体にいい甘味料 黒砂糖の秘密
共立女子大学 泉谷希光教授
白砂糖は化学薬品
飽食の現代、お菓子や清涼飲料水などのとり過ぎからくる白砂糖の害が指摘されています。
白砂糖は、糖分だけを抽出した化学薬品に近い甘味料で、糖代謝に必要な微量栄養素は含まれず、かえって、体内でビタミンB群やカルシウムなどを消耗することが知られています。
吸収が速く、血糖値を急上昇させる白砂糖は、その反動で低血糖症を招くことも報告され、最近問題になっているキレやすい子供たちの背景にも、白砂糖のとり過ぎの害が指摘されています。
こうした理由から、砂糖に代表される甘いものは健康に悪いと思われがちですが、精製される前の砂糖、"黒砂糖”には、ビタミン・ミネラルだけでなく、最近になってさまざまな機能性成分が含まれていることが分かってきました。
甘いものをとるなら、こうした健康にいい甘味料を上手に利用したいもの。
そこで今月は、コーヒーやココアの研究でもおなじみの共立女子大学の泉谷希光教授に、黒砂糖に含まれる栄養成分とその効果、上手なとり方もあわせてお話をうかがいました。
砂糖の分類
――一口に「砂糖」と言ってもいろいろな種類があるようですが、まずは、白砂糖と黒砂糖の違いからお願いします。
泉谷 砂糖は、ショ糖を主成分とする代表的な甘味料で、原料は、サトウキビ(甘薯)、あるいはサトウダイコン(甜菜)です。
それを絞ってそのまま濃縮し、冷やし固めたのが「黒砂糖」、活性炭で脱色し、遠心分蜜機で不純物を含んだ糖蜜を取り除いたものが、私たちが家庭で普段使っている「白砂糖(上白糖)」です。
糖蜜がそのまま入っている黒砂糖は「含蜜糖」、糖蜜を分離した白砂糖は「分蜜糖」に分けられます(表)。含蜜糖にはこの他に、和菓子によく使われる「和三盆糖」などがあり、これは手作業で水を加えて絞りながら糖蜜を取り除くので、わずかに糖蜜が残り、茶色がかった色をしています。
砂糖は、白ければ白いほど良いという時代があり、品質的には一番糖と呼ばれる上白糖が最も「良い砂糖」と言われ、非常によく精製してあるので、いやな味がなく、くどくないし、あくも出ない。だから料理では、素材の味を活かすために白砂糖がよく使われます。
しかし、不純物を取り除いたショ糖の結晶そのもので、言い方は悪いけれど薬品みたいなものですね。栄養面からみると、不純物が混ざっている「悪い砂糖」ほど栄養価が高く、健康には良いと言えます。土から吸い上げたビタミン・ミネラルはほとんど持っていますし(表)、サトウキビ自体がつくり出す優れた栄養成分も含まれています。
黒砂糖には
ビタミン・ミネラルがいっぱい!
