 大血管症では大動脈が動脈硬化を起して、心臓の冠動脈では心筋梗塞、脳動脈では脳梗塞が引き起こされます。 
 動脈硬化の要因にはさまざまありますが、元凶となるのはこれまで悪玉コレステロールと呼ばれるLDL(低比重リポ蛋白)コレステロールといわれてました。しかし、最近になって真の元凶は、活性酸素の攻撃によって酸化された「酸化LDLコレステロール」であることがわかってきました。
 玉ねぎに含まれている黄色色素の「ケルセチン」は、この活性酸素を強力に消去します。ケルセチンは最近非常に注目されている抗酸化物質の一つで、そのきっかけとなったのは"ケルセチンを多くとっている人は冠動脈硬化になりにくい”というオランダの研究です(図5)。
──ケルセチンは玉ねぎに特有の物質なのですか。
永川 赤ワインやリンゴなどにも含まれていますが、特に玉ねぎには非常に多いのです。
 活性酸素は呼吸からとり入れる酸素のうちの約2%が体内で活性酸素になる他に、紫外線、環境汚染化学物質、ストレス、あるいは今お話しした糖化蛋白などさまざまな原因で体内で生成されます。
 太陽に常にさらされて紫外線の害を受けやすい植物は、活性酸素の害から身を守るために、フラボノイドやポリフェノールなどすぐれた抗酸化物質を備えています。
 玉ねぎに豊富に含まれているケルセチンもポリフェノールの仲間で、同じ仲間では強い抗酸化力で知られているお茶のカテキン並の力をもっています(図6)。
――玉ねぎのケルセチンを有効にとるには?
永川 ケルセチンも熱に強い成分なので、1日50g程度を目安に、むしろスープ(表1)などで十分溶け込ませてとると良いでしょう。じっくり煮込むと、植物の固い細胞壁が壊れて中の有効成分が十分溶け出され、吸収もよくなります。
 なお、玉ねぎの抗酸化物質には他にも、辛み成分のイソチオシアナート(図8)があります。この物質は生食がむきます。
 活性酸素は動脈硬化だけではなく、細胞膜や遺伝子を変性させてがんやアレルギー、ボケや白内障など多くの病気の引き金にもなりますから、玉ねぎはそうした病気の予防にも有効といえます。

玉ねぎは 血管の若さを保つ イオウ化合物や食物繊維が 高脂血症や高血圧を予防する

永川 動脈硬化の危険因子には今までお話しした「高インスリン血症」、「糖化蛋白」、「活性酸素」の他にも、血中のコレステロールや中性脂肪が高い「高脂血症」や「高血圧」などさまざまあります。
 玉ねぎに豊富なイオウ化合物(ジサルファイド類やチオサルフェート類、催涙物質やサイクロアリインなど)や食物繊維には、中性脂肪やコレステロールを下げる働きがあります。
 また、玉ねぎのイオウ化合物には、血圧を下げる生理活性物質も含まれていることが最近の研究でわかってきました。

血栓の予防にも著効――ケルセチンや催涙物質――

永川 さらに、動脈硬化では血栓がつまりやすくなり、動脈硬化を起こした血管に「血栓」がつまると、心筋梗塞や脳梗塞になるわけです。
 血液には血を固めて血栓をつくる要因と、それを溶かす要因があって、うまくバランスをとっています。ところが、血管が老化したり、血液の中に動物脂肪に多いアラキドン酸が過剰に増えると、このバランスが崩れ、血液は固まる方により働くようになり、そのため血栓が出来やすく、また一旦出来た血栓が溶けにくくなります。
※アラキドン酸 植物油に多いリノール酸を原料に、動物の体内で合成される多価不飽和脂肪酸。
 血液を固めたり溶かしたりする仕組みの一つである「アラキドン酸代謝経路」では、血中のアラキドン酸を原料に、血管壁では血管の収縮を防いだり血小板の凝集を防ぐ物質(プロスタグランディンI2)がつくられる一方で、血小板では血液を固める物質(トロンボキサンA2)がつくられる。
 近年、リノール酸のとり過ぎにより、血中のアラキドン酸が増え、ロイコトリエンなどアラキドン酸の代謝生産物が過剰合成され、アレルギーや動脈硬化の引き金になっていることが問題視されている。
 血液が固まるのはまず血小板の凝集から始まります。玉ねぎに含まれるケルセチンには、血小板の凝集を防ぐ働きがあります。
 また、生の玉ねぎをつぶすと、「C・Sアリナーゼ」などの酵素が生成されます。その酵素が刺激性の催涙物質を作り出して玉ねぎを切ると涙が出るわけですが、この酵素と催涙物質にも血小板の凝集を防ぐ働きがあり、山口了三先生たちの研究によるとその働きは非常に高いということです(表2)。
 ケルセチンは加熱しても損われませんが、催涙物質は加熱に弱く、さらにできるだけ辛い玉ねぎを選ぶとよいということです。

食生活の欧米化で急増する 静脈血栓症・肺梗塞の予防にも

――静脈硬化という言葉は聞きませんが、やはり静脈でも硬化したり血栓症を起こしたりするのですか。
永川 長期臥床(寝たきり)などでやはり静脈も硬くなります。けれども、酸素や栄養物を各組織に運ぶ動脈と違って、細い静脈の血流が止まってもあまり困りません。
 静脈には弁があって静脈血の逆流を防いでいますが、長時間の立ち仕事や加齢などでその弁に炎症を起こして腫れると静脈瘤ができます(図7)。この場合、ピーリングといってその部分を剥ぐんですが、静脈は剥いでもまた新たに支流ができるんです。だから、静脈の血流にはかなり余裕があります。
 しかし、長期臥床の場合下肢の静脈の血栓症が発生しやすいので、怖がられています。特に下肢の深部の大静脈には弁がないから、大きな血栓ができるとそれが肺にパッと飛んで行って肺梗塞を起こし急死してしまうこともあります。
 深部静脈血栓症や肺梗塞は食生活の欧米化が影響しているといわれ年々増えています。日本食で魚が駄目な人はせめて玉ねぎくらいは食べなさいということです。

毎日半個の玉ねぎを まだまだある玉ねぎの 有効成分と効用(図8)

永川 今までお話しした効果の他にも、刺激性の催涙成分の一つ硫化アリルがビタミンB1に結合すると非常に吸収がよくなります。
 硫化アリルには神経鎮静作用もあります。不眠症に悩んでいる人は、玉ねぎのスライスを枕元に置いて寝るとよいでしょう。
 玉ねぎには抗酸化に働く微量栄養素、ビタミンCやミネラルのセレンも豊富です。
 玉ねぎにはこうした多くの有効成分が入っているので、糖尿病をはじめ多くの成人病の予防に、いろいろな食品と組合わせて、1日3分の1〜半個の玉ねぎをとるのをおすすめします。
 ビタミンCや硫化アリルなどの催涙成分は加熱に弱く、硫化アリルは加熱によって甘味成分に変化してしまいますが、他の成分は熱にも強いので、サラダ、マリネなどの生食、スープや味噌汁の具にとバラエティーに富んだ玉ねぎメニューを工夫してみてください。
(インタビュー構成・本誌功刀)