アナフィラキシーをこうして防ごう!

――卵・牛乳はヒトの食性から考えても食べなければいけない食物ではない――

宮城県塩釜市・坂総合病院 小児科科長 角田和彦先生

卵で4ヶ月の赤ちゃんが死んでしまった!

 去る5月10日、夕方のテレビニュース報道番組「ニュースの森」で、卵が原因のアナフィラキシーで生後4ヶ月になる赤ちゃんが死んでしまったという報道がなされました。
 アナフィラキシーとは急性で劇症型のアレルギーです。
 赤ちゃんがアナフィラキシーをおこした経緯は、はじめてのお子さんを妊娠中、赤ちゃんのために栄養をとろうと毎日数個分の卵を食べているうちに、胎児が卵のアレルギーに感作した状態になってしまったと思われます。生後、4ヶ月のとき、市販の離乳食を食べ、発疹がでました。その数日後の朝、母親が卵を食べたため、母乳にアレルギーを引きおこす卵の成分が出てしまい、それを飲んだ赤ちゃんが数時間してアナフィラキシーによるショック症状をおこしてしまったのです。あわてて病院にかけ込みましたが、その時はもう手のほどこしようも
なく亡くなってしまったという報道でした。
 テレビでも報道されたこの病院(宮城県塩釜市の坂総合病院)の小児科科長である角田和彦先生に、今月はアナフィラキシーをどう防いでいくかという観点からお話をうかがいました。

アナフィラキシーとは?

──まずアナフィラキシーとは何かからお教え下さい。
角田 急性で劇症型のアレルギー疾患をアナフィラキシーと呼びます。最近かなり増加しています。
 アレルギーの原因となるある種の食べ物を食べた直後から、唇、まぶた、白目、ひじ内側、そして全身にジンマシンが広がり、のどと顔から、やがて全身の腫れと紅潮、吐き気、呼吸困難、意識混濁、血圧低下といったアレルギーの暴走がおきてしまうことが、いわゆるアナフィラキシーです(表1)。
 赤ちゃんからお年寄りまでなることがあり、死に至ることもあるので決して軽視できません。
──ある種の食べ物というのは具体的にはどんな食べ物ですか?
角田 今回テレビで報道された卵はもちろん、牛乳、小麦製品が多いです。
 小児科の範囲では、これらの他、魚、ピーナッツ、ゴマ、イクラ、ラパス貝(アワビに似ている輸入の貝・おみやげ品に多い)、チョコレート、クルミなどが多く、大人の場合は小麦、魚の寄生虫アニサキス、エビ、ソバなどが目立ちます。
──アナフィラキシーにまで至らなくてもアレルギーのお子さんはずいぶんと増えていますよね。何故なんでしょうか?
角田 ええ、アレルギー全体がとても増えています。
 いわゆる高度経済成長とともに、牛乳、卵、小麦製品、油脂の多い食品などを沢山食べる食生活に変化してきました。これらは栄養改善のかけ声とともに消費量が飛躍的に伸び、食生活の欧米化といわれる内容になって、一見日本人の食事はずいぶん豊かになったと思われていますが、一方でいわゆる成人病が小児科の段階まで低年齢化し、アレルギーも増えてきたというのは、ヒト本来の食性との間に重大な矛盾をはらんできていることのあらわれだと考えられます。

食性とは

角田 アレルギーを引きおこす食物は、この食性から外れた食物や人工的化学物質を含んだ食物です。
 また、新しい化学物質は、食品だけでなく、衣類や寝具、住居や社会生活の環境の中にもずいぶんとりこまれています。
──卵や牛乳がアレルギーを引きおこしやすいのに、お子さんの成長になくてはならないように思い込んでいるお母さんが多いですよね? その結果、アレルギーで泣かされるケース、場合によってはアナフィラキシーの危険があるのに、ヒトの食性に目を向けないのは、困ったものですね。
角田 食性という考え方は現代文明社会を健康に生きぬくときにとても大切にすべきだと思います。
 食生活は、ついつい食文化という面に目を奪われがちですが、人類発展の歴史をずっと遡って考えたとき、動物としてのヒト、道具類を何も持たない裸の状態のヒトが本来何を食べていたのか、何をどのように食べるような体をしているのか、という考え方もしてみるべきだと思います。
 この本来の動物としてのヒトが、肉食動物ではないことは爪や歯の型からみても明らかです(図1)。もともとは植物食の動物と思います。
 現実には植物性食品から動物性食品まで非常に幅広く食べ、雑食をしているので、ついこの動物としてのヒトの食性を考えないか、考えても雑食がヒトの食性なんだと思い込んでいる人が多いのです。
 だから卵や牛乳が本来ヒトの食べ物ではないなどと考えもしないのです。