現代型食生活に不足しがちな
ビタミンB群を豊富に含む
――黒砂糖には、具体的にはどのような栄養素が含まれているのですか。
泉谷 ビタミンではB群が多いですね。砂糖や澱粉などの糖質を食べると、その代謝のためにビタミンBが必要とされ、肉などの蛋白質を食べればビタミンBの必要量が増えますが、黒砂糖にはそれらが豊富に含まれています。
――精製過程でビタミンB群をはじめとする微量栄養素が取り除かれてしまっている白砂糖に比べ、はじめからB群の含まれている黒砂糖の方が、糖質を代謝する点で効率がいいわけですね。
泉谷 理想的にはそうですね。
白砂糖がエネルギーとして燃焼される際には、その分体内のビタミンB群を消耗することになりますから。でも、他の食品からきちんとビタミンB群がとられていれば、少しぐらい白砂糖を食べたからと言って、そのせいでビタミンB群不足になるようなことはありません。
ただし、心配なのが最近の子供たちの食生活です。
偏食が多く、体に必要なビタミン・ミネラルが含まれていない精製加工食品を多食する上に、白砂糖たっぷりの清涼飲料水をガブガブ飲む――という具合に、B群の備えのない人が、B群を消耗するような食生活をしているケースがあります。
そのような子供に対しては、白砂糖を使ったお菓子よりも、ビタミン・ミネラルのそろっている黒砂糖を使ったお菓子の方が間違いなく良いと言えますが、それよりもまず、基本となる食生活を改善しなければ根本的な解決にはなりませんね。
黒砂糖には 吸収の良い ミネラルがいっぱい
――ミネラルでは、どのようなものが多く含まれているのですか。
泉谷 日本人に不足しがちなミネラルはカルシウム、ついで鉄ですが、黒砂糖にはこの2つが豊富に含まれているんです。
特に女性では鉄欠乏性貧血の増加が問題となっていますが、鉄分は鉄剤を飲んだからといって全て吸収されるものではありません。食品中の他の成分、例えば蛋白質や有機成分などと結合している方が吸収は良く、そういう意味で、不純物と結合した形の黒砂糖の鉄は大変吸収が良いと言えます。
一般的に二価鉄の吸収が良く、黒砂糖中には二価鉄が多いことも報告されています。しかし、二価鉄だからというより、他の成分と結合された形で含まれているから利用されやすいのだと思います。おそらく、鉄剤でとるより黒砂糖でとった方が、10倍以上は吸収が良いのではないでしょうか。
これは鉄だけではなく、黒砂糖中のマグネシウムやカルシウム、亜鉛、マンガンなどについても言えることです。
今の日本人は、ミネラルの少ない上水(水道水)や、ミネラルの枯渇した畑でとれる作物などの影響で、ミネラルが確保しにくくなっています。さらに、ストレスや大気汚染、食品添加物など、私たちの身のまわりにビタミン・ミネラルを消耗する要因があふれていることも、微量栄養素不足に拍車をかけています。
だから、少しでもミネラルの含まれている食品を、三食の食事のたびに、あるいは間食に食べることが望ましいと言えます。
そこで私は、鉄分不足で貧血をおこしている人や、亜鉛不足で味覚障害の人などには、黒砂糖でミネラルを補うことをすすめているのです。
最近分かった
黒砂糖の機能性成分
腸内善玉菌を増やすオリゴ糖
"ラフィノース”
――サトウキビがつくり出す有効成分というのは。
泉谷 サトウキビ自体がつくる成分には、"ラフィノース”や"オクタコサノール”があります。
ラフィノースはオリゴ糖の一種で、ブドウ糖のような糖が3つ、4つとくっついた少糖類の形をしています。オリゴ糖は今、ヨーグルトに添加されるなど人気を呼んでいますが、わざわざ添加しなくても、黒砂糖にはそれが自然のまま含まれているのです。
オリゴ糖には、腸内でビフィズス菌などの善玉菌の繁殖を助ける作用があります(図1)。
腸内には善玉菌の他に、ウェルシュ菌などの悪玉菌が住みついています。悪玉菌は、肉などの動物性蛋白質が腐敗したところに繁殖しやすく、肉の食べ過ぎで便秘をすると、腸内で悪玉菌の勢力が強くなって善玉菌は抑えられてしまいます。