牛乳の問題点

──牛乳はカルシウムをとるのに良い食品とすすめられてきましたが、本当に日本人にとって望ましい食品なのでしょうか?
角田 いいえ。生物界全体で考えればすぐわかることですが、大人になってもまだ「乳」を飲む動物というのは人間だけです。
 どの哺乳動物だって、赤ちゃんの時に限って、自分の母親の母乳を飲みます。乳糖を消化してエネルギーにする消化酵素は、赤ちゃんの時代にだけ腸で分泌されるようになっています。離乳期がきて、その動物が本来食べるべき食物を食べられるようになると、乳糖消化酵素は姿を消すので、乳は飲めなくなります。飲んでも消化できないので栄養にならないのです。人間も哺乳動物ですから、このあたりは本来一緒なのです。
 ところが、牛乳‖カルシウム‖栄養豊富と教えられた人は、「牛乳は飲まなくてはいけないもの」と考え、牛乳を飲むことでカルシウムも他の栄養もとれると思い込んで疑おうともしないのです。しかし、消化できないものは栄養にはならないのです。また、消化が完全にされた食物ではアレルギーとかアナフィラキシーはおこりません。
 牛乳を飲むと丈夫な赤ちゃんができる、いい母乳が出るというのは錯覚させられているのです。そして牛乳アレルギーの赤ちゃんに苦労をさせられる。
 ヒトの赤ちゃんは受精してから大体4〜8週間位の間に内臓は基本的につくられているのです。この頃はまだ母親も妊娠したかどうかわからない人が多い。この時期に母親の体脂肪に蓄積されたダイオキシンなどの脂溶性の環境汚染化学物質や、母親がそのときに食べている食品、周囲の環境中から受けた環境汚染化学物質などによって、胎児はアレルギーを起こしやすい体質をつくりあげられてしまうのではないかと考えています。
 その後、母親がセッセと牛乳を飲んでいると、胎児の側に牛乳に対する抗体を多量につくる準備状態、つまり、アレルギー感作の状態に至っていることが多いわけです。こういうケースでは、多くの場合、生まれてから牛乳に対し、激しいアレルギー性反応をおこしてしまうおそれがあります。(図2)

卵の問題点

角田 似たようなことは卵の場合でもおきてしまいます。
 卵は栄養満点だし、料理に重宝と思い込んで、これも疑わない人が多いのですが、ヒトが本来草食動物という観点にたてば、卵を毎日食べるというのは食性に反した食行動だということはおわかりいただけると思います。
 卵は毎日食べるのがあたり前と思っているお母さんに、食物と自然の関係を考えてほしくて、こんな質問をすることもあるんです。
 「卵の旬はいつですか?」
 卵を「人が食べる食品」とだけ考えている人は、答えはもちろん、質問の意味がわからないかも知れません。
 卵は「鳥類が子孫存続のために使う生殖手段」と考えられる人は、「ヒナが育つために十分な餌が確保できるとき」と正解を出すことができます。日本で繁殖する多くの鳥たちにとって、それは初夏です。
 すでに鶏の卵から自然が失われています。日本人も又、鳥たちがいつ卵を産むかも忘れつつある。こうした自然認識の欠如が、アレルギーやアナフィラキシーを増やしているのではないでしょうか。
 鶏に、汚染された餌を過剰に与えると、餌の中のダイオキシンなどが、卵の脂肪中にはより濃い濃度で蓄積される可能性があります。鶏肉より一段食物連鎖がすすんでいますからね。
 卵はそういう意味でも、また、サルモネラなどの食中毒をおこしやすいという面でも、安心・安全の食品とはいえないのです。

小麦の問題点

角田 食生活の欧米化は戦後パン食の普及にともなってすすんできました。しかし小麦も、麺としてほどほどに食べているうちはまだいいのですが、パンにすると日本人の体質にはあまりあわないようです。
 パン食は、腸の中でカビの一種であるカンジダの増殖を助長させます。カンジダは直接の腸壁への侵入と、毒素による破壊などによって、子供から大人にまで食物アレルギーをおこしやすくしたり、悪化させることもあるのです(図3)。パンを作るときに使うイーストそのものにアレルギーがある人も増加しています。
 パン食が中心ですと、小麦はエネルギー効率が悪いので、バター、チーズ、卵、牛乳、植物油を使った料理がセットされます。油脂の摂取量が増加しますが、これが又、アレルギーをおこしやすくし、またひどくなるもとになるケースが多いのです。