悪玉菌が蛋白質を分解すると、アンモニアやインドール、スカトールなどの有害腐敗物質が発生するため、排泄するガスがどうしようもなく臭くなります。それだけでなく、有害腐敗物質は大腸がんをはじめ、さまざまな疾病を誘発するもとにもなるのです。
肉食が危ないと言われるのはそのためですが、この時にラフィノースが腸内に入ってくれば、善玉菌を増やす一方で悪玉菌の繁殖を抑えることができ、腸内の腐敗を抑え(図2)、便秘の改善やがんの予防につながります。
今、日本人はだんだん肉食に傾いてきていますから、その弊害を抑えるのに黒砂糖は大変役立ちます。肉を食べるのならその分、野菜などで食物繊維をしっかりとることが望ましいのですが、黒砂糖を25〜30gほどとると、実にキャベツ丸ごと1個分に匹敵するくらいの整腸作用があるんですよ。
また、加齢とともに腸内ではビフィズス菌などの善玉菌が減少し、悪玉菌が増えてきますから、お年寄りにも黒砂糖はおすすめです。
――黒砂糖の他にラフィノースを含む食品はありますか。
泉谷 量的にはわずかですが、大豆などの豆科植物や各種麦類、とうもろこし、ジャガイモ、蜂蜜などに広く存在します。サトウキビ中に含まれるラフィノースの量もあまり多くはないのですが、製糖工程において濃縮されるため、黒砂糖は優れたラフィノース供給源になります。
コレステロールを排泄する 脂溶性成分 "オクタコサノール”
――もう一つの有効成分、オクタコサノールにはどのような働きがあるのですか。
泉谷 オクタコサノールはサトウキビの茎の部分に含まれる脂溶性成分です。穀物の胚芽や果物の皮、蜜蝋(蜂の巣の主成分)などにもごく微量に含まれます。
肝機能を良くし、・肝臓でのコレステロールの濃縮を抑えたり、 ・悪玉コレステロールと言われるLDL(低比重リポ蛋白コレステロール)の排泄を促進する働きがあります。
コレステロールは主に、胆汁として便中に排泄されます。便の黄色い成分、あれは胆汁の色です。だから、快食快便だと健康的な黄色の便を排泄しますが、便秘をすると胆汁が化学変化したり酸化したりして、便は真っ黒な色になってしまいます。
体の調子は便の色を見れば一目で分かりますね。
――黒砂糖にコレステロール値を下げる効果がある一方、白砂糖のとりすぎは血液中の中性脂肪を増やして高脂血症を招く恐れがあると指摘されていますね。
泉谷 砂糖は体内でブドウ糖と果糖に分解され、果糖はさらにブドウ糖にかえられて、細胞のエネルギーとして利用されます。ブドウ糖が多すぎて使いきれなかった場合は、余った分が脂肪細胞や肝臓でグリコーゲンや脂肪に合成されます。
肝臓で合成された脂肪はリポ蛋白として血液中に放出されますが、これが異常に多くなった状態が高脂血症、脂肪細胞に過剰に蓄積された状態が肥満です。
黒砂糖中のオクタコサノールには、確かにコレステロールを下げる作用がありますが、白砂糖も黒砂糖も体内でブドウ糖と果糖に分解されて吸収されていくという仕組みは同じです。やはり、黒砂糖もとり過ぎれば脂肪に合成されるものと考えて下さい。
――吸収の速い白砂糖が血糖値を上げやすいのに対し、黒砂糖に含まれる"フェニルグルコシド”という成分は、糖の吸収を緩やかにして、急激な血糖値の上昇を抑える作用があるとも聞きますが…。
泉谷 そのような研究報告もありますが(図3)、黒砂糖にいくら体にいい成分が含まれていると言っても、やはり砂糖の一種であることに変わりはありません。過剰摂取には十分に注意したいものです。
黒砂糖の上手なとり方
──どんなに健康に良い甘味料でも、やはりとり過ぎてはいけないのですね。
泉谷 黒砂糖の摂取にあたっては、次のようなポイントがあげられます。
・何回かに分けてとる
塩分にしろ砂糖にしろ、一度に大量にとるのではなく、1日に3回、できれば5回、10回と分けてとるのが理想的です。