油脂の問題点

角田 バター・チーズ・肉の脂身・卵・牛乳などでも、マーガリンやサラダオイルなどリノール酸を多く含む油でもそうなのですが、結局のところアラキドン酸代謝経路を経てアレルギーをおこすロイコトリエンなどの物質にかわったりします。また、いったんアレルギーをおこすと、浮腫・赤み・かゆみ・発熱などで症状を重くするのです。
 アレルギー反応の助長剤となる油脂の摂取が少なければ、症状は出ないか、出ても軽くすむことが期待できるのですが…。
──魚はどうでしょうか?
角田 実は魚もアレルギー・アナフィラキシーのもとになることがあるので安心できないのです。
 リノール酸の悪い反応を抑えるためαリノレン酸を含む魚を食べると良い、学習能力や視力にも良いと宣伝されたため、アレルギーの子供たちが魚を沢山食べるようにとすすめられました。ところが実際には、ここ十年位の間に乳幼児を中心に魚のアレルギーが急増しているのです(図4)。私はαリノレン酸は野菜や海藻を十分食べることによってとるべきだと考えています。
 今問題になっているダイオキシンやPCB、DDTは脂溶性のため、食物連鎖により濃縮されて魚を汚染しています。
 アレルギー体質の人は、汚染された食品に対してアレルギーを起こし、食べることを拒否します。また、汚染された飼料を使って育てられた家畜から生産された油脂の多い食品(牛乳・牛肉・卵・鶏肉・レバー)などもひどく汚染されている可能性があります。
 米などの穀物、野菜、豆などは、これらの脂溶性環境汚染化学物質(環境ホルモン物質)などには汚染されにくいのです(図5)。
 ダイオキシンなどの脂溶性化学物質はいったん動物の体内にとり込まれると排泄されにくく、食べた人間の、免疫機能に悪影響を及ぼし、アレルギーを抑える力も低下させてしまうと考えられます。
 また、魚は寄生虫アニサキス幼虫が寄生していることがあります。アニサキスは40歳すぎの人にアナフィラキシーを増やしている原因として重要です。アニサキスは、サンマやカツオの刺し身、イカの煮物、サンマのツミレ汁、カマボコなどの練製品などにも入っていることがあります。アニサキスによるアナフィラキシーは魚の生食だけでなく、加熱した食品、つまりアニサキスの残骸物が入っていても起こります。

アナフィラキシーと活性酸素

角田 アナフィラキシーの発症を抑える鍵は体内での活性酸素の上手な処理だと思います。
 人間はアレルギーのもとになるような食べ物を消化不十分なまま、腸を通過させてしまいますと、それを侵入異物とみなした白血球中心の免疫システムを発動させます。その時、活性酸素をつくって異物を分解にかかるのですが、これが過剰に余ってしまい、消去能力をこえてしまうと、正常な細胞を傷つけ、はげしい炎症を悪循環的におこして悪化させることがあるのです。
 したがって、活性酸素の処理能力が低下する40歳代以後になるとアナフィラキシー発病者の数が増加するようです(図6)。
 ところで紫外線を含む太陽の光を年中浴びている植物は活性酸素から自己を防衛するため、低分子の抗酸化物質(ビタミンC・Eなどのビタミン類、βカロチン、カテキン、ポリフェノール、フラボノイドなどいわゆるファイトケミカル類)を多種多様に持っています。だから野菜を煮ると煮汁にこれらの成分が出てくるので野菜スープなどを毎食とるのはアレルギーやアナフィラキシーの予防にとても有効です。
 また、穀物、豆、野菜、海草などに含まれる食物繊維は脂溶性の化学汚染物質の体外排泄を助けてくれます。
 活性酸素はスポーツなどで大量に酸素を消費した時にも増えます。運動中に突然倒れて死亡するなどの原因不明の突然死の中に、アレルギー原因食品を食べた後に運動したためにおきたアナフィラキシーによる死亡例が含まれている可能性もあると思います。
──突然アナフィラキシーかなと思われるケースに出くわした時はどうすれば良いのですか?
角田 アナフィラキシーを起こしてしまったら迅速で適切な対応で生命を守ることがポイントです。命にかかわる症状は、突然おこる呼吸困難(のどが腫れて呼吸ができなくなってしまう喉頭浮腫、気管支喘息、吐き出したものでの窒息)と、ショック性の血圧の低下、けいれん、不整脈などです。
 まず、あわてず、患者から目を離さず、原因を取り除く処置をしましょう。食べ物が原因と思ったら、吐く、吐かせるのが第一。しかし、意識状態が悪かったり、呼吸困難があるときは、吐物で窒息することもあるため、無理に吐かせない方が無難です。
 次に、人を呼び集め、寝かせて安静にさせます。その後救急車を呼ぶか、なるべく二人以上つきそって病院にかけ込むようにします。この時も少なくとも一人は決して患者から目を離してはいけません。病状が急激に悪くなることもあるからです。そして医師に詳しく経過報告をして下さい。
──今日はお忙しい中、アナフィラキシーの予防という観点から詳しいお話をいただきまして誠にありがとうございました。