・食物や湯茶と一緒に
食後のお茶を飲むときに、お茶うけとして黒砂糖をなめると非常に効果的です。黒砂糖が腸内細菌叢を良くすることで、食べた物の消化吸収にもいい影響を与えることができます。
食間に黒砂糖だけとる場合は、量は少な目にして、水分をたくさんとります。糖分の過剰にならないよう、食物や湯茶などでできるだけ薄めてとるようにして下さい。
・上手に料理に取り入れる
黒砂糖はあくが多く、料理に使うと素材の味を壊してしまいがちですが、黒砂糖を使ったほうがおいしいメニューもありますから、それを発見すること。
例えば、きんぴらごぼうなど醤油味の濃いものには黒砂糖がよく合い、また、黒砂糖の産地・沖縄では、昆布の煮物に使われています。あと、ココアには黒砂糖が合います。
・あくまでも補助的に
黒砂糖が体に良いと聞くとそればかり食べようとする人がいますが、基本となる食生活がいい加減では、いくら黒砂糖をとっても意味がありません。
普段の食生活をきちんとした上で、ビタミン・ミネラルの多少の供給、あるいは腸内細菌の繁殖に、黒砂糖を少しとると良いのであって、黒砂糖はあくまでも補助食品だということを忘れないで下さい。
その他、体にいい甘味料
虫歯予防に"キシリトール”
――黒砂糖を中心にお話を伺ってきましたが、他にも、体にいい甘味料が最近いろいろと出ているようですね。
泉谷 "サッカリン”や"アスパルテーム”などの合成甘味料は、しばしば発がん性が問題にされます。これは人間が食べる量の100倍から1000倍のレベルで実験をしているためで、普段甘味としてとる分にはそれほど心配はないのですが、安全というイメージでは、天然の植物からとれる甘味料が人気です。
例えば"キシリトール”は、白樺の樹液やトウモロコシの芯、果物・野菜類に含まれる甘味料で、「歯にいい」と注目され、ガムなどによく使われています。
虫歯は、・ストレプトコッカス・ミュータンスという菌が糖分と結合して、ネバネバ物質のグルカンをつくり、・それが歯の表面にくっついて歯垢を形成、・歯垢内で糖質が発酵され酸を生成する――というメカニズムで発生します。キシリトールはこの細菌の栄養源とならず、酸の産生を抑える働きがあるのです(図4)。
一方、砂糖は菌の栄養源になりやすく、虫歯の危険因子として知られています。
しかし、虫歯になりやすいかどうかは、本来砂糖の摂取云々よりも、食物をどれだけよく噛んでいるかどうかが重要なのです。昔の人はお米にしろ野菜しろ、硬いものをよく噛んで食べていたから、それによって歯垢が取り除かれ、歯なんて磨かなくても虫歯にならなかったのです。虫歯を防ぐ最大の要因は、硬いものをよく噛むことです。
また、キシリトールには抗酸化作用があることも報告されています。
"羅漢果液”の 優れた抗酸化作用
――抗酸化成分と言えば、"羅漢果液”には多く含まれているそうですね。
泉谷 羅漢果は中国南部原産のウリ科植物で、果実から抽出した液には、ビタミンEやC、ポリフェノール類といった抗酸化成分が豊富に含まれています。ポリフェノールは、お茶や紅茶、コーヒー、ココア、赤ワインなどにも含まれています。
これらの抗酸化成分は、体内に発生した活性酸素を消去し、活性酸素による細胞の老化やがん化を防ぐ働きをします。
揚げ物や炒め物などで大量の植物油をとっている今の日本人には、特に抗酸化成分が必要とされます。植物油は不飽和脂肪酸といって酸化されやすい性質をもっているので、活性酸素と反応して体内で過酸化脂質をつくりやすく、その酸化物がさらに細胞にダメージを与えるもとになるのです。
また、羅漢果液はカロリーが低い点も魅力です。
ただし、どの甘味料も、やはり黒砂糖と同じように補助甘味料として使うよう心がけて下さい。甘味料だけで健康になろうとしても、それは無理な話です。食生活全体を良くすることが肝心で、黒砂糖などはその一部分に過ぎないことをしっかりと認識して下さい。